説明

ガス量測定装置及び介在物の測定装置

【課題】本発明は、溶融金属中に含まれる特定の種類のガス量又は介在物に付随する特定の種類のガス量の絶対量あるいは介在物の粒子数を測定することを課題とする。
【解決手段】溶融金属を収容する真空容器1と、真空容器に接続する,大気開放バルブが介装された第1の配管5aと、真空容器に接続する,校正ガス発生器が介装された第2の配管5bと、真空容器に接続する,真空計、第1のバルブ、リークバルブ、第2のバルブ、ターボ分子ポンプ、第3のバルブ及び粗引きポンプが介装された第3の配管5cと、真空容器,第1のバルブ間の第3配管とリークバルブ,第2のバルブ間の第3配管とを接続する,第4のバルブが介装された第1のバイパス配管16と、リークバルブ,第2のバルブ間の第3配管と第3のバルブ,粗引きポンプの間の第3配管とを接続する,第5のバルブが介装された第2のバイパス配管17を具備することを特徴とするガス量測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス量測定装置及び介在物の測定装置に関し、特に溶融金属中に含まれる全ガス量又は介在物に付随するガス量を測定する為のガス量測定装置、及び介在物の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジン等の部品には特定の金属や合金が使用されているが、部品の精製後の単位重量当たりの不純物ガスの量は精製前のそれよりも少なくなることが一般に知られている。これは、精製中に部品となる試料中の不純物ガスが揮散するためである。このような場合、精製後の部品を再度溶融して部品中の不純物ガス量を少しでも少なくすることが行われているが、このように精製後の部品を再度溶融するのはコスト高を招くので好ましくない。
【0003】
また、最近、資源の有効利用の観点から一度使用した金属製品を再利用するリサイクル化の傾向が進んでいる。しかし、例えばアルミ製品を溶融した場合、水素ガス、二酸化炭素ガス、酸素、窒素など多種のガスが発生する。従って、一度使用したアルミ製品を金型に送って鋳込むと、得られた製品中に気泡が残留し、ピンホール等が発生することがあるので、好ましくない。
【0004】
上述した問題を回避するために、溶融金属中にどの程度のガス量が含まれているかを測定することが試みられている。例えば特許文献1には、溶融金属を収納するチャンバと、該チャンバ内を所定圧力にするためのポンプと、チャンバ内の圧力を測定する測定手段とを備え、溶融金属から発生するガスによる圧力上昇から、ガス量を測定することが開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係るガス量測定装置の全体図を示す。
【図2】図2は、図1の測定装置において試料が有無の場合の真空容器内の圧力と時間との関係を示す特性図である。
【図3】図3は、図2の特性図に対応した圧力差と図2の同じピーク値の回数との関係を示す特性図である。
【図4】図4は、本発明の実施例2に係るガス量測定装置の全体図を示す。
【図5】図5は、本発明の実施例3に係る介在物の測定装置の概略図を示す。
【図6】図6は、図5の測定装置による試料の破裂気泡体積と介在物表面積との関係を示す特性図を示す。
【図7】図7は、図5の測定装置による全ガス量とHガス量との関係を示す特性図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明において、前記校正ガス発生器としては、第2の配管に互に離間して配置された2つの校正用バルブと、これらの校正用バルブ間の第2の配管(配管部)に収容される標準ガスの圧力を測定する真空計とを具備した構成が挙げられる。前記配管部には例えばボンベにより標準ガスが送られて、1気圧に保持される。従って、配管部を一定の体積にして圧力1気圧に保持した状態で、配管部の温度が分かれば、後述する圧力と体積の一般式より配管部の標準ガスのモル数が分かる。
【0013】
具体的には、前記モル数は次の式により求めることができる。
PV=nRT
但し、上記式で、P:圧力(気圧)、V:配管部の体積(校正用バルブ間の体積)(リットル)、T:気体の絶対温度(K)、R:気体定数(一定値)、n:標準用ガスのモル数である。
【0014】
