説明

ガラスの製造方法、プレス成形用ガラス素材の製造方法及び光学素子の製造方法

【課題】Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+のいずれか少なくとも1種の成分を含有するガラスの製造において、着色の少ない高品質の高屈折率光学ガラスを安定して生産できるガラスの製造方法、および前記方法により作製したガラスからプレス成形用ガラス素材や光学素子を製造する方法を提供する。
【解決手段】ガラス融液2に接触する面が貴金属または貴金属合金で作られた坩堝1内にガラス融液2を収容し、ガラス融液2に電極3を接触させ、電極3の少なくともガラス融液2と接触する面は、前記貴金属または貴金属合金の標準電極電位よりも高い標準電極電位を有する貴金属または貴金属合金で構成され、坩堝1のガラス融液2に接触する面を陰極、電極3が陽極となるように電位を印加し、かつ陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなる電位の値を上限として陰極と陽極の間に電圧を印加して坩堝1の融液2と接触する面の侵蝕を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの製造方法に関する。さらに詳細には、ガラス融液中において価数変化を起こし易い成分を含むガラスを、着色を抑制しつつ製造する方法に関する。さらに本発明は、本発明の方法で製造したガラスを用いるプレス成形用ガラス素材の製造方法及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス原料を熔融して高品質のガラスを製造する際、熔融ガラスに対する耐蝕性が優れた貴金属製坩堝が使用されている。
【0003】
特許文献1は、ガラス製造時にガラスと接する部分を白金系の材料で作り、SiO2−Al23系ガラスからなるディスプレイ基板を製造する技術を開示している。特許文献1では、ガラス熔融時に混入する白金異物が未研磨のガラス基板表面に突起となって現れ、この突起が基板上に配線を形成したときに断線やショートの原因となる。このことに着目し、熔融ガラスと白金系材料の接触による起電力を打ち消すように外部から逆電圧を掛けることにより、ガラス基板表面の白金異物による突起の防止を試みている。
【0004】
特許文献2では、熔融ガラス中に電極を設けてそれらに電流を流すことにより、陽極となった電極からは酸素ガスの泡を発生させ、陰極となった電極にはガラス中に熔解していた槽の成分である白金などの貴金属を析出させ、清澄効果を改善させるとともに、貴金属を回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−60215号公報
【特許文献2】特開2010−53004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の0039段落には「白金族元素や白金族元素合金と熔融ガラスとの接触により、起電力が発生している個所がある場合、その個所に逆電位を掛けておくと(例えば、図3 に示すように、攪拌槽において、スターラー31とスターラー管30との隙間の高温熔融物に生成する起電力を抑制するように、前記スターラー管30に逆電位を掛ける)、白金族元素ブツの発生を効果的に抑えることができる。」と記載され,0049段落には「まず、表中のガラス組成となるように調合した原料バッチを、白金合金を用いたスターラー及びスターラー管を備えた連続熔融炉で熔融する。続いて、オーバーフローダウンドロー法で肉厚0.7mmのガラス基板に成形し、360mm×460mmのサイズに切断した。」、0050段落には「尚、試料No.8〜10については、攪拌槽において、前記スターラー管に逆電位を掛けた。」と記載されていることから、スターラーとスターラー管とは白金合金という同種の材料からなり、スターラー、スターラー管をそれぞれ電極と考えると、特許文献1では同種の材料からなる電極間に電圧を印加している。同種の材料からなる電極を熔融ガラスに接触させると、両電極は等電位となるが、このような電極間に外部から電圧を印加すれば、必ず一方の電極のイオン化を促進することになる。すなわち、特許文献1の方法は、電圧印加の向きおよび強さによらず、イオン化した電極成分がガラス中に混入することを防止することができない。
【0007】
また特許文献2に記載の方法でも、熔融ガラスに電流を流している(通電している)ことは明らかであり、さらにこの方法も、イオン化した電極成分がガラス中に混入することを防止することができない。
【0008】
ところで、白金などの耐蝕性に優れた坩堝を使用してガラス原料を熔融する技術は、光学ガラスの製造においても使用されている。近年、光学系のコンパクト化、高機能化に対応するため、高屈折率ガラスの需要が高まっている。高屈折率ガラスを得るには、Bi、Ti、Nb、Wなどの高屈折率成分を多く導入する。
【0009】
ところが、このような高屈折率ガラスを白金などの貴金属系坩堝で熔融すると、ガラスが着色し、可視域の短波長領域の透過率が低下するという問題がおこる。着色の原因は、前記高屈折率ガラスが含有する上記高屈折率成分はガラス融液中で白金等の貴金属と反応を起こし易く、そのため、貴金属製坩堝が熔融ガラスによって侵蝕(酸化)され、貴金属が酸化されて生じた貴金属イオンがガラスに溶け込み、溶け込んだ貴金属イオンが可視光を吸収するためであると考えられる。そこで、本発明者は、上記高屈折率成分を含有する高屈折率ガラスを特許文献1、2にそれぞれ記載されている方法に基づき比較例に示すように白金部材で構成された坩堝および電極を使ってガラスを熔解し、貴金属イオンの溶け込み防止による着色抑制効果の有無を検討した。しかし、かえって着色が著しく悪化することがわかった。
【0010】
本発明は、上記問題を解消し、着色の少ない高品質の高屈折率光学ガラスを安定して生産可能にするガラスの製造方法、および前記方法により作製したガラスからプレス成形用ガラス素材や光学素子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の以下の通りである。
[1]
ガラス原料を熔融することを含む、Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+のいずれか1種または2種以上の成分を含有するガラスの製造方法であって、
前記製造方法は、熔融ガラスに接触する面が貴金属または貴金属合金で作られた容器内に熔融ガラスを収容し、前記熔融ガラスに電極を接触させて、前記容器の熔融ガラスに接触する面が陰極となり、かつ前記電極が陽極となるように電位を印加すること、前記貴金属または貴金属合金の標準電極電位よりも高い標準電極電位を有する貴金属または貴金属合金で前記電極の少なくとも熔融ガラスと接触する面を構成すること、及び陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなる電位の値を上限として前記陰極と陽極の間に電圧を印加して前記容器の熔融ガラスと接触する面の侵蝕を抑制することを特徴とする、ガラスの製造方法。
[2]
前記電圧は、陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなるように印加する[1]に記載のガラスの製造方法。
[3]
前記電圧は、陰極及び陽極の間に流れる電流の陰極における電流密度が100mA/cm2以下となるように印加する[2]に記載のガラスの製造方法。
[4]
前記容器は、ガラス原料を熔融して熔融ガラスを作るための熔融槽、熔融ガラスを清澄するための清澄槽、及び清澄した熔融ガラスを均質化するための作業槽の少なくとも1つである[1]〜[3]のいずれかに記載のガラスの製造方法。
[5]
前記ガラスは、Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+の合計含有量が10陽イオン%以上のガラスである[1]〜[4]のいずれかに記載のガラスの製造方法。
[6]
前記容器の熔融ガラスに接触する面が白金または白金合金製であり、前記陽極を構成する電極の熔融ガラスに接触する面が金または金合金製である[1]〜[5]のいずれかに記載のガラスの製造方法。
[7]
[1]〜[6]のいずれかに記載の方法でガラスを製造し、得られたガラスを用いてプレス成形用ガラス素材を製造する、プレス成形用ガラス素材の製造方法。
[8]
[1]〜[6]のいずれかに記載の方法でガラスを製造し、得られたガラスを用いて光学素子を製造する、光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、着色の少ない高品質のガラスを安定して生産可能にする、ガラスの製造方法を提供できる。さらに、前記方法により作製したガラスからプレス成形用ガラス素材や光学素子を製造する方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で作成したセルの垂直断面を模式的に示す。
