説明

ガラスコート金ナノ粒子及び蛍光増強金ナノ粒子とこれらの製造方法

【課題】特定の数と大きさの金ナノ粒子が、プライマーを用いることなく、特定の形態で含有されているガラス粒子の作製方法を提供、さらに、このような構造のガラスコート金ナノ粒子の近傍に蛍光体を配置して、蛍光増強効果を提供する。
【解決手段】平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子が、平均シェル厚25ナノメートル以下のシリカガラスで覆われたガラスコート金ナノ粒子。当該ガラスコート金ナノ粒子は、シリコンアルコキシドの添加速度を変えることで作り分けることができる。また、当該ガラスコート金ナノ粒子上に、蛍光体を配置すれば、蛍光増強効果を得ることができる。ガラスコート金ナノ粒子上に蛍光体を配置するには、特定の蛍光体の表面を特定のアルコキシドで置換し、その後、ガラスコート金ナノ粒子分散水溶液に接触させればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスでコートされた金ナノ粒子及び蛍光増強金ナノ粒子とこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は、触媒、センサー、電子材料、光学材料等に用いられる材料として、最近特に注目されている(非特許文献1及び2)。その中でも、金ナノ粒子の合成は、19世紀半ばよりコロイド法によって行われ、種々改良されて簡便な方法が開発された。代表的な文献として、非特許文献3が挙げられる。また、総説(非特許文献4)も出版されている。近年でのナノ粒子研究においても、金ナノ粒子はその安定性、形状に由来する特異な反応性から特に注目されており、形態及び大きさを制御した作製法が盛んに研究されている(非特許文献5)。これらをもとに、金ナノ粒子は、直径2〜100ナノメートルの範囲で作製できる。
【0003】
さらに、作製した金ナノ粒子を自己組織化により1次元的(直線状又は曲線状)又は2次元的(平面状等)に適切に並べ、その物性を調べる研究も進んでいる(非特許文献6及び7)。金属ナノ粒子を並べる方法としては、溶媒の蒸発等の単純なものだけでなく、ビオチン−アビジンの結合、ファンデルワールス力、電磁気力、脂質又はポリマーの形状等を利用したものも知られている。
【0004】
自己組織化をする際には、長距離の静電的力と短距離のファンデルワールス力とのバランスを取ることが一つのポイントである(非特許文献8)。特に1次元の構造を得るためには、ナノ粒子集合体が等方的ではなく、異方的な相互作用を持つ必要がある。金属ナノ粒子は双極子を持たないので、この異方的相互作用を起こさせるために、ナノ粒子表面の配位子を一部分除くことが行われる。このためには、溶液中の配位子の濃度を適切に減少させる方法が取られる。しかしながら、このようにして作られた1次元構造のナノ粒子集合体は、通常は不安定で、時間とともに大きな塊となってしまう。このため、1次元構造のナノ粒子集合体をそのまま固定し、その光特性を保つ方法は十分に開発されてはいない。
【0005】
コロイド法で作製されたナノ粒子の分散性及び形状を長期間保つためには、適切な固体マトリックスが必要である。そのための固体マトリックスとしては、ガラスと有機高分子材料の2つが挙げられる。このなかでもガラス、とくにシリカガラスは、有機高分子と比較して形状安定性に優れ、化学的耐久性に優れ、透明性が高く、また紫外線照射にも強い。ナノ粒子の分散性及び形状を長期間保たせるためのガラスの作製には、ゾル−ゲル法が有利である。なぜならば、ゾル−ゲル法では、常温常圧付近の穏やかな条件下でガラス化が進むので、作製法を工夫すれば金ナノ粒子は透明なガラス中に分散固定されるからである。
【0006】
ここで、「シリカガラス」という言葉について説明を加える。ゾル−ゲル法で作製したガラスは、有機物と水を含むにも拘わらず、関連する学会では、ガラス、シリカ、シリカガラス、シリカ系ガラス、アモルファスシリカ、SiO等と呼ばれている。これは、作製した固体マトリックス中に、ケイ素が作る網目構造を修飾する他の金属イオンを持たないためである。そこで、本願明細書においても、ゾル−ゲル法で作製したケイ素を含むマトリックスをガラス、シリカ又はシリカガラスと呼ぶことがある。
【0007】
ゾル−ゲル法では、ガラスの原料としてアルコキシドを用いる。その中でも、ケイ素原子を含む4官能のアルコキシド(Si(OR)(Rは低級アルキル基等))が最も知られている。ここでSiの4つの結合手が全てアルコキシ基に繋がっているので、4官能のアルコキシドと呼ぶ。とくにRが全てメチル基であるものをテトラメチルオルソシリケート、Rが全てエチル基であるものをテトラエチルオルソシリケート(TEOS)と呼ぶ。ゾル−ゲル反応は、加水分解及び脱水縮合の2つの過程に分けられる。
【0008】
加水分解は、酸又はアルカリを触媒として行われ、アルコキシドは
Si(OR)4−n(OH)(n=1,2又は3)
