説明

ガス濃度測定装置及びガス濃度測定方法

【課題】比色式ガス検知素子を撮影した電子画像データを用いてより正確に対象ガス濃度を算出する。
【解決手段】カラーチャート12の各領域12A〜12EのRGB値と反射吸光度の関係が線形となるように
ガンマ補正あるいはトーンカーブ補正をする。これにより、普及しているデジタルカメラ等を撮影装置20として用いた場合でも、照明条件や撮影装置の影響を除去もしくは軽減し、検知紙11のRGB値を反射吸光度に精度よく換算することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比色法によりガス濃度を測定するガス濃度測定装置及びガス濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、NOx、SPM、光化学オキシダントによる大気汚染が生じ、環境に対する響影が問題となってきている。光化学オキシダントの主成分であるオゾンガス(O)は、工場、事業所、自動車から排出されるNOxや炭化水素などの汚染物質が太陽光線の照射を受けて光化学反応を起こすと生成され、光化学スモッグの原因となる。また、コロナ放電手段を備えた各種機器、例えば、静電式複写機、レーザプリンタ、LEDファクシミリ等の装置においても、コロナ放電手段の動作中にオゾンガスやNOxガスが発生する。このようなオゾンガスは、強力な酸化能を有しているためそれ自身の毒性により空気中の濃度が一定以上(0.1ppm)になると、呼吸器系を刺激し、微量でも長時間吸入すると有害とされている。
【0003】
また、NOxの一つである二酸化窒素(NO)は肺から吸収されやすく、細胞内では強い酸化作用を示して細胞を傷害するので、粘膜の刺激、気管支炎、肺水腫などの原因となる。また、これらは、光化学スモッグや酸性雨などを引き起こす大気汚染原因物質でもある。
【0004】
その他、家庭環境や職場環境に目を向けると、ホルムアルデヒドをはじめとするVOC(揮発性有機化合物)によるシックハウス症候群が問題となっている。
【0005】
このため、これら人体や環境問題へ有害なガスの濃度を調査・監視する必要がある。前述の有害ガスのうち、オゾンガスについては安価で小型軽量かつ個人や家庭レベルで使用することができるオゾン濃度測定器が各種開発されている(例えば、特許文献1〜4参照)。このような簡易なオゾン濃度測定器として非特許文献1に示すオゾン濃度検知紙が販売されている。このオゾン濃度検知紙はオゾンガスに曝露されると退色する検知紙とオゾンガスの濃度に対応した色見本を備えている。このオゾン濃度検知紙は、セルロース濾紙に、オゾンガスに反応すると退色する色素、保湿剤、酸、水等を加えて調整した検知溶液を含浸させて検知紙とし、風乾することにより作製されている。
【0006】
また、同じように検知素子の色が変化することを利用したセンサとして、NOセンサ(特許文献5参照)やホルムアルデヒドセンサ(非特許文献2参照)が開発されている。
【0007】
上述の検知素子はいずれもその対象ガスと反応して可視領域の反射スペクトルが変化する。従来は人間の目による目視もしくはスペクトル変化が最大である一つの波長の反射率の変化を測定することにより対象ガスの濃度を算出していた。しかし、目視による濃度測定はおおまかな濃度しか測定できない。また、分光光度計や特定波長の反射率の変化を測る専用の装置を利用すると正確な測定が可能になる反面、高価であるために一般ユーザが購入して使用できるものではなかった。
【0008】
このような状況で、デジタルカメラ等で検知素子の画像を撮影し、その色情報からガス濃度を算出する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−144729号公報
【特許文献2】国際公開第2006/016623号
【特許文献3】特開平09−274032号公報
【特許文献4】特開2000−081426号公報
【特許文献5】特開2001−116738号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】”オゾン見えるシート”、NTTアドバンステクノロジ株式会社、[平成21年5月25日検索]、インターネット〈URL:http://shop.ntt-at.co.jp/ozone/000_product0/〉
