説明

ガス濃度測定方法及びガス濃度測定装置

【課題】ガス検知管を用いて、ガス濃度を精度よく(正しく)算出することができるガス濃度測定方法及びガス濃度測定装置を提供する。
【解決手段】ガス検知管を用いたガス濃度測定方法であって、前記ガス検知管にガスを通気する通気工程S1と、前記ガスが通気した前記ガス検知管をカメラで撮影する撮影工程S2と、前記カメラで撮影された前記ガス検知管の画像データを解析し、当該ガス検知管の前記ガスによる変色速度を算出する変色速度算出工程S3と、湿度センサにより、前記ガスの湿度を検出する検出工程S4と、前記変色速度と前記湿度とから、前記ガスの湿度による変色分の補正をして、前記ガスの濃度を算出するガス濃度算出工程S5と、を含むことを特徴とするガス濃度測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス濃度測定方法及びガス濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス濃度を測定するに際して、ガス検知管を用いた測定が行われている。ガス検知管は特定のガスにさらすと色変化を起こす試薬(検知剤)がガラス管の中に充填されており、その変色層の長さを読み取ることにより、ガス濃度を検出するものである。ガス検知管は取り扱いが容易であり、作業者の熟練の度合いによらず簡易かつ短時間で目的とするガス成分の濃度を検出することができる。
【0003】
従来、ガス検知管の変色長は目視で読み取っていたが、それを光学スキャナで読み取り、変色層を求める方法を本願発明者らは先に提案した(特許文献1参照)。この方法を用いることで、自動読み取りによりデータの再現性が向上し、変色境界がぼやけているときにも再現性よく変色量を測定することができる。また、ごくわずかな色変化も検出することができ、わずかな変色長の変化も測定可能である。更に、検知管画像には雑音が多く混入するが、それも信号処理により低減することができる。これらに加えて連続吸引による蓄積効果を加えれば、目視読み取り装置より1桁以上高感度化を達成することができる。
【0004】
また、1次元CCDセンサで、前記変色層を求める装置を開発し、その装置を用いて、多点同時によるガス濃度分布計測の実験を行った。1次元CCDセンサは、光学スキャナよりも小型な装置を製作することが可能であり、マイコン制御することができるため、パソコンが不要で直接無線LANに接続することができる。しかし、同時に測定することができるのは、1種類のガス検知管のみであることから、更に小型化することが必要である。
【0005】
そこで、携帯電話のカメラを用いて、ガス検知管の画像(前記変色層)を読み取る装置を提案した(特許文献2参照)。この装置では、メールの添付ファイルで画像を送り、多点のガス濃度情報を容易に収集することができる。また、携帯電話を用いることで、遠隔操作をすることもできる。更に、カメラを用いることで、目視では判断するのが難しい色変化を読み取ることができるために、感度の向上も可能である。
【0006】
しかし、カメラによる前記変色層の変色面積(変色量)の測定を進めるにつれて、目視では現れなかった問題が明らかになってきた。
【0007】
それは、湿度により、わずかにガス検知管の白色の部分(特定のガスにより変色していない部分、未変色部)が色変化を起こすことである。この色変化は、カメラで撮影した画像から変色面積を計算するときに無視することができないものである。また、ガスを通気することによって変色した変色部に関しても、変色する様子が、同濃度であっても、湿度によって異なることがわかった。具体的には、同濃度のガスを通気した場合に、そのガスの湿度が高くなるにつれて、ガス検知管の変色部の色が濃くなることがあった。この湿度依存性についても、ガス濃度測定に関して、無視することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4009725号公報
【特許文献2】特開2007−218878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記したように、ガス検知管を用いてガス濃度を測定する際において、ガスの湿度の影響を無視することができない。このことから、湿度が制御されていない通常の大気中では、ガス濃度を正しく求めることができないおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、ガス検知管を用いて、ガス濃度を精度よく(正しく)算出することができるガス濃度測定方法及びガス濃度測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るガス濃度測定方法は、ガス検知管を用いたガス濃度測定方法であって、前記ガス検知管にガスを通気する通気工程と、前記ガスが通気した前記ガス検知管をカメラで撮影する撮影工程と、前記カメラで撮影された前記ガス検知管の画像データを解析し、当該ガス検知管の前記ガスによる変色速度を算出する変色速度算出工程と、湿度センサにより、前記ガスの湿度を検出する検出工程と、前記変色速度と前記湿度とから、前記ガスの湿度による変色分の補正をして、前記ガスの濃度を算出するガス濃度算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
このガス濃度測定方法では、前記の通気工程〜ガス濃度算出工程の一連の工程を行うことによって、ガスの湿度にかかわらず(ガス検知管の色変化の湿度依存性を補正して)、ガス濃度を正しく算出することができる。
【0013】
また、前記ガス濃度測定方法において、前記ガス検知管は、複数のガス検知管からなり、前記変色速度算出工程は、前記ガス検知管の前記画像データから、各ガス検知管の画像データを切り出して解析することを特徴とする。
このガス濃度測定方法では、ガス検知管は複数のガス検知管からなり、変色速度算出工程において、ガス検知管の画像データから、各ガス検知管の画像データを切り出して解析することによって、複数のガス検知管で、複数のガスのガス濃度を算出することができる。
【0014】
また、前記ガス濃度測定方法において、前記ガス濃度算出工程は、前記ガスの濃度を、非線形写像手段を用いることで算出することを特徴とする。
このガス濃度測定方法では、ガス濃度算出工程において、非線形写像手段を用いることによって、変色速度と湿度とから、ガス濃度を算出することができる。
【0015】
また、前記ガス濃度測定方法において、前記非線形写像手段は、ニューラルネットワークであることを特徴とする。
このガス濃度測定方法では、ガス濃度算出工程において、変色速度と湿度とを、非線形写像手段である(学習終了後の)ニューラルネットワークに入力することによって、精度よくガス濃度を算出することができる。
【0016】
また、前記ガス濃度測定方法において、前記変色速度算出工程は、前記変色速度を、区分求積法を用いて求めた変色面積と、時間との関係から算出することを特徴とする。
このガス濃度測定方法では、変色速度算出工程において、カメラで撮影されたガス検知管の画像データを解析することによって、具体的には、区分求積法を用いて求めた変色面積と、(通気)時間との関係から、変色速度(反応速度)を算出する。この区分求積法を用いることによって、ガス検知管の画像データの雑音を低減することができ、適切な変色面積(変色速度)を算出することができる。
【0017】
また、前記ガス濃度測定方法において、前記変色速度算出工程は、前記変色面積を、前記ガス検知管の前記ガスによって変色していない未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正をして算出することを特徴とする。
このガス濃度測定方法では、変色速度算出工程において、ガス検知管の(特定の)ガスによって変色していない未変色部のガスの湿度による変色分の補正をして、変色面積を算出する。このことによって、未変色部の色変化の湿度依存性を補正することができ、適切な変色面積を算出することができる。
【0018】
また、前記ガス濃度測定方法において、前記変色速度算出工程は、前記未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正を、閾値法によって行うことを特徴とする。
このガス濃度測定方法では、変色速度算出工程において、未変色部のガスの湿度による変色分の補正を、閾値法により行うことによって、未変色部の色変化の湿度依存性を適切に補正することができる。
【0019】
また、前記ガス濃度測定方法において、前記変色速度算出工程は、前記未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正を、事前通気法によって行うことを特徴とする。
このガス濃度測定方法では、変色速度算出工程において、未変色部のガスの湿度による変色分の補正を、事前通気法により行うことによって、未変色部の色変化の湿度依存性を適切に補正することができる。
【0020】
また、本発明に係るガス濃度測定装置(システム)は、ガス検知管と、前記ガス検知管にガスを通気するポンプと、前記ガスが通気した前記ガス検知管を撮影するカメラと、前記カメラで撮影された前記ガス検知管の画像データを解析し、当該ガス検知管の前記ガスによる変色速度を算出する変色速度算出手段と、前記ガスの湿度を検出する湿度センサと、前記変色速度と前記湿度とから、前記ガスの湿度による変色分の補正をして、前記ガスの濃度を算出するガス濃度算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
