説明

ガバナ室内異常検出方法及びガバナ室内異常検出システム

【課題】検査員の熟練を要することなくガバナ室内の異常を的確に検出することが可能なガバナ室内異常検出方法及びガバナ室内異常検出システムを提供する。
【解決手段】ガバナ室内異常検出システム50は、ガバナ室10の室内音を取得するためのマイクロフォン18と、ガバナ室10の複数の音源(ガバナ11、水封器14、人の声帯)に対応して、各音源に固有の特定周波数帯F1,F2,F3を記憶すると共に、特定周波数帯毎に予め設定した基準許容値Lv1,Lv2,Lv3を記憶したデータ記憶部とを備え、ガバナ監視装置20が、マイクロフォン18を通して取得した特定周波数帯F1,F2,F3毎の音量(音圧レベル)が、基準許容値Lv1,Lv2,Lv3を越えたか否かを判別する。少なくとも1つの音源の室内音の音量が、基準許容値を越えていた場合に異常を報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガバナを含む複数の機器を収容したガバナ室内の異常を検出するためのガバナ室内異常検出方法及びガバナ室内異常検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガバナ室の異常検出方法は、検査員がガバナ室に出向いてガバナ室の室内音を耳で聞き、室内音が通常時と異なると感じた場合にガバナ室内に異常が有ると判定するものであった。なお、本願に関連する従来技術として、マイクロフォンにて検出したガバナの音に基づいてガバナの流量を計測するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−191103号公報(段落[請求項5]、[0025])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、検査員の聴覚に頼った従来のガバナ異常検出方法では、判定基準が不安定で判定結果にばらつきが生じる可能性がある。また、ガバナ室の室内音はガバナ室毎に異なる為、正常時の室内音と異常時の室内音とをガバナ室毎に聞き分けるのにかなりの熟練を要し、検査員の養成に時間がかかるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、検査員の熟練を要することなくガバナ室内の異常を的確に検出することが可能なガバナ室内異常検出方法及びガバナ室内異常検出システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係るガバナ室内異常検出方法は、ガバナ室内のガバナを含む複数の音源に対応して、それら各音源に固有の特定周波数帯毎に音量の基準許容値を設定しておき、ガバナ室の室内音を取得し、各音源の特定周波数帯毎に、室内音の音量が基準許容値を越えたか否かを判別し、複数の音源のうち少なくとも1つの音源の室内音の音量が基準許容値を越えていた場合に異常報知を行うところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のガバナ室内異常検出方法において、ガバナに固有の特定周波数帯の音量とガバナを流れる流量とを対応させた流量換算手段を作成しておき、ガバナの特定周波数帯の室内音の音量に基づいて流量換算手段によりガバナを流れる流量を検出し、流量が予め定めた基準流量を越えたときに、ガバナの音量が基準許容値を越えたとして異常報知を行うところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載のガバナ室内異常検出方法において、ガバナに固有の特定周波数帯の音量を実測すると共にその音量に対してガバナに実際に流れた流量を実測して、その実測の流量とガバナの特定周波数帯の音量と流量換算手段とに基づいて検出される流量との差から補正データを生成し、補正データにて流量換算手段を補正するところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載のガバナ室内異常検出方法において、複数の音源の1つを人間の声帯とし、ガバナ室の室内音に含まれる声帯の特定周波数帯の音量が基準許容値より大きくなった場合に異常検出を行うところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明に係るガバナ室内異常検出システムは、ガバナを含む複数の音源を収容し得るガバナ室の室内音を取得するためのマイクロフォンと、複数の音源に対応して、各音源に固有の特定周波数帯を複数記憶すると共に、特定周波数帯毎に予め設定した音量の基準許容値を複数記憶した音源データ記憶部と、マイクロフォンを通してガバナ室の室内音を取得し、音源データ記憶部が記憶した特定周波数帯毎の室内音の音量が、基準許容値を越えたか否かを判別する基準比較判別手段と、複数の特定周波数のうち少なくとも1つの特定周波数帯の室内音の音量が基準許容値を越えていた場合に、異常の報知を行う異常報知手段とを備えたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載のガバナ室内異常検出システムにおいて、ガバナに固有の特定周波数帯の音量とガバナを流れる流量とを対応させた流量換算手段と、ガバナの特定周波数帯の室内音の音量に基づいて流量換算手段にてガバナを流れる流量を検出する流量検出手段とを備え、基準比較判別手段は、流量が予め定めた基準流量を越えたときに、ガバナの音量が基準許容値を越えたと判別するところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項5又は6に記載のガバナ室内異常検出システムにおいて、複数の音源の1つとして、ガス供給路から分岐した分岐管の先端を容器に貯留された水中に配置して、通常は容器内の水圧により容器内へのガスの放出が禁止される一方、ガス供給路のガス圧が水圧を越えた場合に分岐管から水中にガスを放出する水封器が備えられ、マイクロフォンは、水中にガスが放出されたときに発生する音を検出可能としたところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項5乃至7の何れか1の請求項に記載のガバナ室内異常検出システムにおいて、ガバナに固有の特定周波数帯の音量が、予め設定された変動幅を越えて変動しかつ、その変動周期が予め設定された許容範囲を越えかつ、その変動が予め設定された回数を越えて連続したか否かを判別するハンチング検出手段を備えたところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明は、請求項5乃至8の何れか1の請求項に記載のガバナ室内異常検出システムにおいて、基準比較判別手段による判別結果を通信ネットワークを介して異常報知手段に送信する通信装置を備えたところに特徴を有する。
【0015】
請求項10の発明は、請求項5乃至9の何れか1の請求項に記載のガバナ室内異常検出システムにおいて、複数の音源の1つとして人間の声帯が設定され、声帯の特定周波数帯の室内音の音量が基準許容値を越えていた場合に、異常報知手段にて異常報知を行うところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0016】
[請求項1,5及び9の発明]
請求項1及び5の発明によれば、ガバナ室の複数の音源のうち、少なくとも1つの音源の室内音の音量が、その音源に固有の特定周波数帯に対して予め設定された基準許容値を越えていた場合に異常を報知するから、検査員の熟練を要することなく的確にガバナ室内の異常を検出することができる。ここで、異常報知は、ガバナ室で行ってもよいし、ガバナ室から離れた遠隔地で行うようにしてもよい。具体的には、請求項9の発明のように基準比較判別手段による判別結果を通信回線を介して異常報知手段に送信する通信装置を備えていてもよい。このようにすれば、検査員が実際にガバナ室に出向いて異常音の検査を行う必要が無くなり、リアルタイムで異常の有無を監視することが可能となる。
【0017】
[請求項2及び6の発明]
請求項2及び6の発明によれば、ガバナに固有の特定周波数帯の音量から、ガバナを流れる流量並びにガバナの異常を検出することができる。
【0018】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、ガバナの設置環境に応じて流量換算手段を補正することができるから、ガバナを流れる流量並びにガバナの異常をより正確に検出することができる。
