説明

ガス発生剤組成物及びこれを有するガス発生器

【課題】発熱量が低く、かつ、良好な着火性を持つガス発生剤を提供し、更に、このガス発生剤を有するガス発生器を提供する。
【解決手段】テトラゾ−ル類又はグアニジン類、硝酸塩又は過塩素酸塩及び塩基性炭酸塩を含有し、塩基性炭酸塩の含有量が20重量%を超え、40重量%以下であるガス発生剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱量が低く、燃焼性が良く、かつ、着火性が良いガス発生剤組成物及びこれを有するガス発生器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車乗員保護装置用ガス発生器、即ち、エアバッグ用ガス発生器に使用されるガス発生剤として、特許文献1に記載のエアバッグ用ガス発生剤(5−アミノテトラゾ−ル、硝酸ストロンチウム等を含む)が挙げられる。このガス発生剤は、比較的、燃焼性が良い。 また、特許文献2には、燃料成分として硝酸グアニジン、酸化剤として硝酸ストロンチウム、添加剤として塩基性硝酸銅等を含有するエアバッグ用ガス発生剤が開示されている。このガス発生剤は、発熱量が低いという利点がある。
また、特許文献3には、燃料成分として有機化合物、酸化剤として含酸素酸化剤及び水酸化アルミニウムを必須成分とするガス発生剤が開示されている。
更に、特許文献4には、燃料成分としてテトラゾ−ル類化合物、酸化剤として硝酸塩、添加剤として塩基性金属炭酸塩等を含むガス発生剤が開示されている。
【0003】
本発明者らの実験によると、特許文献1に記載のガス発生剤では、燃焼性は比較的良いものの、発熱量が高い。このため、発生したガスを冷却するためのフィルタ−には、熱容量の大きなものが必要であり、ガス発生器は、より大きな重量の重いフィルタ−を含むことになる。
【0004】
本発明者らの実験によると、特許文献2に記載のガス発生剤では、発熱量は低いものの、燃焼性が悪い。この燃焼性の悪いガス発生剤でもガス発生器内の圧力を高くすることにより燃焼させることができる。しかし、高圧に耐えるハウジングにする必要があり、必然的にガス発生器を構成するハウジングの厚みを厚くするか高価な高張力鋼を使用する。
【0005】
特許文献3に記載のガス発生剤では、その文献の明細書の実施例34〜36を見ると、用いる水酸化アルミニウムの量を増やすと、燃焼速度が下がってしまっている。燃焼速度が下がってしまうガス発生剤では、ガス発生剤をガス発生器に組み込んだ場合、エアバッグの膨らみが遅くなり目的を果たさない。そういう意味では、特許文献3に記載のガス発生剤では、問題が残っている。また、水酸化アルミニウムを用いると、水酸化アルミニウム中の水酸基から水が発生し、水の発生により、エアバッグが膨んだ時の張りが弱くなることが考えられる。
【0006】
特許文献4では、ガス発生剤に使用される塩基性金属炭酸塩の50%平均粒子径について触れていない。また、特許文献4の明細書の段落〔0042〕によれば、ガス発生剤の燃料成分として5−アミノテトラゾ−ルを用いる場合には、乾燥後に、ガス発生剤中に少量の水分が残存する傾向にある旨開示がある。これに対し、その実施例では、燃料成分としてニトログアニジンを用いて水分含有率を低くしたことを示している。従って、燃料成分に5−アミノテトラゾ−ルを加えたガス発生剤では、本当に効果が期待できるのか疑問に残る。
【0007】
【特許文献1】国際公開第98/29361号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/30850号パンフレット
【特許文献3】特開2004―155645号公報
【特許文献4】特開2003―321293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のものに比べ、発熱量が低く、燃焼性が良く、着火性が良いという要素を同時に満たすガス発生剤組成物を得、更に、これを有するガス発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、塩基性炭酸塩の含有量を規定することにより、ガス発生剤組成物において発熱量が低く、良好な着火性を示すことを見出した。
【0010】
即ち、本発明は、次の(1)〜(6)に関する。
