説明

ガス浄化装置

【課題】 高効率にて化学物質の分解除去を行うことができ、低コストかつ、メンテナンスが容易なガス浄化方法およびガス浄化装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 大気下において、粒子状物質と化学物質を含有するガス8から粒子状物質を取り除いた後に、ガス中に含まれる化学物質をハニカム構造の吸着剤3により捕集すると共に、ガス中に含まれる水分を捕集しながら、化学物質を吸着した吸着剤3をゼロ電位に保ちながら、この吸着剤と電極との間で放電を生じさせて、大気中若しくは吸着剤3表面に存在する水分が反応することにより生成された活性種により、吸着剤3に吸着された化学物質を分解除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス浄化装置に関し、ことに、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOCs:Volatile Organic Compounds)やアンモニア等の化学物質を含んだ大気の清浄化に好適なガス浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の悪化により、住居や職場等における大気の汚染が問題となってきている。この大気汚染の1つに、アンモニア、硫化水素、アセトアルデヒトなどの化学物質を原因物質とする様々なニオイやアレルギーの発生が挙げられ、健康的かつ快適な住環境・職場環境を実現するために、これら化学物質の除去が急務となっている。大気中に含まれる物質のうち、煤塵等の粒子状物質は、通常μmオーダ〜mmオーダの大きさを有するため、市販の各種フィルターにて除去することが可能である。しかしながら、におい等の元となる化学物質はナノオーダの大きさであるため、フィルターにて除去するためには微細な空孔を有した活性炭等の特殊なフィルターを必要とし、コストがかかることのほか、用いられたフィルターが目詰まりし易く、メンテナンスに手間がかかるという問題を有しており、化学物質の除去に対しては、市販のフィルターを用いた除去方法に変わる新たな方法の開発が必要であった。
【0003】
従来の空気清浄装置は、例えば、イオン発生装置11、空気吹出口12、プレフィルタ13、活性炭フィルタ14、HEPAフィルタ15、送風ファン16および空気吸込口17にて構成される。また、イオン発生装置11は、筒状のガラス管21と、この筒状のガラス管21を挟み対向配置されたステンレス製のメッシュからなる内電極22と外電極23にて構成され、空気吹出口17の上流側に設けられている。大気下にて、このイオン発生装置11の内電極22および外電極23間に15KHz、1.1〜1.4kV(実効値)の交流電圧が印加されると、H、O等の正イオンおよび負イオンが発生するが、これら正イオンおよび負イオンが同時に発生すると、大気中に含まれる酸素や水と、正イオンおよび負イオンが反応し、除菌効果の有る過酸化水素や水酸化ラジカル等の活性種が生じる。大気中に含まれる酸素や水と、正イオンおよび負イオンが反応することにより生じたこれら活性種は、強力な活性作用を示し、空間に放出されると空気中の化学物質を分解除去するため、メンテナンスが容易な空気清浄機が実現される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−58731号公報(第3頁、第1図、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の空気清浄機においては、イオン発生装置11には交流電圧が供給されるため、イオン発生装置11の内電極22には、正負の電荷が交互に印加される。なお、外電極23は接地されている。これにより、イオン発生装置11の内電極22に正の電圧が印加されると、負のイオンは内電極22側に引き寄せられ、内電極22に衝突することにより消失する。また、この時、正のイオンは外電極23側に移動し、外電極23に衝突して消失する。逆に、イオン発生装置11の内電極22に負の電圧が印加されると、正のイオンは内電極22側に引き寄せられ、内電極22に衝突することにより消失し、負のイオンは外電極23側に引き寄せられ、外電極23と衝突することにより消失する。
【0006】
このように、従来の空気清浄機においては、交流電荷の印加により正負のイオンを発生していたため、イオン発生装置から生じた正イオンおよび負イオンは、発生後の短時間にて、各々、負電位、正電位又はゼロ電位(接地電位)を有する近接した電極に電気的に吸引されることにより電荷を失い消失するため、上述の除菌効果の有る活性種の生成効率は極めて低いものであった。また、活性種による化学物質の分解についても、活性種が大気中を浮遊することにより化学物質と反応する機構を利用するものであるため、生成した活性種と化学物質が反応する確率が低く、化学物質の分解には時間がかかるとともに、活性種は大気中を浮遊する間に自然分解することもあるため、分解効率が低く、低コストにて化学物質を分解することが困難であるという問題を有していた。
【0007】
本発明はかかる課題を解決することを目的とし、粒子状物質と化学物質を含有するガスから粒子状物質を取り除いた後に、ガス中に含まれる化学物質を吸着剤により捕集すると共に、ガス中に含まれる水分を捕集しながら、この吸着剤と電極との間で放電を生じさせて、吸着剤表面で放電により生成される活性種により、吸着剤に吸着された化学物質を分解除去するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかるガス浄化装置は、粒子状物質と化学物質を含んだガスから粒子状物質を分離する粒子状物質分離手段と、ガスに含まれた化学物質を吸着するハニカム構造の吸着剤と、吸着剤に密接して設けられた給電極と、吸着剤に対向して設けられた放電電極と、給電極の電位を調節する電位調節手段と、放電電極に高電圧を供給する高圧電源とを備え、吸着剤と放電電極とによって形成される空間にて生じた放電によって大気中若しくは吸着剤表面に存在する水分が反応することにより生成される活性種により、吸着剤にて捕集された化学物質を分解除去するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるガス浄化装置によれば、粒子状物質と化学物質を含んだガスから粒子状物質を分離する粒子状物質分離手段と、ガスに含まれた化学物質を吸着するハニカム構造の吸着剤と、吸着剤に密接して設けられた給電極と、吸着剤に対向して設けられた放電電極と、給電極の電位を調節する電位調節手段と、放電電極に高電圧を供給する高圧電源とを備え、吸着剤と放電電極とによって形成される空間にて生じた放電によって大気中若しくは吸着剤表面に存在する水分が反応することにより生成される活性種により、吸着剤にて捕集された化学物質を分解除去するように構成されているため、化学物質を吸着剤に効率的に吸着することができるとともに、放電もしくは放電と水分により生成されるラジカルにより吸着剤に吸着された化学物質を無害化するため、高効率にて化学物質の分解除去を行うことができ、低コストかつ、メンテナンスが容易なガス浄化装置が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明するために、添付の図面に基づいてこれを説明する。