このガス濃度測定装置では、前記のポンプ〜ガス濃度算出手段を備えることによって、ガスの湿度にかかわらず、ガス濃度を正しく算出することができる。
【0022】
また、前記ガス濃度測定装置において、前記ガス検知管は、複数のガス検知管からなり、前記変色速度算出手段は、前記ガス検知管の前記画像データから、各ガス検知管の画像データを切り出して解析することを特徴とする。
このガス濃度測定装置では、ガス検知管は、複数のガス検知管からなり、変色速度算出手段が、ガス検知管の画像データから、各ガス検知管の画像データを切り出して解析することによって、複数のガス検知管で、複数のガスのガス濃度を算出することができる。
【0023】
また、前記ガス濃度測定装置において、前記ガス濃度算出手段は、非線形写像手段であることを特徴とする。
このガス濃度測定装置では、ガス濃度算出手段が非線形写像手段であることによって、変色速度と湿度とから、ガス濃度を算出することができる。
【0024】
また、前記ガス濃度測定装置において、前記非線形写像手段は、ニューラルネットワークであることを特徴とする。
このガス濃度測定装置では、非線形写像手段がニューラルネットワークであることによって、精度よくガス濃度を算出することができる。
【0025】
また、前記ガス濃度測定装置において、前記変色速度算出手段は、前記変色速度を、区分求積法を用いて求めた変色面積と、時間との関係から算出することを特徴とする。
このガス濃度測定装置では、変色速度算出手段が、カメラで撮影されたガス検知管の画像データを解析することによって、具体的には、区分求積法を用いて求めた変色面積と、時間との関係から、変色速度を算出する。この区分求積法を用いることにより、ガス検知管の画像データの雑音を低減することができ、適切な変色面積を算出することができる。
【0026】
また、前記ガス濃度測定装置において、前記変色速度算出手段は、前記変色面積を、前記ガス検知管の前記ガスによって変色していない未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正をして算出することを特徴とする。
このガス濃度測定装置では、変色速度算出手段が、ガス検知管のガスによって変色していない未変色部のガスの湿度による変色分の補正をして、変色面積を算出する。このことによって、未変色部の色変化の湿度依存性を補正することができ、適切な変色面積を算出することができる。
【0027】
また、前記ガス濃度測定装置において、前記変色速度算出手段は、前記未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正を、閾値法によって行うことを特徴とする。
このガス濃度測定装置では、変色速度算出手段が、未変色部のガスの湿度による変色分の補正を、閾値法により行うことによって、未変色部の色変化の湿度依存性を適切に補正することができる。
【0028】
また、前記ガス濃度測定装置において、前記変色速度算出手段は、前記未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正を、事前通気法によって行うことを特徴とする。
このガス濃度測定装置では、変色速度算出手段が、未変色部のガスの湿度による変色分の補正を、事前通気法により行うことによって、未変色部の色変化の湿度依存性を適切に補正することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ガス検知管を用いて、ガス濃度を精度よく(正しく)算出することができるガス濃度測定方法及びガス濃度測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係るガス濃度測定方法を示すフローチャートである。
【図2】本実施形態に係るガス濃度測定装置の構成を示す図である。
【図3】変色面積の算出方法を示す図である。
【図4】時間と変色面積の関係を示す図である。
【図5】変色部と未変色部を示す図である。
【図6】未変色部における湿度応答例(X座標とf(x)の関係)を示す図である。
【図7】未変色部における湿度応答例(時間と変色面積の関係)を示す図である。
【図8】閾値法の効果(X座標とf(x)の関係)を示す図である。
【図9】閾値法の効果(時間と変色面積の関係)を示す図である。
【図10】事前通気法の効果(X座標とf(x)の関係)を示す図である。
【図11】事前通気法の効果(時間と変色面積の関係)を示す図である。
【図12】同濃度・異湿度ガスの作製方法を示す図である。
