説明

ガス発生器

【課題】エアバッグへのガスを均一に放出可能とする。
【解決手段】本発明は、運転席用のエアバッグを膨張展開させるもので、2つの点火手段8,9によって各燃焼室3,4内のガス発生剤7を燃焼させるものである。そして、各燃焼室3,4内には、各点火手段8,9の火炎をハウジング1の周方向、及び径方向に伝播する伝火手段10,11を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエアバッグを膨張展開させるガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突時に生じる衝撃から乗員を保護するため、急速にエアバッグを膨張展開させるガス発生器は、ステアリングホイール内等に装着されたエアバッグモジュールに組み込まれている。そして、ガス発生器は、点火手段を通電発火し、この火炎によりガス発生剤を燃焼させることで、多量のガスを急速に発生させるものである。
【0003】
従来のガス発生器では、乗員の着座姿勢(正規着座、前屈み等の非正規着座)の如何に拘らず、常に、エアバッグを急速に膨張展開させる形態を有している。従って、自動車の乗員がステアリングホイール等の近傍にいる非正規着座では、乗員を保護するエアバッグ本来の機能を発揮できないという問題がある。
【0004】
この問題を解決する技術としては、助手席用エアバッグを膨張展開させるガス発生器に適用したもので、ソフトインフレーション技術なるものが提案・開発されている。このガス発生器は、長尺円筒状のハウジング内を2つの燃焼室に画成し、各燃焼室内のガス発生剤を2つの点火手段によって夫々独立して燃焼させるものである。又、各点火手段は、ハウジングの両軸端部に装着されている。
【0005】
そして、点火手段を、時間差をもって通電発火することで、エアバッグの展開初期において、1の燃焼室からの少量のガスによって緩やかに膨張展開させ、その後に各燃焼室からの多量のガスによってエアバッグを急速に膨張展開させるものである。これで、エアバッグの膨張展開を制御可能としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のソフトインフレーション技術を、運転席用エアバッグを膨張展開させるガス発生器に適用することが考えられる。
【0007】
この運転席用のガス発生器は、通常、ステアリングホイールの狭い空間内に組み込まれるため、短円筒状のハウジングを用いている。又、ステアリングホイール内には、エアバッグも収納する必要があることから、エアバッグをハウジングの一方の軸端側を覆うように装着している。このことから、運転席用のガス発生器では、点火手段を、エアバッグの反対側となるハウジングの他軸端に装着する構造を採用している。
【0008】
従って、上記ソフトインフレーション技術を、運転席用のガス発生器に適用するときには、ハウジング内を2つの燃焼室に画成し、2つの点火手段をハウジングの他軸端に装着する構造を採用することになる。そして、各点火手段を、時間差をもって通電発火することで、エアバッグの展開初期において、1の燃焼室からの少量のガスによって緩やかに膨張展開させ、その後に各燃焼室からの多量のガスによってエアバッグを急速に膨張展開させることが可能となる。
【0009】
運転席用のガス発生器に対して、上記ソフトインフレーション技術を採用するときには、各点火手段の1又は2以上をハウジングの軸心から偏心させて、ハウジングの他軸端に装着する必要がある。
【0010】
従って、偏心する点火手段のある燃焼室では、偏心して配置される点火手段近傍に対する偏った局部的な燃焼が発生することになり、ハウジングの全周にわたってガスを均一に発生させることができず、エアバッグ内に均一にガスを放出できない恐れがある。このことは、エアバッグを偏らせて膨張展開させることになり、乗員を保護するというエアバッグ本来の機能を損なうことにもなりかねない。
【0011】
本発明のガス発生器は、点火手段の火炎を伝火手段によってハウジングの周方向、及び径方向に伝播させて、ガス発生剤の燃焼を瞬時に全体的なものとすることで、エアバッグへのガスを均一に放出可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のガス発生器(請求項1)は、円筒状のハウジングと、前記ハウジング内に画成された燃焼室内に装填され、燃焼によりガスを発生するガス発生剤と、前記燃焼室内に火炎を噴出して、前記燃焼室内の前記ガス発生剤を燃焼させる点火手段と、前記燃焼室内における前記ガス発生剤の上部において、前記燃焼室の周方向にわたって環状に設けられ、前記点火手段の火炎を前記燃焼室の周方向及び径方向に伝播させる伝火手段と、を備えたことを特徴とする。
これによって、燃焼室内の燃焼は、点火手段から燃焼室内に直接噴出される火炎と、燃焼室内の伝火手段にて伝播される火炎とによって、瞬時に、ガス発生剤の全体的な燃焼に移行される。従って、エアバッグ内に放出するガスを均一なものとできる。
【0013】
本発明のガス発生器(請求項2)によると、前記点火手段は、前記ハウジングの軸心から偏心して配置されている。
これによって、点火手段をハウジングの軸心から偏心して配置しても、燃焼室内では、当該点火手段近傍での偏った局部的な燃焼がなくなり、瞬時に、燃焼室内のガス発生剤の全体的な燃焼に移行できる。
【0014】
本発明のガス発生器(請求項3)によると、前記伝火手段は、自動発火性の火薬組成物からなる伝火剤で構成されている。
これによって、伝火手段は、点火手段から噴出される火炎や熱によって自動発火し、瞬時に、燃焼室の周方向及び径方向に伝播できる。
【0015】
本発明のガス発生器(請求項4)によると、前記伝火手段は、前記燃焼室内に開口しつつ前記燃焼室の周方向及び径方向に延び、前記点火手段の火炎が噴出される伝火空所により構成されている。
これによって、点火手段の火炎が、伝火空所によって燃焼室の周方向及び径方向に伝播され、瞬時に、燃焼室内のガス発生剤を全体的な燃焼に移行できる。
【0016】
本発明のガス発生器(請求項5)によると、前記伝火空所は、前記燃焼室内に装着されたクッション部材によって閉鎖しており、前記クッション部材には、前記伝火空所に沿って配置され、前記伝火空所を前記燃焼室内に開口する複数の伝火孔が形成されている。
これによって、点火手段の火炎が、伝火空所によって燃焼室の周方向及び径方向に伝播され、クッション部材の各伝火孔から燃焼室内に噴出されることで、瞬時に、燃焼室内のガス発生剤を全体的な燃焼に移行できる。また、クッション部材を燃焼室内に装着して伝火空所を閉鎖することで、ガス発生剤の振動による粉化防止、ガス発生剤の伝火空所への入り込み防止等を図ることができる。
【0017】
