説明

ガラスカレットの除去方法

【課題】ガラス板の表面に固着したカレットを除去する。
【解決手段】フッ化水素及び水蒸気を含む反応ガスを大気圧近傍下でガラス板90に接触させて、ガラス板90の表面部分91e,92eを構成するSiOのエッチング反応を起こさせる。エッチング反応の度合いを、カレット93,94の表面部分93e,94eがエッチングされるとともに表面部分93e,94eより内側の部分93a,94aが残留する程度に調節する。その後、ガラス板90を洗浄流体43にて洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラス板の表面に固着しているカレットを除去する方法に関し、特に固着の程度が軽いカレットを除去するのに適したカレット除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス板は下記の工程を経て製造される。
(1)母材ガラス製造
ガラス原料を炉に入れて溶融する。この溶融体を吐出して板状に成形し、母材ガラスを作成する。
(2)スクライバ
上記母材ガラスに定尺寸法の切り欠き線を付ける。
(3)折割
上記切り欠き線に沿って母材ガラスを割り、定尺のガラス板を作る。
(4)端面研磨
ガラス板の切断端面を研磨する。
(5)洗浄
ガラス板の表面の汚れを洗浄液にて除去する。
(6)検査
ガラス板の表面の異物を検出する。
(7)パッカー
数枚のガラス板を1つの梱包にまとめる。
【0003】
上記のスクライバ、折割、端面研磨等の各工程でカレットが発生し易い。このカレットは、ガラス板の表面に付着したとしてもガラス板に固着していなければ、その後の洗浄工程によってガラス板から容易に除去できる。また、特許文献1では、ガラス板に粘着シートを押し当てて、カレットを粘着シートに粘着させて除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−94692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、母材ガラスの溶融製造後、未だ熱を持っている段階で折割をするなど、ガラス板の製造手順や扱い方法によっては、カレットがガラス板に固着してガラス板と同体になることがある。このような固着カレットは、上掲特許文献1の方法や洗浄液による洗浄だけではガラス板から除去することは難しい。そこで、ガラス板に例えばフッ化水素等を含むエッチャントを吹き付けてエッチングすることが考えられるが、そうすると、カレットが除去されるだけに止まらず、ガラス板の表面までもが粗面化されてしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、本発明方法は、SiOを主成分として含有するガラス板の表面に固着したカレットを除去するガラスカレット除去方法であって、
フッ化水素及び水蒸気を含む反応ガスを大気圧近傍下で前記ガラス板に接触させて、SiOのエッチング反応を起こさせるエッチング工程と、
その後、前記ガラス板を洗浄流体にて洗浄する洗浄工程と、
を備え、前記エッチング工程における前記エッチング反応の度合いを、前記カレットの表面部分がエッチングされるとともに該表面部分より内側の部分が残留する程度に調節することを特徴とする。
前記カレットの表面部分をエッチングすることで、残留したカレットの内側部分とガラス板との固着部分を脆弱化ないしは不安定にでき、又は固着を解除できる。したがって、洗浄流体によってカレット内側部分を容易に除去できる。一方、カレットの全部が除去されない程度にエッチングすることで、ガラス板の表面が必要以上に粗面化されるのを抑制又は防止できる。
なお、この明細書において、ガラス板の表面は、ガラス板のおもて面又は裏面を言う。ガラス板が液晶ディスプレイ基板である場合、おもて面は、液晶駆動部が設けられる面であり、裏面は液晶駆動部とは反対側の面である。
【0007】
通常、前記カレットの大きさ(最長部の径)は、ミクロンオーダー(1μm以上1mm未満)である。これに対して、エッチングすべき前記表面部分の厚みは、オングストロームオーダー〜ナノオーダー(1Å〜1μm未満)であることが好ましく、オングストロームオーダー(1Å〜1nm未満)であることがより好ましい。これによって、ガラス板の表面が粗面化されるのを一層確実に抑制又は防止できる。