実施の形態1
図1は、本発明にかかるガス浄化装置の一例を示す構成説明図である。かかるガス浄化装置においては、まず初め、粒子状物質と化学物質を含んだ被処理ガス8が送風機2に導かれ、フィルター7を通り放電空間へと導入される。この時、被処理ガス8中に含まれる粒子状物質はフィルター7にて除去される。かかるフィルター7としては、被処理ガス8の含有する粒子状物質の種類、大きさ若しくは濃度に合わせたフィルターを用いることができ、例えば、市販の樹脂フィルター、ペーパーフィルター、HEPAフィルターやULPAフィルター、あるいは、これらを組合せたものなどを用いることができる。
【0011】
粒子状物質が除去された被処理ガス8は、給電極4にて外周が覆われた吸着剤3と金属電極(放電電極または線電極)1との間の放電空間を通り、吸着剤3を通過する際に被処理ガス8に含まれる化学物質が吸着剤3により吸着される。この吸着剤3は、黒鉛や活性炭のような導電性かつ吸着性を備えた材料、もしくは、シリカゲルやゼオライトのような、非導電性であるが水の吸着性が高い吸着剤、すなわち、被処理物質と共に水分吸着させて導電性を持たせるようにした非導電性吸着剤からなり、被処理ガスの通路となる細孔が設けられたものである。吸着剤3にて化学物質が除去された被処理ガス8は、排出口(図示せず)より外部へと放出される。
【0012】
この時、電位調節装置5によって給電極4の電位がゼロ電位(接地)にセットされ、高圧電源6によって金属電極1に高電圧が印加される。これにより、金属電極1と吸着剤3間にてコロナ放電が生じ、金属電極1近傍にてプラズマが発生する。通常、被処理ガス8は空気である場合が多く、空気中の酸素や水が存在するため、かかるプラズマ部分では、電子や、H、O等の正負のイオンが共存した状態となっている。なお、かかる金属電極1は金属枠に直径0.1〜0.2mmの細線を備え付けたもので、金属枠への細線の取り付けは金属バネ(図示せず)を介して行っており、細線には一定の張力がかかって、たわまないような工夫がされている。また、かかる金属電極1は金属である必要はなく、導電性を有する物体で代用することができる。
【0013】
金属電極1に負極性の高電圧が印加されている場合には、正のイオンは金属電極1に電気的に吸引され、金属電極1に衝突することにより消滅する。一方、負のイオンや電子は金属電極1から吸着剤3に向かって移動し、吸着剤3へと導くことができる。また、この移動方向は、送風機2によって引き起こされるガスの移動方向と同等であるため、金属電極1近傍にて生じた負イオンや電子は相対的に正の電位を有する吸着剤3に効率よく導くことができる。負イオンや電子は反応性が非常に強いため、吸着剤3へと導かれると、吸着剤3の表面に吸着された化学物質と反応し、化学物質を分解する。また、大気中若しくは吸着剤の表面に水分が存在すると、負イオンはこの水分と反応し、ヒドロキシルラジカル等の活性度の高い、新たなラジカル(活性種)を生成するが、これらラジカルも強力な酸化作用を有し、化学物質を分解する。逆に、金属電極1に正極性の高電圧が印加されている場合には、負極性の高電圧を印加する場合に比べて、プラズマ領域が拡大する(プラズマ空間が吸着剤3側に向かって大きく拡がる)ため、吸着剤3近傍に達したイオンや電子によって、吸着剤3の表面近傍でラジカルが生成され、吸着剤3の表面に吸着された化学物質と反応し、化学物質が分解される。
【0014】
また、負極性電圧を印加する場合と同様に、大気中若しくは吸着剤の表面に水分が存在すると、負イオンはこの水分と反応し、ヒドロキシルラジカル等の活性度の高い新たなラジカル(活性種)を生成し、より効率的に吸着された化学物質を分解することができる。以上のように、吸着剤3に吸着された化学物質が、吸着剤3と金属電極1との間で起こる放電によって生成されたラジカルにより無害化され、外部に放出されることになる。
【0015】
なお、大気中に煤塵等の粒子状物質が存在すると、これら粒子状物質が帯電することにより放電電力が消費され、ラジカル生成に使用されるエネルギーが低減されたり、粒子状物質が吸着剤3に付着し、吸着剤3の化学物質吸着性能が低下するといった問題を引き起こす。しかしながら、本装置においては、フィルター7により粒子状物質は予め除去されているので、ラジカル生成に使用されるエネルギーが粒子によって低減されたり、吸着剤の化学物質吸着性能が粒子の存在により低下することはない。
上述したように、本発明にかかるガス浄化装置においては、大気下において、大気や排気ガス等の被処理ガス中に存在する粒子状物質を捕集により予め除去し、化学物質は吸着剤により吸着することにより、吸着剤は粒子状物質の吸着に用いられることなく化学物質の吸着にのみ利用されるため、化学物質が吸着剤により効率的に吸着される。
【0016】
また、吸着剤にて吸着されることにより、化学物質は被処理ガス中の濃度に比べ濃度が高められ、実質的に濃縮されることになる。さらに、吸着剤にて化学物質を吸着しながら、吸着剤と金属電極との間で放電を起こすことにより、吸着剤の近傍でラジカルが効率よく生成され、吸着剤に吸着した化学物質と効率良く反応することになる。なお、この時、吸着剤表面に水分が存在すると、ヒドロキシルラジカルなどの活性度の高い新たなラジカルが生成され、これらラジカルによっても、吸着剤に吸着された化学物質が分解される。即ち、本発明にかかるガス浄化装置によれば、放電によって生成される活性種(ラジカル)を効率的に吸着剤に導き吸着剤に吸着された化学物質を無害化するため、高効率にて化学物質の分解除去を行うことができ、低コストかつ、メンテナンスが容易なガス浄化装置が実現される。
【0017】
本実施の形態では、吸着剤3への化学物質の吸着操作と、吸着剤3と金属電極1との間での放電操作を同時かつ連続的に実施する場合について示したが、化学物質の吸着は連続で行い、放電操作を間欠的に行うようにしても良い。このようにすることにより、吸着による化学物質の濃縮が進み、より高濃度に濃縮された状態で放電によって化学物質を分解できるため、化学物質を分解するのに要するエネルギーを低減、すなわち、高効率で化学物質を分解することができる効果が得られる。しかしながら、放電開始時に吸着剤3の温度が上昇するために、吸着した化学物質が一部脱離する可能性があり、このような化学物質の漏れが問題になる場合には適用できない場合も生じる。
【0018】
