説明

ガス生成支援装置、及び、バイオガス製造システム

【課題】小型且つ安価な構成で、バイオガス生成槽において微生物によって生成されたバイオガスに含まれる成分ガスの生成状態を、容易に測定できるガス生成支援装置、及び、バイオガス製造システムを提供する。
【解決手段】微生物による有機性物質の発酵を利用して熱伝導率の異なる2つの成分ガスを主成分とするバイオガスを生成するバイオガス生成槽10における、前記バイオガスの生成を支援するガス生成支援装置。バイオガス生成槽10で生成された前記バイオガスに含まれる一方の成分ガスの濃度を測定する、熱伝導式のガス濃度測定手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物による有機性物質の発酵を利用してバイオガスを生成するバイオガス生成槽における、前記バイオガスの生成を支援するガス生成支援装置、及び、該ガス生成支援装置を備えるバイオガス製造システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりから、燃焼に際して環境汚染を引き起こす物質が発生しない水素が、環境に優しいクリーンな次世代エネルギーの主役の一つになるものとして期待されている。しかし、現状、水素は、主に化石資源の熱化学的改質や塩水の電気分解などの方法によって生成されており、そして、これらの方法は、水素生成過程において熱や電気等を必要とするので、この熱や電気等を得るために化石燃料等が用いられ、そのため、水素生成過程において環境への負荷が生じる恐れがあった。
【0003】
そこで、このような水素生成方法に代わる、環境負荷の小さい水素生成方法として、微生物(又は、菌体とも呼ばれる)によって有機性物質を発酵させて水素を生成する方法が注目されている。このような水素生成方法は、例えば、特許文献1に示すように、バイオガス生成槽としての水素発酵槽に有機性原料を供給し、微生物を利用して該有機性原料を発酵させて、水素と二酸化炭素とを主成分とするバイオガスを生成する。そして、水素分離装置を用いて、生成したバイオガスから水素を分離して得るとともに、水素を分離した残りのバイオガスを水素発酵槽に循環させて発酵液中に吹き込む。このようにすることで、有機性物質の発酵により水素を生成するとともに、水素発酵槽中の水素濃度を低下させて、水素の発生量を増加させていた。
【0004】
上述したような水素生成方法では、バイオガス(即ち、水素)の生成に微生物を用いているので、例えば、水素発酵槽内の有機性物質の量や、有機性物質と微生物とが混合された発酵溶液の温度などの発酵条件によって、微生物が生成するバイオガスの成分ガスである水素の濃度や量などが変動する。そのため、所望量の水素を生成するには、生成されたバイオガスに含まれる水素の濃度又は水素の量、即ち、水素の生成状態を測定することによって、これらの値に応じて上記発酵条件を調整できるように支援する必要がある。
【0005】
そして、特許文献2には、水素含有混合ガス中の水素濃度を測定するための水素連続分析装置が提案されている。この水素連続分析装置は、水素分子分離器と、熱伝導率検出器と、を備えている。水素分子分離器は、水素を選択的に透過させる半透過膜を備えており、この半透過膜を介して水素含有混合ガスから水素分子を分離して、水素に富む試料ガスを熱伝導率検出器に供給する。熱伝導率検出器は、水素分子分離器から供給される試料ガスの熱伝導率に基づいて試料ガスの水素濃度を求め、その試料ガスの水素濃度から水素含有混合ガス中の水素濃度を推定する。この水素連続分析装置は、例えば、自動車の排気ガスなどの一般的な水素含有混合ガス中の水素濃度の測定などに用いられ、また、上述したバイオガスに含まれる水素の濃度の測定にも適用できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3851806号
