説明

ガラスの処理方法および光学素子の製造方法

【課題】リン酸塩含有ガラスの表面変質を抑制しつつ、前記ガラスを精密加工または洗浄するガラスの処理方法を提供する。
【解決手段】リン酸塩含有ガラスの表面に液体を接触させて前記表面を研磨するなどの精密加工工程または液体を用いてリン酸塩含有ガラスを洗浄する洗浄工程の少なくとも一方の処理工程を備えるガラスの処理方法において、予め前記液体にリン酸塩を溶解することにより、前記ガラス中のリン成分の前記液体への溶出を抑制しつつ、前記処理工程を行うガラスの処理方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラスの表面処理方法およびガラス製の光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フツリン酸塩ガラスなどのリン酸塩含有ガラスは、光学レンズ、プリズム、光フィルターなどの光学素子の材料として有用であるものの、硬度が低く、化学的にも反応しやすいため、研磨精度に限界がある、研磨時間に長時間を要するといった問題がある。
【0003】
このような問題を解決するための手段として、特許文献1に開示されている方法が提案されている。
この方法は、研磨液のpHをガラスのpHに近似させる操作を行い、その後に、この研磨液を使用してガラス表面を研磨し、ガラス表面の線状傷の幅を7μm以下に抑えたガラス製品を作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−330132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の撮像機器の高精細化に伴い、極めて高品位な表面を有する光学素子が必要とされている。従来、ガラスの硬度が低いために研磨によって表面に生じた潜傷が、研磨液によって顕在化しないよう特許文献1に記載の方法を用いれば良かったが、光学機器の高精細化により、光学素子製造プロセスにおけるガラス表面の変質を防止する技術が必要になってきた。
【0006】
本発明は上記問題を解決し、リン酸塩含有ガラスの表面変質を抑制しつつ、前記ガラスを精密加工または洗浄するガラスの処理方法を提供すること、および、前記処理方法を用いて高品位な表面を有するリン酸塩含有ガラス製の光学素子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するにあたり、本件発明者は鋭意検討した結果、次の知見を得た。
(i)研磨、洗浄で使用する液体のpHは、ガラス表面の潜傷の潜在化に影響するものの
、単に、液体のpH調整のみでガラス表面の変質を抑制することは困難である。
(ii)ガラス表面の変質は、リン酸塩含有ガラスのネットワークを構成するリン酸塩の鎖
状構造が液体によりアタックされ、リン酸塩が液体に溶出し、鎖状構造が破壊されることによって生じると考えられる。
(iii)リン酸塩の液体への溶出を抑制することができれば、ガラスの鎖状構造が維持され、表面変質を防止することが可能となる。
【0008】
以上の知見に基づき完成した本発明は、上記課題を解決するための手段として、
(1)リン酸塩含有ガラスの表面に液体を接触させて前記表面を精密加工する精密加工工程または液体を用いてリン酸塩含有ガラスを洗浄する洗浄工程の少なくとも一方の処理工程を備えるガラスの処理方法において、
予め前記液体にリン酸塩を溶解することにより、前記ガラス中のリン成分の前記液体への溶出を抑制しつつ、前記処理工程を行うことを特徴とするガラスの処理方法、
(2)前記処理工程後のガラス表面のヘイズが1%以下となるように、前記液体に溶解するリンの濃度を調整する上記(1)項に記載のガラスの処理方法、
(3)前記処理工程が洗浄工程であって、洗浄工程前後のガラスの質量変化量が0.01%以下となるように、前記液体に溶解するリンの濃度を調整する上記(1)または(2)項に記載のガラスの処理方法、
(4)前記液体がpHの緩衝液であることを特徴とする上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載のガラスの処理方法
(5)フツリン酸塩ガラスを処理することを特徴とする上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載のガラスの処理方法、
(6)リン酸塩含有ガラスからなるプレス成形用ガラス素材の製造方法において、
上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の方法によりガラスを処理する処理工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法、
(7)リン酸塩含有ガラスからなる光学素子の製造方法において、