【0008】
本発明は、大気圧近傍下で行なう表面処理に好適である。前記反応ガスは大気圧近傍下で原料ガスをプラズマ化することによって生成することが好ましい。ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガラス板の表面が粗面化するのを抑制又は防止しながら、ガラス板に固着したカレットを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るカレット除去装置の側面解説図である。
【図2】ガラス板の拡大断面図であり、(a)は、処理前の状態を示し、(b)は下面エッチング工程での状態を示し、(c)は、上面エッチング工程での状態を示し、(d)は、洗浄工程での状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
処理対象のガラス板90は、SiOを主成分として含んでいる。ガラス板90は、四角形の平板状になっている。ガラス板90の厚みは、例えば0.5mm〜0.7mm程度である。図2(a)に示すように、ガラス板90の下面91(表面)には、1又は複数(図2では2つ)のカレット93が付着している。同様に、ガラス板90の上面92(表面)には、1又は複数(図2では2つ)のカレット94が付着している。これらカレット93,94は、母材ガラスからガラス板90を切り出す工程等で発生したものである。カレット93,94は、ガラス板90に単に接触しているのではなく、ガラス板90に軽く固着している。ここで、「固着」とは、カレット93,94が溶着等でガラス板90と同体になっている状態を言う。また、「軽く固着」とは、例えば、母材ガラスの折割時に発生したカレット93,94がガラス板90に接触した時、殆どその接触界面だけがガラス板90と同体化するに止まり、カレットの相当部分がガラス板90の内部に溶け込んで同体化するまでには至っておらず、同体化の程度が弱いことを言う。カレット93,94のガラス板90への固着部95の断面積S95は、カレット93,94の中央部付近の断面積Sよりも十分に小さい(S95<<S)。カレット93,94とガラス板90との間で結晶構造が連続していないことが好ましい。カレット93,94の大きさ(最長部の径)は、通常ミクロンオーダー(1μm以上1mm未満)である。図2において、カレット93,94の大きさは、ガラス板90の厚みに対して誇張されている。
【0012】
図1は、カレット除去装置1を示したものである。カレット除去装置1は、搬送手段2と、処理槽10を備えている。搬送手段2は、例えば、コロ2aを含むコロコンベアにて構成されている。ガラス板90がコロ2aの上に載せられ、かつx方向(搬送方向、図1において左右)に沿って矢印aの向きに搬送される。
なお、搬送手段2は、コロコンベアに限られず、ベルトコンベア、ロボットアクチュエータ、浮上ステージ等であってもよい。
【0013】
処理槽10は、x方向に沿って長く延びている。処理槽10の内部にコロコンベア2が組み込まれている。処理槽10の内部は、処理槽10のx方向の両端の搬入出口10a,10bを介して外部と連通しており、処理槽10の内圧が大気圧近傍になっている。処理槽10内は、隔壁15,16,17によって下面(裏面)エッチングゾーン11と、上面(おもて面)エッチングゾーン12と、バッファーゾーン13と、水封ゾーン(洗浄ゾーン)14に仕切られている。これらゾーン11〜14は、ガラス板90の搬送経路の上流側(図1の左側)から下面エッチングゾーン11、上面エッチングゾーン12、バッファーゾーン13、水封ゾーン14の順に配置されている。
【0014】