なお、伝火手段としては、伝火剤によって円盤状板、又はリング状板に形成し、伝火剤をガス発生剤に直接接触させたもの、伝火剤を仕切リング板の伝火溝内に密封装填して一体化し、伝火剤をガス発生剤に間接接触させたものなどを採用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、燃焼室内の燃焼は、点火手段から燃焼室内に直接噴出される火炎と、燃焼室内の伝火手段にて伝播される火炎とによって、瞬時に、ガス発生剤の全体的な燃焼に移行される。従って、エアバッグ内に放出するガスを均一なものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1図は、本発明にかかる第1の実施形態のガス発生器を示す断面図である。
【図2】第2図は、第1図のA−A断面矢視図である。
【図3】第3図は、本発明にかかる第2の実施形態のガス発生器を示す断面図である。
【図4】第4図は、第3図のB−B断面矢視図である。
【図5】第5図は、本発明にかかる第3の実施形態のガス発生器を示す断面図である。
【図6】第6図は、第5図のC−C断面矢視図である。
【図7】第7図は、第5図のE−E断面矢視図である。
【図8】第8図は、本発明にかかる第4の実施形態のガス発生器を示す断面図である。
【図9】第9図は、本発明にかかる第5の実施形態のガス発生器を示す断面図である。
【図10】第10図は、第9図のF−F断面矢視図である。
【図11】第11図は、本発明にかかる第6の実施形態のガス発生器を示す断面図である。
【図12】第12図は、第11図のG−G断面矢視図である。
【図13】第13図は、本発明にかかる第7の実施形態のガス発生器を示す断面図である。
【図14】第14図は、第13図のH−H断面矢視図である。
【図15】第15図は、第13図のI−I断面矢視図である。
【図16】第16図は、本発明にかかる第8の実施形態におけるガス発生器を示す断面図である。
【図17】第17図は、第16図のJ−J断面矢視図である。
【図18】第18図は、本発明にかかる第9の実施形態におけるガス発生器を示す断面図である。
【図19】第19図は、第18図のK−K断面矢視図である。
【図20】第20図は、本発明にかかる第10の実施形態におけるガス発生器を示す断面図である。
【図21】第21図は、第20図のL−L断面矢視図である。
【図22】第22図は、本発明の参考例におけるガス発生器を示す断面図である。
【図23】第23図は、本発明にかかる第11の実施形態におけるガス発生器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のガス発生器について説明する。
【0021】
本発明のガス発生器は、運転席用エアバッグを膨張展開させるためのもので、点火手段の火炎を伝火手段によってハウジングの径方向、及び周方向に伝播させて、ガス発生剤の燃焼を瞬時に全体的なものとすることで、エアバッグへのガスを均一に放出可能としたものである。
【0022】
以下、本発明のガス発生器の実施形態としては、複数の点火手段にてガス発生剤を燃焼させるもの(第1図〜第17図参照)、1つの点火手段にてガス発生剤を燃焼させるもの(第18図〜第23図参照)について説明する。
【0023】
第1図及び第2図に示すガス発生器D1は、エアバッグの膨張展開を制御可能とするもので、短円筒状のハウジング1と、ハウジング1内に装着されるフィルタ支持材2と、ハウジング1内を2つの燃焼室3,4に画成する仕切リング板5と、各燃焼室3,4内に装着・装填されるフィルタ6及びガス発生剤7と、各燃焼室3,4内に火炎を独立して噴出する点火手段8,9と、各点火手段8,9の火炎を独立して伝播する伝火手段10,11とを備えている。
【0024】
ハウジング1は、上容器12と下容器13とで二重円筒構造にされている。このハウジング1は、各容器12,13を突き合わせ溶接(例えば、摩擦圧接)により接合することで、外筒14及び内筒15との上下端を2つの蓋板16,17で閉鎖する構造である。これで、ハウジング1の内部は、外筒14と内筒15間の密閉空間S(環状空間)と、内筒15内側の収納空間S1とに画成される。
【0025】
ハウジング1の外筒14には、密閉空間Sとエアバッグ内を連通する複数のガス放出孔14aが形成されている。各ガス放出孔14aは外筒14の上蓋板16側に開口して、ハウジング1の周方向に所定間隔毎に配置されている。又、各ガス放出孔14aは、外筒14内周に貼着されたバーストプレート18にて閉鎖されている。バーストプレート18は、例えば、アルミ等の金属箔にて形成され、ハウジング1内の防湿と内圧調整の役割を果たす。又、内筒15には、各空間S,S1を連通する複数の導火孔15aが形成されている。各導火孔15aは、内筒15の上蓋板16側に開口して、ハウジング1の周方向に所定間隔毎に配置されている。
【0026】
ハウジング1の下蓋17には、密閉空間S内に突出する短尺円筒19が一体形成されている。短尺内筒19は、ハウジング1の軸心aから径外方に偏心されて、外筒14と内筒15間に位置している。又、下蓋17の外周縁には、外筒14の径外側に沿って上蓋板16側に延びるフランジ筒20が形成され、フランジ筒20のフランジ21にエアバッグ、バッグカバー等からなるエアバッグモジュールのリテーナ等が取り付けられる。
【0027】
フィルタ支持材2は、ハウジング1の密閉空間S内に装着されている。又、フィルタ支持材2は、例えば、多孔金属板(パンチングメタルプレート)やエクスパンディッドメタルプレート等を円筒状に成形することによって製作される。このフィルタ支持材2は、外筒14と短尺内筒19間に装着され、下蓋板17から上蓋板16近傍まで延在している。又、フィルタ支持材2の上端は、内筒15外周に装着される蓋リング板22にて閉鎖されている。これで、フィルタ支持材2は、下蓋板17、蓋リング板22と共に、密閉空間Sを外筒14側のガス通過空間S2(環状空間)と、内筒15側の燃焼空間S3(環状空間)とに画成している。又、フィルタ支持材2は、複数のガス通過孔2aによってガス通過空間S2と燃焼空間S3を連通している。
【0028】
仕切リング板5は、各蓋板16,17に略平行として、フィルタ支持材2内周と内筒15外周に装着され、燃焼空間S3内を所定の容積割合によって上下2段の各燃焼室3,4に画成している。又、仕切リング板5は、短尺円筒19の上端側に対峙して位置決めされている。
【0029】
各フィルタ6は、各燃焼室3,4内に装着されている。又、各フィルタ6は、例えば、メリヤス編み金網やクリンプ織り金属線材の集合体を、円筒状に成形することによって安価に製作される。これら各フィルタ6は、フィルタ支持材2と短尺内筒19間に装着され、燃焼室3内にて仕切リング板5から蓋リング板22まで延在し、又、燃焼室4内にて下蓋板17から仕切リング板5まで延在している。