上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の方法によりガラスを処理する処理工程を備える光学素子の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リン酸塩含有ガラスの表面変質を抑制しつつ、前記ガラスを精密加工または洗浄するガラスの処理方法を提供すること、および、前記処理方法を用いて高品位な表面を有するリン酸塩含有ガラス製の光学素子を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(ガラスの処理方法)
まず、本発明のガラスの処理方法について詳説する。
本発明のガラスの処理方法は、リン酸塩含有ガラスの表面に液体を接触させて前記表面を精密加工する精密加工工程または液体を用いてリン酸塩含有ガラスを洗浄する洗浄工程の少なくとも一方の処理工程を備えるガラスの処理方法において、
予め前記液体にリン酸塩を溶解することにより、前記ガラス中のリン成分の前記液体への溶出を抑制しつつ、前記処理工程を行うことを特徴とする。
【0011】
前述のように、ガラス表面の変質はガラス中のリン成分がガラス表面から液体に溶出し、ガラスの鎖状構造が破壊されることによって生じると考えられる。そこで、ガラス中のリン成分が液体に溶出しないよう、予め液体にリン酸塩を溶解し、液体に溶解しているリンの濃度を高める。
【0012】
処理工程が精密加工工程の場合、液体は例えば加工液に相当する。精密加工工程としては、研磨工程、高精度な切削工程、研削工程などを例示することができる。研磨工程における加工液は、研磨液あるいは研磨スラリーとも呼ばれ、砥粒を含む液体、すなわち、研磨砥粒を分散させた液体である。また上記処理工程が洗浄工程の場合、液体は例えば洗浄液に相当する。
【0013】
加工液、例えば研磨液としては、CeO2を主な砥粒とする市販の研磨材を水に分散した液等を使用することができる。
【0014】
加工液のリンの濃度を調整する物質としては、可溶性のリン酸塩、例えば、Na2HPO4、NaH2PO4、K2HPO4、KH2PO4等を使用すればよい。
【0015】
洗浄液としては、軟硝材用の洗浄用として市販されている各種洗浄液や、純水に水溶性のリン酸塩を溶解した水溶液などを使用すればよい。
【0016】
洗浄液中に溶解するリンの濃度を調整する物質としては、液体に対し可溶性のリン酸塩、例えば、Na2HPO4、NaH2PO4、K2HPO4、KH2PO4等を使用すればよい。
【0017】
上記加工液、洗浄液は、pHの緩衝液としての役割も果たす。このようなpHの緩衝液を使用することにより、ガラスの処理に伴う液体のpH変化が生じにくくなり、リン成分の溶出抑制効果をより安定的に得ることができる。
【0018】
本発明の好ましい態様は、前記精密加工工程後のガラス表面のヘイズが1%以下(以下、ヘイズ基準値という)となるように、前記液体に溶解するリンの濃度を調整する方法である。
【0019】
ヘイズは、日本光学硝子工業会規格JOGISの「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(表面法)07-1975」のヘイズHに相当し、前記規格で定められた方法によって測定される。ヘイズが1%以下の面とすることにより、前記面を光学機能面とし、高精細な光学機器に搭載可能な光学素子を得ることができる。なお、ヘイズ基準値を0.7%とすることが好ましく、0.5%とすることがより好ましい。なお、光学機能面として、光学素子の制御対象の光を屈折させる面、反射させる面、透過させる面、回折させる面などを例示することができる。
【0020】
リンの濃度の調整は次のように行ってもよい。まず、リン酸塩溶液を作り、この溶液を使用して試験的に処理工程を行い、処理工程後のガラス表面のヘイズを測定する。ヘイズ測定値がヘイズ基準値よりも大きい場合、液体中に溶解するリンの濃度を高め、さらに試験的に処理工程を行い、ガラス表面のヘイズ測定を繰り返す。このようにしてヘイズがヘイズ基準値以下になった時点で、実際に処理工程で使用する液体に溶解するリン酸の濃度を決めてもよい。
【0021】
本発明の好ましい他の態様は、前記処理工程が洗浄工程であって、洗浄工程前後のガラスの質量変化量が0.01%以下(以下、質量変化量基準値という)となるように、前記液体に溶解するリンの濃度を調整する方法である。ガラスの質量変化量を質量変化量基準値以下にすることで、ガラス表面の変質をより確実に抑制することができる。
【0022】
質量変化量は、処理工程前のガラスの質量Mbを精密に測定し、質量を測定したガラスを試験的に処理し、処理工程後の質量Maを精密に測定し、(Mb−Ma)/Mbから求める。質量変化量が質量変化量基準値以下となった時点で、実際に処理工程で使用する液体中のリンの濃度、すなわち、液体に溶解するリンの濃度を決めてもよい。
【0023】
なお、本発明における処理工程としては、精密加工工程のみでもよいし、洗浄工程のみでもよいし、精密加工工程および洗浄工程でもよい。なお、上記液体中においてリン酸塩含有ガラス製の光学素子を使用するという応用もある。このようにすることで、光学素子表面の変質を抑制することができる。