下面エッチングゾーン11及び上面エッチングゾーン12には、それぞれ反応ガス供給系20が接続されている。反応ガス供給系20は、原料ガス供給部21と、水添加部22と、放電生成部23と、供給ノズル24を備えている。原料ガス供給部21は、反応ガス(エッチャント)となるべき原料ガスを供給する。原料ガスは、フッ素含有ガスとキャリアガスを含む。フッ素含有ガスとして、CFが用いられている。フッ素含有ガスとしてCFに代えて、C、C、C等の他のPFC(パーフルオロカーボン)を用いてもよく、CHF、CH、CHF等のHFC(ハイドロフルオロカーボン)を用いてもよく、SF、NF、XeF等のPFC及びHFC以外のフッ素含有化合物を用いてもよい。
【0015】
キャリアガスは、フッ素含有ガスを搬送する機能の他、フッ素含有ガスを希釈する希釈ガスとしての機能、後記プラズマ放電を生成する放電生成ガスとしての機能等を有している。キャリアガスとしては、好ましくは不活性ガスを用いる。キャリアガスとなる不活性ガスとして、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガスや窒素が挙げられる。ここでは、キャリアガスとして、窒素(N)が用いられている。フッ素含有ガスとキャリアガスとの流量比は、好ましくはCF:N=1:1000〜1:10程度である。キャリアガスを省略してもよい。
【0016】
供給部21からの原料供給路21aに水添加部22が介在されている。水添加部22は、例えば水を蓄えた加湿器にて構成されている。水添加部22は、上記原料ガス(CF+N)に水(HO)を添加することで、原料ガスを加湿する。添加方式は、原料ガスを加湿器内の水中にバブリングするバブリング方式でもよく、加湿器の水面より上の飽和水蒸気を上記原料ガスにて押し出す押し出し方式でもよい。この水添加部22による水添加量を調節することによって、原料ガスの水蒸気分圧ひいては反応ガスのフッ化水素分圧及び水蒸気分圧を調節する。
【0017】
図1では、下面エッチングゾーン11に対応する原料ガス供給部21及び水添加部22と、上面エッチングゾーン12に対応する原料ガス供給部21及び水添加部22が別々に設けられているが、1つの原料ガス供給部21が、2つのエッチングゾーン11,12に共用されていてもよく、1つの水添加部22が、2つのエッチングゾーン11,12に共用されていてもよい。
【0018】
放電生成部23は、エッチングゾーン11,12ごとに2つ(複数)ずつ備えられている。各放電生成部23は、少なくとも一対の互いに対向する電極23a,23aを含む。対向電極23a,23aどうし間の空間23cに原料供給路21aの下流端が連なっている。対向電極23a,23aの少なくとも一方の対向面に固体誘電体層(図示省略)が設けられている。一方の電極23aに電源(図示省略)が接続されている。他方の電極23aが電気的に接地されている。電源は、例えばパルス波状の高周波電力を電極23aに供給する。この電力供給によって、対向電極23a,23a間に大気圧近傍の放電が生成され、これら対向電極23a,23a間の空間23cが、プラズマ放電空間になる。このプラズマ放電空間23cに上記原料ガス(CF+N+HO)が導入される。この原料ガスが、プラズマ放電空間23c内でプラズマ化(励起、活性化、分解、ラジカル化、イオン化を含む)されることによって、フッ化水素(HF、フッ素系反応成分)を含む反応ガスが生成される。なお、反応ガスは、フッ化水素の他、未分解の原料ガス成分(CF、N、HO)をも含む。
【0019】
下面エッチングゾーン11及び上面エッチングゾーン12の内部には、それぞれ2つ(複数)の供給ノズル24が収容されている。以下、2つのエッチングゾーン11,12の供給ノズル24を互いに区別するときは、下面エッチングゾーン11の供給ノズル24の符号を「24A」と表記し、上面エッチングゾーン12の供給ノズル24の符号を「24B」と表記する。各エッチングゾーン11,12における2つの供給ノズル24は、x方向に間隔を置いて並べられている。なお、各エッチングゾーン11,12における供給ノズル24の数は、1つでもよく、3つ以上でもよい。3つ以上の供給ノズル24は、x方向に並べられていることが好ましい。下面エッチングゾーン11の供給ノズル24の数と上面エッチングゾーン12の供給ノズル24の数は、同数に限られず、違っていてもよい。図1では、放電生成部23が供給ノズル24の外部に配置されているが、放電生成部23が供給ノズル24の内部に収容されていてもよい。また、図1では、各供給ノズル24に放電生成部23が1対1に対応しているが、1つの放電生成部23が、複数の供給ノズル24に対応していてもよい。更には、1つの放電生成部23が2つのエッチングゾーン11,12の供給ノズル24A,24Bに対応していてもよい。
