説明

ガス透過性試験片、ガス透過性試験片の作成方法、ガス透過性試験片作成装置及びガス透過性評価装置

【課題】フィルム端面から侵入するガスによる影響を低減し、より正確にガス透過性を評価することができるガス透過性試験片、そのガス透過性試験片の作成方法、ガス透過性試験片作成装置及びガスバリア透過性評価装置を提供する。
【解決手段】ガス透過性試験片100は、フィルム21と、フィルム21の一方の面21bの少なくとも一部に形成された腐食性金属層22と、腐食性金属層22と腐食性金属層22が形成されたフィルム21の一方の面21bとを密封する低ガス透過非腐食性材料23とを備えたガス透過性試験片において、フィルム21の端面21aを低ガス透過非腐食性材料23で密封したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の腐食状態を測定することでガス透過性を評価するガス透過性試験片、そのガス透過性試験片の作成方法、ガス透過性試験片作成装置及びガスバリア透過性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムのガスバリア性評価方法としてカルシウム腐食法を代表とする金属腐食法が知られている(例えば特許文献1を参照)。この方法は対象のフィルムを透過した目的のガスが腐食性金属と反応し、腐食した金属の量を測定することで、フィルムのガスバリア性を得る評価方法である。具体的には、図5、図6に示すように、対象のフィルム1、11を透過したガスのみに反応するよう腐食性金属2、12を低ガス透過非腐食性材料3、13でそれぞれ密封した試験片を作成する。その後、これらの試験片を一定ガス濃度、一定温度条件下に暴露し、対象のフィルム1、11の測定面から目的のガスを透過させ腐食性金属2、12をそれぞれ腐食させる。そして、腐食した金属の面積、吸光度、電気特性などに関して、その経時変化を測定することで、対象のフィルム1、11のガス透過性を評価する。
【0003】
ガスバリアの機能を持つフィルムは食料品、精密電子部品及び医薬品の包材として用いられている。これらは、内容物の変質を抑制しそれら内容物の機能や性質を保持するために、包装材料を通過するガスによる影響を防止する必要があり、内容物の機能等に悪影響を及ぼすガスを遮断するガスバリア性を備えることが求められてきた。さらに近年、ガスバリア性を備えるフィルムは太陽電池モジュールの部材である裏面保護シートや、有機EL素子のガスバリア層を代表とした産業資材用途として用いられるようになってきた。
【0004】
フィルムのガス透過性を評価する金属腐食法は、前述したように、フィルムの測定面から透過したガスのみに反応するよう腐食性金属2、12を密封した試験片を作成する必要がある。
しかし、前記フィルム1、11の膜厚が厚い場合は、図5、図6で示すように、フィルム端面から透過したガスが腐食性金属2、12と反応してしまい、ガス透過性を正確に評価することができないという課題を有していた。なお、図5、図6では、フィルムの測定面側から透過したガスの経路は、ガス透過経路4、14としてそれぞれ示されている。また、フィルムの端面側から透過したガスの経路は、ガス透過経路5、15としてそれぞれ示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4470707号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、前記フィルム端面から侵入するガスによる影響を低減し、より正確にガス透過性を評価することができるガス透過性試験片、そのガス透過性試験片の作成方法、ガス透過性試験片作成装置及びガスバリア透過性評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本願発明の一態様は、フィルムと、前記フィルムの一方の面の少なくとも一部に形成された、特定のガスと反応して腐食する腐食性金属層と、前記腐食性金属層と前記腐食性金属層が形成された前記フィルムの一方の面とを密封する、前記ガスと反応しない低ガス透過非腐食性材料とを備えた、前記フィルムに対する透過率を評価するガス透過性試験片において、前記フィルムの端面を前記低ガス透過非腐食性材料で密封したことを特徴とするガス透過性試験片である。
【0008】
上記態様によれば、腐食性金属層と、腐食性金属層が形成されたフィルムの一方の面と、フィルムの端面とは、低ガス透過非腐食性材料で密封されている。このため、ガス透過性試験片を一定ガス濃度、一定温度条件下に暴露した際、フィルム端面からのガスの侵入を防ぐことができる。その結果、ガスは低ガス透過非腐食性材料で覆われていない、フィルムの測定面側のみから透過してくる。従って、上記態様に係るガス透過性試験片であれば、従来技術と比較して、より正確なガス透過性を評価することができる。