【0024】
リン酸塩含有ガラスの代表的なものは、モル%表示で、P25に換算したリンの含有量が、B23に換算したホウ素の含有量やSiO2に換算したケイ素の含有量よりも多いリン酸塩ガラスである。P25に換算したリンの含有量は、例えば10%以上である。
【0025】
リン酸塩ガラスの中でも、高屈折率高分散化のためにNb25、TiO2、Bi23およびWO3を合計で10モル%以上含有するガラスは、リン酸塩ガラスの中でも比較的、化学的耐久性が優れているが、Nb25、TiO2、Bi23およびWO3の合計含有量が10モル%未満のガラスは化学的耐久性が低く、リン成分の液体への溶出がおきやすい。したがって、本発明は、Nb25、TiO2、Bi23およびWO3の合計含有量が10モル%未満のリン酸塩含有ガラスの処理に好適である。
【0026】
表面変質がおこりやすいガラスとしてフツリン酸塩ガラスがある。したがって、フツリン酸塩ガラスの処理に、本発明は特に好適である。
【0027】
フツリン酸塩ガラスは、P5+以外にカチオン成分としてAl3+、アルカリ金属、アルカリ土類金属などを含むことができる。
【0028】
また、フツリン酸塩ガラスに、近赤外線吸収剤としてCuイオンを添加し、近赤外線吸収フィルター用ガラスとしてもよい。
【0029】
精密加工工程の後、加工液がガラス表面に残存しないよう洗浄することが好ましく、この洗浄工程に本発明の処理方法を適用することが望ましい。
【0030】
洗浄工程後、液体がガラス表面に残存しないよう、ガラス表面を乾燥させることが望ましい。
【0031】
このようにして、フツリン酸塩ガラスからなるガラス物品を処理し、クモリ、ヤケなどの表面変質のないガラス物品を得ることができる。
【0032】
ここでガラス物品としては、加熱、軟化、プレス成形してプレス成形品を作製するためのプレス成形用ガラス素材、あるいは、レンズ、プリズム、回折格子、ミラー、光学フィルターなどの各種の光学素子を例示することができる。
【0033】
これらのガラス物品は、高品位な表面を有することが求められている。特に、光学機器の高精細化に伴い、光学素子には極めて高品位な光学機能面が求められている。本発明によれば、表面変質を防止し、高品位な面を有するガラス物品を処理する方法を提供することができる。
【0034】
(プレス成形用ガラス素材の製造方法)
次に本発明のプレス成形用ガラス素材の製造方法について詳説する。
【0035】
リン酸塩含有ガラスからなるプレス成形用ガラス素材の製造方法において、
上記ガラスの処理方法によりガラスを処理する処理工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【0036】
前述のように、プレス成形用ガラス素材は、加熱、軟化、プレス成形してプレス成形品を作製するためのガラス素材である。プレス成形用ガラス素材の中でも精密プレス成形に供されるガラス素材には、高品位な表面が求められる。精密プレス成形は、プレス成形によりダイレクトに光学素子を成形する方法で、プレス成形型の成形面をガラスに精密に転写し光学機能面を形成する方法である。プレス成形後、光学機能面を機械的に加工しないため、ガラス素材の表面が光学素子の表面として残る。表面が変質したガラス素材を精密プレス成形すると光学素子表面に変質層が残るため、精密プレス成形用ガラス素材(以下、プリフォームともいう。)の表面変質を抑制する必要がある。
通常の加工方法の場合、得られたガラス表面のリン成分濃度はガラス内部のリン濃度より低下するが、本方法による加工によって得られたガラス表面のリン成分濃度は変化が抑えられる特徴も有しており、安定したガラス特性を容易に得ることができる。
【0037】
本発明のプレス成形用ガラス素材の製造方法によれば、上記本発明のガラスの処理方法により、リン酸塩含有ガラスを精密加工および/または洗浄するので、化学的耐久性の低いガラスでも表面変質のないプレス成形用ガラス素材を製造することができる。
【0038】
次に、プレス成形用ガラス素材を製造方法の態様について説明する。
【0039】
第一の態様は、リン酸塩含有ガラスからなるガラス塊を研削、研磨してプレス成形用ガラス素材を製造する際、精密加工工程に相当する研磨工程に上記本発明の処理方法を用いる方法である。ガラス塊を丸め加工して球状化し、球状化したガラスの表面を研磨して球状ガラスを作製し、表面を洗浄し、その後に乾燥させて清浄な表面を有するプレス成形用ガラス素材を作製する。上記プロセスにおいて、研磨工程後のガラスの洗浄工程に、上記本発明の処理方法を用いてもよい。
なお、ガラス塊を丸め加工、球状化、洗浄後の乾燥については、公知の方法を用いればよい。
【0040】
第二の態様は、リン酸塩含有ガラスの融液を作製し、プレス成形用ガラス素材一個分に相当する量のガラス融液を、浮上させながらガラス素材に成形し、作製したガラス素材を上記本発明の処理方法により洗浄する方法である。