(1)テトラゾ−ル類又はグアニジン類、硝酸塩又は過塩素酸塩及び塩基性炭酸塩を含有 し、塩基性炭酸塩の含有量が20重量%を超え、40重量%以下であるガス発生剤 組成物。
(2)水酸化アルミニウムを含有しない(1)に記載のガス発生剤組成物。
(3)テトラゾ−ル類がテトラゾール、5−アミノテトラゾール、5−アミノテトラゾー ルの亜鉛塩、5−アミノテトラゾールの銅塩、5−ニトロアミノテトラゾール、ビ テトラゾール、ビテトラゾールカリウム塩、ビテトラゾールナトリウム塩、ビテト ラゾールマグネシウム塩、ビテトラゾールカルシウム塩、ビテトラゾール銅塩、ビ テトラゾールメラミン塩又はビテトラゾールジアンモニウム塩である(1)又は( 2)に記載のガス発生剤組成物。
(4)塩基性炭酸塩が塩基性炭酸コバルト、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸カルシウム、塩 基性炭酸ニッケル、塩基性炭酸マグネシウム又は塩基性炭酸銅である(1)〜(3 )のいずれか一項に記載のガス発生剤組成物。
(5)硝酸塩が硝酸アルカリ土類金属の塩である(1)〜(4)のいずれか一項に記載の ガス発生剤組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれか一項に記載のガス発生剤組成物を有する自動車乗員保護 装置用ガス発生器。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、発熱量が低く、良好な燃焼性を持ち、更に着火性の良いガス発生剤組成物を得ることができ、また、これを有するガス発生器を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、テトラゾ−ル類又はグアニジン類、硝酸塩又は過塩素酸塩及び塩基性炭酸塩を含有し、塩基性炭酸塩の含有量が20重量%を超え、40重量%以下であるガス発生剤組成物に関する。
【0013】
本発明では、燃料成分としてテトラゾール類又はグアニジン類が使用される。
【0014】
テトラゾール類としては、例えばテトラゾール、5−アミノテトラゾール、5−アミノテトラゾールの亜鉛塩、5−アミノテトラゾールの銅塩、5−ニトロアミノテトラゾール、ビテトラゾール、ビテトラゾールカリウム塩、ビテトラゾールナトリウム塩、ビテトラゾールマグネシウム塩、ビテトラゾールカルシウム塩、ビテトラゾール銅塩、ビテトラゾールメラミン塩又はビテトラゾールジアンモニウム塩等を用いることができる。中でも、5−アミノテトラゾールは、安定性、安全性を含めて極めて取り扱いが容易であり、価格も安価であって、好ましい物質である。テトラゾール類のガス発生剤組成物中への含有量(割合)は、好ましくは20〜40重量%である。また、テトラゾ−ル類の50%平均粒子径は、大きすぎるとガス発生剤成形体とした場合の強度が低下し、また、小さすぎると凝集し、均一に分散させることが困難であるため、5〜80μmが好ましく、さらに好ましくは、8〜50μmである。
【0015】
グアニジン類としては、例えばグアニジン、炭酸グアニジン、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、ジシアンジアミド、ニトロアミノグアニジン等が挙げられる。グアニジン類のガス発生剤組成物中への含有量(割合)は、好ましくは20〜40重量%である。またグアニジン類の50%平均粒子径は、5〜80μmが好ましく、さらに好ましくは、10〜50μmである。
【0016】
本発明では、酸化剤が使用される。酸化剤としては、例えば、硝酸塩、過塩素酸塩、塩基性炭酸塩が挙げられる。
【0017】
硝酸塩としては、例えば、硝酸アルカリ土類金属の塩が挙げられ、硝酸アルカリ土類金属の塩としては、例えば硝酸ストロンチウムが挙げられる。また、硝酸塩のガス発生剤組成物中への含有量(割合)は、35重量%〜50重量%が好ましい。硝酸塩の50%平均粒子径は、10〜30μmが好ましく、10〜20μmがより好ましい。
【0018】
過塩素酸塩としては、例えば、過塩素酸カリウム、過塩素酸アンモニウムが挙げられるまた、過塩素酸塩のガス発生剤組成物中への含有量(割合)は、35重量%〜50重量%が好ましい。
【0019】