【特許文献2】特開2000−214121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した水素連続分析装置は、水素分子分離器を備えているので、装置が大型化するとともに、該装置のコストが高くなるという問題があった。また、水素分子分離器から供給される試料ガスの熱伝導率に基づいて試料ガスの水素濃度を求め、その試料ガスの水素濃度から水素含有混合ガスの水素濃度を推定するので、例えば、水素含有混合ガスに加えられる圧力と半透過膜を透過する水素量との関係などに基づいて、水素含有混合ガスの水素濃度を算出する必要があり、複雑な処理を行わなければならないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に係る問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、小型且つ安価な構成で、バイオガス生成槽において微生物によって生成されたバイオガスに含まれる成分ガスの生成状態を、容易に測定できるガス生成支援装置、及び、バイオガス製造システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、微生物による有機性物質の発酵を利用して熱伝導率の異なる2つの成分ガスを主成分とするバイオガスを生成するバイオガス生成槽における、前記バイオガスの生成を支援するガス生成支援装置において、前記バイオガス生成槽で生成された前記バイオガスに含まれる一方の前記成分ガスの濃度を測定する熱伝導式のガス濃度測定手段を備えていることを特徴とするガス生成支援装置である。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記ガス濃度測定手段が、前記バイオガス生成槽内又は前記バイオガス生成槽に接続されたガス流路の前記バイオガス生成槽近傍に設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載された発明において、前記バイオガス生成槽に接続されたガス流路を流れる前記バイオガスの流量を測定するガス流量測定手段と、前記ガス濃度測定手段によって測定された前記一方の成分ガスの濃度と前記ガス流量測定手段によって測定された前記バイオガスの流量とに基づいて、前記一方の成分ガスの生成量を算出するガス生成量算出手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4に記載された発明は、微生物による有機性物質の発酵を利用して、熱伝導率の異なる2つの成分ガスを主成分とするバイオガスを生成するバイオガス生成槽と、前記バイオガス生成槽における前記バイオガスの生成を支援するガス生成支援装置と、を備えるバイオガス製造システムにおいて、前記ガス生成支援装置として、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス生成支援装置を備えていることを特徴とするバイオガス製造システムである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載された発明によれば、バイオガス生成槽において微生物による有機性物質の発酵を利用して生成された、熱伝導率の異なる2つの成分ガスを主成分とする、バイオガスに含まれる一方の前記成分ガスの濃度を測定する熱伝導式のガス濃度測定手段を備えているので、バイオガスから一方の成分ガスを分離する分離装置を設けることなく、また、濃度算出のための複雑な処理を必要とすることなく、一方の成分ガスの生成状態として、直接バイオガスに含まれる一方の成分ガスの濃度を測定することができる。そのため、小型且つ安価な構成で、微生物による有機性物質の発酵を利用して生成されたバイオガスに含まれる成分ガスの生成状態を容易に測定できる。
【0014】
請求項2に記載された発明によれば、ガス濃度測定手段が、バイオガス生成槽内又はこのバイオガス生成槽に接続されたガス流路の該バイオガス生成槽近傍に設けられているので、バイオガス生成槽内またはそれに近い場所に存在する生成直後のバイオガスに含まれる一方の成分ガスの濃度を測定することができ、そのため、バイオガスの生成から一方の成分ガスの生成状態の測定までの時間を短縮して、一方の成分ガスの生成状態を迅速に測定することができる。
【0015】
請求項3に記載された発明によれば、バイオガス生成槽で生成されたバイオガスに含まれる一方の成分ガスの濃度を測定するとともに、バイオガス生成槽に接続されたガス流路を流れる前記バイオガスの流量を測定し、そして、測定した一方の成分ガスの濃度と測定したバイオガスの流量とに基づいて、一方の成分ガスの生成量を算出するので、一方の成分ガスの生成状態として、バイオガスに含まれる一方の成分ガスの生成量を測定することができ、そのため、例えば、所望量の一方の成分ガスを生成する場合などにおいて、微生物の発酵条件の調整をより正確且つ容易に行うことができる。