【0030】
ガス発生剤7は、燃焼により高温ガスを発生するもので、各燃焼室3,4のフィルタ6内に夫々装填されている。又、ガス発生剤7の装填量は、エアバッグの膨張展開を制御可能となす量に調整されている。
【0031】
各点火手段8,9は、内筒15、短尺内筒19に夫々装着されている。点火手段8は、点火器23と、伝火剤24とで構成されている。点火器23は、衝突センサからの衝突信号によって通電発火する電気式のものであって、内筒15内の収納空間S1に突出する状態で、下蓋板17に装着されている。この点火器23は、下蓋板17から内筒15の収納空間S1内に突出するカシメ突起25によってカシメ固定される。又、伝火剤24は、点火器23に対して隙間をもって内筒15内の上蓋板16側に装着されている。これで、点火手段8は、点火器23の発火によって伝火剤24を着火させ、この伝火剤24の火炎を各導火孔15aから燃焼室3内に噴出させて、燃焼室3内のガス発生剤7を着火燃焼させる。
【0032】
点火手段9は、点火器26のみで構成されている。この点火器26は、上記衝突センサからの衝突信号によって通電発火する電気式のものであって、燃焼室4内に突出する状態で、短尺内筒19内に装着されている。又、点火器26は、短尺内筒19から燃焼室4内に突出するカシメ突起27によってカシメ固定される。これで、点火手段9の点火器26は、ハウジング1の軸心aから径外方に偏心された位置に配置され、その火炎を仕切リング板5側、及びハウジング1の軸心a周りに噴出して、燃焼室4内のガス発生剤7を着火燃焼させる。
【0033】
各伝火手段10,11は、伝火剤によってリング状板に形成されている。この伝火剤としては、自動発火性を有する窒素含有有機化合物を燃料とする伝火薬を用いることが好ましい。この窒素含有有機化物系の自動発火性の火薬組成物としては、テトラゾール系有機化合物と、硝酸塩を主成分とする酸化剤と、Zr、Hf、Mo、W、Mn、Ni、Fe等の金属単体又はこれらの酸化物或いは硫化物からなる燃焼調節剤を含む混合物にバインダを添加したものが好適である。このような伝火剤は、各点火手段8,9の火炎によって着火でき、瞬時に、ハウジングの周方向、及び径方向に伝播できる。これに加えて、伝火剤は、例えば、200℃以上といった高温下において自動発火するので、車両火災等でガス発生器が火炎に晒されても、高温によるガス発生器の強度低下をきたす前に発火して、ガス発生剤7を着火燃焼させるので、ガス発生器のハウジング破壊等を防ぐことができる。これら各伝火手段10,11は、各燃焼室3,4内に装着されている。
【0034】
伝火手段10は、フィルタ6内に装着され、蓋リング板22とガス発生剤7との間に位置して、蓋リング板22に対して略平行に設けられている。これで、伝火手段10は、燃焼室3内のガス発生剤7と直接接触する状態で、ハウジング1の周方向、径方向にわたって配置され、点火手段8によって各導火孔15aから噴出される火炎をハウジング1の軸心a周り、及び内筒15から外筒14に向けて伝播する。又、伝火手段11は、フィルタ6内周と内筒15外周との間に装着され、仕切リング板5と点火器26との間に位置して、仕切リング板5に対して略平行に設けられている。これで、伝火手段11は、偏心して配置される点火器26上端に当接し、燃焼室4内のガス発生剤7と直接接触する状態で、ハウジング1の周方向、径方向にわたって配置され、点火器26から噴出される火炎を、ハウジング1の軸心a周り、及び外筒14に向けて伝播する。
【0035】
ガス発生器D1の作動について説明する。
【0036】
衝突センサが自動車の衝突を検出することで、点火器23を通電発火して、伝火剤24を着火させる。伝火剤24の火炎は、各導火孔15aから燃焼室3内に噴出して、ガス発生剤7を着火燃焼させると同時に、伝火手段10の伝火剤を着火する。そして、点火器23の火炎は、伝火手段10の伝火剤に燃え移ることになり、ハウジング1の周方向、及び径方向に伝播され、ガス発生剤7を燃焼することで、高温ガスを発生させる。これで、燃焼室3内での燃焼は、燃焼室3内に噴出される火炎と、伝火手段10にて伝播される火炎によって、瞬時に、ガス発生剤7の全体的な燃焼に移行する。
【0037】
燃焼室3内で発生した高温ガスは、ハウジング1の全周からフィルタ6内に流入し、ここでスラグ捕集と冷却を経て、各ガス通過孔2aからガス通過空間S2内へ均一に流入する。そして、燃焼室3内での燃焼が進んで、ハウジング1内が所定圧力に達すると、バーストプレート18が破裂して、ガス通過空間S2内で均一にされた清浄なガスが各ガス放出孔14aからエアバッグに放出される。
【0038】
これで、エアバッグは、燃焼室3のみで発生した少量のガスによって、緩やかに膨張展開を開始する。
【0039】
続いて、燃焼室3の燃焼開始後、微小時間差をもって点火器26を通電発火させる。点火器26の火炎は、短尺内筒19の周りに噴出して、燃焼室4内のガス発生剤7を着火燃焼させると同時に、伝火手段11側に噴出して、伝火手段11の伝火剤を着火する。そして、点火器26の火炎は、伝火手段11の伝火剤に燃え移ることになり、ハウジング1の周方向、及び径方向へ伝播され、ガス発生剤7を燃焼することで、高温ガスを発生させる。
【0040】
これで、燃焼室4内での燃焼は、点火器26から燃焼室4内に直接噴出される火炎と、伝火手段11にて伝播される火炎とによって、瞬時に、ハウジング1の周方向、及び径方向へ移って、ガス発生剤7の全体的な燃焼に移行する。
【0041】
従って、燃焼室4内においては、偏心して配置される点火器26近傍に対する偏った局部的な燃焼がなくなり、ハウジング1の全周にわたってガスを均一に発生させることができる。
【0042】
燃焼室4内で発生した高温ガスは、ハウジング1の全周からフィルタ6内に流入し、ここでスラグ捕集と冷却を経て、各ガス通過孔2aからガス通過空間S2内へ均一に流出する。そして、ガス通過空間S2内に流出したガスは、各ガス放出孔14aから均一にエアバッグ内に放出される。これで、エアバッグは各燃焼室3,4から放出される多量の清浄なガスによって急速な膨張展開に移行される。
【0043】
この結果、エアバッグは、展開初期において燃焼室3のみで発生した少量のガスにより緩やかに膨張展開を開始し、微小時間後から、各燃焼室3,4で発生した多量のガスにより急速に膨張展開することになる。
【0044】
又、エアバッグは、各ガス放出孔14aから放出される均一なガスによって、偏りなくスムーズに膨張展開される。
【0045】
尚、各点火手段8,9の点火器23,26の通電発火は、微小時間差を以て行うことを必ずしも要するものでなく、自動車の衝突形態により適宜選択されるものである。
【0046】
