説明

ガス遮蔽材及びガス遮蔽方法

【課題】350℃を超える高温条件下で使用が可能であり、多くの化学産業分野で、生産ラインの配管連結部のリーク防止、電池や電解装置の隔膜などに利用することができ、光透過性を持つガス遮蔽材、及びその遮蔽材を用いたガスバリア方法を提供する。
【解決手段】層状無機化合物のみ又は層状無機化合物と少量の添加剤を水あるいは水を主成分とする分散媒である液体に分散あるいは溶解させ、均一な無機層状化合物分散液を調製し、この分散液を静置し、無機層状化合物粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を固液分離手段で分離して、膜状に形成させることを特徴とする、無機層状化合物粒子の積層を高度に配向させた自立膜からなるガス遮蔽材、該ガス遮蔽材を単独及び複合したガス遮蔽材、配管及び平板部材の被覆材として用いることが可能なガス遮蔽材、及びその遮蔽材を用いてガス遮蔽をするガスバリア方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機層状化合物を主要構成成分とする膜からなることを特徴とするガス遮蔽材及びその遮蔽材を用いたガス遮蔽方法に関するものであり、更に詳しくは、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、無機層状化合物粒子の配向積層を高度に向上させたガス遮蔽材、及びその遮蔽材を単独あるいは複合して用いるガス遮蔽方法に関するものである。ガス遮蔽材あるいは水蒸気遮蔽材の技術分野において、従来、非常にガス遮蔽性が高く、透明で、しかも高温条件下で用いることが可能な材料を得ることは困難であり、その開発が強く要請されていたが、本発明は、熱安定性が高く、しかも、柔軟性に優れたガス遮蔽材、及びその遮蔽材を用いたガス遮蔽方法等の新素材・新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、多くの化学産業分野において、高温条件下での種々の生産プロセスが用いられている。それらの生産ラインの配管連結部などでは、例えば、パッキンや溶接などによって、液体や気体のリークを防止する方策がとられている。これまで、例えば、フレキシビリティーに優れたパッキンは、有機高分子材料を用いて作られていた。しかしながら、その耐熱性は、液晶ポリエステルの350℃が最高であり、これ以上の温度では、金属製パッキンを用いなければならないが、その金属製パッキンは、有機高分子材料のものと比較して、フレキシビリティーに劣るという問題点があった。アルミホイルあるいはアルミ蒸着膜は、高いガスバリア性を有しているが、透明ではない。また、アルミホイルは、金属であるため、螺子部に巻きつけるシール材として利用することはできない。また、透明でガスバリア性に優れたシリカ蒸着膜もあるが、このシリカ蒸着膜は、ベースとなる材料は有機化合物フィルムであるため、やはり350℃を超える高温条件下で使用することができない。これらのガス遮蔽材は、パッキンとして用いられる場合の他、継ぎ手螺子部に巻きつけたり、チューブに巻きつけたり、平板部材に貼り付けたりして用いられる場合がある。最近反応の効率化を図るためにマイクロリアクターによる物質の製造が検討されている。マイクロリアクターにおいては反応器を小さくすることが効率化をあげるうえで重要であり、そのためシール方法もコンパクトな形態にしなければならない。この点、金属パッキンを用いる場合、フランジなどシール面を強く押し付ける機構が必要になるため、反応器を小さくするという観点から好ましくない。また、全体に高温にする必要がある場合、マイクロリアクター全体の通常使用温度をパッキン部分の耐熱性が制限する場合も少なくないため、耐熱性シール材の開発が求められていた。
【0003】
膨潤性粘土などの無機層状化合物は、水やアルコールに分散し、その分散液をガラス板の上に広げ、静置、乾燥することにより、粒子の配向の揃った膜を形成することが知られており、この膜形成により、X線回折用の定方位試料が調製されてきた(非特許文献1参照)。しかしながら、ガラス板上に膜を形成した場合、ガラス板から無機層状化合物薄膜を剥がすことが困難であり、剥がす際に膜に亀裂が生じるなど、自立膜として得ることが難しいという問題があった。また、膜を剥がせたとしても、得られた膜が脆く、強度が不足であり、これまで、ピンホールのない均一の厚さの膜を調製することは困難であった。
【0004】
また、水に可溶性の高分子は、成形材料の他、分散剤、増粘剤、結合剤として、無機材料に配合しガス遮蔽材として用いられている。例えば、ポリアクリル酸等の、分子中に2個以上のカルボキシル基を持つカルボキシル基含有高水素ガス結合性樹脂(A) と、澱粉類等の、分子鎖中に2個以上の水酸基を持つ水酸基含有高水素ガス結合性樹脂(B)の重量比A/B=80/20〜60/40の混合物100重量部と、粘土鉱物等の無機層状化合物1〜10重量部との組成物を形成し、この組成物から形成した厚み0.1〜50μmの皮膜に、熱処理・電子線処理すると、その皮膜はガスバリア性を得ることが知られている(特許文献1参照)。しかし、この場合には、水可溶性高分子樹脂が主成分であり、耐熱性は高くないという問題がある。
【0005】
また、二つのポリオレフイン系樹脂層の間に、無機層状化合物と樹脂とを含む樹脂組成物からなる層を積層することにより、防湿性やガスバリア性に優れ、食品包装に適用される積層フィルムを得ることができる(特許文献2参照)。しかし、この場合には、無機層状化合物を含む樹脂組成物の層は、多層膜の一部として用いられており、自立膜として単独で用いられるものではない。また、この樹脂組成物の体積比(無機層状化合物/樹脂)は、5/95〜90/10の範囲内に特定されており、樹脂が10パーセント以上含まれている。
【0006】
最近、ラングミュアーブロジェット法(Langmuir-Blodgett
Method)を応用した無機層状化合物薄膜の作製が行われている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この方法では、無機層状化合物薄膜は、ガラスなどの材料でできた基板表面上に形成されるものであり、自立膜としての強度を有する無機層状化合物薄膜を得ることができなかった。更に、従来、例えば、機能性無機層状化合物薄膜等を調製する方法が、種々報告されている。例えば、ハイドロタルサイト系層間化合物の水分散液を膜状化して乾燥することからなる粘土薄膜の製造方法(特許文献3参照)、粘土鉱物と燐酸又は燐酸基との反応を利用し、その反応を促進させる熱処理を施すことにより粘土鉱物が持つ結合構造を配向固定した粘土鉱物薄膜の製造方法(特許文献4参照)、スメクタイト系粘土鉱物と2価以上の金属の錯化合物を含有する皮膜処理用水性組成物(特許文献5参照)などをはじめ、多数の事例が存在する。しかしながら、これまで、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、粘土粒子の積層を高度に配向させてガスバリア性を付与した無機層状化合物配向膜の開発例はなかった。
【0007】
以上のように、これまで、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、無機層状化合物粒子の積層を高度に配向させてガスバリア性を付与した膜はなかった。一方、化粧品及び医薬品分野において、好適な球状の有機複合粘土鉱物(例えば、特許文献6及び特許文献7参照)、粘土鉱物と酸と酵素とを混合した湿潤性水虫の治療薬の製造(例えば、特許文献8及び特許文献9参照)等、無機層状化合物と有機化合物を複合化させることが提案されていた。しかしながら、これらの有機複合粘土鉱物を自立膜として用いることは、なされてこなかったのが実情であり、当技術分野では、自立膜として利用可能な機械的強度を有する新しい無機層状化合物膜を開発し、実用化することが強く求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開平10−231434号公報
