説明

ガス検知システム

【課題】ガスを識別するガス検知システムを提供する。
【解決手段】ガス検知システムは、チャンバハウジング16によって密閉された中空チャンバ14を有する検知モジュール10を含む。また、検知モジュールは、中空チャンバ14内に位置する検知光ファイバ18を含む。検知光ファイバ18に沿った格子位置に配置されたファイバブラッグ回折格子と、格子位置で検知光ファイバ18の外表面に固着された検知層とを含む。検知層とガス12とは、ガス12が中空チャンバ14内に向けられると、部分的にはガス12の熱伝導率に基づいて熱エネルギを交換する。熱エネルギ交換は、検知に必要な閾値シフトを超えるファイバブラッグ回折格子のブラッグ共振波長シフトを誘発し、このシフトはガス12を識別するために利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ガスが存在する様々な用途において、ガスの同一性を知る必要があることがある。例えば、水素冷却発電機は通常、発電効率を保つため、発電機の密閉チャンバ内を流れる高純度の水素ガスを使用する。しかし、少量の空気が発電機の密閉チャンバ内に浸透することがある。従って、水素ガスの純度が、例えば95〜98%などの濃度範囲にあることを確認するため、発電機内の水素ガスの純度を判定するガス分析器が必要になる。発電機が動作上の問題に遭遇した場合、問題を解決するために発電機のケースを開ける必要がある。しかし、発電機のケースは当初は純水素ガスを含み、ケースを開けるのが早過ぎると、安全性の危険が生ずることがある。従って、ケースを安全に開けることができるようになる前に、水素ガスの相対濃度が、例えば4%などの濃度閾値未満になるまで発電機ケースから水素ガスをパージするために、二酸化炭素(CO2)又は窒素ガス(N2)などの二次ガスを使用することがある。従って、停止時間中に発電機ケースを安全に開けることができるかどうかを判定するため、発電機ケース内の二次ガスと水素ガスの相対濃度を判定するガス分析器が必要になることがある。
【0002】
ガス及びガス成分を分析するため、赤外線吸収及び熱伝導検知などの様々なガス分析技術が開発されている。しかし、これらの従来型の技術には、広範囲のガスを検知できる単一のガスセンサを提供できず、そのため異なるガスごとに別個のセンサ/システムが必要になるなどの幾つかの欠点がある。それに加えて、例えば、炭化水素系ガスなどの限定量のガスを検知するために赤外線吸収が使用されるが、これは水素などの様々な通常のガスを検知することができない。また、例えば、ある種のガスを検知するために従来の熱伝導検知技術が使用されるが、必要な熱感度及びベースライン変動が欠如しているため、広範囲のガスを検知する際の精度が低い。従って、従来のガス検知技術の上記の欠点を克服し、広範なガスを必要な感度で好適に検知できるガス検知システムを備えることが有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許7151872号
【発明の概要】
【0004】
本発明の態様による一実施形態では、ガスを識別するガス検知システムが提供される。ガス検知システムは、チャンバハウジングによって密閉された中空チャンバを有する検知モジュールを含む。また、検知モジュールは、中空チャンバ内に位置する検知光ファイバを含む。検知光ファイバは、検知光ファイバに沿った格子位置に配置されたファイバブラッグ回折格子と、格子位置で検知光ファイバの外表面に固着された検知層とを含むガスセンサを備える。ガスが中空チャンバ内に向けられた後、部分的にはガスの熱伝導率に基づいて、ガスセンサの検知層とガスが熱エネルギを交換する。熱エネルギの交換は、ガスセンサのファイバブラッグ回折格子のブラッグ共振波長の、検知に必要な閾値シフトを超えるシフトを誘発し、ガスを識別するためにこのシフトが利用される。
【0005】
本発明の態様による別の実施形態では、ガスを識別するためのガス検知システムが提供される。ガス検知システムは、複数のガスセンサを有する検知光ファイバを含み、各ガスセンサは、検知光ファイバに沿ったそれぞれの格子位置に配置されたファイバブラッグ回折格子と、各格子位置で検知光ファイバの外表面に固着された検知層とを含む。各ガスセンサの検知層は、ある範囲内の熱伝導率のガスを検知するように調整された熱感度で構成される。検知層とある範囲内の熱伝導率のガスとの間の熱エネルギ交換は、それぞれの格子位置でのブラッグ共振波長の、熱伝導率の範囲内のガスの検知に必要な閾値シフトを超えるシフトを誘発する。
【0006】
本発明の態様による別の実施形態では、ガスを識別するためのガス検知システムが提供される。ガス検知システムは、チャンバハウジングによって密閉され、ガスを受容するように構成された中空チャンバを含む。また、ガス検知システムは、中空チャンバ内に配置された検知光ファイバを含む。検知光ファイバは複数のガスセンサを含み、各ガスセンサは、検知光ファイバに沿ったそれぞれの格子位置に配置されたファイバブラッグ回折格子と、各格子位置で検知光ファイバの外表面に固着された検知層とを含む。ガスセンサの検知層は、ガスの熱伝導率及び検知層とガスとの温度差に基づいて熱エネルギをガスと交換する。また、ガス検知システムは、ガスセンサの各ファイバブラッグ回折格子からのブラッグ共振波長のそれぞれのシフトを検知する光検出器を含む。ブラッグ共振波長のそれぞれのシフトは、ガスセンサの各検知層によってガスに散逸される熱エネルギによって誘発される。また、ガス検知システムは、各ファイバガスセンサからのブラッグ共振波長のそれぞれのシフトに基づいてガスを識別するための、光検出器に結合されたコントローラを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の態様による、ガスを識別する熱対流ガス検知システムの例示的実施形態のブロック図である。
【図2】図1のセンサシステムに示された検知モジュールの例示的実施形態の側断面図である。
【図3】図2に示された検知モジュールの検知光ファイバの部分側断面図である。
【図4】図3に示された検知光ファイバの、厚さが変化する検知層内の正規化されたブラッグ共振波長シフトと、正規化された温度変化とを対照したグラフである。
【図5】図3に示された検知層内の正規化された熱感度と、変化する材料の正規化された層厚とを対照したグラフである。
【図6】比熱容量が異なる2つのガスについて、正規化され、スケーリングされた検知モジュール内の温度を示す、図2に示された検知モジュール内部の熱分布の部分側断面図である。
【図7】図2に示された検知モジュールを通過する様々なガス及び流量について、正規化されたブラッグ共振波長シフトと、正規化時間とを対照したグラフである。
【図8】図1に示した検知モジュールを通過する二成分ガスの様々な濃度について、正規化されたブラッグ共振波長シフトと、正規化時間とを対照したグラフである。
