説明

ガス濃度測定装置

【課題】ロックインアンプの機能をディジタル的に処理することにより、回路構成を簡略化し、コストの低減や測定精度の向上を可能にしたガス濃度測定装置を提供する。
【解決手段】赤外光源から放射された赤外線を試料ガスが導入された試料セルに断続的に入射させ、試料セルを透過した赤外線の光量を検出器により検出してA/D変換すると共に、A/D変換後の信号を用いて試料ガス中の測定対象ガス濃度を演算する赤外線吸収方式のガス濃度測定装置に関する。ディジタル信号処理回路70は、ガス相関セル13の回転信号の周期を測定し、この測定周期を所定数Nにより分割して生成したA/D変換タイミング信号により、増幅回路30(検出器20)の出力信号をサンプリングしてA/D変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理技術を改良して測定精度を向上させた、ガス相関法等による赤外線吸収方式のガス濃度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス相関法は、米国環境保護庁が開発した赤外線吸収方式のガス濃度測定方法として知られており、CO,COを始めとした各種のガス濃度の測定に使用されている。その原理は、CO等の測定対象ガスを含む試料ガスが導入される試料セルと、この試料セルに赤外光を入射させる赤外光源との間に、測定対象ガスを封入した測定対象ガスセルとN等の不活性ガス(ゼロガス)を封入した比較ガスセルとを有するガス相関セル(ガス相関フィルタ)を配置し、このガス相関セルを回転させて、赤外光の光路上に測定対象ガスを介在させた時の試料セルの透過赤外線光量と、不活性ガスを介在させた時の試料セルの透過赤外線光量との差を測定することにより、試料ガス中の測定対象ガス濃度を測定するものである。
なお、このようなガス相関法を用いたガス濃度測定装置は、後述する特許文献1等に記載されている。
【0003】
図3は、この種のガス濃度測定装置の概略的な構成を示すブロック図である。
図3において、光学系10は、赤外光源を始めとして、前述した測定対象ガスセル及び比較ガスセルを備えた回転可能なガス相関セル、赤外光を断続させるためのスリットを有する回転可能な円板状のチョッパ(回転セクタ)、試料セル内の多重反射用ミラー等の赤外光の透過経路に存在する構成要素を纏めて示したものである。
検出器20は、上記測定対象ガスセルまたは不活性ガスセルを経て試料セルを透過した赤外光を検出し、その透過光量を電気信号に変換する。
【0004】
ここで、図4はガス相関法によるガス濃度測定装置の一例を示す全体構成図であり、11は赤外光源、12はチョッパ(回転セクタ)、13はガス相関セル、13aは測定対象ガスセル、13bは比較ガスセル、14はバンドパスフィルタ、15は試料セル、16a〜16cはミラー、20は前述の検出器である。
【0005】
図3に戻って、増幅回路30は検出器20の出力信号を増幅するものであり、次段のロックインアンプ40は、増幅回路30の出力信号から、赤外光が測定対象ガスセルまたは不活性ガスセルを透過した時の赤外線透過光量を直流のアナログ信号として得る。
なお、上記ロックインアンプ40は、周知のように微少信号の測定を主目的とした一種の同期検波器であり、前記光学系10のチョッパ(回転セクタ)12によるチョッピング周波数に同期させてアナログスイッチ等のスイッチング手段を操作することで入力信号(増幅回路30の出力信号)を取り込み、この信号を積分(平均化)して一定の直流値に収束させることにより、ノイズを除去した入力信号を直流信号として検出するものである。
【0006】
A/D変換器50は、ロックインアンプ40から出力される直流のアナログ信号をディジタル信号に変換する。
ディジタル信号処理回路60は、上記ディジタル信号を処理して比較ガスセルを透過した時の赤外線透過光量と測定対象ガスセルを透過した時の赤外線透過光量との差分を演算することにより試料ガス中の測定対象ガス濃度を算出し、図示されていない記録計や表示装置等に出力する。
【0007】
このように、ロックインアンプを用いてガス濃度を測定するガス濃度測定装置は、例えば特許文献2,3等に記載されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3424364号公報([0015]〜[0024],図1、図2等)
【特許文献2】特許第2744728号公報([0046]〜[0057]、図1等)
【特許文献3】特許第2744742号公報([0029]〜[0047]、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3に示したように、ロックインアンプ40を用いる従来のガス濃度測定装置では、ロックインアンプ40を構成する回路部品数が多く、コストが増加すると共に、回路定数のばらつきや温度によるドリフト、外来ノイズの影響等によってその出力信号に誤差を生じ、これがガス濃度の測定誤差に直結してしまうという問題があった。
そこで本発明の解決課題は、ロックインアンプの機能をディジタル的に処理することにより、回路構成を簡略化し、コストの低減や測定精度の向上を可能にしたガス濃度測定装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、赤外光源から放射された赤外線を試料ガスが導入された試料セルに断続的に入射させ、