塩基性炭酸塩としては、例えば、塩基性炭酸コバルト、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸カルシウム、塩基性炭酸ニッケル、塩基性炭酸マグネシウム又は塩基性炭酸銅等が挙げられる。中でも塩基性炭酸銅が好ましい。その化学式は、一般的に2CuCO・Cu(OH)、CuCO・Cu(OH)で表される。
【0020】
塩基性炭酸塩の50%平均粒子径は、好ましくは、1〜30μmであり、より好ましくは、3〜25μmである。
【0021】
塩基性炭酸塩のガス発生剤組成物中への含有量(割合)は、20重量%を超え〜40重量%であり、20重量%を超え〜30重量%が好ましく、21.5重量%〜25重量%がより好ましい。
【0022】
本発明で使用する塩基性炭酸塩の好ましい比表面積は、3〜35m/gである。比表面積は、BET法により測定できる。
【0023】
本発明のガス発生剤組成物の好ましい線燃焼速度は、6〜15mm/sであり、好ましい圧力指数は、0.20〜0.28である。線燃焼速度及び圧力指数は、密閉容器中の圧力−時間曲線を求め、燃焼方程式、形状関数から算出できる。
【0024】
本発明のガス発生剤組成物の好ましい組み合わせは、テトラゾ−ル類、硝酸塩、塩基性炭酸塩を含むものであり、具体的には、5−アミノテトラゾ−ル、硝酸ストロンチウム、塩基性炭酸銅である。
【0025】
本発明のガス発生剤組成物は水酸化アルミニウムを含まないものが好ましい。
【0026】
本発明のガス発生剤組成物は、添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えばバインダ−、成形用助剤、スラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。
【0027】
バインダーは、ガス発生剤の燃焼挙動に大幅な悪影響を与えないものであれば何れでも使用可能である。バインダーとしては、例えばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、微結晶性セルロース、グアガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、澱粉等の高分子化合物、ステアリン酸塩等の有機バインダー、二硫化モリブデン、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土、タルク、ベントナイト、ケイソウ土、カオリン、シリカ、アルミナ等の無機バインダー等を挙げることができる。
【0028】
本発明のガス発生剤組成物中へのバインダーの配合割合は、圧縮成形の場合、0.05〜10重量%の範囲が好ましく、0.05〜5重量%の範囲がより好ましい。また、押出成形においては0.05〜15重量%の範囲であることが好ましく、0.05〜5重量%の範囲が好ましい。量的には多い側でより成形体の破壊強度が強くなるが、ガス発生剤組成物中への炭素原子及び水素原子の数が増大し、炭素原子の不完全燃焼生成物である微量一酸化炭素ガスの濃度が増大し、発生ガスの品質を低下させ、また燃焼を阻害することから、最低量での使用が好ましい。特に15重量%を超える量では酸化剤の相対的存在割合の増大を必要とし、ガス発生剤組成物の相対的割合が低下し、実用できるガス発生器システムの成立が困難となる。
【0029】
成形用助剤は、圧縮成形の場合には、例えば圧縮物の一部が圧縮杵へ付着することを防止するため、また、押出成形の場合には、例えば押出圧力を低減するため等の、成形体の製造を容易にするために添加される。この成形用助剤としては、例えば、上記のバインダ−において使用される有機化合物が挙げられる。バインダ−との違いは、その添加量で、バインダ−の場合は、その性能を発揮させるためには、少なくとも2重量%の添加が必要であるが、成形用助剤として使用する場合、その性能を発揮させるためには、2重量%未満、好ましくは、0.2〜1.5重量%程度である。
【0030】
スラグ形成剤は、ガス発生剤組成物中の特に酸化剤成分から発生する金属酸化物との相互作用により、ガス発生器内のフィルターでの濾過を容易にするために添加される。
【0031】