【図9】本発明の態様による、図2に示された検知モジュールを通過する様々な濃度変化するガスについて、正規化されたブラッグ共振波長シフトと、時間とを対照したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の態様は、複数の単成分純ガス、二成分混合ガス(2種類の純ガスのガス混合物)、又は多成分ガス又はマルチガス(2種類以上の純ガスのガス混合物)を含むガス及びガス成分の検知及び識別について説明する。例えば、純ガスがセンサシステムに投入されると、ファイバガスセンサ(FGS)からの波長シフトに基づいて、H2ガス又はN2ガスなどのガスの同一性が判定される。別の実施例では、二成分混合ガスがセンサシステムに投入されると、二成分混合ガス中の各々の純ガスの同一性、及び各々の純ガスの、例えば96%のCO2、4%のH2などの相対濃度が提供される。例示的実施形態では、第1及び第2の単成分ガスから形成される二成分混合ガスの場合、第1の単成分ガスは波長シフトΔλ1を誘発し、第2の単成分ガスはΔλ2を誘発することがあり、一方、二成分ガス自体は波長シフトΔλを誘発する。Δλ1>Δλ2である場合は、二成分混合ガス中の第1の単成分ガスの相対濃度の百分比は、以下の式によって決定される。
【0009】
【数1】

但し、Δλ1−Δλ2はガスセンサのダイナミックレンジである。ガスセンサの感度を、各々1%のガス濃度変化ごとの波長応答/シフト振幅として表してもよい。
【0010】
前述のように、従来の熱伝導ガス検知技術には、純ガス、二成分ガス及びマルチガスを含む様々なガスを検出するために必要な感度と精度が欠如している。発明者は、特定用途での使用に適合されたガスの範囲に基づいて、ガス又はガス成分を識別するために熱伝導作用を利用し、ガス検知システムが各々のガスに必要な感度を有するように設計されるガス検知システムを開発した。熱伝導作用に誘発されるファイバガスセンサとガス流との間の熱交換は、ガスの比熱容量、ガスの熱伝導率、及びガス流量に基づくものであるため、ファイバガスセンサを特定範囲のガスに応答するように設計することができる。
【0011】
以下により詳細に記載するように、ガス検知システムは、投入されたガスとファイバガスセンサとの間の熱エネルギの交換による熱対流を引き起こす。具体的には、ガス検知システムは、複数のファイバガスセンサを含んでもよく、これらは全体で複数の検知層を含み、各ファイバガスセンサは、それぞれの範囲内の熱伝達率を有するガスと熱エネルギ交換するように個々に調整される熱感度を有するように設計される。従って、熱伝達率が高いガスと熱エネルギ交換するため、例えば、第1のファイバガスセンサの第1の検知層を第1の熱伝達率を有するように設計してもよい。別の実施例では、熱伝達率が低いガスと熱エネルギ交換するため、第2のファイバガスセンサの第2の検知層を第2の熱伝達率を有するように設計してもよい。従って、ガス検知システムがある熱伝達率範囲のガスにとって適切な感度を確実に有するようにするため、ガス検知システムは複数の材料の検知層を有する複数のガスセンサを含み、ガス検知システム内の複数のガスセンサと複数の検知層との組み合わせが、全体として広範囲の熱伝達率を有する広範囲のガスを検知し、識別することができるように、各ガスセンサの各検知層は、それぞれの範囲内の熱伝達率を有するガス群と熱エネルギ交換するように構成される。
【0012】
図1は、ガスを識別し、純ガス、二成分混合ガス又はマルチガスであるガス成分を分析するガス検知システム100を示す。ガス検知システム100は、例えばレーザーなどの光信号を光カプラ104へと出力する広帯域光源102を含み、次いで光カプラ104は光信号を4本の別個のファイバ伝送ケーブル106へと結合する。各ファイバ伝送ケーブル106は、一対の検知モジュール10を封入するそれぞれの検知モジュールハウジング110に光信号を伝送する。図1は、一対の検知モジュール10がハウジング110内に封入されることを示しているが、2つ未満、又は2つ以上の検知モジュールが検知モジュールハウジングによって封入されてもよい。検知モジュール10は図2の実施形態で以下に記載する。また、検知モジュールハウジングは、防爆形金属容器であってもよい。しかし、検知モジュールハウジングを金属材料から製造する必要はない。検査の冗長性を得るために、一対の検知モジュール10が検知モジュールハウジング110内に配置されるので、別の検知モジュール10が動作しない場合は、少なくとも1つの検知モジュール10がガスを識別するデータを提供する。一対の検知モジュール10が検知モジュールハウジング110内に配置される例示的実施形態では、例えば数秒から30分程度の間隔などの固定時間間隔で入口ガスを交互に検知モジュール10へと向けるために、タイマー制御スイッチャを検知モジュールハウジング110内で使用してもよい。以下により詳細に記載するように、検知モジュール10は、ガス流に誘発される熱対流損失に応答してその共振ブラッグ波長をシフトし、相対波長シフトは検知モジュール10内のガスの同一性を表す。
【0013】
図1に更に示すように、各検知モジュール10からの光信号の波長シフトを分析するため、光検出器又は多チャネル信号処理ユニット112が備えられる。例示的実施形態では、処理ユニット112は1−16チャネルマルチプレクサであり、各検知モジュール10からの波長シフトのスペクトルを分析するために1つのチャネルが使用される。しかし、実施形態は16チャネルマルチプレクサに限定されず、検知モジュール10の数に基づいて、32チャネルマルチプレクサ、又は任意のチャネル数のマルチプレクサを使用してもよい。それに加えて、図1はガス検知システム100内に4つの検知モジュール10を示しているが、システム内の4つ未満又は4つ以上の検知モジュールを使用してもよく、従って、実施形態はいずれかの特定の数の検知モジュールに限定されない。また、各検知モジュール10内のガスを識別するため、コントローラ又はプロセッサ114が、信号処理ユニット112から分析されたスペクトルデータを受け取る。例示的実施形態では、プロセッサ114はLabVIEWベースソフトウエアで制御される。
【0014】
図2は、例えば純ガス、二成分ガス、又はマルチガスのいずれでもよいガスを識別する検知モジュール10を示す。図2の実施形態は、ガス検知システム100内で単一の検知モジュール10だけが使用される、図1のガス検知システム100であると見なされる。検知モジュール10は、例えば二重壁ハウジングであるチャンバハウジング16に封入される中空ガイドである中空チャンバ14を含む。例示的実施形態では、チャンバハウジング16は、例えば溶融石英ガラスなどの熱膨張率が低い材料から作製された円筒形構造である。ガスが中空チャンバ14を通過する際の熱エネルギ伝導を緩和するため、空洞内二重壁を乾燥空気で密閉してもよい。検知モジュール10は更に、中空チャンバ14内に配置される検知光ファイバ18を含む。図2に示すように、検知光ファイバ18は、検知レーキ31で中空チャンバ14内に懸架され、検知光ファイバ18と検知レーキ31との長軸は中空チャンバ14の長軸と一致するように配置される。図2は、形状が円筒形で、検知光ファイバの長軸が中空チャンバの長軸と一致するように検知光ファイバが配置された中空チャンバを示しているが、以下に詳細に記載するように、検知モジュールがガスと検知光ファイバとの熱交換を利用してガスを識別可能であれば、本発明の実施形態は上記の配置に限定されない。
