説明

ガス濃度測定器

【課題】 寒冷地や暑熱地であっても周囲温度に影響されることなくガス濃度を高精度に測定することができるガス濃度測定器を提供する。
【解決手段】
オゾンガスに反応して変色する曝露部7を有するガス検知体2と、このガス検知体2の温度を一定に保つ相変化物質3と、この相変化物質3を収納する金属製の容器10と、この金属製の容器10とガス検知体2を収納する断熱容器Bとで寒冷地用のオゾンガス濃度測定器1を構成する。相変化物質3としては、液体から固体に相変化する相変化物質を用いる。断熱容器Bとしては、窓17を有しガス検知体2と金属製の容器10を収納するプラスチック製の容器11と、開口部19を有し前記プラスチック製容器11を収納する断熱材製の容器12とで構成する。ガス検知体2を金属製容器10の表面に密着させ、この金属製容器10とともにプラスチック製容器11に収納し、ガス検知体2の曝露部7を窓17および開口部19から断熱容器Bの外部に露呈させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に含まれているオゾンガス、二酸化窒素ガス等の特定の種類のガスの濃度を測定するガス濃度測定器、特に暑熱地や寒冷地であっても測定環境の温度に影響されることなく高精度に測定することができるガス濃度測定器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境リスクが高いガス状の大気汚染物質、特に光化学オキシダントの主成分を構成するオゾンガス(O3 )や物質の燃焼に伴って発生する二酸化窒素ガス(NO2 )による環境への影響が大きな問題となってきている。特に、オゾンガスは、強力な酸化能を有しているため、それ自体の毒性により空気中の濃度が一定以上(0.1ppm)になると、呼吸器系を刺激し、微量でも長時間吸入していると有害とされている。また窒素酸化物(NOx)ガスは大気汚染の原因物質であり、呼吸器系疾患との関連も指摘されている。このため、有害なオゾンガス、二酸化窒素ガス等の特定のガスの濃度を測定するガス濃度測定器が種々開発、提案されている。
【0003】
このようなガス濃度測定器としては、濾紙、多孔質ガラス等の小型の多孔体(外形寸法1cm平方程度、厚さ8mm以下)に、オゾンなどの検知対象ガスと選択的に反応して変色する例えばインジゴ環を含む有機系色素を含浸させ、この色素を含浸させた部分を検知対象ガスであるオゾンガスによって曝露される曝露部としたガス検知体を用いることで、安価で個人が持ち運びできる超小型のオゾンガス検知用の蓄積型センサが開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
また、多孔質ガラスなどの小型の多孔体に二酸化窒素ガスなどの検知対象ガスと選択的に反応して変色(発色)する色素を含む検知剤を含浸させたものをガス検知体とすることで、安価で個人が持ち運びできる超小型の二酸化窒素ガス検知用の蓄積型センサも開発されている(例えば、特許文献3,4参照)。
【0005】
これらのガス濃度測定に用いられる蓄積型センサのうち、特に濾紙などを用いたシート状のガス検知体は、主に1日間の個人のガス曝露量を検知するものであり、オゾン殺菌などでオゾンガスを利用する特殊作業従事者の曝露量の評価を想定している。このシート状ガス検知体は、平均労働時間8時間で労働基準に定められた蓄積濃度量(濃度基準×時間)で、例えば目視可能に変色(退色)するように設計されている。
【0006】
オゾンガス(二酸化窒素ガスも同様)の測定に際しては、ガス検知体を備えたガス濃度測定器を測定環境下に一定時間曝すと、ガス検知体の曝露部が空気中に含まれているオゾンガスによって曝露されることにより変色(退色)する。この変色の度合いは、特定のガスの濃度と測定時間とによって決まる。すなわち、オゾンガスの濃度が濃い場合は、短時間でも著しく変色し、濃度が薄い場合は変色するのに長時間を要する。そして、この変色した色とカラーチャートに示されているオゾン濃度に対応した色見本とを見比べ、ガス濃度の目盛を読み取ることにより、オゾンガスの濃度を測定している。
【0007】
しかしながら、オゾンガスの曝露による人体へのリスクは、フロンガス等のオゾン層破壊物質によって成層圏オゾンが破壊もしくはオゾン層が薄くなった結果、地表に到達する紫外線が強くしかも外気温が氷点下にも達し得る高緯度地域において高いと考えられている。また、自動車、工場等から排出されるNOxや炭化水素(HC)が強い日照と高い気温によって光化学反応を起こすことにより光化学オキシダント(Ox;オゾンが主成分)が生成されるため、外気温度が40℃にも達する低緯度地域においても人体へのリスクが高いと考えられている。このため、高緯度地域と低緯度地域において、環境中のオゾン濃度を個人や家庭レベルで検知することができるオゾンガス濃度測定器の提供が要請されてきている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−144729号公報
【特許文献2】WO2006/016623(PCT/JP2005/014689)号公報
【特許文献3】特開平09−274032号公報
【特許文献4】特開2000−081426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特定のガスとの選択的な化学反応により退色または発色する有機系色素の退色速度(または発色速度)は、測定環境の温度によって決まる。
【0010】
図14に有機系色素の退色(または発色)の反応速度の温度依存性を示す。
図14では横軸に温度の逆数をとったアレニウスプロットを示し、縦軸に退色(あるいは発色)の反応速度を示している。この図より判るように、高温になるほど退色の反応速度は速くなり、低温になるほど反応速度は遅くなる。
【0011】
一般的に、化学反応の速度は、活性化エネルギによって決まり、温度が10℃異なると、反応速度は2〜3倍異なる。このため、室温(約20℃を想定)動作で8時間で退色(あるいは発色)するように設計されたガス検知体を備えたガス濃度測定器を、寒冷地(例えば、0℃を想定)で使用すると、多孔体内部で起こる化学反応は非常に遅くなる。逆に暑熱地(例えば、40℃を想定)で使用すると化学反応は非常に速くなる。このため、従来は同じガス濃度測定器を用いてガス濃度を測定しても、測定地域の周囲温度によってガス濃度の測定値が異なってしまい、ガス濃度測定器としての信頼性が低く、使用地域が温暖地に制約されるという問題があった。
【0012】
本発明は上記した従来の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、寒冷地や暑熱地であっても周囲温度に影響されることなくガス濃度を高精度に測定することができるガス濃度測定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、特定のガスに反応して変色する曝露部を有するガス検知体と、このガス検知体の温度を一定に保つ蓄熱体と、この蓄熱体と前記ガス検知体を収納する断熱容器とを備え、前記蓄熱体を大気圧下であって一定の温度範囲内において潜熱によって相変化する相変化物質と、この相変化物質を収納する金属製の容器とで構成し、前記ガス検知体を前記金属製の容器の表面に密着させた状態で前記断熱容器内に収納し、前記断熱容器に前記ガス検知体の曝露部を外部に露呈させる開口部分を設けたものである。
【0014】
また、本発明は、特定のガスに反応して変色する曝露部を有するガス検知体と、このガス検知体の温度を一定に保つ蓄熱体と、この蓄熱体と前記ガス検知体を収納する断熱容器とを備え、前記蓄熱体を大気圧下であって一定の温度範囲内において潜熱によって相変化する相変化物質と、この相変化物質を収納する金属製の容器とで構成し、前記断熱容器を、窓を有し前記金属製の容器と前記ガス検知体を収納するプラスチック製の容器と、前記窓に対応して開口部を有し前記プラスチック製の容器を収納する断熱材製の容器とで構成し、前記ガス検知体を前記金属製の容器と前記プラスチック製の容器との隙間に、前記金属製の容器に密着させた状態で配置して前記曝露部を前記窓および前記開口部から断熱容器の外部に露呈させたものである。
【0015】
また、本発明は、前記相変化物質が固体から液体、液体から固体、液体から気体、気体から液体、固体から気体、および気体から固体に相変化する物質のうちのいずれか1つである。
【0016】
また、本発明は、前記金属製の容器を密閉構造とし、前記相変化物質が固体または粉体からなり、その融解熱によりガス検知体の温度を一定に保つものである。
【0017】
また、本発明は、前記金属製の容器を密閉構造とし、前記相変化物質が液体からなり、その凝固熱によりガス検知体の温度を一定に保つものである。
【0018】
また、本発明は、前記相変化物質が液体からなり、その気化熱によりガス検知体の温度を一定に保ち、前記金属製の容器に前記相変化物質を吸い上げて容器外部に蒸散させる蒸散部を設けたものである。
【0019】
また、本発明は、前記相変化物質が固体からなり、その昇華熱によりガス検知体の温度を一定に保ち、前記金属製の容器に内圧が一定値以上に高くなると外部に逃がす減圧弁を設けたものである。
【0020】
また、本発明は、前記相変化物質を、n−パラフィン系炭化水素、有機化合物、香料を溶解した有機溶媒、水和物あるいは相分離防止剤が添加された水和物あるいは過冷却防止剤が添加された水和物のうちのいずれか1つとしたものである。
【0021】
また、本発明は、前記蓄熱体が、前記相変化物質がマイクロカプセルに収納され、粉体としての前記マイクロカプセルを金属製の容器に充填することで構成されているものである。
【0022】
また、本発明は、前記マイクロカプセルが樹脂被覆されることにより蓄熱板を形成しており、その表面に金属膜が形成されているものである。
【0023】
また、本発明は、前記相変化物質を、n−エイコサン、n−ノナデカン、n−オクタデカン、n−ヘプタデカン、n−ヘキサデカン、n−ペンタデカン、n−テトラデカン、およびn−トリデカンからなる群より選択される少なくとも1種のパラフィン系炭化水素としたものである。
【0024】
また、本発明は、前記水和物または相分離防止剤が添加された水和物あるいは過冷却防止剤が添加された水和物が、水和塩化カルシウム、含水硝酸リチウム、硫酸ナトリウム・十水和物(グラウバー塩)、水和炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物、硝酸亜鉛・六水和物、臭化カルシウム・六水和物、硫酸亜鉛・七水和物、臭化鉄・六水和物のうちのいずれか1つとしたものである。
【0025】
また、本発明は、前記有機化合物または香料を溶解した有機溶媒が、トリミリスティン、パルミチン酸メチル、カプリン酸(デカン酸)、d体−乳酸、グリセリン(グリセロール)、酢酸、カプリル酸(オクタン酸)、エチレンジアミン、蟻酸、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−ブタン、1−ペンテン、アセトアルデヒド、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレンオキシド、R11、R21、ジクロロメタン、塩化カルボニル、R114、ラウリン酸、p−ニトロフェノール、o−ニトロアニリン、ε−カプロラクタムのうちのいずれか1つとしたものである。
【0026】
また、本発明は、前記金属製の容器を銅、アルミニウム、銀、タングステン、亜鉛のうちのいずれか1つで製作し、内面に耐食性の保護膜をコーティングし、さらに熱伝導率の良い金属の小片ないしは略球状微粒子または繊維状微粒子を容器内に充填したものである。
【0027】
また、本発明は、充填する微粒子をアルミナ微粒子、シリカ微粒子のうちのいずれか1つとしたものである。
【0028】
また、本発明は、前記耐食性の保護膜をプラスチック、ガラスまたはフッ素樹脂の表面コート膜としたものである。
【0029】
また、本発明は、前記断熱材製の容器の開口部が形成されている面に、特定のガスの濃度に対応した色を示すカラーチャートが表示されたシートを貼着したものである。
【0030】
さらに、本発明は、前記蒸散部を金属製の容器に設けた蒸散用孔と、この蒸散用孔に挿通され一端が容器外部に突出する吸液性の蒸散部材とで構成したものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明においては、蓄熱保温材として固体(粉体)、液体または気体からなる相変化物質を用い、その相変化中(状態変化中)の潜熱(融解熱、凝固熱、昇華熱、蒸発(気化)熱、または凝縮熱)を利用して金属製の容器内の温度を一定に保ち、この温度を金属製の容器とプラスチック製の容器との隙間に介装したガス検知体に金属製の容器からの熱伝導によって導き、ガス検知体の温度を一定に保つようにしたので、周囲温度が高い暑熱地や低い寒冷地であっても、ガス検知体の曝露部に含まれている色素の特定のガスに対する反応速度が速くなったり、遅くなったりせず、正確に測定することができる。
【0032】
固体から液体に相変化する物質は、融解熱を吸収することでガス検知体の温度を一定に保つから、暑熱地での使用に適している。液体から固体に相変化する物質は凝固熱を放出することでガス検知体の温度を一定に保つから、寒冷地での使用に適している。固体から液体に相変化する物質と液体から固体に相変化する物質は、体積変化が少ないために、金属製の容器を密閉構造にすると、相変化物質の消耗を少なくすることができる。
【0033】
液体から気体に相変化する物質は、蒸発熱(気化熱)を吸収することでガス検知体を一定温度に保持するために、暑熱地での使用に適している。蒸散部は液体を蒸散させて容器外部に逃がし、容器内の圧力上昇による容器の破損を防止する。