例えば、高速度での正面衝突や前方衝突の如き危険度の高い衝突では、各点火器23,26を同時に通電発火して、エアバッグを各燃焼室3,4で発生した多量のガスにて急速に膨張展開させる。又、危険度が中程度の衝突では、各点火器23,26を微小時間差をもって通電発火して、エアバッグを展開初期において少量のガスで緩やかに膨張展開し、微小時間後に多量のガスにて急速に膨張展開させる。更に、危険度が軽程度の衝突では、例えば、点火器23のみを通電発火して、エアバッグを比較的長い時間をかけて少量のガスにて緩やかに膨張展開させる。
【0047】
このように、ガス発生器D1によれば、各点火手段8,9の通電発火を、自動車の衝突形態により選択することで、エアバッグ内へ放出するガス量を調整でき、エアバッグ膨張展開を制御可能となせる。
【0048】
又、各点火手段8,9の火炎を、各伝火手段10,11によってハウジング1の周方向、及び径方向に伝播することで、各燃焼室3,4内でのガス発生剤7の燃焼を、瞬時に、全体的な燃焼に移行でき、各ガス放出孔14aからエアバッグ内に放出するガス量を均一にすることができる。
【0049】
従って、点火手段9をハウジング1の軸心aから径外方に偏心して配置させても、エアバッグに偏りを生じさせることなく、スムーズに膨張展開させることが可能となる。
【0050】
次に、第3図及び第4図に示すガス発生器D2について説明する。
【0051】
第3図及び第4図のガス発生器D2は、上記のガス発生器D1に対して、伝火手段11と仕切リング板5を一体化したもので、第1図及び第2図と同一符号は同一部材を示して説明を省略する。
【0052】
第3図及び第4図のガス発生器D2は、伝火手段11の伝火剤を仕切リング材5内に装填して一体化したものである。仕切リング材5には、伝火剤を装填する環状の伝火溝28が形成されている。伝火溝28は、点火手段9の点火器26上端に対峙して、ハウジング1の軸心a周りである内筒15の外周に沿って延びている。この伝火溝28は、燃焼室4内に所定幅tをもって開口して、燃焼室3側に所定深さだけ突出形成されている。伝火手段11の伝火剤は、仕切リング材5の伝火溝28内に収納することで、伝火溝28によってハウジング1の周方向、径方向にわたって装填されている。又、伝火手段11は、仕切リング板5に貼着されたメタルプレート29によって伝火溝28内に密封されている。メタルプレート29は、例えば、アルミ等の金属箔にてリング状に形成され、燃焼室4内側から伝火溝28を閉鎖している。このメタルプレート29は、点火器26から噴出される火炎によって破裂され、伝火手段11の伝火剤を着火可能とする。これで、伝火手段11の伝火剤は、メタルプレート29を介してガス発生剤7に間接接触される。
【0053】
ガス発生器D2の作動について説明する。
【0054】
衝突センサが自動車の衝突を検出することで、点火器23を通電発火すると、第1図及び第2図と同様に、燃焼室3内での燃焼は、燃焼室3内に噴出される火炎と、伝火手段10にて伝播される火炎とによって、瞬時に、ガス発生剤7の全体的な燃焼に移行する。そして、燃焼室3内で発生した高温ガスは、フィルタ6でスラグ捕集と冷却を経て、ガス通過空間S2で均一化された後に、エアバッグ内に放出される。これで、エアバッグは、燃焼室3のみで発生した少量の清浄なガスによって、緩やかに膨張展開を開始する。
【0055】
続いて、燃焼室3の燃焼開始後、微小時間差をもって点火器26を通電発火させる。点火器26の火炎は、短尺内筒19の周りに噴出して、ガス発生剤7を燃焼させると同時に、仕切リング板5側に噴出して、メタルプレート29を破裂させた後、伝火手段11の伝火剤を着火する。そして、点火器26の火炎は、伝火手段11の伝火剤に燃え移ることになり、ハウジング1の周方向、及び径方向へ伝播され、ガス発生剤7を燃焼することで、高温ガスを発生させる。このとき、伝火手段11の伝火剤に燃え移った火炎は、伝火溝28の形状によって、点火器26の上端から内筒15の外周を回って、反対側の内筒15とフィルタ6との間まで伝播される。なお、メタルプレート29は、伝火剤の燃焼により破裂する厚さに設定されている。
【0056】
これで、燃焼室4内での燃焼は、点火器26から燃焼室4内に直接噴出される火炎と、仕切リング材5の伝火溝28及び伝火手段11にて伝播される火炎とによって、瞬時に、ハウジング1の周方向、及び径方向へ移って、ガス発生剤7の全体的な燃焼に移行する。
【0057】
従って、燃焼室4内においては、偏心して配置される点火器26近傍に対する偏った局部的な燃焼がなくなり、ハウジング1の全周にわたってガスを均一に発生させることができる。
【0058】
燃焼室4内で発生した高温ガスは、ハウジング1の全周からフィルタ6内に流入し、ここでスラグ捕集と冷却を経て、ガス通過空間S2で均一にされた後、エアバッグ内に放出される。これで、エアバッグは各燃焼室3,4から放出される多量の清浄なガスによって急速な膨張展開に移行される。
【0059】
尚、ガス発生器D2では、上記のガス発生器D1と同様に、各点火器23,26を通電発火する微小時間差を適宜選択することで、自動車の衝突形態に応じてエアバッグ膨張展開を制御することができるものである。
【0060】
このように、ガス発生器D2によれば、上記のガス発生器D1と同様に、エアバッグ膨張展開を制御可能となし、又、エアバッグを偏りなくスムーズに膨張展開させることができる。
【0061】
次に、第5図〜第7図のガス発生器D3について説明する。
【0062】
第5図〜第7図のガス発生器D3は、上記のガス発生器D2に対して、伝火手段11を伝火溝28とクッション部材30とで構成したもので、第3図及び第4図と同一符号は同一部材を示して説明を省略する。
【0063】
第5図〜第7図のガス発生器D3は、伝火剤を収納しない伝火溝28と、クッション部材30とで伝火手段11となる伝火空所S6を構成したものである。クッション部材30は、燃焼室4内の仕切リング材5とガス発生剤7との間に装着されている。このクッション部材30は、仕切リング材5に当接されて伝火溝28内を燃焼室4から閉鎖し、該伝火溝28内とで環状の伝火空所S6を画成している。この伝火空所S6は、伝火溝28の形状によってハウジング1の軸心a周りである内筒15の外周に沿って延びている。又、クッション部材30は、点火器26の先端側に嵌め込まれて、該点火器26を伝火空所S6内に装入している。クッション部材30には、伝火空所S6を燃焼室4内に開口する複数の伝火孔30aが形成されている。複数の伝火孔30aは環状の伝火空所S6に沿って配置され、伝火空所S6と燃焼室4とを連通している。これら各伝火孔30aの孔径は、ガス発生剤7が伝火空所S6内に入り込まない大きさにされている。
【0064】