【0015】
図3は、中空チャンバ14内に配置された検知光ファイバ18が3つのファイバガスセンサ(FGS)を含むことを示す。各ファイバガスセンサ(FGS)は、検知レーキ31によって支持された検知光ファイバ18に沿った、格子位置26、28、30に位置するそれぞれ3つのファイバブラッグ回折格子20、22、24を含む。当業者には理解されるように、ファイバブラッグ回折格子は従来のレーザー及び位相マスク技術で、感光性光ファイバ18のコアに内接され、光ファイバのクラッドによって囲まれている。また、図3に示すように、3つのファイバガスセンサ(FGS)は、それぞれの格子位置26、28、30で検知光ファイバ18の外表面(すなわちクラッド)38に固着されたそれぞれ3つの検知層32、34、36を含む。従って、各ファイバガスセンサ(FGS)は、それぞれの格子位置に位置するファイバブラッグ回折格子と、それぞれの格子位置で検知光ファイバの外表面に固着された検知層とを含む。本発明の態様の例示的実施形態では、検知層32、34、36は後述するボンディング層33、35、37を用いて外表面38に接合される。図3は、検知光ファイバ18内に配置された3つのファイバブラッグ回折格子を示しているが、実施形態では3つのファイバブラッグ回折格子に限定されず、以下に詳述するように、識別されるガス又はガス成分のタイプに応じて、検知光ファイバ18内に配置される3つ未満の、又はそれ以上のファイバブラッグ回折格子を使用してもよい。検知光ファイバ18内に配置されるファイバブラッグ回折格子の数の選択は検知モジュール10の設計段階での検討事項であり、例えば検知されるガス成分の範囲、又は検知されるガスのタイプなどの様々な要因に基づいて選択される。例示的実施形態では、ファイバブラッグ回折格子は、検知層がそのクラッドを囲むアポダイズされた屈折率周期変調格子構造で単一モードファイバコアに内接される。
【0016】
図2に示すように、検知モジュール10は更に、前述の二重壁チャンバハウジングであるチャンバハウジング16の外表面48に固着された熱安定剤46を含む。熱安定剤46は、第1の温度、又は例えば300°Fなどの動作温度に保たれる。熱安定剤は、溶融石英管などの熱膨張率が低い材料から作製されたチャンバハウジングの外表面の周囲に巻回される、(標準型の壁コンセントで給電されてもよい)ヒートラップブランケットである。チャンバハウジング16は、チャンバハウジング16の外表面48への熱安定剤46の固着によって動作温度に加熱される。ファイバブラッグ回折格子20、22、24及び検知層32、34、36も、中空チャンバ14を経たチャンバハウジング16からの熱対流による熱伝達によって動作温度に加熱される。前述のように、例示的実施形態では、チャンバハウジング16は、熱安定剤からの赤外線放射エネルギを減衰して、例えば2μmなどの閾値波長以上の波長でのセンサの熱ノイズを低減する溶融石英材料などの熱放射限定材料から製造してもよい。このように、チャンバハウジング16は、検知層32、34、36及び検知光ファイバ18が熱対流により確実に動作温度に加熱される材料から製造される。
【0017】
ファイバブラッグ回折格子20、22、24及び検知光ファイバ18は、石英棒状のレーキであってよい検知レーキ31によって支持される。検知モジュール10とガス流12との間で確実に熱エネルギ交換が生じるようにするため、検知レーキ31には、各回折格子20、22、24がガス流に晒され、しかも検知レーキ31からファイバブラッグ回折格子20、22、24への熱伝導の可能性を緩和するように1つ又は複数の開口部を有する円筒形本体部が備えられる。検知レーキ31の円筒形本体部の一端は中空チャンバ14を密閉するために使用され、その他端は中空チャンバ14の中心部内に懸架される。入口ガス流12は検知レーキ31を自由に通過し、ファイバブラッグ回折格子20、22、24の側を通り、排気口27から排出される。同様の配慮に基づき、検知レーキ31からファイバブラッグ回折格子20、22、24への熱放射及び熱伝導の可能性と、熱応力を誘発する熱膨張率の差異とを緩和するため、検知レーキ31を溶融石英ガラス材で構成してもよい。
【0018】
図2に示すように、検知モジュール10の動作中、ガス12が中空チャンバ14内に流入する前に、ガス12は調整可能な流量で入口13に向けられ、(初期ガス温度が入口温度以上である場合は)ガスの乱流を軽減するための単壁チャンバである正面の中空チャンバ17を通過する前に、ガス12の温度変化を入口温度又は第2の温度に低減するヒートシンクとして作用する熱放散器15へと向けられる。例示的実施形態では、入口温度は0〜100°Fである。検知モジュール10は、中空チャンバ14を通過するガス12の流量を調整するために入口13に接続された流量計11を含む。ガス12が入口温度で中空チャンバ14内に流入すると、部分的にはガスの熱容量に基づき、且つ付加的には各検知層32、34、36の熱伝導及び熱膨張特性、及び検知層32、33、34の動作温度とガス12の初期入口温度との温度差に基づいて、各格子位置26、28、30にある検知層32、34、36はそれぞれ、ガス12と熱エネルギを交換する。各ファイバガスセンサ(FGS)の各検知層32、34、36とガス12とのそれぞれの熱エネルギ交換によって、各ファイバガスセンサ(FGS)の間でガス12の特性である別個のファイバブラッグ回折格子20、22、24のブラッグ共振波長シフトが誘発され、このようにして、ガス12を識別するために別個のファイバブラッグ回折格子20、22、24のブラッグ共振波長シフトが利用される。ガス12が中空チャンバ14を通過した後、ガスは出口27を経てファイバガスセンサモジュール10から流出する。
【0019】