【0009】
また、本願発明の別の態様は、開口部を有するカップ形状の、特定のガスと反応しない低ガス透過非腐食性材料と、前記低ガス透過非腐食性材料の内面の少なくとも一部に形成された、前記ガスと反応して腐食する腐食性金属層と、前記開口部を塞いで前記腐食性金属層を密封するフィルムとを備えた、前記フィルムに対する透過率を評価するガス透過性試験片において、前記フィルムの端面を前記低ガス透過非腐食性材料で密封したことを特徴とするガス透過性試験片である。
【0010】
上記態様によれば、腐食性金属層はフィルムで密封され、且つ、フィルム端面は低ガス透過非腐食性材料で密封されている。このため、ガス透過性試験片を一定ガス濃度、一定温度条件下に暴露した際、フィルム端面からのガスの侵入を防ぐことができる。従って、上記態様に係るガス透過性試験片であれば、従来技術と比較して、より正確なガス透過性を評価することができる。
【0011】
ここで前記「カップ形状」とは、低ガス透過非腐食性材料の底面側から開口部側に向かう軸に垂直方向の断面の面積がその底面側から開口部側に向かって一定である空間を囲む形状、または底面側から開口部側に向かうに従って連続的もしくは段階的に増加する空間を囲む形状をいう。
また、本願発明の別の態様は、前記腐食性金属層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはその何れかの合金のうち何れか一つを含むこととしても良い。
【0012】
上記態様によれば、腐食性金属層としてアルカリ金属、アルカリ土類金属またはその何れかの合金のうち何れか一つを含んでいるので、腐食性金属層は水蒸気によって腐食される。このため、上記態様に係るガス透過性試験片であれば、従来技術と比較して、容易に水蒸気透過度を求めることができる。
また、本願発明の別の態様は、前記アルカリ土類金属は、カルシウム、マグネシウムまたはその何れかの合金のうち何れか一つを含むこととしても良い。
【0013】
上記態様によれば、アルカリ土類金属としてカルシウム、マグネシウム、またはその何れかの合金のうち何れか一つを含んでいるので、腐食性金属層は水蒸気によって腐食される。また腐食性金属層を安価に製造することもできる。このため、上記態様に係るガス透過性試験片であれば、従来技術と比較して、安価かつ容易に水蒸気透過度を求めることができる。
【0014】
また、本願発明の別の態様は、上記態様のガス透過性試験片の作成方法において、前記フィルムの端面を密封する前記低ガス透過非腐食性材料を、化学気相成長(CVD)、プラズマ化学気相成長(PECVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成
長(SACVD)、UV支援化学気相成長、フィラメント支援化学気相成長(FACVD)、大気圧化学気相成長(APCVD)、原子層堆積(ALD)、及びプラズマ原子層堆積(PEALD)からなる群より選ばれる方法により形成する工程を含むことを特徴とするガス透過性試験片の作成方法である。
【0015】
上記態様によれば、上記方法は段差被覆性に優れた方法であるため、低ガス透過非腐食性材料を用いてフィルム端面を覆うことができる。このため、上記態様に係るガス透過性試験片の作成方法であれば、フィルム端面が低ガス透過非腐食性材料で密封されたガス透過性試験片を作成することができる。
また、本願発明の別の態様は、上記態様のガス透過性試験片を作成するガス透過性試験片作成装置において、前記フィルムが保管された容器と、前記容器内に配置された、前記フィルムの一方の面側に前記腐食性金属層を形成する装置と、前記容器内に配置された、前記フィルムの端面を密封するように前記低ガス透過非腐食性材料を形成する装置とを備えることを特徴とするガス透過性試験片作成装置である。
【0016】
上記態様によれば、低ガス透過非腐食性材料を用いてフィルム端面を密封することができる。このため、上記態様に係るガス透過性試験片作成装置であれば、より正確にガス透過性を評価することができるガス透過性試験片を作成することができる。
なお、ここで「フィルムの一方の面側に前記腐食性金属層を形成する」とは、フィルムの一方の面に接して腐食性金属層を形成しても良いし、フィルムの一方の面と腐食性金属層との間に間隙を形成しても良い。
【0017】
また、本願発明の別の態様は、上記態様のガス透過性試験片作成装置と、前記ガス透過性試験片作成装置により作成された前記ガス透過性試験片を、前記ガス透過性試験片作成装置に備わる前記容器内に保管した状態で、一定のガス濃度及び一定の温度の環境下に暴露する装置と、暴露した状態で前記腐食性金属層の腐食が進行する程度を測定する測定装置とを備えることを特徴とするガス透過性評価装置である。
【0018】