【0020】
下面エッチングゾーン11の供給ノズル24Aは、w方向(図1の紙面直交方向)に延びる容器状になっており、下面エッチングゾーン11の底部に上向きに設置されている。供給ノズル24Aの上面24f(処理空間画成面)は、コロ2aの上端部より少し下の高さに位置している。供給ノズル24Aの上面24fには、供給口25と、一対の吸引口26,26が形成されている。供給口25は、供給ノズル24Aの上面24fのx方向の中央部に配置されている。この供給口25を挟んで供給ノズル24Aの上面24fのx方向の両側に一対の吸引口26,26が配置されている。供給口25及び吸引口26は、それぞれw方向(図1の紙面直交方向)に延びるスリット状になっている。これに代えて、供給口25及び吸引口26が、w方向に並んだ多数の小孔にて構成されていてもよい。
【0021】
上面エッチングゾーン12の供給ノズル24Bは、供給ノズル24Aを上下に反転させた構造になっている。すなわち、供給ノズル24Bは、w方向(図1の紙面直交方向)に延びる容器状になっており、上面エッチングゾーン12の天井部に下向きに設置されている。供給ノズル24Bの下面24f(処理空間画成面)は、コロ2aより少し上の高さに位置している。供給ノズル24Bの下面24fには、供給口25と、一対の吸引口26,26が形成されている。供給口25は、供給ノズル24Bの下面24fのx方向の中央部に配置されている。この供給口25を挟んで供給ノズル24Bの下面24fのx方向の両側に一対の吸引口26,26が配置されている。これら供給ノズル24Bの供給口25及び吸引口26はw方向に延びるスリット状であるが、w方向に並んだ多数の小孔にて構成されていてもよい点は、供給ノズル24Aの供給口25及び吸引口26と同様である。
【0022】
各供給ノズル24には整流板28が付設されている。整流板28は、w方向(図1の紙面直交方向)に延びる平板にて構成され、供給ノズル24の処理空間画成面24fと対向するように配置されている。整流板28と処理空間画成面24fとの間に処理空間29が形成されている。処理空間29の内圧は、大気圧近傍である。供給口25及び吸引口26が処理空間29に連なっている。処理空間29のx方向の両端部は開口されている。処理空間29のw方向の両端部は、端壁27にて塞がれている。なお、端壁27は、供給ノズル24と整流板28とのw方向の互いに同じ側の端部どうし(図1の紙面手前の端部どうし、紙面奥側の端部どうし)を連結している。搬送手段2によってガラス板90がx方向に沿って処理空間29内に通される。処理空間29のx方向の寸法は、例えば40mm〜500mm程度である。処理空間29のw方向の寸法は、ガラス板90のw方向の寸法より少し(例えば10mm〜100mm程度)大きい。処理空間29の厚み(上下の寸法)は、少なくともガラス板90の厚みより大きく、例えば2mm〜60mm程度である。
【0023】
図示は省略するが、各供給ノズル24の内部には、ガス均一化路が形成されている。ガス均一化路は、w方向(図1の紙面直交方向)に延びるチャンバー、w方向に延びるスリット、w方向に分散して配置された多数の小孔等を含む。各供給ノズル24に、対応する放電生成部23から反応ガスが導入される、この反応ガスが、上記ガス均一化路を通ることによってw方向に均一化される。均一化後の反応ガスが、供給口25から処理空間29に吹き出され、更に搬送方向(x方向)の上流側へ向かう流れと下流側へ向かう流れとに分かれる。上記供給口25からの吹出し流及び処理空間29内でのガス流は、w方向に均一な流れになる。
【0024】
図示は省略するが、各吸引口26は、吸引路を介して真空ポンプ等の吸引手段に接続されている。吸引口26の周辺のガスひいては処理空間29のx方向の両端部に達した反応ガスが、吸引口26に吸い込まれて排出される。
【0025】