【0016】
請求項4に記載された発明によれば、ガス生成支援装置として、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス生成支援装置を備えているので、小型且つ安価な構成で、微生物による有機性物質の発酵を利用して生成されたバイオガスに含まれる成分ガスの生成状態を容易に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るガス生成支援装置を備えるバイオガス製造システムの一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】微生物の代謝経路の一例を示す説明図である。
【図3】生成されたバイオガスの体積とバイオガス中の水素濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一般的に、複数の成分ガスを含む混合ガスにおいて、該混合ガスに含まれる1つの成分ガスの濃度を測定するときは、周知の光学式ガスセンサや接触燃焼式ガスセンサが用いられる。しかし、光学式ガスセンサは、微生物によって生成されるバイオガスに含まれる多量の水蒸気や反応によって発生する夾雑物の影響により、光学特性が変化してしまうので、バイオガスの測定には用いることができない。また、接触燃焼式ガスセンサは、上記バイオガスには酸素などの支燃性ガスがほとんど含まれないので、成分ガスを燃焼させることができず、光学式ガスセンサと同様に、バイオガスの測定には用いることができない。
【0019】
また、混合ガスに含まれる成分ガスの濃度の測定に用いられる他のガスセンサとして、熱伝導式ガスセンサがある。この熱伝導式ガスセンサは、基準ガスと測定対象ガスとの熱伝導率の違いを利用して、測定対象ガスに含まれる成分ガスの濃度を測定するものである。そのため、熱伝導式ガスセンサは、多量の水蒸気を含み、且つ、支燃性ガスを含まない、バイオガスの測定にも使用することができる。しかしながら、熱伝導式ガスセンサは、原理的に、熱伝導率が異なる2つの成分ガスからなる混合ガスにおいて使用可能なものであるので、主成分となる成分ガス以外にも他の成分ガスを含むバイオガスには、使用できないものと考えられていた。そのため、上述のように分離装置を用いて測定対象ガスであるバイオガスから成分ガスを分離したのち、熱伝導式ガスセンサを用いて、該成分ガスの濃度を測定する方法がとられていた。
【0020】
そこで、本発明者らは、バイオガスに含まれる成分ガスに着目し、有機性物質を発酵させて水素と二酸化炭素とを主成分とするバイオガスを生成する微生物(以下、「水素生産菌」ともいう)を用いて、様々な発酵条件において水素生産菌が生成するバイオガスについて、それに含まれる各成分ガスの濃度、量などを測定して、鋭意検討を行った。そして、検討の結果、以下のことを見いだした。
【0021】
本発明者らは、ガスクロマトグラフィ分析装置を用いて、水素生産菌によって生成されたバイオガスに含まれる成分ガスの種類及び体積について測定を行ったところ、この測定結果から、バイオガスは、水素及び二酸化炭素が大部分を占め(即ち、主成分となる)、空気(窒素)、メタン、アセトンなどはほとんど含まれない(即ち、副成分となる)ことが判った。これは、(1)水素及び二酸化炭素については、水素生産菌によって多量に生成されるので、バイオガスの大部分を占める。その一方で、(2)空気については、予め実験系に存在するものであるが、水素及び二酸化炭素に押し出されて実験系外に排出され、またはあらかじめ容器内を二酸化炭素で満たすなどにより当初の空気量をゼロに近づけ、(3)メタンについては、バイオ反応による酸化で他の物質に変換され、(4)アセトンなどのケトン類、アルデヒド類、アルコール類は発酵溶液中に溶け込んでいる、ので、これらは成分ガスとしてはほとんど存在しない。また、異なる発酵条件の下で生成した複数のバイオガスにおいて、主成分となる成分ガスの体積と副成分となる成分ガスの体積との比率を比較したところ、発酵条件が異なっても、これらの主成分と副成分との体積の比率に大きな変化は生じず、また、主成分となる成分ガスの体積に対して、副成分となる成分ガスの体積は、非常に微量であることが判った。
