説明

ガス遮断性複合フィルム

【課題】 酸素、炭酸ガスなど、および水蒸気の遮断性に優れた複合フィルムを提供すること。
【解決手段】 α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物から構成されるα−1,4−グルカン層と、このα−1,4−グルカン層の少なくとも片面に設けられた耐水性層と、を有する、ガス遮断性複合フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス遮断性に優れる複合フィルムに関する。より詳しくは、α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物から構成されるα−1,4−グルカン層と、耐水性層と、を有する、ガス遮断性複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、包装材料としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性合成樹脂のフィルムが使用されている。しかし、これらのフィルムは、一般に、酸素や炭酸ガスの遮断性が不充分であるため、特に、食品用包材、(例えば、新鮮肉類や魚介類、冷蔵食品、冷凍食品、乳製品、飲料、果物や野菜類、スナック食品、乾物、麺類、米飯類、味噌、漬物など)、トイレタリー用材料や薬品用包材等の用途において改良が望まれている。また、火傷や創傷用の被覆材料としての利用においては、要求される酸素遮断性の要求を満たさず、さらに人体への親和性にも欠けるといぅ欠点がある。
【0003】
そこで、ガス遮断性を改良したエチレンビニルアルコール共重合体やポリアミド等からなるフィルムが開発されている。しかしながら、これらのフィルムは、レトルト滅菌のような高温、高湿下の工程により製造される製品で、特に長期保存が要求される製品の包材としては、実用上性能に問題がある。
【0004】
さらに、地球環境に優しい製品に対する要求が高まり、生分解性のフィルムとして、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどが開発されている。例えば特開平10−80990号公報(特許文献1)には、ポリグリコール酸から形成されたフィルムに熱可塑性フィルムが積層された複合フィルムが記載されている。しかし、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンのフィルムは、酸素や、炭酸ガスのような気体や水蒸気の遮断性に劣るという問題がある。また、ポリグリコール酸のフィルムは、上記ガスに対する遮断性には優れるが、フィルム強度が低く、また高価であるため経済面において不利であるという問題もある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−80990公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、酸素、炭酸ガスなど、および水蒸気の遮断性に優れた複合フィルムを提供することにある。さらには、環境負荷の低い生分解性のガス遮断性複合フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物から構成されるα−1,4−グルカン層と
このα−1,4−グルカン層の少なくとも片面に設けられた耐水性層と、
を有する、ガス遮断性複合フィルム、を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0008】
α−1,4−グルカンの分子量が100kDa〜6000kDaであるのが好ましい。
【0009】
また、α−1,4−グルカンが酵素合成α−1,4−グルカンであるのが好ましい。
【0010】
また、上記α−1,4−グルカン修飾物の修飾が、エステル化、エーテル化、および架橋からなる群より選択される化学修飾であるのが好ましい。
【0011】
さらに、上記耐水性層が、生分解性樹脂から構成されるのが好ましい。
【0012】
さらに、上記耐水性層が、再生可能資源を原材料とした生分解性樹脂から構成されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合フィルムは、気体の遮断性およびフィルム強度特性に優れるα−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物からなるα−1,4−グルカン層の少なくとも片面に、耐水性層を有する構造を有し、ガス遮断性および他の物理的性能に優れるものである。そして本発明の複合フィルムは、極薄であってもガス遮断性に優れるという特徴を有する。また、耐水性層の原材料として再生可能資源を用いることにより、生分解性をも付与することができ、環境負荷の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、すでに、生分解性を備えたα−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物フィルムが、単層で優れたフィルム強度を備えることを見出している(WO 02/06507 A1)。本発明者らはこのα−1,4−グルカンからなるフィルムの気体透過性をさらに詳しく調べたところ、驚くべきことにこのα−1,4−グルカンからなるフィルムの気体透過性は、通常の石油系フィルムや生分解性のフィルムの気体透過性よりも著しく低く、そして酸素や窒素、炭酸ガス、エチレン等の遮断性にも優れることを、初めて見出した。