【図2】実施例1におけるガラス1およびガラス2についての印加電圧と電流値の関係を示す。
【図3】実施例2においてガラス1について行った各熔解テスト(熔解保持時間を2時間、4時間、または8時間とした)より得られたガラスの透過率測定結果を示す。
【図4】実施例2においてガラス2について行った熔解テスト(電圧印加あり、電圧印加なし)より得られたガラスの透過率測定結果を示す。
【図5】比較例1において印加電圧条件(左図: +0.46V、右図: +0.21V)を変えたときのガラス1の透過率測定結果と電圧印加終了直後のガラス融液の写真を示す。
【図6】実施例3、比較例2において印加電圧を変化させたときのガラス1の透過率測定結果を示す。
【図7】比較例2において得られたガラス1の外観写真を示す。
【図8】実施例2において印加電圧を変化させたときの白金(Pt)濃度、および金(Au)濃度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+のいずれか1種または2種以上の成分を含有するガラスの製造方法である。この製造方法は、熔融ガラスに接触する面が貴金属または貴金属合金で作られた容器内に熔融ガラスを収容し、前記熔融ガラスに電極を接触させて、前記容器の熔融ガラスに接触する面が陰極となり、かつ前記電極が陽極となるように電圧を印加すること、前記貴金属または貴金属合金の標準電極電位よりも高い標準電極電位を有する貴金属または貴金属合金で前記陽極の少なくとも熔融ガラスと接触する面を構成すること、及び前記陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなる電圧の値を上限として前記陰極と陽極の間に電圧を印加して前記容器の熔融ガラスと接触する面の侵蝕を抑制することを特徴とする。
【0015】
本発明において、標準電極電位とは、前記熔融ガラス中における標準電極電位を意味する。
また、容器の熔融ガラスと接触する面の侵蝕を抑制するとは、陽極を熔融ガラスに接触させない状態での容器の熔融ガラスと接触する面の侵蝕を基準とし、前記基準よりも侵蝕が少ないことを意味する。
【0016】
以下、容器全体が単一の貴金属または貴金属合金からなり、陽極が単一の貴金属または貴金属合金からなる場合を例にとり、本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明は、容器全体が単一の貴金属または貴金属合金でない場合や、陽極が単一の貴金属または貴金属合金ではない場合にも、容器や陽極が複合材料からなると考えれば、同様に適用することができる。
【0017】
以下、特記しない限り、貴金属とまたは貴金属合金を一括して貴金属と呼ぶことにする。
貴金属製の容器内に収容した熔融ガラスに、前記貴金属よりも高い標準電極電位を示す貴金属からなる電極を接触させ、前記容器が陰極となり、かつ前記電極が陽極となるように直流電気回路を構成して電圧を印加する。貴金属製の容器内に収容した熔融ガラスに、前記貴金属よりも高い標準電極電位を示す貴金属からなる電極を接触させ、前記容器と前記電極を電圧を印加することなく外部回路で連絡すると、前記容器と前記電極が有する標準電極電位の差によって、前記電極から前記容器に電流が流れる。その結果、前記容器の熔融ガラスと接触する界面において、容器成分の酸化が起こる。
【0018】
これに対して、前記容器が陰極となり、かつ前記電極が陽極となるように直流電気回路を構成して電圧を外部から印加する。直流電気回路は、例えば直流電源の+端子→配線→陽極→熔融ガラス→陰極(容器)→配線→直流電源の−端子のように構成される。そして、前記電圧は、より標準電極電位の低い貴金属製容器側のイオン化を防止するように調整することで、陽極と容器(陰極)の標準電極電位差から発生する電流を打ち消すような電圧(ここでΔPと定義する)を陽極と陰極の間に印加する。ここで、陰極に対する陽極の電位をΔPより大きくすると、前記容器が熔融ガラスと接触する界面において熔融ガラスの酸素等の陰イオンが酸素原子に酸化されるとともにガラス中の陽イオン成分の還元が起こり、熔融ガラスに含まれるBi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+のいずれかの成分が還元され、急激にガラスの着色が増大する。そのため、陽極及び陰極の間に印加する電圧は、ΔP以下となるように調整する。
【0019】
陽極及び陰極の間に印加する電圧をΔPと等しくすることにより、陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなり、Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+のいずれかの成分を還元させることなく、陰極である容器のイオン化(侵蝕)を抑制することができる。したがって、ガラス成分であるBi3+、Ti4+、Nb5+、W6+の還元による着色や陽極のイオン化による着色の増大を防止しつつ、陰極である容器の侵蝕を抑制する上から、陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなるように前記陰極と陽極の間に電圧を印加することが好ましい。
【0020】
陰極とする容器および陽極の材料を選定するにあたっては、陽極を構成する材料の前記熔融ガラス中における標準電極電位が陰極を構成する材料の前記熔融ガラス中における標準電極電位よりも高くなるように材料を選定すればよい。なお、前記電圧印加により、標準電極電位の高い貴金属であっても陽極のイオン化が促進され、一部がガラス融液内に溶出することがあるため、イオン化された陽極がガラスの透過率特性に悪影響を与えないよう、陽極の材質を選定することが好ましい。
【0021】
製造しようとするガラスの融液、好ましくはガラス製造時の熔解温度(熔融温度)と同じ温度のガラス融液に陽極となる材料と陰極となる材料を浸漬し、各材料間の電位差を測定することにより2種の材料の標準電極電位差に起因する電位差を測定することができる。さらにこのようにして発生した電位差を打ち消すように電位を印加し、実質的に電流が流れなくなる電位ΔPを測定することもできる。なおΔPは概ね上記の標準電極電位差に一致するが、ガラスの温度や粘性あるいは組成によって決まるイオンの輸率などにより、見かけのΔPは時間とともに変化する場合があるため、実際の防食処理の際にはΔPが必ずしも上記の標準電極電位差に一致しない場合もある。したがって、印加電圧は、上記電流をモニターし、電流が実質的に流れない値に制御することが望ましい。高電位側の材料を陽極材料、低電位側の材料を陰極材料とすればよい。
【0022】
このように2種の材料を製造しようとするガラスの融液に浸漬し、これら材料間に発生する電圧と極性を測定することにより、陽極材料、陰極材料を容易かつ適切に選定することができ、陽極、陰極の間に印加すべき電圧の最大値ΔPを知ることができる。電位差、極性の測定においては、2種の材料のうち一方の材料で容器を作製し、容器内に熔融ガラスを収容し、その熔融ガラスに他方の材料で作製した電極を浸漬する方法や、容器、例えば絶縁性容器の中に熔融ガラスを収容し、その熔融ガラスに2種の材料の各々で作製した電極を浸漬する方法などがある。
【0023】
なお、電極材料の選定にあたっては、ガラス熔融時の高温にも耐え得る十分な耐熱性を有する材料であることが望まれる。
【0024】
熔融ガラス、すなわち、ガラス融液中における貴金属の標準電極電位については、水中における貴金属の標準電極電位の値を参考にすることができる。例えば、電気化学便覧(第4版 昭和60年1月25日 丸善 発行)に記載の水溶液系の各材料の標準電極電位は以下のとおりである。
【0025】
Au+1.50V(電極反応 Au3++3e-=Au(s))、Au+1.68V(電極反応 Au++e-=Au(s))、Pt +1.32V(電極反応 Pt2++2e-=Pt(s))、Pd+0.915V(電極反応 Pd2++2e-=Pd)、Ir+1.16V(電極反応 Ir3++3e-=Ir(s))、Ag+0.7991V(電極反応 Ag++e-=Ag(s))、Rh+0.758V(電極反応 Rh3++3e-=Rh(s))、Ru+0.46V(電極反応 Ru2++2e-=Ru(s))。
【0026】
ここで、(s)とは固体であることを示す。Auのように、固体金属について複数種の電極反応が存在し、各電極反応において標準電極電位が異なる場合は、当該貴金属を陽極として使用する場合は、複数の標準電極電位の中で最低電位のものを標準電極電位とみなし、陰極として使用する場合は、複数の標準電極電位の中で最高電位のものを標準電極電位とみなせばよい。ただし、水中(あるいは水溶液中)における標準電極電位は、容器(陰極)陽極の材料を選定する際の目安であり、より確実な選定を行う上から前記のように製造しようとするガラスの融液に2種の材料を浸漬して両材料間の電位差と極性を確認することが望ましい。
【0027】
<Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+のいずれかの成分を含有するガラス>
Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+は、ガラスに含まれる成分の中では、高屈折率成分である。これら高屈折率成分は、ガラス融液中において価数変化をおこしやすい。このようなガラスを特許文献1の方法で熔融すると以下の問題がおこる。即ち、陽極も陰極も同種の材料(白金)であるため、陰極の侵蝕を抑制するために印加した電圧によって、陽極が周囲の熔融ガラスに含まれるBi、Ti、Nb、Wの各イオンから電子を奪い、各イオンの還元、着色がおこる。
特許文献2の方法でも、熔融ガラスに電流を流しているため、高屈折率ガラスを熔融する場合、高屈折率成分の還元、着色がおこる。
【0028】
Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+のいずれかの成分を含有するガラスの中でも高屈折率ガラスには多量の高屈折率成分が含まれているため、高屈折率成分の還元による着色は貴金属イオンの混入による着色よりも遥かに強い着色となる。こうした着色は印加電圧がΔPよりも高くなると急激に増大する。
【0029】
また陽極、陰極間の印加電圧に特に制限はないが、前記印加電圧をΔP以下とすることにより、陽極を構成する材料の著しいイオン化を抑え、陽極材料のイオン化に起因する着色を抑制することもできる。
本発明は、このような高屈折率ガラスの製造に、特に好適である。
【0030】
前記ガラスは、例えば、Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+の合計含有量が陽イオン%単位で10%以上のガラスである。Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+の合計含有量が増加するに従い、熔融容器の侵蝕、あるいはBi3+、Ti4+、Nb5+、W6+の還元による着色の問題が顕著になるため、本発明は、Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+の合計含有量が20陽イオン%以上のガラスの製造により好適であり、前記合計含有量が30陽イオン%以上のガラスの製造にさらに好適であり、前記合計含有量が40陽イオン%以上のガラスの製造に一層好適であり、前記合計含有量が50陽イオン%以上のガラスの製造により一層好適である。Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+の合計含有量の上限は、ガラス化可能な範囲であれば特に制限はない。
【0031】
なお、上記ガラスにおいて、Pb、As、Cd、Te、Tl、Seの陽イオンはいずれも環境への負荷を配慮し、含有、添加しないことが望ましい。また、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Nd、Eu,Tb、Ho、Erの陽イオンはいずれもガラスを着色したり、紫外光の照射により蛍光を発生するため、含有、添加しないことが望ましい。ただし、上記の含有、添加しないとは、ガラス原料やガラス熔融工程に由来する不純物としての混入までも排除するものではない。
【0032】
また本発明は、屈折率ndが1.8以上の光学ガラスの製造に好適であり、屈折率ndが1.9以上の光学ガラスの製造により好適であり、屈折率ndが1.95以上の光学ガラスの製造にさらに好適であり、屈折率ndが2.0以上の光学ガラスの製造に一層に好適であり、屈折率ndが2.07以上の光学ガラスの製造により一層好適である。具体的には、以下のガラスを例示できる。
【0033】
(1)リン酸含有ガラス。P5+含有量は10陽イオン%以上を目安にすればよい。このようなガラスの例としては、P5+含有量が10陽イオン%以上、Bi3+の含有量が10陽イオン%以上の酸化物ガラスがある。
【0034】
上記リン酸含有ガラスの例として、酸化物ガラスであって、
陽イオン%表示にて、
5+を14〜36%、
Bi3+を12〜35%、
Nb5+を10〜34%、
Ti4+を0〜20%、
6+を0〜22%
含み、
Bi3+、Nb5+、Ti4+およびW6+の合計含有量が50%以上、
屈折率ndが2.02以上、アッベ数νdが19以下である光学ガラスを例示できる。
【0035】
上記の光学ガラスは酸化物ガラスであり、O2-がアニオンの主成分である。O2-の含有量は90〜100アニオン%を目安として考えればよい。O2-の含有量が上記範囲内であれば、他のアニオン成分としてF-、Cl-、Br-、I-、S2-、Se2-、N3-、NO3-、あるいはSO42-などを含有させてもよい。その場合、F-、Cl-、Br-、I-、S2-、Se2-、N3-、NO3-、あるいはSO42-の合計含有量は、例えば、0〜10アニオン%とすることができる。O2-の含有量を100アニオン%としてもよい。
【0036】
次に陽イオン成分について説明が、以下、特記しない限り、陽イオン成分の含有量、合計含有量は、陽イオン%表示とする。
【0037】
5+は、ガラスネットワーク形成成分であり、上記の光学ガラスにおいては必須成分である。ガラスの熱的安定性改善に効果があり、液相温度を低下させるとともに液相温度における粘度を上昇させ、高品質な光学ガラスの生産を容易にする働きがある。P5+の含有量が14%未満であると、前記効果を得ることが困難となり、P5+の含有量が36%を越えると屈折率が低下し、ガラスの結晶化傾向が増大する傾向を示すため、P5+の含有量を14〜36%とする。
【0038】
Bi3+は、高屈折率高分散ガラスを得る上で必須の成分であり、適量を含有させることによりガラスの熱的安定性を改善する働きをする。また、ガラスの極性を変化させる作用を有する。Bi3+の含有量が12%未満であると前記効果を得ることが困難となり、Bi3+の含有量が35%を超えると熱的安定性が低下するとともに、液相温度が上昇し、液相温度における粘度が低下する傾向を示し、高品質な光学ガラスを得る上から好ましくない。また、ガラスが褐色に着色し、分光透過率特性における吸収端が長波長化する。したがって、Bi3+の含有量は12〜35%とする。
【0039】
Nb5+は、ガラスを高屈折率高分散化する働きのある成分であり、Bi3+およびTi4+と共存することにより、ガラスの熱的安定性を維持する働きのある必須成分である。また、ガラスの化学的耐久性を高め、ガラスの機械的強度を高める働きをする。Nb5+の含有量が10%未満であると熱的安定性を維持しつつ所望の高屈折率高分散特性を得ることが困難になり、Nb5+の含有量が34%を超えると、ガラスの熱的安定性が低下し、液相温度が著しく上昇し、液相温度における粘度が低下して高品質な光学ガラスの生産が難しくなる。また、Bi3+、Ti4+、W6+ほどではないが、分光透過率特性における吸収端がやや長波長化する傾向を示す。しがって、Nb5+の含有量を10〜34%とする。
【0040】
Ti4+は、ガラスを高屈折率高分散化する働きのある成分であり、Bi3+およびNb5+と共存することにより、ガラスの熱的安定性を維持する働きのある任意成分である。従って、含有量が0%であることもできる。また、ガラスの化学的耐久性を高め、ガラスの機械的強度を高める働きをする。Ti4+の含有量が20%を超えると熱的安定性が低下、結晶化傾向が増大するとともに、液相温度が著しく上昇、液相温度における粘度が低下して高品質な光学ガラスを生産することが困難になる。また、分光透過率特性における吸収端が長波長化し、ガラスが褐色に着色する傾向を示す。したがって、Ti4+の含有量を0〜20%とする。
【0041】
6+は、ガラスを高屈折率高分散化し、ガラスの化学的耐久性、機械的強度を高める働きをする働きのある任意成分である。従って、含有量が0%であることもできる。また、W6+の含有量が22%を超えるとガラスの熱的安定性が低下し、液相温度が上昇傾向を示すとともに液相温度における粘度が低下して高品質な光学ガラスを得ることが困難になる。また、ガラスが青灰色を呈し、分光透過率特性における吸収端も長波長化する。したがって、W6+の含有量を0〜22%とする。W6+の含有量の好ましい下限は2%である。
【0042】
なお、所要の高屈折率高分散光学ガラスを得るためには、Bi3+、Nb5+、Ti4+およびW6+の各含有量を上記範囲にすることに加え、Bi3+、Nb5+、Ti4+およびW6+の合計含有量を50%以上にする。Bi3+、Nb5+、Ti4+およびW6+の合計含有量の好ましい上限を90%、より好ましい上限を80%、さらに好ましい上限を70%とする。
【0043】
Li+、Na+、K+、B3+、Si4+、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+、Zn2+、Al3+等などを任意成分として含有させてもよい。その他、添加剤としてSb23やSnO2などのような清澄剤を添加しても良い。また、NO3-、CO3-、SO42-、F-、Cl-、Br-、I-などのような陰イオンとその対イオンである陽イオンから構成される各種の塩などを添加してもよい。