なお、上記の構成では、送風機2を金属電極1の風上側に配置したが、送風機2は吸着剤3の風下側に配置してもよい。かかる配置にすることで、被処理ガス8中に腐食性のガスが含まれている場合に送風機2の耐久性を向上できるという利点が生じる。図2は、図1の構成を基本とし、送風機2を吸着剤3の風下側に配置した場合の一例である。また、以上の処理は大気中にて行うことができるため、本装置は必ずしも高い気密性を必要としないが、吸着剤3に導入されるガスが粒子状物質を含んでいると、吸着剤3の吸着能力が粒子状物質の吸着に使われ、化学物質に対する吸着能力が実質的に低下することの他、吸着剤3にて粒子状物質を完全に除去できない場合、一部の粒子状物質が吸着剤3と金属電極1間の空間に放出され、ラジカルなどを生成するためのエネルギーが、これら粒子状物質を帯電させるのに使用されて、消費されることになる。そのため、本装置はフィルター7と金属電極1間の空間への粒子状物質の流入が防止できる程度の気密性を有していることが好ましい。
【0019】
なお、吸着剤3は、化学物質濃縮時のガス流の圧力損失、および、イオンで表面を処理する場合のイオンの移動性を考えると、ハニカム構造を有していることが好ましい。また、吸着剤3の電位を調節するために、吸着剤3は給電極4と電気的に接続した構成としておく必要がある。図3は、給電極4と一体化した吸着剤3の構成の一例を示すもので、吸着剤3が給電極(金属の枠体)4にて外周部が狭持された構成を示している。かかる金属の枠体は導電体であれば何でも良く、特に制限されることはない。
【0020】
また、吸着剤3と給電極4の構成としては、吸着剤の周囲を金属枠体にて囲う構成に代えて、金属製のハニカムの表面に吸着剤を形成したものを用いることができる。図4は、かかる吸着剤3と給電極4が一体にて形成された場合の一例を示す断面図であり、ステンレスや、プラチナ等の耐食性材料の表面に、活性炭や黒鉛のような導電性を有する吸着性材料、もしくは、シリカゲルやゼオライトなどのような非導電性であるが、水の吸湿性が高い吸着剤、すなわち、被処理物質と共に水分を吸着させて、導電性を持たせるようにした非導電性吸着材料を示している。
【0021】
かかる一体物は、例えば、金属製のハニカムを、活性炭を溶かしたスラリー状の溶液に浸漬し、乾燥後適温にて焼成することにより得られる。かかる一体物の場合、外部からの電荷は、金属性のハニカムに直接供給されることになる。
この他、吸着剤3と給電極4の構成としては、吸着剤3の風下側のガス通過部に、吸着剤3と密接するようにガス通気性を有する導電体を配置した構成とすることもできる。
【0022】
かかる通気性を有する導電体としては、例えば、導電性を有する金属メッシュやパンチングメタルのような金属製品や、繊維状ステンレスのような金属繊維、カーボンペーパーのような導電性繊維を用いることができる。なお、このような構成をとる場合には、吸着剤3と給電極4の間で放電を起こさせないように、吸着剤3と給電極4を密接させることが重要であり、このようにすることにより、吸着剤3の風下側で放電が生じることが防止できる。
【0023】
また、上記実施の形態においては、黒鉛や活性炭のような導電性の吸着剤や、シリカゲルやゼオライトなどのような非導電性の吸着剤に、被処理物質と共に水分を吸着させて、導電性を持たせるようにした非導電性吸着剤を使用する場合について説明したが、吸着剤表面に二酸化マンガン(MnO)や、二酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、白金(Pt)、銅(Cu)などの触媒作用を有する物質を担持するようにすると、化学物質の分解除去効果をより高くすることができる。
また、上記実施の形態では、電位調節装置5によって給電極4の電位がゼロ電位(接地)にセットされ、高圧電源6によって金属電極1に高電圧が印加される場合について説明したが、高圧電源6によって金属電極1に高電圧を印加し、電位調節装置5によって給電極4に正電圧または負電圧を印加するようにしてもよい。給電極4に正電圧が印加された場合、吸着剤3が正極性に帯電されることになり、ガス中の負極性に帯電した化学物質、例えば、窒素酸化物などを選択的、かつ効率的に吸着することができる。また、給電極4に負電圧が印加された場合、吸着剤3が負極性に帯電されることになり、ガス中の正極性に帯電した化学物質、例えば、揮発性有機化合物やアンモニアなどを選択的、かつ効率的に、吸着することができる。以上のことから、電位調節装置5によって給電極4に電圧を印加することにより、ある種の物質を選択的に、また効率よく除去できる効果が得られる。しかしながら、吸着剤3を帯電させるために電力を消費することになり、消費電力量が増大するといった問題が発生する。また、電圧を印加した吸着剤3の風下側に対向電極となる物体を置かないようにするなどの工夫が必要となる。また、電気的な安全性を確保するために、電圧が印加された吸着剤3に人間や物体が触れないようにする電圧保護対策も必要となる。
更にまた、高圧電源6によって給電極4に高電圧を印加し、電位調節装置5によって金属電極1の電位をゼロ電位にセットしてもよい。図5は、図1の構成を基本とし、高圧電源6によって給電極4に高電圧を印加し、電位調節装置5によって金属電極1の電位をゼロ電位にセットする場合の一例である。このようにしても、吸着剤表面近傍で放電を起こすことができ、吸着した化学物質を分解することができる。しかしながら、吸着剤3の風下側で放電が生じると、放電生成物のオゾンや窒素酸化物が清浄ガス中に含まれるようになり、清浄ガスが汚染されるといった問題が発生する。したがって、高電圧を印加した吸着剤3の風下側に対向電極となる物体を置かないようにするなどの工夫が必要となる。また、電気的な安全性を確保するために、高電圧が印加された吸着剤3や給電極4に人間や物体が触れないようにする高電圧保護対策も必要となる。
【0024】
次に、放電により化学物質を分解する場合の、化学物質の濃度と分解効率との関係について説明する。図6は、難分解性の有機化学物質の代表である酢酸に、放電によって生成した負イオンを照射した時の酢酸分解量(μmol)の時間変化を示す図で、酢酸を溶解させた濃縮、非濃縮の2種の濃度を有した水溶液に対し、負イオンを吹き付け、分解される酢酸の時間変化を、水溶液中に含まれる有機炭素の量を測定するTOC計(Total Organic Carbon:島津製作所製TOC5000)にて測定したものである。図中、縦軸は酢酸分解量(μmol)を、横軸は分解時間(hr)を表わしている。
【0025】
図中、実線で示した101は酢酸濃度を5mg/L(リットル)とした場合(濃縮)、点線で示した102は酢酸濃度を1mg/Lとした場合(非濃縮)を示している。また、その他実験条件としては、酢酸溶液量を300mL、負イオン濃度を10ions/cm、イオンを含んだガスの流量を200L/min、イオン発生器と液面との距離を2cmとしている。
【0026】
図中101で示した酢酸濃度が高い場合、時間経過とともに、酢酸分解量が増加し、負イオン照射により酢酸が効率的に分解されていることを示している。一方、図中102で示した酢酸濃度が低い場合、一定時間が経過しても、酢酸分解量はほとんど増加することがなく、負イオン照射による酢酸の分解が進展していないことを示している。このように、放電によって生成したラジカルを利用した化学物質の分解では、化学物質の濃度が高い方が効率的に分解できることが分かる。すなわち、化学物質を濃縮した上で照射した方が、放電で生成したラジカルを効率的に使用できることが分かる。
