ガス貯蔵のための包接化合物
この発明は、ガス中水エマルション(例えば、ドライウォーター(DW))及び例えばメタン、天然ガス、水素又は二酸化炭素のような包接外因性ガスを含むガス水和物(しばしば包接化合物として参照される)に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中水エマルション(water−in−gas emulsion)(例えば、ドライウォーター(DW))及び例えばメタン、天然ガス、水素又は二酸化炭素のような包接される外因性ガスを含むガス水和物(しばしば包接化合物として参照される)に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス、メタン及び他のガスは、例えば、乗物システムにとって重要なエネルギー源である。そのようなガスの費用効率が高い用途及び使用は、効果的、経済的及び使い勝手の良い貯蔵手段、輸送手段及び放出手段にかなりの程度依存する。廃棄流(waste streams)からのいくつかのガス(例えば二酸化炭素)の効率的な捕捉もまた重要である。
【0003】
主にメタンである天然ガスの安全で経済的な貯蔵及び輸送は、重要な社会的課題である。米国エネルギー省は、180v/v(STP)のメタンの目標貯蔵容量を設定した。水素の使用に基づく技術(例えば、燃料電池に)は、将来価値が増加していきそうである。費用効率が高い水素を基にした用途は、水素を貯蔵する効率的な手段を必要とする。室温及び室内圧力において、水素及びメタンは、それらの大容積及び反応性から、取り扱いが困難なガスである。液化には高価で複雑な装置を必要とし、かつ、低温液状物質は取り扱いが困難で危険である。自然の状態の(in situ)化合物から水素やメタンを製造する従来の方法は、多くの産業的使用には一般的に要求を満たさない。
【0004】
ガス水和物は、「ゲスト」のガスが閉じ込められている水ケージの「ホスト」の集合体を含む。ガス水和物は、水素貯蔵のための安全で環境に優しい手段を提供する可能性を有する(例えば、Struzhkin,V.V.; Militzer,B.; Mao,W.L.; Mao,H.K.; Hemley,R. J. Chem. Rev.2007,107,4133参照)。しかしながら、水素のガス水和物中への取込は、長期にわたる工程であり、しばしば数日から数週間かかる(例えば、Strobel,T.A.; Taylor,C.J.; Hester,K.C.; Dec,S.F.; Koh,C.A.; Miller,K.T.; Sloan,E.D. J. Phys. Chem. B 2006,110,17121参照)。さらに、H2−H2O包接化合物構造を「凝固する」ための時間スケールは、予測できない。優れた再充填能と合わせて水素包接の反応速度(kinetics)の増大は、水素貯蔵のための工業的に実現可能な材料としてガス水和物が発展するための主な課題である。
【0005】
メタンガスハイドレート(MGHs)の使用が、最近注目されてきている(Sloan,E.D.;Koh,C.A. Clathrate Hydrates of Natural Gases, 3rd Edition; CRC Press:Boca Raton,2007参照)。しかしながら、包接化合物形成に関連する非常に遅い形成速度が、実用的なガス貯蔵のためのメタンガスハイドレートの使用に対する主な障害となっている。
【0006】
天然ガスハイドレート(NGH)は、ガス貯蔵及び輸送の可能性も有する重要な自然エネルギー源である。例えば、従来のメタンガスハイドレート(MGH)の一容積(one volume)は、おおよそ180v/vの標準温度と圧力のメタンを産出することができる(Sloan,E.D. Nature,2003,426,353−359参照)。液化天然ガスは、ずっと高いエネルギー密度を有するが、非常に低い温度(113K)で貯蔵されなければならない。天然ガスを水和物の形で輸送することが経済的に実現可能であるということが、提案されてきている(Sloan,E.D. Nature,2003,426,353−359)。非常に遅い包接化合物形成及び水和物塊(mass)中に捕捉された未反応の間隙水の存在といった、数多くの実質的な課題がある。天然ガスハイドレートは、通常、天然ガス及び水の混合物を加圧下で冷却すること又は天然ガスと前もって作成された氷とを反応させることにより合成される。
【0007】
原理上は、幅広いガスは包接化合物の中に貯蔵されうる。そのホスト及びゲストは、安定な包接化合物構造を形成するために、場合によりさらなる安定剤の存在下において、十分に融和性(compatible)(例えば、ゲストのサイズの観点において)でなければならない。従来の包接化合物は、とりわけ水素、酸素、窒素、メタン、二酸化炭素、硫化水素、アルゴン、クリプトン、キセノン、ヘリウム及びネオン(例えば、WO−A−2006/131738及びLokshin,K.A. et al., Phys. Rev. Lett.2004,93,125503参照)又は混合ガス(たとえば、天然ガス及び空気)を(ゲストとして)含むものを含有する。
【0008】
一般的にガスの貯蔵の改善が望まれている一方、技術的及び環境的局面を対処する特定の必要性がある。ガス貯蔵の重要性は上で述べられている。そして、望まないガスを捕捉するためのガスの改善解決策が必要とされている。気候変化(特に、地球温暖化)は、(例えば)二酸化炭素の隔離(sequestration)のより良い手段の探求を促す。しかしながら、包接化合物構造の形成は予測できず、産業上の利用可能性に対する重大な障害を意味する。
【0009】
包接化合物のガス貯蔵手段としての実現可能性の時期を示すことは、乏しい反応速度及び実施上の考慮事項により厳しく制限される。包接化合物形成の反応速度を増大する一般的な方法(例えば、高圧、激しい機械的混合、界面活性剤又はミクロンサイズに粉砕され/篩いにかけられた氷粒子)は、実験室レベルでは達成されるが、費用効率的でなく、現実のガス貯蔵用途には実用的でない。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、前もって作られたドライウォーター粉末が、ガス水和物を形成することにより、望ましい速さ及びレベルで外因性のガスの取込を示すという、認識に基づいている。
【0011】
従って、第一の観点から見ると、本発明は、
疎水性粒子のネットワークにより安定化された水滴又は水粒子のガス中水エマルション;及び
前記ガス中水エマルション中に包接された外因性ガス:
を含むガス水和物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のガス水和物は、有利な外因性ガスの包接速度及びリサイクル可能性を示す。外因性ガスは、外因性ガスが必要とされるポイント(例えば、燃料電池に)での使いやすさを促進するガス水和物から急速に有利に放出される。
【0013】
理論に縛られることを望むものではないが、疎水性粒子のネットワークによるガス中水エマルションの安定化の結果、小さいドメインが形成されると考えられる。これが水をコンパートメント化して、包接されるガスが、包接形成(又は脱離)過程で、水の中へ(又は水の中から)拡散する移動距離を短くする。疎水性粒子は、水の表面を覆い、包接化合物形成の間、ホストを分けるが、水−ガス界面をカバーしてガスの浸入を十分に防ぐということはない。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲において用いる「液滴のガス中水エマルション」は、しばしばドライウォーターと呼ばれることがある。「液滴のガス中水エマルション」は概して、自由流動性の粉末の形態をとる。疎水性粒子のネットワークが、液滴を効果的にコーティングし、合体を防ぐ。それにより、ガス状媒質内に液滴形態の水を維持するために必要とするエネルギーを、バルク水を形成するために必要とするエネルギーと比較して少なくする。ドライウォーターの製造は、(例えば)Binks,B.P.; Murakami,R. Nat. Materials 2006,5,865−869中に述べられており、従来の装置で直接実行されても良い。例えば、疎水性粒子及び水は、高速で(例えば、家庭用食品ミキサーで)攪拌されることにより、曝気されても良い。産業的な用途では、ロータステイター(rotastater)、ミキサー、フォルダー(folder)又は超音波発生装置が使用できる。
【0015】
通常、外因性のガスは、ガス中水エマルションのケージ化された骨格構造中の空洞の大部分を占める。ガス水和物は包接化合物となりうる。外因性ガスのある部分が、ケージ化された骨格構造の一部を形成しうる。ガス水和物は、半包接化合物となりうる。
【0016】
好ましくは、ガス中水エマルションは、空気中水エマルション(water−in−air emulsion)である。
【0017】
好ましくは、ガス中水エマルションのガスは、外因性ガスと同じである。これにより、外因性ガスの最善の包接又は放出を適切に促進し、その汚染を回避する。
【0018】
好ましくは、ガス中水エマルションは、メタン中水エマルション(water−in−methane emulsion)である。
【0019】
外因性ガスは、メタンであって良い。通常メタン分子は、ガス中水エマルションのマトリックス中に形成された水ケージ内に貯蔵される。
【0020】
