説明

ガラスクロス含浸基材の製造方法およびプリント配線板

【課題】プリント配線板に絶縁層として用いられるガラスクロス含浸基材において、その吸湿耐熱性を改善する。
【解決手段】分子中にメタクリロイルオキシ基を有するシラン化合物を用いて表面処理されたガラスクロス5に、溶媒とこの溶媒に溶解した液晶ポリエステル7とが含まれる液状組成物9を含浸させる。その後、液状組成物9中の溶媒を除去してガラスクロス含浸基材2を得る。これにより、液晶ポリエステル7のガラスクロス5への含浸に先立ち、分子中にメタクリロイルオキシ基を有するシラン化合物を用いてガラスクロス5が表面処理される。そのため、液晶ポリエステル7とガラスクロス5との密着性が向上し、ガラスクロス含浸基材2の吸湿耐熱性が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、パソコン、デジタル家電など種々の電子機器に組み込まれるプリント配線板(プリント基板、プリント回路基板)に絶縁層として用いられるガラスクロス含浸基材の製造方法と、このガラスクロス含浸基材を具備するプリント配線板とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のガラスクロス含浸基材としては、液晶ポリエステル溶液をガラスクロスに含浸させた後、溶媒(溶剤)を除去して得られるものが、寸法安定性に優れるという理由で好適に用いられていた(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−244621号公報
【特許文献2】特開2007−146139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来のガラスクロス含浸基材では、吸湿時の耐熱性、つまり吸湿耐熱性(はんだ耐熱性)が不足し、液晶ポリエステルがガラスクロスから剥離する恐れがあった。また、こうしたガラスクロス含浸基材を用いてプリント配線板を製造すると、プリント配線板の信頼性(とりわけ絶縁性)や耐久性が低下するという不都合があった。
【0005】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、ガラスクロス含浸基材の吸湿耐熱性を改善し、液晶ポリエステルがガラスクロスから剥離する事態を回避することが可能なガラスクロス含浸基材の製造方法を提供することを第1の目的とし、また、このガラスクロス含浸基材を用いた信頼性および耐久性の高いプリント配線板を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明者は、ガラスクロス含浸基材の吸湿耐熱性を高めるべく、液晶ポリエステルのガラスクロスへの含浸に先立ち、特定のシラン化合物を用いてガラスクロスを表面処理することにより、液晶ポリエステルとガラスクロスとの密着性を向上させることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の発明は、分子中にメタクリロイルオキシ基を有するシラン化合物を用いて表面処理されたガラスクロスに、溶媒とこの溶媒に溶解した液晶ポリエステルとが含まれる液状組成物を含浸させる液状組成物含浸工程と、前記液状組成物中の溶媒を除去してガラスクロス含浸基材を得る含浸基材調製工程とが含まれるガラスクロス含浸基材の製造方法としたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が30〜50モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Ar3 はフェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar1 、Ar2 およびAr3 の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成に加え、前記式(3)で示される構造単位のXおよびYの少なくとも一方がNHであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計含有量が30〜50モル%、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる化合物に由来する構造単位の合計含有量が25〜35モル%、p−アミノフェノールに由来する構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載のガラスクロス含浸基材の製造方法によって得られたガラスクロス含浸基材が絶縁層として用いられ、この絶縁層の少なくとも片面に導体層が形成されているプリント配線板としたことを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項6に記載の発明は、複数の絶縁層が積層されたプリント配線板であって、前記絶縁層のうち少なくとも1層が、請求項1乃至4のいずれかに記載のガラスクロス含浸基材の製造方法によって得られたガラスクロス含浸基材であるプリント配線板としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液晶ポリエステルのガラスクロスへの含浸に先立ち、分子中にメタクリロイルオキシ基を有するシラン化合物を用いてガラスクロスが表面処理されることから、液晶ポリエステルとガラスクロスとの密着性が向上する。そのため、ガラスクロス含浸基材の吸湿耐熱性を改善し、液晶ポリエステルがガラスクロスから剥離する事態を回避することができる。
【0014】