【特許文献2】特開平7−251489号公報
【特許文献3】特開平6−95290号公報
【特許文献4】特開平5−254824号公報
【特許文献5】特開2002−30255号公報
【特許文献6】特開昭63−64913号公報
【特許文献7】特公平07−17371号公報
【特許文献8】特開昭52−15807号公報
【特許文献9】特公昭61−3767号公報
【非特許文献1】白水晴雄「粘土鉱物学−粘土科学の基礎−」、朝倉書店、p.57(1988)
【非特許文献2】梅沢泰史、粘土科学、第42巻、第4号、218−222(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、しかも、優れたフレキシビリティーを有し、350℃を超える高温度条件下で使用できる新しいガスバリア膜を開発することを目標として、鋭意研究を積み重ねる過程で、無機層状化合物分散水溶液を調製し、これに水に可溶性の高分子を少量混合し、均一な分散液を得た後、この分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥又は加熱蒸発法などで分離し、膜状に成形した後、これを必要に応じ乾燥・加熱・冷却するなどの方法により支持体から剥離することにより、無機層状化合物粒子が配向した無機層状化合物膜が得られることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。本発明は、無機層状化合物を配向して緻密に積層することにより自立膜として利用可能な機械的強度を有するとともに、光透過性を有し、熱安定性に優れたフレキシブルなガス遮蔽材及びその遮蔽材を用いたガス遮蔽方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)層状無機化合物を主要構成成分とする膜からなるガス遮蔽材であって、前記膜は、1)層状無機化合物のみ又は層状無機化合物と添加剤から構成される、2)層状無機化合物の全固体に対する重量比が90%を超える、3)ガスバリア性を有する、及び4)自立膜として利用可能な機械的強度を有する、ことを特徴とする上記ガス遮蔽材。
(2)層状無機化合物が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの1種以上であることを特徴とする、前記(1)に記載のガス遮蔽材。
(3)添加剤が、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸、多価フェノール、安息香酸類化合物のうちの1種以上であることを特徴とする、前記(1)に記載のガス遮蔽材。
(4)加熱、光照射等の任意の方法により、上記添加物分子内、添加物分子間、添加物と無機層状化合物間、無機層状化合物結晶間において、付加反応、縮合反応、重合反応等の化学反応を行わせ、新たな化学結合を生じさせて、ガスバリア性、あるいは機械的強度を改善させたことを特徴とする、前記(1)に記載のガス遮蔽材。
(5)示差熱分析において、200℃から600℃の温度範囲における重量減少が10パーセント未満で、ガス遮蔽材を構成する層状無機化合物の基本構造は変化しないことを特徴とする、前記(1)から(4)のいずれかに記載のガス遮蔽材。
(6)室温における、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、ヘリウムガスに対する透過係数が3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることを特徴とする前記(1)から(4)のいずれかに記載のガス遮蔽材。
(7)600℃で24時間加熱処理後に、ヘリウムガス、水素ガス、酸素ガス、窒素ガス、空気の室温におけるガス透過係数が3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることを特徴とする、前記(1)から(4)のいずれかに記載のガス遮蔽材。
(8)室温における純水の透水係数が2×10-10cm/sec以下であることを特徴とする、前記(1)から(4)のいずれかに記載のガス遮蔽材。
(9)ガス遮蔽材が、シール材、パッキン材、又は包装材である、前記(1)から(8)のいずれかに記載のガス遮蔽材。
(10)前記(1)から(8)のいずれかに記載のガス遮蔽材を用いてガス遮蔽処理を行うことを特徴とするガス遮蔽方法。
(11)前記(1)から(8)のいずれかに記載のガス遮蔽材を含む多層フィルムを用いてガス遮蔽処理を行うことを特徴とするガス遮蔽方法。
(12)ガス遮蔽材を、シール材、パッキン材、又は包装材として用いることを特徴とする、前記(10)又は(11)に記載のガス遮蔽方法。
【0011】
次に、本発明について、更に詳細に説明する。
本発明者らは、無機層状化合物分散水溶液を調製し、これに、水可溶性高分子などの有機試薬を適量混合し、均一な分散液を得た後、この分散液を種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥又は加熱蒸発法などで乾燥後、支持体上に無機層状化合物膜を得、支持体から無機層状化合物膜を剥離することにより、無機層状化合物粒子が配向して緻密に積層した自立膜が得られることを見出し、更に、均一な厚さで、自立膜として用いるに十分な強度を得るための製造方法及び条件を見出した。すなわち、本発明は、希薄で均一な、無機層状化合物及び水可溶性高分子を含む分散水溶液を調製し、この分散水溶液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、分散媒である液体を種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥又は加熱蒸発法などで分離し、膜状に成形した後、これを支持体から剥離し、その際に、均一な厚さで自立膜として用いるに十分な強度を得るための製造条件を採用すること、により、無機層状化合物粒子の積層を高度に配向させた無機層状化合物膜を自立膜として得ることを特徴とするものである。
【0012】
本発明で用いる無機層状化合物としては、天然あるいは合成物、好適には、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの1種以上、更に好適には、天然スメクタイト及び合成スメクタイトの何れかあるいはそれらの混合物が例示される。また、本発明で用いる水可溶性高分子としては、主鎖あるいは側鎖に極性基を有し、そのため、親水性であり、あるいはカチオン性あるいはアニオン性であり、水への溶解性が高いものであれば、特に限定されるものではないが、好適には、例えば、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、イミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸、多価フェノール、3,5−ジヒドロキシ安息香酸などのうちの一種以上た例示される。本発明で用いるスメクタイト等の無機層状化合物もまた親水性であり、水によく分散する。このような水可溶性高分子と無機層状化合物とは、互いの親和性があり、両者を水中で混合すると、容易に結合し複合化する。
【0013】