【図13】同濃度・異湿度ガスによる測定結果(湿度と反応速度の関係)を示す図である。
【図14】同濃度・異湿度ガスによる測定結果(ガス濃度と反応速度の関係)を示す図である。
【図15】真のガス濃度とニューラルネットワークによる推定ガス濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態について、図1〜図15を参照して説明する。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係るガス濃度測定方法は、ガス検知管を用いたガス濃度測定方法であって、ガス検知管にガスを通気する通気工程S1と、ガスが通気したガス検知管をカメラで撮影する撮影工程S2と、カメラで撮影されたガス検知管の画像データを解析し、ガス検知管のガスによる変色速度を算出する変色速度算出工程S3と、湿度センサにより、ガスの湿度を検出する検出工程S4と、変色速度と湿度とから、ガスの湿度による変色分の補正をして、ガスの濃度を算出するガス濃度算出工程S5と、を含む。
【0033】
ガス濃度測定方法で用いられる、ガス濃度測定装置1を構成するガス検知管2(図2参照)は、数mm〜十数mm程度の一定内径の所定の目盛を付したガラス管内に、アルミナ、シリカゲル等からなる数十μm程度の粒径の粒体に、検知対象となるガスと反応して変色する試薬をコーティングした検知剤が充填されている。ガラス管の一端から検体であるガス(大気)を通気することで、検知対象となるガス成分の吸入量に応じ、ガス導入端(上流端)から排気端(下流端)に向けて変色層が伸びて行く。この変色層の長さは、通気量(体積)を一定とすると、検知対象となるガス濃度が高いほど長く、低いほど短くなる。
【0034】
ガス検知管2は、検知ガスの種類によって検知剤が異なり、変色する色も異なる。ガス検知管2は市販されており、例えば、ガステック社製のNo.4LL(硫化水素用)、No.122P(トルエン用)、No.71(メチルメルカプタン用)を用いることができ、更に種々のガスに対応したガス検知管を利用することができる。
【0035】
なお、測定に使用される複数(6本)のガス検知管2は、支持部材により支持されており、当該ガス検知管2を外光から遮光する検知管ホルダ(筐体)3(図2参照、21cm×16.5cm×14.5cm)内に設置されている。この支持部材その他検知管ホルダ3内の遮光部材等の構成については、前記した特許文献2に詳しく開示されている。
【0036】
通気工程S1は、ポンプ4によって、ガス検知管2にガスを通気する工程である。
【0037】
ポンプ4(図2参照)は、配管を介してガス検知管2の下流端に接続され、ポンプ4の駆動によりポンプ4側に吸引し、ガス検知管2内にガス(大気)を通気する。ポンプ4の電源ラインは、パワーMOSFETを介して5Vの直流電源に接続され、コントローラによってON(駆動)/OFF(停止)が制御される。
ポンプ4は、6本のガス検知管2それぞれに対して同型のポンプを1台ずつ接続し、各ガス検知管2を均等な吸引力で吸引する。
なお、複数のガス検知管2を均等に吸引できる吸引力のポンプ4であれば、6本の下流側の配管を集合し、1台のポンプで吸引するように構成してもよい。
また、ポンプ4の駆動電源は直流電源に限らず、交流電源であってもよい。更に、複数のポンプを組み合わせるよう構成してもよい。
【0038】
撮影工程S2は、通気工程S1でガスが通気したガス検知管2をカメラで撮影する工程である。具体的には、照明手段(光源)5(図2参照)からの光により照らされたガス検知管2を透過した透過光画像を、カメラモジュール6(図2参照)により撮影する工程である。なお、このカメラは、照明手段5とカメラモジュール6とから構成されている。
【0039】
照明手段5は、冷陰極管を光源とする面発光光源を構成する。一様な面発光型の照明光を得るために、冷陰極管は面(筐体)内で屈曲した形状をしている。また、冷陰極管から発光される光は、白色アクリル板からなる拡散板によって拡散され、発光面内の輝度分布の均一性が優れた面発光型の照明光を得ることができる。
冷陰極管の両端の電極は、直流−交流変換するインバータに接続され、高圧高周波交流を供給することで発光する。また、照明手段5の電源ケーブルは、コントローラによってON(点灯)/OFF(消灯)が制御できるようにパワーMOSFETを用いた制御回路を介して電源に接続される。
【0040】
このような照明手段5としては、例えば、秋月電子社製、面発光冷陰極管バックライトセットM−416を利用することができる。
なお、照明手段5としては冷陰極管を光源とするものに限らず、撮影に必要な光量が得られ面発光可能なものであれば、LED(発光ダイオード)、有機EL(エレクトロルミネッセンス)等を光源とするものでもよい。