【0022】
そして、これら複数のバイオガスについて、ミリガスカウンタを用いて計測したバイオガスの体積と熱伝導式ガスセンサを用いて計測した水素濃度とに基づいて、バイオガスに含まれる水素量を求めて、この水素量とガスクロマトグラフィ分析装置を用いて間欠計測した水素量とを比較したところ、高い精度で一致することが確認された。即ち、熱伝導式ガスセンサを用いても、発酵条件の調整に用いることができる程度に高い精度の濃度を測定できることが確認された。このことから、熱伝導式ガスセンサを用いた水素の濃度測定において、バイオガスに含まれる副成分となる成分ガスを無視できることを見いだし、そして、熱伝導式ガスセンサを用いることにより、水素生成菌によって生成されたバイオガスに含まれる水素の濃度を直接測定できることを見いだした。また、同様の考え方に基づいて、熱伝導式ガスセンサを用いることにより、熱伝導率の異なる2つの成分ガスを主成分とするバイオガスに含まれる一方の成分ガスの濃度を直接測定できることを見いだし、本発明に至った。
【0023】
以下、本発明に係るガス生成支援装置を備えるバイオガス製造システムの一実施形態を、図1を参照して説明する。
【0024】
図1に示すバイオガス製造システム(図中、符号1で示す)は、微生物によって有機性物質を発酵させることにより、水素と二酸化炭素とを主成分とするバイオガスを製造するものである。
【0025】
バイオガス製造システム1は、バイオガス生成槽10と、ガス流路としてのガス管18と、原料管19と、原料タンク21と、ガス貯蔵タンク22と、ガス生成支援装置30と、を備えている。
【0026】
バイオガス生成槽10は、本体部11と、蓋部12と、ヒータ13と、攪拌装置14と、を備えている。
【0027】
本体部11は、上端が開口され、下端が底壁11aで塞がれた、有底筒状に形成されている。本体部11は、有機性物質と微生物とが混合された液相としての発酵溶液60を収容する。
【0028】
有機性物質は、例えば、微生物の培養に常用される炭素源、ミネラル、ビタミンその他からなる人工有機物のほか、食品製造工場などから排出される有機性廃棄物などが使用できる。これらの有機性物質は、必要に応じて希釈、混合、粉砕したり、必要な成分を添加したりして、バイオガスの生成等がスムーズに行われるよう適宜調整される。
【0029】
微生物は、有機性物質を発酵させることにより水素と二酸化炭素とを主成分とするバイオガスを生成する。具体的には、微生物は図2に例示するような代謝経路を持ち、有機性物質に含まれるグルコースから水素や二酸化炭素を生成する。また、これら以外にも、多種の有機物を生産する。この代謝反応は、発酵溶液60の温度が例えば37℃付近で行われる。
【0030】
この微生物によって生成されるバイオガスには、上記主成分以外にも、アセトンやメタン、窒素などの副成分が含まれているが、それらは主成分に対して非常に微量であるので、後述するガス生成支援装置30による水素の濃度測定において無視できる。また、本実施形態においては、水素と二酸化炭素とを主成分とするバイオガスを生成する微生物を用いるものであったが、これに限らず、例えば、メタンと二酸化炭素を主成分とするバイオガスを生成する微生物など、熱伝導率の異なる2つの成分ガスを主成分とするバイオガスを生成する微生物であれば、その種類は任意である。
【0031】
このような微生物は、発酵溶液60の温度や、発酵溶液60に含まれる有機性物質の量などによって、その活性状態(即ち、バイオガスに含まれる成分ガスの生成状態)が変化する。即ち、発酵溶液60の温度、及び、発酵溶液60に含まれる有機性物質の量、は微生物の活性状態に影響を与える発酵条件である。これら発酵条件を調整することにより、バイオガスに含まれる一方の成分ガスである水素の生成状態(即ち、水素の濃度、水素の生成量)を変化させることができる。
【0032】
蓋部12は、本体部11の上端の開口を覆うようにして、本体部11に取り付けられる。蓋部12には、ガス管18の一端18aが、蓋部12を貫通して取り付けられている。また、蓋部12には、原料管19の一端19aが、蓋部12を貫通して取り付けられている。蓋部12は、本体部11に取り付けられたときに、本体部11の内部を気密にするとともに、ガス管18の一端18a及び原料管19の一端19aを本体部11の内部に位置づける。