【0019】
[請求項4及び10の発明]
請求項4及び10の発明によれば、ガバナ室に人が入室していることを検出することができる。
【0020】
[請求項7の発明]
請求項7の発明によれば、ガス供給管におけるガス圧が異常に上昇した場合、或いは、水封器の水が不足した場合に水中にガスが放出されるので、ガス圧の上昇及び水封器の水不足を検出することができる。
【0021】
[請求項8の発明]
請求項8の発明によれば、ガバナにおける流量の異常変動(ハンチング)を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るガバナ室内異常検出システムを備えたガバナ室の概念図
【図2】(A)ガバナ監視装置の概念図、(B)ガバナ監視装置の概念図
【図3】異常音検出プログラムのフローチャート
【図4】ハンチング検出プログラムのフローチャート
【図5】流量と音圧レベルとの関係を示すグラフ
【図6】(A)流量換算用データベースの概念図、(B)補正前と補正後の水封器に固有の特定周波数帯を示す概念図
【図7】水封器にガスが放出されたときの周波数スペクトル
【図8】人の声の周波数スペクトル
【図9】ハンチング発生時の音波形
【図10】変形例に係る異常音検出プログラムのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図8に基づいて説明する。図1における符号10は、都市ガス供給網の各所に設けられたガバナ室10である。都市ガス供給網が張り巡らされた供給エリアは、通常、複数の地域ブロックに区分けされており、これら複数の地域ブロック毎にガバナ室10が設けられている。
【0024】
ガバナ室10の室内には、ガバナ11が備えられている。ガバナ11は、ガス製造工場から供給される比較的高い圧力(例えば、100KPa以上)のガスを、所定の設定圧(例えば、3KPa未満)まで減圧すると共に、設定圧が維持されるように弁開度が自動調節される。
【0025】
ガバナ室10の室内には、ガバナ11の弁開度を検出するための開度計19、ガバナ11の一次圧及び二次圧を検出するための圧力センサ12、12、ガバナ11の一次側に設けられた緊急遮断装置13、ガバナ11の二次側に設けられた水封器14等が備えられている。
【0026】
ガバナ室10の室外には現地監視装置20が備えられており、開度計19、圧力センサ12、12、緊急遮断装置13及びガス漏れ検知センサ30と有線又は無線で接続されている。現地監視装置20は、圧力センサ12、12の検出結果に基づいてガバナ11の弁開度を調節する。また、例えば、ガバナ室10に備えた地震計(図示せず)が震動を検出した場合に緊急遮断装置13を作動させて、ガバナ11より下流側の地域ブロックへのガスの供給を停止する。
【0027】
水封器14は、上部に空間を有した状態で水が貯留された容器15と、ガバナ11の二次側のガス導管から分岐した分岐管16とを備えており、分岐管16の先端が容器15内の水中に位置している。正常時は、容器15内の水圧とガバナ11の二次圧とがつり合って、分岐管16から容器15内にガスが放出されることはない。これに対し、ガバナ11の二次圧が上昇するか水封器14内の水が減少して、二次圧と水圧とのつり合いがとれなくなると、分岐管16を通じて容器15の水中にガスが放出される。水中に放出されたガスは、容器15の水面上方の空間から放出管17を通ってガバナ室10の室外(大気)に放出される。
【0028】
ガバナ室10の室内には、マイクロフォン18が設置されている。マイクロフォン18は、ガバナ室10の室内音を広範囲で集音可能な位置に配置されている。例えば、ガバナ11をガスが通過する際に発生するガス通過音や、水封器14の水中にガスが放出されたときのバブリング音等、ガバナ室10の室内に備えた機器から発生する音や、ガバナ室10に入室した人の声等、複数の音源から発する音を纏めて集音可能となっている。そして、本発明に係るガバナ室内異常検出システム50は、マイクロフォン18により集音された室内音に基づいて、ガバナ室10の室内の異常を判別する。
【0029】