上記態様によれば、ガス透過性試験片作成装置により作成されたガス透過性試験片をそのまま一定のガス濃度及び一定の温度の環境下に暴露することができる装置を用いることで、腐食が進行する程度を経時的に測定してガス透過性を評価することができる。このため、上記態様に係るガス透過性評価装置であれば、ガス透過性試験片が当該環境外に曝されることによる環境変化のガス透過性への影響を抑えることができ、より正確な評価を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるガス透過性試験片を用いることで、ガスがフィルム端面から透過することを防ぎ、より正確なガス透過性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係るガス透過性試験片の断面図である。
【図2】第2実施形態に係るガス透過性試験片の断面図である。
【図3】第1、第2実施形態に係るガス透過性試験片の作成装置の断面図である。
【図4】第1、第2実施形態に係るガス透過性試験片の作成装置の断面図である。
【図5】既存の金属腐食法に用いられるガス透過性試験片の断面図である。
【図6】既存の金属腐食法に用いられるガス透過性試験片の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態によって限定されるものではなく、フィルムの種類、用途に応じて適宜選択される。
<第1実施形態>
(ガス透過性試験片)
図1は、本発明の第1実施形態に係るガス透過性試験片100の断面図である。図1に示すように、ガス透過性試験片100は、フィルム21と腐食性金属層22と低ガス透過非腐食性材料23とを含んで構成されている。
測定対象であるフィルム21の一方の面21bの少なくとも一部には、平面状の腐食性金属層22が前記面21bに接して設けられている。そして、低ガス透過非腐食性材料23は、腐食性金属層22とフィルム21の一方の面21bのうち腐食性金属層22が設けられていない部分とを覆うようにして設けられている。さらに、フィルムの端面21aは、図1に示すように、低ガス透過非腐食性材料23で覆われている。
【0022】
言い換えると、図1に示すガス透過性試験片100は、フィルム21の一方の面21bに、特定のガスと反応して腐食する腐食性金属層22を形成したものである。さらに、腐食性金属層22と、腐食性金属層22と接する面21bとは反対側の面(つまり、測定面)21cを除くフィルム21とを覆うように、特定のガスと反応しない低ガス透過非腐食性材料23を形成することによって、腐食性金属22をフィルム21と低ガス透過非腐食性材料23とで密封したものである。
【0023】
以上のように、上記実施形態によれば、腐食性金属層22と腐食性金属層22が形成されたフィルム21の一方の面21bとフィルム22の端面21aとを低ガス透過非腐食性材料23で密封することができる。このため、ガス透過性試験片100を一定ガス濃度、一定温度条件下に暴露した場合であってもフィルム21の端面21aからのガスの侵入を防ぐことができる。その結果、ガスは低ガス透過非腐食性材料23で覆われていない、フィルム21の測定面21c側のみから透過してくる。よって、腐食性金属層22は、経路24で示すように、フィルム21を透過したガスとのみ反応することができる。従って、上記実施形態に係るガス透過性試験片100であれば、従来技術と比較して、より正確なガス透過性を評価することができる。
【0024】
なお、腐食性金属層22は、特定のガスと反応して腐食する金属層であれば良く、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはその何れかの合金のうち何れか一つを含むものである。アルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはその何れかの合金は、反応性に富み、水蒸気によって容易に腐食されるので、水蒸気のガス透過性を示す水蒸気透過度を求めるためには適している組み合わせである。
【0025】
さらに、アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウムまたはその何れかの合金のうち何れか一つを含むものであれば良い。カルシウム、マグネシウムあるいはその何れかの合金は、水蒸気によって容易に腐食される上に、安価であり、かつ蒸着により薄膜を形成しやすいため、水蒸気透過度を求めるために、より一層適している組み合わせである。
【0026】
また、低ガス透過非腐食性材料23は、上記特定のガスと反応しない材料であれば良く、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、ガラス等である。低ガス透過非腐食性材料23は、できるだけガス透過性が低い材質であることが望ましいが、これらに限定するものではない。