【0044】
上記清澄剤の中で好ましいものはSb23である。Sb23を用いる場合は、質量比によるSb23の外割り添加量を0〜10000ppmの範囲とすることが好ましい。尚、質量比による外割り添加量とは、ガラス成分の質量を基準とした割合で示す添加量である。Sb23は清澄効果があることに加え、ガラス熔融中、前述の高屈折率化成分を酸化状態にするとともに、この酸化状態を安定化する働きをする。しかし、外割り添加量が10000ppmを超えるとSb自体の光吸収により、ガラスが着色する傾向を示す。ガラスの透過率特性を改善するという観点から、Sb23の外割り添加量の好ましい上限は5000ppm、より好ましい上限は2000ppm、さらに好ましい上限は1100ppm、一層好ましい上限は900ppm、より一層好ましい上限は600ppmであり、好ましい下限は100ppm、より好ましい下限は200ppm、さらに好ましい下限は300ppmである。なお、Sbは添加剤であるため、ガラス成分とは異なり酸化物換算した値で添加量を示した。
【0045】
なお、上記の光学ガラスにおいて、Pb、As、Cd、Te、Tl、Seの陽イオンはいずれも環境への負荷を配慮し、含有、添加しないことが望ましい。また、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Nd、Eu,Tb、Ho、Erの陽イオンはいずれもガラスを着色したり、紫外光の照射により蛍光を発生するため、含有、添加しないことが望ましい。ただし、上記の含有、添加しないとは、ガラス原料やガラス熔融工程に由来する不純物としての混入までも排除するものではない。
【0046】
[屈折率、アッベ数]
上記の光学ガラスの屈折率ndは2.02以上、アッベ数νdは19以下である。このように上記の光学ガラスは、超高屈折率高分散特性を備えているため、高ズーム比、広角、コンパクトな光学系を構成するための光学素子の材料として好適である。
【0047】
(2)ホウ酸含有ガラス。B3+含有量は10陽イオン%以上を目安に考えればよい。このようなガラスとしては、B3+含有量が5〜50陽イオン%、Bi3+の含有量が10陽イオン%以上の酸化物ガラス。ガラス化できれば、Bi3+の含有量の上限に特に制限はないが、その上限量の目安を80陽イオン%と考えればよい。
ホウ酸含有ガラスの中で好ましいガラスは、陽イオン%表示で、
Bi3+ 30〜70%、
3+ 5〜50%、
Si4+ 0.5〜50%、
Al3+ 1〜20%、
Ca2+ 0〜20%、
Mg2+ 0〜15%、
Sr2+ 0〜10%を含むガラスである。
以下、上記ガラス組成について説明する。
【0048】
Bi3+は屈折率、分散をともに高める働きをする成分であるが、過剰の導入により安定性が低下するとともに、ガラス中にコロイドとして析出して光の散乱源になるため、その含有量を30〜70%とする。
【0049】
3+はネットワークフォーマーとして機能し、ガラスの安定性を向上させる働きをするとともに、熔融性を向上させる働きもする。しかし、過剰の導入により屈折率が低下するため、その含有量を5〜50%とする。
【0050】
Si4+もネットワークフォーマーとして機能し、ガラスの安定性を向上させる働きをするとともに、化学的耐久性を向上させる働きもする。しかし、過剰の導入により屈折率や熔融性が低下し、ガラス転移温度が上昇するため、その含有量を0.5〜50%とする。
【0051】
Al3+はガラスの安定性を向上させるとともに化学的耐久性を向上させる働きをするが、過剰の導入により安定性、屈折率、熔融性が低下し、ガラス転移温度が上昇するため、その含有量を1〜20%とする。
【0052】
安定性を良好に保つ上から、陽イオン比Al3+/Si4+を0.2以上にすることが好ましく、0.3以上とすることがより好ましい。前記陽イオン比が0.2未満になるとガラスの安定性が著しく低下する。一方、ガラスの熔融性を良好に維持する上から陽イオン比Al3+/Si4+を5以下とすることが好ましい。
【0053】
Ca2+、Mg2+およびSr2+は、Al3+と共存することによりガラスの安定性を向上させる働きをする。また、熔解性を向上させ、ガラス転移温度を低下させる働きもする。しかし、過剰の導入により安定性が逆に低下し、屈折率も低下するため、Ca2+の含有量を0〜20%、Mg2+の含有量を0〜15%、Sr2+の含有量を0〜10%とする。
【0054】
ガラスの安定性を維持するためにGa3+、Ba2+、Zn2+の含有量に次の制限を課すことが望ましい。Ga3+、Ba2+、Zn2+は比較的分子容が大きい。こうした分子容が大きい陽イオン成分を、Bi3+、B3+、Si4+およびAl3+を基本成分とする組成に導入すると安定性が低下する。したがって、Ga3+の含有量を0〜2%とすることが好ましく、0〜1%とすることがより好ましい。Ga3+は上記のように安定性を低下させるとともに、極めて高価な成分であることから、Ga3+を導入しないことがさらに好ましい。Ba2+、Zn2+については、Ba2+およびZn2+の合計含有量を0〜10%に制限することが好ましく、0〜7%の範囲にすることがより好ましく、0〜5%の範囲にすることがさらに好ましく、0〜3%の範囲にすることが一層好ましく、0〜1%の範囲にすることがより一層好ましく、Ba2+およびZn2+を導入しないことが最も好ましい。
【0055】
さらにLi+、Na+およびK+を含むことができる。Li+、Na+、K+などのアルカリ金属成分は、ガラス転移温度を低下させ、熔解性を向上させる働きをするが、ガラスの安定性を低下させる傾向を示すほか、化学的耐久性も低下させる傾向を示す。また、アルカリ金属成分は揮発性を示すため、高温状態のガラスの表面から揮発し、屈折率、アッベ数の変動要因になったり、脈理発生の原因になる。したがって、Li+、Na+およびK+の合計含有量は0〜20%が好ましく、より好ましい範囲は0〜15%、さらに好ましい範囲は0〜12%、一層好ましい範囲は0〜10%、より一層好ましい範囲は0〜8%である。また、各成分の範囲は、Li+ 0〜20%、Na+ 0〜15%、K+ 0〜10%が好ましく、より好ましい範囲はそれぞれLi+ 0〜15%、Na+ 0〜12%、K+ 0〜8%、さらに好ましい範囲はLi+ 0〜12%、Na+ 0〜10%、K+ 0〜5%、一層好ましい範囲はLi+ 0〜10%、Na+ 0〜7%、K+ 0〜4%、より一層好ましい範囲はLi+ 0〜7%、Na+ 0〜5%、K+ 0〜2%である。
【0056】
アルカリ金属成分を含まない場合であってもガラス転移温度が低く、熔解性も十分なので、アルカリ金属成分を必要としない。したがって、安定性や化学的耐久性の一層の向上、光学特性の安定化、脈理防止の観点からLi+、Na+、K+のいずれも導入しないことが好ましい。
【0057】
La3+、Gd3+およびY3+を含むことができる。La3+、Gd3+、Y3+は屈折率を高めるとともに化学的耐久性も高める働きをするが、過剰の導入により安定性が低下するため、La3+の含有量を0〜8%とすることが好ましく、0〜6%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、0〜4%とすることが一層好ましい。Gd3+の含有量は0〜8%とすることが好ましく、0〜6%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、0〜4%とすることが一層好ましい。Y3+の含有量は0〜8%とすることが好ましく、0〜6%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、0〜4%とすることが一層好ましい。
【0058】
La3+、Gd3+、Y3+はいずれも任意成分であるから、これら成分を導入しないことも可能である。しかし、屈折率の増加と化学的耐久性の一層の向上を優先させる場合は、La3+、Gd3+およびY3+の合計含有量を0.1〜8%とすることが好ましく、0.5〜6%とすることがより好ましく、1〜5%とすることがさらに好ましく、1〜4%とすることが一層好ましい。
6+、Ta5+、Nb5+、Zr4+およびTi4+を含有することができる。
【0059】
6+は屈折率を高める働きをするが、過剰に導入するとガラスの安定性が低下するため、その含有量を0〜8%とすることが好ましく、0〜5%とすることがより好ましく、0〜3%とすることがさらに好ましい。
【0060】
Ta5+も屈折率を高める働きをするが、過剰に導入すると安定性が低下するため、その含有量を0〜5%とすることが好ましく、0〜4%とすることがより好ましく、0〜3%とすることがさらに好ましく、0%にすることが一層好ましい。
【0061】