の形となる。加水分解が進むとnが大きくなり、最も進むとSi(OH)となる。加水分解したアルコキシドは、次にお互いが脱水縮合を起こす。これによって、−Si−O−Si−というガラス網目構造が発達してガラスマトリックスになる。この方法によれば、室温付近でも反応方法を工夫すれば固体のガラスが得られる。
【0009】
一方、4官能でないアルコキシドとして、オルガノアルコキシシランと称される一群の化合物も知られている。これはシランカップリグ剤の一種であり、ケイ素を含む骨格構造をもち、そのケイ素の4つの結合手のうち少なくとも1つが炭素原子と結合している化合物であり、次の一般式
−Si(OR)4−n(n=1,2又は3)
で表される。この一般式で表される化合物の中でも、n=1のもの(3官能)が多く知られている。官能基Xとしては、ビニル基(CH=CH−)、エポキシ基(CCOの3員環を有する基)を含む基、アミノアルキル基(NH2m−;mは1〜6の整数)、メタクリル基(CHC(CH)CO−O−C2p−;pは1〜5の整数)、メルカプト基(HSC2q−;qは1〜10の整数)、フェニル基(C−)等が例示される。このなかでも特に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APS)、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)等が好適に用いられる。APS中のアミノ基、MPS中のメルカプト基等が金に配位することが知られており、これをプライマーとしてガラス層を成長させることが従来、行われてきた。
【0010】
ガラス層を成長させる方法としては、ストーバー法が知られている。これは、水とアルコールの存在下、アルカリ性でアルコキシドを加水分解し、核となる小さな塊(例えば金ナノ粒子)の上に、シリカガラス分子(モノマー、Si(OR)4−n(OH)(n=1,2又は3))を降り積もらせることで、ガラス粒子を得る方法である。
【0011】
金ナノ粒子は、例えばクエン酸を配位子として塩化金酸の還元によって作られる(非特許文献9)。これらをシリカガラスでコートする研究は、これまでも行われてきた。しかしながら、金属酸化物、半導体ナノ粒子等と違って、金は直接、シリカガラスでコートするのが難しいとされている。これは、ガラスと金属結晶の性質が大きく違って化学的な親和性に乏しいことが原因である。このため、通常は、金ナノ粒子の表面に直接4官能のシリコンアルコキシドを結合させる手法はとられていない。
【0012】
アミノ基等の官能基が金に親和性があることは知られている。そのため、このことを利用して、アミノ基等を含むオルガノアルコキシシランを金ナノ粒子の表面に付けた後で、4官能のシリコンアルコキシドを用いてガラスの層をつくる方法が良く知られている。このようなオルガノアルコキシシランは、プライマーと呼ばれる。他に、高分子のポリビニルピロリドンもプライマーとして使えることが知られている(非特許文献10)。
【0013】
ゾル−ゲル法で作製したガラスは多孔性を有するので、低分子分散液に浸漬するとガラスマトリックス中に低分子を浸透させることができる。このとき、表面にプライマーがあると、ナノ粒子表面に目的の分子を配置させることができない。金ナノ粒子同士が接合した部分は、特に電場勾配が急峻であるために、ラマン効果が強く出るという利点がある。しかし、表面にプライマーがあると、この電場が特に急峻な部分に目的の分子を配置できなくなる。また、プライマーには官能基があるので、目的の計測の妨げになることもある。
【0014】
そこで、プライマーなしで金ナノ粒子をガラスコートする研究も進んでいる。イングらは、金又は銀ナノ粒子を、逆ミセル法を用いて均一にガラスコートした(非特許文献11)。また、先に説明したストーバー法によっても、プライマーなしで金又は銀ナノ粒子をガラスコートできることが報告されている(非特許文献12、13及び14)。しかし、いずれの場合も金ナノ粒子は、平均直径が50ナノメートル程度の大きさである。この程度の大きさの場合は、個々の結晶面の性質に大きな違いがなくなるので、均一なコートを行いやすい。
【0015】
一方、金ナノ粒子の平均直径が40ナノメートル以下になると、表面の結晶面の性質に違いが現れ、ガラスコートされやすい面とされにくい面が現れる。平均直径が30ナノメートル以下になると、この性質が顕著になる。このため、この作製法を平均直径40ナノメートル以下の金ナノ粒子に適応するのは難しく、平均直径が30ナノメートル以下になるとさらに困難になる。
【0016】
一方、直径15ナノメートルの金ナノ粒子1個をガラスで直接コートする研究も行われた(非特許文献15)。しかし、作製されたガラスコート金ナノ粒子は、直径100ナノメートル程度であり、最小で73ナノメートル(シェル厚にして29ナノメートルと厚いガラス層で覆われている)と報告されている。また、金ナノ粒子を含まないガラスビーズも多数散見される。この程度の大きさの金ナノ粒子では、結晶面の性質がそれぞれに違っており、始めにガラスコートされる結晶面から横にかぶさるようにしてガラスコートされる面が広がっていくためである。なお、当該文献ではアルコキシドの添加速度についての記述はない。しかし、実際には、添加速度が速すぎることが原因で、ガラス層が一気に成長して厚くなり、また金ナノ粒子の表面に付かずにガラスだけで核形成、成長するものもあって、金ナノ粒子を含まないガラスビーズが成長すると解釈される。