バッファーゾーン13は、上面エッチングゾーン12と水封ゾーン14との間に介在されている。バッファーゾーン13のx方向の長さは、ガラス板90のx方向の長さと同程度か、又はガラス板90のx方向の長さより大きいことが好ましい(図1ではバッファーゾーン13の中間部を省略)。
【0026】
水封ゾーン14には、洗浄ノズル41が設けられている。洗浄ノズル41は、搬送手段2によるガラス板90の搬送経路(コロ2aの上端部の高さの水平面)を挟んで上側と下側にそれぞれ2つ(複数)ずつ設置されている。上側の2つの洗浄ノズル41は、x方向に並べられている。下側の2つの洗浄ノズル41は、x方向に並べられている。なお、上側及び下側の洗浄ノズル41の数は、2つに限られず、1つでもよく、3つ以上でもよい。上側の洗浄ノズル41の数と下側の洗浄ノズル41の数は、同数に限られず、違っていてもよい。
【0027】
各洗浄ノズル41は、それぞれw方向(図1の紙面直交方向)に延びている。各洗浄ノズル41は、w方向に延びるスリット状又はw方向に並んだ多数の小孔状の噴射口42を有している。上側の洗浄ノズル41は、噴射口42を下に向けて配置されている。下側の洗浄ノズル41は、噴射口42を上に向けて配置されている。各洗浄ノズル41の噴射口42から洗浄流体43が噴射される。洗浄流体43としては、水が用いられており、好ましくは純水が用いられている。
なお、洗浄流体43は、水に限られず、アルコール等の他の液体であってもよく、液体に限られず、窒素、エア等の気体であってもよい。
【0028】
上記のように構成されたカレット除去装置1を用いて、ガラス板90のカレット93,94を除去する方法を説明する。
(1)搬送工程
ガラス板90を、搬送手段2によって矢印aの向き(左から右)に搬送する。搬送速度は、0.1m/min〜20m/min程度が好ましい。
【0029】
(2)エッチング工程
(2−1)下面(裏面)エッチング工程
ガラス板90は、先ず、下面エッチングゾーン11に搬入され、供給ノズル24Aの処理空間29内に通される。併行して、供給ノズル24Aの供給口25から反応ガス(フッ化水素及び水蒸気を含有するガス)を吹き出す。この反応ガスがガラス板90の下面91に接触する。反応ガスの露点(上記フッ化水素及び水蒸気の凝縮点)は、ガラス板90の温度とほぼ等しいか、ガラス板90の温度より高くなるよう設定する。反応ガスの露点は、好ましくは10℃〜40℃程度であり、より好ましくは20℃〜30℃程度である。また、反応ガスの露点とガラス板90の温度との差は、好ましは20℃以下であり、より好ましくは10℃以下であり、一層好ましくは0〜5℃程度である。なお、ガラス板90の移動に伴なって、処理空間29内に外部の雰囲気ガス(空気)が入り込み、処理空間29内のガスが反応ガスと雰囲気ガスの混合ガスになることがある。その場合、混合後の露点又は温度差が上記好適な範囲になるように調節することが好ましい。これによって、ガラス板90の下面91上で反応ガス中のフッ化水素及び水蒸気が凝縮し、ガラス板下面91にフッ酸凝縮層が形成される。フッ酸凝縮層は、ガラス板下面91のカレット93の表面にも形成される。このフッ酸凝縮層が、ガラス板下面91の表面部分91e及びカレット93の表面部分93eを構成するSiOとエッチング反応を起こす(式1)。
SiO+4HF+HO→SiF+3HO (式1)
【0030】
これによって、図2(b)に示すように、ガラス板下面91の表面部分91eがエッチングされる。このときにエッチングされる表面部分91eの厚みは、微小であり、ガラス板90の厚さと比べ極めて小さい。具体的には、エッチングされる表面部分91eの厚みは、好ましくはオングストロームオーダー〜ナノオーダーであり、より好ましくはオングストロームオーダーである。したがって、ガラス板下面91の表面粗さには殆ど影響を与えない。
【0031】
図2(b)に示すように、ガラス板90の下面91の表面部分91eのエッチングと同時に、カレット93についても、その表面部分93eがエッチングされる。このときにエッチングされる表面部分93eの厚みは、上記表面部分91eとほぼ同じ大きさの微小であり、カレット93の大きさと比べると極めて小さい。具体的には、エッチングされる表面部分93eの厚みは、好ましくはオングストロームオーダー〜ナノオーダーであり、より好ましくはオングストロームオーダーである。カレット93の表面部分93eより内側の部分93aは、ガラス板下面91に残留する。