【0027】
次に、吸着剤3と金属電極1間で放電を生じさせて化学物質を分解する場合における、化学物質を吸着する吸着剤の性能について説明する。図7は、シックハウス症候群を引き起こす物質の一つであるホルムアルデヒドを含有した空気を処理対象として、ホルムアルデヒド濃度の変化状況を調査することにより、種々の吸着剤の吸着特性を比較検討したものである。図中、縦軸はホルムアルデヒド濃度(ppm)を、横軸は経過時間(min)を表わしている。図中、103から107は、各々、疎水性ゼオライト(SiO/Al=10)、活性炭、親水性ゼオライト(SiO/Al=2)、MnO触媒担持疎水性ゼオライト(SiO/Al=10)、およびMnO触媒担持親水性ゼオライト(SiO/Al=2)を吸着剤として用いた場合のホルムアルデヒド濃度の変化を示している。試験には、72リットルの容量を有する閉鎖容器を用い、ホルムアルデヒド濃度を1ppmに調節したホルムアルデヒド含有空気を上述のガス浄化装置にて処理した後、ホルムアルデヒド濃度の時間変化を、ホルムアルデヒド測定器(新コスモス電機製XP−308−2)にて測定した。
【0028】
図中103で示したように、吸着剤として疎水性ゼオライトを用いた場合、処理時間が経過しても、ホルムアルデヒドの濃度はほとんど低下せず、疎水性ゼオライトは吸着剤として適していないことを示している。また、図中の104〜106で示したように、吸着剤として、各々、活性炭、親水性ゼオライト、MnO触媒担持疎水性ゼオライトを用いた場合、ホルムアルデヒドの濃度は、ほぼ同じ傾向をもって変化することが判明した。すなわち、ホルムアルデヒドの濃度は時間経過とともに0.1ppm程度まで低下し、これら吸着剤は、ホルムアルデヒドの吸着剤として適用可能であることを示している。一方、図中107で示したように、吸着剤としてMnO触媒担持親水性ゼオライトを用いた場合、一定時間経過後のホルムアルデヒドの到達濃度が0.06ppmになり、実験に供した吸着剤のなかでは吸着性能が最も高いことを示している。このように、吸着剤により化学物質を吸着する場合、疎水性吸着剤を使用するよりも親水性の吸着剤を使用する方が効果的であり、SiO/Alの比率が5以下のゼオライトを使用することが望ましいことが分かった。また、MnO担時の有無では、MnOを担時したゼオライトを用いた場合に化学物質を効率的に吸着できることが分かる。すなわち、MnO触媒担持親水性ゼオライトを使用した場合に、化学物質を効果的に濃縮できることが分かった。
【0029】
次に、吸着剤3と金属電極1間で放電を生じさせて化学物質を分解する場合における、吸着剤の材質が化学物質分解に与える影響について説明する。図8は、シックハウス症候群を引き起こす物質の一つであるホルムアルデヒドを含有した空気を処理対象とし、吸着剤として活性炭、疎水性ゼオライト(SiO/Al=10)、親水性ゼオライト(SiO/Al=2)、MnO触媒担持疎水性ゼオライト(SiO/Al=10)、およびMnO触媒担持親水性ゼオライト(SiO/Al=2)を用いて化学物質を分解した場合の、ホルムアルデヒド濃度の変化状況を調査することにより、種々の吸着剤の吸着特性を比較検討したものである。図中、縦軸はホルムアルデヒド濃度(ppm)を、横軸は経過時間(min)を表わしている。試験には、72リットルの容量を有する閉鎖容器を用い、ホルムアルデヒド濃度を1ppmに調節したホルムアルデヒド含有空気を上述のガス浄化装置の金属電極1に負極性高電圧を印加することにより処理し、ホルムアルデヒド濃度の時間変化を、ホルムアルデヒド測定器(新コスモス電機製XP−308−2)にて測定した。
【0030】
得られた結果は、上述した吸着特性の場合と全く同じ傾向となり、図中103で示したように、吸着剤として疎水性ゼオライトを用いた場合のホルムアルデヒドの濃度低下が小さく、疎水性ゼオライトは吸着剤として適していないことが判明した。また、図中の104〜106で示したように、吸着剤として、各々、活性炭、親水性ゼオライト、MnO触媒担持疎水性ゼオライトを用いた場合のホルムアルデヒドの濃度はほぼ同じような変化(低下)を示した。このように、これら吸着剤は、本装置に使用する吸着剤としては適していないことを示している。一方、図中107で示したように、吸着剤としてMnO触媒担持親水性ゼオライトを用いた場合、一定時間(約30〜40分)経過後の到達濃度が0.03ppmになり、分解性能が最も良好であることを示している。このように、吸着剤と金属電極との間で起こる放電を用いて化学物質を分解するには、親水性と疎水性の比較では、親水性の吸着剤を使用する方が効果的であり、また、MnO担時の有無では、MnOを担時する吸着剤の方が化学物質を効率的に吸着できることが分かる。すなわち、吸着剤として、MnO触媒担持親水性ゼオライトを使用した場合に、化学物質を最も効果的に分解できることが分かった。
【0031】
次に、吸着剤3と金属電極1間で放電を生じさせて化学物質を分解する場合において、金属電極1に印加する高電圧の極性が化学物質の分解に与える影響について説明する。図9は、シックハウス症候群を引き起こす物質の一つであるホルムアルデヒドを含有した空気を処理対象として、MnO触媒担持親水性ゼオライトを吸着剤とし、正極性と負極性の高電圧を印加した場合のホルムアルデヒド濃度の変化状況を調査することにより、印加電圧の極性の違いと吸着特性との関係を比較検討したものである。図中、縦軸はホルムアルデヒド濃度(ppm)を、横軸は処理時間(min)を表わしている。試験には、72リットルの容量を有する閉鎖容器を用い、ホルムアルデヒド濃度を1ppmに調節したホルムアルデヒド含有空気を、上述のガス浄化装置の吸着剤3に流れる電流が0.5mAとなるように、金属電極1に高電圧を印加することにより処理し、ホルムアルデヒド濃度の時間変化を、ホルムアルデヒド測定器(新コスモス電機製XP−308−2)にて測定した。
【0032】
図中109で示した負極性高電圧を印加した場合のホルムアルデヒド濃度と、図中110で示した正極性高電圧を印加した場合のホルムアルデヒド濃度は、放電を行わなかった場合である108のホルムアルデヒド濃度に比して、時間の経過とともに大きく低下しており、放電により、ホルムアルデヒドの分解が進展することを示している。また、109と110のデータを比較すると、ホルムアルデヒドの濃度は正極性を印加した方が低く、正電圧を印加することによりホルムアルデヒドの分解性能が高くなることを示している。このように、吸着剤と線電極との間で起こる放電を用いて化学物質を分解するには、金属電極1に印加する電圧の極性はどちらでも良いが、正極性の電圧を印加する方が、化学物質をより効率的に分解できることが分かった。
【0033】