好ましくは、ガス中水エマルションは、95重量%又はそれより多くの水を含む。
【0021】
好ましくは、ガス中水エマルションは、5重量%又はそれより少ない疎水性粒子を含む。
【0022】
好ましくは、ガス中水エマルションは非集塊性である。好ましくは、ガス中水エマルションは非凝集性である。
【0023】
疎水性分子は、変性シリカ粒子、ポリマー粒子、疎水性変性無機粒子及びポリマーラテックス粒子から成る群から選ばれうる。
【0024】
疎水性分子は、Zonyl(R)MP1400(デュポン(Dupont))のようなフッ素重合体であっても良い。
【0025】
疎水性分子は、疎水性シリカ粒子(好ましくは、疎水性ヒュームドシリカ粒子)であっても良い。疎水性シリカ粒子は、表面改質されていても良い(例えば、ジメチルシロキシ基、ポリジメチルシロキシ基又はトリメチルシロキシ基などのシロキシ基により表面が改質されている)。疎水性シリカ粒子は、アルキル化されたシリカ又はフッ素化されたシリカであっても良い。
【0026】
疎水化シリカは、ワッカーケミー株式会社(Wacker Chemie AG.)から市販されている。疎水性シリカ粒子は、ワッカーケミー株式会社(Wacker Chemie AG.)からのHDK18、HDK13L、HDK15、HDK20、HDK30、HDK17、HDK2000、HDK20RM及びHDK30RMから成る群の1つ又はそれより多くであっても良い。好ましくは、HDK18である。
【0027】
好ましくは、疎水性シリカ粒子は、シラノールの残存量が66重量%又はそれより少なく、特に好ましくは、50重量%又はそれより少なく、より好ましくは25重量%又はそれより少なくである。
【0028】
外因性ガスの包接は、例えば、外因性ガスを機械的攪拌がない圧力反応容器などの従来の格納容器に加え、高圧及び低温で進行させることにより実行されうる。包接は、例えば従来の装置を使用して時間の関数として容器内の圧力降下を観察することによりモニターしても良い。
【0029】
ガス中水エマルションで包接された外因性ガスは、通常熱することにより放出される。
【0030】
通常、外因性ガスは非周囲(non−ambient)のガス(即ち、空気とは別のガス)である。好ましくは、外因性ガスは、水素、二酸化炭素又は飽和若しくは不飽和炭化水素(例えば、炭素数1〜4の炭化水素)である。外因性ガスは、例えば、メタン、エタン、エテン、プロパン、プロペン又はブタンであっても良い。
【0031】
外因性ガスは、メタン、二酸化炭素、酸素、水素、窒素、硫化水素、アルゴン、クリプトン、キセノン、ヘリウム、ネオン又はそれらの混合物であっても良い。外因性ガスは、空気と混合されても良い。
【0032】
好ましくは、外因性ガスは、メタン、水素、二酸化炭素、炭化水素及び天然ガスの群から選ばれる。
【0033】
好ましくは、外因性ガスは水素である。
【0034】
好ましくは、外因性ガスは二酸化炭素である。
【0035】
好ましくは、外因性ガスはメタンである。
【0036】
好ましくは、外因性ガスはクリプトンである。
【0037】
ガス水和物は、安定剤又は助触媒をさらに含んでも良い。安定剤又は助触媒は、ガス包接化圧力をより低くする役割を果たしうる。安定剤又は助触媒は包接されても良い。また、ケージ化された骨格構造の一部を形成しても良い。
【0038】
好ましくは、初期の液滴の平均サイズは、およそ1mmより小さい。上限は100μm、10μm又は1μmの1つがなりうる。液滴は初期の液滴より大きい凝集塊を形成するかもしれない。凝集塊の粒子径は、(例えば)1mmに至るかもしれない。
【0039】
好ましくは、初期の液滴の平均粒子径は、およそ100μmより小さく、特に好ましくはおよそ20μmより小さい。
【0040】
好ましくは、疎水性粒子の量は、水及び如何なる安定剤の量と比較して、20重量%より少なく、より好ましくは15重量%より少なく、さらに好ましくは10重量%より少なく、またさらに好ましくは5重量%より少なく、最も好ましくは1重量%より少ない。
【0041】
通常、疎水性粒子は500nm、100nm又は50nmの上限サイズを有する。例えば、疎水性粒子のサイズはおよそ10nmから20nmまでであっても良い。
【0042】
好ましくは、疎水性粒子のサイズは500nmより小さくである。
【0043】
他の観点から見ると、本発明は外因性ガスの包接における、ガス中水エマルション(例えばドライウォーター)の使用を提供する。
【0044】
本発明によるガス中水エマルションの使用は、ガス貯蔵、ガス輸送/分散、燃料的使用、ガス隔離、排ガス捕捉、及び混合物から1つ又はそれより多くのガスの分離(例えば、水素、エタン又はプロパンの上にメタンを優先的に包接する、メタンの上に二酸化炭素を優先的に包接する又は混合ガスから窒素又はハイドロフルオロカーボンを優先的に包接することにより)に展開されうる。
【0045】
ドライウォーターは、外因性ガスを包接化合物ケージに結合させるガス水和物形成の速度が、以前に可能であったよりもより迅速になったことを示す。これにより、特別なガス充填プラント又は従来のプラントで、直接的により費用のかからないガス充填ができる。ドライウォーターの使用により、ガス吸収は、攪拌又は機械的な混合なしで、急速にかつ再生可能な方法で起こるようになる。
【0046】
他の観点から見ると、本発明は、
封止された環境で、周囲温度より低い温度及び高い圧力で、ガス中水エマルションを外因性ガスに晒すこと:
を含む、上に定義されたようなガス水和物を製造する方法を提供する。
【0047】
圧力は1から12MPaまでの範囲であり、好ましくは6から10MPaまでである。
【0048】
温度は293K又はそれより低くであり、好ましくは273K又はそれより低くである。
【0049】
方法は強制攪拌無しで実行しても良い。
【0050】
さらに他の観点から見ると、本発明は、ガスの包接化、及び/又はドライウォーターの形態でのガス水和物からのガスの解離、を含む方法を提供する。
【0051】
さらに他の観点から見ると、本発明は、ガスの包接化、及び/又はガス水和物からのガスの解離を増進するドライウォーターの使用を提供する。
【0052】
さらに他の観点から見ると、本発明は、ドライウォーター及び遊離(isolated)ガスを含む、ガス水和物を形成するのに適する形態の組成物を提供する。
【0053】
さらに他の観点から見ると、本発明は、ドライウォーター及び場合によりガスを含む装置を提供する。当該装置とは、次の装置又はそれに関する構成部品の1つから選ばれる:燃料電池、エネルギー貯蔵装置、ガス貯蔵装置、例えば改造ガスタンク、ガス分離装置、例えばインラインガス分離カートリッジ、ガス隔離装置、例えばインラインガス隔離カートリッジ、ガス輸送装置、例えば、改造ガスタンク、及び乗り物、例えば自動車である。
【0054】
本発明は次の図面を参照して、非制限的な実施例の方法によりさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、ドライウォーターの中に形成するメタンガスハイドレート(MGH)の概略図である(即ち、水がドライウォーターの液滴の形態の、水の包接化合物ホスト内でのメタン包接)。
【図2】図2は、ドライウォーターを作るために使用できる標準的な食品ミキサーと、漏斗から流れ出るのを撮影された、自由流動性のドライウォーターを示す。
【図3】図3は、3バッチのドライウォーターの光学顕微鏡写真を示す。
【図4】図4は、ガス水和物を製造し、試験するために使用される実験装置の概略図である。
【図5】図5は、メタン圧下で冷却及び加熱を伴う実験を制御するための圧力−温度プロットを示す。
【図6】図6は、本発明に基づく実験と比較する実験を制御するための圧力−温度プロットを示す。
【図7】図7は、バルク水と比してドライウォーター中のメタンの包接化の反応速度プロット(容積−時間)を示す。
【図8】図8は、図7で示される同じ実験の、異なるフォーマット(圧力−時間)での反応速度プロットを示す。
【図9】図9は、ドライウォーターの系における多数回再使用に関するプロットを示す。
【図10】図10は、ドライウォーターの系における多数回再使用に関するプロットを示す。
【図11】図11は、ドライウォーターが再使用されるに先立って再混合された実験における圧力−時間プロットを示す。
【実施例】
【0056】
[例1−ドライウォーターの合成]
ドライウォーターの製造の手順の全詳細は他を参照できる(Binks,B.P., Murasaki,R. Nat. Mater.2006,5,865−869)。疎水性シリカナノ粒子(H18)のサンプルは、ワッカーケミー(Wacker−Chemie)により供給された。ドライウォーター粉末を製造するために、脱イオン水(95mL)がミキサー(ブレビル(Breville)、Glass Jug Blender、BL18、1.5L、蓋を取り付けて)に注がれ、H18(5g)がその水に加えられた。3つの異なった速度(速度1:平均16,450rpm;速度2:平均17,500rpm;速度3:平均19,000rpm)で90秒混合が実行された。物質は自由に流動する「乾燥した」白色粉末として製造され、1つの容器から別の容器に注ぐことができた(図2参照)。ドライウォーターの形態は、オリンパスのCX41RFの顕微鏡を使用して観察された。写真はC−5060のデジタルカメラ(オリンパス)で取られた。
【0057】