【0017】
このように、平均直径40ナノメートル以下の金ナノ粒子の場合、薄いガラス層で覆う方法は開発されていなかった。また、特定の大きさの金ナノ粒子の1次元集合体(直線状または曲線状の集合体)を作製し、さらに薄いガラス層で固定する方法も知られていなかった。
【0018】
一方で近年、金属ナノ粒子と蛍光体間の相互作用による発光増強の研究が進んでいる。蛍光体が励起されたとき、近くに金属ナノ粒子があるとそのエネルギーが金属に移動して蛍光が消光される。一方、金属ナノ粒子が励起されたときには、近接場効果によって蛍光体も励起され、蛍光は増強される。金属ナノ粒子と蛍光体の距離がdのときの消光率PQ(d)と増強率PE(d)から、合計の蛍光強度Iは、金属ナノ粒子がない場合の蛍光強度をI0とすると、
I/I0= PQ(d)×PE(d)
と書ける。PQ(d)はdとともに急速に減衰し、PE(d)はdとともに増加するので、I/I0は特定のdで最大値を示す。このような蛍光強度の増大現象は蛍光波長域と金属の局在表面プラズモン波長域が重なっているほど著しくなるため、金属ナノ粒子の表面プラズモン増強効果と呼ばれることがある。
【0019】
例えば、金ナノ粒子を敷き詰めた平面に高分子を介して一定距離dだけ離して量子ドット(直径数ナノメートルの半導体結晶)を配置し、量子ドットからの蛍光強度を測定すると、距離dが10ナノメートル程度のときに蛍光強度が最大値を示すことが報告されている(非特許文献16)。このため、平面状でない場合にも、金ナノ粒子の近傍に量子ドットを適切に配置すれば蛍光増強効果が得られることが予想されるが、本願明細書が対象とする4官能のアルコキシドからなるガラスを使った材料での研究結果は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Xia, Y. N.; Yang, P. D.; Sun, Y. G.; Wu, Y. Y.; Mayers, B.; Gates, B.; Yin, Y. D.; Kim, F.; Yan, H. Q. Adv. Mater. 2003, 15, 353.
【非特許文献2】Daniel, M. C.; Astruc, D. Chem. Rev. 2004, 104, 293.
【非特許文献3】J. Turkevitch, Gold Bulletin, 1985, 18, 86.
【非特許文献4】Edit by Gunter Schmid, Chapter 3.2 in Nanoparticles from theory to applications, Wiley-VCH (2004).
【非特許文献5】Xu, J.; Li, S.; Weng, J.; Wang, X.; Zhou, Z.; Yang, K.; Liu, M.; Chen, X.; Cui, Q.; Cao, M.; Zhang, Q. Adv. Funct. Mater. 2008, 18, 277.
【非特許文献6】Xing, S.; Tan, L. H.; Yang, M.; Pan, M.; Lv, Y.; Tang, Q.; Yang, Y. Chen, H. J. Mater. Chem. 2009, 19,3286.
【非特許文献7】Yang, M.; Chen, G.; Zhao, Y.; Silber, G.; Wang, Y.; Xing, S.; Han, Y.; Chen, H. Phys. Chem. Chem. Phys., 2010, 12, 11850.
【非特許文献8】Zhang, Z.; Wu, Y. Langmuir, 2010, 26, 9214.
【非特許文献9】Ojea-Jimenez, I.; Romero, F. M.; Bastus, N. G.; Puntes, V. J. Phys. Chem. C 2010, 114, 1800.
【非特許文献10】Graf, C.; Vossen, D. L. J.; Imhof, A.; van Blaaderen, A. Langmuir 2003, 19, 6693.
【非特許文献11】Han, Y.; Jiang, J.; Lee, S. S.; Ying, J. Y., Langmuir 2008,24, 5842.
【非特許文献12】Graf, C.; van Blaaderen, A. Langmuir 2002, 18, 524.
【非特許文献13】Lu, Y.; Yin, Y.; Li, Z.-Y.; Xia, Y. Nano Lett. 2002, 2, 785.
【非特許文献14】Liu, S.; Han, M. Adv. Funct. Mater. 2005, 15, 961.
【非特許文献15】Mine, E.; Yamada, A.; Kobayashi, Y. Konno, M.; Liz-Marzan, L. M. J. Colloid Interface Sci. 2003, 264, 385.