本発明のガス遮蔽材の製造方法においては、最初に、水あるいは水を主成分とする分散媒である液体に無機層状化合物及び水可溶性高分子を加えた、均一な分散液を調製しなければならない。この分散液の調製方法としては、無機層状化合物を分散させてから水可溶性高分子を加える方法、水可溶性高分子を含む溶液に無機層状化合物を分散させる方法並びに無機層状化合物及び水可溶性高分子を同時に上記液体に加えて分散液とする方法のいずれでもよいが、無機層状化合物を分散させる容易さからは、無機層状化合物を水あるいは水を主成分とする分散媒である液体に分散させてから、水可溶性高分子を加えることが好ましい。この場合、先ず、スメクタイト等の無機層状化合物を、水あるいは水を主成分とする分散媒である液体に加え、希薄で均一な無機層状化合物分散液を調製する。この無機層状化合物分散液における無機層状化合物濃度は、好適には0.5から10重量パーセント、より好ましくは、1から3重量パーセントである。このとき、無機層状化合物濃度が薄すぎる場合、乾燥に時間がかかりすぎるという問題がある。また、無機層状化合物濃度が濃すぎる場合、無機層状化合物が良好に分散しないため、無機層状化合物粒子の配向が悪く、均一な膜ができないという問題がある。
【0014】
次に、水可溶性高分子あるいはそれを含む溶液を秤量して、上記無機層状化合物分散液に加え、無機層状化合物及び水可溶性高分子を含む均一な分散液を調製する。上述のように、無機層状化合物及び水可溶性高分子は、ともに親水性であり、水によく分散する。また、無機層状化合物及び水可溶性高分子は、互いの親和性があるので、両者は、水中で混合すると、容易に結合し複合化する。水可溶性高分子の、全固体に対する重量割合は、10パーセント未満であり、好ましくは0.005パーセントから0.1パーセントである。このとき、水可溶性高分子の割合が低過ぎる場合、使用の効果が現れず、水可溶性高分子の割合が高すぎる場合、調製した膜中に、水可溶性高分子が不均一に分布し、偏在することになり、結果として、得られる膜の均一性が低下し、高分子の使用効果が薄れる。
【0015】
次に、無機層状化合物及び水可溶性高分子を含む分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、例えば、分散媒である液体をゆっくりと蒸発させ、膜状に成形する。このようにして形成された複合無機層状化合物膜は、好適には、種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥及び加熱蒸発法の何れか、あるいはこれらの方法を組み合わせて乾燥させ、乾燥した水可溶性高分子複合無機層状化合物膜を得る。これらの方法のうち、例えば、加熱蒸発法を用いる場合、真空引きにより、事前に脱気処理した分散液を、平坦なトレイ、好ましくはプラスチック製あるいは金属製のトレイなどの支持体に注ぎ、水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、30℃から70℃の温度条件下、好ましくは30℃から50℃の温度条件下で、3時間から半日間程度、好ましくは3時間から5時間、乾燥して水可溶性高分子複合無機層状化合物膜を得る。
【0016】
無機層状化合物及び水可溶性高分子を含む分散液を、事前に脱気処理しない場合は、得られる複合無機層状化合物膜に気泡に由来する孔ができ易くなるという問題が生ずる場合がある。また、乾燥条件は、液体分を蒸発によって取り除くに十分であるように設定される。このとき、温度が低すぎると、乾燥に時間がかかるという問題がある。また、温度が高すぎると、分散液の対流が起こり、膜が均一な厚みにならず、また、無機層状化合物粒子の配向度が低下するという問題がある。本発明の水可溶性高分子複合無機層状化合物膜の厚さについては、分散液に用いる固体量を調整することによって、任意の厚さの膜を得ることができる。
【0017】
本発明において、無機層状化合物粒子の積層を高度に配向させるとは、無機層状化合物粒子の単位構造層(厚さ約1ナノメートル)を、層面の向きを一にして積み重ね、層面に垂直な方向に、高い周期性を持たせることを意味する。このような無機層状化合物粒子の配向を得るためには、無機層状化合物及び水可溶性高分子を含む、希薄で均一な分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、分散媒である液体をゆっくりと蒸発させ、無機層状化合物粒子が緻密に積層した膜状に成形することが重要である。このプロセスにおける好適な製造条件を示すと、無機層状化合物分散液中の無機層状化合物の濃度は、好ましくは0.5から10重量パーセント、より好ましくは、1から3重量パーセントであり、また、加熱乾燥法による乾燥条件は、好ましくは、強制送風式オーブン中で、30℃から70℃の温度条件下、より好ましくは、30℃から50℃の温度条件下で、3時間から半日間程度の乾燥、より好ましくは、3時間から5時間程度の乾燥である。
【0018】
また、水可溶性高分子複合無機層状化合物膜がトレイなどの支持体から自然に剥離しない場合は、好適には、例えば、約80℃から300℃の温度条件下で乾燥し、剥離を容易にして自立膜を得る。このとき、温度が低すぎる場合には、剥離が起こりにくいという問題がある。温度が高すぎる場合には、水可溶性高分子の作用が、その熱劣化で弱くなり、無機層状化合物積層の配向性が劣る。
【0019】
本発明の粘土膜自体は、層状珪酸塩を主原料(90重量%〜)として用い、基本構成として、好適には、例えば、層厚約1nm、粒子径〜1μm、アスペクト比〜300程度の天然又は合成の膨潤性層状珪酸塩が90重量%〜と、分子の大きさ〜数nmの天然又は合成の低分子・高分子の添加物が〜10重量%の構成、が例示される。この粘土膜は、例えば、厚さ約1nmの層状結晶を同じ向きに配向させて重ねて緻密に積層することで作製される。得られた粘土膜は、膜厚が3〜100μm、好適には3〜30μmであり、ガスバリア性能は、厚さ30μmで酸素透過度0.1cc/m2・24hr・atm未満、水素透過度0.1cc/m2・24hr・atm未満であり、遮水性は、遮水係数が2×10-11cm/s以下であり、光透過性は、可視光(500nm)の透過性が75%以上であり、面積は100×40cm以上に大面積化することが可能であり、高耐熱性を有し、1000℃で24時間加熱処理後もガスバリア性の低下はみられない。
【0020】
このように、本発明の無機層状化合物膜は、無機層状化合物粒子の積層が高度に配向し、自立膜として用いることが可能であり、フレキシビリティーに優れ、ピンホールが存在せず、350℃以上1000℃までの高温においても気体・液体のバリア性を保持することを特徴とするものである。また、本発明の無機層状化合物膜は、例えば、はさみ、カッター等で容易に円、正方形、長方形などの任意の大きさ、形状に切り取ることができる。
【0021】
したがって、本発明の無機層状化合物膜は、高温条件下でフレキシビリティーに優れた自立膜として、広範に使用することができ、例えば、化学産業分野の生産ラインの配管連結部などのパッキン又はその類似製品等の耐熱性・高バリア性部材として利用することができる。また、水可溶性高分子は、極性高分子であり、同様に極性を有する無機層状化合物と相互作用し、フレキシビィリティー及び強度の点で優れた薄膜を生成する。そのため、無機層状化合物薄膜の引っ張り、捩れ等による容易な破壊が抑えられ、それにより、自立膜として利用可能な優れた特性を有する無機層状化合物膜が得られる。更に、発明の無機層状化合物膜は、パッキンとして用いられる場合の他、継ぎ手螺子部に巻きつけたり、チューブに巻きつけたり、平板部材に貼り付けたりして用いることも可能である。
【0022】
上記無機層状化合物膜を平板部材に貼り付ける一例として、多層化が例示される。つまり、無機層状化合物複合膜を他の材料から作製された膜Bと多層化することにより、気体バリア性能及び機械的強度を向上させて用いることが可能である。例えば、無機層状化合物複合膜とプラスチック膜の一種としてフッ素樹脂フィルムを接着剤によって貼り合わせて多層化した膜が例示される。フッ素樹脂フィルムは低透湿性であることから、フッ素樹脂フィルムと無機層状化合物複合膜との多層膜は高遮湿性及び高ガスバリア性の膜として利用可能である。ここで、膜Bの材質としては、粘土膜との多層膜の成形性が良好であれば、特に制限はないが、好適には、例えば、金属箔、薄板硝子、各種プラスチック膜、紙などが例示される。更に、無機層状化合物複合膜を含む三層以上の多層膜を用いることも可能である。