【0015】
しかし、α−1,4−グルカンからなるフィルムは、耐水性および水蒸気の遮断性が十分でなく、そのままでは使用可能な範囲が限定されてしまうという問題があった。そこで、鋭意検討の結果、α−1,4−グルカンからなるフィルムの少なくとも片面に、耐水性層を形成することにより、水蒸気をはじめ各種ガスの遮断性に優れた複合フィルムが得られることを見出した。
【0016】
本発明の複合フィルムは、
α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物から構成されるα−1,4−グルカン層と
このα−1,4−グルカン層の少なくとも片面に設けられた耐水性層と、
を有する、ガス遮断性に優れたた複合フィルムである。
【0017】
α−1,4−グルカン層
本発明の複合フィルムに含まれるα−1,4−グルカン層は、α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物から構成される。
【0018】
用語「α−1,4−グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合のみによって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α−1,4−グルカンは、直鎖状の分子である。α−1,4−グルカンは、直鎖状グルカンとも呼ばれる。1分子のα−1,4−グルカンに含まれる糖単位の数を、重合度という。本明細書中で「重合度」という用語は、特に断りのない限り重量平均重合度を指す。α−1,4−グルカンの場合、重量平均重合度は、重量平均分子量を162で割ることによって算出される。
【0019】
また、用語「分散度Mw/Mn」とは、重量平均分子量Mwに対する数平均分子量Mnの比(すなわち、Mw÷Mn)である。高分子化合物は、タンパク質のような特別の場合を除き、その由来が天然または非天然のいずれであるかに関わらず、その分子量は単一ではなく、ある程度の幅を持っている。そのため、高分子化合物の分子量の分散程度を示すために、高分子化学の分野では通常、分散度Mw/Mnが用いられている。この分散度は、高分子化合物の分子量分布の幅広さの指標である。分子量が完全に単一な高分子化合物であればMw/Mnは1であり、分子量分布が広がるにつれてMw/Mnは1よりも大きな値になる。本明細書中で「分子量」という用語は、特に断りのない限り重量平均分子量(Mw)を指す。
【0020】
本発明のα−1,4−グルカンは、グルコースが直鎖状に結合した構造のポリマーである。これは、当該分野で公知の方法で、天然澱粉から、あるいは酵素的な手法等で作製され得る。
【0021】
天然澱粉からα−1,4−グルカンを得る方法としては、たとえば天然澱粉中に存在するアミロペクチンのα−1,6−グルコシド結合のみに、枝切り酵素として既知のイソアミラ−ゼやプルラナ−ゼを選択的に作用させ、アミロペクチンを分解することにより、アミロ−スを得る方法(いわゆる澱粉酵素分解法)がある。別の例として、澱粉糊液からアミロ−ス/ブタノ−ル複合体を沈殿させて分離する方法がある。
【0022】
また公知の酵素合成法を用いて、α−1,4−グルカンを調製することもできる。酵素合成法の例としては、スクロースを基質として、アミロスクラーゼ(amylosucrase、EC 2.4.1.4)を作用させる方法がある。
【0023】
酵素合成法の別の例は、グルカンホスホリラーゼ(α−glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼという)を用いる方法が挙げられる。ホスホリラーゼは、加リン酸分解反応を触媒する酵素である。
【0024】
本発明では、酵素合成α−1,4−グルカンを用いるのが好ましく、グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成されたα−1,4−グルカンを用いるのが特に好ましい。グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α−1,4−グルカンは次のような特徴を有する:
(1)分子量分布が狭い(Mw/Mnが1.1以下);
(2)製造条件を適切に制御することによって任意の重合度(約60〜約37000)を有するものが得られる;
(3)完全に直鎖であり、天然澱粉から分画したアミロースに認められるわずかな分岐構造をも含まない;
(4)天然澱粉と同様にグルコース残基のみで構成されており、α−1,4−グルカンも、その分解中間体も、そして最終分解物に至るまで生体に対して毒性がない;
(5)酸素、窒素、炭酸ガス、エチレン等の透過性が低い;
(6)皮膜中の水分が変動しても、強度等の物性が変化しにくい;
(7)必要に応じて澱粉と同様の化学修飾が可能である;
(8)石油系プラスチック、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等に匹敵するフィルム強度特性を持つ。
【0025】
グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α−1,4−グルカンは、上記のような特徴を持つため、フィルムやシートとして使用した場合に、次のような利点が得られる:
(a)使用後に安全に分解、代謝される;
(b)分子量あるいは化学修飾の置換度の制御によりガス遮断性のコントロールが可能である;
(c)優れたフィルム特性により内容物を外部の損傷から保護する;