【非特許文献2】丸尾容子、外5名、「β−ジトケン検知素子を用いた室内及び家具内のホルムアルデヒド測定」、環境化学、2008年、Vol. 18, No. 4, p.501-509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、デジタルカメラで撮影された画像はその撮影環境(光源の種類や照度)が一定でないためにRGB値などの色情報の絶対値でオゾン濃度を算出するのは誤差が大きいという問題がある。例えば、非特許文献1に記載のオゾン濃度検知紙には、そのオゾン濃度検知紙がオゾンに0ppb×hour、120ppb×hour、240ppb×hour、320ppb×hourに曝露された時と同じ色に調整されたカラーチャートが同封されている。オゾン濃度検知紙とカラーチャートが同一画像内におさまるように撮影したときに、オゾン濃度検知紙のRGB値が0ppb×hourと120ppb×hourのカラーチャートのちょうど中間を示したとしても、オゾン濃度検知紙のオゾン蓄積曝露量を60ppb×hourと算出すると誤差が大きくなってしまうという問題があった。撮影条件によっては最大40ppb×hour程度の誤差を生じていた。
【0012】
その原因は検知素子を撮影した電子画像データのRGB値と、分光光度計などで測定された検知素子の反射吸光度(−log(反射率))が線形でないためである。対象ガスとの反応で可視領域のスペクトルが変化する検知素子は、特定の波長の反射吸光度の変化からガス蓄積曝露量(ガス濃度×時間)を算出することができるが、電子画像データから得られるRGB情報は反射吸光度と線形な関係ではない。しかも、RGB値と反射吸光度の関係は、照明環境や撮影装置に大きく左右されてその都度変化するため、RGB値を反射吸光度に換算する換算式も作成できない。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、比色式ガス検知素子を撮影した電子画像データを用いてより正確に対象ガス濃度を算出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の本発明に係るガス濃度測定装置は、ガスの曝露量に応じて色が変化する検知領域と、少なくとも3つの既知の曝露量に対応した色を帯びた反射吸光度が既知の参照領域とを有するガス曝露量検知手段と、ガス曝露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付ける入力手段と、画像データから検知領域及び参照領域に対応する位置の色情報を抽出する抽出手段と、参照領域それぞれの色情報と当該参照領域それぞれに対応する反射吸光度との関係が線形となるように色情報を補正する補正手段と、検知領域の色情報を参照領域の色情報とを比較した相対値を所定の換算式に当てはめることでガス曝露量を算出する算出手段と、を有することを特徴とする。
【0015】
第2の本発明に係るガス濃度測定装置は、ガスの曝露量に応じて色が変化する検知領域と、少なくとも2つの既知の曝露量に対応した色を帯びた第1の参照領域と、少なくとも3つの反射吸光度が既知の第2の参照領域を有するガス曝露量検知手段と、ガス曝露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付ける入力手段と、画像データから検知領域及び第1、第2の参照領域に対応する位置の色情報を抽出する抽出手段と、第2の参照領域それぞれの色情報と当該第2の参照領域それぞれに対応する反射吸光度との関係が線形となるように色情報を補正する補正手段と、検知領域の色情報を第1の参照領域の色情報とを比較した相対値を所定の換算式に当てはめることでガス曝露量を算出する算出手段と、を有することを特徴とする。
【0016】
上記ガス濃度測定装置において、補正手段は、ガンマ補正もしくはトーンカーブ補正により色情報を補正することを特徴とする。
【0017】
第3の本発明に係るガス濃度測定方法は、ガスの曝露量に応じて色が変化する検知領域と、少なくとも3つの既知の曝露量に対応した色を帯びた反射吸光度が既知の参照領域とを有するガス曝露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付けるステップと、画像データから検知領域及び参照領域に対応する位置の色情報を抽出するステップと、参照領域それぞれの色情報と当該参照領域それぞれに対応する反射吸光度との関係が線形となるように色情報を補正するステップと、検知領域の色情報を参照領域の色情報とを比較した相対値を所定の換算式に当てはめることでガス曝露量を算出するステップと、を有することを特徴とする。
