説明

ガス測定装置

【課題】環境中のシリコーンに起因する接触燃焼式ガスセンサの感度低下に対応すること。
【解決手段】被毒物質が存在する環境の可燃性ガスの濃度を接触燃焼式ガスセンサSにより検出するガス測定装置において、前記可燃性ガスの濃度の時間積を演算して感度を補正する感度補正手段2と、前記可燃性ガスの濃度の時間積と前記接触燃焼式ガスセンサSの感度補正係数との関係を格納し、前記可燃性ガスの濃度の時間積に基づいて前記接触燃焼式ガスセンサの感度を補正するための感度補正係数を出力するデータ記憶手段3と、感度補正手段3からのデータを濃度として出力する濃度表示手段4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサの経時的な感度の低下に対応できるガス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性ガス、例えば水素を測定する場合には通常、接触燃焼式ガスセンサを検出手段とするガス測定装置が用いられている。
接触燃焼式ガスセンサは、周知のようにジュール熱で昇温するヒータの外周に絶縁層を介して酸化触媒層を形成して構成されているため、表面に異物が付着すると検出感度が低下するという問題がある。
【0003】
このような異物としては例えば特許文献1に見られるような燃料電池システムに例をとると水素の供給経路の漏洩を可及的に防止するため供給経路のシール剤等には高温耐久性を備えたシリコーンが使用されている。このような環境での水素の濃度の監視には高温環境及びコストの面から接触燃焼式ガスセンサが多用されている。
【0004】
そしてシリコーンが常時存在する環境下で水素が存在すると、水素濃度に応じ接触燃焼式ガスセンサの温度が上昇するため、シリコーンが熱分解し、接触燃焼式ガスセンサの表面にSiO2として蓄積し、接触燃焼式ガスセンサのガス感能部、つまり酸化触媒層に被検出流体(水素)や酸素が到達、移動するのを阻害され、検出感度が低下するという問題がある。この感度の低下の度合いは、接触燃焼式ガスセンサ表面のSiO2の蓄積量に関係するため、感度の低下の度合いは、シリコーンが一定の濃度で存在する環境では水素の濃度や接触時間に比例する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2004/111628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであってその目的とするところは、環境中のシリコーンに起因する接触燃焼式ガスセンサの感度低下に対応出来るガス測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような問題を解決するために請求項1の発明は、被毒物質が存在する環境の可燃性ガスの濃度を接触燃焼式ガスセンサにより検出するガス測定装置において、前記可燃性ガスの濃度の時間積を演算して感度を補正する感度補正手段と、前記可燃性ガスの濃度の時間積と前記接触燃焼式ガスセンサの感度補正係数との関係を格納し、前記可燃性ガスの濃度の時間積に基づいて前記接触燃焼式ガスセンサの感度を補正するための感度補正係数を出力するデータ記憶手段と、感度補正手段からのデータを濃度として出力する濃度表示手段と、を備えたガス測定装置である。
【0008】
また請求項2の発明は、感度補正手段から出力された感度補正係数が基準値を超えた場合に警報信号を出力する警報手段を備える。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば被毒物質による接触燃焼式ガスセンサの感度の低下を確実に見積もって補正するため、被毒物質の存在下でも可燃性ガスの濃度を正確に測定出来る。
【0010】
請求項2の発明によれば接触燃焼式ガスセンサが重度の被毒により感度が大幅に低下したことに起因する選択性の悪化による非検出ガスの検出ミスを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】シリコーン存在下での水素の各濃度の暴露時間と劣化率との関係を示す図である。
【図3】シリコーンの濃度ごとの水素の暴露時間と劣化率の関係を示す図である。
【図4】水素の各濃度の暴露時間と劣化率との関係を示す図である。
【図5】水素の各濃度ごとの濃度時間積と劣化率の関係を示す図である。
【図6】水素濃度時間積と劣化率の関係を示す図である。
【図7】データ記憶手段に格納する濃度時間積に対応した補正係数の一例を示す線図である
【図8】劣化率を加味して補正した補正劣化率との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
そこで以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施例を示すものであって、センサ部1は、接触燃焼式ガスセンサSと補償素子Rとから構成され、検出出力は感度補正手段2に入力している。感度補正手段2は、一定時間ごと、例えば1分毎に可燃性ガス、例えば水素の濃度とその継続時間との積、つまり濃度時間積を算出しデータ記憶手段3から濃度時間積に対応した補正係数を読み出して検出出力を補正して濃度表示手段4に出するように構成されている。
【0013】
データ記憶手段3は、上述の濃度時間積と接触燃焼式ガスセンサの感度の低下の関係を実験的に求め、感度低下の係数、つまり補正係数を数値や関係式として格納して構成されている。
【0014】
警報手段5は、感度補正手段からの補正係数が基準値、例えば30%を超えた場合に警報を出力するものである。
【0015】
例えば燃料電池システムのようにほぼ一定濃度でシリコーンが存在する環境の可燃性ガス、例えば水素の濃度を測定する場合に例をとると、環境中の可燃性ガスは接触燃焼式ガスセンサSにより検出され、同時に接触燃焼式ガスセンサSはその濃度に応じて発熱し環境中のシリコーンが接触燃焼式ガスセンサSの表面に付着する。