このクッション部材30は、ガス発生剤7の振動による粉化防止と、ガス発生剤7の伝火空所S6内への入り込み防止とともに、各燃焼室3,4の相互における熱伝達を抑制する断熱材としての機能を兼ね備えている。従って、クッション部材30としては、セラミックス繊維等の断熱機構を有するセラミックシートやシリコン発泡体等の弾性材を用いることが好ましい。
【0065】
ガス発生器D3の作動について説明する。
【0066】
衝突センサが自動車の衝突を検出することで、点火器23を通電発火すると、第1図及び第2図と同様に、燃焼室3内での燃焼は、燃焼室3内に噴出される火炎と、伝火手段10にて伝播される火炎とによって、瞬時に、ガス発生剤7の全体的な燃焼に移行する。そして、燃焼室3内で発生した高温ガスは、フィルタ6でスラグ捕集と冷却を経て、ガス通過空間S2で均一化された後に、エアバッグ内に放出される。これで、エアバッグは、燃焼室3のみで発生した少量の清浄なガスによって、緩やかに膨張展開を開始する。
【0067】
続いて、燃焼室3の燃焼開始後、微小時間差をもって点火器26を通電発火させる。点火器26の火炎は、環状の伝火空所S6内に噴出される。そして、点火器26の火炎は、伝火空所S6内をハウジング1の周方向、及び径方向に伝播することにより、クッション部材30の各伝火孔30aから順次、燃焼室4内に噴出され、ガス発生剤7を燃焼することで、高温ガスを発生させる。このとき、伝火空所S6内に噴出される火炎は、伝火空所S6によって、点火器26の上端から内筒15の外周を回って、反対側の内筒15とフィルタ6との間まで伝播される。
【0068】
これで、燃焼室4内での燃焼は、点火器26から伝火空所S6にて伝播され、クッション部材30の各伝火孔30aから噴出される火炎によって、瞬時に、ハウジング1の周方向、及び径方向へ移って、ガス発生剤7の全体的な燃焼に移行する。
【0069】
従って、燃焼室4内においては、偏心して配置される点火器26近傍に対する偏った局部的な燃焼がなくなり、ハウジング1の全周にわたってガスを均一に発生させることができる。
【0070】
燃焼室4内で発生した高温ガスは、ハウジング1の全周からフィルタ6内に流入し、ここでスラグ捕集と冷却を経て、ガス通過空間S2で均一にされた後、エアバッグ内に放出される。これで、エアバッグは各燃焼室3,4から放出される多量の清浄なガスによって急速な膨張展開に移行される。
【0071】
尚、ガス発生器D3では、上記のガス発生器D1と同様に、各点火器23,26の通電発火する微小時間差を適宜選択することで、自動車の衝突形態に応じてエアバッグ膨張展開を制御することができるものである。
【0072】
このように、ガス発生器D3によれば、上記のガス発生器D1と同様に、エアバッグ膨張展開を制御可能となし、又、エアバッグを偏りなくスムーズに膨張展開させることができる。
【0073】
また、ガス発生器D3では、燃焼室3内に突出する伝火溝28を仕切リング板5に形成し、点火器26の先端側を伝火溝28内の伝火空所S6に装入する構成を採用することで、ハウジング1の軸方向の長さを短くでき、もって小型のガス発生器D3を提供することが可能となる。
【0074】
尚、ガス発生器D1〜D3では、各燃焼室3,4内に伝火手段10,11を装着するものであるが、第8図に示すように、偏心する点火手段9を備える燃焼室4側のみに伝火手段11を装着する構成を採用することもできる。
【0075】
これで、第8図のガス発生器D4は、上記のガス発生器D1と同様に、自動車の衝突形態に応じてエアバッグの膨張展開を制御できる。又、燃焼室4内では、上記のガス発生器D1〜D3と同様に、点火器26の火炎を伝火手段11によって、ハウジング1の周方向、径方向にわたって伝播することで、瞬時に、ガス発生剤7の全体的な燃焼に移行される。従って、エアバッグを偏りなくスムーズに膨張展開させることができる。
【0076】
次に、第9図及び第10図に示すガス発生器D5について説明する。
【0077】
第9図及び第10図のガス発生器D5は、上記のガス発生器D1に対して、ハウジング31を単円筒構造とし、各点火手段38,39をハウジング31の軸心aから偏心させたものである。
【0078】
第9図及び第10図のガス発生器D5は、短円筒状のハウジング31と、ハウジング内31を2つの燃焼室33,34に画成する仕切リング材35と、ハウジング31内に装着される各フィルタ36と、各燃焼室33,34内に装填されるガス発生剤37と、各燃焼室33,34内に火炎を噴出する点火手段38,39と、各点火手段38,39の火炎を伝播する伝火手段40,41とを備えている。
【0079】
ハウジング31は、上容器42と下容器43とで単円筒構造にされている。このハウジング31は、各容器42,43を突き合わせ溶接(例えば、摩擦圧接)により接合することで、外筒44の上下端を2つの蓋板46,47で閉鎖する構造である。これで、ハウジング31の内部には、密閉空間Sが形成される。
【0080】
ハウジング31の外筒44には、密閉空間Sとエアバッグ内を連通する複数のガス放出孔44aが形成されている。各ガス放出孔44aは外筒44の上蓋板46側に開口して、ハウジング31の周方向に所定間隔毎に配置されている。又、各ガス放出孔44aは、外筒44内周に貼着されたバーストプレート48にて閉鎖されている。バーストプレート48は、例えば、アルミ等の金属箔にて形成され、ハウジング31内の防湿と内圧調整の役割を果たす。
【0081】
ハウジング31の下蓋板47には、密閉空間S内に突出する長短2つの内筒45,49が一体形成されている。各内筒45,49は、ハウジング31の軸心aから径外方に偏心して、ハウジング31の軸心aを基準として非点対称に配置されている。なお、各内筒45,49を、ハウジング31の軸心aを基準として点対称に配置することもできる。又、下蓋板47の外周縁には、外筒44の径外側に沿って上蓋板46に延びるフランジ筒50が形成され、フランジ筒50のフランジ51にエアバッグ、バッグカバー等からなるエアバッグモジュールのリテーナ等が取り付けられる。
【0082】
仕切リング板35は、各蓋板46,47と略平行として、長尺内筒45外周に装着され、外筒44、各蓋板46,47と共に密閉空間Sを所定の容積割合によって上下2段の仕切空間S4,S5に画成している。各仕切空間S4,S5は、仕切リング板35外周と外筒44内周との間を通して連通されている。
【0083】
各フィルタ36は、各仕切空間S4,S5内に装着されている。このフィルタ36としては、例えば、メリヤス編み金網、平織り金網やクリンプ織り金属線材の集合体を、円筒状に成形することで安価に製作される。これら各フィルタ36は、外筒44と短尺内筒49間に装着され、仕切空間S4内にて仕切リング板35から上蓋板46近傍まで延在し、又、仕切空間S5内にて下蓋板47から仕切リング板35まで延在している。そして、仕切空間S4内にあるフィルタ36の上端は、蓋プレート板52にて閉鎖されている。これで、各フィルタ36及び仕切リング板35は、蓋プレート板52等と共に、各仕切空間S4,S5を外筒44側のガス通過空間S2(環状空間)と、各内筒45,49側の各燃焼室33,34とに画成している。