【0023】
本発明の無機層状化合物膜は、自立膜として用いることが可能であり、また、350℃を超える高温条件下で使用が可能であり、かつ、フレキシビリティーに優れており、更に、ピンホールの存在しない緻密な材料であり、バリア性に優れるといった特徴を有する。したがって、本発明の無機層状化合物膜は、例えば、350℃を超える高温条件下でフレキシビリティーに優れた被覆材、パッキンやセパレータとして広範に使用することができ、多くの化学産業分野で、生産ラインの配管連結部のリーク防止、電池や電解装置の隔膜、ガス配管被覆、平板部材の被覆などに利用することができる。
【0024】
ヘリウムガス分子は、あらゆるガス種の中で最も小さく、そのため、ヘリウムガスは、その遮蔽が最も困難である。本発明お無機層状化合物膜は、種々のガス、すなわち空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガスのみならず、ヘリウムガスに対しても高いガスバリア性を示す。したがって、本発明の無機層状化合物膜は、有機ガスを含むあらゆるガスに対する遮蔽性を有すると考えられる。また、複合粘土膜を形成させたのち、支持体表面から剥離せずに支持体の保護膜として用いることも可能であり、これによって、支持体の防食、防汚、耐熱性向上の効果がある。この保護膜は、特に、酸素ガスを遮断する効果があることから、支持体の酸化を防ぐ効果が期待され、例えば、金属構造材や金属継ぎ手部分の防錆としての利用ができる。
【0025】
次に、本発明の材料の特性値について説明する。
(1)密度
従来材料は、下表に示されるようにプラスチック・フィラーナノコンポジット製品において、その密度が最も高いものでも1.51である。これに対して、本発明の材料は、1.51を上回る密度を有し、2.0以上、例えば、2.10程度の密度の測定値を示す。このように、本発明の材料は、1.51を上回る密度、特に、1.60から2.50程度の高密度を有する。
【0026】
【表1】

【0027】
(2)柔軟性
従来材料で最も柔らかいものは、粘土とパルプ繊維からできている市販のシートであり、その剛軟度は、曲げ反発性試験の値として、JIS L1096:1999「一般織物試験方法」A法に準拠して測定された値は、8.0(mN)である。一方、粘土膜で最も硬いものは、HR50/5−80Hであり、表面が5.3(mN)、裏面が17.1(mN)である。これに対して、本発明の材料は、曲げ反発性試験の値が2.0mN程度であり、少なくとも、8.0mNを下回る値を有するものである。従来材料と本発明の材料の剛軟度の閾値は8.0mNであると言えることから、この値をもって、本発明の材料を従来材料と区別(識別)することができる。
【0028】
(3)原料粘土の特性
本発明では、原料粘土として、好適には、例えば、1次粒子のアスペクト比(粒子数基準)が320程度のもので、特に、メチレンブルー吸着量、陽イオン交換容量が高いものが使用される。具体例として、例えば、メチレンブルー吸着量が130mmol/100g、陽イオン交換容量が110meq/100g、2%水分散液pHが10.2、4%水分散液粘度が350mPa・s、水分散メジアン径が1.13μmの諸物性を有するものが例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、これらを標準値として、これらと同等もしくは均等の物性を有するものであれば同様に使用することができる。これらの原料粘土として、山形県月布産粘土及びこれを主原料とする材料が好適に用いられる。
【0029】
(4)その他の特性
本発明の材料は、熱サイクルテスト(100−600℃、30サイクル)で異状がなく(高耐熱性)、電気抵抗は、体積抵抗率(500V)が2.3×10Ωm(JIS K6911:1995)であり(高絶縁性)、例えば、フレキシブル基板材料として使用される。本発明の材料は、他の特性として、例えば、以下のような特性値を有する。酸素透過度:<0.00008cm/20μm・m day・atm、水素透過度:0.002cm/20μm・m day・atm、破断延び:2.2%、引裂試験(JISK6252:2001):33.4N/mm、酸素指数(JIS K7201:1995):>94.0、比熱:1.19J/g・K、熱拡散率:1.12×10−7/s、熱伝導率:0.27W/m・K、熱膨張係数(−100〜100℃):0.1×10−4−1、熱膨張係数(100〜200℃):−0.06×10−4−1、耐ガス腐食試験:異状なし。これらの値は、本発明の材料の好適な特性値を示すものであり、本発明は、これらに制限されるものではなく、これらを標準値として、これらと同等もしくは均等のものであれば、本発明の範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、(1)無機層状化合物粒子の配向が揃った無機層状化合物膜及びその製造方法を提供できる、(2)該無機層状化合物膜は、自立膜として用いることができ、例えば、350℃を超える高温においても化学的に安定な、パッキンや電解質隔壁材料等として用いることができる、(3)350℃を超える高温においても使用可能で、フレキシブルな、半透明無機層状化合物膜を提供できる、(4) 配管及び平板部材の被覆材を提供することができる、という格別の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
(1)無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として1.0gのクニミネ工業株式会社製天然モンモリロナイトである「クニピアP」を60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液を底面が平坦であり、底面の形状が正方形であり、その一辺の長さが約10cmのポリプロピレン製トレイに注ぎ、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約40マイクロメートルの半透明薄膜を得た。更に、これに1000℃で24時間の加熱処理を行った。
【0033】
(2)無機層状化合物薄膜の特性
この無機層状化合物薄膜の示差熱分析(昇温速度5℃/分) において、200℃から600℃の温度範囲における重量減少は3.7パーセントであり、この重量減少幅が小さいことから、ガス遮蔽材を構成する層状無機化合物は、600℃までの加熱によって基本構造から変化しないことがわかる。
【0034】
薄膜の、空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定した。その結果、室温における空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、ヘリウムガスの透過係数が、いずれのガスの場合も3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。ヘリウムガス分子は、あらゆるガスの中で最も小さく、かつ本薄膜がヘリウムガスに対して高いガスバリア性を有していることから、本薄膜がガスの種類によらずいかなるガスに対しても高いガスバリア性能を示すことが考えられる。また、1000℃で24時間の加熱処理を行った薄膜の空気の透過係数を測定した結果、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、加熱処理によるガスバリア性能の低減は観察されなかった。
【0035】
次に、本薄膜の遮水性能を確認する目的で、その透水係数を測定した。透水係数は、(株) ホージュン製万能型透水係数測定装置タイプDを用いて行った。その結果、本薄膜の透水係数は1×10-11cm/secと測定され、遮水性能を示すことがわかった。