また、このようなガラスクロス含浸基材を用いてプリント配線板を製造することにより、信頼性および耐久性の高いプリント配線板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係るプリント配線板の製造過程を示す工程図であって、(a)はガラスクロス準備工程を示す図、(b)は液状組成物含浸工程を示す図、(c)は含浸基材調製工程を示す図、(d)は導体圧着工程を示す図、(e)はパターニング工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0017】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。この実施の形態1では、1層の絶縁層の片面に導体層が積層された単層型のプリント配線板1について、その構成および製造方法を順次説明する。なお、図1においては、わかりやすさを重視して図示しているため、各構成要素の寸法(厚さなど)の比率は必ずしも正確ではない。
【0018】
まず、プリント配線板1の構成について説明する。
【0019】
このプリント配線板1は、図1(e)に示すように、絶縁層として所定の厚さ(例えば、20〜250μm、好ましくは、50〜200μm)のシート状のガラスクロス含浸基材2を有しており、ガラスクロス含浸基材2の表面(図1(e)上面)には、導体層として所定の厚さ(例えば、1〜70μm、好ましくは、3〜35μm)の銅箔3が貼り付けられて回路パターンを形成している。さらに、ガラスクロス含浸基材2は、所定の厚さ(例えば、10〜200μm)を有するガラスクロス5を備えており、ガラスクロス5には、充填剤(フィラー)6を均等に含む液晶ポリエステル7が付着している。
【0020】
ここで、液晶ポリエステル7とは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するという特性を有するポリエステルである。この液晶ポリエステル7としては、以下の式(1)で示される構造単位(以下、「式(1)構造単位」という)と、下記の式(2)で示される構造単位(以下、「式(2)構造単位」という)と、下記の式(3)で示される構造単位(以下、「式(3)構造単位」という)とを有し、全構造単位の合計に対して、式(1)構造単位の含有量が30〜50モル%、式(2)構造単位の含有量が25〜35モル%、式(3)構造単位の含有量が25〜35モル%のものが好ましい。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Ar3 はフェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar1 、Ar2 およびAr3 の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0021】
ここで、式(1)構造単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり、この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−4−ナフトエ酸などが挙げられる。
【0022】
また、式(2)構造単位は、芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり、この芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸などが挙げられる。
【0023】
さらに、式(3)構造単位は、芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基(フェノール性水酸基)を有する芳香族アミンまたは芳香族ジアミンに由来する構造単位である。この芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。また、このフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンとしては、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール等が挙げられ、この芳香族ジアミンとしては、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0024】
この液晶ポリエステル7は溶媒可溶性であり、かかる溶媒可溶性とは、温度50℃において、1質量%以上の濃度で溶媒に溶解することを意味する。この場合の溶媒とは、後述する液状組成物9の調製に用いる好適な溶媒のいずれか1種であり、詳細は後述する。
【0025】
このような溶媒可溶性を有する液晶ポリエステル7としては、前記式(3)構造単位として、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミンに由来する構造単位および/または芳香族ジアミンに由来する構造単位を含むものが好ましい。すなわち、式(3)構造単位として、XおよびYの少なくとも一方がNHである構造単位(式(3’)で表される構造単位、以下、「式(3’)構造単位」という)を含むと、後述する好適な溶媒(非プロトン性極性溶媒)に対する溶媒可溶性が優れる傾向があるため好ましい。特に、実質的に全ての式(3)構造単位が式(3’)構造単位であることが好ましい。また、この式(3’)構造単位は液晶ポリエステル7の溶媒溶解性を十分にすることに加え、後述する液状組成物9を用いたガラスクロス含浸基材2の製造がより容易になる点でも有利である。
(3’)−X−Ar3 −NH−
(式中、Ar3 およびXは前記と同義である。)
【0026】
式(3’)構造単位は全構造単位の合計に対して、30〜32.5モル%の範囲で含むとより好ましく、こうすることにより、溶媒可溶性は一層良好になる。このように式(3’)構造単位を式(3)構造単位として有する液晶ポリエステル7は、溶媒に対する溶解性が良好になるという利点に加え、後述する液状組成物9を用いたガラスクロス含浸基材2の製造が一層容易になるという利点もある。