【0018】
第4の本発明に係るガス濃度測定方法は、ガスの曝露量に応じて色が変化する検知領域と、少なくとも2つの既知の曝露量に対応した色を帯びた第1の参照領域と、少なくとも3つの反射吸光度が既知の第2の参照領域を有するガス曝露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付けるステップと、画像データから検知領域及び第1、第2の参照領域に対応する位置の色情報を抽出するステップと、第2の参照領域それぞれの色情報と当該第2の参照領域それぞれに対応する反射吸光度との関係が線形となるように色情報を補正するステップと、検知領域の色情報を第1の参照領域の色情報とを比較した相対値を所定の換算式に当てはめることでガス曝露量を算出するステップと、を有することを特徴とする。
【0019】
上記ガス濃度測定方法において、補正するステップは、ガンマ補正もしくはトーンカーブ補正により色情報を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、比色式ガス検知素子を撮影した電子画像データを用いてより正確に対象ガス濃度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施の形態におけるガス濃度測定システムの構成を示すブロック図である。
【図2】上記ガス濃度測定システムがオゾン蓄積曝露量を算出する処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】参照領域のRGB値の補正を説明する図である。
【図4】参照領域のRGB値の別の補正を説明する図である。
【図5】図4の補正に用いるトーンカーブの例を説明する図である。
【図6】第2の実施の形態におけるガス濃度測定システムで使用する検知シートの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。ここでは、オゾン濃度の測定例について説明するが、他のガスにも同様に適用可能である。
【0023】
[第1の実施の形態]
図1は、本実施の形態におけるガス濃度測定システムの構成を示すブロック図である。同図に示すガス濃度測定システムは、検知シート10、撮影装置20、およびガス濃度測定装置30を備える。検知シート10には、検知紙11、カラーチャート12が配置される。本ガス濃度測定システムは、撮影装置20により撮影した検知シート10の電子画像データをガス濃度測定装置30へ送信し、ガス濃度測定装置30が検知紙11の色変化をカラーチャート12と比較することでガス濃度を算出する。
【0024】
検知紙11は、インジゴカルミンを多孔体に保持させたものであり、620nmの波長に吸収ピークがあるため未使用時には青色を示し、オゾンガス曝露により白色へと変化する。カラーチャート12は、少なくとも3色必要であり、色数が多いことが望ましい。図1に示すカラーチャート12は、検知紙11の異なるガス曝露量に応じた5色に対応する領域12A〜12Eを備え、各領域12A〜12Eの反射スペクトルは検知紙11の反射スペクトルと完全に同一とする。検知紙11とカラーチャート12は反射スペクトルができるだけ近いことが望ましい。これは、ある照明環境下において人間の目やデジタルカメラが同じ色(同じRGB値)と認識しても、反射スペクトルの吸収ピーク位置が異なる場合、パワースペクトルの異なる他の照明環境下では人間の目やデジタルカメラには同じ色と認識されないためである。反射スペクトルが同一であれば、どのようなパワースペクトルを持つ光源下でも検知紙11とカラーチャート12は同じ色と識別される。なお、検知紙11は、酸と保湿剤を有するものでもよい。
【0025】
撮影装置20としては、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラなど電子的に画像を取り込むものが利用できる。
【0026】
