説明

ガス濃度測定装置

【課題】測定精度を向上させたガス濃度測定装置を提供する。
【解決手段】赤外光源から放射された赤外線を、回転可能なチョッパ及びガス相関セルを介して、試料ガスが導入された試料セルに断続的に入射させ、試料セルを透過した赤外線の光量を検出器により検出して試料ガス中の測定対象ガス濃度を演算する赤外線吸収方式のガス濃度測定装置であり、チョッパ(回転セクタ)の回転位置検出信号が変化するタイミングを用いて検出器の出力信号の所定期間のデータを演算手段に取り込み、測定対象ガス濃度を求めるガス濃度測定装置に関する。チョッパ12の回転位置を検出するためのフォトセンサPを、チョッパ12の回転軸Cと赤外光源の光軸Rとを結ぶ直線上であって、前記光軸Rに近接した位置に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス相関法による赤外線吸収方式のガス濃度測定装置に関し、詳しくは、ガス相関セル(ガス相関フィルタ)及びチョッパ(回転セクタ)の回転軸に対してチョッパの幾何学的な中心位置が偏芯している場合に生じるサンプリングタイミングのずれを解消するようにしたガス濃度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス相関法は、CO,COを始めとした各種のガス濃度の測定に使用されている。その原理は、CO等の測定対象ガスを含む試料ガスが導入される試料セルと、この試料セルに赤外光を入射させる赤外光源との間に、測定対象ガスを封入した測定対象ガスセルとN等の不活性ガス(ゼロガス)を封入した比較ガスセルとを有するガス相関セルを配置し、このガス相関セルを回転させて、赤外光の光路上に測定対象ガスを介在させた時の試料セルの透過赤外光量と、不活性ガスを介在させた時の試料セルの透過赤外光量との差を測定することにより、試料ガス中の測定対象ガス濃度を測定するものである。
【0003】
図4はこの種のガス濃度測定装置の一例を示す全体構成図であり、11は赤外光源、12はチョッパ、13はチョッパ12と一体的に回転するガス相関セル、13aは測定対象ガスセル、13bは比較ガスセル、14はバンドパスフィルタ、15は試料セル、16a〜16cはミラー、20は測定対象ガスセル13aまたは比較ガスセル13bを経て試料セル15を透過した赤外光を検出し、その透過赤外光量を電気信号に変換する検出器である。
検出器20の出力信号は図示されていない増幅回路に送られ、その後、A/D変換されてディジタル信号処理回路に送られる。このディジタル信号処理においては、比較ガスセル13bを透過した時の透過赤外光量と測定対象ガスセル13aを透過した時の透過赤外光量との差分を演算することにより試料ガス中の測定対象ガス濃度が算出され、このガス濃度は記録計や表示装置等に出力されることになる。
【0004】
ここで、上記チョッパ12はノイズを低減するために赤外光をチョッピングして試料セル15に導入するべく設けられている。
また、チョッパ12の回転による遮光/通光に同期した信号を用いて、検出器20の出力信号からゼロデータ/サンプルデータを取り出すために、チョッパ12の回転位置を回転位置検出器としてのチョッパ用フォトセンサにより検出している。更に、検出器20の出力信号をサンプル周期(赤外光が測定対象ガスセル13aを透過する期間)とリファレンス周期(赤外光が比較ガスセル13bを透過する期間)とに区分する必要があるので、測定対象ガスセル13aと比較ガスセル13bとの切り替えをガス相関セル用フォトセンサにより検出している。
このようなガス相関法を用いたガス濃度測定装置は、例えば特許文献1に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−184562号公報([0001]〜[0003],図1,図2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、図5は、チョッパ12及びその中心位置(幾何学的中心位置)12’、回転軸C、赤外光源の光軸R、チョッパ用フォトセンサPの位置関係を示す図であり、12aは赤外光が透過するチョッパ12の窓である。
なお、図4と図5とでは、チョッパ12の形状、構造が異なっているが、図4はあくまでガス濃度測定装置の全体構成を説明するための概略図であって、例えばチョッパ12の具体的形状、構造等を表したものではない。
【0007】
図5(a)に示すように、チョッパ12の中心位置12’は、理想的にはチョッパ12の回転軸C(ガス相関セル13の回転軸と同一である)と一致させなくてはならない。すなわち、中心位置12’と回転軸Cとが一致することにより、チョッパ用フォトセンサPの出力信号が変化するタイミングと、チョッパ12によって遮光/通光される赤外光の変化するタイミングとが一致するので、上記フォトセンサPの出力信号を用いて、検出器20の出力信号からゼロデータ、サンプルデータを取り込むタイミングを決定することができる。
【0008】
しかしながら、チョッパ12の取付誤差等に起因して、図5(b)に示す如く中心位置12’と回転軸Cとが一致せずに偏芯している場合、赤外光の遮光/通光がチョッパ12の窓12aによって切り替わるタイミングと、フォトセンサPによる回転位置検出光がチョッパ12によって切り替わるタイミングとの間に時間的ずれが発生する。つまり、図6に示すように、検出器20の出力信号とフォトセンサPの出力信号との間に時間的ずれを生じる。