【0032】
上記ガラス板下面91及びカレット93の表面部分91e,93eのエッチングによって、カレット93の固着部95が浸蝕されて断面積S95が一層小さくなり、残留部分93aのガラス板90への固着状態が、より脆弱又はより不安定になり、或いは固着状態が解除される。
【0033】
(2−2)上面(おもて面)エッチング工程
ガラス板90は、下面エッチングゾーン11の処理空間29を通過した後、上面エッチングゾーン12に搬入され、供給ノズル24Bの処理空間29内に通される。併行して、供給ノズル24Bの供給口25から反応ガスを吹き出す。この反応ガスがガラス板90の上面92に接触する。供給ノズル24Bからの反応ガスの露点、又は該露点とガラス板90の温度との温度差は、下面エッチング工程と同様に設定するとよい。これによって、ガラス板90の上面92で反応ガス中のフッ化水素及び水蒸気が凝縮し、ガラス板上面92にフッ酸凝縮層が形成される。フッ酸凝縮層は、ガラス板上面92のカレット94の表面にも形成される。このフッ酸凝縮層が、ガラス板上面92の表面部分92e及びカレット94の表面部分94eを構成するSiOとエッチング反応を起こす(式1)。
【0034】
これによって、図2(c)に示すように、ガラス板上面92の表面部分92eがエッチングされる。このときにエッチングされる表面部分92eの厚みは、微小であり、ガラス板90の厚さと比べ極めて小さく、具体的には好ましくはオングストロームオーダー〜ナノオーダーであり、より好ましくはオングストロームオーダーである。したがって、ガラス板上面92の表面粗さには殆ど影響を与えない。
【0035】
図2(c)に示すように、ガラス板90の上面92の表面部分92eのエッチングと同時に、カレット94についても、その表面部分94eがエッチングされる。このときにエッチングされる表面部分94eの厚みは、上記表面部分92eとほぼ同じ大きさの微小であり、カレット94の大きさと比べると極めて小さい。具体的には、エッチングされる表面部分94eの厚みは、好ましくはオングストロームオーダー〜ナノオーダーであり、より好ましくはオングストロームオーダーである。カレット94の表面部分94eより内側の部分94aは、ガラス板上面92に残留する。
【0036】
上記ガラス板上面92及びカレット94の表面部分92e,94eのエッチングによって、カレット94の固着部95が浸蝕されて断面積S95が一層小さくなり、残留部分94aのガラス板90への固着状態が、より脆弱又はより不安定になり、或いは固着状態が解除される。
【0037】
要するに、本発明方法では、エッチング工程におけるエッチング反応の度合いを、カレット93,94の表面部分93e,94eがエッチングされるとともに該表面部分93e,94eより内側の部分93a,94aが残留する程度に調節する。エッチング反応の度合いは、ガラス板90の搬送速度、処理空間29の搬送方向xの長さ(ひいてはガラス板90の処理空間29内での処理時間)、反応ガスのフッ化水素濃度及び露点、ガラス板90の温度等によって調節できる。反応ガスのフッ化水素濃度及び露点は、原料ガス成分(CF、N、HO)の配合比、放電生成部23への投入電力等によって調節できる。
【0038】
(3)バッファーゾーン通過工程
ガラス板90は、上面エッチングゾーン12の処理空間29を通過した後、バッファーゾーン13に通される。バッファーゾーン13を設けることで、上面エッチングゾーン12の反応ガスが水封ゾーン14へ流入したり、水封ゾーン14の洗浄水43が上面エッチングゾーン12へ入り込んだりするのを防止できる。
【0039】
(4)洗浄工程