また、上記実施形態では、腐食性金属層22はフィルム21の一方の面21bの一部に形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、腐食性金属層22はフィルム21の一方の面21bの全面に形成されていても良い。
【0027】
(ガス透過性試験片の作成装置)
図3は、図1で示したガス透過性試験片100の作成装置300の断面図である。本装
置300は、測定対象となるフィルム21をセットすることができる台座51と、交換装置を備えたマスク52(以下、単に「マスク52」ともいう。)と、腐食性金属層22を成膜する装置53(以下、単に「成膜装置53」ともいう。)と、低ガス透過非腐食性材料23を成膜する装置54(以下、単に「成膜装置54」ともいう。)と、温度湿度調節装置56と、腐食度測定装置57とを内部に備えたチャンバー58と、チャンバー58内部を操作することができるグローブボックス55とを含んで構成されている。
【0028】
なお、成膜装置53は、台座51にセットされたフィルム21の一方の面21b側に腐食性金属層22を形成できるように配置されている。
また、成膜装置54は、フィルム21の端面21aを低ガス透過非腐食性材料23で密封できるように配置されている。
また、マスク52は、台座51と成膜装置53あるいは成膜装置54との間に配置され、且つ、台座51にセットされたフィルム21と対向配置されている。
【0029】
また、温度湿度調節装置56は、チャンバー58内部の温度湿度環境を調節できるように配置されている。
また、腐食度測定装置57は、例えば、腐食性金属層22の腐食度を測定面側から測定できるように配置されている。
言い換えると、ガス透過性試験片100の作成装置300は、ガス透過性試験片100を作成する装置(つまり、台座51と、マスク52と、成膜装置53と、成膜装置54と、グローブボックス55とを含んで構成される装置)と、ガス透過性試験片100を目的の温度湿度環境下に暴露する装置(つまり、温度湿度調節装置56)と、ガス透過性試験片100が備えるフィルムを透過したガスにより腐食した腐食性金属層22の腐食度を測定する装置(つまり、腐食度測定装置57)を兼ね備えた装置である。このように、本実施形態に係る作成装置300は、一つの装置でガス透過性試験片100の作成からガス透過性の測定までを行うことができる装置である。
【0030】
なお、本願の「容器」とはチャンバー58のことであり、「腐食性金属層を形成する装置」とは成膜装置53のことであり、「低ガス透過非腐食性材料を形成する装置」とは成膜装置54のことである。
また、本願の「一定のガス濃度及び一定の温度の環境下に暴露する装置」とは温度湿度調節装置56のことであり、「暴露した状態で前記腐食性金属層の腐食が進行する程度を測定する測定装置」とは腐食度測定装置57のことである。
【0031】
以上のように、上記実施形態によれば、低ガス透過非腐食性材料23でフィルム端面21aを密封することができるので、より正確にガス透過性を評価することができるガス透過性試験片100を作成することができる。
また、上記実施形態によれば、温度湿度調節装置56を用いることで、腐食が進行する程度を経時的に測定してガス透過性を評価することができる。さらに、ガス透過性試験片100が当該環境外に曝されることによる環境変化のガス透過性への影響を抑えることができるので、より正確な評価を行うことができる。
また、腐食度測定装置57の例として、腐食性金属層22の腐食部面積を得るカメラ、腐食性金属層22の吸光度を得る吸光光度計、腐食性金属層22の電気特性測定装置が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
また、腐食が進行する程度を示す腐食度を求めるためには、腐食面の面積あるいは、吸光度、電気抵抗を測定する手法が存在するが、これらに限定されるものではない。
また、本実施形態では、ガス透過性試験片100の作成からガス透過性の測定までを行うことができる作成装置300について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ガス透過性試験片100の作成装置としては、図4に示す作成装置400であっても良い。作成装置400は、上述した作成装置300から温度湿度調節装置56と腐食度測定装置57とを取り除いた装置である。具体的には、測定対象となるフィルム21をセットすることができる台座41と、交換装置を備えたマスク42と、腐食性金属層22を成膜する装置43と、低ガス透過非腐食性材料23を成膜する装置44とを内部に備えたチャンバー48と、チャンバー48内部を操作することができるグローブボックス45とを含んで構成された作成装置である。
【0033】