図1及び2に示すように、検知モジュール10は広帯域の、又は同調可能な信号源102から光信号を受信し、この信号は光カプラ104を使用して検知光ファイバ106に伝送される。前述のように、図2に示す検知モジュール10を、例えば単一の検知モジュール10を利用する図1のガス検知システム100の特殊例と見なしてもよい。光源102はレーザーをファイバケーブル106へと伝送し、ファイバケーブル106は次いでレーザーを検知レーキ31、及び検知モジュールハウジング16内に送る。前述のように、検知レーキ31は、ファイバブラッグ回折格子20、22、24又はファイバガスセンサを二重壁ハウジング16によって封入された中空チャンバ14内に配置するために利用される。特に、検知レーキ31は、全てのファイバブラッグ回折格子20、22、24をガス流路内に配置できるようにする1つ又は複数の開口部を含む。例示的実施形態では、各検知光ファイバ18はV形溝に固定され、複数の検知光ファイバ、又はファイバブラッグ回折格子アレイは平行なV形溝に固定することができる。当業者には理解されるように、各ファイバブラッグ回折格子20、22、24に光源102は、各々別個のファイバガスセンサ(FGS)の各ファイバブラッグ回折格子20、22、24からの各ブラッグ共振波長のそれぞれのシフトを計測するために、図1〜2の光カプラ104から検知光ファイバ106に結合されるそれぞれの広帯域レーザー源、又は同調可能な光源を提供する。図1は、ガス検知システム100が複数の検知モジュール10の単一の光源102と、光カプラ104とを含むことを示しているが、図2の実施形態は、単一の検知モジュール10で単一の光源102と、光検知器112又は処理ユニット114とを使用してもよいことを示している。検知モジュール10は更に、光検知器112に結合されたコントローラ又はプロセッサ114を含み、光検知器112はブラッグ共振波長シフトの検知されたスペクトルデータをプロセッサ114に伝送する。各ファイバガスセンサ(FGS)の各々別個のファイバブラッグ回折格子20、22、24からのブラッグ共振波長シフトのスペクトルデータに基づいて、例えばマルチチャネル信号処理ユニット及びデータ取得プロセッサであってよいプロセッサ114は、全てのファイバガスセンサ(FGS)の全てのファイバブラッグ回折格子20、22、24からのそれぞれのブラッグ共振波長シフトの全てを考慮に入れてガス12を識別する。
【0020】
例示的実施形態では、検知層32、34、36とガス12との熱エネルギ交換は、検知層32、34、36からガス12への熱対流による熱エネルギの散逸である。当業者には理解されるように、熱対流による熱エネルギの散逸は、より高温の領域からより低温の領域へと向けられ、熱対流速度は、より高温の領域とより低温の領域との温度差、並びにガス12及び各々検知層32、34、36の熱伝達率、及びチャンバ14の形状に比例する。前述のように、ガス12は初期入口温度で中空チャンバ14内に向けられ、検知層32、34、36は動作温度にある。入口温度は動作温度とは異なり、より具体的には、入口温度は動作温度よりも低い。例示的実施形態では、動作温度は200°F〜300°Fの範囲に設定され、入口温度は0°F〜100°Fに設定される。例示的実施形態では、検知モジュール10の動作中の動作温度と入口温度との差は少なくとも150°Fである。追加の例示的実施形態では、検知モジュール10の動作中の動作温度と入口温度との差は少なくとも100°Fである。
【0021】
図3に示すように、各ファイバガスセンサ(FGS)の検知層32、34、36は、各ファイバガスセンサ(FGS)の格子位置26、28、30で検知光ファイバ18の外表面38(すなわちクラッド)にそれぞれ接合される。検知層32、34、36を検知光ファイバ18の外表面38に確実に接合するため、ボンディング層33、35、37が検知層32、34、36と外表面38との間に設けられる。例示的実施形態では、ボンディング層は、厚さが例えば10nm〜40nmのチタン、ニッケル、銅及び/又はクロム材料から形成される。また、図3に示すように、検知層32、34、36を酸化又は腐食から保護するため、キャップ層、又は保護層39、41、43が検知層32、34、36の外表面上に設けられる。例示的実施形態では、保護層は厚さが例えば約100nmのニッケル、金、及び/又はクロム材料の1つから形成される。例示的実施形態では、保護層は、水素又は硫化水素を識別するためにパラジウム合金又は酸化銅材料から製造された化学活性層であってもよく、又は例えばメタン又は一酸化炭素を識別するためにパラジウムをドープした酸化錫材料から製造されてもよく、厚さは例えば10nm〜50nmである。図3は保護層39、41、43が検知層32、34、36の外表面を被覆することを示しているが、不活性ガスが分析される場合には、保護層39、41、43を使用せずに検知モジュール10を動作させてもよい。例示的実施形態では、検知層は化学活性層であってよく、マルチガスを識別すべき場合は、保護層39、41、43を使用せずにファイバガスセンサを動作させてもよい。
【0022】
ガス12が中空チャンバ14を通過すると、検知層32、34、36及び検知光ファイバ18の温度は、検知層32、34、36からガス12への熱エネルギ散逸によって動作温度から低下する。検知層32、34、36の温度変化によって、検知光ファイバ18、及び検知層32、34、36の各々の材料のそれぞれの熱膨張特性に基づいて、各ファイバガスセンサのファイバブラッグ回折格子20、22、24の内部の歪みが低減される。各検知層32、34,36の熱膨張特性はファイバブラッグ回折格子20、22、24の熱膨張特性よりも大幅に高いので、温度変化によって、ブラッグ回折格子20、22、24内の歪み(引張り歪み)よりも多くの検知層32、34、36内の歪み(圧縮歪み)が誘発され、従って、検知層32、34、36とファイバブラッグ回折格子20、22、24との間に界面歪みが生ずる。各検知層32、34、36の歪みは、検知層32、34、36の各々の材料の熱膨張特性と、各検知層32、34、36のそれぞれの厚さ50、52、54とに基づく。各検知層32、34、36の歪みは、各ファイバガスセンサのそれぞれのファイバブラッグ回折格子20、22、24のブラッグ共振波長シフトをそれぞれ誘発し、下記のように表される。
【0023】
【数2】

但し、Δλは別個のファイバブラッグ回折格子20、22、24のブラッグ共振波長シフトであり、ΔλBは初期ブラッグ共振波長であり、ζは各検知層32、34、36の厚さ50、52、54、検知材料及びファイバのヤング率とポアソン比とに比例するパラメータであり、αmは各検知層32、34,36の有効熱膨張率であり、αfは光ファイバ18の熱伝達率であり、ΔTは熱対流作用による温度変化であり、βはファイバ材料の熱光学係数である。方程式(2)の第1の項は、検知層32、34、36と、ファイバブラッグ回折格子20、22、24の近傍の光ファイバ18の外表面38との間の界面歪みに起因するブラッグ共振波長シフトを表しており、検知層32、34、36とファイバ材料との熱膨張率の差、並びに検知層32、34、36の厚さ50、52、54に比例する。従って、係数Kεはそれぞれのファイバブラッグ回折格子20、22、24のブラッグ共振波長シフトに関するそれぞれの検知層32、34、36の歪み感度であり、係数KTはそれぞれのファイバブラッグ回折格子の温度感度である。2つの係数の合計が、各ファイバガスセンサ(FGS)の熱感度であると定義される。方程式(2)の第2の項は、ファイバブラッグ回折格子20、22、24の温度変化ΔTに起因する既知のブラッグ共振波長シフトを示す。従って、ブラッグ共振波長の既知のシフトは予め定められており、検知層32、34、36の歪みに起因するブラッグ共振波長シフトの部分を分離するために、ブラッグ共振波長の全体のシフトと比較される。また、ファイバの熱膨張による固有弾性歪みは余りにも少なく、実際の影響は無視してもよい。
