説明

ガドリニウムイオン含有ポリマー及びMRI用造影剤

【課題】静脈に投与可能であり、全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ、膵臓の造影にも優れ、さらに徐放により抗がん剤を放出することで高い癌治療効果を得ることができ、造影剤部分は24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なガドリニウムイオン含有ポリマー及びMRI用造影剤を提供する。
【解決手段】ガドリニウム錯体を含有する2−(メタ)アクリルアミド−シクロデキストリンの(共)重合により得られるガドリニウムイオン含有ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なガドリニウムイオン含有ポリマー、該ポリマーを含有するMRI用造影剤、及び抗がん剤を含有するMRI造影剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Gd(III)−DTPA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸のガドリニウム(III)錯体、以下マグネビストと呼称する。)はガドリニウム化合物として始めてMRI(核磁気共鳴撮像)用造影剤として1988年に実用化されたものであり、全世界で4500万以上の症例に使用されてきた(例えば、非特許文献1参照)。マグネビストは水溶性で分子量が小さいため、血管から臓器や組織への移行が早く、血管、特に静脈を明確に造影することが困難であった。そこで、マグネビストに血漿中のアルブミンと結合する置換基を導入したものが開発された(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照)。その代表例がMS−325と呼ばれる化合物である。
【0003】
MS−325は血中滞留性がマグネビストに対して改善され、全身血管の造影効果が大幅に改善された。しかしながら、毒性があり十分な量を投与することができず、特に虚血性疾患(心筋梗塞や肝硬変等)部位の造影には問題があった。
【0004】
一方、近年、特定の臓器の微小な疾患(例えば肝臓、膵臓、肺等の転移性癌)の造影が強く求められている。しかしながら、上記のマグネビスト及びMS−325には臓器特異性がないため、要望を満たすことが困難である。特定臓器癌への薬物の集積性については様々な研究があるが、なかでも薬物を結合した特定の分子量を有する高分子製剤が精力的に研究されている(例えば非特許文献3、4、及び5参照)。具体例としては、蛋白性抗がん剤であるネオカルチノスタチンにスチレンマレイン酸コポリマーを結合したスマンクス(例えば非特許文献6、及び7参照)が知られており、肝臓の固形癌の治療に有効であることが確認されている。スマンクスの体内における薬物濃度の検討から癌部/血液では2000/1であることが分かっている。その作用機構は癌部血管からの高分子薬剤の漏出性亢進であることが知られており、EPR効果と命名されている(例えば非特許文献2〜5、8、9参照)。しかしながら、スマンクス自身には造影能力がないため、癌の位置を特定し、同時に治療するという高度な要求に応えることができない。そこで、油性造影剤であるリピオドールにスマンクスを懸濁させた製剤を用いて癌部の栄養動脈よりカテーテル注入することで、癌の造影と治療経過観察を同時に行える手法が開発された(例えば非特許文献7、及び10参照)。しかしながら、油性の懸濁製剤であるため、静脈に投与することが困難であり、全身血管の造影、微小な転移性癌、特に膵臓の転移性癌の発見と治療に使用することには不適であった。現在、膵臓疾患、特に膵臓の転移性癌は早期発見が難しく、死亡率の高い疾患として知られており、新規なMRI造影剤兼治療剤の開発が切望されている。
【非特許文献1】Chem.Rev.,1999,99,2293−2352
【非特許文献2】Radiology,216,154−162,2000
【非特許文献3】J.Cont.Rev.,74,47−61(2001)
【非特許文献4】Drug Deliv.,Rev.,46,169−185(2001)
【非特許文献5】Pharmacokinet.,42,1089−1105(2003)
【非特許文献6】Cancer Res.,44,2115−2121(1984)
【非特許文献7】Cancer.,54,2367−2374(1984)
【非特許文献8】Cancer Res.,46,6387−6392(1986)
【非特許文献9】“Polymers in Medicine and Biotechnology”,pp.29−49,Kuwer Academic/Plenum Publisher,New York(2003)
【非特許文献10】J.Cancer Clin.,Oncol.,19,1053−1065(1983)