図1は、小さい疎水性粒子で覆われたドライウォーター液滴の概略図を示す。ドライウォーター液滴は(例えば)メタンを包接化してメタンガスハイドレート(MGH)を形成することができる。
【0058】
[例2−ガス水和物形成のための装置]
ガスの取込速度実験を実行するために、20.0gのドライウォーター(又はガラス玉(19.5cm3)又は混合していない水及びシリカ(19 cm3と0.5 cm3)から成る比較サンプル)が68.0 cm3の高圧ステンレス製セル(New Ways of Analytics、Lorrach、Germany)に詰められた。循環槽中の冷却液の温度は、プログラム可能なサーマルサーキュレーター(HAAKE Phoenix II P2、サーもエレクトロン株式会社)により制御された。高圧セル中の組成物の温度は、K型熱電対(Cole−Parmer、−250℃〜400℃)を使用して測定された。ガス圧は、高精度ゲージ圧伝送器(High−Accuracy Gauge Pressure Transmitter)(Cole−Parmer、0−3000psia)を使用してモニタリングされた。熱電対及び伝送器は、デジタル万能入力パネルメータ(Digital Universal Input Panel Meter)(Cole−Parmer)に接続され、コンピュータと通信する。実験に先立ち、セルは、如何なる空気も取り除くために、大気圧で3回ゆっくりとメタン(超高純度99.999%、BOC Gases、Manchester、UK)がパージされた。その後、所定の温度で望ましい圧力に加圧した。温度(T,K)及び圧力(P,psia)及び時間(t,min)は、MeterView 3.0 software(Cole−Parmer)を使用して自動的にインターバル記録(interval−logged)した。このセットアップを使用して、高いデータ分解能(例えば、個々の[T,P,t]のポイントの間は2秒で、2000分の実験で120,000のデータポイント)を得ることが可能となった。装置は、図4に概略的に示される。ガラス玉を使用する対照実験は、系がリークしなかったことを示した(即ち、圧力降下が2000分の間起こらなかった)。
【0059】
[例3(比較の)−対照実験]
図5は、対照実験を示す:メタン圧下で冷却及び加熱(温度傾斜2.0K/h)のP−Tプロット:(a)及び(b)は19.5cm3ガラス玉;(c)及び(d)は水(19g)及び疎水性シリカナノ粒子H18(1g)の混ぜ合わせていない混合物。ガラス玉の対照実験において、系は理想気体の挙動に近似し、リークは検出されなかった。挙動は、水/シリカの混合しない対照と似通っていたが、小さい圧力変化(0.1MPaより小さい)が観察された。これは、気体―液体界面における非常に小さい程度のMGH形成によるものであった可能性が最も高い。
【0060】
[例4−ドライウォーターサンプル]
図2は、従来のミキサー中での疎水性シリカ(H18)、水及び空気の素早い混合により形成されたドライウォーターの代表的な例を示す。自由流動性のドライウォーターの粉末は、5gの疎水性シリカナノ粒子H18及び95gの水を19,000rmpで90秒間曝気することにより製造された。粉末は、漏斗から流れ出るのを撮影された。
【0061】
粒子サイズは、混合が実行されるスピードを変えることにより変更することができる。図3は、異なる速度(左から右に(下から上に):16450、17500及び19000rpm)で製造された3つの異なったバッチのドライウォーターを示す光学顕微鏡写真である。図3のスケールバーは、全ての場合において50μmである。
【0062】
[例5−ドライウォータ中のメタンの貯蔵]
図6は、混合及び非混合のメタン−ドライウォーター系の冷却/加熱曲線を示す。この図において、冷却及び加熱(温度傾斜2.0K/h)の間のメタン及びドライウォーターのP−Tプロットを示す:(A)水(19g)及び疎水性シリカナノ粒子H18(1g)の混ぜ合わせていない混合物;(B)19,000rpmで90秒混合することにより形成された20gのドライウォーター粉末(95gの水と5gの疎水性ナノ粒子H18から製造されたサンプルの一部)。
【0063】
非混合系(曲線A;バルク水+H18シリカ)において、メタンにおけるP−T関係性は、連続的な冷却/加熱サイクルの間、理想気体の法則で近似した。これらの条件(温度傾斜2.0K/h、図5)で、かなりのMGHが形成する又は解離するという痕跡はなかった。一方、微粒子のドライウォーターが用いられた場合(曲線B)、冷却時に急激な圧力降下及び加熱時に迅速な圧力上昇各々に示されるように、MGHの形成及びそれに続く解離が起こった。
【0064】
メタンの取込は、このドライウォーター系において非常に高い(175v/v)。MGHの形成は279Kに冷却した場合に発熱を伴って生じた。温度上昇の間、MGH解離は、およそ277.5Kで開始し、およそ290.5Kで完了した。ドライウォーター−MGHの形成は、バルク水と比して表面の面積/容積が大きい広く分散した水相(図2)に起因すると考えられる。
【0065】
図7は、273.2K(開始圧力は8.6MPa、図8参照)でのドライウォーター中へのメタンの包接における反応速度のプロットを示す。これらのガス取り出し実験においては、混合は行わなかった。全ての場合において、ドライウォーター粉末は混合し、その後混合能の無い圧力容器に注ぐことにより形成された。
【0066】
シリカとのバルクウォーターの系では、2000分後でさえ非常に小さい圧力降下のみが観察され(図8も参照)、ガス容量はこの時間を通して非常に小さかった(3v/vより小さい)。この非常に遅い反応速度は、ガス−水界面におけるMGH「膜(skin)」の形成によるものであろう。一方、ドライウォーター系では、ずっと速いメタン包接が観察された。175v/vの総容積に達し、この容積の90%に達する時間(t90)は160分であった。
【0067】
図8は、273.2Kでの水−MGH形成に関するP−t反応速度プロットを示す:(a)対照実験、19.5cm3のガラス玉;3分より少ない時間で起こったメタンガス添加時の最初の温度平衡の後も圧力変化は観察されない;(b)対照実験、19.0gの水及び1gのシリカ(H18)、混合無し;非常に小さい圧力変化が観察される;(c)19.0gの水及び1gのシリカ(H18)、16,450rpmで90秒混合することにより形成されたドライウォーター粉末;(d)19.0gの水及び1gのシリカ(H18)、17,500rpmで90秒混合することにより形成されたドライウォーター粉末;(e)19.0gの水及び1gのシリカ(H18)、19,000rpmで90秒混合することにより形成されたドライウォーター粉末。
【0068】
圧力変化から計算されるメタンの取込は、ドライウォーター−MGHが分解し、放出されたメタンの容積を測定することにより得られる値と一致した。
【0069】
次の表は、ドライウォーター−MGH中に包接されたメタンの量を示しており、それらは容積放出実験(Circone,S., Kirby S.H., and Stern L.A. J. Phys. Chem. B 2005,109,9486−9475; Stern L.A., Circone, S., and Kirby S.H. J. Phys. Chem. B 2001,105,1756−1762)により測定された。
【0070】
これらの測定により、P−Tプロット(図8)から計算される容積を確認する。MGHは余剰のメタンを放出するに先立って120Kで安定化された。MGHが263Kで安定化され、続いて、MGHが分解してガス放出するに先立って急速に放出/バルブ閉鎖を行った場合も、非常に似通った放出量(±5%)がまた測定された。
【0071】
【表1】
[容積の計算]
容器の自由空間容積は、メタンガス水和物、未反応の水及びH18の総容積を差し引くことにより得られた。非理想因子を考慮に入れ、圧力と温度により、GASPAK v3.41のソフトウェア(Horizon Technologies,USA)がメタンの包接容積を計算するために使用された。
【0072】
容器内の液相及び気相は、水及びゲストガス各々からのみ形成されると仮定された(ゲストガスの液相への如何なる溶解及び水蒸気のガス相への如何なる混合も無視している)。容器内部の温度は、操作を通じて均一であると仮定された。
【0073】
H18の密度は2.2g/cm3であった。水の密度DH20は1.0g/cm3であった。メタンのガス相中での密度Dg及びSTPにおけるメタンの密度DCH4,STPは、Pg及びTgにより、GASPAK v3.41のソフトウェアから求められた。MCH4及びMH2Oは、各々メタン及び水の分子量であった。サンプルの質量ms0は、20.0gであり、サンプルの初期容積Vs0は19.5cm3であった。ガス相におけるメタンの初期容積はVg0は、48.5cm3であった。
【0074】
水和数nは5.89であり(CH4・nH2O)、メタンガスハイドレートの密度は:
Dh(g/cm3)=0.92645−0.239*10−3T(℃)−3.73*10−7T(℃)2
(n=5.89)(Waite,W.F.,Stern,L.A.,Kirby,S.H., Winters,W.J. and Mason, D.H. Gerphys. J. Int. 2007,169(2),767−774)であった。
【0075】
【数1】
【0076】
【数2】