Nb5+、Zr4+およびTi4+は屈折率を高める働きをするが、Bi3+に比べてガラス転移温度を上昇させる働きが強い。したがって、これら成分の導入、増量により安定性を維持しつつ、屈折率を高めようとするとガラス転移温度の上昇は避けられない。したがって、Nb5+の含有量は0〜8%が好ましく、より好ましい範囲は0〜5%、さらに好ましい範囲は0〜3%であり、導入しないことが最も好ましい。Zr4+の含有量は0〜8%が好ましく、より好ましい範囲は0〜5%、さらに好ましい範囲は0〜3%であり、導入しないことが最も好ましい。Ti4+の含有量は0〜10%が好ましく、より好ましい範囲は0〜9%、さらに好ましい範囲は0〜8%、一層好ましい範囲は0〜6%、より一層好ましい範囲は0〜4%である。
【0062】
さらにGa3+、In3+、Ge4+、P5+、Ce4+などを導入することができる。
しかしGa3+、In3+、Ge4+は高価な成分であり、これらの成分を含有させなくてもガラスが所要の性質、特性を具備するのであれば、導入しなくてもよい。
【0063】
5+は過剰の導入により屈折率が低下するため、その含有量を0〜3%にすることが好ましく、0〜2%とすることがより好ましく、0〜1%とすることがさらに好ましく、0%にすることが一層好ましい。
【0064】
Ce4+はBi3+がコロイドとして析出するのを抑える働きをするが、過剰の添加によってガラスが着色するので、その含有量を0〜2%に抑えることが好ましく、0〜1%に抑えることがより好ましい。Ce4+を添加しなくても上記コロイドが析出しにくいガラスであり、Ce4+は添加により透過率が悪化する場合もあり、プレス成形型の成形面を劣化させるおそれがあることから、Ce4+を導入しないことがさらに好ましい。
【0065】
Pb4+、Te4+、Cd2+、Tl+、Th4+は屈折率を高めるが毒性があるため、環境への負荷を低減する上から添加、導入しないことが好ましい。
【0066】
この他、清澄剤としてSb23を添加することができる。Sb23の添加量は外割添加で0〜1質量%の範囲が好ましく、0〜0.5質量%の範囲がより好ましい。
またAs23は強力な酸化作用を示し、型成形面も著しく劣化させることから、こうした劣化を防止する上からもAs23をガラスに添加しないことが望ましい。
【0067】
上記ガラスにおいては、液相温度は好ましくは800℃以下であり、より好ましくは800℃以下、さらに好ましくは780℃以下、一層好ましくは760℃以下、より一層好ましくは740℃以下である。液相温度の下限の制限は特にないが、所要の光学特性を実現する上から概ね550℃以上とするのが望ましい。
【0068】
上記ガラスは高屈折率高分散特性を有する。具体的には、屈折率ndは好ましくは1.84以上、より好ましくは1.90以上、さらに好ましくは1.95以上であり、アッベ数νdは好ましくは30以下、より好ましくは27.5以下、さらに好ましくは25以下である。屈折率の上限に制限はないが、液相温度を低く維持する上から2.2以下とすることが好ましい。アッベ数の下限に制限はないが、液相温度を低く維持する上から10以上とすることが好ましい。
【0069】
低温軟化性を有し、具体的には、ガラス転移温度が好ましくは500℃以下、より好ましくは480℃以下、さらに好ましくは460℃以下、さらに好ましくは440℃以下、最も好ましくは420℃以下である。ガラス転移温度は特に下限に制限はないが、上記屈折率、アッベ数、液相温度を維持する上からガラス転移温度の下限を300℃とすることが好ましい。このようにガラスIIはガラス転移温度が低いので、ガラス素材を加熱し、プレス成形してガラス成形品を作製する用途に適している。ガラス転移温度が低いと比較的低い加熱温度でもプレス成形が可能なので、プレス成形型などの劣化、消耗を低減、防止することができる。特に、精密プレス成形のようにプレス成形型の成形面を高精度に維持しつつ、成形を多数回繰り返し行う用途に好適である。
【0070】
また、選定できる電極の成分の範囲を広げる観点、特に電極に融点の低い金および金合金などを用いる場合、ガラスの熔解温度は金や金合金の融点より低いことが好ましい。すなわち、ガラスの熔解温度Tmeltが電極材料の融点MPよりも低く、温度差(MP−Tmelt)が10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、50℃以上であることが一層好ましく、70℃以上であることがより一層好ましく、100℃以上であることがさらに一層好ましく、150℃以上であることがなお一層好ましく、200℃以上であることがさらになお一層好ましく、300℃以上であることが特に好ましく、400℃以上であることが最も好ましい。ガラスの熔解温度を、ガラスを製造するような期間(たとえば1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上)、ガラスの液相温度以下に保持することはガラスの結晶化を招き好ましくないので、ガラスの液相温度は1100℃以下であることが好ましく、1080℃以下であることがより好ましく、1060℃以下であることがさらに好ましく、1040℃以下であることが一層好ましく、1020℃以下であることがより一層好ましく、1000℃以下であることがさらに一層好ましく、980℃以下であることがなお一層好ましい。さらに、ガラスの液相温度の上限を970℃、960℃、940℃、920℃、900℃、880℃、860℃、840℃、800℃、750℃、700℃、650℃の順に低くするほど好ましい。
【0071】
本発明の製造方法においては、(i)例えば白金(白金合金も含む)といった貴金属製の容器を用いる。この容器内には熔融ガラスが収容される。(ii)さらに、この容器に収容した熔融ガラスに、上記貴金属よりも高い標準電極電位を示す貴金属、例えば金製(金合金製も含む)の電極を接触させる。(iii)そして、前記容器が陰極となり、かつ前記電極が陽極となるように電圧を印加する。(iv)加えて、前記電圧は、金(金合金)と白金(白金合金)の標準電極電位の差、すなわち、ΔPを上限の目安とし、容器を構成する白金(白金合金)のイオン化(侵蝕)を抑制する値とする。前記のように、陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなるように前記陰極と陽極の間に電圧を印加することが好ましい。
【0072】
(i)貴金属製の容器(陰極)
熔融ガラスを蓄積する容器を耐熱性、耐蝕性の優れた貴金属で作製する。前記容器は、一つの槽においてガラス原料の熔融、清澄、均質化を行う構造になっていてもよいし、ガラス原料を熔融して熔融ガラスを作る熔融槽、熔融ガラスを清澄する清澄槽、清澄した熔融ガラスを均質化する作業槽を前記順序で直列にパイプで連結した構造になっていてもよい。各槽を連結するパイプも耐熱性、耐蝕性に優れ、導電性の材料とすることが好ましい。連結パイプを導電性材料とする場合、連結される複数の槽は電気的に短絡した状態になる。標準電極電位の異なる材料を電気的に短絡すると、標準電極電位の高い材料から低い材料に電流が流れ、低電位側の材料のイオン化が促進されてしまう。そのため、異なる槽、パイプを電気的にショート(短絡)する場合は、各槽、パイプを標準電極電位の略等しい材料で作ることが好ましく、同種の材料で作ることがより好ましい。貴金属の種類に特に制限はないが、高温の熔融ガラスを保持しても軟化・変形しない機械的強度や、昇温・降温による結晶粒界の成長による劣化の少ない金属が好ましい。たとえば白金もしくは白金合金、あるいはイリジウムもしくはイリジウム合金、パラジウムあるいはパラジウム合金などで作製することが好ましい。
【0073】
電極との間で電圧を印加する容器は、ガラス原料を熔融して熔融ガラスを作るための熔融槽、熔融ガラスを清澄するための清澄槽、及び清澄した熔融ガラスを均質化するための作業槽の少なくとも1つであることができる。着色を抑制するという観点から、少なくともガラス原料を熔融して熔融ガラスを作るための熔融槽は、電極との間で電圧を印加する容器であることが好ましい。着色抑制を徹底する観点からは、熔融槽に加えて、少なくとも清澄槽及び作業槽のいずれか一方を、電極との間で電圧を印加する容器であることが好ましい。最も好ましくは熔融槽、清澄槽及び作業槽の全てを電極との間で電圧を印加する容器とすることである。なお、前記複数の槽は略等電位とすることが好ましく、複数の陽極を使用する場合は複数の陽極間の電気的導通をとり、前記陽極同士を略等電位とすることが好ましい。
【0074】
前記貴金属の組成上の制約はないが、ガラスからの侵蝕が少ない、すなわちイオン化されにくいことが望ましく、貴金属の標準電極電位が熔融ガラス中の金属イオンの標準電極電位と比べて高いことが好ましい。好ましい標準電極電位の下限は0V、好ましくは0.5V、より好ましくは0.8V、さらに好ましくは0.9V、一層好ましくは1.0V、より一層好ましくは1.1V、さらに一層好ましくは1.2V、なお一層好ましくは1.3Vである。貴金属または貴金属合金の標準電極電位の上限には特に制限はないが、目安として5V以下を示すことができる。
【0075】
