説明

ガソリン又はジメチルエーテルを製造するシステム又は方法

【課題】天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はDMEを製造する際の発熱エネルギーを有効に廃棄せずに利用する。
【解決手段】天然ガスの水蒸気改質による改質ガスからメタノールを合成し、そのメタノールからガソリン又はジメチルエーテルを製造する場合に、天然ガスを水蒸気改質する前に予備改質するか、水蒸気改質の排ガスから二酸化炭素を回収するか、水蒸気改質に供給する燃焼用空気を、ガソリン又はジメチルエーテル合成の合成熱で予熱するかを選択する。そして、水蒸気改質で発生する排ガスからの熱回収、改質ガスからの熱回収と、メタノール合成における合成熱と、ガソリン又はジメチルエーテル合成における合成熱と、選択される、予備改質の回収熱と、二酸化炭素回収の際の回収熱と、空気予熱の回収熱とを用いシステム全体のエネルギーをセルフバランスさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン又はジメチルエーテルを製造するシステム又は方法に関し、さらに詳しくは、天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はジメチルエーテルを製造するシステム又は方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスからメタノールを合成する場合、一般に、天然ガスを水蒸気改質して水素および一酸化炭素を含む改質ガスを生成し、この改質ガスからメタノールを合成する。このようなメタノール合成プラントでは、プラント内で必要とするスチームや熱は、水蒸気改質で発生する排ガスからの熱回収と、改質ガスからの熱回収と、メタノール合成における反応熱とを利用することで賄い、いわゆるセルフバランスを取るように設計することが行われている。
【0003】
一方で、特公平4−51596号公報には、メタノールからジメチルエーテル(DME)を経由してガソリンを合成する方法が記載されている。メタノールからDMEを合成する反応は発熱反応であり、その反応熱はメタノール1kg当たりに換算して231kcalである。また、メタノールからDMEを経由してガソリンを合成する反応も発熱反応であり、その反応熱はメタノール1kg当たり416kcalである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−51596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特公平4−51596号公報に記載されているようなメタノールからDME又はガソリンを合成する合成塔をメタノール合成プラントに組み込んで天然ガスからDME又はガソリンを製造しようとする場合、上述したようにDME又はガソリンの合成反応は発熱反応であり、従来のメタノール合成プラントにおけるエネルギーのセルフバランスと比べて、エネルギーが余ることとなる。しかしながら、DME又はガソリンの合成反応で生じる発熱エネルギーは、プラント内での利用用途がなく、捨てることになるという問題が生じる。
【0006】
さらに、メタノール合成プラントでは、その製造過程でメタノール中の水分を除去する蒸留操作が行われるが、メタノールからDMEやガソリンを合成する目的ではこのような蒸留操作は必要なく、蒸留用に用いた熱が余剰となる。
【0007】
そこで、本発明は、天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はDMEを製造する際に、ガソリン又はDMEの合成により生じる発熱エネルギーやメタノール蒸留が不要となったことによる熱を廃棄せずに有効に利用することができる、天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はDMEを製造するシステム又は方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その一態様として、天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はDMEを製造するシステムであって、天然ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する水蒸気改質装置と、前記水蒸気改質器で生成した改質ガスからメタノールを合成するメタノール合成装置と、前記メタノール合成装置で合成したメタノールからガソリン又はDMEを合成するガソリン又はDME合成装置とを備えており、更に、前記天然ガスを水蒸気改質する前に予備改質する予備改質装置と、前記水蒸気改質装置の前記排ガスから二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置と、前記水蒸気改質装置に供給する燃焼用空気を、前記ガソリン又はDME合成装置で予熱する空気予熱装置とからなる群から選択される少なくとも1つの装置を備えており、前記水蒸気改質装置で発生する排ガスからの熱回収と、前記改質ガスからの熱回収と、前記メタノール合成装置における合成熱と、前記ガソリン又はDME合成装置における合成熱と、前記選択された場合の前記予備改質装置の回収熱と、前記選択された場合の前記二酸化炭素回収装置の二酸化炭素回収熱と、前記選択された場合の前記空気予熱装置の回収熱とを用いて、本システム全体におけるエネルギーをセルフバランスさせたシステムである。
【0009】
本発明は、別の態様として、天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はDMEを製造する方法であって、天然ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する水蒸気改質工程と、前記水蒸気改質工程で生成した改質ガスからメタノールを合成するメタノール合成工程と、前記メタノール合成工程で合成したメタノールからガソリン又はDMEを合成するガソリン又はDME合成工程とを含み、更に、前記天然ガスを水蒸気改質する前に予備改質する予備改質工程と、前記水蒸気改質装置の前記排ガスから二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程と、前記水蒸気改質工程に供給する燃焼用空気を、前記ガソリン又はDME合成の合成熱で予熱する空気予熱工程とからなる群から選択される少なくとも1つの工程を含み、前記水蒸気改質工程で発生する排ガスからの熱回収と、前記改質ガスからの熱回収と、前記メタノール合成工程における合成熱と、前記ガソリン又はDME合成工程における合成熱と、前記選択された場合の前記予備改質工程の回収熱と、前記選択された場合の前記二酸化炭素回収工程の二酸化炭素回収熱と、前記選択された場合の前記空気予熱工程の回収熱とを用いて、天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はDMEを製造するシステムの全体におけるエネルギーをセルフバランスさせる方法である。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明によれば、天然ガスを水蒸気改質する前に予備改質する予備改質や、水蒸気改質で生じる排ガスから二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収や、水蒸気改質に供給する燃焼用空気を、ガソリン又はDME合成の合成熱で予熱する空気予熱のうち少なくとも1つを選択するとともに、水蒸気改質で発生する排ガスからの熱回収と、改質ガスからの熱回収と、メタノール合成における合成熱と、ガソリン又はDME合成における合成熱と、前記選択した予備改質、二酸化炭素回収、空気予熱の各回収熱とを用いて、システム全体としてエネルギーをセルフバランスさせることで、ガソリン又はDMEの合成により生じる発熱エネルギーを廃棄せずに有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る天然ガスからメタノールを経由してガソリンを製造するシステムの一実施の形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る天然ガスからメタノールを経由してガソリンを製造するシステムの別の実施の形態を示す模式図である。
【図3】本発明に係る天然ガスからメタノールを経由してガソリンを製造するシステムの更に別の実施の形態を示す模式図である。
【図4】本発明に係る天然ガスからメタノールを経由してガソリンを製造するシステムの図1〜図3を組み合わせた実施の形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る天然ガスからメタノールを経由してガソリンを製造するシステムおよび方法の一実施の形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態に係るシステムは、天然ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成するスチームリフォーマ10と、スチームリフォーマで生成した改質ガスからメタノールを合成するメタノール合成塔20と、メタノール合成塔で合成したメタノールからガソリンを合成するガソリン合成塔30と、天然ガスを水蒸気改質する前に予備改質するプレリフォーマ40とを主に備える。