次に、吸着剤3と金属電極1間で放電を生じさせて化学物質を分解する場合における、投入電力量が化学物質分解に与える影響について説明する。図10は、シックハウス症候群を引き起こす物質の一つであるホルムアルデヒドを含有した空気を処理対象として、MnO触媒担持親水性ゼオライト他の吸着剤を用いて、正極性と負極性の高電圧を金属電極1に印加して、投入電力を変化させることによって印加電圧の極性の違いとホルムアルデヒド除去率との関係を比較検討したものである。図中、縦軸は1分処理時のホルムアルデヒド除去率(%)を、横軸は放電電力(W)を表わしている。試験には、72リットルの容量を有する閉鎖容器を用い、ホルムアルデヒド濃度を1ppmに調節したホルムアルデヒド含有空気を、上述のガス浄化装置の金属電極1に高電圧を印加することにより1分間処理し、ホルムアルデヒドの除去率を、ホルムアルデヒド測定器(新コスモス電機製XP−308−2)にて測定した。
【0034】
図中、縦軸にて示したホルムアルデヒド除去率は、次式(1)にて定義されるものである。
ホルムアルデヒド除去率(%)={(処理前濃度)−(処理後濃度)}/ (処理前濃度)*100 ・・・(1)
また、横軸にて示した投入電力(放電電力)量は、単位面積あたりの吸着剤に投入した電力量を示したものである。
図中112で示した負極性高電圧を印加した場合のホルムアルデヒド除去率と、図中111で示した正極性高電圧を印加した場合のホルムアルデヒド除去率を比較すると、極性に関係なく、放電電力が増大するにつれてホルムアルデヒド除去率が増大することがわかった。また、前述したように、放電電力(W)が同じであっても、正極性を印加する方がホルムアルデヒド除去率は低くなり、正電圧を印加することによりホルムアルデヒドの分解特性が向上することを示している。このように、吸着剤と金属電極との間で生じる放電を用いて化学物質を分解するには、金属電極1に印加する電圧の極性はどちらでも良いが、正極性の電圧を印加する方が、化学物質を若干効率的に分解できることが分かった。なお、ホルムアルデヒドの場合、空間中の濃度が0.25〜0.5ppmになると、20%以上の人が異常を訴えるとされており、環境基準値である0.08ppm以下にするには、70〜85%以上の除去率が必要とされている。
【0035】
しかし、本願発明者らの研究結果から、投入電力量を増大させると、窒素酸化物の生成が増大することが判明している。図11は、分解処理後のホルムアルデヒド残存率および容器内窒素酸化物濃度と放電電力量との関係を示す図である。図11において、左側縦軸は分解処理後のホルムアルデヒド残存率(%)を、右側縦軸は容器内窒素酸化物濃度(ppb)を、また横軸は放電電力量(Wh)を表わしている。また、図中113は分解処理後のホルムアルデヒド残存率と放電電力量の関係を、114は容器内窒素酸化物濃度と放電電力量の関係を示している。試験には、1000リットルの容量を有する半密閉容器(換気率0.5回/時間)を用い、ホルムアルデヒド濃度を1ppmに調節したホルムアルデヒド含有空気を、上述のガス浄化装置の金属電極1に高電圧を印加することにより60分間処理し、ホルムアルデヒドの残存率を、ホルムアルデヒド測定器(新コスモス電機製XP−308−2)にて測定した。また、容器内窒素酸化物濃度は、NOxアナライザ(DKK社製GLN−32型)を用いて測定した。
図中、左側縦軸にて示した分解処理後の残存率は、次式(2)にて定義されるものである。
ホルムアルデヒド残存率(%)=(処理後の容器内残存量)/(初期注入量)×100 ---(2)また、図中、右側縦軸にて示した容器内窒素酸化物濃度は、長時間運転した場合における容器内での最終到達濃度を示したものである。図11より、あまりに大きな放電電力量、例えば、前述した要求ホルムアルデヒド除去率である85%(残存率15%)を達成できる放電電力量よりも大きな電力量を投入することは、窒素酸化物の生成ということからみて問題であると考えられる。窒素酸化物の基準値は80ppbであり、窒素酸化物濃度は80ppb以下にする必要があると考えられる。したがって、ホルムアルデヒド分解率を確保しながら、窒素酸化物の濃度規定を守るためには、放電電力量は10Wh以下にすることが必要であると考えられる。なお、同じ放電電力量であっても、正極性の高電圧を印加する方が窒素酸化物の生成量が少ないことがわかり、窒素酸化物の生成量が問題となる場合は、正極性の電圧を印加する方が望ましい。
【0036】
なお、上記実施の形態では、金属電極1が固定されている場合について示したが、金属電極1と吸着剤3との距離を可変にするようなスライド機構をもたせた移動型線電極を用いるようにしても良い。図12は、図1の構成を基本とし、金属電極1に代えて移動型線電極11を設けた場合の一例を示したものである。かかる構成とすることにより、より効率的に化学物質を分解することができる。
【0037】
また、上記実施の形態では、金属電極1が細線によって構成されている場合(線電極)について示したが、金属電極1は、針状の突起物を有した針状電極や、ブラシのように金属線を植毛したブラシ状電極を用いるようにしても良い。図13(a)は、図1の構成を基本とし、金属電極1に代えて針状の突起物を有した針状電極12を備えた場合の一例を示す斜視図、図13(b)は、針状電極12の部分を拡大した側面図である。また、図14(a)は、図1の構成を基本とし、金属電極1に代えてブラシ状電極13を備えた場合の一例を示す斜視図、図14(b)は、ブラシ状電極13の部分を拡大した側面図である。このような形状の電極を用いる場合には、針状電極12やブラシ状電極13の先端部分を吸着剤3近傍に配置したり、ハニカム内の空間に挿入したりすることが可能となる。図15は、図1の構成を基本とし、針状電極12の先端部分を吸着剤3近傍に配置した場合の一例を説明する斜視図である。このような構成を採用した場合、吸着剤3の内部または表面で放電を起こすことができ、吸着剤3に吸着した化学物質をより効率的に分解することが可能となる。ただし、針状電極12を近づけ過ぎると、火花放電が起こり、大量の電流が流れるため、高圧電源6に出力電流制御装置を組み込んだり、高圧電源6の出力電圧波形をパルス状にすることにより、大電流が流れないようにするような工夫が必要である。また、ハニカム空間内で放電させる場合は、放電生成物が外部に放出されないように、挿入する位置を決める必要がある。
【0038】
なお、上記の構成に加え、温度調節器14を設け、吸着剤3の温度を調節する構成としてもよい。図16は、図1にて示した構成に、温度調節器14を設けた場合の構成例を示す斜視図である。このように、処理される化学物質を吸着する際に、温度調節器14により吸着剤3の温度を低くすることで、吸着剤3表面での化学物質の濃縮密度を高めることが可能となり、さらに効率よく化学物質を分解できる。また、分解する場合には、温度を高めるようにすることにより、吸着剤表面でラジカルが生成する効率を高めることが可能となり、さらに効率よく化学物質を分解することが可能となる。
【0039】