【0041】
カメラモジュール6は、複数のガス検知管2を同時に撮影するため、2次元撮像素子を備えたデジタルカメラを用いる。このカメラモジュール6が備える撮像ユニットは、カメラレンズと2次元撮像素子とから構成され、カメラレンズによって2次元撮像素子上に結像された画像を電気信号(画像データ)に変換する。また、この変換された画像データは、カメラ本体において、適宜、AD(アナログ−デジタル)変換、画像圧縮処理される。
【0042】
また、このカメラモジュール6はデジタル出力端子手段を備えており、当該画像データを後記するFPGA(Field Programmable Gate Array, cyclone, Altera)7(図2参照)に送る。なお、このカメラモジュール6のクロックが27MHzと速いことから、この画像データは、FPGA7に送られた後、SRAM(512k×8bit、IDT71V424S12PH、IDT)8(図2参照)に格納される。
【0043】
このようなカメラモジュール6としては、例えば、秋月電子社製、MTV54KODを利用することができる。
なお、カメラモジュール6としてはデジタル出力を行え、カラー画像が得られるものであれば特に限定されるものではない。また、FPGA7の処理結果は、ホストコンピュータ9に、RS232Cを介して送信されるが、送信手段は、無線LANや有線LAN、USB、携帯電話、PHS等の他の送信手段でもよい。ホストコンピュータ9は、遠隔地にあってもよい。
【0044】
また、ガス検知管2のカメラによる撮影間隔や使用するガス検知管2の選択等の撮影(測定)条件は、専用のユーザインターフェース(ホストコンピュータ9内、図2参照)に入力するようになっている。そして、この入力された撮影条件がFPGA7に送信されることで(その条件で)撮影が開始される。なお、具体的な撮影間隔としては、数十秒に1回程度(一定時間間隔)で、画像データをFPGA7に送信する設定となっている。
【0045】
変色速度算出工程S3は、カメラで撮影されたガス検知管2の画像データを解析し、ガス検知管2のガスによる変色速度を算出する工程である。具体的には、変色速度を、区分求積法を用いて求めた変色面積と、(通気)時間との関係から算出する工程である。
【0046】
撮影工程S2においてカメラで撮影されたガス検知管2の画像データは、FPGA7(変色速度算出手段)に送られるようになっている。そして、この画像データを受け取ったFPGA7(CPUを含む)は、当該画像データを解析(処理)することによって、変色面積及び変色速度を算出するようになっている。この解析に用いられる画像データは、参照用画像と撮影(計測)用画像のデータである。なお、画像データを格納するSRAM8の容量は、この画像データ(参照用と計測用)2枚分の信号を格納できる容量とした。
また、ガス検知管2が、複数のガス検知管からなる場合、FPGA7は、ガス検知管2の画像データから、各ガス検知管の画像データを切り出して解析するようになっている。
【0047】
まず、変色面積を算出する方法としては、測定を始める前に手動で撮影しておいた参照用画像データと、一定時間間隔毎に撮影される計測用画像データとを用い、この参照用画像データと、各計測用画像データとの差分を取り(差分処理を行い)、その差分画像から変色面積を算出する。
なお、この変色面積を算出する方法には、差分処理の他に、平均化処理、移動平均処理等の公知の処理も含まれている。
【0048】
この差分画像は、図3に示すような、ガス検知管2(目盛は図示せず)のガスの進行方向(変色方向)における位置(変色距離)をx、輝度変化をf(x)としたときの両者の関係を示すグラフである。ガス検知管2は、左端から右方に向かって変色し、このグラフの斜線部分が変色した領域であることを示す。なお、図3は、ガス検知管2と対比して模式的に表している。
図3のfyaは、完全に変色したときの輝度変化の値である。一方、未変色の領域では、前記差分処理により輝度変化値は0である。グラフ中ほどの輝度変化がなだらかに変化する領域は、変色が進行中の領域である。このように変色層(変色部)と未変色層(未変色部)の境界が曖昧な場合においても適切に変色量を検出できるように、本実施形態では、変色長の代わりに変色面積を用いる。
【0049】
この変色面積は、区分求積法により算出する。具体的には、検知剤が充填された層の全範囲における輝度変化の総和(図3において斜線で示した面積)が変色面積Sであることから、S=Σf(x)で、この総和を求め、変色面積Sを算出する。
このように区分求積法を用いることによって、ガス検知管2の画像データの雑音を低減することができ、適切な変色面積を算出することができる。
【0050】