【非特許文献16】Chan, Y.-H.; Jixin, C.;, Wark, S. E.; Skiles, S. L.; Son, D. H.; Batteas, J. D.; ACS Nano, 2009, 3, 1735.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、小さい粒径の金ナノ粒子を、プライマーを用いることなく、概略決まった数だけ線状に繋げてシリカガラスで固定したガラスコート金ナノ粒子とその作製法を提供することを目的とする。また、本発明は、1個の小さい粒径の金ナノ粒子を、プライマーを用いることなく、シリカガラスで固定したガラスコート金ナノ粒子とその作製法を提供することも目的とする。さらに、このような構造のガラスコート金ナノ粒子の近傍に蛍光体を配置して、蛍光増強効果を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、ストーバー法を用いたゾル−ゲル法でガラスコートする際において、アルコキシドを添加するスピードを変えることで形成されるガラスコート金ナノ粒子の形態を制御できることを見出し、上記課題を解決した。
【0023】
さらに、金ナノ粒子の周りにほぼ一定の厚みでガラスコートが出来ることを利用して、その表面に蛍光体を配置することができる。これにより、金ナノ粒子と蛍光体とで蛍光増強効果が得られることも見出した。
【0024】
即ち、本発明は、以下の項1〜19に係るガラスコート金ナノ粒子及びガラスコート金ナノ粒子の製造方法を包含する。
項1.金ナノ粒子及びシリカガラスを有するガラスコート金ナノ粒子であって、前記金ナノ粒子はシリカガラスで覆われており、前記金ナノ粒子の平均直径が2〜40ナノメートルであり、前記シリカガラスの平均シェル厚が25ナノメートル以下である、ガラスコート金ナノ粒子。
項2.前記金ナノ粒子の平均分散数が2個未満である項1に記載のガラスコート金ナノ粒子。
項3.項1又は2に記載のガラスコート金ナノ粒子及び金ナノ粒子を含まないガラス粒子の2種類を含むガラス粒子集合体であって、前記金ナノ粒子を含まないガラス粒子の割合が5%以下である、ガラス粒子集合体。
項4.前記金ナノ粒子の平均分散数が2個以上3個未満であり、且つ、隣接する2個の金ナノ粒子間の平均間隔が2ナノメートル以下である、項1に記載のガラスコート金ナノ粒子。
項5.前記金ナノ粒子の平均分散数が3個以上であり、該3個以上の金ナノ粒子が線状に配置されており、且つ、隣接する2個の金ナノ粒子間の平均間隔が2ナノメートル以下である、項1に記載のガラスコート金ナノ粒子。
項6.前記金ナノ粒子の表面に直接4官能のシリコンアルコキシドが結合している、項1〜5のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子。
項7.前記シリカガラス上に、さらに、1個又は複数個の蛍光体が配置されている、項1〜6のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子。
項8.前記1個又は複数個の蛍光体を覆うように、さらに、別途シリカガラスが形成されている、項7に記載のガラスコート金ナノ粒子。
項9.前記蛍光体が量子ドットである、項7又は8に記載のガラスコート金ナノ粒子。
項10.前記蛍光体と金ナノ粒子の間に位置するシリカガラスシェルの平均厚みが3〜20ナノメートルである項7〜9のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子。
項11.前記蛍光体を複数個有し、且つ、該蛍光体が同心円状に配置されている、項7〜10のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子。
項12.項1〜6のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.001/(C×V)〜0.03/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加する工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
項13.前記金ナノ粒子の表面に直接4官能のシリコンアルコキシドを結合させる、項12に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
項14.項2又は3に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.015/(C×V)〜0.03/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加する工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
項15.項4に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.007/(C×V)〜0.015/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加する工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
項16.項5に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.001/(C×V)〜0.007/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加する工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
項17.項7〜11のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