【0034】
固体から気体に相変化する物質は、昇華熱を吸収することでガス検知体の温度を一定に保つから、暑熱地での使用に適している。減圧弁は気化した気体を容器外部に逃がし、容器内の圧力上昇による容器の破損を防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
先ず、図1を用いて本発明の動作原理を説明する。
一般に、相変化物質(Phase Change Materials:以下、PCMと略す)が固体(または粉末状)、液体または気体に相変化する際には、潜熱(もっと一般には転移熱)と呼ばれる物質の結合状態を変化させるために、温度を変化(上昇あるいは降下)させることなく吸収(あるいは放出)される熱エネルギが必要である。PCMが固相(または液相)状態から液相(または固相)状態に変わる際には、融解(または凝固)の潜熱が必要とされ、その間、圧力など状態値が指定されれば、PCMの温度(転移点、転移温度とも呼ぶ)は融点(または凝固点)と呼ばれる一定温度に固定される。融解(または凝固)の潜熱がやり取りされる間は、固−液の共存相が実現している。固相のPCMが全て液化すると、加えた熱量に比例してPCMの温度は上昇し、沸点に達するとPCMが液相状態から気相状態に変わる。このとき、気化(蒸発)のための潜熱(気化熱あるいは蒸発熱)が必要とされ、その間の温度も沸点に固定される。逆に、PCMが気相状態から液相状態に変わる際には、凝縮(液化)の潜熱(凝縮熱)を放出し、その際の温度も沸点に固定される。
【0036】
また、PCMが固相状態から直接気相状態に変わる(あるいはその逆の)昇華過程では、昇華の潜熱(昇華熱)が必要とされ(あるいは放出され)、その間、PCM(この場合、固相部分)の温度は昇華点に固定される。物質固有の三重点以下の圧力においては液相が存在しないため、蒸発や凝縮、融解や凝固は起こらない。このため昇華過程が起こる。また、臨界点以上の圧力では気相と液相の相違がなくなり、単一の相しか存在しない。
【0037】
一般に、物質の三態間の状態変化は第一種相転移であり、融点、沸点などの転移温度は圧力により変化する。いずれにせよ、極めて大量の転移熱と呼ばれる熱エネルギが、この相変化との関連(すなわち、固相から液相への変化、液相から気相への変化、または固相から気相への変化)でPCMにより吸収される。相変化には大量の転移熱が必要であり、その相転移の過程で大量の熱エネルギが吸収されるにも拘わらず、この相転移の間、PCMの温度は変化せず一定に保持される。
【0038】
本発明は、大気圧下であって一定の温度範囲内においてPCMがその相状態を変化させる際に、転移熱を吸収あるいは放出することを利用して、PCMに熱接触しているガス検知体の温度がPCMの転移点と総称される一定値に固定または保持されることを基本原理とする。ここで、一定の温度範囲内とは、本ガス濃度測定器が用いられる環境の温度、具体的には寒冷地においては、−20℃〜5℃程度の範囲、暑熱地においては35℃〜50℃程度の範囲を想定している。
【0039】
その場合、本発明において利用される相変化(状態変化)には以下の三種類が考えられる。
(1)PCMが固相(あるいは液相)から液相(あるいは固相)に変化する際に融解熱(あるいは凝固熱)を吸収(あるいは放出)するために、PCMの温度が融点(凝固点)に固定されることを利用する方式
【0040】
(2)PCMが液相(あるいは気相)から気相(あるいは液相)に変化する際に蒸発熱または気化熱(あるいは凝縮熱)を吸収(あるいは放出)するために、PCMの温度が沸点に固定されることを利用する方式
【0041】
(3)PCMが固相(あるいは気相)から気相(あるいは固相)に変化する際に昇華熱(あるいは凝固熱)を吸収(あるいは放出)するために、PCMの温度が昇華点に固定されることを利用する方式
【0042】
前記(1)の固相から液相に相変化するPCMは融解熱を吸収する。他方、液相から固相に相変化するPCMは、凝固熱を放出する。これらのPCMは、体積変化が僅かであるので、PCMを収容する容器について強い制約を受けない。したがって、容器を密閉構造とすることができる。また、密閉構造にすればPCMの量は不変であるので、PCMが消耗されないという意味で長期間の利用が可能で最も実用的である。
【0043】
PCMが固相から液相に変化する間に融解潜熱を吸収しているときは、PCMに熱接触しているガス検知体から熱を奪うので、ガス検知体については冷却が行われる。すなわち、固体から液体に相変化するPCMを用いた場合は、ガス検知体が融解潜熱によって冷却され一定温度に保持されるため、暑熱地で使用して好適である。
【0044】
逆に、PCMが液相から固相に変化する間に凝固熱を放出しているときは、PCMに熱接触しているガス検知体が凝固熱により加熱される。すなわち、液体から固体に相変化するPCMを用いた場合は、PCMが凝縮熱を放出してガス検知体を暖め一定温度に保持するため寒冷地で使用して好適である。なお、本発明の後述する第1、第2の実施の形態は、この液体から固体に相変化するPCMを用いたガス濃度測定器に関するものである。
【0045】
前記(2)の液相から気相に相変化する際気化熱を吸収するPCMの場合、PCMを蒸散部材を含む蒸散部によって容器外部に蒸発または蒸散させる必要がある。この場合は、PCMの量が使用にともない消費されていくので、長期間の利用はできないが、限定された期間であれば、蒸発の際の沸点に温度を固定することが可能である。また、この場合は、PCMが気化熱を吸収する分、PCMに熱接触しているガス検知体から熱を奪い、ガス検知体の温度を一定温度に保持するので、暑熱地で使用して好適である。なお、本発明の後述する第3の実施の形態は、この液体から気体に相変化するPCMを用いたガス濃度測定器に関するものである。
【0046】
一方、気相から液相に相変化するPCMを用いた場合は、気相から液相へ変化する際に凝縮熱を放出し、この凝縮熱によってガス検知体の温度を一定に保持するため、寒冷地で使用して好適である。ただし、この場合は、予めPCMを容器に加圧注入する必要があるので耐圧容器を必要とする。
【0047】
前記(3)の固相から気相に相変化するPCMを用いた場合は、固相から気相へ変化する際に昇華熱を吸収する現象を利用する。昇華の際にはPCMの体積膨張が大きいので、PCMを収納する容器については密閉構造とすることができず、減圧弁などを用いて内圧を逃がすことが必要である。さらに、この場合は、PCMが昇華熱を吸収する分、熱接触しているガス検知体より熱を奪い、ガス検知体の温度を一定温度に保持するので、暑熱地で使用して好適である。また、このPCMも液体から気体に相変化するPCMと同様に、PCMの量は、使用にともない消費されていくので、長期間の利用はできない。しかし、限定された期間であれば、昇華の際の転移点(昇華点)に温度を固定することが可能である。なお、本発明の第4の実施の形態は、この固体から気体に相変化するPCMを用いたガス濃度測定器に関するものである。
【0048】
一方、気相から固相に相変化するPCMを用いた場合は、気相から固相へ変化する際に放出される凝固熱によってガス検知体の温度を一定に保持するため、寒冷地で使用して好適である。ただし、この場合は予め気体状態のPCMを圧縮により固化可能な状態にして容器に充填する必要があるので、圧縮装置と耐圧容器を必要とする。
【0049】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。
図2は本発明をオゾンガス濃度測定器に適用した第1の実施の形態を示す分解斜視図、図3は図2のIII −III 線断面図である。本実施の形態は、液体状態の相変化物質が固化する際に凝固熱を利用した寒冷地で使用して好適なオゾンガス濃度測定器に適用した例を示す。全体を参照符号1で示すオゾンガス濃度測定器は、ガス検知体2と、このガス検知体2の温度を一定に保持するために用いられる蓄熱体Aと、この蓄熱体Aと前記ガス検知体2を収納する断熱容器Bとを備えている。なお、蓄熱体Aと断熱容器Bは、蓄熱保温体を構成している。
【0050】
前記ガス検知体2は、特定のガスであるオゾンガスと選択的に反応して変色(退色または発色)する有機系色素を、多孔質ガラスまたは濾紙等のセルロース系を含むシート状の多孔質担体6の所望の箇所に含浸させることにより形成されており、有機系色素を含浸された部分がオゾンガスに曝露されると変色する曝露部7を構成している。曝露部7は、例えば有機系インジゴ環を含む色素と、保湿剤と、酸もしくは酸性領域に緩衝作用がある緩衝溶液を担持させることにより形成することができる。なお、本実施の形態においては、有機系色素としてインジゴ環を含む色素を用い、曝露部7を多孔質担体6の中央に形成した例を示したが、これに限らず略全面に形成してもよい。
【0051】
このようなガス検知体2によれば、大気中に含まれている低い濃度(ppbオーダー)のオゾンガスを、インジゴ環を有する色素のオゾンガスによる分解に対応した退色反応またはインジゴ環を有する色素がオゾンガスによる分解の結果生じた分解生成物を原因とする発色反応として検知することができる。
【0052】
インジゴ環を有する色素としては、例えばインジゴ、インジゴカルミンナトリウム塩、インジゴカルミンカリウム塩、インジゴレッドなどを用いることが好適である。保湿剤としては、グリセリン、エチレングリコールなどを用いることが好適である。酸としては、酢酸、リン酸、酒石酸などを用いることが好適である。緩衝溶液としては、pHが1〜4、好ましくは2〜3、さらに好ましくは3〜4の範囲で緩衝作用がある緩衝溶液、例えば酢酸と酢酸ナトリウム、もしくはリン酸とリン酸二水素ナトリウム、もしくは酒石酸と酒石酸ナトリウムからなる緩衝溶液が用いられる。
【0053】
ガス検知体2の具体的な作製に際しては、容器内に例えば、0.06gのインジゴカルミンと、酸としての3.0gのクエン酸と、保湿剤としての15gのグリセリンとを入れ、これらに水を所定量加えることにより、インジゴカルミンを溶解させて調整し、50gの検知溶液を作製する。
【0054】
次に、この検知溶液中にセルロース濾紙(例えば、アドバンティック社製の濾紙No.2)を一定時間浸漬して取り出した後、セルロース濾紙中に含まれている水分を風乾によって蒸発させる。これにより、曝露部7が藍色のガス検知体2ができあがる。ガス検知体2の大きさは、30×30mm程度で、厚さが1〜2mm程度である。
【0055】
このようにして作製したガス検知体2について、オゾンガス発生器からのオゾンガスを含む被検ガス中に一定時間(例えば、8時間)曝して変色の度合いを肉眼で観察した。被検ガス中のオゾンガスは、ガス検知体2のグリセリンが保持している水分に取り込まれ、その後、インジゴ環を有する色素のC=C2重結合を分解する反応を引き起こす。色素分子の構造と電子状態が変化して可視領域の600nm付近の吸収が変化する。このため、ガス検知体2の曝露部7の色(藍色)は薄く退色する。
【0056】
一方、インジゴ色素の分解によって生じた分解生成物は可視光領域の波長400nm付近に光の吸収を持つため、曝露部7は黄色に変色(発色反応)し始める。このように、ガス検知体2の曝露部7がオゾンガスによって曝露されると、色素の退色反応と発色反応とが同時に起きるため、オゾン濃度がppbオーダーであっても変色し確実に検知できる。
【0057】
前記蓄熱体Aは、蓄熱保温材3と、この蓄熱保温材3を収納する熱伝導性の良い容器10とで構成される。蓄熱保温材3としては、大気圧下であって一定の温度範囲内において潜熱によって相変化するPCM(以下、PCM3という)が用いられる。熱伝導性の良い容器10としては、熱伝導率の高い金属製の容器(以下、金属製の容器または金属製容器という)が用いられる。
【0058】
前記PCM3は、前記金属製の容器10とともに前記断熱容器Bに収納された状態において転移点よりやや高温の状態に保持されることで液体状態に保持されており、固化するときの凝固熱を放出することにより、ガス検知体2および後述する金属製の容器10を加熱してこれらの温度を一定に保持する。
【0059】
ここで、PCM3は、ガス検知体2の動作温度として想定される温度範囲に相転移点をもつ物質が選択される。そこで、40℃以下でかつ室温近傍で使用可能な幾つかのPCMの物性値を以下の表1に示す。大きく分類して、PCM3には式Cn2n+2 で示されるn−パラフィン系炭化水素(すなわち、直鎖状炭化水素)、水和塩並びに有機物がある。好ましいパラフィン系炭化水素は、上記式中のnが13から20の範囲にあるものである。PCM3に好適な水和塩としては、水和塩化カルシウム、含水硝酸リチウム、硫酸ナトリウム、・十水和物(グラウバー塩)、水和炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物、硝酸亜鉛・六水和物、臭化カルシウム・六水和物、硫酸亜鉛・七水和物、臭化鉄・六水和物を挙げることができる。また、その他のPCM3に好適な有機物としては、トリミリスティン、パルミチン酸メチル、カプリン酸(すなわち、デカン酸)、d体−乳酸、グリセリン(グリセロール)、酢酸、カプリル酸(すなわち、オクタン酸)、エチレンジアミン、蟻酸を挙げることができる。
【0060】
前記ガス検知体2が有効に動作する温度T1 としては、室温近傍の値、すなわち、7℃から30℃の範囲の温度が必要である。相転移温度が上記条件の範囲内にあるPCM3としては、相転移温度7℃のRT6(パラフィン系物質)、12℃のRT10(パラフィン系物質)、28℃のコンフォテンプ(登録商標)、アウトラスト(登録商標)(パラフィンワックス)等を利用することなどが想定される。
【0061】
【表1】