ドライウォーター−MGH形成速度及びメタン容積の飽和は、水滴のサイズに関わる。混合速度を速くするほど、平均粒子サイズは小さくなる(図1)。最も速い混合速度(19,000rpm)で製造されたドライウォーターは、1500分後の273.2Kにおいて175v(STP)/vの飽和メタン取込を示した(t90、この容積の90%に達する時間、はおよそ160分であった)。このメタン容積は、全てのケージの単一占有状態を仮定するsI又はsII MGHに関する最大容量(STPで〜180v/v)に近い(Sloan, E.D.; Koh, C.A. Clathrate Hydrates of Natural Gases, 3rd Edition;CRC Press: Boca Raton, 2007; Khokar,A.A.; Gudmundsson, J.S.; Sloan, E.D. Fluin Phase Equil. 1998,150−151,383−392; Sun,Z.G.; Wang,R.; Ma, R.; Guo,K.; Fan, S. Energy Cons. Man. 2003,44,2733−2742)。効果的な貯蔵圧力(即ち、飽和取込におけるメタン圧(図8))は、この場合2.73MPaであった。短い誘導時間が、ドライウォーター−MGH形成に先立って観察された(通常5−10分)。
【0077】
本発明は、混合物を激しく攪拌することによりMGH形成速度を増加する試みの従来技術の方法と対比されうる(Sloan, E.D.; Koh, C.A. Clathrate Hydrates of Natural Gases, 3rd Edition; CRC Press: Boca Raton,2007; Koh, C.A. Chem. Soc. Rev.2002,31,157−167; Sloan, E.D. Nature, 2003,426,353−359, 及びその参考文献;Susilo, R. Methane Storage and Transport via Structure H Clathrate Hydrate, Ph.D thesis,2008, The University of British Columbia)。しかしながら、分厚くなるスラリーを攪拌するために必要とされるエネルギーは重要である。同様に、粉砕され/篩いにかけられた氷粒子が使用されうるが、これは全く労力を要し、材料は溶解すること無しに扱われなければならない。本発明による系では、ガス−水界面面積は、包接に先立ち周辺温度で分散した水相を形成することにより増加する。重量の「不利」は低い、なぜならたった5重量%のみのシリカが水に対して添加されるからである。
【0078】
[例6−ドライウォーターを再使用する系]
ドライウォーターの系は、MGH解離の後再使用することができる(図9〜10)。ドライウォーターを再混合する結果、原初の包接速度が再生される(図11)。一方、粉砕した氷粒子を使用する平均反応速度は、もし水が溶解されるなら1サイクルの後完全に失われる。
【0079】
図9は、メタン圧下で3度の冷却/加熱サイクル(温度傾斜:2.0K/h)にわたる、ドライウォーター−MGH系(19.0gの水及び1gのH18、19,000rpm、90秒で形成された)の部分的なリサイクル可能性を説明するP−Tプロットを示す。
【0080】
図10は、メタン圧下で3度の冷却/加熱サイクルにわたる、ドライウォーター−MGH系(19.0gの水及び1gのH18、19,000rpm、90秒で形成された)の部分的なリサイクル可能性を説明するP−tプロットを示す。
【0081】
図11は、不安定化したドライウォーターサンプルを90秒再混合した後に、急速にメタン取込速度が回復することを説明するP−t反応速度プロットを示す。
【0082】
これらのドライウォーター−MGHsに関するメタン貯蔵能はアメリカ合衆国エネルギー省の目標値に非常に近く(Buchell, T.; Rogers, M. SAE Tech. Pap. Ser. 2000,2000−01−2205)、金属有機構造体(MOFs)(Eddaoudi, Kim, J.; Rosi, N.; Vodak, D.; Wachter, J.; O’Keeffe, M.; Yaghi, O.M. Science 2002,295,469−472参照)、活性炭(Lozano−Castello, D.; Cazorla−Amoros, D.; Linares−Solano, A. Energy Fuels 2002,16,1321−1328参照)及びミクロ多孔質有機重合体(Wood, C.D.; Tan, B.; Trewin, A.; Su, F.; Rosseinsky, M.J.; Bradshaw, D.; Sun, Y.; Zhou, L.; Cooper, A.I. Adv. Mater. 2008,20,1916−1921参照)のような高い表面積を有する物理的吸着性の材料と好ましく比較する。MGHsは原理的に、わずかに冷却することで大気圧でも長期間安定である(Stern L.A., Circone, S., Kirby S.H. J. Phys. Chem. B 2001, 105,1756−1762)。このことは、物理吸着性の材料では達成が非常に困難である。
【0083】
[例7−ドライウォーター内への二酸化炭素の貯蔵]
二酸化炭素−ドライウォーター系を製造する手順は、例5でのメタン−ドライウォーター系にて述べられた手順と同様であるが、開始圧力は3.3MPaである。開始圧力は、二酸化炭素をガス形態に維持するためにメタンよりも低い。90%容量に達するために必要とされる時間(t90)は200分であった。150v/vの取込が達成された。
【0084】
[例8−ドライウォーター中のクリプトンの貯蔵]
実験は、ドライウォーター内へのクリプトンの包接が可能であることを示した。
【0085】
[結論]
ドライウォーターガス水和物は、静的で非混合の系において実用的なタイムスケールで再生利用可能なガス貯蔵のための実行可能なプラットフォームを表している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中水エマルション(water−in−gas emulsion)(例えば、ドライウォーター(DW))及び例えばメタン、天然ガス、水素又は二酸化炭素のような包接される外因性ガスを含むガス水和物(しばしば包接化合物として参照される)に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス、メタン及び他のガスは、例えば、乗物システムにとって重要なエネルギー源である。そのようなガスの費用効率が高い用途及び使用は、効果的、経済的及び使い勝手の良い貯蔵手段、輸送手段及び放出手段にかなりの程度依存する。廃棄流(waste streams)からのいくつかのガス(例えば二酸化炭素)の効率的な捕捉もまた重要である。
【0003】
主にメタンである天然ガスの安全で経済的な貯蔵及び輸送は、重要な社会的課題である。米国エネルギー省は、180v/v(STP)のメタンの目標貯蔵容量を設定した。水素の使用に基づく技術(例えば、燃料電池に)は、将来価値が増加していきそうである。費用効率が高い水素を基にした用途は、水素を貯蔵する効率的な手段を必要とする。室温及び室内圧力において、水素及びメタンは、それらの大容積及び反応性から、取り扱いが困難なガスである。液化には高価で複雑な装置を必要とし、かつ、低温液状物質は取り扱いが困難で危険である。自然の状態の(in situ)化合物から水素やメタンを製造する従来の方法は、多くの産業的使用には一般的に要求を満たさない。
【0004】
ガス水和物は、「ゲスト」のガスが閉じ込められている水ケージの「ホスト」の集合体を含む。ガス水和物は、水素貯蔵のための安全で環境に優しい手段を提供する可能性を有する(例えば、Struzhkin,V.V.; Militzer,B.; Mao,W.L.; Mao,H.K.; Hemley,R. J. Chem. Rev.2007,107,4133参照)。しかしながら、水素のガス水和物中への取込は、長期にわたる工程であり、しばしば数日から数週間かかる(例えば、Strobel,T.A.; Taylor,C.J.; Hester,K.C.; Dec,S.F.; Koh,C.A.; Miller,K.T.; Sloan,E.D. J. Phys. Chem. B 2006,110,17121参照)。さらに、H2−H2O包接化合物構造を「凝固する」ための時間スケールは、予測できない。優れた再充填能と合わせて水素包接の反応速度(kinetics)の増大は、水素貯蔵のための工業的に実現可能な材料としてガス水和物が発展するための主な課題である。
【0005】
メタンガスハイドレート(MGHs)の使用が、最近注目されてきている(Sloan,E.D.;Koh,C.A. Clathrate Hydrates of Natural Gases, 3rd Edition; CRC Press:Boca Raton,2007参照)。しかしながら、包接化合物形成に関連する非常に遅い形成速度が、実用的なガス貯蔵のためのメタンガスハイドレートの使用に対する主な障害となっている。
【0006】