白金合金製容器を使用する場合、例えば、白金含有量が1質量%以上100質量%未満である白金合金を用いることができる。白金合金の白金以外の成分としては、金、パラジウム、イリジウム、銀、オスミウム、ロジウム、ルテニウム、レニウムなどを挙げることができる。また本発明の効果を損なわない範囲で、金属酸化物等を含有させて機械的に強化された上記合金を使用することもできる。合金の成分比は、陽極を構成する材料の標準電極電位未満であり、耐熱温度がガラスの熔融温度よりも高くなるよう定められるべきである。さらに、標準電極電位が陽極を構成する材料の標準電極電位と近接すると、陽極、陰極間に印加する電圧の許容範囲は狭くなり、高品質のガラスを安定して製造する上から好ましくない。したがって、印加電圧の調整が容易に行えるよう、陽極材料の標準電極電位との関係を考慮して合金の成分比を定めることが好ましい。但し、目安として好ましくは白金含有量は50質量%以上99質量%以下、より好ましくは60質量%以上98質量%以下、さらに好ましくは70質量%以上97質量%以下、さらに一層好ましくは80質量%以上96質量%以下である。
【0076】
貴金属製の容器に収容される熔融ガラスは、前記容器に投入したガラス原料を加熱熔融したものであることができる。ガラス原料は、カレット原料であっても未ガラス化原料(バッチ原料)であってもよいが、容器の侵蝕を抑制する上からはカレット原料とすることが好ましい。熔融ガラスの温度は、特に制限はなく、ガラスの組成に応じて適宜の温度とすることができる。例えば、800℃〜1600℃の範囲、好ましくは800℃〜1200℃の範囲とすることができる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0077】
(ii)標準電極電位の高い貴金属の電極(陽極)
容器内の熔融ガラスには、上記貴金属製容器よりも標準電極電位の高い金属、例えば金または金合金製の電極を浸漬する。
【0078】
前記貴金属の組成上の制約はないが、ΔPを後述の電極の標準電極電位との差の範囲内に制御することから、上記標準電極電位は容器の標準電極電位に対して貴である、つまり容器の標準電極電位より高い値となることが必要でなる。したがって、好ましい電位を容器の標準電極電位との電位差で表すと、容器の標準電極電位に対して+0V超、好ましくは+0.001V以上、より好ましくは+0.01V以上、さらに好ましくは+0.03V以上、一層好ましく+0.05V以上、より一層好ましくは+0.1V、さらに一層好ましくは+0.2V以上、なお一層好ましくは+0.3V以上、さらに一層好ましくは+0.4V、特に好ましくは+0.5Vである。好ましい電位差の上限に特に制限はないが、目安として2V以下を示すことができる。
【0079】
なお、前記電圧の印加により陽極自体はイオン化が促進されるため、容器内の熔融ガラスに接触させる陽極電極自体もガラスからの侵蝕が少ない、すなわちイオン化されにくいことが望ましく、陽極を構成する材料の標準電極電位が熔融ガラス中の金属イオンの標準電極電位と比べて高いことが好ましい。好ましい標準電極電位の下限は0.5V、好ましくは0.8V、より好ましくは0.9V、さらに好ましくは1.0V、一層好ましくは1.1V、より一層好ましくは1.2V、さらに一層好ましくは1.3V、なお一層好ましくは1.4Vであり、さらに1.5V、1.6V、1.7Vと標準電極電位の下限を高くするにつれて好ましくなり、2.0V以上とすることが特に好ましい。陽極を構成する材料の標準電極電位の上限には特に制限はないが、目安として5V以下を示すことができる。さらに、陽極のイオンがガラス内に混入してガラスの着色が悪化しないように陽極の材質を選定することが好ましい。
【0080】
なお上記の容器と陽極の標準電極電位差が大きいほど、容器の防食効果を高めることが可能だが、電位差のみを大きくしようとして容器の標準電極電位を低下させることは、ガラスに対する容器のイオン化傾向を高め、ガラスからの侵蝕傾向が高まるので好ましくない。よってこのような観点からは容器と陽極の標準電極電位を共に高め、標準電極電位の差は最大でも+0.5V、好ましくは+0.4V、より好ましくは+0.3V、さらに好ましくは+0.2V、一層好ましくは+0.1Vとすることが好ましい。
【0081】
電極を構成する金属の例として、金含有量が1質量%以上である金合金であることができる。金含有量は好ましくは1質量%以上100質量%未満の範囲であることができる。目安として好ましくは金含有量は50質量%以上99質量%以下、より好ましくは金含有量は60質量%以上98質量%以下、さらに好ましくは金含有量は70質量%以上97質量%以下、さらに一層好ましくは金含有量は80質量%以上96質量%以下である。金合金の金以外の成分としては、白金、パラジウム、イリジウム、銀、オスミウム、ロジウム、ルテニウム、レニウムなどを挙げることができる。また本発明の効果を損なわない範囲で、金属酸化物等を含有させて機械的に強化された上記合金を使用することもできる。但し、前記金合金は、白金を含有しないことが好ましい。
【0082】
電極の形状や面積、設置場所には特に制限はないが、電圧の印加を十分にできることなどの観点から、電極の表面積は容器の面積に対して1/1000000以上であることが好ましく、1/100000以上であることがより好ましく、1/10000以上、1/1000以上であることがさらに好ましく、1/100以上であることが一層好ましい。また攪拌されたガラスやガラスの流れによって電極に生じる応力を抑えるため、電極の位置はガラスの流れの緩やかな位置に配置することができる。あるいはガラスの攪拌を妨げないよう、攪拌棒の回転中心に対して同心円上に配置することもできる。
【0083】
(iii)電圧印加
標準電極電位の低い貴金属製(卑な貴金属製)の容器(陰極)と標準電極電位の高い貴金属製(貴な貴金属製)の電極(陽極)の間に直流電圧を印加する。印加する電圧は、陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなるように制御することが好ましい。
【0084】
電圧は卑な貴金属と貴な貴金属の標準電極電位の差から生じる起電力を打ち消すように印加する。さらに陰極、陽極間に流れる電流が実質的にゼロとなるように電圧を印加することが好ましい。電流が実質的にゼロの目安としては、陰極及び陽極の間に流れる電流の陰極における電流密度が100mA/cm2以下を示すことができる。前記陰極における電流密度は、着色防止という観点からは、好ましくは10mA/cm2以下、より好ましくは1mA/cm2以下、さらに好ましくは0.1mA/cm2以下、一層好ましくは0.01mA/cm2以下である。そのためには、両電極間に流れる電流をモニターし、この電流値の絶対値が所定値以下となるように両電極に印加する電圧を制御する機構を用いることが好ましい。尚、上記容器と上記電極の間に生じる起電力は、上記容器、上記電極及び熔融ガラスそれぞれの組成並びに熔融ガラスの温度などにより定まるものであり、印加すべき電圧は、起電力の高低に応じて適宜調整する。
【0085】
合金成分にもよるが、一般には、金または金合金(以下、金系材料という。)は、白金または白金合金(以下、白金系材料という。)よりも標準電極電位が高い。したがって、金系材料からなる電極と白金系材料からなる電極を熔融ガラスに浸漬し、両電極を電気的にショートさせると金系材料(貴な貴金属)の電極から白金系材料(卑な貴金属)の電極へと電流が流れ、白金系材料の侵蝕を助長させてしまう。一方、標準電極電位の高い材料、例えば金系材料の電極の電位が、標準電極電位の低い材料、例えば白金系材料の電極よりも高電位になるように電圧を印加すると陽極がガラス中に熔解してガラスの内部品質が悪化するか、陽極においてアニオンが原子化するなどのカソード反応が起こって高屈折率成分の還元が起こり、ガラスが著しく着色してしまう。
【0086】
上記態様では、金系材料からなる電極と白金系材料からなる電極との間の電位差を打ち消すように両電極間に電圧を印加する、すなわち、上記両電極の電位を実質的に等しく制御することにより、白金のイオン化を抑制し、容器の長寿命化、白金によるガラス素地汚染の防止が可能となるとともに、Bi、Ti、Nb、Wによるガラスの着色も防止することができる。
【0087】
電圧の印加以外の本発明の光学ガラスの製造方法は、通常の熔融法により実施することができる。例えば、所要の組成を有するガラスとなるように各成分に対応する化合物原料を秤量し、十分混合して調合原料とし、調合原料を坩堝に入れて1100〜1200℃で攪拌しながら0.5〜4時間熔解を行った後、ガラス融液を所定の容器に流し出し、冷却、粉砕して、カレットを得る。
【0088】
次にこのカレットを貴金属製容器に投入し、例えば、液相温度(LT)〜1200℃に加熱し、攪拌して、熔融する。次いで液相温度(LT)〜1200℃で0.5〜6時間かけて熔融ガラスを清澄する。清澄後、ガラスの温度を清澄温度から液相温度(LT)〜1100℃、好ましくは液相温度(LT)〜1080℃、より好ましくは液相温度(LT)〜1050℃、さらに好ましくは液相温度(LT)〜1020℃、一層好ましくは液相温度(LT)〜1000℃に降温した後、坩堝底部に接続したパイプから熔融ガラスを流出させ、あるいは鋳型に鋳込んで成形し、光学ガラスを得ることができる。上記温度条件、ならびに各工程に要する時間は適宜、調整可能である。