前記試料セルを透過した赤外線の光量を検出器により検出してアナログ/ディジタル変換すると共に、アナログ/ディジタル変換後の信号を用いて前記試料ガス中の測定対象ガス濃度を演算する赤外線吸収方式のガス濃度測定装置において、
前記赤外線を断続的に入射させる周期を測定する手段と、
この手段による測定周期を所定数により分割してタイミング信号を生成する手段と、
前記タイミング信号を用いて前記検出器の出力信号をサンプリングし、アナログ/ディジタル変換する手段と、
を備えたものである。
【0011】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載したガス濃度測定装置において、
前記ガス濃度測定装置は、回転可能なガス相関セルを備えたガス相関法によるガス濃度測定装置であり、前記ガス相関セルの回転周期を測定し、この周期を所定数により分割してタイミング信号を生成するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロックインアンプを用いなくても、ディジタル信号処理回路の演算処理により、ガス相関セル等の回転周期を分割して得たA/D変換タイミング信号を用いて検出器の出力信号をサンプリングすると共にA/D変換させ、その出力信号を用いて、ガス濃度測定のための演算処理を行うことができる。このため、ロックインアンプを構成する回路部品を不要として回路構成の簡略化、コストの低減を図ることができ、また、回路定数の誤差や温度ドリフト、外来ノイズの影響等に起因した測定誤差をなくしてガス濃度の測定精度を従来よりも向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1,図2を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
まず、図1は、この実施形態の概略的な構成を示すブロック図である。図1において、図3と同一の構成要素には同一の番号を付して説明を省略し、以下では異なる部分を中心に説明する。
また、図2はこの実施形態の動作を時系列に沿って示した概念的な波形図である。なお、チョッパ(回転セクタ)12の機能については本発明の要旨ではないため、その説明を省略する。
【0014】
図1において、光学系10からはガス相関セル回転信号が出力されており、この回転信号はCPUやDSP(ディジタル・シグナル・プロセッサ)等からなるディジタル信号処理回路70に入力されている。ガス相関セル回転信号は、ガス相関セルの回転周期を例えばフォトカプラや磁気センサにより検出して得られる信号であり、図2(a)に示すように、図4の比較ガスセル13bを透過した赤外線を測定するサンプル周期と、図4の測定対象ガスセル13aを透過した赤外線を測定するリファレンス周期とからなっている。
【0015】
ディジタル信号処理回路70は、図2(b)に示すごとくサンプル周期T(以下、T,T,……)及びリファレンス周期T(以下、T,T,……)をそれぞれ測定し、これらの周期をその都度、内部のメモリに一時的に記憶する。なお、サンプル周期T,T,T,……及びリファレンス周期T,T,T,……は、ガス相関セル13の回転速度が一定であれば理論的に同一値であるが、ガス相関セル13を駆動するモータ等の電源周波数や機械的構造による回転ムラ等に起因して周期に誤差が生じるため、ガス相関セル13の一回転ごとに測定する必要がある。
図2(b)において、ガス相関セル回転信号が各周期内で「High」レベル(透過)及び「Low」レベル(遮断)となっているのは、ガス相関セル13とチョッパ(回転セクタ)12との位置関係に応じて検出器20に到達する赤外光の有無に対応させたものである。
【0016】
さて、ディジタル信号処理回路70では、内部のメモリに適宜な分割値N(整数)を保持しており、サンプル周期及びリファレンス周期をそれぞれ測定した時点でT/N(n=1,2,3,……)を演算し、図2(c)に示すように前記間隔T/Nを有するA/D変換タイミング信号を生成する。そして、これらのA/D変換タイミング信号をA/D変換器50に出力する。
【0017】
A/D変換器50には、図2(d)に示すように、サンプル周期における透過赤外光による増幅回路30の出力信号(図2(d)において「サンプル」と表記してある)と、リファレンス周期における透過赤外光による増幅回路30の出力信号(同じく「リファレンス」と表記してある)とが交互に入力されており、図4の試料セル15に導入された試料ガス中の測定対象ガス濃度は、「サンプル」信号と「リファレンス」信号との振幅の差に基づいて求めることができる。
【0018】
そこで、A/D変換器50では、ディジタル信号処理回路70から出力された間隔T/NごとのA/D変換タイミング信号を用いて増幅回路30の出力信号をサンプリングし、それぞれディジタル信号に変換する。