スラグ形成剤としては、例えば窒化珪素、炭化珪素、酸性白土、シリカ、ベントナイト系、カオリン系等のアルミノケイ酸塩を主成分とする天然に産する粘土、合成マイカ、合成カオリナイト、合成スメクタイト等の人工的粘土、含水マグネシウムケイ酸塩鉱物の一種であるタルク等から選ばれるものを挙げることができ、これらの中でも酸性白土又はシリカが好ましく、特に酸性白土が好ましい。
【0032】
スラグ形成剤の配合割合は0〜20重量%の範囲が好ましく、2〜10重量%の範囲が特に好ましい。多すぎると線燃焼速度の低下及びガス発生効率の低下をもたらし、少なすぎるとスラグ形成能を十分発揮することができない。
【0033】
燃焼調整剤としては、例えば金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト、或いはヘキソ−ゲン、オクト−ゲン、3−ニトロ−1,2,4−トリアゾ−ル等の化合火薬が使用可能である。金属酸化物としては、好ましくは、酸化銅、酸化鉄、酸化コバルト、二酸化マンガン、酸化亜鉛等である。
【0034】
燃焼調整剤の配合割合は0〜20重量%の範囲が好ましく、2〜10重量%の範囲が特に好ましい。多すぎるとガス発生効率の低下をもたらし、また、少なすぎると十分な燃焼速度を得ることができない。
【0035】
次に、本発明のガス発生剤組成物の製造方法の一例を説明する。前記したテトラゾ−ル類又はグアニジン類、硝酸塩又は過塩素酸塩及び塩基性炭酸塩を、まず、V型混合機、またはボールミル等に入れ、混合する。ここに、ポリビニルアルコールを水または溶媒に溶かして適量噴霧しながら混合し、湿状の薬塊を得る。この後、造粒を行い、乾燥させると強固な顆粒が得られる。これを打錠し、ガス発生剤成型体としてもよい。また、湿状の薬塊をそのまま押出成型機により、押出成型品にしてもよい。
【0036】
本発明のガス発生剤組成物の形状としては、例えば丸薬、錠剤、ペレット、ブリケット、単孔円筒状、多孔円筒状、ディスク状等が挙げられる。錠剤のものを好ましく用いることができる。錠剤の場合、その直径は、好ましくは、4.0〜8.0mm、高さは、好ましくは、1.0〜3.0mmである。
【0037】
本発明のガス発生剤組成物の発熱量は、好ましくは2500〜2800J/gである。発熱量は、カロリーメータ(島津製作所製、型式;CA−4P)により測定した。
【0038】
次に、本発明のガス発生器について、図1等を用いて説明する。図1は、ガス発生器の断面図である。本発明のガス発生器1は、上蓋6と、下蓋10と、点火器2と伝火薬3が配置された中央の点火手段7と、その周囲のガス発生剤4が充填された燃焼室8と、さらに冷却フィルタ−部材9とから構成されている。ガス発生器1は、主に、例えば運転席用等の自動車乗員保護装置用のものとして好適に使用される。
【0039】
ガス発生器1の構造を具体的に説明する。上蓋6及び下蓋10は、鉄、ステンレス、アルミニウム、鋼材等の金属でできている。上蓋6と下蓋10は、圧接、溶接によって接合されている。上蓋6には、複数のガス放出孔11が形成されている。ガス放出孔11を燃焼室8側から帯状のアルミニウムテ−プ等のラプチャ−部材12が貼り付けられ、燃焼室8内を密封している。
【0040】
中央に設けられている点火手段7は、周囲に複数の伝火孔15を有する有底の内筒体13と、この内筒体13内に装填された伝火薬3と、この伝火薬3に接するように設けられた点火器2とで構成されている。伝火薬3は、公知のものを用いることができ、その成分としては、5−アミノテトラゾール、硝酸カリウム、合成ヒドロタルサイト、三酸化モリブデン、窒化珪素を含むものを好ましく用いることができる。内筒体13は、点火手段保持部に対しカシメ固定等の方法により固定されている。
【0041】
上蓋6及び下蓋10内には、フィルタ部材9が設けられている。冷却フィルタ部材9は、例えばメリヤス編み金網、平織金網、クリンプ織り金属線材或いは巻き金属線材の集合体を円環状に成形することによって安価に製造される。
【0042】
冷却フィルタ部材9の外周部のガス放出孔11の周辺部には、フィルタ押え部材5が設けられている。フィルタ押え部材5は、いわゆるパンチングメタルと称される複数の孔が形成された板状部材がリング状に形成されているものである。このように、ガス放出孔11の周辺部の冷却フィルタ部材9の外周部にフィルタ押え部材5を設けることで、ガスが放出する際の圧力によって冷却フィルタ部材9が変形することが抑制される。
【0043】