【0027】
式(1)構造単位は全構造単位の合計に対して、30〜50モル%の範囲で含むと好ましく、35〜40モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(1)構造単位を含む液晶ポリエステル7は、液晶性を十分に維持しながらも、溶媒に対する溶解性がより優れる傾向にある。さらに、式(1)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸の入手性も併せて考慮すると、この芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸および/または2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸が好適である。
【0028】
式(2)構造単位は全構造単位の合計に対して、25〜35モル%の範囲で含むと好ましく、30〜32.5モル%の範囲で含むとより好ましい。このようなモル分率で式(2)構造単位を含む液晶ポリエステル7は、液晶性を十分に維持しながらも、溶媒に対する溶解性がより優れる傾向にある。さらに、式(2)構造単位を誘導する芳香族ジカルボン酸の入手性も併せて考慮すると、この芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群より選ばれる少なくも1種であると好ましい。
【0029】
また、得られる液晶エステルがより高度の液晶性を発現する点では、式(2)構造単位と式(3)構造単位とのモル分率は、[式(2)構造単位]/[式(3)構造単位]で表して、0.9/1〜1/0.9の範囲が好適である。
【0030】
次に、液晶ポリエステル7の製造方法について簡単に説明する。
【0031】
この液晶ポリエステル7は、種々公知の方法により製造可能である。好適な液晶ポリエステル7である、式(1)構造単位、式(2)構造単位および式(3)構造単位からなる液晶ポリエステル7を製造する場合、これら構造単位を誘導するモノマーをエステル形成性・アミド形成性誘導体に転換した後、重合させて液晶ポリエステル7を製造する方法が、操作が簡便であるため好ましい。
【0032】
前記エステル形成性・アミド形成性誘導体について、例を挙げて説明する。
【0033】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のように、カルボキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、当該カルボキシル基が、ポリエステルやポリアミドを生成する反応を促進するように、ハロホルミル基、アシルオキシカルボニル基などの反応活性の高い基になって、酸ハロゲン化物、酸無水物などを形成しているものや、当該カルボキシル基が、エステル交換・アミド交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するようにアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0034】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール等のように、フェノール性ヒドロキシル基を有するモノマーのエステル形成性・アミド形成性誘導体としては、エステル交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するように、フェノール性ヒドロキシル基がカルボン酸類とエステルを形成しているもの等が挙げられる。
【0035】
また、芳香族ジアミンのように、アミノ基を有するモノマーのアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とアミドを形成しているもの等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも液晶ポリエステル7をより簡便に製造するうえでは、芳香族ヒドロキシカルボン酸と、芳香族ジオール、フェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンといったフェノール性ヒドロキシル基および/またはアミノ基を有するモノマーとを脂肪酸無水物でアシル化してエステル形成性・アミド形成性誘導体(アシル化物)とした後、このアシル化物のアシル基と、カルボキシル基を有するモノマーのカルボキシル基とがエステル交換・アミド交換を生じるようにして重合させ、液晶ポリエステル7を製造する方法が特に好ましい。
【0037】
このような液晶ポリエステル7の製造方法は、例えば、特開2002−220444号公報または特開2002−146003号公報に記載されている。
【0038】
アシル化においては、フェノール性ヒドロキシル基とアミノ基との合計に対して、脂肪酸無水物の添加量が1〜1.2倍当量であることが好ましく、1.05〜1.1倍当量であるとより好ましい。脂肪酸無水物の添加量が1倍当量未満では、重合時にアシル化物や原料モノマーが昇華して反応系が閉塞しやすい傾向があり、また、1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリエステル7の着色が著しくなる傾向がある。
【0039】
アシル化は、130〜180℃で5分間〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分間〜3時間反応させることがより好ましい。
【0040】
アシル化に使用される脂肪酸無水物は、価格と取扱性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸またはこれらから選ばれる2種以上の混合物が好ましく、特に好ましくは、無水酢酸である。