【0062】
前記金属製の容器10は、横長矩形の薄箱型に形成されており、上蓋13に形成したPCM3を注入するための注入口14を金属製のキャップ15によって気密状態となるように閉塞することにより密閉型の容器を形成している。また、金属製の容器10は、収納するPCM3の材質によっては腐食するおそれがあるため、内面全体(好ましくは表面も)にプラスチック、ガラスまたはフッ素樹脂からなる耐食性保護膜がコーティングされている。
【0063】
このような金属製の容器10に関しては次の2点を特に考慮することが望ましい。
(1)PCM3との熱の出し入れは、その容器の壁を通って行われるので、この壁とPCM3との間の伝熱特性を十分によくしておく必要がある。例えば、容器壁に熱的にしっかりと結合されたハニカム構造を容器内につくることによって伝達面積を増加させる。また、重力場中で利用するので、PCM3の自然対流を促進させて熱伝達をよくするため、ハニカム構造のコアを鉛直方向に並べる。さらに、PCM素材そのものの熱伝導率の低さを改善するために、熱伝導率の良い金属の小片ないしは略球状微粒子または繊維状微粒子を充填し、これにPCM3を満たすことで、金属製容器10とPCM3とで構成される蓄熱体Aの有効熱伝導率を大きくしてガス検知体2への伝熱促進が図れる。充填剤としては、アルミナ微粒子(直径1mm、密度3880[kg/m3 ]、比熱0.3[kJ/kg・K]、熱伝導率17[W/mK])、あるいはシリカ微粒子(直径1mm、密度2590[kg/m3 ]、比熱0.75[kJ/kg・K]、熱伝導率0.745[W/m・K]などが望ましい。
(2)熱膨張と相変化による多少の体積変化に対処するために、容器には適当な柔軟性をもたせるか、容器壁を強固なものにして圧力上昇に耐えさせる必要がある。そのためにも、PCM3は完全に容器内に詰め込まず、多少の空間を容器内に残して充填することが望ましい。
【0064】
上記(1)に記したように、PCM3を収容する金属製の容器10は、PCM3が相変化する際に放出する凝固熱を、容器の壁を介してPCM3と熱接触しているガス検知体2に良好に伝達する必要がある。つまり、良好に熱伝達を行うために、熱伝導率が大きい値をもつ材料で容器10を製作することが必要である。他方、選定されたPCM3を長期保存するためには、PCM3に対して不溶性、耐食性を持つ材料により容器10を構成する必要がある。さらに、上記(2)に記載したように、PCM3が相変化する際の体積変化に耐える強度をもった材料であることが望ましい。そうした材料として、熱伝導の比較的大きな金属を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表2によれば、例えば、室温近傍で大きな熱伝導率κ[W/m・K]を持つ銅(κ=386[W/m・K]、20℃)、銀(418[W/m・K]、20℃)(あるいは金(295[W/m・K]、20℃))、あるいはアルミニウム(204[W/m・K]、20℃)などの金属を、容器10の構成材料とすることが考えられる。
【0067】
前記断熱容器Bとしては、前記金属製容器10を収納する断熱性のプラスチック材料からなる容器11(以下、プラスチック製の容器またはプラスチック製容器という)と、このプラスチック製容器11を収納する断熱材製の容器(以下、断熱材製容器ともいう)12とで構成されている。このため、オゾンガス濃度測定器1は、金属製の容器10、プラスチック製の容器11および断熱材製の容器12とからなる三層構造の容器を備えている。
【0068】
前記プラスチック製の容器11は、前記金属製の容器10との間にガス検知体2を挟みこみ実装して良好な熱接触を実現するために、金属製の容器10の形状に整合できるように成形可能なプラスチック材料によって横長矩形の薄箱型に製作されている。また、このプラスチック製の容器11は、上方に開放した開放部16を有し、前面板11Aの表面一側寄りには、矩形の窓17が形成されている。この窓17は、ガス検知体2の曝露部7と略同じ大きさを有している。プラスチック製の容器11の底板11Bの中央部には、金属製の容器10を押し出す際に利用される指用穴18が形成されている。
【0069】
前記断熱材製の容器12は、上方に開放した容器からなり、前面には曝露用の開口部19が前記プラスチック製の容器11の窓17に対応して形成されるとともにオゾンガスの濃度に対応した色を示すカラーチャート21を表示したシート20が貼着されている。窓17と開口部19は、略同一の大きさを有している。このような断熱材製の容器12は、測定時に金属製の容器10を収納するプラスチック製の容器11が収納された後、上方に開口する開口部22が蓋体23によって閉塞される。蓋体23も断熱材製の容器12と同様な断熱材によって形成されている。
【0070】
このような金属製容器10、プラスチック製容器11および断熱材製容器12からなる三層構造の容器において、前記ガス検知体2は、金属製容器10とプラスチック製容器11との間に形成した隙間30に挿入され、曝露部7がプラスチック製容器11の窓17および断熱材製容器12の開口部19から断熱容器Bの外部に臨んでいる。また、このガス検知体2は、蓄熱体Aの熱が良好に伝達されるように金属製容器10の表面に密着した状態で隙間30に挿入されている。なお、ガス検知体2の曝露部7以外の部分は、プラスチック製容器11によって覆われている。
【0071】
前記シート20は、ガス検知体2のシート状担体6と同一の材質からなり、表面には前記カラーチャート21と、オゾンガスの濃度を表示する0ppb、400ppb、800ppbの目盛24と、オゾンガス濃度測定器1の使用注意書き25が印刷され、かつ表裏面全体がプラスチックコートされている。
【0072】
カラーチャート21は、3つに色区分されており、オゾン濃度がそれぞれ0ppb、400ppb、800ppbにおける色見本21a〜21cで構成されている。オゾン濃度が0ppbの色見本21aは、測定前におけるガス検知体2の曝露部7の色と同じ藍色を呈しており、オゾン濃度が400ppbの色見本21bの色は色見本21aより退色した状態を示す色であり、オゾン濃度が800ppbの色見本21cは色見本21bよりさらに退色した状態を示す色である。なお、カラーチャート21は、オゾン濃度を段階的に示すものに限らず、オゾン濃度をグラデーションの形で連続的に表示するものであってもよい。
【0073】
PCM3の選択に当たって考慮すべき点は、第1に与えられた作動温度範囲内に凝固点のある液体であること、第2にそのような液体のうちで潜熱が大きくて熱サイクルに対して安定していること、第3に容器材料とうまく適合することである。想定されるPCM材料に対する金属製容器10の材料の耐食性データを表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
PCM3として、例えば、n−パラフィン系のn−オクタデカンを選択した場合、その融点および融解熱は上記表1よりそれぞれ28.2℃および243[kJ/kg]である。そして、PCM3を収納する金属製容器10の材料としては表2より熱伝導率が大きな値をもつ銅が選択可能である。
【0076】
前記プラスチック製の容器11としては、その内部に収納される蓄熱体Aおよびガス検知体2に外気の温度の影響を受けにくくする必要があるので、可能な限り断熱特性のよい材料を選定することが望ましい。そうした材料として、熱伝導率の比較的小さなプラスチックを表4に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
例えば、断熱性のプラスチックとしては、室温近傍での熱伝導率κが0.1前後のポリスチレン(0.125[W/m・K]、300K)、アクリル(0.189[W/m・K]、300K)、塩化ビニール(0.161[W/m・K]、300K)などが考えられる。最後に、これら全体を外気より断熱するために用いる断熱材料の熱物性値を表5に示す。
【0079】
【表5】