天然ガスハイドレート(NGH)は、ガス貯蔵及び輸送の可能性も有する重要な自然エネルギー源である。例えば、従来のメタンガスハイドレート(MGH)の一容積(one volume)は、おおよそ180v/vの標準温度と圧力のメタンを産出することができる(Sloan,E.D. Nature,2003,426,353−359参照)。液化天然ガスは、ずっと高いエネルギー密度を有するが、非常に低い温度(113K)で貯蔵されなければならない。天然ガスを水和物の形で輸送することが経済的に実現可能であるということが、提案されてきている(Sloan,E.D. Nature,2003,426,353−359)。非常に遅い包接化合物形成及び水和物塊(mass)中に捕捉された未反応の間隙水の存在といった、数多くの実質的な課題がある。天然ガスハイドレートは、通常、天然ガス及び水の混合物を加圧下で冷却すること又は天然ガスと前もって作成された氷とを反応させることにより合成される。
【0007】
原理上は、幅広いガスは包接化合物の中に貯蔵されうる。そのホスト及びゲストは、安定な包接化合物構造を形成するために、場合によりさらなる安定剤の存在下において、十分に融和性(compatible)(例えば、ゲストのサイズの観点において)でなければならない。従来の包接化合物は、とりわけ水素、酸素、窒素、メタン、二酸化炭素、硫化水素、アルゴン、クリプトン、キセノン、ヘリウム及びネオン(例えば、WO−A−2006/131738及びLokshin,K.A. et al., Phys. Rev. Lett.2004,93,125503参照)又は混合ガス(たとえば、天然ガス及び空気)を(ゲストとして)含むものを含有する。
【0008】
一般的にガスの貯蔵の改善が望まれている一方、技術的及び環境的局面を対処する特定の必要性がある。ガス貯蔵の重要性は上で述べられている。そして、望まないガスを捕捉するためのガスの改善解決策が必要とされている。気候変化(特に、地球温暖化)は、(例えば)二酸化炭素の隔離(sequestration)のより良い手段の探求を促す。しかしながら、包接化合物構造の形成は予測できず、産業上の利用可能性に対する重大な障害を意味する。
【0009】
包接化合物のガス貯蔵手段としての実現可能性の時期を示すことは、乏しい反応速度及び実施上の考慮事項により厳しく制限される。包接化合物形成の反応速度を増大する一般的な方法(例えば、高圧、激しい機械的混合、界面活性剤又はミクロンサイズに粉砕され/篩いにかけられた氷粒子)は、実験室レベルでは達成されるが、費用効率的でなく、現実のガス貯蔵用途には実用的でない。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、前もって作られたドライウォーター粉末が、ガス水和物を形成することにより、望ましい速さ及びレベルで外因性のガスの取込を示すという、認識に基づいている。
【0011】
従って、第一の観点から見ると、本発明は、
疎水性粒子のネットワークにより安定化された水滴又は水粒子のガス中水エマルション;及び
前記ガス中水エマルション中に包接された外因性ガス:
を含むガス水和物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のガス水和物は、有利な外因性ガスの包接速度及びリサイクル可能性を示す。外因性ガスは、外因性ガスが必要とされるポイント(例えば、燃料電池に)での使いやすさを促進するガス水和物から急速に有利に放出される。
【0013】
理論に縛られることを望むものではないが、疎水性粒子のネットワークによるガス中水エマルションの安定化の結果、小さいドメインが形成されると考えられる。これが水をコンパートメント化して、包接されるガスが、包接形成(又は脱離)過程で、水の中へ(又は水の中から)拡散する移動距離を短くする。疎水性粒子は、水の表面を覆い、包接化合物形成の間、ホストを分けるが、水−ガス界面をカバーしてガスの浸入を十分に防ぐということはない。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲において用いる「液滴のガス中水エマルション」は、しばしばドライウォーターと呼ばれることがある。「液滴のガス中水エマルション」は概して、自由流動性の粉末の形態をとる。疎水性粒子のネットワークが、液滴を効果的にコーティングし、合体を防ぐ。それにより、ガス状媒質内に液滴形態の水を維持するために必要とするエネルギーを、バルク水を形成するために必要とするエネルギーと比較して少なくする。ドライウォーターの製造は、(例えば)Binks,B.P.; Murakami,R. Nat. Materials 2006,5,865−869中に述べられており、従来の装置で直接実行されても良い。例えば、疎水性粒子及び水は、高速で(例えば、家庭用食品ミキサーで)攪拌されることにより、曝気されても良い。産業的な用途では、ロータステイター(rotastater)、ミキサー、フォルダー(folder)又は超音波発生装置が使用できる。
【0015】
通常、外因性のガスは、ガス中水エマルションのケージ化された骨格構造中の空洞の大部分を占める。ガス水和物は包接化合物となりうる。外因性ガスのある部分が、ケージ化された骨格構造の一部を形成しうる。ガス水和物は、半包接化合物となりうる。
【0016】
好ましくは、ガス中水エマルションは、空気中水エマルション(water−in−air emulsion)である。
【0017】
好ましくは、ガス中水エマルションのガスは、外因性ガスと同じである。これにより、外因性ガスの最善の包接又は放出を適切に促進し、その汚染を回避する。
【0018】
好ましくは、ガス中水エマルションは、メタン中水エマルション(water−in−methane emulsion)である。
【0019】
外因性ガスは、メタンであって良い。通常メタン分子は、ガス中水エマルションのマトリックス中に形成された水ケージ内に貯蔵される。
【0020】
好ましくは、ガス中水エマルションは、95重量%又はそれより多くの水を含む。
【0021】
好ましくは、ガス中水エマルションは、5重量%又はそれより少ない疎水性粒子を含む。
【0022】
好ましくは、ガス中水エマルションは非集塊性である。好ましくは、ガス中水エマルションは非凝集性である。
【0023】
疎水性分子は、変性シリカ粒子、ポリマー粒子、疎水性変性無機粒子及びポリマーラテックス粒子から成る群から選ばれうる。
【0024】
疎水性分子は、Zonyl(R)MP1400(デュポン(Dupont))のようなフッ素重合体であっても良い。
【0025】
疎水性分子は、疎水性シリカ粒子(好ましくは、疎水性ヒュームドシリカ粒子)であっても良い。疎水性シリカ粒子は、表面改質されていても良い(例えば、ジメチルシロキシ基、ポリジメチルシロキシ基又はトリメチルシロキシ基などのシロキシ基により表面が改質されている)。疎水性シリカ粒子は、アルキル化されたシリカ又はフッ素化されたシリカであっても良い。
【0026】
疎水化シリカは、ワッカーケミー株式会社(Wacker Chemie AG.)から市販されている。疎水性シリカ粒子は、ワッカーケミー株式会社(Wacker Chemie AG.)からのHDK18、HDK13L、HDK15、HDK20、HDK30、HDK17、HDK2000、HDK20RM及びHDK30RMから成る群の1つ又はそれより多くであっても良い。好ましくは、HDK18である。
【0027】
好ましくは、疎水性シリカ粒子は、シラノールの残存量が66重量%又はそれより少なく、特に好ましくは、50重量%又はそれより少なく、より好ましくは25重量%又はそれより少なくである。
【0028】
外因性ガスの包接は、例えば、外因性ガスを機械的攪拌がない圧力反応容器などの従来の格納容器に加え、高圧及び低温で進行させることにより実行されうる。包接は、例えば従来の装置を使用して時間の関数として容器内の圧力降下を観察することによりモニターしても良い。
【0029】
ガス中水エマルションで包接された外因性ガスは、通常熱することにより放出される。
【0030】
通常、外因性ガスは非周囲(non−ambient)のガス(即ち、空気とは別のガス)である。好ましくは、外因性ガスは、水素、二酸化炭素又は飽和若しくは不飽和炭化水素(例えば、炭素数1〜4の炭化水素)である。外因性ガスは、例えば、メタン、エタン、エテン、プロパン、プロペン又はブタンであっても良い。
【0031】
外因性ガスは、メタン、二酸化炭素、酸素、水素、窒素、硫化水素、アルゴン、クリプトン、キセノン、ヘリウム、ネオン又はそれらの混合物であっても良い。外因性ガスは、空気と混合されても良い。
【0032】
好ましくは、外因性ガスは、メタン、水素、二酸化炭素、炭化水素及び天然ガスの群から選ばれる。
【0033】
好ましくは、外因性ガスは水素である。
【0034】
好ましくは、外因性ガスは二酸化炭素である。
【0035】
好ましくは、外因性ガスはメタンである。
【0036】
好ましくは、外因性ガスはクリプトンである。
【0037】
ガス水和物は、安定剤又は助触媒をさらに含んでも良い。安定剤又は助触媒は、ガス包接化圧力をより低くする役割を果たしうる。安定剤又は助触媒は包接されても良い。また、ケージ化された骨格構造の一部を形成しても良い。
【0038】
好ましくは、初期の液滴の平均サイズは、およそ1mmより小さい。上限は100μm、10μm又は1μmの1つがなりうる。液滴は初期の液滴より大きい凝集塊を形成するかもしれない。凝集塊の粒子径は、(例えば)1mmに至るかもしれない。
【0039】
好ましくは、初期の液滴の平均粒子径は、およそ100μmより小さく、特に好ましくはおよそ20μmより小さい。