更に、上記実施の形態では、フィルター7と送風機2の後に、金属電極1と吸着剤3と給電極4にて構成される化学物質処理部分が1箇所設けられた場合について示したが、送風機2の後には、複数の化学物質処理部を設けた構成とすることもできる。即ち、送風機2の後に複数の金属電極、吸着剤、給電極を設け、第1の化学物質処理部における化学物質の吸着が完了すると第2の化学物質処理部へと切り替え、最初に化学物質の吸着が完了した化学物質処理部にて放電により化学物質の分解を行う間に、新たな化学物質処理部にて化学物質の吸着を行う構成とすることで、化学物質が十分吸着して高濃度に濃縮された化学物質を放電で処理することができるようになり、送風機2を停止することなく、連続的に高効率のガス浄化が可能となる。なお、この切り替えは、複数の化学物質処理部を並列配置し、並列配置した化学物質処理部を順次移動させることにより行うことができ、また、送風機2と複数の化学物質処理部を配管にて接続し、バルブ等によりガスの流れを切り替え、化学物質処理部を選択する構成とすることもできる。
【0040】
更に、上記実施の形態では、吸着剤3は化学物質処理部に固定した構成としたが、吸着剤3は化学物質処理部内にて、左右の面が反転するような回転機構を設けても良い。例えば、チャンバーの上下に貫通する回転軸を設け、この回転軸を中心にして、吸着剤3が回転する機構を設けてもよい。かかる機構を設け、吸着剤の左右の面を反転可能とすることにより、放電による化学物質の分解がより効率的に行われることになる。すなわち、吸着剤3は、通常、図、左側の面にて化学物質を多く吸着するが、放電前に前述の回転機構により、左右の面を反転させることにより、放電面により多くの化学物質が存在することになり、効率的な化学物質の分解除去が実現でき、好適である。
【0041】
以上、本発明にかかるガス浄化装置によれば、被処理ガス中に含まれる粒子状物質を除去した後に化学物質をハニカム構造の吸着剤により吸着すると共に、吸着剤に密接して設けられた給電極と、吸着剤に対向して設けられた放電電極との間で放電を生じるようにし、吸着剤と放電電極とによって形成される空間にて生じた放電によって大気中若しくは吸着剤表面に存在する水分が反応することにより生成される活性種により、吸着剤にて捕集された前記化学物質を分解除去するようにしたため、化学物質濃縮時のガス流の圧力損失およびイオンで表面を処理する場合のイオンの移動性が好ましくなり、また、吸着剤と給電極の間で放電が起きないので吸着剤の風下側で放電が生じることが防止でき、化学物質が吸着剤に効率的に吸着されるとともに、放電によって生成されるラジカルもしくは水分との反応によって生成されるラジカルにより化学物質が効率的に分解される。また、化学物質が吸着剤に吸着されることにより実質的に濃縮され、放電によって生成されるラジカルもしくは水分との反応により生成されるラジカルによる化学物質の分解効率が向上する。その結果、高効率にて化学物質の分解除去を行うことができ、低コストかつ、メンテナンスが容易なガス浄化装置が提供される。
【0042】
実施の形態2
図17は、本発明にかかるガス浄化装置の他の例を示す構成説明図である。本実施の形態にかかるガス浄化装置は、実施の形態1に示した装置とは放電部の構成が異なる。すなわち、実施の形態1においては、放電によりラジカルが生成されたが、本実施の形態においては、紫外線を金属枠に照射することによりラジカルを生成している。
【0043】
ラジカルの生成機構は以下の通りである。即ち、紫外線ランプ21が点灯され紫外線が放出されると、放出された紫外線が金属枠22に到達し、紫外線の光電効果によって金属枠22から電子が飛び出す。この電子は大気中の酸素分子等に付着し、負イオン(ラジカル)が生成する。この時、送風機2によって図中右から左への送風が生じていると、生成された負イオンは金属枠22外に放出され、吸着剤3に向かい、実施の形態1に示した反応機構により、吸着剤3に吸着された化学物質を分解することになる。なお、金属枠22の材質としては、通常、光電子材料である仕事関数が低い、つまり、電子を放出しやすい金属が適当であり、金、チタンなどがこれに対応する。
【0044】
また、負イオンは空間に存在する粒子状物質や金属円筒表面に接触することにより消失するが、粒子状物質はフィルター7により予め除去されており、また、送風機2による送風作用と、吸着剤3と金属枠22との間に形成された吸着剤3から金属枠22に向かう電界によるイオン加速作用により、負イオンと金属枠との接触機会は抑制される。更に、吸着剤3の表面もしくは近傍に水分が存在すると、負イオンと水分が反応することによりヒドロキシルラジカル等の活性度の高い、新たなラジカル(活性種)を生成し、化学物質を分解することは実施の形態1にて示した通りである。
【0045】
上記実施の形態では、紫外線ランプ21と金属枠22によって放出される電子を用いてラジカルを生成する場合について示したが、紫外線照射と放電によって空間に放出される電子を用いてラジカルを生成するようにしても同様の化学物質分解効果が得られる。図18は、図1にて示した構成に、紫外線ランプ21を設けた場合の構成例を示す斜視図である。
【0046】
以上、本発明にかかるガス浄化装置によれば、紫外線ランプにより負イオン(ラジカル)を生成し、負イオンもしくは負イオンと水分により生成されるラジカルにより化学物質を分解することにより、実施の形態1にて示された効果と合わせ、構成が簡易でメンテナンスの容易なガス浄化装置が実現される。
【0047】
実施の形態3
図19は、本発明にかかるガス浄化装置の他の例を示す構成説明図である。本実施の形態にかかるガス浄化装置は、図1にて示した装置に対し、フィルター7と送風機2間に、除湿装置31が設けられている点で異なる。すなわち、本実施の形態においては、フィルター7を通過したガスが除湿装置31により乾燥状態とされ、また、除湿された水分がポンプ32により吸い出され、ノズル33を通り、吸着剤3近傍に導かれる構成となっている。このような構成にすることで、金属電極1近傍で水分との反応によってラジカルが生成されるのが防止でき、吸着剤3近傍で効率よくラジカルを生成することができる。
【0048】
一方、吸着剤3の近傍に水分が導入されるため、吸着剤3近傍では、放電によって空間に生成したイオンや電子が水分と反応することにより、上述したように、ヒドロキシルラジカルのような活性種が生成され、これらラジカルが化学物質の分解に供せられることになる。なお、これらラジカルは、活性であり、大気中を漂う間に、大気中に存在する粒子状物質と反応したり、自然分解することにより、消失するが、本実施の形態のように、化学物質の近傍にて生成することで、化学物質の分解に効率的に利用することが可能となる。また、吸着剤3の表面に水分が吸着することにより、吸着剤3の表面の導電性が向上し、電位調節手段5による電位の調節が容易となる効果も有する。
【0049】
次に、吸着剤3と金属電極1間で放電を生じさせて化学物質を分解する場合における、処理ガス中の水分量が化学物質分解に与える影響について説明する。図20は、シックハウス症候群を引き起こす物質の一つであるホルムアルデヒドを含有した空気を処理対象として、MnO触媒担持親水性ゼオライト他の吸着剤を用いて、温度25℃において、相対湿度40%と80%の雰囲気下における化学物質の分解特性を比較した図である。図中、縦軸はホルムアルデヒド濃度(ppm)を、横軸は経過時間(min)を表わしている。試験には、72リットルの容量を有する閉鎖容器を用い、ホルムアルデヒド濃度を1ppmに調節したホルムアルデヒド含有空気を、上述のガス浄化装置の金属電極1に負極性高電圧を印加することにより処理し、ホルムアルデヒド濃度の時間変化を、ホルムアルデヒド測定器(新コスモス電機製XP−308−2)にて測定したものである。
