説明

ガス状アンモニア吸着除去材、ガス状アンモニア吸着除去材の製造方法、および、ガス状アンモニア吸着除去材を用いたアンモニア除去方法

【課題】環境保全に配慮し、汎用性が高く、取り扱い易いガス状アンモニア吸着除去材等を提供する。
【解決手段】水溶性金属塩を有することなく、ガス状アンモニアを分解吸着するクエン酸が多孔質体に担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス状アンモニア吸着除去材、ガス状アンモニア吸着除去材の製造方法、および、ガス状アンモニア吸着除去材を用いたアンモニア除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物のコンクリートから発生するガス状アンモニアは、美術館の美術品を劣化させたり、閉鎖空間などでは異臭の原因となる。このため、ガス状アンモニアを除去または消臭することが求められる。アンモニアを消臭する消臭材としては、例えば、活性炭等に酸化銅、酸化マンガン及び硝酸銀などの水溶性金属塩からなる脱臭成分が担持された脱臭材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第96/22827号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の脱臭材が担持する水溶性金属塩は、環境汚染物質を含有するため、脱臭材として使用する際の取り扱い安全性に不安があり、また、使用後に一般廃棄物として処分できないため汎用性に欠けるという課題がある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、環境保全に配慮し、汎用性が高く、取り扱い易いガス状アンモニア吸着除去材、ガス状アンモニア吸着除去材の製造方法、および、ガス状アンモニア吸着除去材を用いたアンモニア除去方法を用いたアンモニア除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明のガス状アンモニア吸着除去材は、水溶性金属塩を有することなく、ガス状アンモニアを分解吸着するクエン酸が多孔質体に担持されていることを特徴とするガス状アンモニア吸着除去材である。
このようなガス状アンモニア吸着除去材によれば、環境汚染物質を含有する水溶性金属塩を有することなく、多孔質体に担持された食品添加物であるクエン酸を用いてガス状アンモニアを分解吸収するので、取り扱い上の安全性、汎用性が高く、環境保全に配慮したガス状アンモニア吸着除去材を提供することが可能である。
【0007】
かかるガス状アンモニア吸着除去材であって、前記クエン酸は、ガス状アンモニアと反応してクエン酸アンモニウムを生成することが望ましい。
このようなガス状アンモニア吸着除去材によれば、クエン酸がガス状アンモニアと反応して生成されるのは水溶性塩のクエン酸アンモニウムなので、毒性物質や環境汚染物質に該当しない。このため、使用後のガス状アンモニア吸着除去材は、一般廃棄物として処分したり、可燃ゴミとして廃棄可能である。また、使用後の、ガス状アンモニアが吸着されたガス状アンモニア吸着除去材を水洗いして多孔質体を回収し循環利用することが可能である。このため、より環境保全に配慮したガス状アンモニア吸着除去材を提供することが可能である。
【0008】
かかるガス状アンモニア吸着除去材であって、前記多孔質体は、木炭であることが望ましい。
このようなガス状アンモニア吸着除去材によれば、クエン酸が担持されるのは木炭なので、木炭の脱臭性及び調湿性とともにクエン酸のアンモニア吸着性を備えて、より環境保全に配慮したガス状アンモニア吸着除去材を提供することが可能である。
【0009】
かかるガス状アンモニア吸着除去材であって、前記多孔質体には、クエン酸のみが担持されていることが望ましい。
このようなガス状アンモニア吸着除去材によれば、クエン酸のみが多孔質体に担持されているので、ガス状アンモニアを吸着した際に生成される物質はクエン酸アンモニウムだけである。このため、より環境保全に配慮した、汎用性の高いガス状アンモニア吸着除去材を提供することが可能である。
【0010】
また、水溶性金属塩を含まず、ガス状アンモニアを分解吸着するクエン酸を溶質とする水溶液に多孔質体を浸漬する浸漬工程と、前記多孔質体を前記水溶液から取り出して自然乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とするガス状アンモニア吸着除去材の製造方法である。
このようなガス状アンモニア吸着除去材の製造方法によれば、クエン酸を溶質とする水溶液に多孔質体を浸漬し、自然乾燥するだけでガス状アンモニア吸着除去材を容易に製造することが可能である。また、多孔質体を浸漬する水溶液は、水溶性金属塩を含まずガス状アンモニアを分解吸着するクエン酸を溶質としているので、環境汚染物質が含まれず、また、製造において環境汚染物質を排出しないので、環境を汚染することなくガス状アンモニア吸着除去材を製造することが可能である。
【0011】
また、上記ガス状アンモニア吸着除去材を、コンクリート造の閉塞空間に設置して、ガス状アンモニアを除去することを特徴とするガス状アンモニアの除去方法である。