ガス濃度測定装置30は、入力部31、抽出部32、補正部33、および算出部34を備える。なお、ガス濃度測定装置30は、演算処理装置、記憶装置、メモリ等を備えたコンピュータにより構成して、各部の処理がプログラムによって実行されるものとしてもよい。このプログラムはガス濃度測定装置30が備える記憶装置に記憶されており、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。以下、各部について説明する。
【0027】
入力部31は、撮影装置20が撮影した検知シート10の電子画像データの入力を受け付ける。
【0028】
抽出部32は、入力した電子画像データにおいて、検知紙11が撮影されている検知領域、カラーチャート12の各領域12A〜12Eが撮影されている参照領域を特定し、各領域についてRGB値を取得する。
【0029】
補正部33は、得られた各領域のRGB値にガンマ補正もしくはトーンカーブ補正を行う。電子画像データから取得した各領域12A〜12EのRGB値と反射吸光度との関係が線形になるように補正を行う。各領域12A〜12Eにおける特定波長の反射吸光度はあらかじめ測定し、各領域12A〜12EのRGB値と対応付けて参照データとしてメモリに記憶してある。補正の詳細については後述する。
【0030】
算出部34は、補正された参照領域のRGB値と検知領域のRGB値とを比較した相対値を所定の換算式に当てはめてオゾン蓄積曝露量を算出する。
【0031】
次に、ガス濃度測定システムがオゾン蓄積曝露量を算出する処理の流れについて図を用いて説明する。図2は、ガス濃度測定システムがオゾン蓄積曝露量を算出する処理の流れを示すフローチャートである。
【0032】
まず、撮影装置20により検知シート10を撮影し、ガス濃度測定装置30が電子画像データを入力する(ステップS11)。撮影装置20は、検知紙11、カラーチャート12が写るように検知シート10を撮影する。
【0033】
続いて、抽出部32は、検知紙11およびカラーチャート12の各領域12A〜12Eの電子画像データ上における位置を特定し、計6カ所の各領域についてRGB値を取得する(ステップS12)。RGB値がピクセル毎にあるため、各領域のRGB値は、その領域におけるピクセル毎のRGB値の平均値を算出して取得する。あるいは、領域毎にヒストグラムを作成して最頻値をRGB値として算出してもよい。最頻値を用いると、領域の一部に影や異物が写ったり、文字が印刷されていた場合でも算出されるRGB値への影響をなくすことができる。
【0034】
続いて、補正部33は、カラーチャート12の各領域12A〜12EのRGB値が反射吸光度と線形な関係になるように、ガンマ補正あるいはトーンカーブ補正を行う(ステップS13)。カラーチャート12の各領域12A〜12Eの反射吸光度はあらかじめ測定してあり既知の値である。検知紙11は、620nmの波長に吸収ピークがあるので、620nmにおけるカラーチャート12の各領域12A〜12Eの反射吸光度を測定しておく。各領域12A〜12Eの反射吸光度はそれぞれ、領域12Aが3.0、領域12Bが2.8、領域12Cが2.6、領域12Dが2.4、領域12Eが2.2であったとする。また、RGB値のうちRの値が最も大きく変化するため、Rの値を620nmにおけるカラーチャート12の各領域12A〜12Eの反射吸光度と比較する。Rの値を縦軸に、反射吸光度の値を横軸にとり、補正前の各領域12A〜12EのRの値を図示すると、図3の白丸で示すように、Rの値と反射吸光度の関係が線形ではない。そこで、Rの値と反射吸光度の関係が線形な関係となるように、ガンマ補正あるいはトーンカーブ補正を施す。図3に示す例では、中間階調のRの値を下げるようにガンマ値1以下の値でガンマ補正を行う。反対に、中間階調のRの値を上げるように補正したい場合は、ガンマ値1以上の値でガンマ補正を行う。例えば、少しずつガンマ値をずらしてガンマ補正を行い、RGB値と反射吸光度の回帰直線の相関係数が最も良いガンマ値で得られた結果を採用するとよい。
【0035】
図4に別の補正例を示す。撮影装置20のコントラストが高く、もしくは低く設定されていた場合、補正前の各領域12A〜12EのRの値と反射吸光度との関係は、図4の白丸で示すように、S字もしくは逆S字となる。このような場合はガンマ補正では対応できないので、トーンカーブ補正により対応する。例えば、領域12AのRGB値に対応する点と領域12EのRGB値に対応する点を直線で結び、その直線とそれぞれの反射吸光度との交点から補正後のRGB値を求める。トーンカーブ補正を用いればトーンカーブの変曲点の位置が自由に変更できるため、より正確に補正できる。