【特許文献1】特表平10−513445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、(1)静脈に投与可能であり、(2)全身血管及び肝臓の造影に優れ、(3)かつ、膵臓の造影にも優れ、(4)さらに徐放により抗がん剤を放出することで高い癌治療効果を得ることができ、(5)造影剤部分は24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なガドリニウムイオン含有ポリマー及びMRI用造影剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0007】
1.下記一般式(1)で表されることを特徴とするガドリニウムイオン含有ポリマー。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1〜R3は水素原子またはアルキル基を表す。R4及びR5は水素原子、または一般式(2)で表される基を表すが、R4とR5が同時に水素原子であることはない。R6はアルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基またはアリールアミノカルボニル基を表す。nは5〜7の整数を表し、mは3〜6の整数を表し、qは1または2を表す。ただし、m+qは5〜7の整数を表す。jは二価の連結基または単なる結合手を表す。j、k及びpはモル分率を表し、j+k+p=100(%)である。)
2.重量平均分子量が40000〜200000であることを特徴とする前記1に記載のガドリニウムイオン含有ポリマー。
【0010】
3.前記1または2に記載のガドリニウムイオン含有ポリマーを含有することを特徴とするMRI用造影剤。
【0011】
4.抗がん剤を含有することを特徴とする前記3に記載のMRI用造影剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、(1)静脈に投与可能であり、(2)全身血管及び肝臓の造影に優れ、(3)かつ、膵臓の造影にも優れ、(4)さらに徐放により抗がん剤を放出することで高い癌治療効果を得ることができ、(5)造影剤部分は24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なガドリニウムイオン含有ポリマー及びMRI用造影剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者は鋭意検討の結果、前記一般式(1)で表される特定構造のガドリニウムイオン含有ポリマーは、(1)静脈に投与可能であり、(2)全身血管及び肝臓の造影に優れ、(3)かつ、膵臓の造影にも優れ、(5)造影剤部分は24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なガドリニウムイオン含有ポリマーであり、これを含む造影剤は優れた造影剤であることを見出した。さらに抗がん剤を含有することで(4)徐放により抗がん剤を放出することで高い癌治療効果を得ることができる造影剤であることも見出した。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
《一般式(1)で表されるガドリニウムイオン含有ポリマー》
まず、本発明の一般式(1)で表されガドリニウムイオン含有ポリマーについて詳述する。
【0016】
一般式(1)において、R1〜R3は水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基として具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、iso−ペンチル基、2−エチル−ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる、好ましくは水素原子またはメチル基であり、より好ましくはR1からR3の全てがメチル基である。
【0017】
一般式(1)において、R4及びR5は水素原子、または一般式(2)で表される基を表すが、R4とR5が同時に水素原子であることはない。R4及びR5は、好ましくは一般式(2)で表される基である。
【0018】
一般式(1)において、R6は、アルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基を表すが、好ましくはアリール基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基を表す。より好ましくは、フェニル基、メトキシカルボニル基、ヒドロキシエチルオキシカルボニル基、ノルマルブチルオキシカルボニル基、p−カルボキシフェニルオキシカルボニル基、ヒドロキシエチルオキシエチルオキシカルボニル基、p−カルボキシフェニル基、(トリスヒドロキシメチル)メチルアミノカルボニル基、2,4−ジカルボキシフェニル基、アセトアセチル基等が挙げられる。
【0019】
一般式(1)において、j、k及びpはモル分率を表し、j+k+p=100(%)であるが、jは1%以上30%未満であることが好ましく、kは70%以上99%未満であることが好ましく、pは0%以上10%未満であることが好ましい。
【0020】
次に、本発明の一般式(1)で表される化合物の具体例を示す。しかし、本発明はこれらに限定されない。
【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
【化12】