図1に示すように、ガバナ室10の室内には、マイクロフォン18にて集音されたガバナ室10の室内音を音響解析するための解析部21が備えられている。解析部21は、インターフェイス22を介してマイクロフォン18と接続され、マイクロフォン18にて集音された室内音に対して、増幅処理、フィルタ回路による特定の周波数成分の取り出し、平均化処理によるノイズ除去、A/D変換処理、FFT(高速フーリエ変換)処理、オクターブ解析等を行う。なお、図7及び図8の各上段は、マイクロフォン18から解析部21に入力した音響信号の波形であり、各下段はその音響信号をFFT処理することで得られた音圧レベルの周波数特性を表すグラフ(周波数スペクトル)である。また、図5は、オクターブ解析により得られた音圧レベルの周波数特性を表すグラフである。
【0030】
現地監視装置20は、演算処理部25とデータ記憶部26(本発明の「音源データ記憶部」に相当する)とを備え、データ記憶部26には、後述する異常音検出プログラムPG1、ハンチング検出プログラムPG2、流量換算用データベースDB1(本発明の「流量換算手段」に相当する)を含む各種データが記憶されている。
【0031】
流量換算用データベースDB1は、図6(A)に概念的に示すように、ガバナ11をガスが通過する際に発生するガス通過音に固有の特定周波数帯F1の音量(詳細には、音圧レベル)と、ガバナ11を流れるガスの流量とを対応付けて記憶している。即ち、図5のグラフに示すように、ガバナ11を流れる流量と音圧レベルとの間には、流量の増加に伴って音圧レベルが増加するという関係があり、流量換算用データベースDB1はこの流量と音圧レベルとの関係に基づいて作成されている。ガバナ11に固有の特定周波数帯F1は、上記した流量と音圧レベルとの関係が成り立つ周波数範囲、例えば、1[kHz]〜15[kHz]の周波数範囲の中から任意に設定され、本実施形態では、例えば、12.5[kHz]を中心とする周波数帯が設定されている(図5参照)。
【0032】
ここで、データ記憶部26に予め記憶されている流量換算用データベースDB1(図6(A)の実線で示した検量線)は、或る特定のガバナ室10にて予め行った実験により作成されたものであり、流量を大まかに(例えば、大流量、中流量、小流量の三段階程度に)計測するのであれば、この流量換算用データベースDB1をそのまま他のガバナ室10での流量計測に利用することができる。
【0033】
ところが、流量をより正確に計測する場合、流量換算用データベースDB1をそのまま利用することは適当ではない。その理由は、ガバナ11の設置環境(ガバナ室10の立地や他の音源及びマイクロフォン18との位置関係)はガバナ室10毎に異なるからである。従って、ガバナ11の流量をより正確に計測する場合には、流量換算用データベースDB1をガバナ室10におけるガバナ11の設置環境に応じて補正しておく必要がある。そのために、現地監視装置20はデータ補正部27(図2(A)参照)を備えている。データ補正部27は、ガバナ室内異常検出システム50の初期設定時及びガバナ室10の定期点検時に作成又は更新された補正データDT1により、流量換算用データベースDB1の補正(例えば、図6(A)に示した検量線のゼロ・スパン調整)を行うことが可能となっている。
【0034】
流量換算用データベースDB1の補正は以下のようにして行われる。即ち、ガバナ室10に設置されたガバナ11にガスを流さないときと実際にガスを流したときの室内音をガバナ室10に設置したマイクロフォン18にて取得して音響解析を行い、ガバナ11に固有の特定周波数帯F1の音圧レベルを実測すると共に、ガバナ11における実際の流量を実測する。その実測の流量と、実測の音圧レベルと流量換算用データベースDB1とに基づいて検出される流量との差を補正データDT1として、流量換算用データベースDB1を補正する。なお、図6(A)には、補正された流量換算用データベースDB1が破線の検量線にして示されている。
【0035】
また、補正された流量換算用データベースDB1において、流量「0」に対応する音圧レベルは、ガバナ11に固有の特定周波数帯F1に対する基準許容値Lv1としてデータ記憶部26に記憶される。
【0036】