本発明において、真空容器内に溶融金属を加熱するためのヒーターを設けることが好ましい。具体的には、図4のようにヒーターをサンプルカップの外側に配置する。これにより、サンプルカップ内に収容する溶融金属の温度低下を抑制することができる。
【0015】
本発明において、溶融金属中に含まれる特定の種類のガス量の絶対量を求める場合は、次のような過程を経て行う。即ち、まず、真空容器に溶融金属が存在しない場合の真空容器内の圧力と時間との関係から圧力が一定になる特性図を求める。次に、真空容器内に溶融金属を収納し、この状態での真空容器からの不純物ガス量Ssを前記特性図に基づいて検出する。つづいて、校正ガス発生器から測定すべき標準ガスを真空容器内に流してこの状態での標準ガス量Srを、前記特性図及び不純物ガス量Ssに基づいて検出することにより、特定ガスの絶対量を求める。
【0016】
次に、本発明に係るガス量測定装置について図面を参照して説明する。
(実施例1)
図1を参照する。図中の符番1は、開閉自在な蓋2を備えた真空容器を示す。この真空容器1内には、試料としての溶融金属(図示せず)を収容するためのサンプルカップ3が配置されている。真空容器1の上流側には、大気開放バルブ4を介装した第1の配管5aが接続されている。また、真空容器1の上流側には、校正ガス発生器6を介装した第2の配管5bが接続されている。ここで、校正ガス発生器6は、校正用バルブ7a,7bと、これらバルブ7a,7b間の配管5bに接続された圧力計8と、ボンベ9とから構成されている。校正ガス発生器6のバルブ7a,7b間の配管5b(配管部)内の圧力は、校正用ガスを流す時に1気圧に調整される。
【0017】
真空容器1の下流側には、第3の配管5cが接続されている。この第3の配管5cには、真空容器1内の圧力を測定する真空計13,フィルター10,第1のバルブ11a,リークバルブ12,第2のバルブ11b,ターボ分子ポンプ14,第3のバルブ11c及び粗引きポンプ15が、真空容器1側から順に配置されている。ここで、第2のバルブ11b及び第3のバルブ11cは、サンプルの出入時にターボ分子ポンプ14が破壊するのを回避するために設けられている。また、ターボ分子ポンプ14は溶融金属からの放出ガス量が少ないときに利用するもので、常時作動される。この理由は、ON,OFFによる作業時間の損失を防ぐためである。
【0018】
フィルター10,第1のバルブ11a間の配管5cと、リークバルブ12,第2のバルブ11b間の配管5cは、第1のバイパス管16により接続されている。リークバルブ12,第2のバルブ11b間の配管5cと、第3のバルブ11c,粗引きポンプ15間の配管5cは、第2のバイパス管17により接続されている。前記バイパス管16,17は、放出するガス量が多く、粗引きポンプ15を作動する場合に使用される。
【0019】
こうした構成のガス量測定装置の動作は、次の通りである。
(1)サンプルカップに溶融金属を収容する前
まず、第1のバルブ11a,第2のバルブ11bおよび第4のバルブ11dを全閉とし、第3のバルブ11cおよび第5のバルブ11eを全開として、粗引きポンプ15を立ち上げた後、ターボ分子ポンプ14を立ち上げる。この状態で、大気開放バルブ4を全開にして真空容器1の蓋2を開ける。次に、サンプルカップ3を真空容器1に入れ、蓋2を閉める。つづいて、大気開放バルブ4および第3のバルブ11cを全閉にし、第4のバルブ11dを全開にして、第1および第2のバイパス管16,17を経由して真空容器1内のガスを粗引きポンプ15で真空排気する。もし、真空容器1内のガス量が少ない場合、第4のバルブ11dは全開にしたまま、第5のバルブ11eを全閉にし、第2のバルブ11bおよび第3のバルブ11cを全開として第1のバイパス管16だけを経由してターボ分子ポンプ14と粗引きポンプ15で真空排気する。この状態で真空計13により真空容器1内の圧力を測定すると、図2の曲線Aのように徐々に圧力が低下するグラフが得られる。
【0020】
(2)サンプルカップに溶融金属を収容した後
まず、粗引きポンプ15を止めた後(ターボ分子ポンプ14を作動させている場合は、ターボ分子ポンプ14を先に止める)、大気開放バルブ4を開放する(1気圧に戻す)。次に、真空容器1の蓋2を開け、サンプルカップ3にサンプルを入れた後、蓋2を閉じる。つづいて、上記(1)と同様な操作を行ない、真空計13により真空容器1内の圧力を測定する。この結果、図2の曲線Bのように大小のピークa,b,cをもつグラフが得られる。