【0024】
例示的実施形態では、ファイバガスセンサ(FGS)は、ガス12が中空チャンバ14を通過する際に必要な最小限の応答振幅又はブラッグ共振波長シフトよりも大きい応答振幅又はシフトを誘発するために、各検知層32、34、36が受ける予測温度変化に基づいて、最小歪み感度Kε及び温度感度KTよりも高い歪み感度を有するように各検知層32、34、36の材料及び厚さが個々に選択されるように設計される。例示的実施形態では、熱伝達率のそれぞれの範囲内のガスを検知するように調整されるそれぞれの温度及び歪み感度を有するように各検知層32、34、36を設計してもよい。従って、例えば1〜10ピコメートル(pm)などの検知に必要な閾値を超えるファイバブラッグ回折格子20のブラッグ共振波長シフトを誘発することによって、高熱伝達率範囲のガスを検知するように検知層32の温度及び歪み感度が調整されるように、第1の検知層32を設計してもよい。別の実施例では、例えば10〜50pmなどの検知に必要な閾値を超えるファイバブラッグ回折格子22のブラッグ共振波長シフトを誘発することによって、中程度の熱伝達率範囲のガスを検知するように検知層34の歪み感度が調整されるように、第2の検知層34を設計してもよい。別の実施例では、例えば50〜100pmなどの検知に必要な閾値を超えるファイバブラッグ回折格子24のブラッグ共振波長シフトを誘発することによって、低熱伝達率範囲のガスを検知するように検知層36の温度及び歪み感度が調整されるように、第3の検知層36を設計してもよい。
【0025】
前述のように、それぞれの検知層32、34、36内の温度変化は、ガス12による各検知層32、34、36の熱エネルギ散逸に基づき、一方、この熱エネルギ散逸は、ガス12の熱伝達率に基づくものである。例えば、第1のガスが水素などの高い熱伝達率を有している場合は(比熱容量が14.38KJ/kg.K、熱伝導性が0.168W/m.K)、熱エネルギ散逸の結果、検知層32内で低い温度変化を生ずるであろう。何故ならば、このガスは中空チャンバから容易に熱エネルギを吸収し、中空ガイドとファイバブラッグ回折格子とを加熱するからであり、従って、例えば1〜10pmの最小限の必要なシフト以上のブラッグ共振波長シフトを誘発するために、検知層32の材料には高い歪み感度が必要になろう。熱膨張率(CTE)が高いこのような材料の例は、例えばZn、Pb、Sn、及び/又はAlであろう。別の例として、第2のガスがメタン(CH4)などの中程度の熱伝達率を有している場合は(比熱容量が2.18KJ/kg.K、熱伝導性が0.033W/m.K)、熱エネルギ散逸の結果、検知層34内で中程度の温度変化を生じ、従って、例えば10〜50pmの最小限の必要なシフト以上のブラッグ共振波長シフトを誘発するために、検知層34の材料には中程度の歪み感度が必要になろう。熱膨張率(CTE)が中程度のこのような材料の例は、例えばAg、Au、及びCuであろう。別の例として、第3のガスが二酸化炭素などの低い熱伝達率を有している場合は(比熱容量が0.84KJ/kg.K、熱伝導性が〜0.015W/m.K)、熱エネルギ散逸の結果、検知層36内で高い温度変化を生じ、従って、例えば50〜100pmの最小限の必要なシフト以上のブラッグ共振波長シフトを誘発するために、十分な熱感度を有するガスセンサを形成するためファイバブラッグ回折格子と一体化される多くの異なる材料を使用できよう。低CTEのこのような材料の例は、例えばNi、Co、及びPdであろう。
【0026】
図4は、例えばニッケル系材料などの厚さが変化する材料でのそれぞれの検知層32、34、36の正規化されたブラッグ共振波長シフトと、正規化された温度変化とを対照したグラフである。図4のグラフの勾配は、温度感度が約11.3pm/℃であり、ニッケル検知層の厚さが例えば0.5μmから20μmに増加すると、歪み感度がファイバガスセンサの熱感度を11.3pm/℃から16.5pm/℃に高めることができるニッケル検知層と一体化されたファイバブラッグ回折格子などのファイバガスセンサの熱感度を示している。別の例では、例えば亜鉛などの別の材料を検知層に使用してもよい。亜鉛検知層の厚さが、例えば0.5μmから20μmに厚くなると、亜鉛検知層と一体化されたファイバブラッグ回折格子の熱感度は11.4pm/℃から18.7pm/℃に変化する。検知層からの歪み効果がファイバガスセンサの熱感度を50〜60%高めることができることは明らかである。例えば、熱伝達率が高い第1のガス(例えば水素、ヘリウム)には、歪み感度が18.7pm/℃の厚さ20μmの亜鉛材料から製造するように第1の検知層32を設計してもよい。別の例として、熱伝達率が中程度の第2のガスには、歪み感度が13.3pm/℃の厚さ5μmの銅材料から製造するように第2の検知層34を設計してもよい。別の例として、熱伝達率が低い第3のガスには、熱感度が11.5pm/℃の厚さ1μmのニッケル材料から製造するように第3の検知層36を設計してもよく、この場合は歪み効果の影響は5%未満である。従って、各検知層32、34、36の材料のタイプ及び厚さは、1つ又は複数のそれぞれのガスの熱伝達率に基づいて個々に適応させてもよく、それぞれの検知層は、ブラッグ共振波長シフトを誘発して1つ又は複数のガスを識別するために使用される。上記の記載は検知層の特定の材料について特定の波長シフト及び温度変化の数値を提示しているが、実施形態はこれらの例示的な検知層の材料に限定されず、ガス又はガス範疇の適切な熱歪みをもたらす全ての検知層の材料及び厚さを含むものである。
【0027】
【表1】

ファイバガスセンサ(FGS)としてガスに対する最大の応答振幅を有するように検知材料と一体化されたファイバブラッグ回折格子を設計するため、ファイバガスセンサの熱感度はCTE、弾性係数、及びポアソン比の組み合わせである。具体的には、CTEとヤング係数が高いほどファイバガスセンサの熱感度は高まるが、ポアソン比の影響は少ない。表1は検知材料として使用可能な材料の幾つかを提示している。このように、各検知層32、34、36を形成するために使用できる様々な材料について熱膨張率(CTE)が提示されている。CTEは各材料の熱歪み感度を示す。表1に示すように、亜鉛のCTEは31x10-6/℃であるのに対してニッケルのCTEは13.3x10-6/℃であり、これは、亜鉛の熱歪み感度がニッケルの熱歪み感度よりも高いという前述の記述と一致している。表1は様々な材料のCTEを列挙しているが、実施形態はこれらの材料に限定されず、例えばダイヤモンド、ダイヤモンド状炭素、及びカーバイドなど、検知層を形成するために使用できるあらゆるタイプの材料を含む。
【0028】