疎水性の蛍光体の表面を、部分的に加水分解したアルコキシドで置換する工程、及び
部分的に加水分解したアルコキシドで置換された蛍光体を、ガラスコート金ナノ粒子分散水溶液に接触させる工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
項18.前記ガラスコート金ナノ粒子分散液は、平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.001/(C×V)〜0.03/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加することにより得られる、項17に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
項19.部分的に加水分解したアルコキシドが、アミノ基又はチオール基を含む、項17又は18に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、粒径が小さくてシリカガラスへの親和性に違いがある複数の結晶面を持つ金ナノ粒子が薄いシリカガラスでコートされ、さらに線状(直線状又は曲線状)に繋がった形態をガラスマトリックスで固定化することができる。これらガラスコート金ナノ粒子は、ガラスの持つ形状安定性及び多孔性を生かし、高いラマン効果等の光学効果、触媒活性等の機能が期待される。
【0026】
なお、金ナノ粒子が直接シリカガラスで覆われていることは、分析電子顕微鏡による該当部分の解析によってケイ素と酸素が含まれることから確認することができる。また、試料を真空乾燥して粉体にした後に、粉末X線回折(CuのKα線、1.5406オングストロームを照射)によって角度(2θ)が23度の付近に半値全幅5度もしくはそれ以上の広い回折ピークが現れることからも確認できる。
【0027】
さらに、金ナノ粒子を所望の厚みのシリカガラスで覆うことが出来るので、このシリカガラス表面に蛍光体を配置することで、金ナノ粒子の表面プラズモンによる蛍光増強効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1で作製したガラスコート金ナノ粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図2】金ナノ粒子分散液と実施例1で作製した試料3の概観写真である。
【図3】金ナノ粒子分散液と実施例1で作製した試料3の光吸収スペクトルである。
【図4】実施例3で作製した3種類((a)、(b)及び(c))のガラスコート金ナノ粒子の透過電子顕微鏡写真である。
【図5】量子ドット−ガラスコート金ナノ粒子(図4の(b)を使用)の透過電子顕微鏡写真である。
【図6】3種類(図4の(a)、(b)及び(c))から作製した量子ドット−ガラスコート金ナノ粒子の蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0030】
I.ガラスコート金ナノ粒子
本発明のガラスコート金ナノ粒子は、平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子が、平均シェル厚25ナノメートル以下のシリカガラスで直接覆われている。
【0031】
金ナノ粒子の平均直径は、2〜40ナノメートル、好ましくは10〜20ナノメートルである。金ナノ粒子の平均直径が40ナノメートルをこえる場合には、バイオ用途で生体中の特定物質をラマン散乱スペクトルで同定したい場合には、全体のサイズが大きすぎて不都合である。また、一般に、全体のサイズが小さいほど、比表面積が増えて光学測定における感度が上昇する。一方で、平均直径が2ナノメートル未満の金ナノ粒子を作製するのは困難である。
【0032】
本発明のガラスコート金ナノ粒子において、金ナノ粒子が覆われているシリカガラスの平均シェル厚は25ナノメートル以下、好ましくは1〜15ナノメートルである。シリカガラスの平均シェル厚が25ナノメートルをこえる場合には、金ナノ粒子が40ナノメートル以上である場合と同様に、やはりバイオ用途では不具合が生じる。また、触媒やラマン散乱計測のために目的の物質をガラスに浸み込ませて金ナノ粒子近傍に配置する場合にも、ガラス層が厚すぎることが問題となる。
【0033】
本発明のガラスコート金ナノ粒子において、金ナノ粒子は、プライマーを介することなく、直接シリカガラスで覆われており、特に、金ナノ粒子の表面に、直接4官能のシリコンアルコキシドが結合していることが好ましい。このように、プライマーを介さないことにより、金ナノ粒子同士が接合した部分は、特に電場勾配が急峻であるために、ラマン効果が強く出る。そのため、高いラマン効果等の光学効果が期待できる。このような効果は、隣接する2個の金ナノ粒子間の平均間隔が2ナノメートル以下である場合に特に顕著である。
【0034】
II.蛍光体−ガラスコート金ナノ粒子の種類と構造
本発明では、金ナノ粒子が、所望の厚みのシリカガラスで覆われているので、このシリカガラス表面に蛍光体を配置することができる。これにより、金ナノ粒子の表面プラズモンによる蛍光増強効果が得られる。
【0035】
ここで、蛍光体を俯瞰すると、大きく分けて有機色素、遷移元素(遷移金属及び希土類元素)のイオン及び量子ドットの3種類である。本発明では、このうちのどの蛍光体も用いることができる。但し、蛍光波長域と金属の局在表面プラズモン波長域が重なっているほど蛍光増強効果は著しくなる。この効果を得るためには、上記のガラスコート金ナノ粒子のシリカガラス表面に蛍光体を配置すればよい。蛍光増強効果を得るために適切なシリカガラスの厚みは、蛍光体の種類によって変わるが概略3〜20ナノメートルが好ましく、5〜15ナノメートルがさらに好ましく、7〜12ナノメートルが最も好ましい。