データ記憶部26には、ガバナ室10の室内に存在し得る音源毎に、固有の特定周波数帯F1,F2,F3と、各特定周波数帯F1,F2,F3に対する音圧レベルの基準許容値Lv1,Lv2,Lv3とが記憶されている。なお、ガバナ11に固有の特定周波数帯F1とこれに対する基準許容値Lv1は、上記した通りである。
【0037】
水封器14から発生する音(バブリング音)に固有の特定周波数帯F2としては、図7の周波数スペクトルに示すように、バブリング音に特有のピークが出現する55[Hz]を中心とする周波数帯と、625[Hz]を中心とする周波数帯とが設定され、それら特定周波数帯F2に対して、バブリング音に特有のピーク値より小さい基準許容値Lv2が設定されている。
【0038】
また、音源としての人の声帯に固有の特定周波数帯F3としては、図8の周波数スペクトルに示すように、人の声に特有のピークが出現する100[Hz]〜1[kHz]の周波数帯が設定され、その特定周波数帯F3に対して、人の声に特有のピーク値より小さい基準許容値Lv3が設定されている。
【0039】
ところで、水封器14内の水は、自然蒸発やバブリングによって減少したり、逆に、放出管17からの水の侵入によって増加する可能性があり、この水位変化に伴い水封器14から発生する音、即ち、バブリング音に特有のピーク(図7参照)が出現する周波数が変化し得る。そこで、水封器14に固有の特定周波数帯F2は、水封器14の水位変動が起きた場合でも水封器14の音(バブリング音)を検出できるような帯域幅に設定されている。
【0040】
具体的には、水封器14を適正水位を含む複数の水位に設定してバブリング音の音響解析を行い、各設定水位で発生したバブリング音に特有のピークの出現周波数が全て含まれるように特定周波数帯F2の帯域幅が設定されている(図6(B)参照)。
【0041】
ここで、データ記憶部26に予め記憶されている特定周波数帯F2は、例えば、メーカーの実験施設で行った実験により作成されたものであるが、このデフォルトの特定周波数帯F2(図6(B)参照)をそのまま利用しても、ガバナ室10に設置された水封器14のバブリング音を概ね良好に検出することができる。
【0042】
ところが、ガバナ室10におけるマイクロフォン18の集音環境が実験施設と大きく異なる場合がある。また、水封器14の設置環境(ガバナ室10の立地や他の音源及びマイクロフォン18との位置関係)も、ガバナ室10毎に異なる。そのため、ガバナ室10において水封器14の音をより確実に検出するためには、デフォルトの特定周波数帯F2を、ガバナ室10における水封器14の設置環境に応じて補正する必要がある。そのために、現地監視装置20は、特定周波数帯F2を補正するためデータ補正部28(図2(B)参照)を備えている。
【0043】
データ補正部28による特定周波数帯F2の補正は以下のようにして行われる。即ち、ガバナ室内異常検出システム50の初期設定時に、ガバナ室10に設置した水封器14を適正水位を含む複数の水位に設定してバブリングさせると共に室内音の音響解析を行い、各設定水位で発生したバブリング音に特有のピークの出現周波数を補正データ(図6(B)において破線で示されたグラフ)として特定周波数帯F2を補正する。例えば、図6(B)に示した補正データによる補正では、デフォルトの特定周波数帯F2の帯域幅を狭める補正が行われる。
【0044】
ガバナ室内異常検出システム50の構成は以上であって、次に、ガバナ室内異常検出システム50の作用を図3及び図4のフローチャートに基づいて説明する。現地監視装置20は、所定の周期で図3に示す異常音検出プログラムPG1を実行する。
【0045】
即ち、マイクロフォン18にて集音されたガバナ室10の室内音を取得して(S11)、解析部21にて音響解析を行う(S12)。次に、ガバナ11に固有の特定周波数帯F1の音圧レベルと、流量換算用データベースDB1とに基づいて、ガバナ11の流量を演算する(S13)。なお、ステップS13は、本発明の「流量検出手段」に相当する。
【0046】