また、台座41、マスク42、腐食性金属層22を成膜する装置43、低ガス透過非腐食性材料23を成膜する装置44及びグローブボックス45は、作成装置300で説明した台座51、マスク52、腐食性金属層22を成膜する装置53、低ガス透過非腐食性材料23を成膜する装置54及びグローブボックス55と概ね同じ位置にそれぞれ配置されている。
以上のように、作成装置400を用いた場合であっても、作成装置300の場合と同様に、ガス透過性試験片100を作成することができる。
【0034】
(ガス透過性試験片の作成方法)
以下、図3で示した作成装置300を用いたガス透過性試験片100の作成方法について説明する。
まず、台座51に図1で示したフィルム21をセットし、交換装置を備えたマスク52を用いてフィルム21の一方の面21bの少なくとも一部を開口するようにマスクをセットする。
その後、腐食性金属層22を成膜する装置53を用いて、マスク52が開口している部分のフィルム21の一方の面21bにのみ腐食性金属層22を成膜する。
【0035】
成膜後、マスク52に備わる交換装置を用いて、フィルム21よりも広く開口しているマスク52に変更する。
その後、低ガス透過非腐食性材料23を成膜する装置54を用いて、腐食性金属層22が形成されたフィルム21の一方の面21b及び端面21aを覆うように低ガス透過非腐食性材料23を成膜する。この低ガス透過非腐食性材料23を成膜する際、例えば化学気相成長(CVD)、プラズマ化学気相成長(PECVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成長(SACVD)、UV支援化学気相成長、フィラメント支援化学気相成長(FACVD)、大気圧化学気相成長(APCVD)、原子層堆積(ALD)、及びプラズマ原子層堆積(PEALD)からなる群より選ばれる方法を用いることができる。上記方法は段差被覆性に優れた方法であるため、低ガス透過非腐食性材料を用いて容易にフィルム端面21aを覆うことができる。
以上のように、上記実施形態によれば、図1に示したガス透過性試験片100を作成することができる。
【0036】
(腐食度の測定方法)
ガス透過性試験片100の作成後、図3に示した温度湿度調節装置56を用いてチャンバー58内部を目的とする温度、湿度環境に保ち、当該環境下にガス透過性試験片100を暴露する。一定時間暴露後、腐食度測定装置57を用いて、腐食性金属層22の腐食度を求める。
【0037】
腐食性金属層22の腐食度を求めるためには、腐食面の面積あるいは、吸光度、電気抵抗とその経時変化を比較する方法等、様々な手法を用いることができる。本発明の評価解析では、一例として、腐食性金属層22を画像処理することにより腐食面積を求める。この際、特許文献1に従うと、フィルムのガス透過度Tは、(式1)で示される。
T=m×(M[Gas]/M[Metal])×(δhαρ/A)×1/t (式1)
上式において、mは腐食性金属の価数、M[Gas]は透過ガスの分子量、M[Me
tal]は腐食性金属の分子量、δは腐食性金属の腐食部分の面積、hは腐食性金属の厚み、αは厚み補正係数、ρは腐食性金属の腐食後の密度、Aは腐食性金属の腐食部分と非腐食部分の面積の合計、tは暴露時間を示す。
上記の腐食面積から算出したガス透過度測定をガス透過性試験片100に対して経時的に行い、平均を取る事で、より正確なガス透過度を求めることもできる。ただし、本発明は上記方法に限定されるものではない。
【0038】
<第2実施形態>
(ガス透過性試験片)
図2は、本発明の第2実施形態に係るガス透過性試験片200の断面図である。図2に示すように、腐食性金属層32は開口部を有するカップ形状をした低ガス透過非腐食性材料33の内面の少なくとも一部に形成されている。そして、腐食性金属層32は、フィルム31で低ガス透過非腐食性材料33の開口部を塞ぐようにして密封されている。つまり、低ガス透過非腐食性材料33は、測定対象であるフィルム31との間に空間を作るように腐食性金属層32に配置されている。さらに、フィルムの端面31aは、図2に示すように、低ガス透過非腐食性材料33で覆われている。このため、腐食性金属層32は、経路34で示すように、フィルム31を透過したガスとのみ反応することができる。
【0039】
言い換えると、図2に示すガス透過性試験片200は、特定のガスと反応しない低ガス透過非腐食性材料33によって構成され開口を有するカップの内面の少なくとも一部に、ガスと反応して腐食する腐食性金属32を形成し、開口をフィルム31端面とカップが接するように塞ぐことによって腐食性金属32をカップの内部に密封したものである。
【0040】
以上のように、上記実施形態によれば、低ガス透過非腐食性材料33の開口部をフィルム31で塞いで腐食性金属層32を密封するとともに、フィルム31の端面31aを低ガス透過非腐食性材料33で密封することができる。このため、ガス透過性試験片200を一定ガス濃度、一定温度条件下に暴露した際であってもフィルム31の端面31aからのガスの侵入を防ぐことができる。よって、腐食性金属層32は、経路34で示すように、フィルム31を透過したガスとのみ反応することができる。従って、上記実施形態に係るガス透過性試験片200であれば、従来技術と比較して、より正確なガス透過性を評価することができる。