【0089】
また、光学特性が異なる複数種のカレットを上述の方法で作製し、これらカレットを所要の光学特性が得られるように調合して熔融、清澄、成形し、光学ガラスを作製することもできる。
【0090】
<プレス成形用ガラス素材の製造方法>
本発明は、上記本発明の方法でガラスを製造し、得られたガラスを用いてプレス成形用ガラス素材を製造する、プレス成形用ガラス素材の製造方法を包含する。
【0091】
例えば、本発明の方法でガラス原料を熔融、清澄、均質化し、得られた熔融ガラスをパイプから流出して鋳型に連続的に流し込んで成形し、得られたガラス成形体をアニールしてから、切断する。切断したガラス成形体を複数のガラス片に分割し、研削、研磨して精密プレス成形用ガラス素材、すなわち、精密プレス成形用プリフォームを作製する。
【0092】
あるいは、上記複数のガラス片をバレル研磨して光学素子ブランクなどの研磨用プレス成形品をプレス成形するためのプレス成形用ガラス素材を作ることもできる。
【0093】
<光学素子の製造方法>
本発明は、上記本発明の方法でガラスを製造し、得られたガラスを用いて光学素子を製造する、光学素子の製造方法を包含する。
例えば、前記精密プレス成形用ガラス素材(精密プレス成形用プリフォーム)を加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形し、光学素子を製造することもできる。
また、本発明の方法でガラスを製造し、得られたガラスを研削、研磨して光学素子を製造することもできる。
【0094】
さらに、前記プレス成形用ガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形して光学素子ブランクを製造し、光学素子ブランクを研削、研磨して光学素子を製造することもできる。
【0095】
また、本発明の方法でガラス原料を熔融、清澄、均質化し、得られた熔融ガラスをパイプからプレス成形型上に流出し、流出した熔融ガラスの先端部を分離してプレス成形型上に熔融ガラス塊を得、この熔融ガラス塊をプレス成形して光学素子ブランクを製造し、光学素子ブランクを研削、研磨して光学素子を製造することもできる。
【0096】
上記光学素子の具体例としては、非球面レンズ、球面レンズ、あるいは平凹レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズなどのレンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、回折格子付きレンズなどの各種レンズ、プリズム、レンズ機能付きプリズムなどを例示することができる。表面には必要に応じて反射防止膜や波長選択性のある部分反射膜などを設けてもよい。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0098】
実施例1
熔解に関わる各部材の電位を制御することによって、坩堝からのPt溶出量が軽減することを以下のように検証した。
熔融容器として白金(Pt)坩堝を用い、表1に示すガラス1およびガラス2の陽イオン%から成る酸化物ガラス(陰イオンはすべてO2-)の融液300gを注ぎ、金(Au)電極を挿入し高温条件にて電圧の印加が可能なテストセル Au|ガラス融液|Ptを作製し、1020℃で熔解を実施した。作製したセルの模式的な垂直断面図を図1に示す。図1において、Pt坩堝1の中に上記ガラスの融液2が蓄積され、ガラス融液(熔融ガラス)2の中に金(Au)製の電極3が浸漬されている。坩堝1には絶縁体4の蓋が設けられている。絶縁体4は坩堝の蓋であると同時に電極3を保持する働きもしている。直流電源5の+側の出力端子と電極3とは配線6で電気的に接続され、直流電源の−側の出力端子と容器1とは配線7で電気的に接続されている。容器1と電極3の間の電位差(電圧)は図示しない電圧計で測定され、配線6または配線7を流れる電流は図示しない電流計で測定される。
【0099】
上記セルに外部電圧を加えない場合の電極および坩堝のイオン化傾向は、水中における標準電極電位の差から推測できる。すなわち負極となるPt坩堝側において以下の平衡反応が右側に、Au電極において以下の平衡反応が左側に進行することにより、融液へのPtイオンの溶出が発生する事が予想される。
【0100】
Pt極 : Pt(S) ⇔ Pt2+ + 2e- Au極 : Au(S) ⇔ Au3+ + 3e-
【0101】
上記反応のうち、Au極およびPt極のイオン化を制御するために、Pt極へ直流電源の−端子を、Au極へ+端子を接続し電圧を印加した。印加電圧と電流値の関係を図2(縦軸が坩堝(容器)と陽極間に流れる電流値、横軸が坩堝と陽極間に印加した電圧価)に示す。このテスト結果からは印加電圧0.2V付近で電流値が0.0 Aを示しており、このような電位印加状態においては、上記の平衡反応のうち、Au電極における平衡反応が強制的に右側に進行し、かつPt極側における平衡反応が強制的に左側へ進行することにより、Pt極の平衡反応におけるPtのイオン化反応が抑制されてPtの溶出量が減少すると推察された。
【0102】
このような実験結果をもとに印加電圧を最適化した結果、ガラス1においてはPt坩堝とAu電極の間に0.21V、ガラス2においては0.18Vの電圧を印加しながら、1020℃でガラスを熔融し、清澄、均質化した後、得られた熔融ガラスを成形して、上記酸化物ガラスからなる光学ガラスを作製した。
【0103】
実施例2
熔解時間と透過率の関係
ガラス1のガラスカレットを用いて、前記電流値が0Aを示す状態にて熔解保持時間を2時間、4時間、8時間としたテストを実施した(熔解温度は1020℃)。なお前記熔解保持時間は、熔解時間、電圧印加時間、攪拌時間の3つの工程から成る。熔解時間はAu極の浸漬や電圧印加は行われないガラスのカレットあるいは原料(ここではカレット)を熔解する工程であり、熔解開始から30分間とした。攪拌時間は、電圧印加されたガラスを攪拌し均質化するための工程であり、ここでは熔解終了30分前から熔解終了までの30分間とした。電圧印加時間は実際にガラス中にAu極が浸漬され電圧が印加される工程であり、よって電圧印加時間=熔解保持時間−熔解時間-攪拌時間=熔解保持時間-1(時間)となる。各熔解テストより得られたガラスブロックについて透過率特性を測定した。図3に分光透過率曲線を、表2−Aに熔解時間、電圧印加の有無と得られたガラスのλ5、λ70を示す。比較のため、同様の容積を持つPt坩堝を使って、電圧印加時間における電圧印加およびAu電極浸漬を行なわずに熔解保持時間を2時間、4時間、8時間と変化させたガラスのλ5、λ70および電圧印加を行ったガラスのλ5、λ70との差を併記した。同様にしてガラス2についても前記電流値が0Aを示す状態にて熔解保持時間を4時間としたテストを実施し、電圧印加およびAu電極浸漬を行わずに熔解保持時間を4時間としたガラスとの透過率特性を比較した。
上記実験により得たガラス2の分光透過率曲線を図4に、λ70、λ5、熔解時間を表2−Bに示す。
【0104】
【表1】

【表2】

【0105】
上記の透過率測定結果に示すとおり、電圧を印加することによってλ70の値が短波長側へシフトし、電圧印加を実施しない場合と比べ着色が改善された。このように、適切な電圧印加によりPtやAuの溶出が原因と考えられる透過率(着色)の悪化とBi、Ti、Nb、Wの還元によると考えられる透過率(着色)の悪化を抑制し、所期の着色抑制効果を得ることができた。
【0106】
なお、λ70とは、波長280〜700nmの範囲において光線透過率が70%になる波長のことである。また、λ5とは、波長280〜700nmの範囲において光線透過率が5%になる波長のことである。ここで、光線透過率とは、10.0±0.1mmの厚さに研磨された互いに平行な面を有するガラス試料を用い、前記研磨された面に対して垂直方向から光を入射して得られる分光透過率、すなわち、前記試料に入射する光の強度をIin、前記試料を透過した光の強度をIoutとしたときのIout/Iinのことである。分光透過率には、試料表面における光の反射損失も含まれる。また、上記研磨は測定波長域の波長に対し、表面粗さが十分小さい状態に平滑化されていることを意味する。
【0107】
比較例1
電位(電圧値)を変化させた場合
ガラス1について、電流値が0Aを示す電圧(ΔP=0.21V)から電圧を変化させ、電流が発生する状態(酸化還元反応が予想される状態)で4時間、1020℃の条件で熔解を実施し、その際の透過率変化について評価を行った。坩堝、陽極とも実施例1、2と同様のものを使用した。印加した電圧値と、電流値、λ5、λ70の各値を表3に示す。表3において、電圧印加の有無が「無」とは、金(Au)製の電極を使用せずに実験した場合のデータであり、電圧印加の有無が「有」とは、金(Au)製の電極をガラス融液に浸漬して実験した場合のデータである。