また、検知モジュール10の設計段階中に、検知層32、34、36を配置する中空チャンバ14内の格子位置26、28、30を決定するため、熱電対(図示せず)などの温度センサアレイが中空チャンバ14に沿った増分位置に配置される。各々のガスが固定流量で中空チャンバ14を通過すると、温度センサは各位置での各々のガスの温度を検知する。格子位置26、28、30は、各ガスのそれぞれの温度が最大の範囲/相違を有する温度センサの位置に基づいて決定される。例えば、検知モジュール10によって窒素と水素とを識別しようとし、水素と窒素との温度差が中空チャンバ14の中心位置で最大であることを温度センサが判定した場合は、中空チャンバ14の中心位置と一致するように格子位置を選択してもよい。
【0029】
図5は、異なるタイプの検知層材料について、ファイバブラッグ回折格子20、22、24を組み込んだ検知層32、34,36の正規化された熱感度と、検知層32、34、36の正規化された厚さとを検知層32、34、36の厚さが増すにつれて対照したグラフである。このように、表1のCTE及び弾性係数に関して前述したように、検知層32、34、36を形成するために使用される材料のタイプは、同じ厚さである場合、歪み効果によりファイバガスセンサの熱感度に影響を及ぼす。また、図5に示すように、各ファイバガスセンサの熱感度は、検知層の厚さが対応して増すと共に上昇する。
【0030】
図6は、中空チャンバ14内の正規化温度がグレースケールによって示された、中空チャンバ内のファイバガスセンサの温度分布図を示す。第1の検知層32は、高い熱伝達率範囲内の対流作用を伴うガス60に応じたブラッグ共振波長シフトを誘発するように高い歪み感度で設計され、第2の検知層34は、低い熱伝達率範囲内の対流作用を伴うガス56に応じたブラッグ共振波長シフトを誘発するのに十分な歪み感度で設計される。例えば、図6の上の図は、例えば水素ガスなどの高い熱伝達率範囲内のガス60の対流作用に応じた、中空チャンバ14内のファイバブラッグ回折格子20、22、24の熱分布を示している。水素ガスの高い熱伝達率は、検知層32、34、36と中空チャンバ14の両方から容易に熱エネルギを発散することができる。この熱力学的なプロセスでは、ガス60の流れは熱エネルギを中空チャンバ14から比較的速やかに吸収することができ、従って、誘発されるファイバブラッグ回折格子20の温度変化は比較的小さく、中空ガイドの長さに沿ったファイバブラッグ回折格子22、24に誘発される温度変化は更に小さい。
【0031】
従って、熱伝達率が高いガス60を検知するように設計された第1の検知層32は、高い熱伝達率の特性であるブラッグ共振波長シフトを誘発するように高い歪み感度(すなわち、高い熱膨張特性及び/又はより厚い層厚)で設計され、誘発されるブラッグ共振波長シフトは、例えば1〜10pmである検知に必要なシフト閾値以上である。それとは対照的に、図6の下の図は、例えば二酸化炭素などの熱伝達率が低いガス56に応じた、中空チャンバ14内のファイバガスセンサの熱分布を示している。二酸化炭素の熱伝達率が低いことで、中空チャンバ14から吸収される熱エネルギは少ないが、上の図の水素ガスと比較して検知層32、34、36から熱エネルギを吸収し易く、従って比較的大きい検知層32、34、36の温度変化を誘発する。従って、熱伝達率が低いガス56を検知するように設計された第2の検知層34は、熱伝達率が低いガスの特性であるブラッグ共振波長の応答振幅又はシフトを誘発するように、低〜中程度の歪み感度(すなわち、低〜中程度のCTE、弾性係数及び/又は10μmの厚さ)で設計され、誘発されるブラッグ共振波長シフトはガスの検知に必要なシフト閾値以上である。
【0032】
前述のように、検知モジュール10は、それぞれのファイバブラッグ回折格子20、22、24又はファイバガスセンサからそれぞれのブラッグ共振波長シフトを検知するための処理ユニット又は光検知器112を含む。また、検知モジュール10は、校正/パルスモード又は識別/連続モードのいずれかで動作するように処理ユニット112に結合されたプロセッサ又はコントローラ114を含む。識別モードでは、プロセッサ114は、(処理ユニット112から受信した)検知されたブラッグ共振波長の応答振幅又はシフトと、複数の既知のガスのブラッグ共振波長の所定のシフトとの比較に基づいて、中空チャンバ14内のガス12を識別する。しかし、検知モジュール10がガス12を識別するために使用される前に、プロセッサ114は校正モードに切り換えられ、その間に既知の各ガスの所定のブラッグ共振波長シフトがプロセッサ114のメモリに記憶される。前述のように、検知モジュール10は、中空チャンバ14を通ってガス12が流れる流量を調整可能に変更する流量計11を含む。校正モード中、ガスの第1のタイプの校正又はベースライン判定には、既知のガスを変化する流量で中空チャンバ14を通過させるステップが含まれる。具体的には、流量計11を調整することによって、幾つかの異なる流量で既知のガスが別個の中空チャンバ14内に向けられる。既知のガスが中空チャンバ14を通過すると、既知のガスと検知層32、34、36との間の熱交換がそれぞれのブラッグ回折格子20、22、24のブラッグ共振波長シフトを誘発し、これがそれぞれの流量及びファイバブラッグ回折格子20、22、24ごとに検知され、プロセッサ114のメモリに記憶される。その後、プロセッサ114が識別モードに切り換えられ、検査されるガス12が中空チャンバ14を通過すると、プロセッサ114は、検知されたブラッグ共振波長シフトと、それぞれの流量での各々の既知のガスごとに記憶された各々のブラッグ共振波長シフトとを比較することによってガス12を識別する。例えば、水素は毎分500標準立方センチメーター(sccm)の流量で100pmのシフトダウンを誘発し、一方、空気と二酸化炭素との二成分混合物は同じ流量で300〜1100pmのシフトダウンを誘発することがある。
【0033】