【0041】
アシル化に続く重合は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
【0042】
また、重合においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0043】
アシル化および/または重合の際には、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸や未反応の脂肪酸無水物は蒸発させる等して系外へ留去することが好ましい。
【0044】
なお、アシル化や重合においては触媒の存在下に行ってもよい。この触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の有機化合物触媒を挙げることができる。
【0045】
これらの触媒の中でも、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002−146003号公報参照)。
【0046】
この触媒は、通常モノマーの投入時に一緒に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、この触媒を除去しない場合には、アシル化からそのまま重合に移行することができる。
【0047】
このような重合で得られた液晶ポリエステル7は、そのまま本発明に用いることができるが、耐熱性や液晶性という特性の更なる向上のためには、より高分子量化させることが好ましく、かかる高分子量化には固相重合を行うことが好ましい。この固相重合に係る一連の操作を説明する。前記の重合で得られた比較的低分子量の液晶ポリエステル7を取り出し、粉砕してパウダー状またはフレーク状にする。続いて、粉砕後の液晶ポリエステル7を、例えば、窒素などの不活性ガスの雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で加熱処理するという操作により、固相重合を実施することができる。この固相重合は、撹拌しながら行ってもよく、撹拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお、後述する好適な流動開始温度の液晶ポリエステル7を得るといった観点から、この固相重合の好適条件を詳述すると、反応温度として210℃を越えることが好ましく、より一層好ましくは220℃〜350℃の範囲である。また、反応時間は、1〜10時間から選択されることが好ましい。
【0048】
本発明に用いる液晶ポリエステル7としては、流動開始温度が250℃以上であると、ガラスクロス含浸基材2と銅箔3との間の密着性が向上する点で好ましい。ここでいう流動開始温度とは、フローテスターによる溶融粘度の評価において、9.8MPaの圧力下で液晶ポリエステル7の溶融粘度が4800Pa・s以下になる温度をいう。なお、この流動開始温度とは、液晶ポリエステル7の分子量の目安として当業者には周知のものである(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0049】
液晶ポリエステル7の流動開始温度は、250℃以上300℃以下であることが更に好ましい。流動開始温度が300℃以下であれば、液晶ポリエステル7の溶媒に対する溶解性がより良好になることに加え、後述する液状組成物9を得たとき、その粘度が著増しないので、この液状組成物9の取扱性が良好となる傾向がある。かかる観点から、流動開始温度が260℃以上290℃以下の液晶ポリエステル7がさらに好ましい。なお、液晶ポリエステル7の流動開始温度をこのような好適な範囲に制御するには、前記固相重合の重合条件を適宜最適化すればよい。
【0050】
また、充填剤6は、寸法安定性、熱電導性、電気特性の改善などを目的として液晶ポリエステル7に含まれているものであり、具体的には、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の無機フィラー;硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリルポリマー等の有機フィラー;酸化防止剤、紫外線吸収剤など各種の添加剤を挙げることができる。
【0051】
次に、このプリント配線板1の製造方法について説明する。
【0052】
まず、ガラスクロス準備工程で、図1(a)に示すように、ガラスクロス5を準備する。
【0053】
このガラスクロス5は、含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維、低誘電ガラス繊維からなるものが好ましい。また、ガラスクロス5を構成する繊維として、その一部にガラス以外のセラミックからなるセラミック繊維または炭素繊維を混入していてもよい。
【0054】
これらの繊維からなるガラスクロス5を製造する方法としては、ガラスクロス5を形成する繊維を水中に分散し、必要に応じてアクリル樹脂などの糊剤を添加して、抄紙機にて抄造後、乾燥させることで不織布を得る方法や、公知の織成機を用いる方法を挙げることができる。
【0055】
繊維の織り方としては、平織り、朱子織り、綾織り、ななこ織り等が利用できる。織り密度としては、10〜100本/25mmであり、ガラスクロス5の単位面積当たりの質量としては10〜300g/m2 のものが好ましく使用される。ガラスクロス5の厚みとしては、通常、10〜200μm程度であり、10〜180μmのものがさらに好ましく使用される。
【0056】