次に、ガバナ11の流量が「0」か否かを判定する(S14)。ガバナ11の流量が「0」ではない場合(S14でYes)、換言すれば、室内音に含まれるガバナ11に固有の特定周波数帯F1の音圧レベルが、その特定周波数帯F1に対して設定された基準許容値Lv1を越えていない場合は、ステップS16に進む。一方、ガバナ11の流量が「0」である場合(S14でNo)、換言すれば、ガバナ11に固有の特定周波数帯F1の音圧レベルが、基準許容値Lv1を越えて小さくなった場合は、緊急遮断装置13の作動により地域ブロックへのガス供給が停止した可能性があるとして、異常検出フラグfg1をオンする(S15)。
【0047】
次に、室内音に水封器14のバブリング音が含まれているか否かを判定する(S16)。即ち、水封器14に固有の特定周波数帯F2の音圧レベルが、その特定周波数帯F2に対して設定された基準許容値Lv2(図7参照)を越えて大きくなったか否かを判定する。基準許容値Lv2を越えていない場合(S16でNo)には、ステップS18に進む。一方、基準許容値Lv2を越えて大きくなった場合(S16でYes)には、ガバナ11の二次圧が異常に上昇したか水封器14の水が不足している可能性があるとして、異常検出フラグfg2をオンする(S17)。
【0048】
次に、室内音に人の声が含まれているか否かを判定する(S18)。即ち、人の声帯に固有の特定周波数帯F3の音圧レベルが、その特定周波数帯F3に対して設定された基準許容値Lv3(図8参照)を越えて大きくなったか否かを判定し、基準許容値Lv3を越えていない場合(S18でNo)は、ガバナ室10は無人であるとしてステップS20に進む。一方、特定周波数帯F3の音圧レベルが、基準許容値Lv3を越えて大きくなった場合(S18でYes)には、ガバナ室10に無断入室している可能性があるとして、異常検出フラグfg3をオンする(S19)。
【0049】
次に、異常検出フラグfg1,fg2,fg3のうち、何れか1つでもオンか否かを判定し(S20)、全ての異常検出フラグfg1,fg2,fg3がオフである場合(S20でNo)には、異常音検出プログラムPG1を抜ける。一方、異常検出フラグfg1,fg2,fg3の何れか1つでもオンである場合(S20でYes)には、異常音が検出された音源を特定することが可能な異常報知を行ってから(S21)、異常音検出プログラムPG1を抜ける。なお、異常音検出プログラムPG1におけるステップS14,S16,S18は、本発明の「基準比較判別手段」に相当する。また、ステップS21は、本発明の「異常報知手段」に相当する。
【0050】
現地監視装置20は、上述した異常音検出プログラムPG1とは別に、図4に示すハンチング検出プログラムPG2を実行する。ハンチング検出プログラムPG2では、まず、ガバナ11の流量を所定期間に亘って記憶し(S31)、流量が予め設定された変動幅を越えて変動したか(S32)、その変動周期が予め設定された許容範囲を越えたか(S33)、その変動が予め設定された回数を超えて連続したか(S34)をそれぞれ判定する。そして、これら全ての条件に全て当てはまる(S32〜S34で全てYes)場合に、ガバナ11において異常な流量変動(ハンチング)が発生していると判定し、異常報知(S35)を行う。
【0051】
各プログラムPG1,PG2における異常報知(S21,S35)は、現地監視装置20(ガバナ室10)に備えた図示しない報知器(報知ランプや報知ブザー等)にて行ってもよいし、ガバナ室10を遠隔監視する監視センター又は管理担当者が携帯するモバイル端末と、現地監視装置20に備えた通信装置29(図1参照)との間を通信回線で接続しておき、監視センター又はモバイル端末にて異常を報知(例えば、メール受信)するようにしてもよい。監視センター又はモバイル端末にて異常報知を行うようにした場合には、異常発生をリアルタイムで速やかに把握することができる。
【0052】
このように、本実施形態によれば、ガバナ室10の複数の音源(ガバナ11、水封器14、人の声帯)のうち、少なくとも1つの音源の室内音の音量(音圧レベル)が、その音源に固有の特定周波数帯F1,F2,F3に対して予め設定された基準許容値Lv1,Lv2,Lv3を越えていた場合に異常を報知するから、検査員の熟練を要することなく的確にガバナ室10の室内の異常を検出することができる。また、複数の音源(ガバナ11、水封器14、人の声帯)の中から異常音を発している音源を特定することができ、異常に対して迅速に対処することが可能になる。また、ガバナ室10を遠隔監視する監視センターや管理担当者が所持するモバイル端末に異常報知を行うようにすることで、検査員が実際にガバナ室に出向いて異常音の検査を行う必要が無くなり、リアルタイムで異常の有無を監視することが可能となる。