【0033】
ヒータ13は、本体部11の周壁11bの全周に亘って設けられた、周知の加熱装置である。ヒータ13は、本体部11を介して発酵溶液60を加熱することにより、発酵溶液60の温度を調整する。
【0034】
攪拌装置14は、本体部11に収容された発酵溶液60を攪拌する装置であり、蓋部12を貫通し且つ回転可能に取り付けられた軸部15と、本体部11の内部に位置づけられた軸部15の先端に固定されたプロペラ部16と、軸部15の基端を支持するとともに軸部15を回転させるモータ部17と、を備えている。攪拌装置14は、定常的に、又は、有機性物質の投入時などの予め定められたタイミングで、軸部15を介してプロペラ部16を回転させることにより発酵溶液60を攪拌して、発酵溶液60中の有機性物質と微生物とを均一に混合する。
【0035】
原料タンク21は、微生物による発酵の原料となる上述した有機性物質を収容する。原料タンク21には原料管19の他端19bが取り付けられており、原料タンク21は、該原料管19を介してバイオガス生成槽10が備える本体部11の内部と連通されている。また、原料タンク21は図示しないポンプを備えており、このポンプによって、内部に収容されている有機性物質を、原料管19を通じてバイオガス生成槽10に供給する。即ち、原料タンク21は、バイオガス生成槽10の本体部11内部の有機性物質の量を調整する。
【0036】
ガス貯蔵タンク22は、バイオガス生成槽10で生成されたバイオガスを収容する。ガス貯蔵タンク22にはガス管18の他端18bが取り付けられており、ガス貯蔵タンク22は、該ガス管18を介してバイオガス生成槽10が備える本体部11の内部と連通されている。バイオガス生成槽10でバイオガスが生成されるとバイオガス生成槽10内の圧力が高まり、このバイオガスが、ガス管18を通じてガス貯蔵タンク22に流れ込む。
【0037】
ガス生成支援装置30は、バイオガス生成槽10で生成されたバイオガスに含まれる水素(即ち、一方の成分ガス)の濃度(体積%)を測定し、表示する装置である。このガス生成支援装置30は、ガスセンサ31と、流量計32と、制御部33と、を備えている。
【0038】
ガスセンサ31は、熱伝導式のガスセンサであり、2種類の成分ガスからなる測定対象ガスにおいて、成分ガスの種類毎に異なる熱伝導率を利用して一方の成分ガスの濃度を測定するものである。ガスセンサ31は、基準ガスとしての二酸化炭素ガス(即ち、他方の成分ガス)中の水素ガス(即ち、一方の成分ガス)濃度によって熱伝導率、つまり、電気抵抗値が変化するようにあらかじめ構成されている。つまり、ガスセンサ31の内部に測温抵抗体としての白金線が張られており、これらの白金線は一定の電流を流されて加熱され、該白金線の周囲のガスの熱伝導率変化によって白金線の抵抗値が変化するように作られている。そして、ガスセンサ31は、白金線の抵抗値に基づく出力がガスセンサ31に内蔵される回路によって、水素濃度に応じた直線的出力となるように作られている。
【0039】
ガスセンサ31は、ガス管18に直列に挿入して設置されており、該ガス管18を流れるバイオガスに含まれる水素の濃度を測定する。ガスセンサ31は、この測定した水素の濃度を、例えば、単位時間毎、又は、濃度に変化があったときなどの所定のタイミングで制御部33に対して出力する。
【0040】
本実施形態において、ガスセンサ31はガス管18に設置されているが、これに限らず、ガスセンサ31を、バイオガス生成槽10の蓋部12内側などバイオガス生成槽10内に設置して、バイオガス生成槽10内のバイオガス(即ち、気相61)に含まれる水素の濃度を直接測定するようにしても良い。または、ガスセンサ31がバイオガス生成槽10に極力近づくように、ガスセンサ31をガス管18のバイオガス生成槽10近傍に設置して、水素濃度を測定するようにしても良い。このようにすることで、バイオガスの生成から水素の生成状態の測定までの時間、即ち、測定におけるタイムラグを短縮して、水素の生成状態をより迅速に(リアルタイムに)測定することができる。また、ガス管18における蓋部12とガスセンサ31との間に、直列に気液分離器を設けて、ガスセンサ31の手前で、バイオガス中に含まれる水蒸気を取り除くようにしてもよい。
【0041】