また、校正モード中、ガスの第2のタイプの校正又はベースライン判定には、複数のガスを固定流量で中空チャンバ14を個々に通過させるステップが含まれる。固定流量のそれぞれのガスごとにブラッグ共振波長シフトが測定され、プロセッサ114のメモリに記憶される。その後、識別モードで、プロセッサ114は、検知されたブラッグ共振波長シフトと、固定流量のそれぞれのガスごとの記憶された各々のブラッグ共振波長シフトとの比較に基づいて、ガス12を識別する。図7は、上記の校正又はベースライン判定の両方の結果と、プロセッサ114のメモリに記憶された、結果として生じた正規化ブラッグ共振波長シフトとを示している。第1のガス56の第1の校正を用いて、校正モードは500sccm、600sccm、700sccm、800sccm、及び900sccmのそれぞれの流量で、−0.57(−700pm)、−0.67(−800pm)、−0.80(−950pm)、−0.83(−1000pm)、及びー0.85(−1050pm)の正規化ブラッグ共振波長シフトを生じた。例示的実施形態では、熱安定剤の温度は140℃(284°F)に設定され、第2のファイバブラッグ回折格子22、又はファイバガスセンサからのブラッグ共振波長シフトが用いられる。しかし、校正モードはこの実験的な設定に限定されるものではなく、ブラッグ共振波長シフトを測定するために熱安定剤46の様々な温度設定、及び様々なブラッグ回折格子20、22、24又はファイバガスセンサを使用してもよい。900sccmの固定流量の第1のガス56、第2のガス58、及び第3のガス60に対する第2の校正を用いて、校正モードは−0.85(−1050pm)、−0.67(−800pm)及び−0.15(−150pm)の正規化ブラッグ共振波長シフトをそれぞれ生じた。例示的実施形態では、第1のガス56、第2のガス58、及び第3のガス60は例えば二酸化炭素、純窒素ガス、及び純水素ガスである。図7は特定のガスについての校正データを示しているが、実施形態はこれらの特定のガスに限定されず、センサシステムによって識別されるあらゆるガスの校正データの収集を含む。
【0034】
図7は、3つのガスの交互のサイクルテストでの様々な単成分の純ガスに対する応答振幅を含む校正モードの結果を示しているが、検知モジュール10は純ガスの識別に限定されず、二成分ガス及び多成分ガスの識別をも含む。従って、プロセッサ114の校正モードもしくはパルスモードには、既知の単成分純ガス、(複数の純ガスの濃度が既知の)2つの成分からなる二成分ガス、又は多成分からなる多成分ガスさえも使用すること、及び既知のガス混合物を固定流量で中空チャンバ14へと送り込むことが含まれる。純ガスの校正の場合と同様に、濃度が判明している既知の二成分ガスについてブラッグ共振波長シフトが測定され、プロセッサ114のメモリに記憶される。これらのステップは、検知モジュール10による識別がなされる二成分ガス又は多成分ガスの各々の濃度ごとに反復され、検知モジュール10による識別がなされる各々の二成分ガス及び多成分ガスごとに反復される。
【0035】
その後、識別モードで、プロセッサ114は、二成分ガス又は多成分ガスの検知されたブラッグ共振波長シフトと、固定流量での全ての既知のガスのそれぞれの濃度ごとに記憶された各々のブラッグ共振波長シフトとの比較に基づいて、中空チャンバ14内に送られるガス成分の濃度を識別する。図8は、二成分ガス又は多成分ガスについて正規化されたブラッグ共振波長シフトの校正結果の例示的実施形態を示す。例示的実施形態では、図8の校正データを得るために用いられるセットアップの1つには、熱安定剤46を140℃(284°F)に設定し、様々な濃度の二成分ガスの流量を600sccmに固定することが含まれる。しかし、実施形態はこの特定の実験的なセットアップに限定されず、熱安定剤46の温度、及び/又は中空チャンバ14を通って流れる二成分ガス又は多成分ガスの流量を変更してもよい。具体的には、固定流量で既知の二成分ガス又は多成分ガスの第1の濃度62、第2の濃度64、及び第3の濃度66でのブラッグ共振波長シフトが測定される。例示的実施形態では、既知の二成分ガスはH2+CO2であり、濃度は90〜91%のCO2中の9〜10%のH2(第1の濃度)、94〜95%のCO2中の5〜6%のH2(第2の濃度)、96〜97%のCO2中の3〜4%のH2(第3の濃度)である。図8は、特定の二成分ガスについての特定の正規化校正データを示しているが、実施形態はこの特定の二成分ガスに限定されず、ガス検知システムによって識別されるあらゆる二成分ガスについて校正データを収集することが含まれる。例示的実施形態では、この二成分ガスの校正による正規化されたブラッグ共振波長を用いて、例えば水素ガスの相対濃度が5%未満であることを確認するために、発電機が開かれる前に発電機のケースからガス混合物の濃度を識別してもよい。
【0036】
前述のように、ガス12が中空チャンバ14を通過した後、ガス12は出口27を通って検知モジュール10から流出する。検知層32、34、36からガス12への熱エネルギの熱散逸によって、検知層32、34、36の温度は初期の動作温度から熱安定状態へと低下する。例示的実施形態では、ファイバブラッグ回折格子20は相対的に大きい波長シフトダウンを誘発し、ファイバブラッグ回折格子22は相対的に中程度の波長シフトダウンを誘発し、ファイバブラッグ回折格子24は相対的に小さい波長シフトダウンを誘発する。このような熱応答力学は、検知される材料に化学感度がない場合にガス濃度を識別するために使用される中空チャンバ14の熱分布によって判定される。ガス12が中空チャンバ14及び出口27から流出した後、熱安定剤46は検知モジュール10の熱安定性を、第1の温度と第2の温度との間の新たな熱平衡状態に保つ。パルス/校正モードでは、ガスがチャンバ14を通って流れない検知モジュール10の動作中は、検知層32、34、36の温度は、後続のガスがガス識別のために中空チャンバ14内に導入される前に第1の温度の動作温度に戻る。
【0037】
図9は、二成分ガスが相対的に高い水素ガス濃度を有し、相対的に低い二酸化炭素濃度を有していることを除いて、図8と同様のグラフを示している。また、図9に示すように、二成分ガスの濃度は1%ずつ増分されて変化しており、その後で検知モジュール10はファイバブラッグ回折格子20、22、24からのブラッグ共振波長シフトを測定する。図9に示すように、二成分ガスの濃度範囲は82%の水素中の18%の二酸化炭素から、100%の水素中の0%の二酸化炭素まで1%ずつの増分で(すなわち、二酸化炭素が1%ずつ減少し、水素が1%ずつ増加する)変化する。検知モジュール10は、二成分ガスのこれらの増分ごとのブラッグ共振波長の波長シフトを測定することができる。例えば、94%の水素中の6%の二酸化炭素である二成分混合物の濃度の結果、30pmのブラッグ共振波長シフトが生じ、一方、95%の水素中の5%の二酸化炭素の二成分混合物の濃度の結果、例えばシステム100によって検知される33pmのブラッグ共振波長シフトが生じる。図9は単なる例示であるに過ぎず、本実施形態は、図9に示す二酸化炭素/水素の相対的濃度範囲にも、グラフで示す波長シフトの数値にも限定されない。従って、図9に示された結果は、どの種類の二成分ガス混合物の成分分析にも同様に生じ得る。
【0038】
本発明の様々な実施形態を本明細書で図示し、記載したが、このような実施形態は例示のためだけに提示されていることは明らかであろう。本明細書の発明から逸脱することなく多くの変化、変更及び置換えを行ってもよい。従って、本発明は添付の請求項の趣旨及び範囲によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0039】
10 検知モジュール
11 流量計
12 ガス
13 入口
14 中空チャンバ
15 熱放散器
16 チャンバハウジング
17 正面の中空チャンバ
18 検知光ファイバ
20 ファイバブラッグ回折格子