次に、変色速度を算出する方法としては、各計測用画像において変色面積を算出し、その変色面積と、通気時間との関係を、プロットする(図4参照)。変色面積は時間とともに増加し、このときの傾きが変色速度(反応速度)であることから、その傾きを算出することで、変色速度を算出する。
【0051】
なお、前記した変色面積を算出する際においては、未変色部(図5参照)のガスの湿度による変色分を補正して、前記変色面積を算出する。
この未変色部の湿度応答(色変化の湿度依存性)について説明する。
【0052】
未変色部の湿度応答とは、特定のガスにより起こる変色以外で見られる微小な変色であって、肉眼では開封前のガス検知管2と見比べることでかろうじて確認できる程度の変化である。
【0053】
この未変色部の湿度応答例(ガス検知管2のX座標とf(x)の関係)を示す図6から、対象ガス(本実施形態では、硫化水素)による変色領域以降に、湿度による応答が確認でき、この応答は、数分後には飽和することがわかる。
この未変色部の湿度による応答を含んだままの状態で、前記した変色面積及び変色速度を算出すると、図7に示すように、測定開始直後の変色速度(傾き)は大きくなり、時間に依らず一定とならないことがわかる。これは、変色面積の中に、この対象ガスによって変色していない未変色部のガスの湿度による変色分が加わっているからである。
【0054】
この未変色部のガスの湿度による変色分の補正を行う方法としては、閾値法と事前通気法とがある。
【0055】
閾値法は、差分画像において、各位置(ピクセル)における輝度変化f(x)の変化値が閾値以下のときには、そのピクセルでの変化を0とみなして、変色面積を算出する方法である。
なお、この方法を用いる場合、FPGA7(変色速度算出手段)は、当該機能を備えるように構成される。
【0056】
この方法を用いることで、未変色部の湿度応答を除去することができる(図8参照)。
また、図9より、未変色部の応答により測定開始直後に変色速度が上昇することなく、時間に依らずに一定となる結果を得ることができる。なお、測定開始直後は、ガスによる変色が小さいため、変色面積Sが0となっている。
【0057】
事前通気法は、あらかじめ十分な時間(経験的に15分程度)、ガス検知管2に大気を通気させて、未変色部の湿度応答を飽和させた後、測定を行う方法である。
なお、この方法を用いる場合、変色速度算出手段は、FPGA7と、ポンプ4と、から構成される。
【0058】
この方法を用いることにより、閾値法と同様に、未変色部での湿度応答を除去することができる(図10参照)。
また、図11より、閾値法と同様に、未変色部の応答により測定開始直後に変色速度が上昇することなく、時間に依らずに一定となる結果を得ることができる。
その他、閾値法とは異なり、測定開始直後でも、適切な変色面積や変色速度を算出することができることがわかる。
【0059】
このように、未変色部のガスの湿度による変色分の補正を、閾値法や事前通気法により行うことによって、未変色部の色変化の湿度依存性を適切に補正することができる。このことから、適切な(正しい)変色面積しいては変色速度を算出することができる。
【0060】
前記したように、変色面積を算出する際において、閾値法や事前通気法を用いることで、未変色部のガスの湿度による変色分を補正した。
【0061】
検出工程S4は、湿度センサ10により、ガスの湿度を検出する工程である。
なお、当該検出工程S4は、通気工程S1の後であれば、撮影工程S2の前でもよく、また、変色速度撮影工程S3の前でもよい。
【0062】
湿度センサ10(図2参照)は、ガスの湿度を検出するセンサであって、ガスがガス検知管2の中に通気される前に(ガスを通気する際に)当該ガスの湿度を検出できるよう、ガス検知管2の前に設置されている。
そして、この湿度センサ10は、デジタル出力が可能であって、FPGA7と接続しており、このFPGA7に、測定条件の下で、検出した湿度のデータを出力するようになっている。そして、当該湿度データを受け取ったFPGA7は、この湿度データと前記した変色速度のデータとを、ホストコンピュータ9に送信するようになっている。
【0063】
このような湿度センサ10としては、例えば、Sensirion社製、SHT75を利用することができる。
なお、湿度センサ10としてはデジタル出力を行えるものであれば特に限定されるものではない。
【0064】
ガス濃度算出工程S5は、変色速度と湿度とから、ガスの湿度による変色分の補正をして、ガスの濃度を算出する工程である。具体的には、FPGA7からホストコンピュータ9に送信された、変色速度と湿度のデータ(変色速度及び湿度の値)を、ニューラルネットワーク(ホストコンピュータ9内、ガス濃度算出手段)に入力することによって、ガス濃度を算出する工程である。