【0016】
このようにして感度補正手段2は、濃度時間積が予め決められた値に到達した時点でデータ記憶手段3から感度補正係数を読み出し接触燃焼式ガスセンサSの感度補正を行なう。
【0017】
例えば、濃度時間積により感度の低下が5%に到達することが検出された場合には、接触燃焼式ガスセンサSの出力値を1.05倍に補正し、濃度表示手段4により濃度指示値として出力する。
【0018】
感度補正手段2は感度補正が完了した段階で今までの濃度時間積値をクリアし、再び、濃度表示手段4からの濃度指示値の時間積を演算する。以下、このような工程を繰り返す。
【0019】
一方、感度補正手段2からの補正係数が規定値、例えば30%を超えた場合には警報手段5に情報を伝達し、接触燃焼式ガスセンサSの点検を促す。
【0020】
これにより、接触燃焼式ガスセンサSが重度の被毒により感度が大幅に低下したことに起因する選択性の低下による検出ミスを防止できる。
【0021】
そこで複数のセンサを用意し、シリコーンを400ppm一定に維持するとともに、水素の濃度を2000ppm〜20000ppmに変化させて一定時間ごとの水素に対する検出感度の変化を調査したところ、図2に示すような結果となった。
【0022】
このことから例えば暴露時間300時間後の10000ppmの水素に対する感度の劣化率は、水素濃度が10倍変化すると、劣化率が約25%増加する。なお、シリコーン濃度0の環境での劣化率はほぼ0であった。
【0023】
次にシリコーン400ppmと4000ppmが存在する環境下で、濃度20000ppmの水素を測定し、濃度時間積による劣化率(10000ppmの水素に対するものである)を調査したところ、図3のようになった。
【0024】
このことから、例えば暴露時間300時間後の10000ppmの水素に対する感度の劣化率は、シリコーンの濃度が10倍変化しても、劣化率には大きな変化は認められなかった。すなわち、シリコーンの存在下で水素を検出すると、水素の濃度とその継続時間が劣化率に大きく影響を与えることが判明した。
【0025】
再現性を確認するためシリコーンを400ppm一定に維持するとともに、水素の濃度を2000ppm〜20000ppmに変化させて一定時間ごとの水素に対する検出感度の変化を調査したところ、図4に示すようにシリコーンの濃度、水素の濃度及び暴露時間と劣化率との間に一定の相関関係が存在することが確認できた。すなわち、センサの劣化にはシリコーンの濃度が一定である場合には、水素の濃度と各濃度の継続時間との積つまり濃度時間積に劣化の程度が相関している。
【0026】
ところで一定濃度のシリコーンの存在下では実際はセンサからの水素濃度の信号は、水素の濃度時間積による被毒による影響を受けたものであるため、センサの使用開始当初からの水素の濃度時間積を記憶し、この濃度時間積の履歴に基づいて当該センサの劣化率を推定することにより、センサからの水素濃度の信号を補正することが可能となる。すなわち、図5に示したように水素濃度にかかわりなく劣化率は濃度時間積に相関している。なお、図4、図5の劣化率はともに水素濃度2000、4000、5000、6000、8000、10000、15000、20000ppm毎の測定値である。
【0027】
さらに水素の濃度時間積と劣化率との関係は図6に示したような関係に集約できる事を見出した。すなわち、濃度時間積と劣化率とを図7に示すような折れ線で関係付けることが可能である。すなわち各区間を一次関数
Y=aX+b
で近似し、定数a、bを決定しておくことにより、当該センサの被毒による劣化率を特定することができる。
また、水素を高濃度化することにより濃度時間積と劣化率との関係を短時間、つまり効率的に得ることが可能となる。
【0028】
すなわち、図8に示したようにシリコーンの濃度が400ppmの環境で水素の濃度時間積が特定の値、この例では6000×1000(ppm×h)に到達するまでは、上記関係により劣化率を補正することにより被毒の悪影響を検出精度±10%程度に改善できることがわかる。
【0029】
他方、水素の濃度時間積6000×1000(ppm×h)を超えると、劣化率が30%以上にもなる。そして劣化率が30%以上にもなると、水素の濃度時間積と劣化率の大きさとの相関性が大きく崩れ、雰囲気の温度変化、干渉性ガス等が外乱として作用し、S/N比が低下する。。
【符号の説明】
【0030】
1 センサ部
S 接触燃焼式ガスセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被毒物質が存在する環境の可燃性ガスの濃度を接触燃焼式ガスセンサにより検出するガス測定装置において、前記可燃性ガスの濃度の時間積を演算して感度を補正する感度補正手段と、前記可燃性ガスの濃度の時間積と前記接触燃焼式ガスセンサの感度補正係数との関係を格納し、前記可燃性ガスの濃度の時間積に基づいて前記接触燃焼式ガスセンサの感度を補正するための感度補正係数を出力するデータ記憶手段と、感度補正手段からのデータを濃度として出力する濃度表示手段と、
を備えたガス測定装置。
【請求項2】
感度補正手段から出力された感度補正係数が基準値を超えた場合に警報信号を出力する警報手段を備えた請求項1に記載のガス測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−24583(P2013−24583A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156448(P2011−156448)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】