【0036】
図5にトーンカーブの例を示す。図5では、2点の変曲点が設定されているが、領域12A〜12Eの5点に対して補正前のRGB値を入力値に、補正後のRGB値を出力値として変曲点を設定してトーンカーブ補正を行うと、RGB値と反射吸光度の関係が線形となる。また、領域12A〜12Eの5点に対して補正前のRGB値を入力値として横軸に、補正後のRGB値を出力値として縦軸にプロットし、その5点に対して非線形最小二乗法でフィッティングカーブを算出し、そのカーブをトーンカーブとしてトーンカーブ補正を行ってもよい。
【0037】
RGB値の補正後、算出部34は、補正後の領域12A〜12EのRGB値と検知紙11のRGB値とを比較した相対値を所定の換算式に代入してオゾン蓄積曝露量(濃度×時間)を算出する。(ステップS14)。検知紙11はオゾン蓄積曝露量と比例して反射吸光度が変化する性能を有しており、620nmの反射吸光度がオゾン蓄積曝露320ppb×hourにより2.84から2.20まで変化するため、次式(1)と表せ、反射吸光度の0.01の変化が5ppbに対応する。
【0038】
オゾン蓄積曝露量=320×{(2.84−反射吸光度)/(2.84−2.20)}…(1)
式(1)の反射吸光度は、図3,4の直線に検知紙11のRGB値を対応させることで求めることができる。本発明の方法では、電子画像データのRGB値を補正することにより、反射吸光度を±0.02以下の精度で推定でき、オゾン蓄積曝露量を5〜10ppb×hour以下の誤差で測定することができる。
【0039】
また、検知紙11はオゾン蓄積曝露量と比例して反射吸光度が変化することが明らかであり、RGB値と反射吸光度の関係が線形になるように電子画像データを補正するので、RGB値を用いた次式(2)を用いてオゾン蓄積曝露量を求めることができる。
【0040】
オゾン蓄積曝露量=320×{(一番色の濃いカラーチャートのRGB値−検知紙のRGB値)/(一番色の濃いカラーチャートのRGB値−一番色の薄いカラーチャートのRGB値)}…(2)
このように、カラーチャート12のRGB値と反射吸光度の関係が線形になるように電子画像データを補正することにより、照明環境や撮影装置20がさまざまに変化する場合でも、それらに影響されることなく、より精度よくガス濃度を測定することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態によれば、カラーチャート12の各領域12A〜12EのRGB値と反射吸光度の関係が線形となるようにガンマ補正あるいはトーンカーブ補正をすることにより、普及しているデジタルカメラ等を撮影装置20として用いた場合でも、照明条件や撮影装置の影響を除去もしくは軽減し、検知紙11のRGB値を反射吸光度に精度よく換算することができる。その結果、ガス曝露量と反射吸光度の関係が明らかになっている検知紙11により精度よくガス濃度測定が可能となる。従来は分光光度計や特定波長の反射率を測定する専用の装置が必要であったが、比色の検知素子のほかには一般に普及したデジタルカメラとパーソナルコンピュータの組み合わせで精度の良いガス濃度測定が可能となり導入コストが低減される。
【0042】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、ガス濃度測定システムの構成は第1の実施の実施の形態とほぼ同じであるので、第1の実施の形態と異なる部分について説明する。
【0043】
第1の実施の形態においては、検知紙11の異なるガス曝露量に応じた5色に対応する領域12A〜12Eを備え、反射スペクトルが完全に同一のカラーチャート12を利用したが、実際には、反射スペクトルが検知紙11と同一なカラーチャート12を多数用意することはコストが高いという問題がある。通常のインクは反射吸光度がどの波長でも一定な黒やグレーを除けば特定波長に吸収ピークを示す3〜5色程度のインクの組み合わせで色を作っているため、反射スペクトルを検知紙と同一もしくは近づけることは難しく、検知紙とカラーチャートが蛍光灯の下で同じ色になったとしても、太陽光の下では違った色に見えてしまうことになる。一部のインク会社では反射スペクトルを検知紙に近づけたカラーチャートを特注で作製可能であるが、コストが非常に高価になり、カラーチャートの色数を増やすことがコスト的に難しくなってしまう。