【0050】
図中116で示した相対湿度40%の雰囲気下におけるホルムアルデヒド濃度と、図中の117で示した相対湿度80%の雰囲気下におけるホルムアルデヒド濃度を比較すると、一定時間経過後のホルムアルデヒドの濃度は相対湿度80%の雰囲気下における場合の方が低くなり、相対湿度を高くすることにより分解性能が高くなることを示している。このように、吸着剤と金属電極との間で起こる放電を用いて化学物質を分解するには、処理ガス中の水分濃度を高くする方が、化学物質を効率的に分解できることが分かった。
【0051】
上記実施の形態では、取り込んだ処理ガス中の水分を取り除いて、その取り除いた水分を用いて加湿し、吸着剤近傍で効率よくラジカルを生成する場合について示したが、新たに加湿装置を設けて、吸着剤3近傍を加湿するようにしても同様の化学物質分解効果が得られる。図21は、図1にて示した構成に、加湿装置34を追加設置した場合の一例を示している。
【0052】
以上、粒子状物質除去用のフィルターとイオン送風用ファン間に、除湿装置を設け、水分を除湿し、その水分を吸着剤近傍に導くことで、吸着剤の電位調節が容易となり、また、放電によって水分が反応することにより生成されるラジカルが化学物質近傍にて生成される。すなわち、本発明にかかるガス浄化装置によれば、放電によって生成されるラジカルおよび放電によって水分が反応することにより生成されるラジカルによる化学物質の分解効率が向上し、実施の形態1にて示した効果に加え、化学物質をさらに低コストにて分解できるガス浄化装置が実現される。
【0053】
実施の形態4
図22は、本発明にかかるガス浄化装置の他の例を示す構成説明図である。本実施の形態にかかるガス浄化装置は、図1に示した装置に対し、ガス組成調整装置41が設けられている点で異なる。すなわち、本実施の形態においては、金属電極1と吸着剤3間を構成する雰囲気のガス組成が、Oリッチとなるよう、金属電極1と吸着剤3間に均一にガスを吹き出すことができるガス供給板42を設け、ガス組成調整装置41より所定の組成を有するガスが供給される。このことにより、金属電極1と吸着剤3間の放電により酸素由来の活性種が、通常の大気下に比べ、効率的かつ多量に生成されることになる。
【0054】
なお、かかるガス組成調整装置41としては、例えば、酸素透過膜式酸素富化装置、PSA型酸素発生器、深冷分離装型酸素発生器が挙げられ、また、酸素ガスボンベを組合せたようなものでも構わない。
上記実施の形態では、金属電極1の風上側にガス供給板42を設ける場合について示したが、ガス挿入管43を別途設けて一ヶ所からガスを供給するようにしても、ガスの自己濃度拡散作用により、均一なガスを吸着剤3に供給することができる。図23は、図1に示した構成に、ガス挿入管43を追加設置した場合の一例を示している。
【0055】
以上、本発明にかかるガス浄化装置によれば、金属電極と吸着剤間を構成する雰囲気のガス組成を、Oが豊富となるようにガス組成調整装置41にて調整することにより、金属電極1と吸着剤3間の放電により酸素由来の活性種が、通常の大気下に比べ、効率的かつ多量に生成されることになり、実施の形態1にて示した効果に加え、吸着剤に吸着された化学物質が、より効率的に分解され、好適である。
【0056】
実施の形態5
図24は、本発明にかかるガス浄化装置の他の例を示す構成説明図である。本実施の形態にかかるガス浄化装置は、図1に示した装置に対し、吸着剤3の風下側にMnO担持電極51が設けられ、吸着剤3の電位を調節する給電極4が省略されている点で異なる。すなわち、本実施の形態においては、吸着剤3を金属電極1とMnO担持電極51で挟み込み、MnO担持電極51に高圧電源6により高電圧を印加し、電位調節装置5によって金属電極1の電位がゼロ電位にセットされる。このことにより、吸着剤3の下流側の部位でも放電を起こすことが可能となり、吸着剤3に吸着した化学物質をより効率的に分解することが可能となる。また、このような構造にしても、吸着剤3の下流部位で生成した寿命の長い放電生成物であるオゾンや窒素酸化物はMnO担持電極51表面に担持されたMnOの触媒作用により分解され、外部に放電生成物を放出することはない。このことから、外部に放電生成物を放出せずに、より効率的に吸着剤3に吸着した化学物質を分解できることになる。
【0057】
なお、かかるMnO担持電極51としては、例えば、ステンレス鋼などの酸化に強い金属製のハニカムやメッシュの表面にMnOを担持したものを用いることができる。かかる一体物は、例えば、金属製のハニカムを、例えば、MnOを溶かしたスラリー状の溶液に浸漬し、乾燥後適温にて焼成することにより得られる。
上記実施の形態では、吸着剤3の下流側にMnO担持電極51を単に備えるようにした場合について示したが、MnO担持電極51を加熱装置によって温めるようにしても、オゾンや窒素酸化物などの放電生成物を更に効率よく分解することができる。図25は、図1に示した構成に、加熱装置52を追加設置した場合の一例を示している。
【0058】
以上、本発明にかかるガス浄化装置によれば、吸着剤3を金属電極1とMnO担持電極51で挟み込み、MnO担持電極51に高圧電源6により高電圧を印加し、電位調節装置5によって金属電極1の電位をゼロ電位にするようにして放電するようにしたので、外部に放電生成物を放出せずに、吸着剤3の下流側部位でも放電できるようになり、実施の形態1にて示した効果に加え、吸着剤に吸着された化学物質が、より効率的に分解され、好適である。
【0059】
実施の形態6
図26は、本発明にかかるガス浄化装置の他の例を示す構成説明図である。本実施の形態にかかるガス浄化装置は、図1に示した装置に対し、金属電極1の風上側に濃縮用吸着剤61が設けられている点で異なる。すなわち、金属電極1と吸着剤3間を構成する雰囲気のガス組成が、化学物質リッチとなるよう、金属電極1の上流側に濃縮用吸着剤61を設け、化学物質の吸脱着を繰り返すことにより、高濃度の化学物質を含んだガスが供給される。このことにより、金属電極1と吸着剤3間の放電によって生成されるラジカルと化学物質との衝突の確率が高くなり、濃縮しない場合に比べ、化学物質と衝突せずに消滅してしまうラジカルが大幅に低減されることになる。なお、かかる濃縮用吸着剤61からの濃縮化学物質の放出手段としては、例えば、圧力スィング方式や、温度スィング方式が挙げられる。
【0060】
以上、本発明にかかるガス浄化装置によれば、金属電極と吸着剤間を構成する雰囲気のガス組成が、化学物質リッチとなるように金属電極1の風上側に濃縮用吸着剤61を設けることにより、金属電極1と吸着剤3間の放電によって生成されるラジカルと化学物質との衝突の確率が高くなり、濃縮しない場合に比べ、化学物質と衝突せずに消滅してしまうラジカルが大幅に低減されることになり、実施の形態1にて示した効果に加え、吸着剤に吸着された化学物質が、より効率的に分解され、好適である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図2】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図3】本発明にかかるガス浄化装置の吸着剤の構成を説明する構成説明図である。