例えば、ディジタル信号処理回路70は、測定したサンプル周期Tから間隔T/NのA/D変換タイミング信号を生成し、A/D変換器50は、次のリファレンス周期Tにおいて、増幅回路30から出力された「リファレンス」信号を間隔T/NごとにサンプリングしてA/D変換する。なお、図2(d)において、a,aは透過赤外光によるリファレンス信号、b〜bは遮断赤外光によるリファレンス信号(すなわち、ゼロ値)であり、ディジタル信号処理回路70では、これらのリファレンス信号a,a及びb〜bのディジタル値をそれぞれ平均化して差を求めることにより、リファレンス信号の振幅を演算する。
【0019】
同様にしてディジタル信号処理回路70は、測定したリファレンス周期Tから間隔T/NのA/D変換タイミング信号を生成し、A/D変換器50は、次のサンプル周期Tにおいて、増幅回路30から出力された「サンプル」信号を間隔T/NごとにサンプリングしてA/D変換を行う。そして、ディジタル信号処理回路70が、透過赤外光によるサンプル信号c〜c、遮断赤外光によるサンプル信号(すなわち、ゼロ値)d,dの各ディジタル値をそれぞれ平均化して差を求めることにより、サンプル信号の振幅を演算する。
【0020】
ディジタル信号処理回路70では、上記により求めたサンプル信号の振幅からリファレンス信号の振幅を減算し、赤外線吸収量の差分を求める。この差分は、試料セル15に導入された試料ガス中の測定対象ガス濃度に相当するため、適宜な換算を行って目的とする測定対象ガス濃度を演算するものである。
【0021】
上記のように、本実施形態によれば、従来技術のようにロックインアンプを用いなくても、ディジタル信号処理回路70による演算処理により、ガス相関セル13の回転周期に同期させて検出器20(増幅回路30)の出力信号を所定間隔でサンプリングし、A/D変換して赤外線吸収量の演算に用いることができる。これにより、ロックインアンプを構成する回路部品を不要としてコストの低減が可能であると共に、これらの回路部品の回路定数のばらつきや温度ドリフト、ノイズの影響等に起因した測定誤差をなくすることができる。
【0022】
また、ガス相関セル13を駆動する電源周波数の変動や機械的構造による回転ムラ等の変動要因が存在する場合でも、ガス相関セル回転信号はこれらの変動要因を常に反映しており、ディジタル信号処理回路70はその都度測定したガス相関セル回転信号の周期に応じた間隔T/NのA/D変換タイミング信号を生成するので、増幅回路30の出力信号を常に適切なタイミングでサンプリングし、A/D変換することが可能である。
【0023】
なお、本発明の原理は、ディジタル信号処理回路70が、試料セルに赤外線が断続して入射する周期に応じた間隔T/Nを演算して検出器出力信号をサンプリングし、A/D変換させることにあり、上述したガス相関法によるガス濃度測定装置ばかりでなく、例えば、非分散形赤外線吸収法(NDIR)によるガス濃度測定装置において、チョッパ(回転セクタ)により赤外光を断続させて試料セルに入射させ、ガス濃度を測定する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の概略的な構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態の動作を示す波形図である。
【図3】従来のガス濃度測定装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【図4】ガス濃度測定装置の一例を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0025】
10:光学系
11:赤外光源
12:チョッパ(回転セクタ)
13:ガス相関セル
13a:測定対象ガスセル
13b:比較ガスセル
14:バンドパスフィルタ
15:試料セル
16a〜16c:ミラー
20:検出器
30:増幅回路
40:ロックインアンプ
50:A/D変換器
60,70:ディジタル信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光源から放射された赤外線を試料ガスが導入された試料セルに断続的に入射させ、
前記試料セルを透過した赤外線の光量を検出器により検出してアナログ/ディジタル変換すると共に、アナログ/ディジタル変換後の信号を用いて前記試料ガス中の測定対象ガス濃度を演算する赤外線吸収方式のガス濃度測定装置において、
前記赤外線を断続的に入射させる周期を測定する手段と、
この手段による測定周期を所定数により分割してタイミング信号を生成する手段と、
前記タイミング信号を用いて前記検出器の出力信号をサンプリングし、アナログ/ディジタル変換する手段と、
を備えたことを特徴とするガス濃度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載したガス濃度測定装置において、
前記ガス濃度測定装置は、回転可能なガス相関セルを備えたガス相関法によるガス濃度測定装置であり、
前記ガス相関セルの回転周期を測定し、この周期を所定数により分割してタイミング信号を生成することを特徴とするガス濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−3253(P2007−3253A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181495(P2005−181495)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】