【0080】
発泡プラスチック系断熱材(押出法ポリスチレンフォーム、ビーズ法ポリスチレンフォーム、硬質ポリウレタンフォーム)は、金型を用いて成形が可能であるため、断熱材製の容器12として利用可能である。他方、無機繊維系断熱材(代表的なものとして、グラスウール、ロックウール)の場合、繊維状の材料を保持するための容器を別途準備する必要があり、本発明のガス濃度測定器には適さない。
【0081】
表5より、断熱材製の容器12の断熱材料としては、熱伝導率が0.04[W/m・K]以下の物質、発泡プラスチック系断熱材の押出法ポリスチレンフォーム(κ=0.028〜0.040[W/m・K])、ビーズ法ポリスチレンフォーム(κ=0.034〜0.043[W/m・K])、硬質ポリウレタンフォーム(κ=0.023〜0.026[W/m・K])、あるいはエアロゲル、特に、シリカエアロゲル(κ=0.017[W/m・K])などを利用することが考えられる。
【0082】
このようなオゾンガス濃度測定器1によるオゾンガスの測定に際しては、液相のPCM3を金属製の容器10内に注入口14から充填してキャップ15で注入口14を気密に閉塞する。
【0083】
次に、この金属製の容器10の前面所定箇所にガス検知体2を密着させた状態で、金属製の容器10をプラスチック製の容器11に収納し、ガス検知体2の曝露部7を窓17から容器外部に露呈させる。プラスチック製の容器11の上方開放部16の内側縁には、ガス検知体2および金属製の容器10の抜けを防止する断面三角形の突状体からなる抜け防止部31が一体に突設されている。
【0084】
次に、プラスチック製の容器11を断熱材製の容器12内に装填して蓋体23で開口部22を閉塞する。これによりオゾンガス濃度測定器1の組立てが完了する。
【0085】
このようなオゾンガス濃度測定器1は、オゾンガスが存在する環境下に一定時間(例えば、8時間)設置して使用するか、または測定者が携帯した状態で使用する。測定者が携帯使用する場合は、例えば断熱材製の容器12の背面側にピン34付きのクリップ33を両面粘着テープ35によって固定し、ピン34を測定者の衣服に止めて使用するか、あるいはオゾンガス濃度測定器1を紐や鎖等の吊り下げ手段で首や腰に吊して使用する。
【0086】
測定環境の大気中にオゾンガスが存在すると、ガス検知体2の曝露部7がオゾンガスによって曝露されて変色する。この変色した色とカラーチャート21の色見本21a〜21cとを見比べることにより、オゾンガスの曝露量を測定することができる。すなわち、曝露部7の色が色見本21bの色と略等しければ、オゾン濃度400ppbと判定し、色見本21cの色と略等しければ、オゾン濃度800ppbと判定する。
【0087】
寒冷地での測定において、金属製の容器10内に充填されている液状のPCM3は全て凍結するために凝固熱を放出する。この凝固熱を放出するまでは金属製容器10内のPCM3は凍結せず、金属製容器10の温度は凝固点に固定される。このため、金属製の容器10は、この凝固熱によって加熱され一定温度に保持される。また、この金属製の容器10の温度は熱伝導によってガス検知体2にも伝達されるため、ガス検知体2も一定温度に保持される。この一定温度は、PCM3が完全に固化するまで保持される。したがって、寒冷地であってもガス検知体2の曝露部7に含まれている有機系色素の化学変化が外気温度によって遅くなったりすることがなく、オゾン濃度を正確に測定することができる。凝固熱は、一般に単位質量当たりで与えられるので、その動作可能時間は、金属製容器10に貯蔵しているPCM3の質量で決まる。つまり、測定時間を長くしたい場合は、大量のPCM3を用い、短時間でよいときは少量のPCM3を用いればよい。
【0088】
金属製の容器10は固−液共存相の一定圧力に耐えれば充分であるので、金属製の容器10を構成する金属板の厚さを薄くするなどしてオゾンガス濃度測定器1の重量を軽減することが可能である。なお、オゾン濃度の測定が終了すると、ガス検知体2を断熱容器Bから取り出して新しいガス検知体2と交換することにより、金属製の容器10および断熱容器B自体は再利用することができる。また、PCM3も消耗がほとんどなく、固相から液相に戻すことによりそのまま利用することができる。
【0089】
図4(a)〜(c)は、オゾンガス濃度測定器1の各部を通過する1次元熱伝導を模擬して示す図である。
同図(a)は大気曝露用の窓17と開口部19を含まない断面における熱伝導を模擬して示す図、(b)は蓋体23を含む断面における熱伝導を模擬して示す図、(c)は大気曝露用の窓17と開口部19を含んだ断面における熱伝導を模擬して示す図である。大半の部分は、図4(a)に示すように温度T1 のPCM3は熱伝導率κ1 で厚さδ1 の金属製容器10に貯蔵されている。また、この金属製容器10は、断熱性を有するプラスチック製の容器11(熱伝導率κ2 、厚さδ2 )中に収納されている。さらに、全体は断熱材で構成された断熱材製の容器12(熱伝導率κ3、厚さδ3)を介して、温度T外気の大気に曝されている。
【0090】
以下、PCM3としてはn−オクタデカンを、金属製の容器10の材質としては銅を、シート状ガス検知体2の材質としては濾紙(熱伝導率κ4 =0.13[W/m・K]、厚さδ4 =100[μm]=0.1[mm])を、そして、プラスチック製の容器11の材質としてはポリエチレンを、断熱材製の容器12の材質としては押出法ポリスチレンフオームを想定して、大気曝露によってどれだけ熱エネルギが外気へ逃げるかを概算し、必要なPCM3の質量を算出する。なお、以下の概算では、外気との自然対流による熱伝達係数hをh=10[W/m2 ・K]とする。
【0091】
単位面積当たりの熱移動速度(q/A)は、どの境界面でも同一であることから、フーリエの熱伝導の法則を用いて、次式が成り立っ。
【0092】
【数1】