【0032】
【化13】

【0033】
【化14】

【0034】
【化15】

【0035】
【化16】

【0036】
【化17】

【0037】
【化18】

【0038】
【化19】

【0039】
【化20】

【0040】
【化21】

【0041】
【化22】

【0042】
【化23】

【0043】
【化24】

【0044】
【化25】

【0045】
【化26】

【0046】
【化27】

【0047】
【化28】

【0048】
【化29】

【0049】
【化30】

【0050】
【化31】

【0051】
【化32】

【0052】
【化33】

【0053】
【化34】

【0054】
【化35】

【0055】
【化36】

【0056】
【化37】

【0057】
【化38】

【0058】
これらの例示化合物の合成方法は実施例に示す。
【0059】
《MRI用造影剤》
次に、本発明のガドリニウムイオン含有ポリマーを含有するMRI用造影剤(以下、造影剤ともいう)について詳述する。
【0060】
本発明の造影剤は上記一般式(1)で表されるガドリニウムイオン含有ポリマーの少なくとも1種を含有する。
【0061】
本発明のガドリニウムイオン含有ポリマーは良好な水溶性を有する。好ましくは、室温において少なくとも1.0mM、好ましくは100mM、そしてより好ましくは1Mの濃度まで水に溶解する。注射のために製剤化された本発明の造影剤は、迅速で簡便な注射を可能にするよう適度な粘度のみを有するべきである。粘度は、10.20×10-4kgf・s/m2(10mPa・s、10cP)未満、または好ましくは5.10×10-4kgf・s/m2(5mPa・s、5cP)未満、またはより好ましくは2.04×10-4kgf・s/m2(2mPa・s、2cP)未満である。また、注射のために製剤化された本発明の造影剤は過度の浸透圧を有するべきではない。なぜなら、これは毒性を増加させ得るからである。浸透圧は、3000ミリオスモル/kg未満、または好ましくは2500ミリオスモル/kg未満、または最も好ましくは900ミリオスモル/kg未満である。
【0062】
本発明の造影剤は、無機または有機の酸及び塩基から誘導される塩を含有することができる。塩の具体例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パモエート、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、ウンデカン酸塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム、マグネシウム及び亜鉛塩)、有機塩基を有する塩(例えば、ジシクロヘキシルアミン塩、N−メチル−D−グルカミン)、及びアミノ酸(例えば、アルギニン、リジン)を有する塩等を包含する。
【0063】
また、本発明の造影剤の塩基性窒素含有基は、低級アルキルハライド(例えば、メチル、エチル、プロピル及びブチルクロライド、ブロマイド及びヨージド)、ジアルキル硫酸(例えば、ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミル硫酸)、長鎖ハライド(例えば、デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリルクロライド、ブロマイド及びヨージド)、アラルキルハライド(例えば、ベンジル及びフェネチルブロマイド)ならびにその他のような薬剤で4級化され得る。それによって、水溶性または油溶性あるいは水分散性または油分散性の生成物が得られる。
【0064】
本発明の造影剤は、任意のキャリア、アジュバントもしくはビヒクルを含有することができる。本発明の造影剤に使用され得るキャリア、アジュバント及びビヒクルは、イオン交換物質、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)、緩衝性物質(例えば、ホスフェート)、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質(例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコール及びラノリンを包含するが、これらに限定されない。
【0065】