22 ファイバブラッグ回折格子
24 ファイバブラッグ回折格子
26 格子位置
27 出口
28 格子位置
30 格子位置
31 検知レーキ
32 検知層
33 ボンディング層
34 検知層
35 ボンディング層
36 検知層
37 ボンディング層
38 外表面
39 保護層
41 保護層
43 保護層
46 熱安定剤
48 外表面
50 厚さ
52 厚さ
54 厚さ
56 第1のガス
58 第2のガス
60 ガス
62 第1の濃度
64 第2の濃度
66 第3の濃度
100 ガス検知システム
102 広帯域光源
104 光カプラ
106 ファイバケーブル
110 検知モジュールハウジング
112 光検知器
114 プロセッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス(12)を識別するガス検知システム(100)であって、
チャンバハウジング(16)によって密閉された中空チャンバ(14)と、
該中空チャンバ(14)内に位置する検知光ファイバ(18)とを含む少なくとも1つの検知モジュール(10)と
を備え、
前記検知光ファイバ(118)は、
該ファイバ(18)に沿った格子位置(26)に配置されたファイバブラッグ回折格子(20)と、
該格子位置(26)で前記光ファイバ(18)の外表面(38)に固着された検知層(26)とを含むガスセンサと、
を備え、
前記ガスセンサの前記検知層(32)と前記ガス(12)とは、前記ガス(12)が前記中空チャンバ(14)内に向けられると、少なくとも部分的には前記ガス(12)の熱伝導率に基づいて熱エネルギを交換するように構成され、前記熱エネルギ交換は、検知に必要な閾値シフトを超える、前記ガスセンサのファイバブラッグ回折格子のブラッグ共振波長シフトを誘発するように構成され、前記ガス(12)を識別するために前記ブラッグ共振波長シフトが利用される、
ガス検知システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの検知モジュール(10)が、前記チャンバハウジング(16)の外表面に固着され、前記検知層(32)と前記光ファイバ(18)とを前記ガス(12)が存在しない場合の第1の温度に保つように構成された熱安定剤(46)を更に含む、請求項1に記載のガス検知システム(100)。
【請求項3】
前記ガス(12)を、前記第1の温度とは異なる初期の第2の温度で前記中空チャンバ(14)内に向けるように構成されたガス噴射機構を更に備えると共に、前記熱エネルギ交換は、前記第2の温度と前記第1の温度との間の温度差、及び前記検知層(32)の材料の熱伝達率に基づくものである、請求項2に記載のガス検知システム(100)。
【請求項4】
前記熱エネルギ交換が、前記検知層(32)から前記ガス(12)への熱エネルギの散逸であり、該熱エネルギの散逸は、前記検知層(32)及び前記ファイバブラッグ回折格子(20)内の歪みを誘発するように構成され、該歪みは、前記検知層(32)の材料の熱膨張特性、及び前記検知層(32)の前記材料の厚さ(50)に基づくものである、請求項1に記載のガス検知システム(100)。
【請求項5】
前記材料の前記熱膨張特性、及び前記材料の前記厚さ(50)が、ガスの検知に必要な閾値シフトを超える前記ブラッグ共振波長シフトを誘発するのに十分な、前記検知層(32)内及び前記ファイバブラッグ回折格子(20)内の歪みを誘発するように、前記検知層(32)の前記検知材料が選択される、請求項4に記載のガス検知システム(100)。
【請求項6】
前記検知光ファイバ(18)が、複数の格子位置(26、28、30)に離間された複数のブラッグ回折格子(20、22、24)を含む複数のファイバガスセンサを含み、
検知層(32、34、36)がそれぞれの格子位置(26、28、30)で前記光ファイバ(18)の前記外表面(38)に固着され、少なくとも1つのファイバガスセンサの少なくとも1つの検知層(32、34、36)が、ある範囲内の熱伝達率を有するガス(12)を検知するように調整された熱感度で構成され、前記少なくとも1つの検知層(32、34、36)と前記熱伝達率の範囲内の前記ガス(12)との間の熱エネルギ交換は、それぞれの格子位置(26、28、30)での前記ファイバガス(12)センサの前記ファイバブラッグ回折格子(20、22、24)の、前記熱伝達率の範囲内の前記ガス(12)の検知に必要な閾値シフトを超える前記ブラッグ共振波長シフトを誘発するように構成された、請求項1に記載のガス検知システム(100)。
【請求項7】
前記ガス検知システム(100)が、複数のガスの1つを識別するシステムであり、前記熱エネルギ交換が、前記少なくとも1つの検知層(32、34、36)内、及び前記少なくとも1つのファイバガスセンサの前記ファイバブラッグ回折格子(20、22、24)内の歪みを誘発する前記少なくとも1つの検知層(32、34、36)からの前記熱エネルギの散逸であり、前記歪みが、前記少なくとも1つの検知層(32、34、36)の材料の熱膨張特性及び前記材料の厚さ(50、52、54)の少なくとも1つに基づくものである、請求項6に記載のセンサシステム(100)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの検知層(32、34、36)内、及び前記少なくとも1つのファイバブラッグ回折格子(20、22、24)内の歪みが、ガスの検知に必要な閾値シフトを超える、前記少なくとも1つのファイバブラッグ回折格子の前記ブラッグ共振波長シフトを誘発するのに十分な歪みであるように、前記少なくとも1つの検知層(32、34、36)の前記材料と、前記少なくとも1つの検知層(32、34、36)の前記厚さ(50、52、54)とが選択される、請求項7に記載のガス検知システム(100)。
【請求項9】
各ファイバガスセンサに前記ブラッグ共振波長シフトを検知するように構成された光検知器(112)を更に備える、請求項6に記載のガス検知システム(100)。
【請求項10】
前記検知層(32)と前記ファイバガスセンサとの温度が、前記検知層(32)から前記ガス(12)への熱エネルギの散逸によって、前記第1の温度から低下すると共に、
前記ガスが前記中空チャンバ(14)から流出すると、前記熱安定剤(46)は、第2のガスが前記中空チャンバ(14)内に向けられる前に、前記ファイバガスセンサ及び前記中空チャンバ(14)を前記第1の温度に再加熱するように構成された、請求項2に記載のガス検知システム(100)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−98279(P2012−98279A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−230219(P2011−230219)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】