冷却フィルタ部材9の内周部内にはガス発生剤4が装填されて、燃焼室8となっている。そして、これらガス発生剤4が、点火手段7からの火炎及び熱粒子によって燃焼する
【0044】
ガス発生器1は、1筒式のガス発生器として、主に、運転席側のインストルメントパネル内に装着されることになるエアバッグモジュールに組み込まれる。エアバッグモジュールに取り付けられる際には、フランジ14をモジュールに固定することによって取り付けることができる。
【0045】
そして、エアバッグモジュールに組み込まれた後、ガス発生器1の点火手段7は、図示省略する車両側コネクタに接続される。
【0046】
以上のようにして、自動車に搭載されたガス発生器1は、例えば、衝突センサが自動車の衝突を検出することで、点火手段7に接続されているスクイブ点火回路によって点火手段7が作動して、燃焼室8内のガス発生剤4を燃焼させて高温ガスを発生させる。このとき、燃焼室8内は圧力が上昇する。そして、燃焼室8内で発生した高温ガスは、冷却フィルタ部材9を通過して、ラプチャー部材12を破ってガス放出孔11から放出される。高温ガスが冷却フィルタ部材9を通過する際に、ガスの冷却及び残渣の捕集がなされる。また、冷却フィルタ部材9が、燃焼室8の略全域にわたり設けられているため、冷却フィルタ部材9を有効に利用することができる。このため、十分に冷却されるとともに、残渣が十分に捕集されたガスを放出することが可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0048】
実施例1
5−アミノテトラゾール:30.8重量部(50%平均粒子径、10μm)、塩基性炭酸銅:22.0重量部(50%平均粒子径、20μm)、硝酸ストロンチウム:44.2重量部(50%平均粒子径13μm)、酸性白土:3.0重量部をボールミルにより乾式混合した。次に、ポリビニルアルコール:0.1重量部を、ガス発生剤組成物全量に対して、11重量%の水で希釈し、この水溶液を噴霧しながら混合し、その後湿式造粒を行い、粒径1mm以下の顆粒状にした。この顆粒を90℃で15時間乾燥した後、回転式打錠機で直径6mm、高さ2.0mmの形状にプレス成形し、その後、110℃で15時間乾燥させ、本発明のガス発生剤組成物の錠剤を得た。
【0049】
比較例1(特許文献1に記載のガス発生剤)
燃料成分として5−アミノテトラゾ−ル(5−ATZ)を32.5重量部と、酸化剤として硝酸ストロンチウム(SrN)を60.2%と、スラグ形成剤として窒化珪素(Si3N4)を3.0と、合成ヒドロタルサイト(HTS)を4.3重量部を、夫々V型混合機により乾式混合した。尚、混合に際し、予め5−ATZと硝酸ストロンチウムには、夫々窒化珪素の微粉末(個数基準50%平均粒子径で0.2μm)を、夫々の重量に応じて略比例配分した量を添加し、個数基準50%平均粒子径で10μm程度に粉砕処理した。前記混合後の粉末をロータリーミキサにて、成形性改良剤としてのポリビニルアルコール水溶液を噴霧して湿式混練造粒を行い、粒径1mm以下の顆粒状に成形した。この際に噴霧したポリビニルアルコールの量は、混合物全体に対して0.05%である。この顆粒を加熱乾燥した後、更にステアリン酸亜鉛を、混合物全体に対して0.2%添加混合し、回転式打錠機でプレス成形して直径5mm,高さ2mm,重量88mgのガス発生剤の錠剤を得て、この錠剤を110℃で10時間、熱処理を行って、ガス発生剤を得た。
【0050】
比較例2(特許文献2に記載のガス発生剤)
硝酸グアニジン:52.7重量部(50%平均粒子径、20μm)、酸化剤成分として硝酸ストロンチウム:22.4重量部(50%平均粒子径、13μm)、及び塩基性硝酸銅:21.9重量部(50%平均粒子径10μm)、バインダとして酸性白土:2.0重量部、燃焼調整剤としてグラファイト:1.0重量部をV型混合機により乾式混合した。次に、ポリビニルアルコール:0.1重量部を、ガス発生剤組成物全量に対して、10重量%の水で希釈し、この水溶液を噴霧しながら混合し、その後、湿式造粒を行い、粒径1mm以下の顆粒状にした。この顆粒を90℃で15時間乾燥した後、回転式打錠機で直径5mm、高さ1.5mmの形状にプレス成形し、その後、105℃で15時間乾燥させ、ガス発生剤組成物の錠剤を得た。
【0051】
ガス発生剤の発熱量、圧力指数及び線燃焼速度の測定