例えば、ガラス原料を熔融容器内に入れて、加熱、熔融し、得られた熔融物を清澄、均質化してガラス融液、すなわち、熔融ガラスを作製する。熔融容器に取り付けたガラス流出パイプからガラス融液を流出し、プレス成形用ガラス素材一個分に相当する量のガラス融液を公知の方法で分離する。分離して得た熔融ガラス塊を浮上しながら成形する際も、公知の方法を用いればよい。
【0041】
上記方法によれば、熔融ガラス塊を浮上状態で成形するので、ガラス素材の全表面が自由表面となり、精密プレス成形用ガラス素材として好適なガラス素材を得ることができる。成形後、本発明の処理方法を用いてガラス素材を洗浄し、乾燥させた後、必要に応じてガラス素材の表面に炭素膜などをコートしてもよい。このような膜は、精密プレス成形の際、ガラスとプレス成形型との融着を防止し、ガラスがプレス成形面に沿って移動する際、潤滑層としての機能を果たす。
【0042】
ガラス素材表面の変質を防止することにより、ガラス素材表面へのコートの付着性改善効果が得られる。また、ガラス素材表面の変質を防止することは、精密プレス成形の際、ガラスとプレス成形型との融着を防止する上からも好ましい。
【0043】
(光学素子の製造方法)
次に本発明の光学素子の製造方法について詳説する。
【0044】
本発明の光学素子の製造方法は、リン酸塩含有ガラスからなる光学素子の製造方法において、上記ガラスの処理方法によりガラスを処理する処理工程を備える光学素子の製造方法である。
【0045】
本発明の第一の態様は、光学素子の形状に近似する光学素子ブランクを成形し、該光学素子ブランクを少なくとも研磨する工程を備え、本発明の処理方法により前記研磨を行う方法である。光学素子ブランクの作製方法としては、熔融ガラス塊をプレス成形して作製する方法、プレス成形用ガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形して作製する方法、ガラスブロックを機械加工して作製する方法などの公知の方法を例示することができる。上記研磨工程の後、得られた光学素子の洗浄を本発明の処理方法により行うことが、ガラス表面の変質を防止する上から好ましい。
【0046】
本発明の第二の態様は、プレス成形用ガラス素材を加熱し、該加熱したガラス素材を精密プレス成形して光学素子を作製し、本発明の処理方法により前記光学素子を洗浄する工程を有する方法である。精密プレス成形には公知の方法を用いればよい。
【0047】
これらの方法によれば、少なくとも光学機能面に変質のない光学素子を製造することができる。表面変質層のない光学素子は、高精細な撮像機器に搭載する光学素子に好適である。
【0048】
光学素子としては、レンズ、プリズム、回折格子、ミラー、光学フィルターを例示することができる。
【0049】
光学素子には、必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜などをコーティングしてもよい。なお、ガラス表面の変質がないので、付着性の良好なコーティングが可能である。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
HOYA株式会社製のフツリン酸塩光学ガラス(硝種名FCD100)を直径43.7mm、厚さ5mmの円盤状に加工し、円盤状ガラスの対向する2つの平面を透明に研磨しサンプルを作製した。サンプルの質量を測定したところ、26.4343gであった。また、サンプルの2つの平面のうち、一方の平面に所定の強度を有する光を垂直に入射させ、他方の平面から出射する光の強度を測定し、ヘイズを算出したところ、0.1%であった。
Na2HPO4、NaH2PO4、K2HPO4、KH2PO4などのリン酸塩を使用し、純水にリン酸塩を溶解し、水溶液を作製した。水溶液中のリン、ナトリウム、カリウムの濃度は、それぞれP:160ppm、Na:125ppm、K:83ppmである。以下、この水溶液を液体Aということにする。このように、液体Aにはリンだけでなく、Na、Kといったアルカリ金属も溶解しているので、緩衝液として機能する。
50℃に保った液体Aに上記ガラスサンプルを15時間浸漬(浸漬テスト)した後、乾燥させて、上記方法により質量とヘイズを測定したところ、液体浸漬後のサンプルの質量が26.4338g、ヘイズは0.3%であった。サンプルの質量変化量は0.0019%と質量変化量基準値を大幅に下回った。
なお、液体Aは緩衝液のpHは7.1である。
【0051】
次に、この液体Aに研磨砥粒として市販のCeO2を導入、分散させ、研磨液とし、上記フツリン酸塩ガラスと同種のガラスからなるレンズブランクを研磨して球面レンズとし、このレンズを液体Aで十分洗浄した後、乾燥させ、ヘイズを測定したところ0.3%であった。このようにして、表面にクモリやヤケといった変質層のない高品位な表面を有するレンズを作製した。