【0021】
(3)校正用ガスの供給
まず、真空容器1のサンプルカップ3にサンプルを入れてから時間T(例えば、4分20秒)経過後、校正用バルブ7a,7b間の配管5b(配管部)に、1気圧の標準ガス例えばNを入れる。つづいて、校正用バルブ7bを開けて、配管5bより真空容器1内にNを所定時間(T−T)流す。この結果、図2の曲線Cに示すように校正用ガスにより大きなピークをもつグラフCが得られる。このグラフCと前述したグラフAより、時間T〜Tまでの分子の個数Srを求める。ここで、Sr=PV、PV=nRTである(但し、P:配管部の圧力、V:配管部の体積、n:モル数、R:定数、T:配管部の温度)ので、モル数nを求めることができる。
【0022】
このように、上記実施例1のガス量測定装置によれば、真空容器1の上流側に、校正用バルブ7a,7bとこれらバルブ7a,7b間の配管部に接続された圧力計8とボンベ9とから構成される校正ガス発生器6を設けた構成になっているので、全ての種類のガス量を測定することができる。
なお、上記実施例1では、標準ガスとしてNを流した場合について述べたが、これに限らず、H,He等の任意のガス種でもよい。
【0023】
(実施例2)
図4を参照する。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。本実施例2は、図1と比べ、サンプリングカップ3の周囲にヒーター21を設けたことを特徴とする。
実施例2によれば、ヒーター21の存在によりサンプルカップ3内に収容する溶融金属の温度低下を抑制することができる。
【0024】
(実施例3)
本実施例3に係る介在物の測定装置について図5を参照する。
図中の符番31は測定装置本体であり、その内部に溶融金属32を収容する筒状の容器33が配置されている。この容器33の下部側には上下動可能なフィルター34が配置されている。前記容器33の外周部には、フィルター34を加熱するヒーター35が配置されている。フィルター34の真下には、フィルター34を通過した溶融金属32を受ける受け皿36が配置されている。容器33の上部には、溶融金属を加圧する際に使用する加圧ハンドル37及び上蓋38が配置されている。また、図示しないが、受け皿36内の溶融金属の切断面を観察するCCDカメラを備えた金属顕微鏡、及びこの金属顕微鏡を移動させる電動ステージが配置されている。
【0025】
こうした構成の測定装置の動作は次のとおりである。
まず、フィルター34を測定装置本体31内にセットした後、図示しない押し上げハンドルでフィルター34を上昇させ、筒状の容器33の下部に固定する。次に、試料としての溶融金属32を容器33内に挿入する。この挿入の際、フィルター34単体をヒーター35で加熱し、フィルター34の温度が約680℃まで達してから溶融金属32をセットする。溶融金属32が設定温度に達したら、図示しないパッキンを置き、中央の加圧ハンドル37を旋回させて容器33内の溶融金属32を加圧する。この後、溶融金属が含まれるフィルター34を取り出し、精密切断機により切断する。引き続き、切断したフィルター34を研磨し、金属顕微鏡によりその表面を観察し、フィルターの表面に介在する炭化物,酸化物,金属間酸化物等の介在物の色と形状を選別する。
【0026】
ここで、上述した図2のように、曲線Bのピークa,b,cでは介在物の周囲に付着したガスが破裂し、圧力上昇が起こる。従って、測定圧力の上昇と容器内容積から個別破壊気泡体積を算出し、体積の平均値を求める。この際、破壊した気泡を球と過程して破裂個数と各気泡の体積を算出し、破裂個数×各気泡体積=破裂気泡体積とする。同時に、上述のようにサンプリングしてろ過したフィルターを画像解析して各介在物を球と仮定し、表面積×個数=介在物表面積とする。破裂気泡体積xと介在物表面積yとの関係は図6に示すとおりで、y=0.45834+0.35438xとなり、相関関係Rは、0.57974(約0.6)となる。