【0036】
(3)ポリアクリル酸ナトリウム複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、1グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、ポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、重合度2700−7500)が、所定の割合で含まれている水溶液を1cm3 加え、天然モンモリロナイト及びポリアクリル酸ナトリウムを含む分散液を得た。このとき、所定の割合を変えることで、天然モンモリロナイトとポリアクリル酸ナトリウムとの重量割合を異ならせた分散液を作製した。天然モンモリロナイトのポリアクリル酸ナトリウムに対する重量比は、0.98g/0.02g(ポリアクリル酸ナトリウム2%) から1.00g/0.0000002g(ポリアクリル酸ナトリウム0.00002%) までとした。次に、天然モンモリロナイト及びポリアクリル酸ナトリウムを含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な水可溶性高分子複合無機層状化合物薄膜を得た。生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた水可溶性高分子複合無機層状化合物薄膜を得た。更に、これに500℃で24時間の加熱処理を行った。
【0037】
(4)ポリアクリル酸ナトリウム複合無機層状化合物薄膜の特性
ポリアクリル酸ナトリウム複合無機層状化合物薄膜の示差熱分析(昇温速度5℃/分)
において、200℃から600℃の温度範囲における重量減少は3.3パーセントであり、この重量減少幅が小さいことから、ガス遮蔽材を構成する層状無機化合物は、600℃までの加熱によって基本構造から変化しないことがわかる。加熱処理前の、ポリアクリル酸塩複合無機層状化合物薄膜(ポリアクリル酸ナトリウム0.02%)
のX線回折チャートを、図1に示す。このX線回折チャートにおいて、底面反射ピーク001が、d=1.23nmに観察された。このピークは、この種の無機層状化合物鉱物における一般的な底面反射ピークに比較して、強度が高く、また、線幅の細いものである。この結果から、ポリアクリル酸塩を用いて得た複合無機層状化合物薄膜において、モンモリロナイト結晶が配向して積層していることがわかる。この底面反射ピーク強度は、ポリアクリル酸ナトリウムを0.005%から0.1%使用の複合無機層状化合物薄膜で特に高く、モンモリロナイト結晶が、高度に配向していることがわかる。また、これらの複合無機層状化合物薄膜のうちで、ポリアクリル酸ナトリウムが0.02%であるポリアクリル酸塩複合無機層状化合物薄膜のTG−DTAチャート(昇温速度5℃毎分、空気雰囲気下)を、図2に示す。図2のTG曲線から、室温から200℃までに、吸着水の脱水による重量減少が観察され、また、700から800℃にかけて、モンモリロナイトの大きな重量減少が観察された。これらの中間温度においては、何らの熱変化あるいは熱重量変化も観察できない。このことは、ポリアクリル酸塩を用いて得た複合無機層状化合物薄膜の耐熱性が高いことを示す。
【0038】
ポリアクリル酸の使用割合が異なる複合無機層状化合物薄膜の、空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定した。このとき、複合薄膜調製時に用いた天然モンモリロナイトとポリアクリル酸ナトリウムとの重量比は、0.99g/0.002g(ポリアクリル酸ナトリウム0.2%) 、1.00g/0.0002g(ポリアクリル酸ナトリウム0.02%) 、1.00g/0.00002g(ポリアクリル酸ナトリウム0.002%)
、1.00g/0.000002g(ポリアクリル酸ナトリウム0.0002%) 、及び1.00g/0.0000002g(ポリアクリル酸ナトリウム0.00002%)
とした。全ての複合薄膜において、室温における空気の透過係数が、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。また、この複合薄膜を500℃で24時間加熱処理した後では、複合薄膜の室温における空気の透過係数は、全て、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、高温処理後もガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例2】
【0039】
(1)ナイロン複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.95グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3 の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、ナイロンモノマーとして、0.05グラムのイプシロン−カプロラクタム粉末(和光純薬工業株式会社製)を加え、得られた分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一なナイロンモノマー複合無機層状化合物薄膜を得た。生成した無機層状化合物薄膜をトレイから剥離し、250℃に保った加熱炉中で5時間加熱処理して、ナイロン複合無機層状化合物膜を得た。
【0040】
(2)無機層状化合物薄膜の特性
ナイロン複合無機層状化合物薄膜の示差熱分析(昇温速度5℃/分) において、200℃から600℃の温度範囲における重量減少は2.6パーセントであり、この重量減少幅が小さいことから、ガス遮蔽材を構成する層状無機化合物は、600℃までの加熱によって基本構造から変化しないことがわかる。
【0041】
ナイロン複合無機層状化合物膜(全固体に対するナイロンモノマー重量割合は5%) の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-10cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。また、この膜を500℃で24時間加熱処理した膜の空気の透過係数は、室温において、3.2×10-10cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、高温処理後もガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例3】
【0042】
(1)ポリビニルアルコール複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.95グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3 の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、ポリビニルアルコール(関東化学株式会社製、重合度約500)を、0.05グラム含む水溶液1cm3を混合した。この天然モンモリロナイト及びポリビニルアルコールを含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。次いで、生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0043】
(2)ポリビニルアルコール複合無機層状化合物薄膜の特性
ポリビニルアルコールを用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。また、この膜を500℃で24時間加熱処理した膜の空気の透過係数は、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、高温処理後もガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例4】