【0044】
そこで、第2の実施の形態では、図6に示すように、検知紙51の反射スペクトルに同一もしくは近い反射スペクトルを持つ2色の第1のカラーチャート52と、ガンマ補正もしくはトーンカーブ補正を行うために利用する少なくとも3色以上の第2のカラーチャート53とを備えた検知シート50を利用する。第1のカラーチャート52は、未使用の検知紙51と同じ色の領域52Aと対象ガスに十分に曝露させてそれ以上色変化しなくなった(飽和した)検知紙51と同じ色の領域52Bからなる。第2のカラーチャート53は、白から黒までの6色の領域53A〜53Fからなり、各領域53A〜53Fの反射吸光度が既知である。
【0045】
第2の実施の形態では、第2のカラーチャート53を用いてガンマ補正もしくはトーンカーブ補正を行った後、検知紙51、第1のカラーチャート52のRGB値から反射吸光度を計算してガス濃度を算出する。以下、第2の実施の形態における電子画像データの補正とガス濃度の算出について説明する。
【0046】
まず、検知シート50を写した電子画像データを入力し、検知紙51、第1のカラーチャート52の各領域52A,52B、および第2のカラーチャート53の各領域53A〜53Fの計9カ所の領域についてRGB値を取得する。
【0047】
続いて、第2のカラーチャート53の各領域53A〜53Fを用いて電子画像データのガンマ補正もしくはトーンカーブ補正を行い、その後、検知紙51、第1のカラーチャート52の各領域52A,52BのRGB値を用いて検知紙51の反射吸光度を求め、式(1)に代入してオゾンガス蓄積曝露量を求める。あるいは、検知紙51、各領域52A,52BのRGB値を式(2)に代入する。
【0048】
このように、ガンマ補正もしくはトーンカーブ補正を行うための第2のカラーチャート53を検知紙51の反射吸光度を求めるための第1のカラーチャート52とは別に設けることで、検知紙51と反射スペクトルが同じもしくは近い第1のカラーチャート52の色数を抑えることができ、高価な特注インクの作製コストを削減できる。
【0049】
[変形例]
第1および第2の実施の形態において、撮影装置20としてデジタルカメラや携帯電話付属カメラが好適に用いられる。また、インターバル撮影機能付きデジタルカメラやwebカメラを使用することで、無人で一定時間毎に検知シートの電子画像データを得ることが可能となる。撮影された電子画像データは、ネットワークを介してガス濃度測定装置30へ入力してもよい。ガス濃度測定装置30として市販のパーソナルコンピュータが好適に用いられる。
【0050】
また、所定の間隔で複数回検知シートを撮影することで、前回のオゾンガス蓄積曝露量との差、経過時間を用いてその間の平均オゾン濃度が算出可能である。デジタルカメラ等を使用した場合、撮影日時などの情報が電子画像データ内に存在するため、これを参照することで前回からの経過時間を容易に知ることができる。
【0051】
また、化学反応を利用する検知紙11,51は、ガス検知感度や反射吸光度が温湿度条件の影響を受けて変化するため、事前に温湿度条件によるガス検知感度や反射吸光度の補正式を実験により作成しておき、温湿度を撮影と同時に測定することでガス濃度の測定精度を向上することができる。
【0052】
なお、対象ガスをホルムアルデヒドとした場合、βジケトンを多孔体に保持させたものを比色式ガス検知素子として用いる。βジケトンとしてアセチルアセトンもしくは1−フェニル−1,3−ブタンジオンのうち少なくとも1つを用いる。
【0053】
さらに、対象ガスを二酸化窒素とした場合、ジアゾカップリング試薬を多孔体に保持させたものを比色式ガス検知素子として用いる。
【0054】
なお、オゾン検知紙以外の場合、反射吸光度は対象ガス曝露による変化幅の最も大きい波長を使用し、RGB値も色変化における変化幅の最も大きい色の値を使用することが望ましい。
【符号の説明】
【0055】
10…検知シート
11…検知紙
12…カラーチャート
20…撮影装置
30…ガス濃度測定装置
31…入力部
32…抽出部
33…補正部
34…算出部