実施例1、比較例1、2で得られた各ガス発生剤を用いて、これらの発熱量を測定し、比較した。表1に、発熱量の結果をまとめた。
なお、発熱量はボンブカロリーメーターにより測定を行った。SUS製の密閉容器中に、実施例1、比較例1、2で得られた各ガス発生剤を1.0g計量し、ニクロム線を接触させた状態で蓋を閉じた。これを断熱容器中に水が満たされている中に投入し、ニクロム線を通電させて着火させ、組成物を完全燃焼させた。上昇した水の温度と比熱から発熱量を計算した。
線燃焼速度及び圧力指数は、密閉容器中の圧力−時間曲線を求め、燃焼方程式、形状関数から算出した。具体的には、燃焼方程式
dP/dT=Pm・S/V・w・φ(Z)・Pn
この式の両対数をとると
ln{(dP/dT)/Pm(φ(Z))}=ln(S・w/V)+n(lnP)となる。これをグラフにプロットし得られた直線の傾きから圧力指数が求められ、その直線の切片から線燃焼速度が算出できる。ここで、w:線燃焼速度、Pm:最高圧力、S:ペレットの初期表面積、V:ペレットの初期体積、φ(Z):形状関数、P:容器内圧力、n:圧力指数である。
【0052】
表1
組成 燃焼温度 圧力指数 線燃焼速度 発熱量
組成比 (K) (n) (mm/s) (J/g)
実施例1 5-ATZ/ SrN/ bcc/AC 2140 0.26 10.7 2725 30.8/44.2/22.0/3.0

比較例1 5-ATZ/ SrN/HTS/Si3N4 2640 0.30 4.90 3200
32.5/60.2/4.3/3.0

比較例2 GN/ SrN/ bcn/ AC/G 2100 0.54 1.20 2900
52.7/22.4/21.9/2.0/1.0
【0053】
表1において、5-ATZは、5−アミノテトラゾ−ル、bccは、塩基性炭酸銅、 SrNは、硝酸ストロンチウム、ACは、酸性白土、HTSは、合成ヒドロタルサイト、Si3N4は、窒化珪素、GNは、硝酸グアニジン、bcnは、塩基性硝酸銅、Gは、グラファイトをそれぞれ意味する。
【0054】
表1によれば、実施例1のガス発生剤は、比較例1、2のガス発生剤に比べて、燃焼温度が低く、発熱量が低い値となった。また、圧力指数の値が低く、線燃焼速度の値が高かった。
圧力指数とは、燃焼系内の圧力変動に対する燃焼速度の変化の指標である。一般に燃焼速度は温度・圧力に依存し、これらが高くなるとそれに伴い高くなる。よって、ガス発生剤組成物の圧力指数が低いということは、燃焼系内の圧力変動に対して安定した燃焼速度が得られることになる。
また、線燃焼速度が高いと、ガス発生器の内圧を高くしなくても所望の燃焼速度が得られるため、ガス発生器のハウジングの肉厚を薄くすることができ、ガス発生器の軽量化が実現できる。
【0055】
錠剤硬度の測定(熱衝撃試験)
実施例1で得たガス発生剤(形状は錠剤)を用いて、−40℃〜107℃を150サイクル行う熱衝撃試験を行い、錠剤硬度をモンサント硬度計により測定した。その結果を表2に示す。
【0056】
表2
錠剤硬度
塩基性炭酸銅の50%平均粒子径 試験投入前 試験投入後
実施例1 20μm 16.1kgf 14.9kgf
【0057】
表2によれば、実施例1(塩基性炭酸銅の50%平均粒子径が20μm)のガス発生剤では、熱衝撃試験後であっても錠剤の劣化は認められなかった。
【0058】
ガス発生剤の着火性の測定(60Lタンク試験より)
図1に示されるガス発生器1を用いて、60Lタンク試験を行い、実施例1、比較例1のガス発生剤に対する着火性を検討した。今回は低温環境下での着火性を確認する為に、このガス発生器1を−40℃で4時間放置した後に、内容積60リットルの密閉容器に取り付け、ガス発生器1を作動させ、圧力を測定した。ここで、図2に示すように、Pは容器内の最大到達圧力、tは点火装置への通電からガス発生器の作動に至るまでの時間、tはガス発生器の作動から圧力Pが得られるまでの時間を表す。ガス発生剤の着火性能は低温試験の場合、tの時間が10ms以内であることが求められ、この範囲を越える場合、ガス発生器は作動遅れを発生し、十分な性能を発揮しない。ここでは、点火器への通電からガス発生器の作動に至るまでの時間tを示した。
【0059】
60Lタンク試験結果を表3にまとめた。なお、実施例1のガス発生剤、比較例2のガス発生剤を図1で示されるガス発生器1(実施例2、比較例3)にそれぞれ40.5g、31gを充填し、60Lタンク試験に用いた。