流量計32は、ガス管18におけるガスセンサ31とガス貯蔵タンク22との間に直列に挿入して設置されており、該ガス管18を流れるバイオガスの流量を測定する。流量計32として、例えば、熱線式や超音波式などの周知の流量計を用いることができる。流量計32は、単位時間当たり(例えば、1秒間)にガス管18を流れるバイオガスの流量(m3/秒)を測定して、この測定した流量を、制御部33に対して出力する。
【0042】
制御部33は、周知のマイクロコンピュータと、液晶ディスプレイ又はプリンタ等の表示装置と、を備えている。制御部33には、ガスセンサ31及び流量計32が接続されており、それらで測定された水素の濃度及びバイオガスの流量が、マイクロコンピュータに入力される。マイクロコンピュータは、入力されたバイオガスの流量を積算した積算流量を算出するとともに、入力された水素の濃度と算出したバイオガスの積算流量とを表示装置に出力して、表示装置はこれらを表示する。そして、バイオガス製造システムの使用者は、表示装置に出力された水素の濃度(即ち、水素の生成状態)から、バイオガス生成槽10内における微生物の活性状態を把握するとともに、水素の濃度を、微生物の活性状態が水素の生成に適切な状態となる適正範囲内に収めるように、ヒータ13や原料タンク21を操作して、発酵溶液60の温度、及び、発酵溶液60に含まれる有機性物質の量、即ち、発酵条件を調整する。
【0043】
また、本実施形態においては、ガス生成支援装置30は、水素の濃度及びバイオガスの積算流量を表示するものであったが、これに限らず、例えば、水素の濃度のみ表示するものであってもよい。この場合、流量計32は設けなくても良い。
【0044】
また、ガス生成支援装置30は、マイクロコンピュータによって、バイオガスの流量に水素の濃度を掛け合わせて単位時間当たりの水素の流量、即ち、水素の生成量を算出し、そして、算出した単位時間当たりの水素の生成量を表示装置に出力するようにしても良い。又は、算出した単位時間当たりの水素の生成量を積算した水素の積算生成量をさらに算出して、この水素の積算生成量を表示装置に表示するようにしても良い。水素の濃度のみでも発酵条件の調整は可能であるが、例えば、発酵条件などによっては、水素の濃度が高くても水素の生成量が少ない場合や、水素の濃度が低くても水素の生成量が多い場合などがあり、そのため、所望量の水素を生成する場合などにおいては、水素の生成量を用いた方が、発酵条件の調整をより正確且つ容易に行うことができる。
【0045】
次に、上述したバイオガス製造システム1の動作(作用)の一例を説明する。
【0046】
バイオガス製造システム1の使用者は、まず、バイオガス生成槽10内に発酵溶液60を投入するとともに、バイオガス生成槽10内(即ち、気相61)及びガス管18内を濃度100%の二酸化炭素で満たしたのち、ヒータ13を操作して発酵溶液60を加熱する。すると、微生物による有機性物質の発酵が促進されて、バイオガス生成槽10内でバイオガスが徐々に生成される。バイオガスの生成に伴ってバイオガス生成槽10内の圧力が高まり、生成されたバイオガスが、ガス管18を通じてガス貯蔵タンク22に向かい流れ出す。
【0047】
そして、ガス生成支援装置30は、ガス管18を流れるバイオガスに含まれる水素の濃度を測定して表示装置に表示するとともに、ガス管18を流れるバイオガスの流量から算出したバイオガスの積算流量を測定して表示装置に表示する。そして、使用者は、所望の量の水素を得るために、表示装置に表示された水素の濃度が予め定められた適正範囲内に収まるように、ヒータ13又は原料タンク21を操作して、発酵溶液60の温度やバイオガス生成槽10内の有機性物質の量を調整する。このようにして、ガス生成支援装置30は、水素の生成状態を測定して、バイオガスの生成における発酵条件の調整を支援する。図3に、ガス生成支援装置30が備える表示装置によって出力された、バイオガスの積算流量及びバイオガスに含まれる水素の濃度の経時変化の一例のグラフを示す。
【0048】
以上より、本発明によれば、微生物による有機性物質の発酵を利用して生成された、水素と二酸化炭素とを主成分とする、バイオガスに含まれる水素の濃度を測定する熱伝導式のガスセンサ31を備えているので、バイオガスから水素を分離する分離装置を設けることなく、また、水素の濃度を推定するための複雑な処理を行うことなく、水素の生成状態として、直接バイオガスに含まれる水素の濃度を測定することができる。そのため、小型且つ安価な構成で、微生物による有機性物質の発酵を利用して生成されたバイオガスに含まれる水素の生成状態を容易に測定できる。