【0065】
このように、変色速度と湿度とを用いて、ガス濃度を算出するのは、変色部(図5参照)の湿度応答(色変化の湿度依存性)を補正(ガスの湿度による変色分を補正)することに基づいている。変色部の湿度応答とは、同濃度のガスであっても、ガスの湿度により、変色する様子が異なることである。
なお、本実施形態では、変色速度と湿度とを用いて、ガスの湿度による変色分の補正を行ったが、ガス検知管2の画像データ(全体)の差分画像と湿度とを用いて行えるものであれば、特に変色速度に限定されるものではない。
【0066】
この変色部の湿度応答について、図12に示す、同濃度・異湿度ガスの作製方法により作製した同濃度・異湿度ガスを用いて、具体的に調べた。その結果を、図13及び図14に示す。この図13及び図14から、ガス濃度により変色速度の湿度依存性が変化しており、三者(湿度、変色速度、ガス濃度)の間に複雑な関係があって、単純な線形式(回帰式)等では、補正できないことがわかった。
【0067】
この図12に示す同濃度・異湿度ガスの作製方法は、サンプリングバッグ内でサンプル溶液を完全に揮発させる方法である。
具体的な手順としては、サンプリングバッグ内に、サンプル溶液(硫化水素を水に溶かしたもの)を、マイクロシリンジを用いて注入する。そして、流量調整器を用いて、乾燥空気に湿度を付加し、その空気を、サンプリングバッグ内に入れ、サンプル溶液を気化させる。図12に示すように、二つの流量調整器で流量比を変化させて湿度を調整するが、この流量調整器としては、負荷圧力に依存しないで流量設定することができるマスフローコントローラが望ましい。
なお、濃度の微調整は、PID(Photo Ionization Detector)検出器を用いて行う。
【0068】
前記したように、三者(湿度、変色速度、ガス濃度)の関係は、線形重ね合わせにならずに、複雑であって、単純に補正を行うことが難しい。そこで、変色部の湿度応答の補正を、ニューラルネットワーク(非線形写像手段)を用いて行い、ガス濃度を算出(推定)する。
【0069】
使用したニューラルネットワーク(MLP; Multi-Layer Perception)は、プログラミング言語としてのMATLAB上で、変色速度とガス濃度は1/1000倍、湿度は1/100倍して規格化した後、Back Propagation法で学習させたものであって、Leave−one−out法により、ガス濃度の算出を行った。
なお、ニューラルネットワークの部分は、非線形写像可能な他のニューラルネットワーク、例えば、SOM(Self-Organized Map)でもよく、非線形写像可能なニューラルネットワーク以外の方法、例えば、LWR(Locally Weighted Regression)法を用いてもよい(非線形写像手段)。
【0070】
このニューラルネットワークの入力信号は、湿度と変色速度であり(入力層の数は2)、出力信号は、ガス濃度となっている(出力層の数は1)。
そして、中間層の数、学習回数、学習定数の3つをパラメータとして変化させた結果、中間層の数が8、学習回数が20000回、学習定数が0.15の時に、本実施形態の全14点(図13、図14参照)における推定ガス濃度と真のガス濃度との誤差の2乗和が、最小値となった(図15参照)。
この図15から、推定ガス濃度がほぼ真のガス濃度に一致していることがわかる。
【0071】
このようにニューラルネットワークを学習させ、その後、変色速度と湿度とを入力することによって、精度よく(正しく)ガス濃度を自動的に算出することができる。
【0072】
前記したように、ガス濃度を算出する際において、変色速度と湿度とを用いることで、変色部の色変化の湿度依存性を補正した。
【0073】
以上のように、通気工程S1〜ガス濃度算出工程S5を行うことによって、ガスの湿度による影響を受けずに(湿度に依存せずに)、正確なガス濃度を算出することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 ガス濃度測定装置
2 ガス検知管
3 検知管ホルダ(筐体)
4 ポンプ
5 照明手段
6 カメラモジュール
7 FPGA
8 SRAM
9 ホストコンピュータ
10 湿度センサ
S1 通気工程
S2 撮影工程
S3 変色速度算出工程
S4 検出工程
S5 ガス濃度算出工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス検知管を用いたガス濃度測定方法であって、
前記ガス検知管にガスを通気する通気工程と、
前記ガスが通気した前記ガス検知管をカメラで撮影する撮影工程と、
前記カメラで撮影された前記ガス検知管の画像データを解析し、当該ガス検知管の前記ガスによる変色速度を算出する変色速度算出工程と、