【0093】
ここで、Aは伝熱面積、qは単位時間当たりの熱移動量である。
【0094】
上記式(1)より、T2 ,T3 ,T4 を消去して総括伝熱係数Uaを求めると、次式(2)で与えられる。
【0095】
【数2】

【0096】
総括熱伝熱係数Uaを用いると、熱移動量qは、次式(3)により与えられる。
【0097】
【数3】

【0098】
ここで、△T全体≡(T1 −T外気)は、PCMの温度Tl と外気温T外気との総温度差を表している。厚さδ1 =1[mm]、κ1 =384[W/m・K]の銅、厚さδ2 =1.5[mm]、κ2 =0.34[W/m・K]のポリエチレン製の容器11、厚さδ3 =1[cm]、κ3 =0.028[W/m・K]の押出法ポリスチレンフォームの樹脂製容器12から構成された多層構造に対して、前記総括伝熱係数Ua は、2.17[W/m2 ・K](断熱材厚1[cm]の場合)、あるいは1.22[W/m・K](断熱材厚2[cm]の場合)となる。
【0099】
また、容器上部では、図4(b)に示すように、温度Tl に保持されたPCM3は熱伝導率κ1 で厚さδ1 の金属製容器10に貯蔵され、この金属製容器10は熱伝導率κ3 で厚さδ3 の断熱材製の容器12を介して、温度T外気の大気に曝されている。上記(1)式と同様に考えることで、この部分での総括伝熱係数Ub は次式(4)により与えられる。
【0100】
【数4】

【0101】
厚さδ1 =1[mm]、κ1 =384[W/m・K]の銅、厚さδ3 =1[cm]、κ3 =0.028[W/m・K]の押出法ポリスチレンフォームから構成された多層構造に対して、前記総括伝熱係数Ub は、2.19[W/m2 ・K](断熱材厚1[cm]の場合)、あるいは1.23[W/m・K](断熱材厚2[cm]の場合)となり、図4(a)の構成における値と略同一であることが判る。すなわち、Ub≒Uaである。よって断熱性プラスチック材料を用いた容器11の断熱効果は微々たるものであるといえる。
【0102】
さて、開口部19では図4(c)に示すようにPCM3は熱伝導率κ1 で厚さδ1 の金属製の容器10に貯蔵され、この金属製の容器10は熱伝導率κ4 で厚さδ4 のガス検知体2(主に紙により構成)を介して、温度T外気の大気に曝されている。上記(1)式と同様に考えることで、この部分での総括伝熱係数Ucは、次式(5)によって与えられる。厚さδ1 =1[mm]、κ1 =384[W/m・K]の銅、厚さδ4 =0.1[mm]、κ4 =0.13[W/m・K]のガス検知体2から構成された多層構造に対して、前記総括伝熱係数Uc は、9.92[W/m2 ・K ]である。この部分の伝熱は、空気による熱対流によりほぼ決まっている。
【0103】
【数5】

【0104】
ここで、搭載すべきPCM3の量をM[kg]、PCM3の単位質量当りの潜熱をHm〔kJ/kg〕とすると、このPCM3が相変化する間に外部環境へ放出する熱量Q〔J〕は、Q=M・Hmで与えられる。
【0105】
いま、名刺サイズ、すなわち縦9cm×横6cm×厚2cmの金属製容器10を仮定する。前記表1よりPCMであるオクタデカンの融解熱Hmは243[kJ/kg]、密度ρは固体の場合850[kg/m3 ]であるから、固体のオクタデカンの質量Mは次式(6)によって与えられる。
【0106】
【数6】

【0107】
また、その融解熱Qは、次式(7)によって与えれられる。
【0108】
【数7】

【0109】
このPCM3を充填した金属製の容器10の全表面積Sは、次式(8)によって与えられる。
【数8】

【0110】
このうち、大気曝露している部分の表面積S1 は、次式(9)によって与えられる。
【0111】
【数9】

【0112】
第1の実施の形態で示された構造のオゾンガス濃度測定器1において、PCM3であるオクタデカンが温度T1 =30℃に保温されている状態から、外気温0℃の環境に曝露されたとすると、総温度差ΔT全体=30℃であり、大気曝露されている部分とそれ以外の部分の熱抵抗は、それぞれR大気曝露=(A開口部 ・Uc)-1=(2.25×10-4×9.92)-1=448[℃/W]、Rそれ以外=(A被曝部 ・Ua)-1=(1.6575×10-2×2.19)-1=27.55[℃/W](断熱材厚さ1cmの場合)または49.1[℃/W](断熱材厚さ2cmの場合)である。これらが並列接続されているので、全熱抵抗1/R全体=1/R大気曝露 +1/Rそれ以外で与えられ、それぞれR全体=25.95[℃/W](断熱材厚1cmの場合)または44.25[℃/W](断熱材厚2cmの場合)である。
【0113】
したがって、図4に示す多層構造から外気へと逃げていく熱移動量qは、q=△T全体/R全体=1.16[W](断熱厚1cmの場合)または0.68[W](断熱材厚2cmの場合)である。
【0114】
したがって、PCM3が相変化する間に供給できる総熱量Qをこの単位時間当たりの熱移動量qで割ることによって、温度T1 に保持される時間τは、次式(10)で与えられる。
【0115】
【数10】