こうしてガラスクロス5が準備されたところで、ガラスクロス表面処理工程に移行し、分子中にメタクリロイルオキシ基〔CH2 =C(CH3 )COO−〕を有するシラン化合物(カップリング剤)を用いてガラスクロス5を表面処理する。このようなシラン化合物としては、具体的には、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン)、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン(γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン)、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン(γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン)などが挙げられる。
【0057】
このガラスクロス5の表面処理は、前記シラン化合物またはその溶液にガラスクロス5を浸漬することにより行ってもよく、前記シラン化合物またはその溶液をガラスクロス5に噴霧することにより行ってもよく、前記シラン化合物またはその溶液をガス化してガラスクロス5に接触させることにより行っても構わない。なお、前記シラン化合物の溶液を用いる場合、溶媒除去のための乾燥は、熱風を吹き付けることにより行ってもよく、電磁波を照射することにより行っても構わない。好ましくは、前記シラン化合物を含む0.01〜2質量%水溶液にガラスクロス5を浸漬した後、80℃以上で10分間〜10時間加熱処理することにより、ガラスクロス5の表面処理を行う。このとき、水素イオン濃度(pH)を調整するため、酢酸などに代表される脂肪族酸を添加してもよい。さらに、ガラスクロス5は、その表面処理後に、柱状流や高周波振動法による水流などで開繊加工することも可能である。
【0058】
また、市場から容易に入手できるガラスクロス5を用いることも可能である。このようなガラスクロス5としては、電子部品のガラスクロス含浸基材2として種々のものが市販されており、旭化成イーマテリアルズ(株)、日東紡績(株)、(株)有沢製作所、ユニチカ(株)等から入手することができる。なお、市販のガラスクロス5において、好適な厚みのものとしては、IPC呼称で1035、1078、1086、2116、7628のものが挙げられる。
【0059】
こうしてガラスクロス5が表面処理されたところで、液状組成物調製工程に移行し、溶媒とこの溶媒に溶解した液晶ポリエステル7とこの液晶ポリエステル7に分散した充填剤6とが含まれる液状組成物9を調製する。
【0060】
なお、液晶ポリエステル7として、上述の好適な液晶ポリエステル7、特に式(3’)構造単位を含む液晶ポリエステル7を用いた場合、この液晶ポリエステル7はハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒に対して十分な溶解性を発現する。
【0061】
ここで、ハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒とは、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系溶媒;アセトニトリル、サクシノニトリル等のニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などのリン系溶媒が挙げられる。なお、上述の液晶ポリエステル7の溶媒可溶性とは、これらから選ばれる少なくとも1つの非プロトン性溶媒に可溶であることを指すものである。
【0062】
液晶ポリエステル7の溶媒可溶性をより一層良好にして、液状組成物9が得られやすい点では、例示した溶媒の中でも、双極子モーメントが3以上5以下の非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。具体的にいえば、アミド系溶媒、ラクトン系溶媒が好ましく、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)を用いることがより好ましい。更には、前記溶媒が、1気圧における沸点が180℃以下の揮発性の高い溶媒であると、ガラスクロス5に液状組成物9を含浸させた後、除去しやすいという利点もある。この観点からは、DMF、DMAcが特に好ましい。また、このようなアミド系溶媒の使用は、ガラスクロス含浸基材2の製造時に、厚みムラ等が生じ難くなるため、ガラスクロス含浸基材2上に導体層が形成しやすいという利点もある。
【0063】
液状組成物9に、前記のような非プロトン性溶媒を用いた場合、この非プロトン性溶媒100質量部に対して、液晶ポリエステル7を20〜50質量部、好ましくは22〜40質量部溶解させると好ましい。この液状組成物9に対する液晶ポリエステル7の含有量がこのような範囲にあると、ガラスクロス含浸基材2を製造する際に、ガラスクロス5に液状組成物9を含浸させる効率が良好になり、含浸後の溶媒を乾燥して除去する際に、厚みムラ等が生じるといった不都合も起こり難い傾向がある。
【0064】
また、液状組成物9には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルおよびその変性物、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体に代表されるエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂等、液晶ポリエステル7以外の樹脂を一種または二種以上を添加してもよい。ただし、このような他の樹脂を用いる場合においても、これら他の樹脂も、液状組成物9に使用した溶媒に可溶であることが好ましい。
【0065】
また、この液状組成物9は、必要に応じて、フィルター等を用いたろ過処理により、この液状組成物9中に含まれる微細な異物を除去しても構わない。
【0066】
さらに、この液状組成物9は、必要に応じて、脱泡処理を行ってもよい。