【0014】
スチームリフォーマ10は、水蒸気改質用の反応管11と、この反応管11の周囲に配置された燃焼部12と、この燃焼部12で発生した排ガスの廃熱を回収する廃熱回収部15と、廃熱回収後の排ガスを大気へ開放する煙突16とを主に備える。反応管11は、その内部に充填された水蒸気改質用触媒を備え、以下に示す反応によってメタンを主成分とする天然ガスから水素、一酸化炭素および二酸化炭素を生成する装置である。水蒸気改質用触媒としては、例えば、ニッケル系触媒などの公知の触媒を用いることができる。
CH+HO→3H+CO・・・(式1)
CO+HO→H+CO・・・(式2)
【0015】
反応管11の入口には、天然ガスおよび水蒸気を含む原料1を供給する原料供給ライン13を接続する。燃焼部12は、反応管11を加熱するための燃焼バーナ(図示省略)を備え、この燃焼バーナには、天然ガスなどの燃料2を供給する燃料供給ライン14を接続する。反応管11の出口には、水蒸気改質反応により生成した水素、一酸化炭素および二酸化炭素を主成分として含む改質ガスをメタノール合成塔29に供給する改質ガス供給ライン18を接続する。
【0016】
プレリフォーマ40は、天然ガス中の主にエタン等のC2以上の炭化水素をC1のメタンや一酸化炭素、水素に予備改質する装置である。プレリフォーマ40は、その内部に充填された予備改質用触媒を備える。予備改質用触媒としては、ニッケル系触媒などの公知の触媒を用いることができる。
【0017】
プレリフォーマ40は、スチームリフォーマ10の原料上流側、すなわち、原料供給ライン13に配置する。原料供給ライン13には、プレリフォーマ40の更に原料上流側に、原料1を廃熱回収部15の排ガスで予熱する第1の排ガス−原料熱交換器41を配置し、プレリフォーマ40の原料下流側に、プレリフォーマ40で予備改質した原料を、廃熱回収部15の排ガスで予熱する第2の排ガス−原料熱交換器42を設ける。
【0018】
すなわち、スチームリフォーマ10の廃熱回収部15は、燃焼部12から煙突16への排ガスの流れの順に、上述した第2の排ガス−原料熱交換器42と第1の排ガス−原料熱交換器41、そして、排ガス−スチーム熱交換器17を備える。排ガス−スチーム熱交換器17は、システム内で用いるスチーム又は熱を得るため、廃熱回収部15内を流れる排ガスでボイラ水などを加熱して高圧のスチームを得て、排ガスの熱回収を行う装置である。
【0019】
同様にシステム内で用いるスチーム又は熱を得るため、改質ガス供給ライン18には、改質ガス−スチーム熱交換器19を設ける。改質ガス−スチーム熱交換器19は、改質ガスでボイラ水などを加熱して高圧のスチームを得て、改質ガスの熱回収を行う装置である。
【0020】
メタノール合成塔20は、以下に示す反応により改質ガスからメタノールを合成する装置である。
CO+2H→CHOH・・・(式3)
CO+3H→CHOH+HO・・・(式4)
【0021】
メタノール合成塔20は、その内部に充填されたメタノール合成触媒を備える。メタノール合成触媒としては銅系触媒などの公知の触媒を用いることができる。メタノール合成塔20には、メタノール合成塔20で合成したメタノールをガソリン合成塔30に供給するメタノール供給ライン22を接続する。なお、このメタノール供給ライン22は、合成したメタノールの他、式4で副生する水を含む液状の粗メタノールが流れるものである。
【0022】
ガソリン合成塔30は、以下の式に示す反応によってメタノールからガソリンを合成する装置である。
2CHOH→CHOCH+HO・・・(式5)
1/2nCHOCH→(CH)n+1/2nHO・・・(式6)
【0023】
このようにメタノールは、式5で示すようにジメチルエーテル(DME)合成反応を経て、式3に示すガソリン合成反応によりガソリンとなる。ガソリン合成塔30内には、DME合成用触媒とガソリン合成用触媒との2種類の触媒を2段階に設け、2つの反応を段階的に進めることができる。DME合成用触媒としては、例えば、アルミノシリケート型ゼオライト系触媒などの公知の触媒を用いることができる。また、ガソリン合成用触媒としても、アルミノシリケート型ゼオライト系触媒などの公知の触媒を用いることができる。
