説明

ガス検知センサの表面吸着物測定方法および測定装置

【課題】 ガス検知センサのセンサ部の表面吸着物のみを測定可能とする表面吸着物測定方法および測定装置を提供すること。
【解決手段】 真空室20内に被検ガスの有無を検出するガス検知センサ23本体を格納し、真空室20内に設けられた電源によりこのガス検知センサ23のセンサ部24近傍に設けられたPt薄膜ヒータ27に通電してセンサ部24のみを加熱昇温させ、センサ部24の吸着物のみをガス化して質量分析計26へと導き分析することとした。これにより、センサ部24以外のガス検知センサ23の本体からの脱離ガスは発生せず、センサ部24の表面からの脱離ガスのみが測定可能となるので、ガス検知センサ23のセンサ部24の表面吸着物のみを測定可能とする表面吸着物測定方法および測定装置を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検知センサの表面吸着物測定方法および測定装置に関し、より詳細には、ガス検知センサのセンサ部の表面吸着物のみを測定可能とする吸着物測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス検知センサのセンサ部には、一般に、SnOやZnOその他の酸化物を主成分とする酸化物半導体を主材料とする薄膜が用いられ、センサ部の電気抵抗をモニタすることでガス検知を行なっている(特許文献1などを参照)。例えば、センサ部表面に酸素が吸着するとセンサ抵抗が上昇するが、被検ガスがこの吸着酸素と反応を起こすと吸着酸素はセンサ部表面から脱離してセンサ抵抗が低下する。従って、センサ部の抵抗変化をモニタすることで、雰囲気中の被検ガスを検知することができることとなる。このような原理に基づいて作動するガス検知センサのガスセンシングメカニズムを詳細に解明するためには、センサ部表面に吸着しているガス種やその吸着程度などを正確に知ることが必要となる。
【0003】
試料表面の吸着物を分析するための技術としては「昇温脱離ガス分析法」(TDS: Thermal Desorption Spectroscopy)が知られており(例えば特許文献2参照)、この方法では、真空中でルツボに納めた測定試料を熱電対等の温度センサにより温度測定しながら熱源により加熱昇温させ、測定試料に吸着されたガスを脱離させて質量分析計へと導いて脱離ガスの成分などを分析する。
【0004】
図1は、上述のTDS法によってガス検知センサのセンサ部表面吸着物を測定しようとする場合の測定系の構成を説明するための図で、真空排気された真空室10内に加熱装置11を設け、この加熱装置11の上に試料ホルダ12を介して検体であるガス検知センサ13を載せる。加熱装置11へ通電しガス検知センサ13の全体を昇温させると、センサ部14に吸着した物質がガス化して脱離し、このときの脱離ガス15を質量分析計16に導いて成分分析することとなる。
【0005】
【特許文献1】特開平11-183420号公報
【特許文献2】特開平9−243536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような方法では、測定時にガス検知センサ13全体の温度が上昇してしまうことから、センサ部14に吸着した物質のみならずセンサ部14以外のガス検知センサ13の本体に吸着した物質までがガス化することなってしまい、センサ部14のみの正確な吸着物評価を行なうことが困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ガス検知センサのセンサ部の表面吸着物のみを測定可能とする表面吸着物測定方法および測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ガス検知センサの表面吸着物測定方法であって、真空中にガス検知センサ本体を格納し、当該ガス検知センサのセンサ部近傍に設けられたヒータに通電して当該センサ部のみを加熱昇温させ、当該センサ部の吸着物のみをガス化して質量分析計へと導き分析することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、被検ガスの有無を検出するガス検知センサであって、当該ガス検知センサのセンサ部の近傍に当該センサ部を加熱するための薄膜ヒータを備えていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のガス検知センサにおいて、前記薄膜ヒータは、前記センサ部の直下に設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