【0084】
ガス発生剤37は、燃焼により高温ガスを発生するもので、各燃焼室33,34内に夫々装填されている。このガス発生剤37の装填量は、エアバッグの膨張展開を制御可能となす量に調整されている。
【0085】
各点火手段38,39は、各内筒45,49に夫々装着されている。又、各点火手段38,39は、点火器53,54のみで構成され、衝突センサからの衝突信号によって通電発火する電気式のものである。これら各点火器53,54は、各燃焼室33,34内に突出する状態で、各内筒45,49に装着され、各内筒45,49から各燃焼室33,34内に突出するカシメ突起55によってカシメ固定されている。これで、各点火手段38,39は、ハウジング31の軸心aから径外方に偏心された位置に配置され、その火炎を蓋プレート板52側又は仕切リング板35側、及び長尺内筒45又は短尺内筒49の周りに噴出して、各燃焼室33,34内のガス発生剤37を着火燃焼させる。
【0086】
各伝火手段40,41は、各燃焼室33,34内に装着されている。伝火手段40は、伝火剤によって円形状板に形成されて、フィルタ36内周に装着されている。この伝火手段40は、点火手段38と蓋プレート板52間に位置して、蓋プレート板52に対して略平行に設けられている。これで、伝火手段40は、偏心する点火器53上に対峙し、燃焼室33内のガス発生剤37と直接接触する状態で、ハウジング31の周方向、径方向にわたって配置され、点火器53から噴出される火炎をハウジング31の軸心a周り、外筒44に向けて伝播する。
【0087】
又、伝火手段41は、伝火剤によってリング状板に形成され、フィルタ36内周と長尺内筒45外周とに装着されている。この伝火手段41は、仕切リング板35と点火手段39間に位置して、仕切リング板35に対して略平行に設けられている。これで、伝火手段41は、偏心して配置される点火器54上端に当接し、燃焼室34内のガス発生剤37に直接接触する状態で、ハウジング31の周方向、径方向にわたって配置され、点火器54から噴出される火炎をハウジング31の軸心a周り、外筒44に向けて伝播する。そして、各伝火手段40,41の伝火剤としては、上記のガス発生器D1と同様に、自動発火性を有する窒素含有有機化合物を燃料とする伝火薬を用いることが好ましい。
【0088】
このガス発生器D5の作動は、上記のガス発生器D1〜D4について説明したところから容易に理解されるであろう。
【0089】
尚、ガス発生器D5では、ハウジング31を単円筒構造としたので、上記のガス発生器D1〜D4の採用する二重円筒構造に比して、簡単な構造となり、製造コスト低減に寄与する。そして、ハウジング31としては、ステンレス鋼板でプレス成形してなる各容器42,43で構成することが好ましい。ステンレス製のハウジング31は、アルミ合金などで成形するに比して耐熱性、耐圧性の優れたものにできる。このように、耐熱性、耐圧性に優れたハウジング31とすると、従来から使用されているアジ化系ガス発生剤に代えて、近年使用されつつある非アジ化系ガス発生剤を用いることも可能である。この非アジ化系ガス発生剤は、アジ化系ガス発生剤に比して高温高圧ガスを発生し易い性質を有し、ハウジング31の耐熱耐圧性能が高いものが要求されるが、ステンレス鋼板などで容易に単円筒構造のハウジング31を用いて対応できる。
【0090】
次に、第11図及び第12図に示すガス発生器D6について説明する。
【0091】
第11図及び第12図のガス発生器D6は、上記のガス発生器D5に対して、伝火手段41と仕切リング板35とを一体化したもので、第9図及び第10図と同一符号は同一部材を示して説明を省略する。
【0092】
第11図及び第12図のガス発生器D6は、伝火手段41の伝火剤を、第3図及び第4図にて既に説明したように、仕切リング板35内に装填して一体化したものである。仕切リング板35には、伝火剤を収納し、メタルプレート29で密封される環状の伝火溝58が形成されている。伝火溝58は、点火手段39の点火器54上端に対峙して、ハウジング31の軸心a周りである長尺内筒45の外周に沿って延びている。その他の構成は、第9図及び第10図にて説明したものと同様である。
【0093】
又、ガス発生器D6の作動は、先にガス発生器D1〜D4において説明したものと同様であることは充分に理解されるであろう。
【0094】
又、第13図〜第15図に示すガス発生器D7は、上記のガス発生器D6に対して、伝火手段40と蓋プレート板52を一体化したもので、第11図及び第12図と同一部材を同一符号で示した様に、その他の構成は全く同一である。
【0095】
このガス発生器D7の作動は、上記のガス発生器D5,D6について説明したところから容易に理解されるであろう。
【0096】
さらに、第16図及び第17図に示すガス発生器D8は、上記のガス発生器D7に対して、伝火手段41を伝火溝58とクッション部材60とで構成したもので、第13図〜第15図と同一符号は同一部材を示して説明を省略する。
【0097】
第16図及び第17図のガス発生器D8は、伝火手段41を、第5図〜第7図にて既に説明したように、伝火剤を収納しない伝火溝58とクッション部材60とで伝火手段41となる環状の伝火空所S6を構成したものである。クッション部材60は、燃焼室34内の仕切リング板35とガス発生剤37との間に装着されている。このクッション部材60は、仕切リング35に当接されて伝火溝58内を燃焼室34から閉鎖し、該伝火溝58内とで環状の伝火空所S6を画成している。この伝火空所S6は、伝火溝58の形状によってハウジング1の軸心a周りである長尺内筒45の外周に沿って延びている。又、クッション部材60は、点火器54の先端側に嵌め込まれて、該点火器54を伝火空所S6内に装入している。クッション部材60には、伝火空所S6を燃焼室34内に開口する複数の伝火孔60aが形成されている。複数の伝火孔60aは環状の伝火空所S6に沿って配置され、伝火空所S6と燃焼室34とを連通している。これら各伝火孔60aの孔径は、ガス発生剤37が伝火空所S6内に入り込まない大きさにされている。なお、クッション部材60としては、上記のガス発生器D3と同様な、セラミックス繊維等の断熱機能を有するセラミックシートやシリコン発泡体等の弾性材を用いる。
【0098】
このガス発生器D8の作動は、上記のガス発生器D3,D6について説明したところから容易に理解されるであろう。
【0099】
次に、第18図及び第19図に示すガス発生器D9について説明する。
【0100】