【0116】
よって、開口部19の面積が1.5[cm2 ]の場合、断熱材厚を2cmとした断熱材製の容器12を用いることで、転移温度である28.2℃に約9.1[h]程度ほど保持できることが判る。
【0117】
なお、全体が完全に溶解しているPCM3を冷却すると、PCM3の熱容量と熱流量との関係にしたがって次第に温度が下降し、やがて凝固点温度に達すると凝固が始まる。凝固が進行している間中、その温度は一定に保持され、全部が凝固し終わるとまた温度は下降を始める。逆に、温度を上げていくと融解熱の吸収によりこれとは正反対の相変化(固体から液体への相変化)が起こる。
【0118】
以上がPCM3の理想的な温度挙動ではあるが、実際には、凝固に関してはかなりの程度の過冷却状態が現れ、かつPCM内部の温度の不均一もあり、理想的な場合とは少し異なる温度変化を示すことも懸念される。
【0119】
特に、高純度の媒質をPCM3として用いた場合には、過冷却の程度が大きくなる傾向があるので、やや不純物の混入したPCM3を用いてもよい。その場合、不純物の混入によるPCM3の分解、あるいは構造材の腐食などが促進される可能性があるので、不純物の選定に関しては、金属製容器10の材質もよく考慮に入れて選択することが望ましい。
【0120】
そこで、本発明において用いられるPCM3としては、PCM3(例えば、n−オクタデカン)以外に、公知の蓄熱保温材、n−パラフィン(n−オクタデカンとは別の融点をもつもの)、グリセリン等の低分子化合物、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、フッ素樹脂等のポリマー、水不溶性吸水性樹脂、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、微粉シリカ、合成マイカ等の増粘剤、フェノール系、アミン系、ヒドロキシルアミン系、硫黄系、リン系等の酸化防止剤、クロム酸塩、ポリリン酸塩、亜硝酸ナトリウム等の金属腐食防止剤、ステアリン酸塩、ベヘン酸塩等の脂肪酸の金属塩からなる過冷却防止剤等の添加剤を適宜添加してもよい。
【0121】
また、本実施の形態では、PCM3の例としてパラフィン、特に、オクタデカンを念頭に記載したが、それ以外には、融解熱Hm[kJ/kg]が200前後の水和塩、例えば、水和塩化カルシウム、含水硝酸リチウム、硫酸ナトリウム・十水和物(グラウバー塩)、水和炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物、硝酸亜鉛・六水和物などの使用も可能である。また、その他のPCM3に好適な有機物としては、トリミリスティン、パルミチン酸メチル、カプリン酸(デカン酸)、d体−乳酸、グリセリン(グリセロール)、酢酸、カプリル酸(オクタン酸)、エチレンジアミン、蟻酸なども使用可能である。
【0122】
また、固体状のPCM3の例として、直径2〜3μmのマイクロカプセル中にPCM3を充填した蓄熱マイクロカプセル等を用いてもよく、上記の第1の実施の形態において詳述したように、固体や液体の純物質に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0123】
例えば、表1に記載のコンフォテンプは、直径が2〜3μmの金属酸化物ゲルで被覆された蓄熱マイクロカプセル(Thermasorb:登録商標)がウレタンフォームに分散されたものである。この蓄熱マイクロカプセルの内部にはn−パラフィン系の直鎖炭化水素等のPCMが充填されており、温度により液体および固体と状態変化することにより、熱を吸収したり放出する機能をマィクロカプセル自体が有している。
【0124】
同様に、表1に記載のPMCD(三木理研工業社)は、殻材料のメラミン樹脂により芯物質パラフィンを被覆したパウダー状の蓄熱蓄冷マイクロカプセルであり粉体形状で提供される。
【0125】
そこで、図5に示す第2の実施の形態のように、PCM3を充填したマイクロカプセルを用いてもよい。すなわち、この実施の形態は、本発明を構成するガス検知体2の動作温度に対応した転移点をもつ直径が2〜3μmの粉体からなるPCM3を蓄熱マイクロカプセル36(36A,36B)に充填し、このマイクロカプセル36を金属製容器10の中に最密充填することで、本発明の第1の実施の形態で説明したような蓄熱体を構成したものである。この場合、PCM3をマイクロカプセル36に収納した状態で金属容器10に充填するだけであるので、PCM3による腐食を防止するために金属容器10の内面に耐食保護膜をコートしたりする工程を省くことが可能となる。マイクロカプセル36を構成する殻部分そのものが、内蔵されるPCM3の耐酸化性や耐溶剤性、あるいは機械的耐応力性および耐燃性を向上させる被覆となっている。
【0126】
同様に、表1に記載のアウトラストは、パラフィンワックスを充填したやはり直径2〜3μmの蓄熱マイクロカプセルをアクリルファイバ内に分散させた繊維状の蓄熱保温材である。この繊維状の蓄熱保温材を金属製容器10の中に充填することで、本発明の第1の実施の形態で説明した蓄熱体を構成することも可能である。
【0127】
一般に、直径dμmの剛体球を一辺の長さdの立方体に充填させると、単純立方格子状に充填させた場合は剛体球の占有率はπ/6=0.524に過ぎず、0.476もの空隙が残留する。蓄熱量はマイクロカプセル内のPCMの量で決まるので、剛体球の占有率をもっと向上させる必要がある。そこで、最密充填構造といわれる面心立方格子状(あるいは六方最密充填構造)に充填させると、剛体球の占有率は√2π/6=0.740まで向上するが、それでも依然として0.26の空隙が残留する。そこで、面心位置とそれを取り囲む四つの格子点位置にある半径√2d/4の鋼体球が作る隙間を別の直径をもつ第2の剛体球により埋めることにすると、その第2の剛体球の直径は第1の剛体球の直径の(2−√2)/2=0.293倍であればよい。この第2の剛体球を空隙に埋めることにより、充填率は3π(20−14√2)/128=0.0148だけ増加する。したがって、直径2μmの蓄熱マイクロカプセル36Aとともに直径0.586μmの蓄熱マイクロカプセル36Bを金属製容器10に充填し、物理的に振動を与えるなどすることで充填率が約0.755の蓄熱体を構成することが可能である。
【0128】
いうまでもなく、金属製容器10の中に上記の方法により粉体の蓄熱マイクロカプセル36を充填した後は、上蓋13にある注入口14(図2)を金属製のキャップ15によって気密状態となるように閉塞することにより密閉型の容器を形成する。あるいは、金属製容器10と略同体積の型枠を準備し、その中に粒子直径2μmおよび0.586μmのそれぞれにピーク粒径をそれぞれもつ蓄熱マイクロカプセルを充填して、上記と同様に物理的に振動を与えるなどして充填率を向上させた上で、残る空隙0.245にメタクリル酸メチル液体を圧入、浸透させ、紫外線照射などによってラジカルを発生させて付加重合させる。最終的に、蓄熱マイクロカプセルで充填されたポリメタクリル酸メチル(またはアクリル樹脂)を得る。ここで圧入、浸透させるメタクリル酸メチル液体は、予め有機溶媒に溶解したものを紫外線照射等により、その粘度がマイクロカプセルで充填された容器内に浸透していく程度まで付加重合させたものを用いる。
【0129】
この場合、アクリル樹脂は蓄熱板などの形状を保持するための骨格部材として作用し、蓄熱作用そのものは蓄蓄熱マイクロカプセルによって担われる。因みに、純粋なアクリル樹脂(PMMA=ポリメタクリル酸メチル)の熱伝導率は0.21[W/m・K]であるので、どちらかというと断熱材に近い熱伝導特性である。しかし、この蓄熱板の全体積の75%はPCMが構成しており、骨格材であるPMMAの構成比は24%程度に過ぎない。
【0130】
充填する粉末状のPCMとして、メラミン樹脂被覆された蓄熱蓄冷マイクロカプセルを用いる場合には、蓄熱板を構成するための骨格樹脂としてはメラミン樹脂が好適である。この場合も、メラミンとホルマリンを予め反応させてメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミンが生成された中間体の溶液を準備しておく。溶液の粘度は、この溶液が上記蓄熱蓄冷マイクロカプセル充填体へ浸透する程度のものに留めておく。中間体溶液を前記充填体に浸透させた後、マイクロカプセルのメラミン被膜を破壊しない程度の温度に加熱してメチレン化反応を行わせて硬化することで、最終的にメラミン樹脂が骨格となった蓄熱蓄冷マイクロカプセルの充填された蓄熱板が得られる。因ちに、純粋なメラミン樹脂の熱伝導率は0.32〜0.421[W/m・K]程度あり、PMMAの1.5〜2倍の熱伝導率をもつ。PMMAでの議論と同様、メラミン樹脂は骨格材であるに過ぎず、蓄熱作用そのものはこの蓄熱板の全体積の75%を占有している蓄熱蓄冷マイクロカプセルによって担われていることはいうまでもないことである。これらの蓄熱板は、PCM3を充填した金属製容器10と同様の作用をもたらすものである。ただし、熱伝導率を高めるとともに脱ガス化対策として、蓄熱板の表面全体にアルミニウム等の金属膜を蒸着等によって形成しておくことが望ましい。このような金属膜を形成しておくと、金属製容器10が必ずしも必要ではなく、ガス濃度測定器自体を軽量化することが可能である。
【0131】
ここで、上記第1の実施の形態においては、寒冷地において使用するオゾンガス濃度測定器1について説明したが、本オゾンガス濃度測定器1を使用する場所の平均気温に合わせて、金属製容器10に貯蔵するPCM3の相状態を変更することで、暑熱地でも利用することができる。その場合、暑熱地においては、固体から液体に相変化する際の融解熱を利用したオゾンガス濃度測定器を用いればよい。すなわち、固体が液体に変化するときは、外部から融解熱を吸収するため、PCM3の温度は融解点に固定される。このため、金属製の容器10の熱が奪われ、この融解点に固定される。また、金属製の容器10が冷却されると、ガス検知体2の温度も下がり融解点に保持される。したがって、PCM3が固体から液体に完全に相変化するまではガス検知体2の温度を一定に保持することができ、オゾンガスの測定を行なうことができる。
【0132】
図6は本発明をオゾンガス濃度測定器に適用した第3の実施の形態を示す分解斜視図、図7は図6のVII −VII 線断面図である。この実施の形態は、液体状態のPCM3が気化する際の蒸発熱(気化熱)を利用した暑熱地で使用して好適なオゾンガス濃度測定器40に適用したものである。なお、上記した第1の実施の形態と同一構成部材、部分については同一符号をもって示し、その説明を適宜省略する。
【0133】
液体状態のPCM3を収納する金属製の容器10の上蓋13には、PCM3の注入口14と、PCM3を容器外部に蒸散させる複数個の蒸散部41が設けられている。注入口14は、PCM3を注入した後、キャップ15によって気密に封止される。蒸散部41は、上蓋13に形成された複数個の蒸散用孔42と、容器内部のPCM3を吸い上げて容器外部に蒸散させる蒸散部材43とで構成されている。特に、液状のPCM3を一定割合で大気中に蒸散させるための蒸散部材43としては、吸液性のよい材料、例えば撚糸やフェルト等が用いられ、その内端が金属製容器10内のPCM3に浸漬され、外端が蒸散用孔42を通って容器外部に導出されている。このため、蓋体23にもPCM3を容器外部に蒸散させるために複数個の挿通孔46が前記各蒸散部41に対応して形成されている。なお、その他の構成は、上記した第1の実施の形態と同一である。
【0134】
図8は温度が液状のPCMの臨界温度以下にある場合のPCMの圧力−体積線図である。
等温状態で体積が可変の場合、PCM3が液相状態では体積の微増にともない圧力は急減し、気相状態では体積の増加にともない圧力は低減する。気−液共存状態では、体積変化が起きても圧力は一定値に保持される。これは、気−液共存状態では、体積の変化を調整するように気相の液化あるいは液相の気化が起こり、圧力が一定になるように調整されているためである。
【0135】
以下に詳しく示すように、本発明の第3の実施形態では、液状のPCM3の気化熱を利用してガス検知体2の温度を一定温度に保持する。そのために、撚糸などの蒸散部材43に液状のPCM3を染み込ませ、大気中へ蒸散させることで、沸点温度に固定するとともに、金属製容器10内の気化による圧力増加を防止している。この場合、金属製容器10は気−液共存相の一定圧力に耐えれば充分であるので、金属製容器10を構成する金属板の厚さを薄くするなどして金属製容器10の重量を低減することが可能である。
【0136】
オゾン濃度の測定時間は、PCM3の量、言い換えればPCM3が完全に蒸発するまでの時間によって決定される。なお、オゾン濃度の測定が終了すると、ガス検知体2を断熱容器Bから取り出して新しいガス検知体2と交換することにより、金属製容器10および断熱容器Bは再利用することができる。
【0137】
液状のPCM3が金属製容器10の内部に存在して、気相−液相共存状態を保持すると、金属製容器10の温度T1 は、内蔵した液状のPCM3の沸点温度に固定される。そこで、金属製容器10に収納するPCM3の種類を替えることによって沸点を変え、必要とする動作温度を実現することができる。したがって、暑熱地で利用することを想定すると、金属製容器10に貯蔵すべきPCM3としては、沸点が該当地城の平均気温より数度下にあるような揮発性液体などが考えられる。液状のPCM3が蒸散する際の気化熱Hbによって、金属製容器10の温度は一定値(沸点温度)に保たれる。
【0138】
ここで、液体から気体に相変化するPCM3は、ガス検知体2の動作温度として想定される温度範囲に転移点をもつ物質が選択される。そこで、40℃以下でかつ室温近傍で使用可能な幾つかのPCM3の物性値を以下の表6に示す。
【0139】
【表6】