本発明の造影剤は、注射可能な無菌の調合薬の形態(例えば、注射可能な無菌の水性または油性の懸濁液)であり得る。この懸濁液は、当該分野で公知の技術に従い、適切な分散剤または湿潤剤及び懸濁剤を用いて製剤され得る。注射可能な無菌の調合薬はまた、無毒性の非経口で受容可能な希釈剤または溶媒中における、無菌の注射可能な溶液または懸濁液(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液として)であってもよい。用いられ得る受容可能なビヒクル及び溶媒は、水、リンガー溶液及び等張食塩水である。さらに、従来では、無菌の不揮発油が溶媒または懸濁媒体として使用される。この目的のために、合成のモノ−またはジ−グリセリドを含む任意の刺激のない不揮発油が使用され得る。脂肪酸(例えば、オレイン酸及びそのグリセリド誘導体)は、天然の薬学的に受容可能なオイル(例えば、オリーブオイルまたはヒマシ油)と同様に、注射可能物の調製、特にこれらのポリオキシエチル化した変形物において有用である。これらのオイル溶液または懸濁液はまた、長鎖アルコールの希釈剤または分散剤(例えば、Ph.Helvまたは類似のアルコール)を含み得る。
【0066】
本発明の造影剤は、経口投与、非経口投与、吸入スプレーによる投与、局所投与、直腸投与、鼻腔投与、頬投与、膣投与または従来の無毒性の薬学的に受容可能なキャリア、アジュバント及びビヒクルを含有する投薬製剤中に埋め込まれたリザーバを介して投与され得る。本明細書に使用されるように用語「非経口」は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、くも膜下、肝臓内、病変内及び頭蓋内注射または点滴技術を含む。本発明の造影剤は静脈内投与が最も好ましい投与形態である。
【0067】
経口投与される場合、本発明の薬学的組成物は任意の経口的に受容可能な投薬形態(カプセル、錠剤、水性の懸濁液または溶液が挙げられるがこれらに限定されない)で投与され得る。錠剤を経口使用する場合、一般的に使用されるキャリアには、ラクトース及びコーンスターチが挙げられる。代表的には、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤もまた添加される。カプセル形態の経口投与に対して、有用な希釈剤としては、ラクトース及び乾燥コーンスターチが挙げられる。経口使用に水性懸濁液を必要とする場合、活性成分は乳化剤及び懸濁剤と配合される。所望の場合、特定の甘味料、香味料または着色料もまた添加してもよい。あるいは、直腸投与のために座薬形態で投与される場合には、本発明の造影剤は、室温で固体であるが、直腸温で液体である適切な非刺激性の賦形剤とを混合して調製され得、その結果直腸内で溶け薬剤を放出する。このような物質として、ココアバター、ビーズワックス及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0068】
また、前述のように、特に、処置標的が局所施用によって容易に接近可能な領域または器官(目、皮膚または下部腸道(lower intestinal tract)を含む)を含む場合に、本発明の造影剤は局所投与され得る。適切な局所製剤は、これらの各領域または器官用に容易に調製される。
【0069】
下部腸道に対する局所施用は、直腸用座薬製剤または適切な浣腸製剤でなされ得る。局所−経皮性パッチもまた使用してよい。局所施用に対して、本発明の造影剤は、1つ以上のキャリア中に懸濁または溶解される活性成分を含有する、適切な軟膏に製剤され得る。本発明の造影剤の局所投与のためのキャリアは、鉱油、液体ペトロラタム、白色ペトロラタム、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス及び水を包含するが、それらに限定されない。あるいは、本発明の造影剤は、1つ以上のキャリア中に懸濁または溶解された活性成分を含有する、適切なローションまたはクリームに製剤されてもよい。適切なキャリアは、鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリールアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水を包含するが、それらに限定されない。
【0070】
眼使用に対して、本発明の造影剤は防腐剤(例えば、ベンジルアルコニウムクロライド)を含有してもしなくてもよい。pH調節された等張の無菌生理食塩水中に微小化された懸濁液として、または好ましくはpH調節された等張の無菌生理食塩水中の溶液として製剤され得る。あるいは、眼使用に対して本発明の造影剤は、ペトロラタムのような軟膏に製剤され得る。
【0071】
鼻腔エーロゾルまたは吸入による投与に対して、本発明の造影剤は、製薬的製剤の分野で周知の技術に従って調製され、そしてベンジルアルコールもしくは他の適切な防腐剤、生体利用性を増大させる吸収促進剤、フルオロカーボン、及び/または他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を使用し、生理食塩水中の溶液として調製され得る。