【0009】
これを赤外光の遮光/通光がチョッパ12の窓12aによって切り替わる瞬間に着目すると、図5(b)に示すような位相差θとなって現れる。ここで、位相差θは、チョッパ12の中心位置12’と赤外光源の光軸Rとを結ぶ直線と、前記中心位置12’とチョッパ用フォトセンサPの光軸とを結ぶ直線と、の交差角度である。
【0010】
図7(a)は、上述したチョッパ12の偏芯がない正常時における検出器出力信号、チョッパ用フォトセンサ出力信号、ガス相関センサ用フォトセンサ出力信号を示し、図7(b)は、チョッパ12の偏芯がある場合の検出器出力信号、チョッパ用フォトセンサ出力信号を示している。なお、図7(b)は、実質的に図6と同様のものである。
【0011】
ガス濃度測定装置の検出器以降の演算手段では、図7(a)において、チョッパ用フォトセンサ出力信号の1周期を1セクタとし、リファレンス周期、サンプル周期のそれぞれについて、連続する複数セクタの範囲内で検出器出力信号を取り込むように構成されている。また、1セクタ内では、チョッパ用フォトセンサ出力信号が「H」レベル(通光)、「L」レベル(遮光)のそれぞれの期間で複数のサンプルデータ、ゼロデータを連続的に取り込んでいる。
そして、リファレンス周期、サンプル周期におけるすべてのサンプルデータ、ゼロデータを用いて、最終的に試料セル内の測定対象ガス濃度を演算処理により求めている。
【0012】
チョッパ12の偏芯がない正常時には、図7(a)のように、チョッパ用フォトセンサ出力信号の「H」レベル期間、「L」レベル期間に従って検出器出力信号のサンプルデータまたはゼロデータを最大限の期間にわたって取り込むことができるが、偏芯がある場合には、図7(b)のように、前記「H」レベル期間、「L」レベル期間と検出器出力信号との間に時間的ずれが生じるため、サンプルデータまたはゼロデータを取り込む期間が短くなる。
従って、演算手段では、検出器出力信号の中から本来無効なデータを取り込んでしまい、これによって有効データ数が少なくなる等の弊害があり、その結果、目的とするガス濃度の測定精度が低下するという問題があった。
【0013】
なお、前述した特許文献1には、ガス相関セル及びチョッパ駆動用のモータの回転数変動に伴う検出器出力の変動をなくすために、制御手段の基本パルスに同期させて前記モータを回転駆動すると共に、前記基本パルスに同期させて検出光の強度を積分するガス濃度測定装置が記載されているが、チョッパの偏芯による測定精度の低下という問題や、その解決手段については何ら開示されていない。
【0014】
そこで本発明の解決課題は、チョッパの中心位置と回転軸との間に偏芯がある場合にも、検出器出力信号から取り込む有効データ数を増加させて測定精度を向上させたガス濃度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、赤外光源から放射された赤外線を、回転可能なチョッパ及びガス相関セルを介して、試料ガスが導入された試料セルに断続的に入射させ、前記試料セルを透過した赤外線の光量を検出器により検出して前記試料ガス中の測定対象ガス濃度を演算する赤外線吸収方式のガス濃度測定装置であって、
前記チョッパの回転位置検出信号が変化するタイミングを用いて前記検出器の出力信号の所定期間のデータを演算手段に取り込み、測定対象ガス濃度を求めるようにしたガス濃度測定装置において、
前記チョッパの回転位置を検出するためのフォトセンサ等の位置検出器を、前記チョッパの回転軸と前記赤外光源の光軸とを結ぶ直線上であって、前記光軸に近接した位置に配置したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、チョッパ用フォトセンサの位置を適切に設定することにより、前記フォトセンサの中心位置と回転軸とが一致せずに偏芯している場合にも、検出器出力信号と前記フォトセンサの出力信号との時間的ずれを小さくすることができる。このため、チョッパ用フォトセンサの出力信号に基づいて検出器出力信号から演算手段等の信号処理系に取り込まれるデータを所要数だけ確保することが可能である。
従って、有効データ数の減少を防いでガス測定精度を従来よりも向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
前述したように、図6や図7(b)に示した検出器出力信号とチョッパ用フォトセンサ出力信号との時間的ずれは、図5(b)における位相差θに起因しているが、発明者は、赤外光源の光軸Rを中心としたチョッパ用フォトセンサPの位置に応じた前記位相差θの挙動について考察した。
【0018】
図1(a),(b),(c)は、赤外光源の光軸Rを中心としてチョッパ用フォトセンサPの配置角度を0°,90°,180°に変化させた場合の、チョッパの中心位置12’、回転軸C、赤外光源の光軸R、チョッパ用フォトセンサPの位置関係を示す図である。
なお、図1(a)の状態をフォトセンサPの配置角度が0°の状態とし、図1(b)が90°、図1(c)が180°の場合である。また、何れの場合も、チョッパの中心位置12’と回転軸Cとの間の偏芯量をdとしてある。