【図4】本発明にかかるガス浄化装置の吸着剤の構成を説明する構成説明図である。
【図5】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図6】酢酸溶液にイオン照射した時の酢酸分解量の時間変化を示す図である。
【図7】ホルムアルデヒド含有ガスを吸着した時のホルムアルデヒド濃度の時間変化を示す図である。
【図8】ホルムアルデヒド含有ガスを放電処理した時のホルムアルデヒド濃度の時間変化を示す図である。
【図9】ホルムアルデヒド含有ガスを放電処理した時のホルムアルデヒド濃度の時間変化を示す図である。
【図10】ホルムアルデヒド含有ガスを放電処理した時のホルムアルデヒドの除去率の時間変化を示す図である。
【図11】ホルムアルデヒド含有ガスを放電処理した時のホルムアルデヒドの残存率および容器内窒素酸化物濃度と放電電力の関係を示す図である。
【図12】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図13】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図14】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図15】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図16】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図17】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図18】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図19】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図20】ホルムアルデヒド含有ガスを放電処理した時のホルムアルデヒド濃度の時間変化を示す図である。
【図21】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図22】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図23】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図24】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図25】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【図26】本発明にかかるガス浄化装置の構成を説明する構成説明図である。
【符号の説明】
【0062】
1 金属電極、2 送風機、3 吸着剤、4 給電極、5 電位調節装置、
6 高圧電源、7 フィルター、8 被処理ガス、11 移動型放電電極、
12 針状電極、13 ブラシ状電極、14 温度調節器、
21 紫外線ランプ、22 金属枠、31 除湿装置、32 ポンプ、
33 加湿ノズル、34 加湿装置、41 ガス組成調整装置、
42 ガス供給板、43 ガス挿入管、51 MnO坦持電極、
52 加熱装置、61 濃縮用吸着剤、
101 酢酸濃度が高い場合の酢酸分解量と処理時間の関係、
102 酢酸濃度が低い場合の酢酸分解量と処理時間の関係、
103 疎水性ゼオライトを用いた場合のホルムアルデヒド濃度と処理時間の関係、
104 活性炭を用いた場合のホルムアルデヒド濃度と処理時間の関係、
105 親水性ゼオライトを用いた場合のホルムアルデヒド濃度と処理時間の関係、
106 MnO坦持疎水性ゼオライトを用いた場合のホルムアルデヒド濃度と処理時間の関係、
107 MnO坦持親水性ゼオライトを用いた場合のホルムアルデヒド濃度と処理時間の関係、
108 放電無しの場合のホルムアルデヒド濃度と処理時間の関係、
109 負電圧印加の場合のホルムアルデヒドの濃度と処理時間の関係、
110 正電圧印加の場合のホルムアルデヒドの濃度と処理時間の関係、
111 正電圧印加の場合のホルムアルデヒドの分解除去率と放電電力の関係、
112 負電圧印加の場合のホルムアルデヒドの分解除去率と放電電力の関係、
113 ホルムアルデヒド残存率と放電電力量の関係、
114 窒素酸化物濃度と放電電力量の関係、
115 放電無しの場合のホルムアルデヒド濃度と処理時間の関係、
116 相対湿度40%でのホルムアルデヒド濃度と処理時間の関係、
117 相対湿度80%でのホルムアルデヒド濃度と処理時間の関係。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状物質と化学物質を含んだガスから前記粒子状物質を分離する粒子状物質分離手段と、
前記ガスに含まれた前記化学物質を吸着するハニカム構造の吸着剤と、
この吸着剤に密接して設けられた給電極と、
この吸着剤に対向して設けられた放電電極と、
前記給電極の電位を調節する電位調節手段と、
前記放電電極に高電圧を供給する高圧電源とを備え、
前記吸着剤と前記放電電極とによって形成される空間にて生じた放電によって大気中若しくは前記吸着剤表面に存在する水分が反応することにより生成される活性種により、前記吸着剤にて捕集された前記化学物質を分解除去することを特徴とするガス浄化装置。
【請求項2】
前記給電極が開口部を有する金属板で構成され、前記吸着剤の風下部に密接している請求項1記載のガス浄化装置。
【請求項3】
前記給電極の電位がゼロ電位である請求項1記載のガス浄化装置。
【請求項4】
前記吸着剤がMnOを坦持した親水性ゼオライトである請求項1に記載のガス浄化装置。
【請求項5】
前記吸着剤と前記放電電極にて形成される放電空間に紫外光を供給する紫外線発生装置が、前記吸着剤と前記放電電極で形成される放電空間の上流側に設けられてなる請求項1記載のガス浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate


【公開番号】特開2010−29865(P2010−29865A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254129(P2009−254129)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【分割の表示】特願2003−288395(P2003−288395)の分割
【原出願日】平成15年8月7日(2003.8.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】