【0053】
また、ガバナ室10におけるガバナ11の設置環境に応じて、流量換算用データベースDB1が補正されるから、ガバナ11の流量や流量の異常(ガス停止及びハンチング)をより正確に検出することが可能となる。
【0054】
また、ガバナ室10における水封器14の設置環境に応じて、水封器14に固有の特定周波数帯F2が補正されるから、水封器14の異常音をより正確に検出することが可能となる。
【0055】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0056】
(1)上記実施形態では、マイクロフォン18をガバナ室10の室内に1つだけ設置していたが、音響解析処理においてガバナ室10内の音源から発する音とは無関係な騒音を除去するために、複数のマイクロフォン18を設けてもよい。
【0057】
(2)上記実施形態では、人の声帯から発する声を検出することでガバナ室10への入室を検出していたが、ガバナ室10の出入扉の開閉音や、ガバナ室10内を歩行したときの足音を、マイクロフォン18及び解析部21を用いて検出することでガバナ室10への入室を検出してもよい。また、図10に示すように、人の声、出入扉の開閉音、足音、落雷音等の通常のガバナ室10内では発生しない音を、音源の特定を行うことなく一括して「その他異常音」として検出し、その異常を報知するようにしてもよい。
【0058】
(3)前記実施形態では、ガバナ室10の室内音の音量としての音圧レベルの大きさを判別して異常を検出していたが、音圧レベルとの間で単位換算することが可能な別の物理量(例えば、音圧)の大きさを判別して異常を検出してもよい。
【0059】
(4)上記実施形態では、ガバナ11における流量の異常変動(ハンチング)を流量の演算結果に基づいて検出していたが(図4参照)、ガバナ11に固有の特定周波数帯F1の音圧レベルの変動を監視することで検出してもよい。即ち、音圧レベルが、予め設定された変動幅を越えて変動しかつ、その変動周期が予め設定された許容範囲を越えかつ、その変動が予め設定された回数を超えて連続した場合に、流量の異常変動(ハンチング)が発生したと判定するようにしてもよい。
【0060】
(5)また、ハンチング発生時には、図9に示すように、振幅が経時的に変化する振幅変調音が発生するので、その振幅変調音の波形における包絡線Hのうねりを検出することで、ハンチングの有無を判定してもよい。
【0061】
(6)上記実施形態では、解析部21がガバナ室10内に設置されていたが、ガバナ室10の室外に設置してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 ガバナ室
11 ガバナ
14 水封器
15 容器
16 分岐管
18 マイクロフォン
20 現地監視装置
26 データ記憶部(音源データ記憶部)
27 データ補正部
50 ガバナ室内異常検出システム
DB1 流量換算用データベース(流量換算手段)
DT1 補正データ
F1,F2,F3 特定周波数帯
Lv1,Lv2,Lv3 基準許容値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガバナ室内のガバナを含む複数の音源に対応して、それら各音源に固有の特定周波数帯毎に音量の基準許容値を設定しておき、
前記ガバナ室の室内音を取得し、前記各音源の前記特定周波数帯毎に、前記室内音の音量が前記基準許容値を越えたか否かを判別し、
前記複数の音源のうち少なくとも1つの音源の前記室内音の音量が前記基準許容値を越えていた場合に異常報知を行うことを特徴とするガバナ室内異常検出方法。
【請求項2】
前記ガバナに固有の前記特定周波数帯の音量と前記ガバナを流れる流量とを対応させた流量換算手段を作成しておき、