【0040】
好ましくは、疎水性粒子の量は、水及び如何なる安定剤の量と比較して、20重量%より少なく、より好ましくは15重量%より少なく、さらに好ましくは10重量%より少なく、またさらに好ましくは5重量%より少なく、最も好ましくは1重量%より少ない。
【0041】
通常、疎水性粒子は500nm、100nm又は50nmの上限サイズを有する。例えば、疎水性粒子のサイズはおよそ10nmから20nmまでであっても良い。
【0042】
好ましくは、疎水性粒子のサイズは500nmより小さくである。
【0043】
他の観点から見ると、本発明は外因性ガスの包接における、ガス中水エマルション(例えばドライウォーター)の使用を提供する。
【0044】
本発明によるガス中水エマルションの使用は、ガス貯蔵、ガス輸送/分散、燃料的使用、ガス隔離、排ガス捕捉、及び混合物から1つ又はそれより多くのガスの分離(例えば、水素、エタン又はプロパンの上にメタンを優先的に包接する、メタンの上に二酸化炭素を優先的に包接する又は混合ガスから窒素又はハイドロフルオロカーボンを優先的に包接することにより)に展開されうる。
【0045】
ドライウォーターは、外因性ガスを包接化合物ケージに結合させるガス水和物形成の速度が、以前に可能であったよりもより迅速になったことを示す。これにより、特別なガス充填プラント又は従来のプラントで、直接的により費用のかからないガス充填ができる。ドライウォーターの使用により、ガス吸収は、攪拌又は機械的な混合なしで、急速にかつ再生可能な方法で起こるようになる。
【0046】
他の観点から見ると、本発明は、
封止された環境で、周囲温度より低い温度及び高い圧力で、ガス中水エマルションを外因性ガスに晒すこと:
を含む、上に定義されたようなガス水和物を製造する方法を提供する。
【0047】
圧力は1から12MPaまでの範囲であり、好ましくは6から10MPaまでである。
【0048】
温度は293K又はそれより低くであり、好ましくは273K又はそれより低くである。
【0049】
方法は強制攪拌無しで実行しても良い。
【0050】
さらに他の観点から見ると、本発明は、ガスの包接化、及び/又はドライウォーターの形態でのガス水和物からのガスの解離、を含む方法を提供する。
【0051】
さらに他の観点から見ると、本発明は、ガスの包接化、及び/又はガス水和物からのガスの解離を増進するドライウォーターの使用を提供する。
【0052】
さらに他の観点から見ると、本発明は、ドライウォーター及び遊離(isolated)ガスを含む、ガス水和物を形成するのに適する形態の組成物を提供する。
【0053】
さらに他の観点から見ると、本発明は、ドライウォーター及び場合によりガスを含む装置を提供する。当該装置とは、次の装置又はそれに関する構成部品の1つから選ばれる:燃料電池、エネルギー貯蔵装置、ガス貯蔵装置、例えば改造ガスタンク、ガス分離装置、例えばインラインガス分離カートリッジ、ガス隔離装置、例えばインラインガス隔離カートリッジ、ガス輸送装置、例えば、改造ガスタンク、及び乗り物、例えば自動車である。
【0054】
本発明は次の図面を参照して、非制限的な実施例の方法によりさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、ドライウォーターの中に形成するメタンガスハイドレート(MGH)の概略図である(即ち、水がドライウォーターの液滴の形態の、水の包接化合物ホスト内でのメタン包接)。
【図2】図2は、ドライウォーターを作るために使用できる標準的な食品ミキサーと、漏斗から流れ出るのを撮影された、自由流動性のドライウォーターを示す。
【図3】図3は、3バッチのドライウォーターの光学顕微鏡写真を示す。
【図4】図4は、ガス水和物を製造し、試験するために使用される実験装置の概略図である。
【図5】図5は、メタン圧下で冷却及び加熱を伴う実験を制御するための圧力−温度プロットを示す。
【図6】図6は、本発明に基づく実験と比較する実験を制御するための圧力−温度プロットを示す。
【図7】図7は、バルク水と比してドライウォーター中のメタンの包接化の反応速度プロット(容積−時間)を示す。
【図8】図8は、図7で示される同じ実験の、異なるフォーマット(圧力−時間)での反応速度プロットを示す。
【図9】図9は、ドライウォーターの系における多数回再使用に関するプロットを示す。
【図10】図10は、ドライウォーターの系における多数回再使用に関するプロットを示す。
【図11】図11は、ドライウォーターが再使用されるに先立って再混合された実験における圧力−時間プロットを示す。
【実施例】
【0056】
[例1−ドライウォーターの合成]
ドライウォーターの製造の手順の全詳細は他を参照できる(Binks,B.P., Murasaki,R. Nat. Mater.2006,5,865−869)。疎水性シリカナノ粒子(H18)のサンプルは、ワッカーケミー(Wacker−Chemie)により供給された。ドライウォーター粉末を製造するために、脱イオン水(95mL)がミキサー(ブレビル(Breville)、Glass Jug Blender、BL18、1.5L、蓋を取り付けて)に注がれ、H18(5g)がその水に加えられた。3つの異なった速度(速度1:平均16,450rpm;速度2:平均17,500rpm;速度3:平均19,000rpm)で90秒混合が実行された。物質は自由に流動する「乾燥した」白色粉末として製造され、1つの容器から別の容器に注ぐことができた(図2参照)。ドライウォーターの形態は、オリンパスのCX41RFの顕微鏡を使用して観察された。写真はC−5060のデジタルカメラ(オリンパス)で取られた。
【0057】
図1は、小さい疎水性粒子で覆われたドライウォーター液滴の概略図を示す。ドライウォーター液滴は(例えば)メタンを包接化してメタンガスハイドレート(MGH)を形成することができる。
【0058】
[例2−ガス水和物形成のための装置]
ガスの取込速度実験を実行するために、20.0gのドライウォーター(又はガラス玉(19.5cm3)又は混合していない水及びシリカ(19 cm3と0.5 cm3)から成る比較サンプル)が68.0 cm3の高圧ステンレス製セル(New Ways of Analytics、Lorrach、Germany)に詰められた。循環槽中の冷却液の温度は、プログラム可能なサーマルサーキュレーター(HAAKE Phoenix II P2、サーもエレクトロン株式会社)により制御された。高圧セル中の組成物の温度は、K型熱電対(Cole−Parmer、−250℃〜400℃)を使用して測定された。ガス圧は、高精度ゲージ圧伝送器(High−Accuracy Gauge Pressure Transmitter)(Cole−Parmer、0−3000psia)を使用してモニタリングされた。熱電対及び伝送器は、デジタル万能入力パネルメータ(Digital Universal Input Panel Meter)(Cole−Parmer)に接続され、コンピュータと通信する。実験に先立ち、セルは、如何なる空気も取り除くために、大気圧で3回ゆっくりとメタン(超高純度99.999%、BOC Gases、Manchester、UK)がパージされた。その後、所定の温度で望ましい圧力に加圧した。温度(T,K)及び圧力(P,psia)及び時間(t,min)は、MeterView 3.0 software(Cole−Parmer)を使用して自動的にインターバル記録(interval−logged)した。このセットアップを使用して、高いデータ分解能(例えば、個々の[T,P,t]のポイントの間は2秒で、2000分の実験で120,000のデータポイント)を得ることが可能となった。装置は、図4に概略的に示される。ガラス玉を使用する対照実験は、系がリークしなかったことを示した(即ち、圧力降下が2000分の間起こらなかった)。
【0059】
[例3(比較の)−対照実験]
図5は、対照実験を示す:メタン圧下で冷却及び加熱(温度傾斜2.0K/h)のP−Tプロット:(a)及び(b)は19.5cm3ガラス玉;(c)及び(d)は水(19g)及び疎水性シリカナノ粒子H18(1g)の混ぜ合わせていない混合物。ガラス玉の対照実験において、系は理想気体の挙動に近似し、リークは検出されなかった。挙動は、水/シリカの混合しない対照と似通っていたが、小さい圧力変化(0.1MPaより小さい)が観察された。これは、気体―液体界面における非常に小さい程度のMGH形成によるものであった可能性が最も高い。
【0060】
[例4−ドライウォーターサンプル]
図2は、従来のミキサー中での疎水性シリカ(H18)、水及び空気の素早い混合により形成されたドライウォーターの代表的な例を示す。自由流動性のドライウォーターの粉末は、5gの疎水性シリカナノ粒子H18及び95gの水を19,000rmpで90秒間曝気することにより製造された。粉末は、漏斗から流れ出るのを撮影された。
【0061】
粒子サイズは、混合が実行されるスピードを変えることにより変更することができる。図3は、異なる速度(左から右に(下から上に):16450、17500及び19000rpm)で製造された3つの異なったバッチのドライウォーターを示す光学顕微鏡写真である。図3のスケールバーは、全ての場合において50μmである。
【0062】
[例5−ドライウォータ中のメタンの貯蔵]