ガラス板90は、バッファーゾーン13を通過した後、水封ゾーン14に通される。併行して、上下の洗浄ノズル41の噴射口42から洗浄水43を吹き出す。これによって、図2(d)に示すように、下側の洗浄ノズル41からの洗浄水43が、ガラス板90の下面91に当たり、該下面91に沿って流れる。該下面91上の残留カレット93aは、ガラス板90への固着状態が不安定化又は解除されているために、上記下側の洗浄水43の流体圧によってガラス板90から簡単に離れる。同様に、上側の洗浄ノズル41からの洗浄水43が、ガラス板90の上面92に当たり、該上面92に沿って流れる。該上面92の残留カレット94aは、ガラス板90への固着状態が不安定化又は解除されているために、上記上側の洗浄水43の流体圧によってガラス板90から簡単に離れる。これによって、ガラス板90からカレット93,94を確実に除去できる。ガラス板90の上面92と下面91にそれぞれエッチング工程及び洗浄工程を順次施すことによって、ガラス板90の上下両面92,91のカレット94,93を除去できる。
【0040】
洗浄工程後のガラス板90を処理槽10から搬出し、次工程へ送る。
【0041】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨に反しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、カレット除去装置1の下面エッチングゾーン11と上面エッチングゾーン12がx方向(搬送方向)に入れ替わっていてもよい。上面(おもて面)エッチング工程を先に行ない、次に下面(裏面)エッチング工程を行なうことにしてもよい。
カレット除去装置1は、ガラス板90の両面91,92を処理するものであったが、ガラス板90の片面だけを処理するようになっていてもよい。その場合、エッチングゾーン11,12の何れか一方を省略でき、供給ノズル24A,24Bの何れか一方を省略でき、上下の洗浄ノズル41の何れか一方を省略できる。
【実施例1】
【0042】
実施例を説明する。本発明が以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
ガラス板90のサンプルの大きさは、約30cm×40cmであった。
1)前洗浄工程
上記サンプルの表面から比較的大きな異物を除去するために、予め、上記サンプルを流水にて洗浄した。流水は、純水のシャワーであった。上記サンプルに純水のシャワーを30秒間当てた。
【0043】
2)初期検査工程
次に、サンプルの表面上に在るパーティクル(カレットを含む)の数及び各パーティクルのサンプル上の位置を検査した。検査装置として、クボテック株式会社製OPTICS(ラインスピード5m/min、ラインセンサー7360画素、分解能5μm)を用いた。検査の結果、38mm×38mmの検査領域のカレットの数は、11個であり、カレット以外のパーティクルの数は、15個であった。
【0044】
3)エッチング工程
次に、図1に示すカレット除去装置1と実質同じ構造の装置を用いて、上記サンプルに反応ガスを接触させてエッチングを行なった(エッチング工程)。原料ガス中のCFは、Nに対して2vol%程度であった。水添加後の原料ガスの露点は8℃であった。上記原料ガスを放電生成部23にてプラズマ化して反応ガスを生成した。反応ガスのフッ化水素濃度は1.25%程度であった。反応ガスの露点(フッ化水素及び水蒸気の凝縮点)は28℃程度であった。サンプルのw方向(図1の紙面直交方向)の単位長さあたりの反応ガス流量は、0.2L/cmであった。サンプルの温度は、25℃(室温)であった。サンプルの搬送速度は、6m/minであった。供給ノズル1つ当たりのエッチング時間(サンプルに反応ガスを接触させた時間)は、2secであった。
【0045】
4)洗浄工程
続いて、カレット除去装置1の水封ゾーン14において、上記サンプルを洗浄流体43にて洗浄した(洗浄工程)。洗浄流体43として、純水を用いた。
【0046】
5)後洗浄工程
更に、上記サンプルをガラス洗浄液にて洗浄した。ガラス洗浄液として、横浜油脂株式会社製セミクリーンKGを用いた。上記ガラス洗浄液をバットに入れ、このバット内で上記サンプルを1分間手洗いした。
【0047】
6)処理後検査工程