【0140】
本発明の本実施の形態に好適な有機化合物系のPCM3としては、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−ブタン、1−ペンテン、アセトアルデヒド、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレンオキシド、R11(すなわち、トリクロロフルオロメタン、CCl3F )、R21(すなわち、ジクロロフルオロメタン、CHCl2F)、ジクロロメタン、塩化カルボニル(すなわち、ホスゲン、COCl2 )、R114(すなわち、1,2−ジクロロテトラフルオロエタン、C2Cl2F4)を挙げることができる。
【0141】
室温近傍に沸点のある液体は、有機系の化合物ならびに冷媒液体に多く存在するが、可燃性のものが多く、人体への有害性などを考慮すると、あまりよいものがない。
【0142】
なお、第3の実施の形態におけるオゾンガス濃度測定器40の動作原理は、融解熱Hmの代わりに気化熱Hbを利用する点で第1および第2の実施の形態と異なっている。ただし、蒸散により液状のPCM3の量が減少していくので、定期的にPCM3の量を補充する必要がある。
【0143】
図9は、PCMの温度−圧力線図で、Aは水の場合の温度−圧力線図、Bは水以外の一般的な物質の温度−圧力線図である。温度の上昇にともなって、一定体積の容器に密封された液状のPCM(A,B)は気体に相変化するので、容器の内圧が増大する。この内圧に耐えられる強度が容器には求められる。
【0144】
具体的に考察するため、PCM3として沸点が27.9℃のイソペンタンを選択すると、金属製容器10はアルミや銅等が想定される。ただし、動作時間について考察するためには、蒸発の際の蒸発熱のみではなく、蒸発速度できまるPCM3の減少量が問題となる。
【0145】
今、25℃で静止した空気層を通して等温下で蒸散部材43からPCM3が蒸発して拡散してゆく過程について、ステファンの法則(Stefan’s Law)が成り立っていると仮定すると、PCM3の総移動量m (蒸発量)は、次式(11)により与えられる。
【0146】
【数11】

【0147】
ここで、Aは蒸散の面積[m2 ](=9.8×10-7[m2 ]、蒸散用孔42の直径0.5[mmφ]が5本程度とする)、pは大気圧(=1.013×105 [Pa])、(z2 −z1 )は蓋体23に設けられた蒸散用の挿通孔46の長さ(=2×10-2[m]、ただし断熱厚2[cm]の場合、したがって、zl は上蓋13の高さで、z2 は蓋体23の蒸散用通気孔46の高さ)、P液1はz1 の上蓋13にある蒸散用孔42におけるPCM3の分圧で、ここでは25℃でのイソペンタンの飽和蒸気圧(=9.184×104 [Pa])を仮定する。他方、z2 の位置にある断熱材製の蓋体23に設けられた蒸散用通気孔46でのPCM3の蒸気圧p液2は乾燥空気中に拡散するから0である。M相変化物質 はPCM3の分子量(Mイソペンタン=72.1)、T外気は外気温度で25℃であり、R0( =8.314[J/mo1・K])はガス定数、イソペンタンの25℃での拡散係数Dは、D=8.42×10-6[m2]を用いる(N.H.Chen,D.F.Othmer,J.Chem.Eng.Data,7,37(1962))。よって、イソペンタンの蒸発速度mイソペンタンは、次式(12)によって与えられる。
【0148】
【数12】

【0149】
上記した第1の実施の形態と同様に、名刺サイズ、すなわち、縦9cm×横6cm×厚2cmの金属製容器10を仮定すると、イソペンタン(液体)の密度ρは、ρ=0.62007[g/cm3 ]であるから、この金属製容器10には、M=ρV=0.62007×9×6×2=66.97[g]のイソペンタンが存在する。上記の蒸発速度で減少していくとすると、全部蒸発するのに2.322×107 [s]=6.45×103 [h]の時間を必要とする。全て蒸発してしまうと金属製容器10の温度はイソペンタンの転移点に固定されなくなるので、全部でなく約1/3が蒸発するまでの時間としても、2.18×103 [h]=90[day]の時間はイソペンタンが金属製容器10内に1/3以上の量残留することになる。
【0150】
図10は本発明の第4の実施の形態を示す分解斜視図、図11は減圧弁の断面図である。この実施の形態は、固体(または粉末)状態のPCM3が気化する際の昇華熱を利用した暑熱地で使用して好適なオゾンガス濃度測定器60に適用したものである。固体(粉末状)のPCM3が金属製容器10内に存在して、気−固相共存状態を保持する限り、金属製容器10の温度は内蔵した固体(粉末)状のPCM3の昇華温度に固定される。固体からの昇華により、容器10の内部圧力は高くなるので、この圧力を上蓋13に設けた減圧弁61によって容器外部に逃がすことにより、金属製容器10を沸点温度に固定するとともに、金属製容器10内のPCM3の気化による圧力増加を防止している。この場合、金属製容器10は固−気共存相の一定圧力に耐え得る形状、厚さ等が要求される。
【0151】
このため、本実施の形態においては、金属製容器10の横断面形状を楕円形にしている。また、プラスチック製の容器11も、金属製容器10を収納し得る大きさの横断面形状を楕円形とし、さらに断熱材製容器12についてもプラスチック製の容器11を収納し得る大きさの横断面形状を楕円形としている。
【0152】
金属製容器10に収納されるPCM3の種類を替えることにより昇華点を変え、必要とする動作温度を実現することができる。例えば、暑熱地で利用することを想定すると、金属製容器10に貯蔵すべきPCM3としては、昇華点が該当地域の平均気温より数度下にあるような昇華性固体などが考えられる。PCM3が昇華する際の昇華熱Hsによって、金属製容器10の温度は、一定値(昇華点)に保たれる。
【0153】
ここで、固体から気体に相変化するPCM3はガス検知体2の動作温度として想定される温度範囲に転移点をもつ物質が選択される。そこで、40℃以下でかつ室温近傍で使用可能な幾つかのPCMの物性値を以下の表7に示す。
【0154】
【表7】