【0067】
こうして液状組成物9が調製されたところで、液状組成物含浸工程に移行し、図1(b)に示すように、先ほど表面処理したガラスクロス5に、先ほど調製した液状組成物9を含浸させる。
【0068】
それには、例えば、液状組成物9を仕込んだ浸漬槽を準備し、この浸漬層にガラスクロス5を浸漬することで実施することができる。ここで、液状組成物9の液晶ポリエステル7の含有量、浸漬槽に浸漬する時間、液状組成物9が含浸されたガラスクロス5を引き上げる速度を適宜最適化すれば、上述の好適な液晶ポリエステル7の付着量を容易に制御することができる。
【0069】
こうしてガラスクロス5に液状組成物9が含浸したところで、含浸基材調製工程に移行し、図1(c)に示すように、液状組成物9中の溶媒を除去してガラスクロス含浸基材2を得る。
【0070】
このとき、溶媒を除去する方法は特に限定されないが、操作が簡便である点で、溶媒の蒸発により行うことが好ましく、加熱、減圧、通風またはこれらを組み合わせた方法が用いられる。また、ガラスクロス含浸基材2の製造には、溶媒を除去した後、さらに加熱処理を行ってもよい。このような加熱処理によると、溶媒除去後のガラスクロス含浸基材2に含まれる液晶ポリエステル7をさらに高分子量化することができる。この加熱処理に係る処理条件としては、例えば、窒素などの不活性ガスの雰囲気下、240〜330℃で、1〜30時間加熱処理するといった方法を挙げることができる。なお、より良好な耐熱性を有するガラスクロス含浸基材2を得るといった観点からは、この加熱処理の処理条件としては、その加熱温度が250℃を越えるようにすることが好ましく、より一層好ましくは加熱温度が260〜320℃の範囲である。この加熱処理の処理時間は1〜60時間から選択されることが、生産性の点で好ましい。
【0071】
また、溶媒除去後のガラスクロス含浸基材2に対する液晶ポリエステル7の付着量としては、得られたガラスクロス含浸基材2の質量を基にして30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましい。
【0072】
このとき、ガラスクロス5は、上述したとおり、分子中にメタクリロイルオキシ基を有するシラン化合物を用いて表面処理されている。そのため、ガラスクロス含浸基材2は、吸湿耐熱性が向上し、液晶ポリエステル7がガラスクロス5から剥離する事態を回避することができる。これは、このシラン化合物が特定の官能基を有しているため、このシラン化合物がカップリング剤として機能することにより、有機材料(液晶ポリエステル7)と無機材料(ガラスクロス5)との密着性が向上し、両者が強固に結び付けられると考えられることによる。
【0073】
こうしてガラスクロス含浸基材2が得られたところで、導体圧着工程に移行し、図1(d)に示すように、ガラスクロス含浸基材2の表面(図1(d)上面)に銅箔3を貼り付け、高温真空の環境下でプレスすることにより、ガラスクロス含浸基材2上に銅箔3を熱圧着する。
【0074】
こうしてガラスクロス含浸基材2上に銅箔3が熱圧着されたところで、パターニング工程に移行し、図1(e)に示すように、銅箔3から不要部分をエッチングで除去することにより、ガラスクロス含浸基材2上に所定の回路パターンを形成する。
【0075】
ここで、プリント配線板1の製造過程が終了し、ガラスクロス含浸基材2の片面に回路パターンが形成されたプリント配線板1が完成する。
【0076】
このようにして製造されたプリント配線板1は、上述したとおり、ガラスクロス含浸基材2の吸湿耐熱性が向上しているため、信頼性および耐久性が高くなる。
[発明のその他の実施の形態]
【0077】
なお、上述した実施の形態1では、絶縁層(ガラスクロス含浸基材2)の片面に導体層(銅箔3)が積層されたプリント配線板1について説明したが、絶縁層の両面に導体層が積層されたプリント配線板(図示せず)に本発明を同様に適用することもできる。つまり、絶縁層の少なくとも片面に導体層が積層されたプリント配線板であれば、本発明を広く適用することが可能である。
【0078】
また、上述した実施の形態1では、1層の絶縁層(ガラスクロス含浸基材2)を有する単層型のプリント配線板1について説明したが、2層以上の絶縁層を有する多層型のプリント配線板(図示せず)に本発明を同様に適用することもできる。
【0079】
また、上述した実施の形態1では、プリント配線板1を製造する際に、溶媒と液晶ポリエステル7と充填剤6とからなる液状組成物9を用いる場合について説明したが、充填剤6を省いて、溶媒および液晶ポリエステル7のみからなる液状組成物9を用いることも可能である。
【0080】
さらに、上述した実施の形態1では、導体層として銅箔3を備えたプリント配線板1について説明したが、導体層としては、銅箔3以外の金属箔(例えば、金箔、銀箔、アルミニウム箔、ステンレス箔など)やカーボングラファイトシートその他を代用することも勿論できる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0082】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)および無水酢酸2374g(23.25モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分間かけて150℃まで昇温し、その温度を保持して3時間還流させた。
【0083】
