説明

ガス検知材

【課題】大気中の二酸化炭素などの妨害ガスによる変色を防止して目的ガスを高い精度で検出できるガス検知材を提供すること。
【解決手段】少なくとも被検出ガスの水素イオン濃度に対して呈色反応する水素イオン濃度指示薬と、界面活性剤とを反応試薬としてベース材に含浸、または塗布して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検ガスと反応して呈色反応する試薬をベース材に含浸させたガス検知材に関する。
【背景技術】
【0002】
被検出ガスと試薬との呈色反応を利用したガス検出装置は、ベース材に呈色反応試薬を含浸、または塗布して構成されたガス検知材に被検ガスを導入する手段と、ガス検知材の光学濃度を検出する手段とにより構成されており、ガス検知材と被検ガスとの接触時間を調整することにより極めて低濃度から高濃度まで広い濃度範囲の検出に対応できる。
ところで、このような呈色反応試薬として水素イオン濃度指示薬を使用した場合には、特許文献1に見られるように呈色反応を生じる水素イオン濃度が異なる試薬、たとえばベンジルオレンジ(変色域が水素イオン濃度1.9乃至3.3)や、トロペオリン(変色域が水素イオン濃度1.4乃至3.2)メチルオレンジ(変色域が水素イオン濃度3.1乃至4.4)、メチルレッド、ニュートラルレッド、ラコモイド(変色域が水素イオン濃度4乃至6.9)を適宜に選択することにより、妨害ガスの影響を可及的に防止することができるものの、それぞれの変色域の範囲が広いため、妨害ガスによっても変色し、測定誤差を生じるという問題がある。
特にメチルレッドを呈色反応指示薬に使用したガス検知材は、フッ化水素を検出するために極めて有用なものであるが、大気中の二酸化炭素にも反応するという不都合がある。このため、水酸化カリウムを緩衝剤として添加することが行われているが、その添加量には限度があるため短時間のうちに大気中の二酸化炭素と反応し、緩衝剤としての機能を喪失し、結果的にフッ化水素の測定時に検出誤差が生じるという問題がある。
もとよりこのような問題を解消するためには、目的ガスに対しては呈色反応する一方、妨害ガスの水素イオン濃度では呈色反応しない水素イオン濃度指示薬が存在する場合にはそれを採用することにより解消できるが、安定性や価格などの他の問題により実用的なものを入手することが困難である。
【特許文献1】特開平7−72138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、検知材を構成する水素イオン濃度指示薬の反応領域を調整して大気中の二酸化炭素などの妨害ガスによる変色を防止して目的ガスを高い選択性と感度で検出することができるガス検知材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を達成するために請求項1の発明は、少なくとも被検出ガスの水素イオン濃度に対して呈色反応する水素イオン濃度指示薬と、界面活性剤とを反応試薬としてベース材に含浸、または塗布して構成されている。
【0005】
請求項2の発明は、水素イオン濃度指示薬が、メチルイエロであり、また前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、水素イオン濃度指示薬の変色領域を界面活性剤によりシフトさせて、妨害ガスによる呈色反応を防止でき、バックグランド値の変化による誤差を防止することができる。
【0007】
請求項2の発明によれば、大気中の二酸化炭素による変色を防止してフッ化水素を高い精度で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
そこで以下に本発明の詳細を実施例に基づいて説明する。
水素イオン濃度2.9乃至4.0を変色域とする水素イオン濃度指示薬であるメチルイエローに、吸水保水性を有する多価アルコール15ミリリットルと、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム0.3乃至1.5gをメタノール等の有機溶媒により全量100ミリリットルとなるように溶かして発色液を調製する。この発色液にセルロース等により構成された多孔質の紙葉体を浸漬して吸収させた後、余分な発色液をゴムローラで絞り、溶媒を50°C程度の温度で蒸発させる。
【0009】
このようにして構成されたガス検知材を用いて濃度0.1、0.2、0.4、1.0ppmのフッ化水素を、60秒のサンプリング時間で測定したところ、図1に示したように従来のメチルレッドに緩衝剤を混合したフッ化水素検知材と同様の感度で検出することができた(図中、符号Aは本発明の検知材を、また符号Bは従来の検知材をそれぞれ示す)。
【0010】
次に濃度5%の炭酸ガスを被検ガスとしてサンプリング時間ごとの出力の変化、つまり二酸化炭素によるバックグランド値の変化を検出したところ、図2に示したように本発明の検知材は、バックグランド値の変化が零であるのに対して(図中、符号A)、緩衝剤を添加した従来の検知材(図中、符号B)では時間とともにバックグランド値が上昇した。
【0011】
すなわち、本発明のガス検知材によれば、含有されているドデシル硫酸ナトリウムによりメチルイエローの変色領域(pH2.9乃至4.0)が中性側にシフトし、これによりフッ化水素に対する呈色反応領域を残しつつ、二酸化炭素による呈色反応を可及的、つまり大気中の濃度では変色しないようにすることができた。
すなわち、大気中の存在する二酸化炭素による呈色反応を略零にしてフッ化水素を高い感度で検出することができる。
また、フッ化水素との反応により色彩が高濃度側に変化するため、反射光を検出して反応量を検出する自動測定装置には好適となる。
【0012】
なお、上述の実施例は、大気中のフッ化水素を検出する検知材に好適な例として説明したが、水素イオン濃度指示薬、例えばメタニルイエロー、メチルオレンジ、ベンジルオレンジを呈色反応指示薬に使用した検知材に、ドデシルトリメチルアンモニウム、ブロマイド、ポリエチレングリコールアルキル、フェニルエーテルなどの界面活性剤を添加することにより、それぞれの呈色反応指示薬の変色領をシフトさせて妨害ガスによるバックグランドの上昇を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のガス検知材と従来のガス検知材によりフッ化水素を検出した場合のサンプリング時間と出力(光学濃度)の変化を示す線図である。
【図2】本発明のガス検知材と従来のガス検知材により二酸化炭素を検出した場合のサンプリング時間と出力(光学濃度)の変化を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被検出ガスの水素イオン濃度に対して呈色反応する水素イオン濃度指示薬と、界面活性剤とを反応試薬としてベース材に含浸、または塗布してなるガス検知材。
【請求項2】
水素イオン濃度指示薬が、メチルイエロであり、また前記界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである請求項1に記載されたガス検知材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−349562(P2006−349562A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177727(P2005−177727)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】