載のガス検知センサにおいて、前記薄膜ヒータは、Pt薄膜で構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、ガス検知センサの表面吸着物測定装置であって、質量分析計と、当該質量分析計に繋がれ内部にガス検知センサを載置するためのステージを有する真空室と、を備え、前記真空室内には、請求項2乃至4の何れかに記載のガス検知センサに備える薄膜ヒータに電圧を印加するための電圧印加手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、真空室内に被検ガスの有無を検出するガス検知センサ本体を格納し、真空室内に設けられた電源によりこのガス検知センサのセンサ部近傍に設けられたPt薄膜ヒータに通電してセンサ部のみを加熱昇温させ、センサ部の吸着物のみをガス化して質量分析計へと導き分析することとしたので、ガス検知センサのセンサ部の表面吸着物のみを測定可能とする表面吸着物測定方法および測定装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図2は、本発明の表面吸着物測定方法によってガス検知センサのセンサ部のみの表面吸着物を測定しようとする場合の本発明の測定装置の構成例を説明するための図で、真空排気された真空室20内に試料ステージ21を設け、この試料ステージ21の上に試料ホルダ22を介してガス検知センサ23を載せる。このガス検知センサ23のセンサ部24の下部近傍にはセンサ部24のみを局所的に加熱することが可能なヒータ27が設けられている。そして、このヒータ27へ図示しない電圧印加機構(電源)により電圧印加して通電することにより、ガス検知センサ23の本体を昇温させることなくセンサ部24のみを昇温させてセンサ部24の表面に吸着した物質をガス化して脱離させ、この脱離ガス25を質量分析計26に導いて成分分析する。
【0015】
図3は、上述した表面吸着物測定方法で用いられるガス検知センサのヒータの構成例を説明するための図で、図3(a)はガス検知センサの平面図、図3(b)は断面図である。基板31はSi基板であり、その表面にはSi酸化膜(SiO)32が形成されている。Si酸化膜32の上には、所定の間隔で一対のPtのヒータ電圧印加電極33が設けられており、この電極間には金属薄膜ヒータ34および酸化スズセンサ部35が形成されている。また、ヒータ電圧印加電極33の端部にはコンタクト接点36が設けられており、図示しない電源とコンタクト接点36とは、リード線37により接続される。
【0016】
図3に示したガス検知センサは、例えば以下のような工程を経て得ることができる。基板31として、その表面に厚さ0.5μmのSi酸化膜32が形成された厚さ400μmのSi基板を用い、この基板31を有機溶剤などでよく洗浄した後、RFマグネトロンスパッタリング装置でPtヒータ電圧印加電極33を成膜する。このときの成膜条件は、Arガス圧力1Pa、基板温度300℃、RFパワー2W/cmとし、成膜されるPtの厚さは約200nmである。
【0017】
このヒータ電圧印加電極33の成膜に続いて、金属薄膜ヒータ34としてPt−Wを成膜し、コンタクト接点36としてAuを成膜する。金属薄膜ヒータでPt−Wの他の材料としてPt系合金(Pt−W、Pt−Ta)やNi−Cr合金が挙げられる。金属ヒータおよびコンタクト接点の成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置により行ない、成膜条件はArガス圧力1Pa、基板温度300℃、RFパワー2W/cm2である。ヒータの膜厚は400nm、コンタクト接点の膜厚は100nmとする。
【0018】
さらに、この金属薄膜ヒータ34の上に酸化スズセンサ部35を成膜する。酸化スズ(SnO)の成膜はマグネトロンスパッタリング装置を用いた反応性スパッタリング法によって実行される。なお、この際の成膜条件は、ArとOの混合(Ar+O)ガス圧力2Pa、基板温度300℃、RFパワー2W/cmである。この条件で成膜することで、柱状構造を有する膜厚400nmのSnO薄膜が得られる。
【0019】