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、170分間かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。この内容物を室温まで冷却し、粉砕機で粉砕した後、比較的低分子量の粉末状の液晶ポリエステルを得た。この粉末状の液晶ポリエステルをフローテスター((株)島津製作所製の「CFT−500型」)によって流動開始温度を測定したところ、この流動開始温度は235℃であった。この粉末状の液晶ポリエステルを窒素雰囲気において223℃3時間で加熱処理するといった固相重合を行った。固相重合後の液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
【0084】
こうして得られた液晶ポリエステル2200gをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)7800gに加え、100℃で2時間加熱して液状組成物を得た。この液状組成物について、B型粘度計(東機産業(株)製の「TVL−20型」、ローターNo.21(回転速度:5rpm))を用いて、測定温度23℃で溶融粘度を測定したところ、この液状組成物の溶融粘度は200cPであった。
【0085】
一方、純水594gに酢酸0.5gと3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBM−502」)6gを添加し、室温で30分間、200rpmで攪拌して1質量%水溶液を作製した。この1質量%水溶液にガラスクロス((株)有沢製作所のガラスクロス;IPC呼称2116)を30分間にわたって浸し、通風乾燥機にて100℃で20分間にわたって乾燥させた。
【0086】
こうして得られた表面処理済みのガラスクロスに先程の液状組成物を室温で1分間にわたって含浸させ、熱風式乾燥機により設定温度160℃の条件で溶媒を蒸発させて、ガラスクロス含浸基材を得た。このガラスクロス含浸基材の樹脂付着量は約35質量%であり、厚みは100μmであった。熱風式乾燥機により窒素雰囲気下290℃で3時間加熱処理を行った。次いで、ガラスクロス含浸基材の両面に銅箔(三井金属鉱業(株)製の「3EC‐VLP」(厚さ18μm))を積層した。これを高温真空プレス機(北川精機(株)製の「KVHC−PRESS」、縦300mm、横300mm)により、温度340℃、圧力5MPaの条件にて30分間にわたって熱プレスして一体化させることにより、金属箔積層体を得た。その後、塩化第二鉄水溶液(木田株式会社製、40°ボーメ)を用いて、この金属箔積層体の銅箔をエッチングで除去し、5cm角の評価基板を得た。
<実施例2>
【0087】
ガラスクロスを表面処理するシラン化合物として、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代えて3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBM−503」)を用いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<比較例1>
【0088】
ガラスクロスを表面処理する工程を省いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<比較例2>
【0089】
ガラスクロスを表面処理するシラン化合物として、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代えて3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBM−5103」)を用いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<比較例3>
【0090】
ガラスクロスを表面処理するシラン化合物として、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代えて2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBM−303」)を用いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<比較例4>
【0091】
ガラスクロスを表面処理するシラン化合物として、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代えて3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBM−403」)を用いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<比較例5>
【0092】
ガラスクロスを表面処理するシラン化合物として、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代えて3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBE−403」)を用いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<比較例6>
【0093】
ガラスクロスを表面処理するシラン化合物として、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代えて3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBE−903」)を用いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<比較例7>
【0094】
ガラスクロスを表面処理するシラン化合物として、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代えて3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製の「KBE−585」)を用いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<比較例8>