図6は、混合及び非混合のメタン−ドライウォーター系の冷却/加熱曲線を示す。この図において、冷却及び加熱(温度傾斜2.0K/h)の間のメタン及びドライウォーターのP−Tプロットを示す:(A)水(19g)及び疎水性シリカナノ粒子H18(1g)の混ぜ合わせていない混合物;(B)19,000rpmで90秒混合することにより形成された20gのドライウォーター粉末(95gの水と5gの疎水性ナノ粒子H18から製造されたサンプルの一部)。
【0063】
非混合系(曲線A;バルク水+H18シリカ)において、メタンにおけるP−T関係性は、連続的な冷却/加熱サイクルの間、理想気体の法則で近似した。これらの条件(温度傾斜2.0K/h、図5)で、かなりのMGHが形成する又は解離するという痕跡はなかった。一方、微粒子のドライウォーターが用いられた場合(曲線B)、冷却時に急激な圧力降下及び加熱時に迅速な圧力上昇各々に示されるように、MGHの形成及びそれに続く解離が起こった。
【0064】
メタンの取込は、このドライウォーター系において非常に高い(175v/v)。MGHの形成は279Kに冷却した場合に発熱を伴って生じた。温度上昇の間、MGH解離は、およそ277.5Kで開始し、およそ290.5Kで完了した。ドライウォーター−MGHの形成は、バルク水と比して表面の面積/容積が大きい広く分散した水相(図2)に起因すると考えられる。
【0065】
図7は、273.2K(開始圧力は8.6MPa、図8参照)でのドライウォーター中へのメタンの包接における反応速度のプロットを示す。これらのガス取り出し実験においては、混合は行わなかった。全ての場合において、ドライウォーター粉末は混合し、その後混合能の無い圧力容器に注ぐことにより形成された。
【0066】
シリカとのバルクウォーターの系では、2000分後でさえ非常に小さい圧力降下のみが観察され(図8も参照)、ガス容量はこの時間を通して非常に小さかった(3v/vより小さい)。この非常に遅い反応速度は、ガス−水界面におけるMGH「膜(skin)」の形成によるものであろう。一方、ドライウォーター系では、ずっと速いメタン包接が観察された。175v/vの総容積に達し、この容積の90%に達する時間(t90)は160分であった。
【0067】
図8は、273.2Kでの水−MGH形成に関するP−t反応速度プロットを示す:(a)対照実験、19.5cm3のガラス玉;3分より少ない時間で起こったメタンガス添加時の最初の温度平衡の後も圧力変化は観察されない;(b)対照実験、19.0gの水及び1gのシリカ(H18)、混合無し;非常に小さい圧力変化が観察される;(c)19.0gの水及び1gのシリカ(H18)、16,450rpmで90秒混合することにより形成されたドライウォーター粉末;(d)19.0gの水及び1gのシリカ(H18)、17,500rpmで90秒混合することにより形成されたドライウォーター粉末;(e)19.0gの水及び1gのシリカ(H18)、19,000rpmで90秒混合することにより形成されたドライウォーター粉末。
【0068】
圧力変化から計算されるメタンの取込は、ドライウォーター−MGHが分解し、放出されたメタンの容積を測定することにより得られる値と一致した。
【0069】
次の表は、ドライウォーター−MGH中に包接されたメタンの量を示しており、それらは容積放出実験(Circone,S., Kirby S.H., and Stern L.A. J. Phys. Chem. B 2005,109,9486−9475; Stern L.A., Circone, S., and Kirby S.H. J. Phys. Chem. B 2001,105,1756−1762)により測定された。
【0070】
これらの測定により、P−Tプロット(図8)から計算される容積を確認する。MGHは余剰のメタンを放出するに先立って120Kで安定化された。MGHが263Kで安定化され、続いて、MGHが分解してガス放出するに先立って急速に放出/バルブ閉鎖を行った場合も、非常に似通った放出量(±5%)がまた測定された。
【0071】
【表1】
[容積の計算]
容器の自由空間容積は、メタンガス水和物、未反応の水及びH18の総容積を差し引くことにより得られた。非理想因子を考慮に入れ、圧力と温度により、GASPAK v3.41のソフトウェア(Horizon Technologies,USA)がメタンの包接容積を計算するために使用された。
【0072】
容器内の液相及び気相は、水及びゲストガス各々からのみ形成されると仮定された(ゲストガスの液相への如何なる溶解及び水蒸気のガス相への如何なる混合も無視している)。容器内部の温度は、操作を通じて均一であると仮定された。
【0073】
H18の密度は2.2g/cm3であった。水の密度DH20は1.0g/cm3であった。メタンのガス相中での密度Dg及びSTPにおけるメタンの密度DCH4,STPは、Pg及びTgにより、GASPAK v3.41のソフトウェアから求められた。MCH4及びMH2Oは、各々メタン及び水の分子量であった。サンプルの質量ms0は、20.0gであり、サンプルの初期容積Vs0は19.5cm3であった。ガス相におけるメタンの初期容積はVg0は、48.5cm3であった。
【0074】
水和数nは5.89であり(CH4・nH2O)、メタンガスハイドレートの密度は:
Dh(g/cm3)=0.92645−0.239*10−3T(℃)−3.73*10−7T(℃)2
(n=5.89)(Waite,W.F.,Stern,L.A.,Kirby,S.H., Winters,W.J. and Mason, D.H. Gerphys. J. Int. 2007,169(2),767−774)であった。
【0075】
【数1】
【0076】
【数2】
ドライウォーター−MGH形成速度及びメタン容積の飽和は、水滴のサイズに関わる。混合速度を速くするほど、平均粒子サイズは小さくなる(図1)。最も速い混合速度(19,000rpm)で製造されたドライウォーターは、1500分後の273.2Kにおいて175v(STP)/vの飽和メタン取込を示した(t90、この容積の90%に達する時間、はおよそ160分であった)。このメタン容積は、全てのケージの単一占有状態を仮定するsI又はsII MGHに関する最大容量(STPで〜180v/v)に近い(Sloan, E.D.; Koh, C.A. Clathrate Hydrates of Natural Gases, 3rd Edition;CRC Press: Boca Raton, 2007; Khokar,A.A.; Gudmundsson, J.S.; Sloan, E.D. Fluin Phase Equil. 1998,150−151,383−392; Sun,Z.G.; Wang,R.; Ma, R.; Guo,K.; Fan, S. Energy Cons. Man. 2003,44,2733−2742)。効果的な貯蔵圧力(即ち、飽和取込におけるメタン圧(図8))は、この場合2.73MPaであった。短い誘導時間が、ドライウォーター−MGH形成に先立って観察された(通常5−10分)。
【0077】
本発明は、混合物を激しく攪拌することによりMGH形成速度を増加する試みの従来技術の方法と対比されうる(Sloan, E.D.; Koh, C.A. Clathrate Hydrates of Natural Gases, 3rd Edition; CRC Press: Boca Raton,2007; Koh, C.A. Chem. Soc. Rev.2002,31,157−167; Sloan, E.D. Nature, 2003,426,353−359, 及びその参考文献;Susilo, R. Methane Storage and Transport via Structure H Clathrate Hydrate, Ph.D thesis,2008, The University of British Columbia)。しかしながら、分厚くなるスラリーを攪拌するために必要とされるエネルギーは重要である。同様に、粉砕され/篩いにかけられた氷粒子が使用されうるが、これは全く労力を要し、材料は溶解すること無しに扱われなければならない。本発明による系では、ガス−水界面面積は、包接に先立ち周辺温度で分散した水相を形成することにより増加する。重量の「不利」は低い、なぜならたった5重量%のみのシリカが水に対して添加されるからである。
【0078】
[例6−ドライウォーターを再使用する系]
ドライウォーターの系は、MGH解離の後再使用することができる(図9〜10)。ドライウォーターを再混合する結果、原初の包接速度が再生される(図11)。一方、粉砕した氷粒子を使用する平均反応速度は、もし水が溶解されるなら1サイクルの後完全に失われる。
【0079】
図9は、メタン圧下で3度の冷却/加熱サイクル(温度傾斜:2.0K/h)にわたる、ドライウォーター−MGH系(19.0gの水及び1gのH18、19,000rpm、90秒で形成された)の部分的なリサイクル可能性を説明するP−Tプロットを示す。
【0080】
図10は、メタン圧下で3度の冷却/加熱サイクルにわたる、ドライウォーター−MGH系(19.0gの水及び1gのH18、19,000rpm、90秒で形成された)の部分的なリサイクル可能性を説明するP−tプロットを示す。
【0081】
図11は、不安定化したドライウォーターサンプルを90秒再混合した後に、急速にメタン取込速度が回復することを説明するP−t反応速度プロットを示す。
【0082】