第18図及び第19図のガス発生器D9は、上記のガス発生器D1〜D8に対して、1つの点火手段78によってガス発生剤77を燃焼するものである。又、点火手段78を、ハウジング71の軸心aから偏心させて配置するものである。
【0101】
第18図及び第19図のガス発生器D9は、短円筒状のハウジング71と、ハウジング71内に装着・装填されるフィルタ76及びガス発生剤77と、ハウジング71内に火炎を噴出する点火手段78と、点火手段78の火炎を伝播する伝火手段80とを備えている。
【0102】
ハウジング71は、上容器82と下容器83とで単円筒構造にされている。このハウジング71は、各容器82,83を突き合わせ溶接(例えば、摩擦圧接)により接合することで、外筒84の上下端を2つの蓋板86,87で閉鎖する構造である。これで、ハウジング71の内部には、密閉空間Sが形成される。
【0103】
ハウジング71の外筒84には、密閉空間Sとエアバッグ内を連通する複数のガス放出孔84aが形成されている。各ガス放出孔84aは外筒84の上蓋板86側に開口して、ハウジング71の周方向に所定間隔毎に配置されている。又、各ガス放出孔84aは、外筒84内周に貼着されたバーストプレート88にて閉鎖されている。バーストプレート88は、例えば、アルミ等の金属箔にて形成され、ハウジング71内の防湿と内圧調整の役割を果たす。
【0104】
ハウジング71の下蓋板87には、密閉空間S内に突出する長尺内筒85が一体形成されている。この内筒85は、ハウジング71の軸心aから径外方に偏心して配置されている。又、下蓋板87の外周縁には、外筒84の径外側に沿って上蓋板86に延びるフランジ筒90が形成され、フランジ筒90のフランジ91にエアバッグ、バッグカバー等からなるエアバッグモジュールのリテーナ等が取り付けられる。
【0105】
フィルタ76は、ハウジング71の密閉空間S内に装着されている。フィルタ76としては、例えば、メリヤス編み金網やクリンプ織り金属線材の集合体を、円筒状に成形することで安価に製作される。このフィルタ76は、ハウジング71の軸心aと同心として配置され、下蓋板87から上蓋板86近傍まで延在している。又、フィルタ76の上端は、蓋プレート板92にて閉鎖されている。これで、フィルタ76は、下蓋板87、蓋プレート板92共に、密閉空間Sを外筒84側のガス通過空間S2(環状空間)と、長尺内筒85側の燃焼室75とに画成している。又、蓋プレート板92には、伝火剤を収納する環状の伝火溝73が形成されている。伝火溝73は、点火手段78の上端に対峙して、ハウジング71の軸心a周りで偏心して形成されている。この伝火溝73は、燃焼室75内に所定幅tをもって開口して、上蓋板86側に所定の深さだけ突出形成されている。又、ガス発生剤77は、燃焼により高温ガスを発生するもので、燃焼室75内に装填されている。
【0106】
点火手段78は、長尺内筒85に装着されている。点火手段78は、点火器93のみで構成され、衝突センサからの衝突信号によって通電発火する電気式のものであって、燃焼室75内に突出する状態で、長尺内筒85に装着されている。この点火器93は、長尺内筒85から燃焼室75内に突出するカシメ突起94によってカシメ固定されている。これで、点火手段78は、ハウジング71の軸心aから径外方に偏心された位置に配置され、その火炎を蓋プレート板92側、及び長尺内筒85の周りに噴出して、燃焼室75内のガス発生剤77を着火燃焼させる。
【0107】
伝火手段80は、燃焼室75内に設けられており、伝火剤によって構成されている。この伝火剤としては、上記のガス発生器D1と同様に、自動発火性を有する窒素含有有機化合物を燃料とする伝火薬を用いることが好ましい。そして、伝火手段80の伝火剤は、蓋プレート板92の伝火溝73内に収納することで、燃焼室75の周方向、径方向にわたって装填されている。又、伝火手段80の伝火剤は、蓋プレート板92に貼着されたメタルプレート74によって伝火溝73内に密封されている。メタルプレート74は、例えば、アルミ等の金属箔にてリング状に形成され、燃焼室75側から伝火溝73を閉鎖している。このメタルプレート74は、点火器93から噴出される火炎にて破裂され、伝火手段80の伝火剤を着火可能とする。これで、伝火手段80は、燃焼室75内において、メタルプレート74を介してガス発生剤77と間接接触されている。
【0108】
ガス発生器D9の作動について説明する。
【0109】
衝突センサが自動車の衝突を検出することで、点火器93を通電発火させる。点火器93の火炎は、長尺内筒85の周りに噴出して、ガス発生剤77を着火燃焼させると同時に、蓋プレート板92側に噴出して、メタルプレート74を破裂させた後、伝火手段80の伝火剤を着火する。そして、点火器93の火炎は、伝火手段80の伝火剤に燃え移ることになり、ハウジング71の周方向、及び径方向へ伝播され、ガス発生剤77を燃焼することで、高温ガスを発生させる。このとき、伝火手段80の伝火剤に燃え移った火炎は、伝火溝73の形状によって、点火器93の上端から反偏心側まで伝播される。また、メタルプレート74は、伝火剤の燃焼により破裂する厚さに設定されている。
【0110】
これで、燃焼室75内での燃焼は、点火器93から燃焼室75内に直接噴出される火炎と、蓋プレート板92の伝火溝73及び伝火手段80にて伝播される火炎とによって、瞬時に、ハウジング71の周方向、及び径方向へ移って、ガス発生剤77の全体的な燃焼に移行する。従って、燃焼室75内においては、偏心して配置される点火手段78近傍に対する偏った局部的な燃焼がなくなり、ハウジング71の全周にわたってガスを均一に発生させることができる。
【0111】
これで、エアバッグは、燃焼室75内で発生する多量のガスによって、偏りなくスムーズに膨張展開することになる。
【0112】
尚、ガス発生器D9では、ハウジング71を単円筒構造としたので、上記のガス発生器D4と同様に、非アジ化系ガス発生剤に好適である。
【0113】
また、第20図及び第21図のガス発生器D10は、上記のガス発生器D9に対して、伝火剤の収納しない伝火溝73とクッション部材70とで伝火手段80となる環状の伝火空所S6を構成したもので、先に説明したガス発生器D3に示す伝火手段41と同様な構成を採用し、その他は第18図及び第19図と同一部材を同一符号で示した様に同様の構成である。このクッション部材70には、伝火空所S6を燃焼室75内に開口する複数の伝火孔70aが形成され、これら各伝火孔70aは伝火空所S6に沿って配置されている。 また、クッション部材70としては、上記のガス発生器D3と同様な、セラミックス繊維等の断熱機構を有するセラミックシートやシリコン発泡体等の弾性材を用いる。
そして、ガス発生器D10の作動は、上記のガス発生器D3の伝火手段41と同様であり、点火器93の火炎を伝火空所S6によってハウジング1の周方向、及び径方向に伝播させて、燃焼室75内を全体的な燃焼に移行する。