【0072】
投薬は、診断用画像化機器の感度、ならびに造影剤の組成に依存する。例えば、MRI画像化に対して、本発明のガドリニウムイオン含有ポリマーを含有する造影剤は、一般的に、より低い磁気モーメントを有する常磁性物質、例えば、鉄(III)を含有する造影剤より、より低い投薬を必要とする。好ましくは、投薬は、1日当たり約0.001〜1mmol/kg体重の活性金属−リガンド錯体の範囲である。より好ましくは、投薬は、1日当たり約0.005〜0.05mmol/kg体重の範囲である。
【0073】
しかし、任意の特定の患者に対する特定の投薬処方もまた、種々の因子(年齢、体重、健康状態、性別、治療食、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ及び処置する内科医の判断を含む)に依存することが理解されるべきである。
【0074】
本発明では造影剤の適切な投薬の投与に続いて、MRI画像化が行われる。パルス系列(反転回復(IR);スピンエコー(SE);エコー断層(EPI);飛行時間(TOF);ターボフラッシュ;グラディエントエコー(GE))及び画像化パラメーターの値(エコー時間(TE);反転時間(TI);繰り返し時間(TR);フリップ角等)の選択は、要求される診断情報に支配される。一般的には、T1−加重された画像を得ることが望まれる場合、TEはT1−加重を最大とするために30ミリ秒未満(または最小値)であるべきである。逆に、T2の測定が所望される場合、TEは競合するT1効果を最小にするために30ミリ秒より大きくあるべきである。TI及びTRは、T1−及びT2−加重された画像の両方に対して、ほぼ同じに保たれる。一般的に、TI及びTRは、それぞれ、約5〜1000ミリ秒及び2〜1000ミリ秒のオーダーである。
【0075】
《抗がん剤含有MRI用造影剤》
本発明の造影剤は抗がん剤を含有することが好ましい。抗がん剤としては公知のものであれば特に制限はなく、水溶性のものでも非水溶性のものでも例外がない。抗がん剤は非水溶性のものが大半を占めているが、驚くべきことに本発明の造影剤は非水溶性の抗がん剤を水に溶解可能にする能力を有する。従って、公知のあらゆる抗がん剤を均一な溶液として含有することができる。さらに驚くべきことに患部に到達した造影剤から抗がん剤が徐々に放出されることが明らかとなった。従って本発明の造影剤は抗がん剤を含有し、かつそれが患部で徐々に放出されることにより、患部造影と抗がん治療を同時に行うことができ、正確で高い治療効果を得ることが可能となる。
【0076】
好ましい抗がん剤として、具体的には、メルファラン、L−スルフォラファン、アクラルビシン、アドリアマイシン、イダルビシン、アムルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、ビンブラスチン、オンコビン、イリノテカン、パクリタキセル、タキソテール、ビノレルビン、エトポシド、ビンデシン、マイトマイシンC、ブリョスタチン3、ラパマイシン、カルモフール、シクロフォスファミド、シスプラチン、タモキシフェン、ドキシフルリジン、イソフォスファミド、5−FU,プロカルバジン、メトキサレート、フトフラール、ウラシル、デキサメサゾン、カペシタビン、カルボコン、シタラビンオクフォスフェート、ギメラシル、ヒドロキシカルバミド、ブスルファン、メルカプトプリン、チオテパ、ダカルバジン、ニムスチン、ラニムスチン、エノシタビン、チオイノシン、ゲムシタビン、ゲフィニチブ、エキセメスタン等が挙げられる。より好ましい抗がん剤としてはアドリアマイシン、イリノテカン、パクリタキセル、タキソテール、5−FU、シスプラチン等が挙げられる。抗がん剤の添加量としては、本発明のガドリニウムイオン含有ポリマー100モル%に対して、0.001〜200モル%の範囲であることが好ましい。添加方法として特に制限はないが、本発明の造影剤の溶液に粉体のまま直接添加して攪拌溶解する方法、あるいは少量のエタノール、ベンジルアルコール、酢酸等の生体毒性の少ない水溶性の有機溶剤に溶解して、本発明の造影剤の溶液に添加する方法等が好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、特に断りない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0078】
〔中間体合成例A〕
下記スキーム(反応式1)により、2−メタクリルアミドα−シクロデキストリン、2−メタクリルアミドβ−シクロデキストリン及び2−メタクリルアミドγ−シクロデキストリンをそれぞれ合成した。
【0079】
【化39】