【0036】
上記のように、蛍光体が配置されている場合、当該蛍光体を覆うように、さらに、別途シリカガラスが形成されていてもよい。当該シリカガラスの平均シェル厚は10ナノメートル以下、特に2〜6ナノメートルとするのが好ましい。シリカガラスの平均シェル厚が10ナノメートルをこえる場合には、金ナノ粒子が40ナノメートル以上である場合と同様に、やはりバイオ用途では不具合が生じる。また、触媒やラマン散乱計測のために目的の物質をガラスに浸み込ませて金ナノ粒子近傍に配置する場合にも、ガラス層が厚すぎることが問題となる。
【0037】
III.ガラスコート金ナノ粒子の作製
本発明のガラスコート金ナノ粒子は、金ナノ粒子の作製及びガラスコート金ナノ粒子の作製を経て作製されるので、以下その工程を説明する。
【0038】
(1)金ナノ粒子の作製
本発明が対象とする金ナノ粒子は、平均直径2〜40ナノメートルであり、コロイド法によって作製される(たとえば非特許文献9)。また、ロッド状の金の作製法(K. Esumi, K. Matsuhisa, K. Torigoe, Langmuir, 11, 3285(1995). )も知られている。本明細書で金ナノ粒子の直径といった場合、球形でない場合には、3つの慣性主軸方向の大きさの平均値を表すものとする。
【0039】
(2)ガラスコート金ナノ粒子の作製
この工程では、4官能のシリコンアルコキシドを用い、ストーバー法によって金ナノ粒子にガラスコートする。
【0040】
本発明で使用されるシリコンアルコキシドは、一般式(1):
Si(OR)
(式中、Rは低級アルキル基、特に炭素数1〜5のアルキル基である)
で表されるものが好ましい。具体的には、Rが全てメチル基であるテトラメチルオルソシリケート、Rが全てエチル基であるテトラエチルオルソシリケート(TEOS)等を好ましく使用することができる。
【0041】
この工程においては、酸又はアルカリを触媒として加水分解が行われる。この際、シリコンアルコキシドは、一般式(2):
Si(OR)4−n(OH)
(式中、Rは式(1)と同じ;n=1,2又は3である)
の形となる。加水分解が進むとnが大きくなり、最も進むとSi(OH)となる。加水分解したシリコンアルコキシドは、次にお互いが脱水縮合を起こす。これによって、−Si−O−Si−というガラス網目構造が発達してガラスマトリックスになる。この方法によれば、室温付近でも反応方法を工夫すれば固体のガラスが得られる。
【0042】
酸とアルカリの2種類の触媒のうち、アルカリ性の場合はアンモニアを用いることができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のC1−4のアルコールが挙げられる。使用する金属アルコキシドのアルコキシドに対応する炭素数のアルコールを用いることが好ましい。例えば、金属アルコキシドとしてTEOSを用いる場合、アルコールとしてエタノールを用いると良い。
【0043】
なお、4官能でないアルコキシドとして、一般式(3):
−Si(OR)4−n
(式中、Xはビニル基(CH=CH−)、エポキシ基(CCOの3員環を有する基)を含む基、アミノアルキル基(NH2m−;mは1〜6の整数)、メタクリル基(CHC(CH)CO−O−C2p−;pは1〜5の整数)、メルカプト基(HSC2q−;qは1〜10の整数)又はフェニル基(C−);n=1,2又は3である)で表されるオルガノアルコキシシランも知られている。しかし、本発明において、金ナノ粒子を覆うためのシリカガラスを形成する用途としては、オルガノアルコキシシランは使用しない。オルガノアルコキシシランを使用して金ナノ粒子の表面にプライマーを形成すると、優れたラマン効果等が得られないからである。
【0044】
この工程では、例えば以下の手順で合成を進めることができる。
【0045】
金ナノ粒子を0.1マイクロモル/リットルの濃度で分散した分散液1ミリリットルに、アルコール1〜30ミリリットル(さらに好ましくは2〜20ミリリットル、最も好ましくは5〜12ミリリットル)、アンモニア水(25重量%)5〜800マイクロリットル(さらに好ましくは10〜500マイクロリットル、最も好ましくは50〜200マイクロリットル)を加える。アルコールとしては、エタノール、メタノール、イソプロパノールが例示される。金ナノ粒子の濃度C(マイクロモル/リットル)又は容量V(ミリリットル)が変わった場合は、それに比例してアルコールとアンモニア水の容量を変えればよい。また、アンモニア水の濃度を変える場合には、アンモニア水の量は、溶解しているアンモニアの量が同程度となるように調整すればよい。この溶液を激しく攪拌しつつ、あらかじめ決めた速度P(マイクロモル/リットル)で4官能のシリコンアルコキシドを添加する。
【0046】
本発明では、ゾル−ゲル法でガラスコートする際において、シリコンアルコキシドを添加するスピードPを変えることで形成されるガラスコート金ナノ粒子の形態を制御できる。
【0047】
スピードPは、以下に説明するように、金ナノ粒子の形態によって3つの場合(P1、P2、P3、但しP1>P2>P3)に分類されるので、適切なスピードを選択すればよい。いずれの場合も、金ナノ粒子はまずストーバー法によってシリカガラス分子で直接に覆われ、その上に、同じシリカガラスが堆積し、シリカガラス層となる。
【0048】
本発明では、金ナノ粒子分散液にアルコールとアンモニア水とを添加し、激しく攪拌しつつ、4官能のシリコンアルコキシドを添加し、ゾルゲル反応を起こさせる。添加スピードが速い(スピードP1)と、金ナノ粒子はすぐにシリカガラスで覆われ、平均して2個未満、特に0.9個以上2個未満、さらには1個以上2個未満の金ナノ粒子を含んだガラスビーズが形成される。しかし、添加スピードが後述するP1の上限よりもさらに速いと、金ナノ粒子を含まないガラス粒子も同時に多数形成され、また、金ナノ粒子の周りのシリカガラス層が厚くなり、シェル厚を25ナノメートル以下とするのは困難となる。