その後、上記初期検査工程と同じ検査装置を用いて、サンプルの表面上に在るパーティクル(カレットを含む)の数及び各パーティクルのサンプル上の位置を検査した。検査の結果、上記初期検査工程と同じ検査領域(38mm×38mm)のカレットの数は、1個であり、カレット以外のパーティクルの数は、0個であった。カレットに対して十分な除去効果があることが確認された。
【実施例2】
【0048】
実施例2では、実施例1と同じ大きさのサンプルを2つ用意した。これらサンプルのうち、1つのサンプルに対して、実施例1と同じ手順で一連の処理(前洗浄工程、初期検査工程、エッチング工程、洗浄工程、後洗浄工程、処理後検査工程)を行なった。その結果、初期検査工程では、38mm×38mmの検査領域のパーティクル(カレット及びその他のパーティクル)の数が105個であったのに対し、処理後検査工程では、上記検査領域のパーティクル数は6個であった。洗浄工程又は後洗浄工程から処理後検査工程までの間の新たなパーティクル付着の可能性を考慮すると、十分に良好な処理結果であると言える。
【0049】
比較例として、上記2つのサンプルの他の1つに対して、エッチング工程及び洗浄工程を省いた点を除き、実施例1、2と同じ処理を行なった。すなわち、前洗浄工程、初期検査工程、後洗浄工程、処理後検査工程を順次行なった。その結果、初期検査工程では、38mm×38mmの検査領域のパーティクル(カレット及びその他のパーティクル)の数が155個であり、処理後検査工程では、上記検査領域のパーティクル数が22個であった。よって、本発明のエッチング工程によるパーティクルひいてはカレット除去効果が十分に確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えばフラットパネルディスプレイ等の半導体装置の製造に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 カレット除去装置
2 搬送手段
10 処理槽
10a 搬入口
10b 搬出口
11 下面(裏面)エッチングゾーン
12 上面(おもて面)エッチングゾーン
13 バッファーゾーン
14 水封ゾーン(洗浄ゾーン)
15,16,17 隔壁
20 反応ガス供給系
21 原料ガス供給部
22 水添加部
23 放電生成部
23a 電極
23c 放電空間
24 供給ノズル
24f 処理空間画成面
25 供給口
26 吸引口
29 エッチング処理空間
41 洗浄ノズル
42 噴射口
43 洗浄流体
90 ガラス板
91 下面(表面)
92 上面(表面)
91e,92e 表面部分
93,94 カレット
93a,94a 残留部分(内側部分)
93e,94e 表面部分
95 固着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOを主成分として含有するガラス板の表面に固着したカレットを除去するガラスカレット除去方法であって、
フッ化水素及び水蒸気を含む反応ガスを大気圧近傍下で前記ガラス板に接触させて、SiOのエッチング反応を起こさせるエッチング工程と、
その後、前記ガラス板を洗浄流体にて洗浄する洗浄工程と、
を備え、前記エッチング工程における前記エッチング反応の度合いを、前記カレットの表面部分がエッチングされるとともに該表面部分より内側の部分が残留する程度に調節することを特徴とするガラスカレット除去方法。
【請求項2】
前記カレットの大きさがミクロンオーダーであり、エッチングする前記表面部分の厚みがオングストロームオーダー〜ナノオーダーであることを特徴とする請求項1に記載のガラスカレット除去方法。
【請求項3】
前記カレットの大きさがミクロンオーダーであり、エッチングする前記表面部分の厚みがオングストロームオーダーであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスカレット除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−75794(P2013−75794A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217098(P2011−217098)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】