【0026】
上記のα−1,4−グルカンに修飾を施したものを用いることもできる。このような修飾の例としては、エステル化、エーテル化および架橋が挙げられる。
【0027】
エステル化は、例えば、α−1,4−グルカンを各種溶媒中でまたは無溶媒で、エステル化試薬(例えば、酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬)と反応させることによって行われ得る。このようなエステル化によって、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステルなどのアシル化エステル修飾物が得られる。
【0028】
エーテル化は、例えば、α−1,4−グルカンを、アルカリ存在下でエーテル化剤(例えば、ハロゲン化アルキル、硫酸ジアルキルなど)と反応させることによって行われ得る。このようなエーテル化によって、例えば、カルボキシメチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシメチルエーテル、メチルエーテル、エチルエーテルの修飾物が得られる。
【0029】
架橋は、例えば、α−1,4−グルカンを、架橋剤(ホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエーテル、各種エステルなど)と反応させることによって行われ得る。
【0030】
α−1,4−グルカンは、修飾を施していないものまたは修飾を施したものをそれぞれ単独で用いてもよく、またはそれらを併用して用いてもよい。また、2種以上のα−1,4−グルカン修飾物を併用してもよい。
【0031】
α−1,4−グルカン層を構成する、α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物は、重合度約620〜37000(分子量100kDa〜6000kDa)であるのが好ましく、さらには約1240〜12400(分子量200kDa〜2000kDa)であるのが好ましい。重合度が620より低い場合は、α−1,4−グルカン層の強度および柔軟性が劣る恐れがある。また、重合度が37000を超える場合は、α−1,4−グルカンの合成における収率が低くなる恐れがある。また粘度が高くなるために成型が困難となる恐れがある。但し、種々の重合度を有するα−1,4−グルカンを併用する場合は、上記重合度の範囲に限られるものではない。種々の重合度のα−1,4−グルカンを併用することによって、各性質のバランスを調整することができる。
【0032】
α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物の分子量分布Mw/Mnは、1.2以下であるのが好ましく、1.1以下であるのがより好ましい。分子量分布Mw/Mnが1.2を超える場合は、分子量分布が広くなり、ガスバリア性およびフィルム物性が低下する恐れがあり、α−1,4−グルカンの優れた特徴が発揮されない恐れがある。
【0033】
α−1,4−グルカン層の厚さは、特に制限されるものではないが、通常1〜1000μm、好ましくは、5〜100μmである。さらにはα−1,4−グルカン層は、10〜50μm程の厚さであっても十分なガス遮断性を発揮することができる。
【0034】
本発明のα−1,4−グルカン層は柔軟化剤を含んでいても良い。柔軟化剤の例としては、グリセリン、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、デンプン、デキストリン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。このような柔軟化剤を含めることによって、得られるフィルムの物性を改良することができる。
【0035】
本発明のα−1,4−グルカン層は、界面活性剤などの滑沢剤を含んでいても良い。滑沢剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ソルビタン、レシチン、カルナウバロウ、セラック等が挙げられる。このような滑沢剤を用いることによって、複合フィルムの成型性を向上させたり、べたつきを改善したりすることができる。
【0036】
本発明のα−1,4−グルカン層は、識別性や遮光性の賦与を目的として、着色剤や顔料を含んでいても良い。着色剤および顔料の例としては、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、食用赤色2号アルミニウムレーキ、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号、銅クロロフィンナトリウム、銅クロロフィン、酸化チタン等が挙げられる。
【0037】
α−1,4−グルカン層を調製する方法としては、押出し成形、射出成形、キャスティング又は薄膜のゲルを乾燥させる、などの方法により、通常使用される製造装置を用いて調製することができる。
【0038】
耐水性層
複合フィルムの耐水性層を構成する材料として、例えば、熱可塑性樹脂、ワックスなどが挙げられる。