このようなガス状アンモニアの除去方法によれば、クエン酸がガス状アンモニアと反応して生成される水溶性塩のクエン酸アンモニウムは、毒性物質や環境汚染物質に該当しないので、コンクリート造の閉塞空間に設置しても内部が汚染されない。このため、コンクリート造の閉塞空間に設置するだけで、コンクリートから排出されるガス状アンモニアを、安全に効率良く除去することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境保全に配慮し、汎用性が高く、取り扱い易いガス状アンモニア吸着除去材、ガス状アンモニア吸着除去材の製造方法、及び、ガス状アンモニア吸着除去材を用いたアンモニア除去方法を用いたアンモニア除去方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1検証試験の結果を示すグラフである。
【図2】第2検証試験の結果を示すグラフである。
【図3】適用試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のガス状アンモニア吸着除去材は、ガス状アンモニアを分解吸着するクエン酸が多孔質体に担持されて形成されている。また、本ガス状アンモニア吸着除去材は、水溶性金属塩を有していない。
【0015】
多孔質体としては、例えば、700℃〜800℃にて処理した高温炭化木炭を使用している。高温炭化木炭は、活性炭、ゼオライトと同様の多孔質体であり、ガス状物質の物理吸着性能、脱臭性能、調湿性能に優れ、家庭用品としての脱臭材や調湿材としても利用されているように、取扱い上の安全性が高く、環境汚染の虞もなく、汎用性が高い部材である。また、高温炭化木炭の原料として、流木や建築廃材等を使用することにより、エコ活動への貢献が期待できる。
【0016】
クエン酸は、酸味料や安定剤として食品や飲み物等に利用される食品添加物であり、また、家庭用の汚れ洗浄剤としても使用されるなど、高温炭化木炭と同様に取扱い上の安全性が高く、環境汚染の虞もなく、汎用性が高い。また、発明者は、クエン酸がアンモニアとの反応性に優れていることを見出している。具体的には、クエン酸は、化学式C、分子量192.12のカルボキシル基を3個有する弱酸で、ガス状アンモニアとの反応性が高く、効率良く短時間にてアンモニア除去効果が得られ、その持続性にも優れていることを見出した。クエン酸とアンモニアとの反応は下記の化学式にて示される。

【0017】
上記化学式に示すように、クエン酸とアンモニアとの反応によりクエン酸アンモニウムが生成される。クエン酸アンモニウムは、水溶性塩であり毒性物質や環境汚染物質に該当しないので、取り扱いが容易であり、且つ、環境を汚染する虞はない。
【0018】
本ガス状アンモニア吸着除去材の製造方法の一例としては、まず、クエン酸を溶質とし、濃度5〜7%のクエン酸水溶液を調製する。
【0019】
次に、調製したクエン酸水溶液に、破砕状や成型板状などの高温炭化木炭を浸漬する(浸漬工程)。
その後、浸漬させた高温炭化木炭をクエン酸水溶液から引き上げて自然乾燥する(乾燥工程)。引き上げた高温炭化木炭が乾燥すると高温炭化木炭の多孔質組織に、適当量のクエン酸が担持されてガス状アンモニア吸着除去材が完成する。
【0020】
本実施形態のガス状アンモニア吸着除去材によれば、食品添加物であるクエン酸が担持された高温炭化木炭にて、ガス状アンモニアを分解吸収するので、取扱い上の安全性が高く、環境汚染の虞もない、汎用性が高いガス状アンモニア吸着除去材を提供することが可能である。そして、ガス状アンモニア吸着除去材は、環境汚染物質を含有する水溶性金属塩を有していないので、環境保全に配慮したガス状アンモニア吸着除去材を提供することが可能である。
【0021】
また、クエン酸が担持されるのは高温炭化木炭なので、高温炭化木炭の脱臭性及び調湿性とともにクエン酸のアンモニア吸着性を備えたガス状アンモニア吸着除去材を提供することが可能である。
【0022】
また、クエン酸がガス状アンモニアと反応して生成されるのは水溶性塩のクエン酸アンモニウムなので、毒性物質や環境汚染物質に該当しない。このため、使用後のガス状アンモニア吸着除去材は、一般廃棄物として処分したり、可燃ゴミとして廃棄可能である。また、使用後の、ガス状アンモニアが吸着されたガス状アンモニア吸着除去材を水洗いして高温炭化木炭を回収し循環利用することが可能である。このため、より環境保全に配慮したガス状アンモニア吸着除去材を提供することが可能である。
【0023】
ここで、ガス状アンモニア吸着除去材の高温炭化木炭にクエン酸のみが担持されていると、ガス状アンモニア吸着除去材にてガス状アンモニアを吸着した際に生成される物質はクエン酸アンモニウムだけなので、より環境保全に配慮した、汎用性の高いガス状アンモニア吸着除去材を提供することが可能である。
【0024】
本実施形態のガス状アンモニア吸着除去材の製造方法によれば、高温感化木炭を浸漬する水溶液は水溶性金属塩を含まず、ガス状アンモニアを分解吸着するクエン酸を溶質としているので、環境汚染物質が含まれない。このため、クエン酸を溶質とする水溶液に高温炭化木炭を浸漬し、自然乾燥するだけでガス状アンモニア吸着除去材を製造することが可能であり、また、その製造においても、環境汚染物質が排出されず、環境を汚染することなくガス状アンモニア吸着除去材を容易に製造することが可能である。
【0025】
このようなガス状アンモニア吸着除去材を用いたガス状アンモニアの除去方法としては、例えば、ガス状アンモニアが発生しやすいコンクリート造の閉塞空間、例えば地下ピットなどに設置して、ガス状アンモニアを除去する。すなわち、対象となる仕切られた空間内にガス状アンモニア吸着除去材を設置するだけである。