【0019】
ここで、図1(a),(b),(c)における位相差θ,θ90,θ180の大小関係を比較すると、θ<θ90<θ180となっていることが明らかである。
なお、位相差を具体的に定義すると、チョッパ12の中心位置12’と赤外光源の光軸Rとを結ぶ直線と、中心位置12’とチョッパ用フォトセンサPの光軸とを結ぶ直線と、の交差角度から、チョッパ用フォトセンサPの配置角度(図1(a),(b),(c)ではそれぞれ0°,90°,180°)を減じた角度である。
【0020】
従って、図1(a)のようにチョッパ用フォトセンサPの配置角度を0°にすること、言い換えれば、チョッパ用フォトセンサPを、回転軸Cと赤外光源の光軸Rとを結ぶ直線上に配置することが望ましく、更には、赤外光源の光軸Rにできるだけ近接した位置に配置することにより、上記位相差を最小にすることができる。
これによって、図6や図7(b)における、検出器出力信号とチョッパ用フォトセンサPの出力信号との時間的ずれを小さくすることができ、チョッパ用フォトセンサPの出力信号が変化するタイミングに基づいて決定される検出器出力信号の有効期間を長くして、この有効期間を対象として演算手段に取り込まれるサンプルデータ、リファレンスデータ(図7参照)を所要数だけ確保することが可能になる。
【0021】
図2は、この実施形態に係るガス濃度測定装置の主要部を示す構成図であり、赤外光源11、チョッパ12、ガス相関セル13、チョッパ用フォトセンサP、ガス相関セル用フォトセンサQ等からなる検出ユニット30の側面図である。なお、図2において、Mはチョッパ12及びガス相関セル13を駆動するためのモータ、15は試料セル、31は赤外光が透過する窓、Rは赤外光源の光軸を示す。
【0022】
また、図3は、図2の右側面図に相当するものであり、チョッパ用フォトセンサPは回転軸Cと赤外光源の光軸Rとを結ぶ直線上であって、前記光軸Rに比較的近い位置に配置されている。なお、図3では、赤外光源11の位置を明確にするために、赤外光源11及びその支持部材を便宜的に実線で示してあるが、図2からも明らかなように、赤外光源11は、実際には図3におけるチョッパ12の背後に配置されている。
図3から明らかなように、この例は、図1(a)のようにチョッパ用フォトセンサPの配置角度を0°とした例であり、前述した如く、位相差の最小化すなわち時間的ずれの最小化が可能な例である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態におけるチョッパの中心位置、回転軸、赤外光源の光軸、チョッパ用フォトセンサの位置関係を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るガス濃度測定装置の検出ユニットの側面図である。
【図3】図2の右側面図である。
【図4】ガス濃度測定装置の一例を示す全体構成図である。
【図5】ガス濃度測定装置におけるチョッパ、その中心位置、回転軸、赤外光源の光軸、チョッパ用フォトセンサの位置関係を示す図である。
【図6】チョッパが偏芯している場合の検出器出力信号及びチョッパ用フォトセンサ出力信号を示す図である。
【図7】検出器出力信号、チョッパ用フォトセンサ出力信号、ガス相関センサ用フォトセンサ出力信号を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
11:赤外光源
12:チョッパ(回転セクタ)
12’:チョッパの中心位置
12a:チョッパの窓
13:ガス相関セル
13a:測定対象ガスセル
13b:比較ガスセル
14:バンドパスフィルタ
15:試料セル
16a〜16c:ミラー
20:検出器
30:検出ユニット
31:窓
C:回転軸
M:モータ
P:チョッパ用フォトセンサ
Q:ガス相関セル用フォトセンサ
R:赤外光源の光軸
θ,θ,θ90,θ180:位相差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光源から放射された赤外線を、回転可能なチョッパ及びガス相関セルを介して、試料ガスが導入された試料セルに断続的に入射させ、前記試料セルを透過した赤外線の光量を検出器により検出して前記試料ガス中の測定対象ガス濃度を演算する赤外線吸収方式のガス濃度測定装置であって、
前記チョッパの回転位置検出信号が変化するタイミングを用いて前記検出器の出力信号の所定期間のデータを演算手段に取り込み、測定対象ガス濃度を求めるようにしたガス濃度測定装置において、
前記チョッパの回転位置を検出するための位置検出器を、前記チョッパの回転軸と前記赤外光源の光軸とを結ぶ直線上であって、前記光軸に近接した位置に配置することを特徴とするガス濃度測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−212259(P2007−212259A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31800(P2006−31800)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】