【0049】
本実施形態において、バイオガス製造システム1は、ガス生成支援装置30が備える表示装置に表示された水素の濃度又は水素の生成量に基づき、使用者が手動でヒータ13及び原料タンク21のポンプを操作して、発酵条件の調整をするものであったが、例えば、ガス生成支援装置30の制御部33と、ヒータ13及び原料タンク21のポンプと、を接続し、制御部33によって、上記水素の濃度又は水素の生成量が、微生物の活性状態が水素の生成に適切な状態となる適正範囲内に収まるように、ヒータ13又は原料タンク21のポンプを制御して、発酵条件の調整をするようにしても良い。このようにすることで、使用者が表示装置を確認する必要がなくなるとともに、水素の生成状態の変化に対応して、素早く発酵条件を調整することができ、そのため、バイオガスの製造効率を向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態において、ガス生成支援装置30は、生成されたバイオガスに含まれる水素の濃度、水素の生成量、又は、これら両方を表示するものであったが、これに限らず、例えば、制御装置33が、水素の濃度又は水素の生成量と微生物の活性状態を示す指標(例えば、菌体量など)との関係を予め測定などして得た微生物活性状態情報を有しており、この微生物活性状態情報に基づき、水素の濃度、又は、水素の生成量に代えて、微生物の活性状態を表示するようにしても良い。
【0051】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 バイオガス製造システム
10 バイオガス生成槽
14 攪拌装置
18 ガス管(ガス流路)
19 原料管
21 原料タンク
22 ガス貯蔵タンク
30 ガス生成支援装置
31 ガスセンサ(熱伝導式のガス濃度測定手段)
32 流量計(ガス流量測定手段)
33 制御装置(ガス生成量算出手段)
60 発酵溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物による有機性物質の発酵を利用して熱伝導率の異なる2つの成分ガスを主成分とするバイオガスを生成するバイオガス生成槽における、前記バイオガスの生成を支援するガス生成支援装置において、
前記バイオガス生成槽で生成された前記バイオガスに含まれる一方の前記成分ガスの濃度を測定する熱伝導式のガス濃度測定手段を備えている
ことを特徴とするガス生成支援装置。
【請求項2】
前記ガス濃度測定手段が、前記バイオガス生成槽内又は前記バイオガス生成槽に接続されたガス流路の前記バイオガス生成槽近傍に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のガス生成支援装置。
【請求項3】
前記バイオガス生成槽に接続されたガス流路を流れる前記バイオガスの流量を測定するガス流量測定手段と、
前記ガス濃度測定手段によって測定された前記一方の成分ガスの濃度と前記ガス流量測定手段によって測定された前記バイオガスの流量とに基づいて、前記一方の成分ガスの生成量を算出するガス生成量算出手段と、を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス生成支援装置。
【請求項4】
微生物による有機性物質の発酵を利用して熱伝導率の異なる2つの成分ガスを主成分とするバイオガスを生成するバイオガス生成槽と、前記バイオガス生成槽における前記バイオガスの生成を支援するガス生成支援装置と、を備えるバイオガス製造システムにおいて、
前記ガス生成支援装置として、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス生成支援装置を備えていることを特徴とするバイオガス製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−152156(P2012−152156A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15103(P2011−15103)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】