【0024】
ガソリン合成塔30には、ガソリン合成塔30で合成したガソリンを貯蔵設備など(図示省略)に供給するガソリン供給ライン32を接続する。なお、図1では、ガソリン合成塔30を示したが、ガソリン合成塔30に替えて、式5のDME合成反応までで留めてDMEを製造するDME合成塔を設けることもできる。
【0025】
以上の構成によれば、先ず、天然ガスなどの燃料2を、燃料供給ライン14を介してスチームリフォーマ10の燃焼部12に供給する。燃焼部12では、燃料2を空気とともに燃焼して、反応管11を約800℃〜約900℃の温度に加熱する。燃焼部12で発生した二酸化炭素を含む燃焼排ガスは、廃熱回収部15へ流れる。
【0026】
一方、天然ガスおよび水蒸気を含む原料1は、スチームリフォーマ10の廃熱回収部15の第1の排ガス−原料熱交換器41で約450℃〜約550℃の温度に加熱された後、プレリフォーマ40に供給される。プレリフォーマ40では、原料1中のエタン等のC2以上の炭化水素がメタン等に予備改質される。この予備改質されたガスは、再び、第2の排ガス−原料熱交換器42で約600℃〜約700℃の温度に加熱された後、原料供給ライン13を介してスチームリフォーマ10の反応管11に供給される。
【0027】
燃焼部12で発生した二酸化炭素を含む燃焼排ガスは、約1000℃の温度を有するが、上述したように廃熱回収部15の第2の排ガス−原料熱交換器42および第1の排ガス−原料熱交換器41で原料1を順次加熱し、そして排ガス−スチーム熱交換器17でボイラ水などを加熱し、熱回収が行われた後、煙突16から大気へ放出される。
【0028】
スチームリフォーマ10の反応管11では、上記の式1および式2の反応によって、原料1が水蒸気改質され、水素、一酸化炭素、二酸化炭素を主成分とする改質ガスに転換される。この改質ガスは、改質ガス供給ライン18を介してメタノール合成塔20に供給されるが、その前に、改質ガス−スチーム熱交換器19でボイラ水などを加熱して熱回収を行う。
【0029】
メタノール合成塔20では、上記の式3および式4の反応により、改質ガスからメタノールが合成される。メタノール合成反応は発熱反応である。改質ガスは、改質ガス熱交換器19によって、メタノール合成に適した約160℃〜約200℃の温度とする。メタノール合成塔20で合成したメタノールは、水を含有する粗メタノールとして、メタノール供給ライン22を介してガソリン合成塔30に供給される。
【0030】
ガソリン合成塔30では、上記の式5および式6の反応により、メタノールからガソリンが合成される。このガソリン合成反応は発熱反応である。また、式6で水が副生することから、粗メタノールに水が含まれていてもよく、よって、ガソリン合成塔30にメタノールを供給するメタノール供給ライン22に、従来のメタノール合成プラントで必要であった、粗メタノールを蒸留して水を除去する精製装置を設ける必要はない。
【0031】
このように、従来のメタノール合成プラントに対して、発熱反応であり熱エネルギーが発生するガソリン合成塔30を設けるとともに、エネルギーを消費するメタノール蒸留塔が不要になることから、エネルギーが過剰となるものの、プレリフォーマ40を設け、プレリフォーマ40の前後の原料を、スチームリフォーマ10の廃熱回収部15の第1及び第2の排ガス−原料熱交換器41、42で加熱することで、スチームリフォーマ10の燃焼部12への燃料2の供給量を抑えることができる。また、スチームリフォーマ10の廃熱回収部15では、第1及び第2の排ガス−原料熱交換器41、42を設けることで回収熱が減少するが、この減少分をガソリン合成塔30で発生する発熱エネルギーを利用することで、システム全体のエネルギーをセルフバランスするように設計することができる。
【0032】
次に、図2に示す実施の形態について説明する。本実施の形態のシステムは、スチームリフォーマ10と、メタノール合成塔20と、ガソリン合成塔30と、スチームリフォーマの燃焼排ガスからCO2を除去するCO回収装置50とを主に備える。なお、図1に示すシステムと同一の構成については同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0033】
CO回収装置50は、スチームリフォーマ10の廃熱回収部15を流れる燃焼排ガスに、CO吸収液を気液接触させて、排ガス中の二酸化炭素を吸収、除去する装置である。CO回収装置50は、排ガス−スチーム熱交換器17よりも排ガス下流側に配置する。なお、CO回収装置50には、吸収液再生装置(図示省略)が併設されている。吸収液再生装置は、二酸化炭素を吸収したCO吸収液から二酸化炭素を分離して、CO吸収液を再生するとともに、二酸化炭素ガスを得る装置である。