【0155】
本発明の本実施の形態に好適な有機化合物系のPCM3としては、デカン酸(すなわち、カプリン酸)、ラウリン酸(すなわち、ドデカン酸)、p−ニトロフェノール、o−ニトロアニリン、ε−カプロラクタムを挙げることができる。
【0156】
図11において、前記減圧弁61は、両端開放の円筒体からなる本体63と、同じく両端開放の筒体からなり前記本体63の上端側開口部に螺合されたキャップ64と、本体63内に組み込まれたボール65およびこのボール65を下方に付勢し、シートリング66に押し付ける圧縮コイルばね67と、この圧縮コイルばね67とボール65を収納する筒体68と、本体63の下端部に螺合されたダブルナット69等で構成されている。本体63は、下端部が上蓋13に形成したねじ孔に螺合され、ダブルナット69によって固定されている。ボール65は、通常シートリング66に圧接されることにより減圧弁61を全閉状態に保持しており、金属製容器10内の圧力が一定値以上に上昇すると圧縮コイルばね67に抗して押し上げられ、減圧弁61を開くように構成されている。すなわち、金属製容器10内の内圧は、気化したPCM3の飽和蒸気圧だけ増加するので、この圧力増加分を減圧弁61が逃がすようにしている。なお、キャップ64によって圧縮コイルばね67のボール65に対する押圧力を調整することによって、開弁開始動作圧を変更することができる。この動作圧は、1.1気圧程度に設定される。なお、蓋体23には貫通孔62が減圧弁61(図10)に対向する位置に形成されている。
【0157】
このオゾンガス濃度測定器60の動作原理は、上記した第1および第2の実施の形態で示した融解熱Hmの代わりに昇華熱Hsを利用する点で異なっている。ただし、固体(粉末)状のPCM3は、昇華により気化すると減圧弁61を介して大気中に拡散して量が減少していくので、定期的に固体(粉末)状のPCM3を補充する必要がある。
【0158】
このようなオゾンガス濃度測定器60においても、金属製の容器10の温度は固体状のPCM3が全て気化するまでその昇華温度に固定されるので、暑熱地であってもガス検知体2の曝露部7に含まれている有機系色素の化学変化が外気温度によって速くなったりすることがなく、オゾン濃度を正確に測定することができる。
【0159】
図12は、本発明の第5の実施の形態を示すオゾンガス濃度測定器70の外観斜視図である。この実施の形態は、蓄熱体Aおよび断熱容器Bを縦長の薄箱型に形成し、紐71によって首から吊下げて使用するように構成したものである。オゾンガス濃度測定器70は、第3の実施の形態と同様に液体から気体に相変化するPCMを用いた暑熱地用の測定器を構成している。
【0160】
図13は、本発明の第6の実施の形態を示すオゾンガス濃度測定器80の外観斜視図である。この実施の形態は、同じく蓄熱体Aおよび断熱容器Bを縦長の薄箱型に形成し、ピン34とクリップ81によって衣服に止めて使用するように構成したものである。オゾンガス濃度測定器80は、第3の実施の形態と同様に液体から気体に相変化するPCMを用いた暑熱地用の測定器を構成している。
【0161】
なお、本発明は上記した実施の形態に何ら限定されるものではなく、種々の変形、変更、組み合わせが可能である。例えば、上記した実施の形態においては、いずれもオゾンガスに反応する色素としてインジゴ環を有する色素を用いたが、これに限らずトリフェニルメタン色素やフクソイミン環等を用いてもよい。
【0162】
また、上記した実施の形態は、いずれもオゾンガス濃度測定器1,40,60,70,80に適用した例について説明したが、これに何ら特定されるものではなく、例えば検知剤として二酸化窒素ガス(NO2 )に反応するジアゾ化試薬およびカップリング試薬の混合物等を多孔体に含浸させたガス検知体を用いた場合には、二酸化窒素ガス濃度測定器にも適用することが可能である。
【0163】
さらに、液体から固体、液体から気体、固体から気体に相変化するPCMを用いたガス濃度測定器に限らず、固体から液体(暑熱用)、気体から液体(寒冷地用)、気体から固体(寒冷地用)に相変化する物質を用いたガス濃度測定器にも適用することが可能である。その場合、上記したように、金属製容器10を耐圧構造としたり、圧縮機を用いればよい。
【0164】
さらにまた、断熱容器は、プラスチック製の容器と断熱材製の容器を一体に形成したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明の動作原理を説明するための図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示すオゾンガス濃度測定器の分解斜視図である。
【図3】図2のIII −III 線断面図である。
【図4】(a)〜(c)は多層構造を通過する一次元熱伝導を模擬して示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態を示すオゾンガス濃度測定器の断面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態を示すオゾンガス濃度測定器の分解斜視図である。
【図7】図6のVII −VII 線断面図である。
【図8】液状相変化物質の圧力−体積線図である。
【図9】相変化物質の温度−圧力線図である。
【図10】本発明の第4の実施の形態を示すオゾンガス濃度測定器の分解斜視図である。
【図11】減圧弁の断面図である。
【図12】本発明の第5の実施の形態を示すガス濃度測定器の外観斜視図である。
【図13】本発明の第6の実施の形態を示すガス濃度測定器の外観斜視図である。
【図14】有機系色素の退色(または発色)反応速度の温度依存性(アレニウスプロット)を示す図である。
【符号の説明】
【0166】
1…オゾンガス濃度測定器、2…ガス検知体、3…相変化物質、7…曝露部、10…金属製の容器、11…プラスチック製の容器、12…断熱材製の容器、17…窓、19…開口部、21…カラーチャート、36…マイクロカプセル、41…蒸散部、42…蒸散用孔、43…蒸散部材、40…オゾンガス濃度測定器、60…オゾンガス濃度測定器、61…減圧弁、70,80…オゾンガス濃度測定器、A…蓄熱体、B…断熱容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のガスに反応して変色する曝露部を有するガス検知体と、このガス検知体の温度を一定に保つ蓄熱体と、この蓄熱体と前記ガス検知体を収納する断熱容器とを備え、
前記蓄熱体を大気圧下であって一定の温度範囲内において潜熱によって相変化する相変化物質と、この相変化物質を収納する金属製の容器とで構成し、
前記ガス検知体を前記金属製の容器の表面に密着させた状態で前記断熱容器内に収納し、前記断熱容器に前記ガス検知体の曝露部を外部に露呈させる開口部分を設けたことを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項2】
特定のガスに反応して変色する曝露部を有するガス検知体と、このガス検知体の温度を一定に保つ蓄熱体と、この蓄熱体と前記ガス検知体を収納する断熱容器とを備え、
前記蓄熱体を大気圧下であって一定の温度範囲内において潜熱によって相変化する相変化物質と、この相変化物質を収納する金属製の容器とで構成し、
前記断熱容器を、窓を有し前記金属製の容器と前記ガス検知体を収納するプラスチック製の容器と、前記窓に対応して開口部を有し前記プラスチック製の容器を収納する断熱材製の容器とで構成し、
前記ガス検知体を前記金属製の容器と前記プラスチック製の容器との隙間に、前記金属製の容器に密着させた状態で配置して前記曝露部を前記窓および前記開口部から断熱容器の外部に露呈させたことを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項3】
請求項1または2記載のガス濃度測定器において、
前記相変化物質が固体から液体、液体から固体、液体から気体、気体から液体、固体から気体、および気体から固体に相変化する物質のうちのいずれか1つであることを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項4】
請求項1または2記載のガス濃度測定器において、
前記金属製の容器を密閉構造とし、
前記相変化物質が固体または粉体からなり、その融解熱によりガス検知体の温度を一定に保つことを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項5】
請求項1または2記載のガス濃度測定器において、
前記金属製の容器を密閉構造とし、
前記相変化物質が液体からなり、その凝固熱によりガス検知体の温度を一定に保つことを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項6】
請求項1または2記載のガス濃度測定器において、
前記相変化物質が液体からなり、その気化熱によりガス検知体の温度を一定に保ち、
前記金属製の容器に前記相変化物質を吸い上げて容器外部に蒸散させる蒸散部を設けたことを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項7】
請求項1または2記載のガス濃度測定器において、
前記相変化物質が固体からなり、その昇華熱によりガス検知体の温度を一定に保ち、
前記金属製の容器に内圧が一定値以上に高くなると外部に逃がす減圧弁を設けたことを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項8】
請求項1または2記載のガス濃度測定器において、
前記相変化物質が、n−パラフィン系炭化水素、有機化合物、香料を溶解した有機溶媒、水和物あるいは相分離防止剤が添加された水和物あるいは過冷却防止剤が添加された水和物のうちのいずれか1つであることを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項9】
請求項1または2記載のガス濃度測定器において、
前記蓄熱体が、前記相変化物質がマイクロカプセルに収納され、粉体としての前記マイクロカプセルを金属製の容器に充填することで構成されたことを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項10】
請求項9記載のガス濃度測定器において、
前記マイクロカプセルが樹脂被覆されることにより蓄熱板を形成しており、その表面に金属膜が形成されていることを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項11】
請求項8記載のガス濃度測定器において、
前記相変化物質が、n−エイコサン、n−ノナデカン、n−オクタデカン、n−ヘプタデカン、n−ヘキサデカン、n−ペンタデカン、n−テトラデカン、およびn−トリデカンからなる群より選択される少なくとも1種のパラフィン系炭化水素であることを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項12】
請求項8記載のガス濃度測定器において、
前記水和物または相分離防止剤が添加された水和物あるいは過冷却防止剤が添加された水和物が、水和塩化カルシウム、含水硝酸リチウム、硫酸ナトリウム・十水和物、水和炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物、硝酸亜鉛・六水和物、臭化カルシウム・六水和物、硫酸亜鉛・七水和物、臭化鉄・六水和物のうちのいずれか1つであることを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項13】
請求項8記載のガス濃度測定器において、
前記有機化合物または香料を溶解した有機溶媒が、トリミリスティン、パルミチン酸メチル、カプリン酸、d体−乳酸、グリセリン、酢酸、カプリル酸、エチレンジアミン、蟻酸、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−ブタン、1−ペンテン、アセトアルデヒド、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレンオキシド、R11、R21、ジクロロメタン、塩化カルボニル、R114、ラウリン酸、p−ニトロフェノール、o−ニトロアニリン、ε−カプロラクタムのうちのいずれか1つであることを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項14】
請求項1または2記載のガス濃度測定器において、
前記金属製の容器を銅、アルミニウム、銀、タングステン、亜鉛のうちのいずれか1つで製作し、内面に耐食性の保護膜をコーティングし、さらに熱伝導率の良い金属の小片ないしは略球状微粒子または繊維状微粒子が容器内に充填されることを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項15】
請求項14記載のガス濃度測定器において、
充填する微粒子がアルミナ微粒子、シリカ微粒子のうちのいずれか1つであることを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項16】
請求項14記載のガス濃度測定器において、
前記耐食性の保護膜がプラスチック、ガラスまたはフッ素樹脂の表面コート膜であることを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項17】
請求項1〜16のうちのいずれか一項に記載のガス濃度測定器において、
前記断熱材製の容器の開口部が形成されている面に、特定のガスの濃度に対応した色を示すカラーチャートが表示されたシートを貼着したことを特徴とするガス濃度測定器。
【請求項18】
請求項6記載のガス濃度測定器において、
前記蒸散部を金属製の容器に設けた蒸散用孔と、この蒸散用孔に挿通され一端が容器外部に突出する吸液性の蒸散部材とで構成したことを特徴とするガス濃度測定器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2008−107091(P2008−107091A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287347(P2006−287347)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】