【0039】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものでないが、例えば、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体など)、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリコハク酸エステルなど)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、α−1,4−グルカン修飾物、酢酸セルロースなどが挙げられる。また、ワックスとして、パラフィンワックス、桐油、蜜蝋などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂およびワックスは、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用することもできる。
【0040】
耐水性層は、生分解性樹脂から構成されるのがより好ましい。α−1,4−グルカンは生分解性に優れるため、耐水性層を生分解性樹脂から形成することにより、得られる複合フィルムが生分解性に優れるものとなるからである。生分解性樹脂の例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリ−3−ヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどのポリエステル類、澱粉、プルラン、セルロース、キチン、キトサンなどの多糖類およびその修飾物、ポリグルタミン酸やポリリジン、グルテン、コラーゲン、ゼラチンなどのポリアミド類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリウレタンなど、ならびにこれらのブロックコポリマーおよびターポリマー、グラフトポリマーなどが挙げられる。これらの生分解性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用することもできる。
【0041】
耐水性層の厚さは、特に制限はないが、通常1〜1000μm、好ましくは、5〜100μm、さらに好ましくは、10〜50μmである。
【0042】
本発明の耐水性層を調製する方法として、耐水性層が熱可塑性樹脂から構成される場合は、押出し成形、射出成形、キャスティング又は薄膜のゲルを乾燥させる、などの方法により、通常使用される製造装置を用いて調製することができる。また、耐水性層がワックスから構成される場合は、α−1,4−グルカン層のいずれか片面または両面に、ワックスを塗布する方法により、耐水性層を形成することができる。
【0043】
複合フィルム
本発明の複合フィルムは、
α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物から構成されるα−1,4−グルカン層と
このα−1,4−グルカン層の少なくとも片面に設けられた耐水性層と、
を有する。
【0044】
耐水性層は、α−1,4−グルカン層の一面のみに設けてもよく、またα−1,4−グルカン層の両面に設けてもよい。α−1,4−グルカン層の両面に耐水性層を設ける場合は、これらの耐水性層は同一の成分から構成されてもよく、また異なる成分から構成されてもよい。
【0045】
複合フィルムの製造方法は、特に制限されるものではないが、例えば
(1)α−1,4−グルカン層および耐水性層を別々に製造し、これらを貼り合わせる方法、
(2)α−1,4−グルカン層および耐水性層のうち、一方の層(フィルム)上に他の層を、例えば押出しコーティングなどにより設ける方法、
(3)α−1,4−グルカン層および耐水性層を共押出しする方法、
(4)α−1,4−グルカン層および耐水性層のうち、一方の層(フィルム)上に、溶融または溶液化した他の層をコーティングする方法、
等が挙げられる。
【0046】
方法(1)において、α−1,4−グルカン層および耐水性層を貼りあわせる方法としては、接着剤を用いて貼りあわせる方法、熱溶融により貼りあわせる方法などが挙げられる。用いることができる接着剤としては、合成接着剤または天然接着剤を用いることができる。具体的には、特に限定されるものではないが、例えば、エマルジョン接着剤(酢酸ビニル樹脂系、EVA樹脂系またはアクリル樹脂系など)、感圧性接着剤(溶剤タイプまたはエマルジョンタイプなど)、シリコーン系接着剤、光硬化型接着剤などが挙げられる。さらに、本発明で用いられるα−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物を接着剤として用いることもできる。
【0047】
本発明の複合フィルムとして、例えば、ポリエチレン/ポリアミド/ポリエチレンの層構造を有するガスバリアー性の複合フィルムにおいて、ポリアミドの代わりにα−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物のフィルムを使用するなどの例が挙げられる。こうして得られる複合フィルムは、包装材などの用途において長期保存の目的が達成できる。α−1,4−グルカンは、酸素、窒素、炭酸ガスに加えて、果物等の熟成に関与するエチレンの透過も遮断することができる。そして耐水性層として、生分解性の樹脂であるポリ乳酸やバイオマックス、ポリコハク酸エステル、ポリカプロラクトンなどと組み合わせることにより、堆肥化可能な複合フィルムを調製することもできる。さらに、再生可能資源であるα−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物やポリ乳酸等と複合するとガス遮断性ばかりでなく地球環境に対する負荷の少ない複合フィルムを製造することができる。
【0048】