【0080】
〈合成例1:2−メタクリルアミドα−シクロデキストリンの合成〉
Tetrahedron Lett.,46(2005)7905−7907に記載の方法で合成した2−アミノ−α−シクロデキストリン9.7g(10mmol)、及ピリジン1.2g(12mmol)をジメチルアセトアミド100mlに溶解し、メタクリロイルアンハイドライド1.7g(11mmol)をジメチルアセトアミド10mlに溶解した溶液を内温15〜20℃で30分かけて滴下した。反応終了後、反応液をトルエン500mlに攪拌下に滴下し、析出した結晶をろ過、乾燥した。目的物2−メタクリルアミドα−シクロデキストリン9.9g(収率95%)を得た。構造はNMR及びMASSスペクトルにて同定した。
【0081】
〈合成例2:2−メタクリルアミドβ−シクロデキストリンの合成〉
合成例1において、2−アミノ−α−シクロデキストリン9.7g(10mmol)を2−アミノ−β−シクロデキストリン11g(10mmol)に変更した以外は合成例1と同様にして、目的物2−メタクリルアミドβ−シクロデキストリン10g(収率83%)を得た。構造はNMR及びMASSスペクトルにて同定した。
【0082】
〈合成例3:2−メタクリルアミドγ−シクロデキストリンの合成〉
合成例1において、2−アミノ−α−シクロデキストリン9.7g(10mmol)を2−アミノ−γ−シクロデキストリン13g(10mmol)に変更した以外は合成例1と同様にして、目的物2−メタクリルアミドβ−シクロデキストリン12g(収率88%)を得た。構造はNMR及びMASSスペクトルにて同定した。
【0083】
〔中間体合成例B〕
下記スキーム(反応式2)により、2−メタクリルアミド6−モノアシル−α−シクロデキストリン(中間体α−1)、2−メタクリルアミド6−モノアシル−β−シクロデキストリン(中間体β−1)及び2−メタクリルアミド6−モノアシル−γ−シクロデキストリン(中間体γ−1)をそれぞれ合成した。
【0084】
【化40】