前記ガバナの前記特定周波数帯の室内音の音量に基づいて前記流量換算手段により前記ガバナを流れる流量を検出し、前記流量が予め定めた基準流量を越えたときに、前記ガバナの前記音量が前記基準許容値を越えたとして異常報知を行うことを特徴とする請求項1に記載のガバナ室内異常検出方法。
【請求項3】
前記ガバナに固有の前記特定周波数帯の音量を実測すると共にその音量に対して前記ガバナに実際に流れた流量を実測して、その実測の流量と前記ガバナの前記特定周波数帯の音量と前記流量換算手段とに基づいて検出される流量との差から補正データを生成し、前記補正データにて前記流量換算手段を補正することを特徴とする請求項2に記載のガバナ室内異常検出方法。
【請求項4】
前記複数の音源の1つを人間の声帯とし、
前記ガバナ室の室内音に含まれる前記声帯の前記特定周波数帯の音量が前記基準許容値より大きくなった場合に異常検出を行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1の請求項に記載のガバナ室内異常検出方法。
【請求項5】
ガバナを含む複数の音源を収容し得るガバナ室の室内音を取得するためのマイクロフォンと、
前記複数の音源に対応して、前記各音源に固有の特定周波数帯を複数記憶すると共に、前記特定周波数帯毎に予め設定した音量の前記基準許容値を複数記憶した音源データ記憶部と、
前記マイクロフォンを通して前記ガバナ室の室内音を取得し、前記音源データ記憶部が記憶した前記特定周波数帯毎の前記室内音の音量が、前記基準許容値を越えたか否かを判別する基準比較判別手段と、
前記複数の特定周波数のうち少なくとも1つの前記特定周波数帯の前記室内音の音量が前記基準許容値を越えていた場合に、異常の報知を行う異常報知手段とを備えたことを特徴とするガバナ室内異常検出システム。
【請求項6】
前記ガバナに固有の前記特定周波数帯の音量と前記ガバナを流れる流量とを対応させた流量換算手段と、
前記ガバナの前記特定周波数帯の室内音の音量に基づいて前記流量換算手段にて前記ガバナを流れる流量を検出する流量検出手段とを備え、
前記基準比較判別手段は、前記流量が予め定めた基準流量を越えたときに、前記ガバナの前記音量が前記基準許容値を越えたと判別することを特徴とする請求項5に記載のガバナ室内異常検出システム。
【請求項7】
前記複数の音源の1つとして、ガス供給路から分岐した分岐管の先端を容器に貯留された水中に配置して、通常は前記容器内の水圧により前記容器内へのガスの放出が禁止される一方、前記ガス供給路のガス圧が前記水圧を越えた場合に前記分岐管から前記水中にガスを放出する水封器が備えられ、
前記マイクロフォンは、前記水中にガスが放出されたときに発生する音を検出可能としたことを特徴とする請求項5又は6に記載のガバナ室内異常検出システム。
【請求項8】
前記ガバナに固有の前記特定周波数帯の音量が、予め設定された変動幅を越えて変動しかつ、その変動周期が予め設定された許容範囲を越えかつ、その変動が予め設定された回数を越えて連続したか否かを判別するハンチング検出手段を備えたことを特徴とする請求項5乃至7の何れか1の請求項に記載のガバナ室内異常検出システム。
【請求項9】
前記基準比較判別手段による判別結果を通信ネットワークを介して前記異常報知手段に送信する通信装置を備えたことを特徴とする請求項5乃至8の何れか1の請求項に記載のガバナ室内異常検出システム。
【請求項10】
前記複数の音源の1つとして人間の声帯が設定され、前記声帯の前記特定周波数帯の前記室内音の音量が前記基準許容値を越えていた場合に、前記異常報知手段にて異常報知を行うことを特徴とする請求項5乃至9の何れか1の請求項に記載のガバナ室内異常検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−220748(P2011−220748A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88295(P2010−88295)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000116633)愛知時計電機株式会社 (126)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】