【0108】
【表3】

【0109】
印加電圧を変えて作製した各ガラスの透過率測定結果を図5に示す。また、図5に電圧印加終了直後の融液の様子(写真)を併せて示す。今回の結果から印加電圧が0.21Vよりも高い0.46V(電流値0.2A)ではガラスの着色が悪化するとともにガラスの最高透過率が70%以下に低下し、λ70のデータを得ることができなかった。他方、印加電圧0V (電流値-0.2A)、すなわち坩堝と陽極をショート(短絡)すると、透過率の改善は見られなかった。上記実験の結果、得られたガラス中の白金(Pt)濃度および金(Au)濃度を測定した。測定結果を表3に示す。更に、金(Au)製の電極をガラス融液に浸漬した状態で、印加電圧を変化させたときの印加電圧と白金(Pt)濃度、および金(Au)濃度の関係を図8に示す。なお図8の横軸は印加電圧、縦軸(左)は白金の濃度、縦軸(右)は金の濃度であり、プロット■が白金(Pt)の濃度、プロット▲が金(Au)の濃度を示す。
【0110】
実施例3
実施例1、2と同様にPt坩堝を用い、Pt坩堝中へ実施例1、2で使用したガラス1と同様の酸化物ガラスの融液300gを注ぎ、Pt-Au合金製電極を挿入し、高温条件にて電圧の印加が可能なテストセル Pt-Au|ガラス融液|Ptを作製し、熔解を実施した。なお、Pt-Au合金はPt:95質量%、Au:5質量%の合金である。Pt-Au合金製電極が正極、Pt坩堝が負極であり、Pt-Au合金製電極とPt坩堝の間の電位差は0.07Vであった。次に、直流電源の+側出力端子をPt-Au合金製電極に接続し、-側出力端子をPt坩堝に接続し、Pt-Au合金製電極とPt坩堝の間にΔP電圧を印加した。表4に熔解時間、印加した電圧値、λ5、λ70の各値を示す。
【0111】
【表4】

【0112】
図6に得られたガラスの分光透過率曲線を示す。
印加電圧0.05VのときはPt-Au合金製電極とPt坩堝の間のΔPよりも低い電圧であるため、外部透過率50%を示す波長λ50の値が、電極のない場合と比べ短波長側にシフトし、透過率の向上が示唆された。(なお本実施例においては、電圧印加したガラスのλ70が逆に電極のない場合と比べ長波長側にあるが、上記のようにλ50が短波長側にあるガラスの場合、ガラスの十分な均質化やアニールによる酸化還元状態の変化によってλ70についても短波長側にシフトすることがあるので、λ70の優劣については判断できない。)
【0113】
比較例2
実施例3と同様のガラス1及びPt-Au合金製電極とPt坩堝を用い(Pt-Au合金製電極とPt坩堝の間の電位差は0.07V)、印加電圧を0.10Vとした。この場合は、実施例3の印加電圧0.05Vの場合と比べて坩堝側のPt元素のイオン化抑制効果が高められる一方で、電極側のPt元素のイオン化が促進される効果が増加し、結果として着色が更に悪化した。さらに、印加電圧を0.21Vとした場合には、Pt-Au合金製電極とPt坩堝の間のΔPよりも高い電圧であるため、表5、図6、図7に示すように、電圧印加によってさらに着色が悪化した。このようにΔPよりも大きな電位を印加することによって、陽極となる金属の酸化を促進する状態、あるいは陰極と陽極の標準電極電位の差が小さすぎて、防食したい坩堝の構成元素のイオン化を十分に抑制できない状態においては、所期の着色改善効果を得ることができなくなる。
【表5】

【0114】
実施例4
実施例1、2において着色改善効果を確認した方法と同じ方法により、実施例1、2で熔融したガラスと同様のガラスを作製し、前記ガラスからなるガラス成形体を作製し、前記成形体を加工して、光学ガラス製のプレス成形用ガラス素材を作製した。得られたガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形して光学素子ブランクを作製し、この光学素子ブランクを研削、研磨して、レンズ、プリズムなどの各種光学素子を作製した。
【0115】
また、表面を研磨してプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化し、精密プレス成形して非球面レンズなどの各種光学素子を作製した。
得られた光学素子の表面には必要に応じて反射防止膜などのコーティングを施してもよい。
【0116】
実施例5
実施例1、2と同様の手順で、表6に示すガラス3を作製した。坩堝ならびに陽極の材料は実施例1、2と同様とし、各成分の原料として各々相当する酸化物、ホウ酸を使用し、ガラス化した後に表6に示す組成となるように前記原料を秤量し、十分混合した後、850〜1000℃の温度で熔融、清澄、均質化してから予熱した金型に鋳込んだ。なお、Pt坩堝とAu陽極間の電位差ΔPが0.2Vであることから、ガラスの熔融中、Pt坩堝とAu陽極間に0.2Vの電圧を印加し、坩堝と陽極の間に流れる電流を0Aとし、前記電流が0Aである状態を維持した。得られたガラス3の特性を表6に示す。なおガラス3においても陽極を熔融ガラスに浸漬しない場合と比較し、λ70の値が短波長側へシフトし、着色抑制効果が得られた。
【0117】
【表6】

【0118】
このようにガラス3からなるガラス成形体を作製し、前記成形体を加工して、光学ガラス製のプレス成形用ガラス素材を作製した。得られたガラス素材を加熱、軟化し、プレス成形して光学素子ブランクを作製し、この光学素子ブランクを研削、研磨して、レンズ、プリズムなどの各種光学素子を作製した。
【0119】
また、表面を研磨してプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化し、精密プレス成形して非球面レンズなどの各種光学素子を作製した。
得られた光学素子の表面には必要に応じて反射防止膜などのコーティングを施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明はガラス製造分野、特に光学ガラスの製造分野に有用である。
【符号の説明】
【0121】
1 Pt坩堝
2 ガラス融液
3 金(Au)製電極
4 絶縁体
5 直流電源
6 配線
7 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を熔融することを含む、Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+のいずれか1種または2種以上の成分を含有するガラスの製造方法であって、
前記製造方法は、熔融ガラスに接触する面が貴金属または貴金属合金で作られた容器内に熔融ガラスを収容し、前記熔融ガラスに電極を接触させて、前記容器の熔融ガラスに接触する面が陰極となり、かつ前記電極が陽極となるように電位を印加すること、前記貴金属または貴金属合金の標準電極電位よりも高い標準電極電位を有する貴金属または貴金属合金で前記電極の少なくとも熔融ガラスと接触する面を構成すること、及び陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなる電位の値を上限として前記陰極と陽極の間に電圧を印加して前記容器の熔融ガラスと接触する面の侵蝕を抑制することを特徴とする、ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記電圧は、陰極及び陽極の間に流れる電流が実質的にゼロとなるように印加する請求項1に記載のガラスの製造方法。
【請求項3】
前記電圧は、陰極及び陽極の間に流れる電流の陰極における電流密度が100mA/cm2以下となるように印加する請求項2に記載のガラスの製造方法。
【請求項4】
前記容器は、ガラス原料を熔融して熔融ガラスを作るための熔融槽、熔融ガラスを清澄するための清澄槽、及び清澄した熔融ガラスを均質化するための作業槽の少なくとも1つである請求項1〜3のいずれかに記載のガラスの製造方法。
【請求項5】
前記ガラスは、Bi3+、Ti4+、Nb5+およびW6+の合計含有量が10陽イオン%以上のガラスである請求項1〜4のいずれかに記載のガラスの製造方法。
【請求項6】
前記容器の熔融ガラスに接触する面が白金または白金合金製であり、前記陽極を構成する電極の熔融ガラスに接触する面が金または金合金製である請求項1〜5のいずれかに記載のガラスの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法でガラスを製造し、得られたガラスを用いてプレス成形用ガラス素材を製造する、プレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法でガラスを製造し、得られたガラスを用いて光学素子を製造する、光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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