【0034】
CO回収装置50には、回収した二酸化炭素ガスを、メタノール合成塔20での上記の式4に示す反応の原料として再利用するため、メタノール合成塔20に供給するCO供給ライン51を設ける。
【0035】
以上の構成によれば、先ず、天然ガスなどの燃料2を、燃料供給ライン14を介してスチームリフォーマ10の燃焼部12に供給する。燃焼部12では、燃料2を空気とともに燃焼して、反応管11を約800℃〜約900℃の温度に加熱する。燃焼部12で発生した二酸化炭素を含む燃焼排ガスは、約1000℃の温度を有し、廃熱回収部15の排ガス−スチーム熱交換器17でボイラ水などを加熱し、熱回収が行われた後、CO回収装置50によってCOが除去され、煙突16から大気へ放出される。
【0036】
一方、天然ガスおよび水蒸気を含む原料1は、原料供給ライン13を介してスチームリフォーマ10の反応管11に供給される。スチームリフォーマ10の反応管11では、原料1が水蒸気改質反応によって改質ガスに転換される。改質ガスは、改質ガス−スチーム熱交換器19でボイラ水などを加熱して熱回収が行われた後、改質ガス供給ライン18を介してメタノール合成塔20に供給される。また、CO回収装置50によって回収した二酸化炭素ガスも、CO供給ライン51を介してメタノール合成塔20に供給される。
【0037】
メタノール合成塔20では、上記の式3および式4の反応により、改質ガスおよび二酸化炭素ガスからメタノールが合成される。二酸化炭素ガスが加わることで、改質ガス中の余剰水素をメタノールに転換でき、メタノールの生成量を増やすことができる。また、メタノール合成反応は発熱反応であることから、生成量の増加に従い、メタノール合成塔20における発熱エネルギーも増加する。メタノール合成塔20で合成したメタノールは、水を含有する粗メタノールとして、メタノール供給ライン22を介してガソリン合成塔30に供給される。
【0038】
ガソリン合成塔30では、上記の式5および式6の反応により、メタノールからガソリンが合成される。メタノールの供給量が増えることで、ガソリンの生成量も増えるとともに、ガソリン合成反応は発熱反応であることから、生成量の増加に従い、ガソリン合成塔30における発熱エネルギーも増加する。
【0039】
このように、従来のメタノール合成プラントに対して、発熱反応であり熱エネルギーが発生するガソリン合成塔30を設けるとともに、エネルギーを消費するメタノール蒸留塔が不要になることから、エネルギーが過剰となるものの、エネルギーを消費するCO回収装置50および吸収液再生装置(図示省略)を設けることで、システム全体のエネルギーをセルフバランスするように設計することができる。また、CO回収装置50で回収した二酸化炭素ガスを改質ガスとともにメタノール合成塔20に供給することで、ガソリン合成塔30におけるガソリンの生成量を増やすことができる。
【0040】
図3に示す実施の形態について説明する。本実施の形態のシステムは、スチームリフォーマ10と、メタノール合成塔20と、ガソリン合成塔30と、スチームリフォーマの燃焼部に供給する燃焼用空気を予熱する空気予熱装置60とを主に備える。なお、図1及び図2に示すシステムと同一の構成については同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0041】
空気予熱装置60は、燃焼用空気を送風するファン63と、スチームリフォーマ10の廃熱回収部15を流れる燃焼排ガスで、燃焼用空気を予熱する排ガス−燃焼用空気熱交換器62と、予熱した燃焼用空気を更にガソリン合成塔30で発生する合成熱で加熱するために、ガソリン合成塔30に導入して燃焼用空気導入ライン61と、合成熱で加熱した燃焼用空気をスチームリフォーマ10の燃焼部12に供給する燃焼用空気供給ライン64とを備える。排ガス−燃焼用空気熱交換器62は、排ガス−スチーム熱交換器17よりも排ガス下流側に配置する。
【0042】
ガソリン合成塔30の反応熱で燃焼用空気を加熱する手段としては、特に限定されないが、例えば、ガソリン合成塔30の反応熱でボイラ水などを加熱してスチームを得て、このスチームで燃焼用空気を加熱することができる。又は、ガソリン合成塔30内のDME合成用触媒やガソリン合成用触媒が充填された反応管(図示省略)と燃焼用空気とを熱交換することができる。
【0043】