発明者は、上記ガス状アンモニア吸着除去材の効果を密閉チャンバー内に配置して検証試験をしている。
【0026】
図1は、第1検証試験の結果を示すグラフである。
第1検証試験では、容積180L(リットル)の2つの密閉チャンバー内のアンモニア濃度が計算上で7ppmとなるようにアンモニアガスを導入し、2つの密閉チャンバーのうちの一方に高温炭化木炭をボード状に成型した「木炭ボード」を1枚吊し、2つの密閉チャンバーのうちの他方に、その木炭ボードにクエン酸を担持処理した「ガス状アンモニア吸着除去材」を1枚吊した。そして、時間の経過に伴う密閉チャンバー内のアンモニア濃度の変化を記録した。その結果、図1に示すように、両密閉チャンバー内ともアンモニア濃度が急激に低下し、木炭ボード及びガス状アンモニア吸着除去材ともにアンモニア吸着効果が確認された。特に、ガス状アンモニア吸着除去材は無処理の木炭ボードに比べてアンモニア除去効果が顕著であることが確認された。
【0027】
図2は、第2検証試験の結果を示すグラフである。
第2検証試験では、高温炭化木炭をボード状に成型した「木炭ボード」と木炭ボードにクエン酸を担持処理した「ガス状アンモニア吸着除去材」を入れた密閉チャンバー内に、高濃度のアンモニアを導入して放置し、木炭ボードとガス状アンモニア吸着除去材のアンモニア吸着能を飽和(破過)させ、木炭ボードとガス状アンモニア吸着除去材のアンモニア吸着量を蒸留法で脱着して定量分析した。
【0028】
その結果、図2に示すように、クエン酸担持なしの木炭ボードと比較して、ガス状アンモニア吸着除去材は、アンモニア吸着量が約6倍(0.853/0.144)であり、クエン酸を担持することによりアンモニア吸着量が増加していることが確認された。
また、発明者は、地下ピットを使用して上記ガス状アンモニア吸着除去材の効果を確認する適用試験を行っている。
【0029】
図3は、地下ピットにおける適用試験の結果を示すグラフである。
閉鎖状態のRC造の地下ピットは、コンクリートから発生するアンモニアが内部に滞留蓄積し、地下ピットの点検や清掃時にマンホールを開けると強いアンモニア臭が感じられて作業に支障を来たしたり、また、アンモニアがピット上の室内等でも臭う場合があった。
【0030】
そこで、適用試験では、某建物のRC造の3つの地下ピットに、上記ガス状アンモニア吸着除去材を各々設置して、アンモニア濃度の低減効果を検証した。このとき、設置したガス状アンモニア吸着除去材は、破砕状の高温炭化木炭を5%のクエン酸水溶液に浸漬し、自然乾燥後に通気性を有する不織布袋に詰めて地下ピット内に4袋吊り下げた。各不織布袋のサイズは約1Lで、ガス状アンモニア吸着除去材の充填量は160〜200g/個である。
【0031】
その結果、図3に示すように、ガス状アンモニア吸着除去材を設置することによって、地下ピット内のアンモニア濃度は著しく低減し、アンモニア臭も消え、ガス状アンモニア吸着除去材の効果を確認することができた。すなわち、本実施形態のガス状アンモニアの除去方法によれば、コンクリートから排出されるガス状アンモニアを、安全に効率良く除去することが可能である。
【0032】
上記実施形態においては、クエン酸を担持する部材を高温炭化木炭としたが、これに限らず、活性炭やゼオライトなど多孔質体であれば構わない。
また、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性金属塩を有することなく、ガス状アンモニアを分解吸着するクエン酸が多孔質体に担持されていることを特徴とするガス状アンモニア吸着除去材。
【請求項2】
請求項1に記載のガス状アンモニア吸着除去材であって、
前記クエン酸は、ガス状アンモニアと反応してクエン酸アンモニウムを生成することを特徴とするガス状アンモニア吸着除去材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガス状アンモニア吸着除去材であって、
前記多孔質体は、木炭であることを特徴とするガス状アンモニア吸着除去材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のガス状アンモニア吸着除去材であって、
前記多孔質体には、クエン酸のみが担持されていることを特徴とするガス状アンモニア吸着除去材。
【請求項5】
水溶性金属塩を含まず、ガス状アンモニアを分解吸着するクエン酸を溶質とする水溶液に多孔質体を浸漬する浸漬工程と、
前記多孔質体を前記水溶液から取り出して自然乾燥する乾燥工程と、
を有することを特徴とするガス状アンモニア吸着除去材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のガス状アンモニア吸着除去材を、コンクリート造の閉塞空間に設置して、ガス状アンモニアを除去することを特徴とするガス状アンモニアの除去方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−245398(P2011−245398A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119596(P2010−119596)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】