【0049】
添加スピードが中くらい(スピードP2)の場合は、まず金ナノ粒子の結晶面のうちガラスへの親和性が高い面がコートされ、同時に金ナノ粒子同士が接合して線上に繋がり始める。添加スピードが後述のP3よりは速いので、平均して2個以上3個未満の金ナノ粒子が繋がった形態となる。なお、2個の金ナノ粒子が繋がった形態のものをダイマー、3個の金ナノ粒子が繋がった形態のものをトライマーと呼ぶ。これらの形態ができたのち、その上にさらにシリカガラス分子が堆積することで、その形状が固定される。これにより、ガラスコート金ナノ粒子中に存在する金ナノ粒子は、隣接する2個の金ナノ粒子間の間隔が2ナノメートル以下となる。
【0050】
添加スピードが遅い(スピードP3)場合は、金ナノ粒子の線状(直線状又は曲線状の1次元の繋がり)結合が伸び、3個以上の金ナノ粒子が繋がった構造が形成される。その後、この上にシリカガラス分子が堆積し、線状に繋がった金ナノ粒子の形状が固定される。これにより、ガラスコート金ナノ粒子中に存在する金ナノ粒子は、3個以上が線状に繋がり、且つ、隣接する2個の金ナノ粒子間の間隔が2ナノメートル以下となる。なお、金ナノ粒子は、直線状に繋がっていてもよいし、曲線状に繋がっていてもよい。
【0051】
ここで、アルコキシドの添加スピードP(マイクロリットル/分)は、金ナノ粒子の濃度C(モル/リットル)と全体の溶液量V(ミリリットル、金ナノ粒子分散液にアルコールとアンモニア水溶液を加えた量)で規格化して以下のように一般化することができる。P、C、Vは、それぞれ括弧の中に示した単位で表したときの数値である。
【0052】
本発明で目的とするガラスコート金ナノ粒子を製造するためには、シリコンアルコキシドの添加スピードPを0.001<P/CV<0.03とするのが良い。添加スピードPが速すぎると金ナノ粒子を含まないガラス粒子が同時に多数形成され、また、金ナノ粒子の周りのシリカガラス層が厚くなり、シェル厚を25ナノメートル以下とするのが困難となる。また、添加スピードPが遅すぎると、凝集・沈殿が生じ易くなると言う問題点がある。得ようとするガラスコート金ナノ粒子の形態に応じて、後述する3つ(P1、P2、P3)のいずれかを採用すればよい。
【0053】
P1は0.015<P1/CV<0.03とするのが良く、0.016<P1/CV<0.028とするのがさらに好ましく、0.018<P1/CV<0.025とするのが最も良い。
【0054】
P2は0.007<P2/CV<0.015とするのが良く、0.008<P2/CV<0.013とするのがさらに好ましく、0.009<P2/CV<0.012とするのが最も良い。
【0055】
P3は0.001<P3/CV<0.007とするのが良く、0.002<P3/CV<0.0065とするのがさらに好ましく、0.003<P3/CV<0.006とするのが最も良い。
【0056】
このように、シリコンアルコキシドの添加スピードを制御することで、粒径の小さい金ナノ粒子を、薄いシリカガラス層で覆うことができ、しかも、ガラスコート金ナノ粒子中の金ナノ粒子の数を制御することができる。
【0057】
IV.蛍光体−ガラスコート金ナノ粒子の作製
蛍光体は、吸着や化学結合によってガラスコート金ナノ粒子の表面に接着させて、目的のナノ構造物とすることができる。
【0058】
上述の方法で作製されたガラスコート金ナノ粒子は、作製直後はOH基を表面に有するため、親水性である。このOH基は、中性領域ではマイナスに帯電している。このため、プラスに帯電した蛍光体を添加すれば容易に接着する。一例として、疎水性の量子ドットの表面を、加水分解したアルコキシドに疎水性溶媒中で置換し、さらに水に分散したガラスコート金ナノ粒子と接触させる手法がある。このとき、部分的に加水分解したアルコキシドは水相に移動するため、容易にガラスコート金ナノ粒子に吸着する。この際、アルコキシドとして、上述のオルガノアルコキシシラン(好ましくはアミノ基又はチオール基を有するもの、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APS))を使用すれば、当該オルガノアルコキシシラン中の官能基(アミノ基等)は中性領域でプラスに帯電するため、さらに容易に、蛍光体をガラスコート金ナノ粒子に吸着させることができる。このとき、加水分解したアルコキシドとガラスコート金ナノ粒子表面のOH基が脱水縮合して、Si−O−Siのガラス網目構造の形成も伴うことがある。
【0059】
さらに、上述の4官能のシリコンアルコキシド又はオルガノアルコキシシランを用いて従来のストーバー法により、さらに別途シリカガラス層を、蛍光体を覆うように形成させることもできる。使用目的に応じて、例えば抗体に接着したい場合には、チオール基、アミノ基、またはカルボキシル基を有するオルガノアルコキシシランを用いれば良い。
【0060】
また、上記と同様に、量子ドットの替わりにアミノ基を有する色素をガラスコート金ナノ粒子に吸着させることも可能である。
【0061】
V.ガラスコート金ナノ粒子の用途
このようにして作製されたガラスコート金ナノ粒子は、ラマン散乱用の媒体、触媒の担体等に用いられる。このような金ナノ粒子とその集合体の各種の応用の可能性については、総説(R. Jin, Angew. Chem. Int. Ed., 49, 2829 (2010))に詳しく解説されている。
【0062】
VI.ガラスコート金ナノ粒子の評価
金ナノ粒子の粒径は、金ナノ粒子の合成条件でほぼ決定されるが、透過電子顕微鏡によって確かめられる。金ナノ粒子分散液中の金ナノ粒子の濃度も合成条件でほぼ決定されるが、溶液を蒸発させて重量測定して、粒径と比較することで確かめられる。また、金ナノ粒子のモル吸光係数を用いて、表面プラズモンピーク(直径10ナノメートル程度では、500ナノメートル付近に現れる)の吸光係数から求めることができる。