以上の構成によれば、先ず、天然ガスなどの燃料2を、燃料供給ライン14を介してスチームリフォーマ10の燃焼部12に供給する。燃焼部12では、燃料2を空気とともに燃焼して、反応管11を約800℃〜約900℃の温度に加熱する。燃焼部12で発生した二酸化炭素を含む燃焼排ガスは、-約1000℃の温度を有し、廃熱回収部15の排ガス−スチーム熱交換器17でボイラ水などを加熱して熱回収が行われた後、約300℃〜約400℃の温度まで冷却される。そして、排ガス−燃焼用空気熱交換器62にて、ファン63からの燃焼用空気を加熱した後、煙突16から大気へ放出される。
【0044】
一方、天然ガスおよび水蒸気を含む原料1は、原料供給ライン13を介してスチームリフォーマ10の反応管11に供給される。スチームリフォーマ10の反応管11では、原料1が水蒸気改質反応によって改質ガスに転換される。改質ガスは、改質ガス−スチーム熱交換器19でボイラ水などを加熱して熱回収が行われた後、改質ガス供給ライン18を介してメタノール合成塔20に供給される。
【0045】
メタノール合成塔20では、改質ガスおよび二酸化炭素ガスからメタノールが合成される。メタノール合成塔20で合成したメタノールは、水を含有する粗メタノールとして、メタノール供給ライン22を介してガソリン合成塔30に供給される。
【0046】
ガソリン合成塔30では、上記の式5および式6の反応により、メタノールからガソリンが合成される。ガソリン合成塔30でのメタノールからDMEへの合成反応は発熱反応であり、その反応熱はメタノール1kg当たり185kcalである。また、ガソリン合成反応も発熱反応であり、その反応熱はメタノール1kg当たりに換算して231kcalである。よって、メタノールからガソリンを合成する場合、その反応熱はメタノール1kg当たり416kcalである。この反応熱を利用して、燃焼用空気導入ライン61から導入される燃焼用空気の加熱を行う。
【0047】
ガソリン合成塔30でのDME合成反応の条件は、250〜300℃の範囲の温度が好ましい。また、ガソリン合成反応の条件は、380〜450℃の範囲の温度が好ましい。よって、燃焼用空気を約300℃〜約380℃の温度まで加熱することができる。
【0048】
ガソリン合成塔30で加熱された燃焼用空気は、燃焼用空気供給ライン64を介してスチームリフォーマ10の燃焼部13に燃料2とともに供給される。燃焼用空気がこのように加熱されていることから、燃焼部13への燃料2の供給量を抑えることができる。
【0049】
このように、従来のメタノール合成プラントに対して、発熱反応であり熱エネルギーが発生するガソリン合成塔30を設けるとともに、エネルギーを消費するメタノール蒸留塔が不要になることから、エネルギーが過剰となるものの、ガソリン合成塔30の発熱エネルギーを利用して、スチームリフォーマ10の燃焼用空気を予め加熱するとともに、燃焼用空気が予め加熱されることで、スチームリフォーマ10への燃料2の供給量を抑えることができ、よって、システム全体のエネルギーをセルフバランスするように設計することができる。
【0050】
図4に示す実施の形態について説明する。本実施の形態のシステムは、図1〜図3の実施の形態を全て組み合わせたものである。すなわち、本システムは、スチームリフォーマ10と、メタノール合成塔20と、ガソリン合成塔30と、プレリフォーマ40と、CO回収装置50と、スチームリフォーマの燃焼部に供給する空気予熱装置60とを主に備える。なお、図1〜図3に示す実施の形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳しい説明は省略する。
【0051】
スチームリフォーマ10の廃熱回収部15は、排ガス上流側から、第2の排ガス−原料熱交換器42、第1の排ガス−原料熱交換器41、排ガス−スチーム熱交換器17、排ガス−燃焼用空気熱交換器62、CO回収装置50の順に配置する。
【0052】
以上の構成によれば、先ず、天然ガスなどの燃料2を、燃料供給ライン14を介してスチームリフォーマ10の燃焼部12に供給する。燃焼部12では、燃料2を空気とともに燃焼して、反応管11を約800℃〜約900℃の温度に加熱する。燃焼部12で発生した二酸化炭素を含む燃焼排ガスは、約1000℃の温度を有し、第2の排ガス−原料熱交換器42で原料を加熱し、約450℃〜約550℃の温度まで冷却された後、第1の排ガス−原料熱交換器41で原料を加熱し、約600℃〜約700℃の温度まで冷却される。次に、廃熱回収部15の排ガス−スチーム熱交換器17でボイラ水などを加熱し、約300℃〜約400℃の温度まで冷却された後、排ガス−燃焼用空気熱交換器62で燃焼用空気を加熱して熱回収が行われる。そして、CO回収装置50によってCOが除去された後、煙突16から大気へ放出される。