【0114】
また、第22図のガス発生器D11は、本発明の参考例であって、上記のガス発生器D9に対して、点火手段78をハウジング71の軸心aに同心として装着すると共に、伝火手段80を蓋プレート板92と別体としたもので、先に説明したガス発生器D5,D6などに示す伝火手段40、蓋プレート板52と同様な構成を採用し、その他は、第18図及び第19図と同一部材を同一符号で示した様に同様の構成である。
そして、ガス発生器D11の作動は、前記のガス発生器D9と同様である。
最後に、第23図のガス発生器D12は、上記のガス発生器D1に対して、ハウジング1内に短尺内筒19を形成することなく1つの点火手段8によってガス発生剤7を燃焼し、フィルタ6内の燃焼空間S3を仕切リング板5で画成することなく1つの燃焼室95としたもので、その他は、第1図と同一部材を同一符号で示した様に同様な構成である。
そして、ガス発生器D12の作動は、衝突センサが自動車の衝突を検出することで、点火器23を点火して、伝火剤24を着火させる。伝火剤24の火炎は、各導火孔15aから燃焼室95内に噴出して、ガス発生剤7を着火燃焼させると同時に、伝火手段10の伝火剤を着火する。そして、点火器23の火炎は、伝火手段10の伝火剤に燃え移ることになり、燃焼室95の周方向、及び径方向に伝播され、ガス発生剤7を燃焼することで、高温ガスを発生させる。これで、燃焼室95での燃焼は、燃焼室95内に噴出される火炎と、伝火手段10にて伝播される火炎とによって、瞬時に、ガス発生剤7の全体的な燃焼に移行する。
【0115】
従って、燃焼室95内においては、偏った局部的な燃焼がなくなり、ハウジング1の全周にわたってガスを均一に発生させることができる。これで、エアバッグは、燃焼室95内で発生する多量のガスによって、偏りなくスムーズに膨張展開することになる。本発明のガス発生器D1〜D12では、各々で説明した伝火手段10,11、40,41及び80の構造を相互に適用しても良い。
【0116】
そして、リング状板、又はプレート状板の伝火手段では、その厚さ等を適宜変更することで、ガス発生剤を燃焼するのに最適な伝火性能とすることができる。又、仕切リング板、又は蓋プレート板では、伝火溝の幅、深さ等の寸法を適宜選択することで、ガス発生剤を燃焼するのに最適な伝火剤量、又は点火器の火炎を伝播するのに最適な伝火空所とすることができる。更に、伝火剤の成分においても、伝火手段の伝火性能を適宜変更できる。
【0117】
さらに、伝火手段となる伝火空所S6は、必ずしも伝火溝とクッション部材とで構成するものでなく、伝火溝のみによって構成してもよい。
【0118】
本発明のガス発生器D1〜D8では、各燃焼室3,4、33,34をガス通過空間S2を通して連通する構成を示したが、これに限定されるものではない。例えば、仕切リング板を、外筒の内周に装着することで、相互に密閉される各燃焼室とする構造も採用できる。尚、各燃焼室3,4、33,34を連通する構造では、各燃焼室で発生した高温ガスをガス通過空間S2、フィルタ等を通して、他方の燃焼室内に導入してガス発生剤を燃焼させることができる。
【0119】
又、ガス発生器D1〜D8では、仕切リング板によって上下2段の燃焼室に画成したものを示したが、複数の仕切リング板を用いて上下複数段の燃焼室に画成する構造も採用できる。この構成では、各燃焼室内に点火手段を装着することで、エアバッグの膨張展開を多段制御可能となる。
【0120】
更に、ガス発生器D1〜D8では、ハウジング内を複数の燃焼室に画成するものについて説明したが、ハウジング内を画成することなく1つの燃焼室とし、複数の点火手段によってガス発生剤を着火燃焼させる構造も採用できる。この構成では、1又は2以上の点火手段をハウジングの軸心から偏心させるように、燃焼室内に装着する。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のガス発生器エアバッグを、ハウジングの全周から均一に放出されるガスによって、瞬時に、偏りなくスムーズに膨張展開でき、エアバッグ本来の機能を発揮させることが可能となる。
【符号の説明】
【0122】
1;31;71 ハウジング
3,4;33、34;75;95 燃焼室
7;37;77 ガス発生剤
8,9;38,39;78 点火手段
10,11;40,41;80 伝火手段
23,26;53,54;93 点火器
24 伝火剤
D1〜D10;D12 ガス発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のハウジングと、
前記ハウジング内に画成された燃焼室内に装填され、燃焼によりガスを発生するガス発生剤と、
前記燃焼室内に火炎を噴出して、前記燃焼室内の前記ガス発生剤を燃焼させる点火手段と、
前記燃焼室内における前記ガス発生剤の上部において、前記燃焼室の周方向にわたって環状に設けられ、前記点火手段の火炎を前記燃焼室の周方向及び径方向に伝播させる伝火手段と、
を備えたことを特徴とするガス発生器。
【請求項2】
前記点火手段は、前記ハウジングの軸心から偏心して配置されていることを特徴とする請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記伝火手段は、自動発火性の火薬組成物からなる伝火剤で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記伝火手段は、前記燃焼室内に開口しつつ前記燃焼室の周方向及び径方向に延び、前記点火手段の火炎が噴出される伝火空所により構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記伝火空所は、前記燃焼室内に装着されたクッション部材によって閉鎖されており、前記クッション部材には、前記伝火空所に沿って配置され、前記伝火空所を前記燃焼室内に開口する複数の伝火孔が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のガス発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−86839(P2012−86839A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268736(P2011−268736)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【分割の表示】特願2001−566940(P2001−566940)の分割
【原出願日】平成13年3月12日(2001.3.12)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】