【0044】
(1)澱粉複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.99グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、澱粉(ナカライテスク株式会社製)を、0.01グラム含む水溶液1cm3を混合した。この天然モンモリロナイト及び澱粉を含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。次いで、生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0045】
(2)澱粉複合無機層状化合物薄膜の特性
澱粉を用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例5】
【0046】
(1)ヒドロキシエチルセルロース複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.99グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、ヒドロキシエチルセルロース(Aldrich Chemical Company製)を、0.01グラム含む水溶液1cm3を混合した。この天然モンモリロナイト及びヒドロキシエチルセルロースを含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。次いで、生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0047】
(2)ヒドロキシエチルセルロース複合無機層状化合物薄膜の特性
ヒドロキシエチルセルロースを用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例6】
【0048】
(1)ゼラチン複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.99グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、ゼラチン(和光純薬株式会社製)を、0.01グラム含む水溶液1cm3を混合した。この天然モンモリロナイト及びゼラチンを含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0049】
(2)ゼラチン複合無機層状化合物薄膜の特性
ゼラチンを用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例7】
【0050】
(1)グルテン複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.99グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、グルテン(和光純薬株式会社製)粉末を0.01グラム混合した。この天然モンモリロナイト及びグルテンを含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0051】
(2)グルテン複合無機層状化合物薄膜の特性
グルテンを用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例8】
【0052】
(1)ポリエチレングリコール複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.99グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、ポリエチレングリコール(東京化成工業株式会社製)を0.01グラム含む水溶液1cm3を混合した。この天然モンモリロナイト及びポリエチレングリコールを含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0053】
(2)ポリエチレングリコール複合無機層状化合物薄膜の特性
ポリエチレングリコールを用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例9】
【0054】
(1)ポリアクリルアマイド複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.99グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、ポリアクリルアマイド(Aldrich Chemical Company製)を0.01グラム含む水溶液1cm3を混合した。この天然モンモリロナイト及びポリアクリルアマイドを含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0055】
(2)ポリアクリルアマイド複合無機層状化合物薄膜の特性
ポリアクリルアマイドを用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例10】
【0056】
(1)ポリエチレンオキサイド複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.99グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、ポリエチレンオキサイド(Aldrich Chemical Company製)を0.01グラム含む水溶液1cm3 を混合した。この天然モンモリロナイト及びポリエチレンオキサイドを含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0057】
(2)ポリエチレンオキサイド複合無機層状化合物薄膜の特性
ポリエチレンオキサイドを用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例11】
【0058】
(1)デオキシリボクレイン酸複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.99グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、デオキシリボクレイン酸(東京化成工業株式会社製)の粉末0.01グラムを混合した。この天然モンモリロナイト及びデオキシリボクレイン酸を含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0059】
(2)デオキシリボクレイン酸複合無機層状化合物薄膜の特性
デオキシリボクレイン酸を用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例12】
【0060】
(1)ポリ−L−リシン臭化水素ガス酸塩複合無機層状化合物薄膜の製造
無機層状化合物として、0.99グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水可溶性高分子として、ポリ−L−リシン臭化水素ガス酸塩(ICN Biochemicals Inc.製)の粉末0.01グラムを混合した。この天然モンモリロナイト及びポリ−L−リシン臭化水素ガス酸塩を含む分散液を、底面が平坦で、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、無機層状化合物粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中において、50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合無機層状化合物薄膜を得た。生成した複合無機層状化合物薄膜をトレイから剥離した。