50…検知シート
51…検知紙
52…第1のカラーチャート
53…第2のカラーチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの曝露量に応じて色が変化する検知領域と、少なくとも3つの既知の曝露量に対応した色を帯びた反射吸光度が既知の参照領域とを有するガス曝露量検知手段と、
前記ガス曝露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付ける入力手段と、
前記画像データから前記検知領域及び前記参照領域に対応する位置の色情報を抽出する抽出手段と、
前記参照領域それぞれの色情報と当該参照領域それぞれに対応する反射吸光度との関係が線形となるように前記色情報を補正する補正手段と、
前記検知領域の色情報を前記参照領域の色情報とを比較した相対値を所定の換算式に当てはめることでガス曝露量を算出する算出手段と、
を有することを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項2】
ガスの曝露量に応じて色が変化する検知領域と、少なくとも2つの既知の曝露量に対応した色を帯びた第1の参照領域と、少なくとも3つの反射吸光度が既知の第2の参照領域を有するガス曝露量検知手段と、
前記ガス曝露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付ける入力手段と、
前記画像データから前記検知領域及び前記第1、第2の参照領域に対応する位置の色情報を抽出する抽出手段と、
前記第2の参照領域それぞれの色情報と当該第2の参照領域それぞれに対応する反射吸光度との関係が線形となるように前記色情報を補正する補正手段と、
前記検知領域の色情報を前記第1の参照領域の色情報とを比較した相対値を所定の換算式に当てはめることでガス曝露量を算出する算出手段と、
を有することを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項3】
前記補正手段は、ガンマ補正もしくはトーンカーブ補正により色情報を補正することを特徴とする請求項1又は2記載のガス濃度測定装置。
【請求項4】
ガスの曝露量に応じて色が変化する検知領域と、少なくとも3つの既知の曝露量に対応した色を帯びた反射吸光度が既知の参照領域とを有するガス曝露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付けるステップと、
前記画像データから前記検知領域及び前記参照領域に対応する位置の色情報を抽出するステップと、
前記参照領域それぞれの色情報と当該参照領域それぞれに対応する反射吸光度との関係が線形となるように前記色情報を補正するステップと、
前記検知領域の色情報を前記参照領域の色情報とを比較した相対値を所定の換算式に当てはめることでガス曝露量を算出するステップと、
を有することを特徴とするガス濃度測定方法。
【請求項5】
ガスの曝露量に応じて色が変化する検知領域と、少なくとも2つの既知の曝露量に対応した色を帯びた第1の参照領域と、少なくとも3つの反射吸光度が既知の第2の参照領域を有するガス曝露量検知手段を撮影した画像データの入力を受け付けるステップと、
前記画像データから前記検知領域及び前記第1、第2の参照領域に対応する位置の色情報を抽出するステップと、
前記第2の参照領域それぞれの色情報と当該第2の参照領域それぞれに対応する反射吸光度との関係が線形となるように前記色情報を補正するステップと、
前記検知領域の色情報を前記第1の参照領域の色情報とを比較した相対値を所定の換算式に当てはめることでガス曝露量を算出するステップと、
を有することを特徴とするガス濃度測定方法。
【請求項6】
前記補正するステップは、ガンマ補正もしくはトーンカーブ補正により色情報を補正することを特徴とする請求項4又は5記載のガス濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−281728(P2010−281728A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136120(P2009−136120)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】