説明

ガソリン燃料組成物

【課題】従来のガソリンよりも白濁しにくいガソリン燃料組成物を提供する。
【解決手段】 本発明に係るガソリン燃料組成物は、芳香族炭化水素の含有量が27容量%以下、飽和炭化水素の含有量が52容量%以上、比誘電率が2.03以下で、リサーチ法オクタン価が89以上96未満である。飽和水分温度依存性係数K=3.5×O+7.3×t+3.3×C9(O:オレフィン含有量(容量%)、t:トルエン含有量(容量%)、C9:炭素数9の芳香族炭化水素(容量%))で表される飽和水分温度依存性係数Kが130以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載されるガソリンエンジンに使用されるガソリン燃料を構成するガソリン燃料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
揮発性の高いガソリン燃料組成物(以下、「ガソリン」ということがある)は、製造されてから出荷されるまでの間、浮屋根式のタンク内に保管されるのが一般である。この浮屋根式のタンクでは、貯蔵量の変化に伴う液面の変化に浮屋根が追従し、屋根と液面の隙間に炭化水素ガスが滞留することを防ぐことができる。ところが、この浮屋根とタンク壁面には隙間が生じるため、そこから雨水が流入するという問題がある。この隙間は通常、弾性材でシールされ、その隙間からの雨水の流入がある程度抑制されるものとはなっているが、それを完全に防ぐことは難しく、また、ガソリンに混入した雨水は、定期的に水切り作業を行うことで遊離水分を除去しているが、飽和水分として溶存する水分量については除去することができないため、一般需要者に供給されるガソリンには、飽和水分量相当の微量の水分が含まれている。
【0003】
一方、ガソリンは飽和水分量が温度により変化しやすい特徴がある。そのため、外気が下がることにより、水分を含んだガソリンの温度が急激に低下した場合、水分の析出により白濁を起こし、製品品質へ影響を与える可能性があった。このような白濁は、水濁りとも呼ばれ、その対処法も考案されており、例えば、特開2009−227694号公報には水濁り防止性能に優れたガソリンが開示されている。
【0004】
この文献では、ガソリンにおける飽和水分量及びその温度依存性が、ガソリンを構成する炭化水素化合物の比率によって決定されることに着目し、所定炭素数の芳香族分や不飽和炭化水素の比率が所定の構成となる基材を使用することで、水濁り防止性能の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−227694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この文献において、水濁り(白濁)のしやすさは、水分量100ppm試料における白濁温度で定義されているところ、現実には、貯蔵されているガソリンの水分量は常に飽和水分量近辺にて推移していることから、白濁のしやすさはガソリンの温度が低下した際における飽和水分量の温度依存性の影響を最も受けるものとなっている。すなわち、上記文献における白濁のしやすさの定義は、実際の白濁現象を正確に表現するものではなく、上記文献に開示されたガソリンは、実際に外気温が急激に低下した際には白濁するおそれがあった。また、上記文献を除くと、ガソリンの白濁のしやすさについての研究はあまりなく、白濁しにくいガソリンは、これまでに提唱されていない。
【0007】
そこで、本発明は、従来のガソリンよりも白濁しにくいガソリン燃料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るガソリン燃料組成物は、芳香族炭化水素の含有量が27容量%以下、飽和炭化水素の含有量が52容量%以上、比誘電率が2.03以下で、リサーチ法オクタン価(RON)が89以上96未満である。なお、芳香族炭化水素の含有量は、25容量%以下が好ましく、22容量%以下がより好ましい。飽和炭化水素の含有量は、54容量%以上が好ましく、56容量%以上がより好ましい。また、比誘電率は、2.01以下が好ましく、2.00以下がより好ましい。
【0009】
本発明に係るガソリン燃料組成物は、以下の式で表される飽和水分温度依存性係数Kが130以下であることが好ましい。
飽和水分温度依存性係数K=3.5×O+7.3×t+3.3×C9
O:オレフィン含有量(容量%)
t:トルエン含有量(容量%)
C9:炭素数9の芳香族炭化水素(容量%)
なお、飽和水分温度依存性係数Kは、110以下がより好ましく、100以下が最も好ましい。