【0085】
〈合成例4:中間体α−1の合成〉
2−メタクリルアミドα−シクロデキストリン13.5g(13mmol)、及びトリエチルアミン2.1g(21mmol)をDMAc30mlに溶解し、これにDMAc20mlに溶解した中間体(1)5.0g(13mmol)を室温下30分かけて滴下した。滴下終了後さらに同温度で3時間撹拌した。反応液を減圧下に濃縮し、残渣にイソプロピルエーテルを加え、結晶を析出させた。取り出した結晶をエタノールより再結晶し、目的物である中間体α−1を12.2g(収率80%)得た。構造はNMR及びMASSスペクトルにて同定した。
【0086】
〈合成例5:中間体β−1の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体β−1を得た。(収率85%)
〈合成例6:中間体γ−1の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体γ−1を得た。(収率83%)
〔中間体合成例C〕
下記スキーム(反応式3)により、2−メタクリルアミド6−ジアシル−α−シクロデキストリン、2−メタクリルアミド6−ジアシル−β−シクロデキストリン及び2−メタクリルアミド6−ジアシル−γ−シクロデキストリンをそれぞれ合成した。
【0087】
【化41】

【0088】
〈合成例7:中間体α−2の合成〉
2−メタクリルアミドα−シクロデキストリン13.5g(13mmol)、及びトリエチルアミン3.3g(30mmol)をDMAc30mlに溶解し、これにDMAc20mlに溶解した中間体(1)10.0g(26mmol)を室温下30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で3時間撹拌した。反応液を減圧下に濃縮し、残渣にイソプロピルエーテルを加え、結晶を析出させた。取り出した結晶をエタノールより再結晶し、目的物である中間体α−2を15.2g(収率65%)得た。構造はNMR及びMASSスペクトルにて同定した。
【0089】
〈合成例8:中間体β−2の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体β−2を得た。(収率61%)
〈合成例9:中間体γ−2の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体γ−2を得た。(収率70%)
〔中間体合成例D〕
下記スキーム(反応式4)により、2−メタクリルアミド6−トリアシル−α−シクロデキストリン、2−メタクリルアミド6−トリアシル−β−シクロデキストリン及び2−メタクリルアミド6−トリアシル−γ−シクロデキストリンをそれぞれ合成した。
【0090】
【化42】

【0091】
〈合成例10:中間体α−3の合成〉
2−メタクリルアミドα−シクロデキストリン13.5g(13mmol)、及びトリエチルアミン4.4g(40mmol)をDMAc30mlに溶解し、これにDMAc20mlに溶解した中間体(1)15.0g(39mmol)を室温下30分かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で3時間撹拌した。反応液を減圧下に濃縮し、残渣にイソプロピルエーテルを加え、結晶を析出させた。取り出した結晶をエタノールより再結晶し、目的物である中間体α−3を18.5g(収率66%)得た。構造はNMR及びMASSスペクトルにて同定した。
【0092】
〈合成例11:中間体β−3の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体β−3を得た。(収率68%)
〈合成例12:中間体γ−3の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体γ−3を得た。(収率70%)
〔中間体合成例E〕
下記スキーム(反応式5、6、7)により、対応するガドリニウム錯体α−4、β−4、γ−4、α−5、β−5、γ−5、α−6、β−6、及びγ−6をそれぞれ合成した。
【0093】
【化43】

【0094】
【化44】

【0095】
【化45】

【0096】
〈合成例13:中間体α−4の合成〉
α−1 14.1g(10mmol)を水150mlに溶解し、酸化ガドリニウム16.3g(45.0mmol)を加え、100℃で8時間加熱攪拌した。反応液を水酸化ナトリウム溶液で中和後、溶媒を減圧下に留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィ(Wakogel 100C18逆層シリカゲル63〜212μm、和光純薬社製)で精製(溶媒は純水:メタノール=1:1)した。溶媒を減圧で濃縮し、中間体α−4の白色ガラス状固形物を15.1g(収率94%)得た。元素分析により目的物であることを確認した。
【0097】
〈合成例14:中間体β−4の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体β−4を得た。(収率90%)
〈合成例15:中間体γ−4の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体γ−4を得た。(収率89%)
〈合成例16:中間体α−5の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体γ−5を得た。(収率91%)
〈合成例17:中間体β−5の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体β−5を得た。(収率88%)
〈合成例18:中間体γ−5の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体γ−5を得た。(収率92%)
〈<合成例19:中間体α−6の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体γ−6を得た。(収率92%)
〈合成例20:中間体β−6の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体β−6を得た。(収率83%)
〈合成例21:中間体γ−6の合成〉
上記合成例と同様にして、中間体γ−6を得た。(収率92%)
〈合成例22:化合物例a−1の合成〉
下記スキームに従って化合物例a−1を合成した。
【0098】
【化46】