これらのドライウォーター−MGHsに関するメタン貯蔵能はアメリカ合衆国エネルギー省の目標値に非常に近く(Buchell, T.; Rogers, M. SAE Tech. Pap. Ser. 2000,2000−01−2205)、金属有機構造体(MOFs)(Eddaoudi, Kim, J.; Rosi, N.; Vodak, D.; Wachter, J.; O’Keeffe, M.; Yaghi, O.M. Science 2002,295,469−472参照)、活性炭(Lozano−Castello, D.; Cazorla−Amoros, D.; Linares−Solano, A. Energy Fuels 2002,16,1321−1328参照)及びミクロ多孔質有機重合体(Wood, C.D.; Tan, B.; Trewin, A.; Su, F.; Rosseinsky, M.J.; Bradshaw, D.; Sun, Y.; Zhou, L.; Cooper, A.I. Adv. Mater. 2008,20,1916−1921参照)のような高い表面積を有する物理的吸着性の材料と好ましく比較する。MGHsは原理的に、わずかに冷却することで大気圧でも長期間安定である(Stern L.A., Circone, S., Kirby S.H. J. Phys. Chem. B 2001, 105,1756−1762)。このことは、物理吸着性の材料では達成が非常に困難である。
【0083】
[例7−ドライウォーター内への二酸化炭素の貯蔵]
二酸化炭素−ドライウォーター系を製造する手順は、例5でのメタン−ドライウォーター系にて述べられた手順と同様であるが、開始圧力は3.3MPaである。開始圧力は、二酸化炭素をガス形態に維持するためにメタンよりも低い。90%容量に達するために必要とされる時間(t90)は200分であった。150v/vの取込が達成された。
【0084】
[例8−ドライウォーター中のクリプトンの貯蔵]
実験は、ドライウォーター内へのクリプトンの包接が可能であることを示した。
【0085】
[結論]
ドライウォーターガス水和物は、静的で非混合の系において実用的なタイムスケールで再生利用可能なガス貯蔵のための実行可能なプラットフォームを表している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性粒子のネットワークにより安定化された、水滴又は水粒子の、ガス中水エマルション
及び前記ガス中水エマルション中に包接された外因性ガス、
を含むガス水和物。
【請求項2】
前記ガス中水エマルションはドライウォーターである、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項3】
前記ガス中水エマルションは空気中水エマルションである、請求項1又は2に記載のガス水和物。
【請求項4】
前記ガス中水エマルションは5重量%又はそれより少ない疎水性粒子を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項5】
前記疎水性粒子は疎水性ヒュームドシリカである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項6】
前記外因性ガスは水素、二酸化炭素又は飽和若しくは不飽和炭化水素である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項7】
前記外因性ガスはメタン、水素、二酸化炭素、炭化水素及び天然ガスから成る群から選ばれる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項8】
前記外因性ガスはメタン、二酸化炭素、酸素、水素、窒素、硫化水素、アルゴン、クリプトン、キセノン、ヘリウム、ネオン又はそれらの混合物である、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項9】
前記外因性ガスはメタンである、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項10】
前記外因性ガスは二酸化炭素である、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項11】
前記外因性ガスは水素である、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項12】
前記水滴の平均粒子径は、およそ100μmより小さい、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項13】
前記疎水性粒子のサイズは500μmより小さい、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項14】
外因性ガスを包接することにおいてガス中水エマルションの使用。
【請求項15】
封止された環境で、周囲温度より低い温度及び高い圧力で、ガス中水エマルションを外因性ガスに晒すこと、
を含む、請求項1乃至13のいずれか一項に記載のガス水和物を製造する方法。
【請求項1】
疎水性粒子のネットワークにより安定化された、水滴又は水粒子の、ガス中水エマルション
及び前記ガス中水エマルション中に包接された外因性ガス、
を含むガス水和物。
【請求項2】
前記ガス中水エマルションはドライウォーターである、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項3】
前記ガス中水エマルションは空気中水エマルションである、請求項1又は2に記載のガス水和物。
【請求項4】
前記ガス中水エマルションは5重量%又はそれより少ない疎水性粒子を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項5】
前記疎水性粒子は疎水性ヒュームドシリカである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項6】
前記外因性ガスは水素、二酸化炭素又は飽和若しくは不飽和炭化水素である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項7】
前記外因性ガスはメタン、水素、二酸化炭素、炭化水素及び天然ガスから成る群から選ばれる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項8】
前記外因性ガスはメタン、二酸化炭素、酸素、水素、窒素、硫化水素、アルゴン、クリプトン、キセノン、ヘリウム、ネオン又はそれらの混合物である、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項9】
前記外因性ガスはメタンである、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項10】
前記外因性ガスは二酸化炭素である、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項11】
前記外因性ガスは水素である、請求項1に記載のガス水和物。
【請求項12】
前記水滴の平均粒子径は、およそ100μmより小さい、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項13】
前記疎水性粒子のサイズは500μmより小さい、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のガス水和物。
【請求項14】
外因性ガスを包接することにおいてガス中水エマルションの使用。
【請求項15】
封止された環境で、周囲温度より低い温度及び高い圧力で、ガス中水エマルションを外因性ガスに晒すこと、
を含む、請求項1乃至13のいずれか一項に記載のガス水和物を製造する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2011−529036(P2011−529036A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519240(P2011−519240)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050797
【国際公開番号】WO2010/010372
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(508346000)ザ ユニバーシティ オブ リバプール (5)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF LIVERPOOL
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050797
【国際公開番号】WO2010/010372
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(508346000)ザ ユニバーシティ オブ リバプール (5)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF LIVERPOOL
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]