【0041】
なお、フィルム31、腐食性金属層32、低ガス透過非腐食性材料33には、第1実施形態で説明したフィルム21、腐食性金属層22、低ガス透過非腐食性材料23と同じ材料をそれぞれ用いることができる。
また、本実施形態では低ガス透過非腐食性材料33の形状について、「カップ形状」または「カップ」と表記しているが、低ガス透過非腐食性材料33を構成する底面の幅と底面を囲う縁の高さとの比は特に限定されるものではない。このため、縁の低い、いわゆる「皿状」をなすものであっても上記の「カップ形状」に含まれるものである。
【0042】
また、上記実施形態では、腐食性金属層32が低ガス透過非腐食性材料33の内面の一部に形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、腐食性金属層32は低ガス透過非腐食性材料33の内面全部を覆うように形成されていても良い。
【0043】
(ガス透過性試験片の作成装置)
ガス透過性試験片200の作成装置は、第1実施形態で説明した作成装置300、400と実質的に同一である。よって、ここではその説明を省略する。
(ガス透過性試験片の作成方法)
以下、図3に示された作成装置300を用いたガス透過性試験片200の作成方法につ
いて説明する。
まず、カップ形状をした低ガス透過非腐食性材料33の開口部が腐食性金属層32を成膜する装置53(以下、単に「成膜装置53」ともいう。)と対向するようにして、低ガス透過非腐食性材料33を台座51にセットする。
そして、交換装置を備えたマスク52を用いて、低ガス透過非腐食性材料33の内面の一部を開口するようにマスクをセットする。
【0044】
そして、成膜装置53を用いて、低ガス透過非腐食性材料33の内面であって、マスク52が開口している部分にのみ腐食性金属32を成膜する。
成膜後、グローブボックス55を用いて、低ガス透過非腐食性材料33の開口部を図2で示したフィルム31で塞ぐように張り合わせる。これにより、腐食性金属32は低ガス透過非腐食性材料33とフィルム31とにより密封される。
【0045】
その後、グローブボックス55を用いて、低ガス透過非腐食性材料33とフィルム31とを貼り合わせたものを台座51に再度セットする。この際、カップ形状の低ガス透過非腐食性材料33の底部が低ガス透過非腐食性材料を成膜する装置54(以下、単に「成膜装置54」ともいう。)と対向するようにしてセットする。
言い換えると、低ガス透過非腐食性材料33の開口部の位置が腐食性金属層32を成膜する場合とは逆向きになるように、台座51に再度セットする。
【0046】
そして、マスク52に備わる交換装置を用いて、フィルム31よりも広く開口しているマスク52に変更する。
その後、成膜装置54を用いて、低ガス透過非腐食性材料33及びフィルム31の端面31aを覆うように低ガス透過非腐食性材料を成膜する。ここで成膜する低ガス透過非腐食性材料は、既にフィルム31が張り合わされているカップ形状の低ガス透過非腐食性材料と同じ材料である必要は無く、例えば、測定ガスの透過性が低い、金属、金属酸化物、金属窒化物、ガラス等から選ぶことができる。
【0047】
以上のように、上記実施形態によれば、図2に示したガス透過性試験片200を作成することができる。
なお、成膜装置54を用いて低ガス透過非腐食性材料を成膜する際、第1実施形態の場合と同様に、例えば化学気相成長(CVD)、プラズマ化学気相成長(PECVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成長(SACVD)、UV支援化学気相成長、フィラメント支援化学気相成長(FACVD)、大気圧化学気相成長(APCVD)、原子層堆積(ALD)、及びプラズマ原子層堆積(PEALD)からなる群より選ばれる方法を用いることができる。
【0048】
(腐食度の測定方法)
ガス透過性試験片200の腐食度の測定方法は、第1実施形態で説明した測定方法と実質的に同一である。よって、その説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のガス透過性評価法は、既存の方法よりも正確な評価法として利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1・・・フィルム
2・・・腐食性金属層
3・・・低ガス透過非腐食性材料
4・・・測定面からのガス透過経路
5・・・端面からのガス透過経路
11・・・フィルム
12・・・腐食性金属層
13・・・低ガス透過非腐食性材料
14・・・測定面からのガス透過経路