【0099】
2−メタクリルアミド−αシクロデキストリン5.2g(5mmol)、及び中間体α−4 153g(95mmol)を純水1Lに溶解し、和光純薬製開始剤VA−044 0.3g(1mmol)を加え、50℃で6時間加熱攪拌した。室温まで冷却後、THF3Lに反応液を30分かけて攪拌下滴下した。析出した結晶をロ別し、THFで十分に洗浄した。乾燥後、再度純水1Lに溶解し、溶液を攪拌下、THF3Lに30分かけて滴下した。析出した結晶をロ別し、THFで十分に洗浄した。目的物のガドリニウムイオン含有ポリマーa−1を140g(収率89%)で得た。Waters社製GPCシステム(カラム:ウルトラハイドロゲル120、溶離液:蒸留水、インジェクション:300μl of 0.1%w/v、温度30℃、フロー:1.0ml/min、標準:ポリエチレンオキシド)により分子量を測定した。Mw=45000、Mn=23000であった。
【0100】
以下同様の方法で例示化合物を合成した。その結果を表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
実施例1
本発明及び比較のガドリニウム化合物を生理食塩水に溶解し、体重30gのマウス一匹当たり0.3mlで0.05mmol/kgの投与量となるMRI用造影剤を調製した。この造影剤をddyマウスの尾静脈より投与することにより、造影剤の組織内分布を評価した。投入後、5分、30分、2時間、24時間の肝臓、膵臓及び血液内のガドリニウムの濃度を、誘導結合プラズマ発光分析装置(SPS3000、セイコーインスツルメンツ社製)にて測定した。検体数を20として得られた結果の平均値を表2、3に示す。なお、投与後24時間以内に死亡したり、重篤な障害が生じる検体はなかった。
【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
表2、3より、本発明の造影剤は、静脈投与が可能であり、比較のマグネビスト(独:シェーリング社製)に対して、全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ膵臓の造影にも優れ、さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有することが分かる。特に、重量平均分子量が40000〜200000である造影剤が特段に優れた効果を有することが分かる。
【0106】
実施例2
実施例1で調製した造影剤に抗がん剤である塩酸イリノテカンの粉末を20mg/mlの濃度になるように溶解した。本発明のガドリニウムイオン含有ポリマーを含有する造影剤には容易に溶解した。なお、比較のマグネビストにはほとんど溶解しなかったため、純水に溶解したものを比較として用いた。
【0107】
実施例1と同様にこの造影剤をddyマウスの尾静脈より投与することにより組織内分布を評価した。投入後、5分、30分、2時間、24時間の肝臓、膵臓及び血液内のガドリニウムイオンの濃度を、誘導結合プラズマ発光分析装置(SPS3000、セイコーインスツルメンツ社製)にて測定し、実施例1と同等の結果を得た。次に、すい臓がんを誘発したddyマウスの尾静脈に投与し、投与5日後に解剖して腫瘍の重さを測定した。投与前の腫瘍の重さを100とした相対値を表4に示す。なお検体数は20として、結果はその平均値を採用した。
【0108】
【表4】

【0109】
表4より本発明の造影剤は、抗がん剤を溶解可能にする能力を有し、さらに抗がん剤単独よりも腫瘍成長抑制効果が強く、高い膵臓癌治療効果を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするガドリニウムイオン含有ポリマー。
【化1】

(式中、R1〜R3は水素原子またはアルキル基を表す。R4及びR5は水素原子、または一般式(2)で表される基を表すが、R4とR5が同時に水素原子であることはない。R6はアルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基またはアリールアミノカルボニル基を表す。nは5〜7の整数を表し、mは3〜6の整数を表し、qは1または2を表す。ただし、m+qは5〜7の整数を表す。jは二価の連結基または単なる結合手を表す。j、k及びpはモル分率を表し、j+k+p=100(%)である。)
【請求項2】
重量平均分子量が40000〜200000であることを特徴とする請求項1に記載のガドリニウムイオン含有ポリマー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガドリニウムイオン含有ポリマーを含有することを特徴とするMRI用造影剤。
【請求項4】
抗がん剤を含有することを特徴とする請求項3に記載のMRI用造影剤。

【公開番号】特開2008−156402(P2008−156402A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344052(P2006−344052)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】