さらに、α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物のフィルム特性は、特に、引張強度に優れる。α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物は、単層であっても上記のガスに対する遮断性に優れたフィルムが得られるが、しかしながら耐水性および耐湿性が不十分であるという欠点もある。本発明のように複合フィルムとすることによって、耐水性および耐湿性に優れ、かつ物理的強度、ガス遮断性に優れた複合フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0050】
試験例において、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼの調製方法、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの調製方法、α−1,4−グルカンの収率(%)の計算方法、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法は、特開2002−345458号の記載により公知である方法に従った。具体的に、合成したグルカンの分子量は次のように測定した。まず、合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適切な量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより重量平均分子量を求めた。詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量、数平均分子量を求めた。
【0051】
アセチル化α−1,4−グルカンの置換度は、「澱粉・関連糖質実験法」(中村ら、1986年、学会出版センター)の記載に従い、以下の方法で測定した。試料1gを300mlの三角フラスコに精秤し、75%のエタノール50mlを加え分散した。これに0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を40ml加え、密栓して48時間室温で振盪した。過剰のアルカリを0.5Nの塩酸で滴定し、ブランクとの差から置換度(DS)を求めた。置換度(DS)は無水グルコース残基あたりの平均置換水酸基数である。
【0052】
ガス透過性試験は日本工業規格JIS K7126「プラスチックフィルム及びシートの気体透過度試験方法」に基づいた差圧法により以下の方法で行った。装置は、試験片にガスを透過させるための透過セル、透過したガスによる圧力変化を検知する圧力検出器、透過セルに酸素を供給するための試験気体供給器、真空ポンプなどから構成される。圧力検出器は佐藤真空株式会社製NEWパルミル真空計PVD−9500−L21を用いて1Paの精度で測定した。透過面の直径30mm、試験片はデシケーター内でシリカゲルを用いて48時間以上乾燥したものを用いた。試験条件は室温20℃、試験温度25℃で行った。試験方法は、試験片によって隔てられた一方(低圧側)を真空に保ち、もう一方(高圧側)にガスを約1気圧導入し、低圧側の圧力を記録し透過曲線を得た。透過曲線の定常状態の傾きから単位時間における低圧側の圧力変化を求め、気体透過度及び気体透過係数を算出した。なお、試験片の厚さは3箇所測定した平均値を用いた。
【0053】
水蒸気透過性の測定は、日本工業規格JIS K7129「プラスチックフィルム及びシートの水蒸気透過度試験方法(機器測定法)」に基づいた感湿センサー法により、水蒸気透過度測定装置CR−2011を用いて以下の方法で行った。
【0054】
下部セルに蒸留水を入れ、カプトン試験片を上部セルと下部セルの中間に挿入した。上部セルと下部セルの温度が40±0.5℃に達するのを確認し、窒素ガス流量を調節して上部セルの相対湿度がR.H.1%RH以下で一定になった後、測定を開始した。単位相対湿度幅R.H.2.5%〜5%の水蒸気透過時間を読みとり、誤差が±5.0%以下の一定値になるまで測定を繰り返した。なお、標準サンプルとしては、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(ダイセル化学工業株式会社製)を用いた。
【0055】
水蒸気透過度は式(1)により計算した。
【0056】
【数1】

(1)
【0057】
式中、WVTR:試験片の水蒸気透過度[g/(m・24h)]
S:標準サンプルの水蒸気透過度[g/(m・24h)]
C:標準サンプルの単位相対湿度幅の所要時間[s]
T:試験片の単位相対湿度幅の所要時間[s]
F:標準サンプルの透過面積/試験片の透過面積。
【0058】
製造例1:α−1,4−グルカンの合成
15mMリン酸緩衝液(pH7.0)、106mMスクロース、及びマルトオリゴ糖混合物(テトラップH、林原製)5.4mg/リットルを含有する反応液(1リットル)に、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼ(1単位/ml)と、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ(1単位/ml)を加えて37℃で16時間保温し、反応終了後、生成したα−1,4−グルカンの収率(%)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を決定した。その結果、重量平均分子量が1250kDa、分子量分布(Mw/Mn)が1.03のα−1,4−グルカンを得た。
【0059】
製造例2:アセチル化α−1,4−グルカンの合成