15・・・端面からのガス透過経路
21・・・フィルム
21a・・・フィルムの端面
21b・・・フィルムの一方の面
21c・・・フィルムの他方の面
22・・・腐食性金属層
23・・・低ガス透過非腐食性材料
24・・・測定面からのガス透過経路
25・・・端面からのガス透過経路
31・・・フィルム
31a・・・フィルムの端面
32・・・腐食性金属層
33・・・低ガス透過非腐食性材料
34・・・測定面からのガス透過経路
41・・・台座
42・・・マスク交換装置
43・・・腐食性金属層を成膜する装置
44・・・低ガス透過非腐食性材料を成膜する装置
45・・・グローブボックス
48・・・チャンバー
51・・・台座
52・・・マスク交換装置
53・・・腐食性金属層を成膜する装置
54・・・低ガス透過非腐食性材料を成膜する装置
55・・・グローブボックス
56・・・温度湿度調節装置
57・・・腐食度測定装置
58・・・チャンバー
100・・・ガス透過性試験片
200・・・ガス透過性試験片
300・・・ガス透過性試験片の作成装置400・・・ガス透過性試験片の作成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムと、
前記フィルムの一方の面の少なくとも一部に形成された、特定のガスと反応して腐食する腐食性金属層と、
前記腐食性金属層と前記腐食性金属層が形成された前記フィルムの一方の面とを密封する、前記ガスと反応しない低ガス透過非腐食性材料とを備えた、前記フィルムに対する透過率を評価するガス透過性試験片において、
前記フィルムの端面を前記低ガス透過非腐食性材料で密封したことを特徴とするガス透過性試験片。
【請求項2】
開口部を有するカップ形状の、特定のガスと反応しない低ガス透過非腐食性材料と、
前記低ガス透過非腐食性材料の内面の少なくとも一部に形成された、前記ガスと反応して腐食する腐食性金属層と、
前記開口部を塞いで前記腐食性金属層を密封するフィルムとを備えた、前記フィルムに対する透過率を評価するガス透過性試験片において、
前記フィルムの端面を前記低ガス透過非腐食性材料で密封したことを特徴とするガス透過性試験片。
【請求項3】
前記腐食性金属層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはその何れかの合金のうち何れか一つを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス透過性試験片。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属は、カルシウム、マグネシウムまたはその何れかの合金のうち何れか一つを含むことを特徴とする請求項3に記載のガス透過性試験片。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のガス透過性試験片の作成方法において、
前記フィルムの端面を密封する前記低ガス透過非腐食性材料を、化学気相成長(CVD)、プラズマ化学気相成長(PECVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、減圧化学気相成長(SACVD)、UV支援化学気相成長、フィラメント支援化学気相成長(FACVD)、大気圧化学気相成長(APCVD)、原子層堆積(ALD)、及びプラズマ原子層堆積(PEALD)からなる群より選ばれる方法により形成する工程を含むことを特徴とするガス透過性試験片の作成方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載のガス透過性試験片を作成するガス透過性試験片作成装置において、
前記フィルムが保管された容器と、
前記容器内に配置された、前記フィルムの一方の面側に前記腐食性金属層を形成する装置と、
前記容器内に配置された、前記フィルムの端面を密封するように前記低ガス透過非腐食性材料を形成する装置とを備えることを特徴とするガス透過性試験片作成装置。
【請求項7】
請求項6に記載のガス透過性試験片作成装置と、
前記ガス透過性試験片作成装置により作成された前記ガス透過性試験片を、前記ガス透過性試験片作成装置に備わる前記容器内に保管した状態で、一定のガス濃度及び一定の温度の環境下に暴露する装置と、
暴露した状態で前記腐食性金属層の腐食が進行する程度を測定する測定装置とを備えることを特徴とするガス透過性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36813(P2013−36813A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171923(P2011−171923)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】