【0010】
本発明に係るガソリン組成物の基材としては、異性化ガソリン、分解ガソリン、及びアルキレートが好ましい。特に、アルキレートはほぼ飽和炭化水素のみで構成されている事に加え、炭化水素系基材の中では比較的RONが高いため、白濁が起こりにくいガソリン基材としては特に適している。しかし、混合比率が高くなりすぎると本発明に要求されるRONを満たす事ができなくなるため、アルキレートの混合割合は10〜40容量%が好ましく、12〜35容量%がより好ましく、15〜30容量%が最も好ましい。なお、「異性化ガソリン」は、原油の常圧蒸留装置から得られるナフサを脱硫し、次いで蒸留によって沸点の低い留分に分留して得られる脱硫軽質ナフサを、異性化して得られる基材である。また、「分解ガソリン」は、重油を接触分解、或いは熱分解して得られる基材である。この分解ガソリンを蒸留により沸点の低い留分と沸点の高い留分に分留して得られる各基材は「軽質分解ガソリン」及び「重質分解ガソリン」である。更にまた、「アルキレート」は、イソブタン等の炭化水素に接触分解装置から副生される低級オレフィンを付加(アルキル化)して得られる基材である。
【0011】
また、上記基材の他、炭素数9以上の接触改質ガソリンを適宜混合してもよい。なお、「接触改質ガソリン」は、前記脱硫軽質ナフサを蒸留によって分留した残りの重質留分を、例えばプラットフォーミング法等の接触改質法により改質して得られる基材である。そして、この接触改質ガソリンを、炭素数9以上の芳香族分を含む留分に分留して得られたものが本基材である。
【0012】
上記接触改質ガソリンを、炭素数7の芳香族分を含む留分に分留して得られた炭素数7の接触改質ガソリンは、高オクタン価であるため、一般的なガソリン基材としては好ましく使用されている。しかしながら、水分を取り込みやすい性質であることから、本発明に係るガソリン燃料組成物の基材としては5容量%以下に留めることが好ましく、3容量%以下とすることがより好ましく、2容量%以下とすることが最も好ましい。
【0013】
また、本発明のガソリン燃料組成物の基材として用いる事ができるその他のガソリン基材としては、以下に示すものが挙げられる。
「ブタン・ブチレン留分」
常圧蒸留装置、ナフサ脱硫装置、接触改質装置、接触分解装置等から副生される石油ガスを精製して得られる基材である。
「アルコール或いはエーテル類の含酸素化合物」
具体的には、アルコール類としてメタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられ、エーテル類としては、メチル−ターシャリー−ブチルエーテル(MTBE)、エチル−ターシャリー−ブチルエーテル(ETBE)等が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、温度依存性が小さく水分析出が起こりにくく、白濁しにくいガソリン燃料組成物を得ることができる。
【0015】
白濁のしやすさに大きな影響を及ぼす飽和水分量の温度依存性とは、温度変化に対する飽和水分量の変化であり、例えば、各温度における飽和水分量をプロットした時の近似直線の傾きである。そして、この傾きが小さい程、白濁が起こりにくいと考えられるところ、本発明者は、ガソリンの飽和水分量の温度依存性に特に影響を与える物質及び物性を見出した。より具体的には、飽和水分量の温度依存性は、芳香族炭化水素と飽和炭化水素の含有量及び比誘電率の影響を受けることを見出した。また、芳香族の中では特にトルエン、及び炭素数9の芳香族炭化水素の、そして更には、オレフィンの影響を受けやすく、それらから構成される飽和水分量温度依存性係数Kの影響を受けやすい事を見出した。本発明は、その新たな知見に基づくものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】白濁状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の基材を調合し、従来のガソリンよりも白濁しにくいガソリンを得た。また、比較例として、同じ基材の調合比率を変え、従来と同等のガソリンを調製した。
基材1:異性化ガソリン
基材2:軽質分解ガソリン
基材3:重質分解ガソリン
基材4:アルキレート
基材5:炭素数9以上の接触改質ガソリン
基材6:炭素数7の接触改質ガソリン
【0018】
基材の性状を表1に、得られたガソリンの性状と白濁温度を表2に示す。なお、各性状及び白濁温度の測定方法は以下に示す通りである。
【0019】
<密度>
JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容積換算表」により測定した。
<蒸気圧>
JIS K 2258「原油及び燃料油−蒸気圧試験方法−リード法」により測定した。
<蒸留性状>
JIS K 2254「石油製品−蒸留試験法」により測定した。
<オクタン価>
JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」のリサーチ法オクタン価試験方法により測定した。
<GC組成分析>
JIS K 2536−2「石油製品―成分試験方法 第2部:ガスクロマトグラフによる全成分の求め方」により測定した。
<飽和水分量>
水(蒸留水)、サンプル、及び100mlの蓋付きガラス容器を室温下で静置した後、水10mlとサンプル90mlをガラス容器に入れ、そのガラス容器を激しく1分間振り、水を充分に溶解させた。そして、30℃にセットした恒温槽内に、前記ガラス容器をスタンドにセットし、一晩静置して試料を安定させた。次に、恒温槽を飽和水分測定温度にセットし、1時間安定させた後、サンプル温度を確認し、上澄み液を前記ガラス容器から直接注射器で採取し、水分をカールフィッシャー法(JIS K 2275)で2回測定した平均値をその温度における飽和水分量とした。なお、飽和水分測定温度は、25℃、10℃、5℃、0℃の4種類とし、それぞれの温度について同様の測定を行った。
<比誘電率>
LCRメータ4284A(製品名、Agilemt製)を使用して、25℃条件下における試料の電気容量C及び試料の電気容量Coを測定し、以下の式で比誘電率εrを算出した。
εr=C/Co
<白濁温度>
試験燃料、純水を常温下に置いてから、ガソリン10に対し純水1の割合で加えた。そして、その混合物を1分間振とうした後、30℃の恒温槽内で1時間以上静置し、水分が飽和状態となったガソリンを試験試料とした。続いて、内側底面に指標を取り付けた直径約10cmの1Lガラス瓶に試験燃料のみを1L移し、ガラス棒で攪拌しながら容器ごと氷水中で冷却し、燃料が白濁するまで1℃毎に真上から指標の目視確認を行った。図1(a)は目視確認により白濁したものと判断された状態を示す図、図1(b)は白濁していないものと判断された状態を示す図である。
【0020】
【表1】

【表2】

【0021】
表2に示すように、実施例1及び2のガソリンは、比較例よりも飽和水分量近似直線の傾きが小さいため、温度依存性が小さい。そのため、白濁温度がより低くなっており、白濁が起こりにくいガソリンである事が判る。
【0022】
また、実施例において、各温度の飽和水分量、近似直線傾き、及び白濁温度は、いずれも飽和水分温度依存係数Kと相関がある事がわかる。従って、これらの関係と基材の配合比率を考慮すると、アルキレートの混合割合を10〜40容量%とすることで、或いは炭素数7の接触改質ガソリンの混合割合を5容量%以下とすることで、従来のガソリンよりも白濁温度において優位性を持つものにできる。また、各基材の構成比率を考慮すると、芳香族炭化水素含有量を27容量%以下、飽和炭化水素の含有量を52容量%以上とすることで、従来のガソリンよりも白濁温度において優位性を持つものにできる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素の含有量が27容量%以下、飽和炭化水素の含有量が52容量%以上で、比誘電率が2.03以下で、リサーチ法オクタン価が89以上96未満であることを特徴とするガソリン燃料組成物。
【請求項2】
以下の式で表される飽和水分温度依存性係数Kが130以下である請求項1に記載のガソリン燃料組成物。
飽和水分温度依存性係数K=3.5×O+7.3×t+3.3×C9
O:オレフィン含有量(容量%)
t:トルエン含有量(容量%)
C9:炭素数9の芳香族炭化水素(容量%)
【請求項3】
アルキレートの混合割合が10〜40容量%である請求項1又は2に記載のガソリン燃料組成物。
【請求項4】
炭素数7の接触改質ガソリンの混合割合が5容量%以下である請求項1、2又は3のいずれかに記載のガソリン燃料組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−137114(P2011−137114A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299212(P2009−299212)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)