【0053】
一方、天然ガスおよび水蒸気を含む原料1は、原料供給ライン13を介してスチームリフォーマ10の反応管11に供給される。スチームリフォーマ10の反応管11では、原料1が水蒸気改質反応によって改質ガスに転換される。改質ガスは、改質ガス−スチーム熱交換器19でボイラ水などを加熱して熱回収が行われた後、改質ガス供給ライン18を介してメタノール合成塔20に供給される。また、CO回収装置50によって回収した二酸化炭素ガスも、CO供給ライン51を介してメタノール合成塔20に供給される。
【0054】
メタノール合成塔20では、上記の式3および式4の反応により、改質ガスおよび二酸化炭素ガスからメタノールが合成される。二酸化炭素ガスが加わることで、メタノール合成塔20では、メタノールの生成量および発熱エネルギーを増やすことができる。メタノール合成塔20で合成したメタノールは、水を含有する粗メタノールとして、メタノール供給ライン22を介してガソリン合成塔30に供給される。
【0055】
ガソリン合成塔30では、上記の式5および式6の反応により、メタノールからガソリンが合成される。メタノールの供給量が増えることで、ガソリン合成塔30では、ガソリンの生成量および発熱エネルギーを増やすことができる。ガソリン合成塔30では、その反応熱によって燃焼用空気導入ライン61から導入される燃焼用空気の加熱を行う。
【0056】
このように、従来のメタノール合成プラントに対して、発熱反応であり熱エネルギーが発生するガソリン合成塔30を設けるとともに、エネルギーを消費するメタノール蒸留塔が不要になることから、エネルギーが過剰となるものの、プレリフォーマ40、CO回収装置50および吸収液再生装置(図示省略)、ガソリン合成塔30の反応熱による燃焼用空気の空気予熱装置60を設けることによって、プレリフォーマ40の前後の原料を、スチームリフォーマ10の廃熱回収部15の第1及び第2の排ガス−原料熱交換器41、42で加熱することで、スチームリフォーマ10への燃料2の供給量を抑えることができ、また、燃焼用空気が予め加熱されることでも、スチームリフォーマ10への燃料2の供給量を抑えることができる。また、スチームリフォーマ10の廃熱回収部15では、第1及び第2の排ガス−原料熱交換器41、42を設けることで回収熱が減少するが、この減少分をガソリン合成塔30で発生する発熱エネルギーを利用することができ、よって、システム全体のエネルギーをセルフバランスするように設計することができる。CO回収装置50で回収した二酸化炭素ガスを改質ガスとともにメタノール合成塔20に供給することで、ガソリン合成塔30におけるガソリンの生成量を増やすことができる。さらに、CO回収装置50で回収した二酸化炭素ガスの全部または一部を、一酸化炭素ガスに変換して燃料2とともにスチームリフォーマ10の燃焼部12に供給することで、燃料2の供給量を抑えることができ、これによってもセルフバランスを図ることができる。
【実施例】
【0057】
図1〜図3の各実施の形態、および図1〜図3のうちの2つを組み合わせた各実施の形態、並びに図1〜図3の全てを組み合わせた図4の実施の形態について、エネルギーの収支バランスのシミュレーションを行った。その結果を表1に示す。なおシミュレーションは、メタノールの生産量を1日当たり2500トンの場合で行った。原料および燃料は、どちらも天然ガスを使用する条件とした。また、比較のため、天然ガスからメタノールを合成する従来例と、天然ガスからメタノールを経由してDMEまたはガソリンを合成する参考例の結果も表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、メタノールを合成する従来例は、システム全体として残エネルギーが0kcal/Hであり、セルフバランスが図られている。一方、メタノールを経由してDMEまたはガソリンを合成する参考例1、2では、DMEまたはガソリン(MTG)の合成熱が増え、メタノールの蒸留熱が不要になったことから、余剰のエネルギーが発生している。
【0060】