【0060】
表3

使用したガス発生剤 使用した伝火薬 [ms] [ms] [kPa]
実施例2 実施例1のガス発生剤 ATPN 4.6 70.0 160.6比較例3 比較例2のガス発生剤 ATPN 5.0 500.0 150.0
【0061】
表3において、ATPNは、伝火薬を示し、5−アミノテトラゾール、硝酸カリウム、合成ヒドロタルサイト、三酸化モリブデン、窒化珪素を含む組成のものである。
60Lタンク試験の表3の結果から、実施例1で得られたガス発生剤を用いた実施例2では、−40℃という過酷な低温環境下において、比較例1で得られたガス発生剤を用いた比較例3のものに比べて、tの値は、ほぼ同じであった。これは、使用した伝火薬が燃焼したものである。しかし、tの値は、はるかに短かった。実施例2では、比較例3に比べて、ガス発生剤の着火が良く、燃焼性が良かったことを意味する。実施例2のものは、少ない薬量で確実な着火性能を持つガス発生器を提供することが可能となる。
【0062】
本発明のガス発生剤組成物は、従来のものに比べ、発熱量の低くいものであった。このようなガス発生剤をガス発生器に組み込んだ時、フィルタ−の重量を減らすことが可能と考えられ、ガス発生器にとっては、好ましい結果になると考えられる。また、用いる塩基性炭酸塩の含有量を規定することにより、粉化せず、着火性の良いガス発生剤を得ることができた。更にこれを有するガス発生器を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】60Lタンク試験で使用したガス発生器の構造を示す要部断面模式図である。
【図2】本発明のガス発生剤組成物を用いたガス発生器を作動して得られた60Lタンクテストの燃焼状態を、時間と圧力の関係で示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1 ガス発生器
2 点火器
3 伝火薬
4 ガス発生剤
5 フィルタ押え部材
6 上蓋
7 点火手段
8 燃焼室
9 冷却フィルタ部材
10 下蓋
11 ガス放出孔
12 ラプチャ−部材
13 内筒体
14 フランジ
15 伝火孔
最大到達圧力
作動開始までの時間
作動からP に到るまでの時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラゾ−ル類又はグアニジン類、硝酸塩又は過塩素酸塩及び塩基性炭酸塩を含有し、塩基性炭酸塩の含有量が20重量%を超え、40重量%以下であるガス発生剤組成物。
【請求項2】
水酸化アルミニウムを含有しない請求項1に記載のガス発生剤組成物。
【請求項3】
テトラゾ−ル類がテトラゾール、5−アミノテトラゾール、5−アミノテトラゾールの亜鉛塩、5−アミノテトラゾールの銅塩、5−ニトロアミノテトラゾール、ビテトラゾール、ビテトラゾールカリウム塩、ビテトラゾールナトリウム塩、ビテトラゾールマグネシウム塩、ビテトラゾールカルシウム塩、ビテトラゾール銅塩、ビテトラゾールメラミン塩又はビテトラゾールジアンモニウム塩である請求項1又は2に記載のガス発生剤組成物。
【請求項4】
塩基性炭酸塩が塩基性炭酸コバルト、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸カルシウム、塩基性炭酸ニッケル、塩基性炭酸マグネシウム又は塩基性炭酸銅である請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス発生剤組成物。
【請求項5】
硝酸塩が硝酸アルカリ土類金属の塩である請求項1〜4のいずれか一項に記載のガス発生剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のガス発生剤組成物を有する自動車乗員保護装置用ガス発生器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−76849(P2006−76849A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264166(P2004−264166)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】