【0061】
(2)ポリ−L−リシン臭化水素ガス酸塩複合無機層状化合物薄膜の特性
ポリ−L−リシン臭化水素ガス酸塩を用いて得た複合無機層状化合物薄膜の空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【実施例13】
【0062】
(1)複合粘土膜の製造
粘土として、0.95グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水溶性高分子として、イプシロンカプロラクタム(和光純薬工業株式会社製)を0.05グラム含む水溶液を加え、得られた分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約30マイクロメートルの均一な複合粘土膜を得た。生成した粘土薄膜をトレイから剥離して複合粘土膜を得た。
【0063】
(2)複合粘土膜のガスバリア材としての利用形態
得られた複合粘土膜を長さ10cm、幅2cmに切り取り、図3に示したオートクレーブ(SUS316製、内容積30cm3) 本体のネジ部(N30, P2)に巻きつけた。次に、オートクレーブに20cm3の蒸留水を入れ、締め込み部品をフタをスパナでねじこむことで締め付けた。次に、このオートクレーブを300℃に保った電気炉に入れ、時間経過に伴うオートクレーブの重量変化を測定し、そこから水の初期値に対する残存割合を計算した。図4に、経過時間と水の残存割合の関係を示す。複合粘土膜をネジ部に巻きつけた場合、水の保持量は72時間変化せず高温高圧の水蒸気に対するバリア性を示した。
【0064】
(2)複合粘土膜のガスバリア材としての利用形態
得られた複合粘土膜を長さ3cm、幅2cmに切り取り、図7に示したマイクロリアクター本体の側面に、シール押さえをネジで締め付けることで固定した。次に、マイクロリアクターに水素を導入し、300℃で加熱する反応を行った。その結果、シール部からなんのリークも確認されず、高温水素に対するガスバリア性を示し、本粘土複合膜のマイクロリアクターのガス遮蔽材としての有用性を確認した。
【0065】
比較例1
図1に示したオートクレーブ(SUS316製、内容積30cm3)に、20cm3の蒸留水を入れ、締め込み部品をフタをスパナでねじこむことで締め付けた。次に、このオートクレーブを300℃に保った電気炉に入れ、時間経過に伴うオートクレーブの重量変化を測定し、そこから水の初期値に対する残存割合を計算した。図4に、経過時間と水の残存割合の関係を示す。45分後にオートクレーブ中の全ての水が失われた。
【実施例14】
【0066】
(1)複合粘土膜の製造
粘土として、0.32グラムの天然モンモリロナイト(クニピアP、クニミネ工業株式会社製)を、60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)製回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、水溶性高分子として、イプシロンカプロラクタム(和光純薬工業株式会社製)を0.017グラム含む水溶液を加え、得られた分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約10マイクロメートルの均一な複合粘土膜を得た。生成した粘土薄膜をトレイから剥離して複合粘土膜を得た。
【0067】
(2)複合粘土膜のガスバリア材としての利用形態
得られた複合粘土膜を適当な大きさに切り取り、図5に示すように、二枚のプラスチック膜に挟み、接着剤により相互に接着し、3層の多層膜を作製した。プラスチック膜は、フッ素樹脂(四フッ化エチレン) であり、一層の厚さは50マイクロメートルであった。この多層膜のヘリウムの透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、5.9×10-11cm2-1cmHg-1未満であることが確認され、多層膜が、ガスバリア性能を示すことがわかった。
【0068】
比較例2
図6に示すように、二枚のプラスチック膜を、接着剤により相互に接着し、2層の多層膜を作製した。プラスチック膜は、フッ素樹脂(四フッ化エチレン) であり、一層の厚さは50マイクロメートルであった。この多層膜のヘリウムの透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定したところ、室温において、1.1×10-19cm2
-1cmHg-1であることが確認された。
【実施例15】
【0069】
粘土として、0.95gの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を60cm3の蒸留水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が円形であり、その直径の長さが約15cmの真鍮製トレイに注ぎ、分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、トレイの水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、円形の厚さ約30マイクロメートルの半透明粘土薄膜を得た。電子顕微鏡観察より、金属板と粘土薄膜界面は隙間なく接しており、手で接触した程度では容易に剥がれなかった。
【実施例16】
【0070】
粘土として、2,765グラムの天然モンモリロナイト(クニピア P、クニミネ工業株式会社製)と0.691グラムの合成雲母(ソマシフME-100、コープケミカル株式会社製)とを、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、イプシロンカプロラクタム(和光純薬工業株式会社製)を0.144グラム加え、激しく振とうし、天然モンモリロナイト及びイプシロンカプロラクタムを含む均一な分散液を得た。これを徐々に乾燥し、粘土ペーストを得た。次に、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行った。次に、この粘土ペーストを、真鍮製トレイに塗布した。塗布には、ステンレス製地べらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。ここでペーストの厚みを2ミリメートルとした。このトレイを強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で1時間乾燥することにより、厚さ約40マイクロメートルの均一な添加物複合粘土膜を得た。生成した粘土膜をトレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた粘土膜を得た。
【0071】
この膜を電気炉で加熱した。室温から700℃まで毎時100℃の速度で加熱した。次に、700℃で24時間保持した。その後、電気炉内で放冷した。この加熱処理の結果、膜には黒化及びスポット的に膨れ形状が観察された。しかし、持ち上げた際にスポット的に破壊を生じ、肉眼で観察できるピンホールは発生しなかった。
【実施例17】
【0072】
粘土として、2.765グラムの天然モンモリロナイト(クニピア P、クニミネ工業株式会社製)と0.691グラムの合成雲母(ソマシフME-100、コープケミカル株式会社製)とを、100cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器に、テフロン(登録商標)回転子とともに入れ、25℃で2時間激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に添加物として、イプシロンカプロラクタム(和光純薬工業株式会社製)を0.324グラム加え、激しく振とうし、天然モンモリロナイト及びイプシロンカプロラクタムを含む均一な分散液を得た。これを徐々に乾燥し、粘土ペーストを得た。次に、真空脱泡装置により、この粘土ペーストの脱気を行った。次に、この粘土ペーストを、真鍮製トレイに塗布した。塗布には、ステンレス製地べらを用いた。スペーサーをガイドとして利用し、均一厚の粘土ペースト膜を成型した。ここでペーストの厚みを2ミリメートルとした。このトレイを強制送風式オーブン中において、60℃の温度条件下で1時間乾燥することにより、厚さ40マイクロメートルの均一な添加物複合粘土薄膜を得た。生成した粘土膜をトレイから剥離して、自立した、フレキシビリティーに優れた粘土膜を得た。