湿度センサにより、前記ガスの湿度を検出する検出工程と、
前記変色速度と前記湿度とから、前記ガスの湿度による変色分の補正をして、前記ガスの濃度を算出するガス濃度算出工程と、
を含むことを特徴とするガス濃度測定方法。
【請求項2】
前記ガス検知管は、複数のガス検知管からなり、
前記変色速度算出工程は、前記ガス検知管の前記画像データから、各ガス検知管の画像データを切り出して解析することを特徴とする請求項1に記載のガス濃度測定方法。
【請求項3】
前記ガス濃度算出工程は、前記ガスの濃度を、非線形写像手段を用いることで算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス濃度測定方法。
【請求項4】
前記非線形写像手段は、ニューラルネットワークであることを特徴とする請求項3に記載のガス濃度測定方法。
【請求項5】
前記変色速度算出工程は、前記変色速度を、区分求積法を用いて求めた変色面積と、時間との関係から算出することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガス濃度測定方法。
【請求項6】
前記変色速度算出工程は、前記変色面積を、前記ガス検知管の前記ガスによって変色していない未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正をして算出することを特徴とする請求項5に記載のガス濃度測定方法。
【請求項7】
前記変色速度算出工程は、前記未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正を、閾値法によって行うことを特徴とする請求項6に記載のガス濃度測定方法。
【請求項8】
前記変色速度算出工程は、前記未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正を、事前通気法によって行うことを特徴とする請求項6に記載のガス濃度測定方法。
【請求項9】
ガス検知管と、
前記ガス検知管にガスを通気するポンプと、
前記ガスが通気した前記ガス検知管を撮影するカメラと、
前記カメラで撮影された前記ガス検知管の画像データを解析し、当該ガス検知管の前記ガスによる変色速度を算出する変色速度算出手段と、
前記ガスの湿度を検出する湿度センサと、
前記変色速度と前記湿度とから、前記ガスの湿度による変色分の補正をして、前記ガスの濃度を算出するガス濃度算出手段と、
を備えることを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項10】
前記ガス検知管は、複数のガス検知管からなり、
前記変色速度算出手段は、前記ガス検知管の前記画像データから、各ガス検知管の画像データを切り出して解析することを特徴とする請求項9に記載のガス濃度測定装置。
【請求項11】
前記ガス濃度算出手段は、非線形写像手段であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載のガス濃度測定装置。
【請求項12】
前記非線形写像手段は、ニューラルネットワークであることを特徴とする請求項11に記載のガス濃度測定装置。
【請求項13】
前記変色速度算出手段は、前記変色速度を、区分求積法を用いて求めた変色面積と、時間との関係から算出することを特徴とする請求項9から請求項12のいずれか1項に記載のガス濃度測定装置。
【請求項14】
前記変色速度算出手段は、前記変色面積を、前記ガス検知管の前記ガスによって変色していない未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正をして算出することを特徴とする請求項13に記載のガス濃度測定装置。
【請求項15】
前記変色速度算出手段は、前記未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正を、閾値法によって行うことを特徴とする請求項14に記載のガス濃度測定装置。
【請求項16】
前記変色速度算出手段は、前記未変色部の前記ガスの湿度による変色分の補正を、事前通気法によって行うことを特徴とする請求項14に記載のガス濃度測定装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−2400(P2011−2400A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147207(P2009−147207)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(391028122)株式会社ガステック (15)
【Fターム(参考)】