【0095】
ガラスクロスを表面処理するシラン化合物として、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代えてメチルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製の「Z−6366」)を用いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<比較例9>
【0096】
ガラスクロスを表面処理するシラン化合物として、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代えてフェニルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製の「Z−6124」)を用いた点を除き、上述した実施例1と同様にして、5cm角の評価基板を得た。
<吸湿耐熱性の評価>
【0097】
これらの実施例1、2、比較例1〜9についてそれぞれ、121℃、2atm(気圧)、相対湿度100%の炉内で評価基板を2時間にわたって処理し、この評価基板を260℃のはんだ浴に30秒間にわたって浸漬した。そして、この評価基板の断面をデジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製の「VH−8000」)で観察して、液晶ポリエステルとガラスクロスとの剥離があるか否かを確認した。
【0098】
その結果をまとめて表1に示す。表1中の「吸湿耐熱性」の欄においては、液晶ポリエステルとガラスクロスとの剥離が確認されなかったときに「○」と表示し、液晶ポリエステルとガラスクロスとの剥離が確認されたときに「×」と表示している。
【表1】

【0099】
表1から明らかなように、比較例1〜9では、いずれも、液晶ポリエステルとガラスクロスとの剥離が確認され、ガラスクロス含浸基材の吸湿耐熱性が低い結果となった。これに対して、実施例1、2では、いずれも、液晶ポリエステルとガラスクロスとの剥離が確認されず、ガラスクロス含浸基材の吸湿耐熱性が高いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、通信用、電源用、車載用など各種の用途に用いられるプリント配線板(多層型であると単層型であるとを問わない。)に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1……プリント配線板
2……ガラスクロス含浸基材(絶縁層)
3……銅箔(導体層)
5……ガラスクロス
6……充填剤
7……液晶ポリエステル
9……液状組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にメタクリロイルオキシ基を有するシラン化合物を用いて表面処理されたガラスクロスに、溶媒とこの溶媒に溶解した液晶ポリエステルとが含まれる液状組成物を含浸させる液状組成物含浸工程と、
前記液状組成物中の溶媒を除去してガラスクロス含浸基材を得る含浸基材調製工程と
が含まれることを特徴とするガラスクロス含浸基材の製造方法。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が30〜50モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載のガラスクロス含浸基材の製造方法。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Ar3 はフェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar1 、Ar2 およびAr3 の芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【請求項3】
前記式(3)で示される構造単位のXおよびYの少なくとも一方がNHであることを特徴とする請求項2に記載のガラスクロス含浸基材の製造方法。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルは、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位の合計含有量が30〜50モル%、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる化合物に由来する構造単位の合計含有量が25〜35モル%、p−アミノフェノールに由来する構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のガラスクロス含浸基材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のガラスクロス含浸基材の製造方法によって得られたガラスクロス含浸基材が絶縁層として用いられ、この絶縁層の少なくとも片面に導体層が形成されていることを特徴とするプリント配線板。
【請求項6】
複数の絶縁層が積層されたプリント配線板であって、
前記絶縁層のうち少なくとも1層が、請求項1乃至4のいずれかに記載のガラスクロス含浸基材の製造方法によって得られたガラスクロス含浸基材であることを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−80170(P2011−80170A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234748(P2009−234748)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】