ジメチルスルホキシド80gに、試験例1で得られたα−1,4−グルカンの濃度が5重量%となるように溶解し、炭酸ナトリウム2gを添加後、酢酸ビニル10gを加えて、40℃において60分反応させた。反応後、エタノールを添加して生成物を析出させ、ろ過後、数回水で洗浄し、精製した。得られたアセチル化α−1,4−グルカンの置換度は0.56であった。
【0060】
α−1.4−グルカン層の単層フィルム作製およびガス透過性試験
上記実施例1および2で得られた各溶液を、基板上に流延し、30℃に保った乾燥機で乾燥させて、厚さ約30μmのフィルムを得た。こうして得られた2種類のフィルムと市販されている樹脂フィルムについてガス透過性試験を行なった。気体透過係数(P×1012)で示したα−1,4−グルカンのガス遮断性は、表1に示すように、酸素0.016および炭酸ガス0.13、を示し、セロファンの酸素0.12、炭酸ガス2.88のそれらに比較して10倍程度優れている。さらに、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒドロキシプロピルセルロースに対しては、100倍以上の差がある。また、α−1,4−グルカンのエチレン0.37に対してもポリ乳酸、ヒドロキシプロピルセルロースは、それぞれ、8.4と42と劣っている。
【0061】
【表1】

【0062】
α−1,4−グルカン修飾物は、構成単位であるグルコースの水酸基をエステル化、エーテル化反応などにより置換度DSが増加するに従い、気体透過係数はDS:0の0.061からDS:0.56の1.2(P×1012)、と上昇する、即ち、ガス遮断性は低下する。これらの結果は、単層フィルムにおいても性能の異なるガス遮断性フィルムが得られることを示唆している。さらに、DS:3に近づくと、耐水性が向上しα−1,4−グルカンに対する耐水性層形成用のラミネートフィルムとして使用が可能である。
【0063】
また、α−1,4−グルカン修飾物は、通常の熱可塑性樹脂との相溶性や接着性に優れているため、本フィルムの各層間の接着性改良に、接着剤あるいは接着層として使用してもよい。
【0064】
実施例1
市販ポリ乳酸フィルム35μを、実施例2で得られたアセチル化α−1,4−グルカンの厚さ約30μmのフィルムの片面に80℃で加熱・圧着し、複合フィルムを得た。
【0065】
実施例2
市販酢酸セルロースフィルム35μmを、実施例2で得られたアセチル化α−1,4−グルカンの厚さ約30μmのフィルムの両面に80℃で加熱・圧着し、複合フィルムを得た。
【0066】
実施例3
市販ポリエチレンフィルム20μmを、実施例1で得られたα−1,4−グルカンの厚さ約30μmのフィルムの両面に、EVA系接着剤を用いて80℃で加熱・圧着し、複合フィルムを得た。
【0067】
実施例4
市販ポリ乳酸フィルム30μmを、実施例1で得られたα−1,4−グルカンの厚さ約30μmのフィルムの片面に、EVA系接着剤を用いてラミネートした。α−1,4−グルカンフィルムの他の片面に蜜蝋をコートして、複合フィルムを得た。
【0068】
試験2:複合フィルム作製およびガス透過性試験
実施例1〜4の複合フィルムについて、試験1と同様に試験を行った。結果を表2に示す。なお、表2中、上記表1に示したポリ乳酸、ポリグリコール酸、セロファンまたはヒドロキシプロピルセルロースからなるフィルムの試験結果を、それぞれ、比較例1〜4として示す。
【0069】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の複合フィルムは、酸素、炭酸ガスなど、および水蒸気の遮断性が高いという優れた性質を有する。このため、包装される製品の長期間保存が可能となる。さらに本発明の複合フィルムは、人体との親和性も高いという利点も有する。さらに、生分解性のガス遮断性複合フィルムを提供することができ、これにより環境に対する負荷を低減することができる。本発明の複合フィルムは、各種包装材料や医療材料として、特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−1,4−グルカンおよび/又はその修飾物から構成されるα−1,4−グルカン層と
該α−1,4−グルカン層の少なくとも片面に設けられた耐水性層と、
を有する、ガス遮断性複合フィルム。
【請求項2】
α−1,4−グルカンの分子量が100kDa〜6000kDaである、請求項1に記載のガス遮断性複合フィルム。
【請求項3】
α−1,4−グルカンが酵素合成α−1,4−グルカンである、請求項1または2に記載のガス遮断性複合フィルム。
【請求項4】
前記α−1,4−グルカン修飾物の修飾が、エステル化、エーテル化、および架橋からなる群より選択される化学修飾である、請求項1〜3いずれかに記載のガス遮断性複合フィルム。
【請求項5】
前記耐水性層が、生分解性樹脂から構成される、請求項1〜4いずれかに記載のガス遮断性複合フィルム。
【請求項6】
前記耐水性層が、再生可能資源を原材料とした生分解性樹脂から構成される、請求項1〜5いずれかに記載のガス遮断性複合フィルム。

【公開番号】特開2006−198842(P2006−198842A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11875(P2005−11875)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(504173600)有限会社 IPE (12)
【Fターム(参考)】