図4は、上述した手順で作製されたガス検知センサからの脱離ガスを、本発明の表面吸着物測定装置を用いて測定した場合の、ガス検出強度の通電時間依存性の例を説明するための図である。ここで示した実験では、酸化スズセンサ部表面からの付着物の脱離ガスのみが定量的に評価可能かどうかを確認するために、予めセンサ全体をSFガス雰囲気中に暴露してセンサ表面のみならずセンサ全体を硫黄(S)汚染処理を行なった後、このガス検知センサを図2に図示した真空室中に格納して1×10−9Torr以下まで排気し、電源により金属薄膜ヒータ34に通電して酸化スズセンサ部35を昇温させている。また、比較のために、センサ全体のS汚染処理後にこのセンサ部のみを純水洗浄して表面に付着したSを予め除去した試料についても脱離ガスを評価している。なお、ここでは1秒毎に0.08mWずつ印加電力を上昇させる電圧印加条件としている。図4の横軸はこのときの通電時間であり、縦軸は質量電荷比M/zをSOの質量電荷比に相当する64として測定した脱離ガスの検出強度である。
【0020】
硫黄汚染処理後の洗浄を行わなかったガス検知センサ(試料1)からは、通電時間が約20秒を経過した時点で徐々にSOの脱離が検出され始め70秒経過まで上昇した後に徐々に低下している。一方、硫黄汚染処理後にセンサ部を洗浄したガス検知センサ(試料2)からは、SOガスは検知されなかった。
【0021】
この実験結果は以下のことを意味している。すなわち、本発明の表面吸着物測定方法においてガス検知センサの本体に付着したガスが脱離しているとすれば、試料2の測定中にもSOガスが検知されるはずである。しかしながら図4に示した実験結果によれば試料2からはSOガスは検知されておらず、ガス検知センサの本体からの脱離ガスの発生は生じていないものと判断される。つまり、試料1で検知されているSOガスはセンサ部の表面からの脱離ガスであり、本発明の表面吸着物測定方法および測定装置により、ガス検知センサのセンサ部の表面吸着物のみが測定可能となることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】TDS法によってガス検知センサの表面吸着物を測定しようとする場合の測定系の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の表面吸着物測定方法によってガス検知センサのセンサ部のみの表面吸着物を測定しようとする場合の測定系の構成例を説明するための図である。
【図3】本発明の表面吸着物測定方法で用いられるヒータの構成例を説明するための図で、(a)はガス検知センサの平面図、(b)は断面図である。
【図4】本発明のガス検知センサからの脱離ガス検出強度の通電時間依存性の例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0023】
10、20 真空室
11 加熱装置
12、22 試料ホルダ
13、23 ガス検知センサ
14、24 センサ部
15、25 脱離ガス
16、26 質量分析計
21 試料ステージ
27 ヒータ
31 基板
32 Si酸化膜
33 ヒータ電圧印加電極
34 金属薄膜ヒータ
35 酸化スズセンサ部
36 コンタクト接点
37 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中にガス検知センサ本体を格納し、当該ガス検知センサのセンサ部近傍に設けられたヒータに通電して当該センサ部のみを加熱昇温させ、当該センサ部の吸着物のみをガス化して質量分析計へと導き分析することを特徴とするガス検知センサの表面吸着物測定方法。
【請求項2】
被検ガスの有無を検出するガス検知センサであって、当該ガス検知センサのセンサ部の近傍に当該センサ部を加熱するための薄膜ヒータを備えていることを特徴とするガス検知センサ。
【請求項3】
前記薄膜ヒータは、前記センサ部の直下に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のガス検知センサ。
【請求項4】
前記薄膜ヒータは、Pt薄膜で構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のガス検知センサ。
【請求項5】
質量分析計と、当該質量分析計に繋がれ内部にガス検知センサを載置するためのステージを有する真空室と、を備え、
前記真空室内には、請求項2乃至4の何れかに記載のガス検知センサに備える薄膜ヒータに電圧を印加するための電圧印加手段を備えていることを特徴とするガス検知センサの表面吸着物測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−53042(P2006−53042A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234808(P2004−234808)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】