このように、実施例3によれば、溶融金属中の総介在物量(異物量)を測定することができる。また、図5の測定装置を用いてアルミ合金(ADC12)での全ガス量とHガス量(cc/100gAl)との関係を調べたところ、図7に示す特性図が得られた。図7において、全ガス量をx、Hガス量をyとしたとき両者の関係は、y=0.034313+0.74752xであり、相関関係Rは0.74365(約0.7)である。このように、介在物の粒子数からガス量を測定することも可能であり、ガス量の管理が可能となる。
【0027】
なお、この発明は、上記実施例そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。具体的には、配管にフィルターを設けたが、必ずしも必要なものではないとともに、サンプリングカップの周囲に配置したヒーターも必ずしも必要なものではない。更に、異なる実施例に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。更には、上記実施例では、溶融金属中の純粋なガス量を測定する場合について述べたが、介在物に付随するガス量を測定しながら介在物を観察するような場合にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属中に含まれるガス量又は介在物に付随するガス量を測定するガス量測定装置であり、
溶融金属を収容する真空容器と、
この真空容器に接続する,大気開放バルブが介装された第1の配管と、
前記真空容器に接続する,校正ガス発生器が介装された第2の配管と、
前記真空容器に接続する,真空容器側から順に真空計、第1のバルブ、リークバルブ、第2のバルブ、ターボ分子ポンプ、第3のバルブ及び粗引きポンプが介装された第3の配管と、
前記真空容器,第1のバルブ間の第3配管と前記リークバルブ,第2のバルブ間の第3配管とを接続する,第4のバルブが介装された第1のバイパス配管と、
前記リークバルブ,第2のバルブ間の第3配管と前記第3のバルブ,粗引きポンプ間の第3配管とを接続する,第5のバルブが介装された第2のバイパス配管を具備することを特徴とするガス量測定装置。
【請求項2】
前記校正ガス発生器は、第2の配管に互に離間して配置された2つの校正用バルブと、これらの校正用バルブ間の配管部に収容される標準ガスの圧力を測定する真空計とから構成されていることを特徴とする請求項1記載のガス量測定装置。
【請求項3】
前記真空容器内に、溶融金属を加熱するためのヒーターを設けたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2記載のガス量測定装置。
【請求項4】
真空容器に溶融金属が存在しない場合の真空容器内の圧力と時間との関係から圧力が一定になる特性図を求めた後、真空容器内に溶融金属を収納し、この状態での真空容器からの不純物ガス量Ssを前記特性図に基づいて検出し、更に前記校正ガス発生器から測定すべき標準ガスを真空容器内に流してこの状態での標準ガス量Srを、前記特性図及び不純物ガス量Ssに基づいて検出し、標準ガスの絶対量を求めることを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれか記載のガス量測定装置。
【請求項5】
試料としての溶融金属中に含まれる酸化物,金属間化合物等の介在物を観察する介在物の測定装置であり、
溶融金属がセットされるフィルターと、このフィルターを加熱する加熱手段と、加熱加圧によりフィルターを通過した溶融金属の切断面を観察して溶融金属中の介在物,酸化物若しくは金属間化合物の色と形状を選別する,カメラを備えた金属顕微鏡と、この金属顕微鏡を稼動する電動ステージとを具備し、介在物の粒子数を測定することを特徴とする介在物の測定装置。
【請求項6】
介在物の粒子数からガス量を測定することを特徴とする請求項5記載の介在物の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−192530(P2009−192530A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6854(P2009−6854)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(591058792)日本金属化学株式会社 (11)