【0073】
この膜を電気炉で加熱した。室温から700℃まで毎時100℃の速度で加熱した。次に、700℃で24時間保持した。その後、電気炉内で放冷した。この加熱処理の結果、膜には黒化及びスポット的に膨れ形状が観察された。更に、持ち上げた際に、スポット的に破壊を生じ、600℃まで加熱した場合には肉眼で観察できるピンホールは発生しなかったが、700℃まで加熱した場合には肉眼で観察できるピンホールが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上詳述したように、本発明は、無機層状化合物を主要構成成分とする膜であることを特徴とするガス遮蔽材及びその遮蔽材を用いたガス遮蔽方法であり、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、無機層状化合物粒子の配向積層を高度に向上させたガス遮蔽材、及びその遮蔽材あるいはその遮蔽材を含む多層フィルム用いたガス遮蔽方法に係るものであり、本発明の無機層状化合物膜は、自立膜として用いることが可能であり、また、350℃を超える高温条件下で使用が可能であり、かつ、フレキシビリティーに優れており、更に、ピンホールの存在しない緻密な材料であり、バリア性に優れるといった特徴を有するものである。したがって、本発明の無機層状化合物膜は、350℃を超える高温条件下でフレキシビリティーに優れたパッキンやセパレータとして広範に使用することができ、多くの化学産業分野で、生産ラインの配管連結部のリーク防止、電池や電解装置の隔膜などに利用することができる。また、マイクロリアクター用のシール材として用いることができる。また、本発明の粘土膜は、ガス、溶液、オイル等を遮蔽する配管シール材、ロケットやジェット機エンジン周辺の燃料シール材、燃料電池隔膜などに利用が可能である。また、溶媒を除去し、複合粘土膜を形成させたのち、支持体表面から剥離せずに支持体の保護膜として用いることも可能であり、これによって、支持体の防食、防汚、耐熱性向上の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の、ポリアクリル酸塩を用いて調製した複合無機層状化合物薄膜(用いたポリアクリル酸ナトリウムの全固体に対する重量割合は0.02%) のX線回折チャートを示す図である。
【図2】本発明の、ポリアクリル酸塩を用いて調製した複合無機層状化合物薄膜(用いたポリアクリル酸ナトリウムの全固体に対する重量割合は0.02%) のTG−DTAチャート(昇温速度5℃毎分、空気雰囲気下)を示す図である。
【図3】オートクレーブの構造を示す側面図である。
【図4】複合粘土膜により螺子部のシールをした場合と、しなかった場合で、300℃に保った電気炉に入れたオートクレーブ内の水の、初期量に対する残存割合が時間経過に伴ってどのように変化したか示す図である。
【図5】多層膜の断面構造を示す図である。
【図6】多層膜の断面構造を示す図である。
【図7】マイクロリアクターガス出入り口部への本発明の膜のガスバリアシールの使用形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状無機化合物を主要構成成分とする膜からなるガス遮蔽材であって、前記膜は、(1)層状無機化合物のみ又は層状無機化合物と添加剤から構成される、(2)層状無機化合物の全固体に対する重量比が90%を超える、(3)ガスバリア性を有する、及び(4)自立膜として利用可能な機械的強度を有する、ことを特徴とする上記ガス遮蔽材。
【請求項2】
層状無機化合物が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト及びノントロナイトのうちの1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のガス遮蔽材。
【請求項3】
添加剤が、イプシロンカプロラクタム、デキストリン、澱粉、セルロース系樹脂、ゼラチン、寒天、小麦粉、グルテン、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、タンパク質、デオキシリボヌクレイン酸、リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸、多価フェノール、安息香酸類化合物のうちの1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載のガス遮蔽材。
【請求項4】
加熱、光照射等の任意の方法により、上記添加物分子内、添加物分子間、添加物と無機層状化合物間、無機層状化合物結晶間において、付加反応、縮合反応、重合反応等の化学反応を行わせ、新たな化学結合を生じさせて、ガスバリア性、あるいは機械的強度を改善させたことを特徴とする、請求項1に記載のガス遮蔽材。
【請求項5】
示差熱分析において、200℃から600℃の温度範囲における重量減少が10パーセント未満で、ガス遮蔽材を構成する層状無機化合物の基本構造は変化しないことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のガス遮蔽材。
【請求項6】
室温における、空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、ヘリウムガスに対する透過係数が3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のガス遮蔽材。
【請求項7】
600℃で24時間加熱処理後に、ヘリウムガス、水素ガス、酸素ガス、窒素ガス、空気の室温におけるガス透過係数が3.2×10-11cm2-1cmHg-1未満であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のガス遮蔽材。
【請求項8】
室温における純水の透水係数が2×10-10cm/sec以下であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のガス遮蔽材。
【請求項9】
ガス遮蔽材が、シール材、パッキン材、又は包装材である、請求項1から8のいずれかに記載のガス遮蔽材。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載のガス遮蔽材を用いてガス遮蔽処理を行うことを特徴とするガス遮蔽方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載のガス遮蔽材を含む多層フィルムを用いてガス遮蔽処理を行うことを特徴とするガス遮蔽方法。
【請求項12】
ガス遮蔽材を、シール材、パッキン材、又は包装材として用いることを特徴とする、請求項10又は11に記載のガス遮蔽方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−265517(P2006−265517A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232669(P2005−232669)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】