予備改質を行うプレリフォーマを設けた実施例1では、スチームリフォーマでの燃料の供給量および排ガス熱回収量が減少し、参考例1、2と比べて、セルフバランスが図られている。また、CO回収装置を設けた実施例2では、CO回収熱が必要となり、また、ガソリンの生成量も増加し、参考例1、2と比べて、セルフバランスが図られている。燃焼用空気でガソリン合成熱(MTG熱)の回収を図った実施例3では、スチームリフォーマでの燃料の供給量および排ガス熱回収量が減少し、参考例1、2と比べて、セルフバランスが図られている。これらの組み合わせである実施例4〜実施例7も同様に、参考例1、2と比べて、より顕著にセルフバランスが図られている。
【符号の説明】
【0061】
10 スチームリフォーマ
11 反応管
12 燃焼部、
13 原料供給ライン
14 燃料供給ライン
15 廃熱回収部
16 煙突
17 排ガス−スチーム熱交換器
18 改質ガス供給ライン
19 改質ガス熱交換器
20 メタノール合成塔
22 メタノール供給ライン
30 ガソリン合成塔
32 ガソリン供給ライン
40 プレリフォーマ
41 第1の排ガス−原料熱交換器
42 第2の排ガス−原料熱交換器
50 CO回収装置
51 CO供給ライン
60 空気予熱装置
61 燃焼用空気導入ライン
62 排ガス−燃焼用空気熱交換器
63 ファン
64 燃焼用空気供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はジメチルエーテルを製造するシステムであって、
天然ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する水蒸気改質装置と、
前記水蒸気改質装置で生成した改質ガスからメタノールを合成するメタノール合成装置と、
前記メタノール合成装置で合成したメタノールからガソリン又はジメチルエーテルを合成するガソリン又はジメチルエーテル合成装置と
を備えており、更に、
前記天然ガスを水蒸気改質する前に予備改質する予備改質装置と、
前記水蒸気改質装置の前記排ガスから二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置と、
前記水蒸気改質装置に供給する燃焼用空気を、前記ガソリン又はジメチルエーテル合成装置で予熱する空気予熱装置と
からなる群から選択される少なくとも1つの装置を備えており、
前記水蒸気改質装置で発生する排ガスからの熱回収と、前記改質ガスからの熱回収と、前記メタノール合成装置における合成熱と、前記ガソリン又はジメチルエーテル合成装置における合成熱と、前記選択された場合の前記予備改質装置の回収熱と、前記選択された場合の前記二酸化炭素回収装置の二酸化炭素回収熱と、前記選択された場合の前記空気予熱装置の回収熱とを用いて、前記システム全体におけるエネルギーをセルフバランスさせたシステム。
【請求項2】
天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はジメチルエーテルを製造する方法であって、
天然ガスを水蒸気改質して改質ガスを生成する水蒸気改質工程と、
前記水蒸気改質工程で生成した改質ガスからメタノールを合成するメタノール合成工程と、
前記メタノール合成工程で合成したメタノールからガソリン又はジメチルエーテルを合成するガソリン又はジメチルエーテル合成工程と
を含み、更に、
前記天然ガスを水蒸気改質する前に予備改質する予備改質工程と、
前記水蒸気改質工程の前記排ガスから二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程と、
前記水蒸気改質工程に供給する燃焼用空気を、前記ガソリン又はジメチルエーテル合成の合成熱で予熱する空気予熱工程と
からなる群から選択される少なくとも1つの工程を含み、
前記水蒸気改質工程で発生する排ガスからの熱回収と、前記改質ガスからの熱回収と、前記メタノール合成工程における合成熱と、前記ガソリン又はジメチルエーテル合成工程における合成熱と、前記選択された場合の前記予備改質工程の回収熱と、前記選択された場合の前記二酸化炭素回収工程の二酸化炭素回収熱と、前記選択された場合の前記空気予熱工程の回収熱とを用いて、前記天然ガスからメタノールを経由してガソリン又はジメチルエーテルを製造する方法を行うシステムの全体におけるエネルギーをセルフバランスさせる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112769(P2013−112769A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261759(P2011−261759)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】