【0052】
次いで、レンズ表面に反射防止膜をコートした。レンズ表面に変質層がないことから反射防止膜の付着性は良好であった。
なお、上記レンズブランクは、プレス成形用ガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形型を用い、周知の方法でプレス成形して得られたものである。
【0053】
(実施例2)
実施例1で用いた光学ガラスと同種のフツリン酸塩ガラスからなるブロックを熔融ガラスから成形し、アニールした後、切断、研削して得たガラス片を球形状に研磨し、精密プレス成形用プリフォームを作製した。研磨には、液体Aに砥粒として市販のCeO2を導入、分散させた研磨液を用いた。
研磨後、プリフォーム表面を液体Aにより十分洗浄し、乾燥させた。プリフォーム表面にはクモリやヤケといった変質層は認められなかった。
【0054】
(実施例3)
実施例2において作製したプリフォームの表面にカーボン膜を形成し、加熱してプレス成形型を用いて精密プレス成形し、非球面レンズを作製した。精密プレス成形後、カーボン膜を酸化して除去した。
このようにして、表面にクモリやヤケといった変質層のない高品位な表面を有するレンズを作製した。またレンズは長期にわたって変質しないため、溶液中での使用も可能である。
【0055】
次いで、レンズ表面に反射防止膜をコートした。レンズ表面に変質層がないことから反射防止膜の付着性は良好であった。
【0056】
(比較例1)
純水にNaOHを溶解したpHが7.8の水溶液(液体Bという)を使用した以外は、実施例1の浸漬テストと同様にしてサンプルの質量変化量とヘイズを測定した。質量変化量は0.022%、ヘイズは52.1%であった。浸漬後のサンプル表面はヤケと呼ばれる変質層が一面に生じているのが目視により確認された。
液体Bに市販のCeO2砥粒を分散させた研磨液を使用し、上記ガラスと同種のガラスを研磨してレンズ形状に加工し、得られたレンズを液体Bにより洗浄、乾燥させた後、レンズ表面を観察したところ、ヤケと呼ばれる変質層が一面に生じていた。
【0057】
(比較例2)
pH6.8のHNO3水溶液(液体Cという)を使用した以外は、実施例1の浸漬テストと同様にしてサンプルの質量変化量とヘイズを測定した。質量変化量は0.024%、ヘイズは51.6%であった。浸漬後のサンプル表面はヤケと呼ばれる変質層が一面に生じているのが目視により確認された。
液体Cに市販のCeO2砥粒を分散させた研磨液を使用し、上記ガラスと同種のガラスを研磨してレンズ形状に加工し、得られたレンズを液体Cにより洗浄、乾燥させた後、レンズ表面を観察したところ、ヤケと呼ばれる変質層が一面に生じていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩含有ガラスの表面に液体を接触させて前記表面を精密加工する精密加工工程または液体を用いてリン酸塩含有ガラスを洗浄する洗浄工程の少なくとも一方の処理工程を備えるガラスの処理方法において、
予め前記液体にリン酸塩を溶解することにより、前記ガラス中のリン成分の前記液体への溶出を抑制しつつ、前記処理工程を行うことを特徴とするガラスの処理方法。
【請求項2】
前記処理工程後のガラス表面のヘイズが1%以下となるように、前記液体に溶解するリンの濃度を調整する請求項1に記載のガラスの処理方法。
【請求項3】
前記処理工程が洗浄工程であって、洗浄工程前後のガラスの質量変化量が0.01%以下となるように、前記液体に溶解するリンの濃度を調整する請求項1または2に記載のガラスの処理方法。
【請求項4】
前記液体がpHの緩衝液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスの処理方法。
【請求項5】
フツリン酸塩ガラスを処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスの処理方法。
【請求項6】
リン酸塩含有ガラスからなるプレス成形用ガラス素材の製造方法において、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によりガラスを処理する処理工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項7】
リン酸塩含有ガラスからなる光学素子の製造方法において、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によりガラスを処理する処理工程を備える光学素子の製造方法。

【公開番号】特開2013−112585(P2013−112585A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261919(P2011−261919)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】