【0063】
ガラスコート金ナノ粒子の形態、中に含まれる金ナノ粒子の分散数と分散状態も、透過電子顕微鏡観察により確かめられる。金の電子線散乱能が高いので、加速電圧100キロボルトでも観察が可能である。より詳細な分散状態の観察のためには、加速電圧300キロボルトの電顕を用いるのが良い。
【0064】
金ナノ粒子は、1次元に繋がると水溶液の吸収スペクトルが長波長側にシフトする。このシフトの程度から、金の分散状態を知ることができる。また、水溶液の色が深い赤色から紫色に変化するので、概略については目視でも確認ができる。
【0065】
当該ガラスコート金ナノ粒子は、金表面にプライマーがないので、硫黄や窒素を含有しない。このため、試料全体の化学分析や、金表面の分析電顕による解析でプライマーがないことの指針を得ることができる。
【0066】
VII.蛍光体−ガラスコート金ナノ粒子の評価と用途
作製したナノ構造体(蛍光体を有するガラスコート金ナノ粒子)は、分散させる蛍光体の濃度を一定にして蛍光強度を比較することで、プラズモン共鳴による増強効果の有無を判定することが出来る。蛍光体として量子ドットを用いる場合は、蛍光体の数や分布を透過型電子顕微鏡で直接に観察できる。
【0067】
ナノ構造体の全体のサイズは50ナノメートル程度にできるから、その表面にカルボキシル基、アミノ基、チオール基等をとりつけることで抗体に感作させ、目的の生体物質に結合させることが出来る。このようにすることで、従来よりも輝度が高く耐久性のある蛍光試薬として用いることが出来る。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0069】
実施例1
金ナノ粒子の合成
クエン酸ナトリウム(90ミリグラム)を100ミリリットルの純水に激しく攪拌しながら添加し、100℃に加熱して溶液Aとする。塩化金酸(濃度50ミリモル/リットル)を1ミリグラム取り出し、0.2ミリリットル/分の速度で溶液Aに注入する。この状態で3分放置したのち、室温に戻した。限外濾過フィルター(3000−MWCO)を用いて、遠心分離(4800g)によって3回濃縮することで未反応物を取り除いた。これにより、平均粒径11ナノメートルの金ナノ粒子分散液が作製された。
【0070】
ガラスコート金ナノ粒子の合成と評価
上記で作製した金ナノ粒子分散液の濃度を0.1マイクロモル/リットルに調整した。8ミリリットルのエタノールおよび0.1ミリリットルのアンモニア水(重量濃度25%)の混合液を激しく攪拌しながら、上記の金ナノ粒子分散液1ミリリットルを加えた。この状態で、シリコンアルコキシド(TEOS)を加えた。このときの添加速度と合計の添加量、作製されたガラス粒子中の金ナノ粒子の分散数、分散形態を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
分散形態は、透過電子顕微鏡(加速電圧100キロボルト)によって観察した。このように、TEOSの添加スピードによって、ガラス粒子中の金ナノ粒子の分散数を制御することができた。
【0073】
実施例2
実施例1で作製したガラスコート金ナノ粒子のうち、試料2、3、4、6、7、8及び9を透過電子顕微鏡で詳細に観察した。撮影した電顕像を、図1に示す。それぞれ、ダイマー、トライマー、4つ以上の金ナノ粒子集合体、単一金ナノ粒子含有ガラス粒子の様子がわかる。この場合のシリカガラスの平均シェル厚は、順に14ナノメートル、14ナノメートル、22ナノメートル、11ナノメートル、3ナノメートル、9ナノメートル、19ナノメートルであった。表面に直接ガラス分子がつくので、2個以上の金ナノ粒子を含む場合(試料2、3、4)、隣接する2個の金ナノ粒子間の間隔は2ナノメートル以下であることがわかる。また、1個の金粒子が含まれる場合(試料6、7、8、9)、シリカガラスだけが核形成、成長したもの(金ナノ粒子を含まないもの)は、存在しないことがわかる。これは、シリコンアルコキシドの添加速度や添加量が適切に制御されたためである。
【0074】
試料3及び金ナノ粒子のみの分散液の写真を図2に示す。金ナノ粒子が繋がると、赤色から薄紫色になることがわかる。この試料の光吸収スペクトルを測定すると、図3のようになった。金ナノ粒子が繋がると、長波長の光吸収成分が増えることがわかる。
【0075】
実施例3
実施例1と同様の方法で、添加するTEOSの量をそれぞれ3、5、9マイクロリットルとすることで、3種類のガラスコート金ナノ粒子を作製した((a)、(b)、(c)の3つのビーズ)。TEOSの添加速度は、いずれも0.2マイクロリットル/秒とした。これらは、実施例1における試料7〜9と同じ条件である。このときの透過電子顕微鏡による観察像を図4に示す。図4において、左上に付されている符号((a)、(b)及び(c))は、それぞれ試料(a)、(b)及び(c)を示す。ガラス層の厚みは、ビーズ(a)〜(c)でそれぞれ5、12.5、20ナノメートルである。
【0076】
次にエタノール、水及びAPSを混合した。それぞれのモル比は30:1.5:1とした。これを室温で20時間攪拌後、60℃程度に加熱してエタノールを蒸発させることでAPSゾルを得た。このAPSゾル0.3ミリリットルをトルエン分散したCdSe/ZnS量子ドット(0.5ミリリットル)に添加し、7分間攪拌した。この段階で、量子ドット表面は、加水分解したAPSに置換される。さらに、先に作製したガラスコート金ナノ粒子水溶液0.3ミリリットル(ビーズ(a)、(b)、(c)の3種類、金ナノ粒子の濃度1ナノモル/リットル)を添加し、10分間攪拌した。これにより、量子ドットは水に転換し、ガラスコート金ナノ粒子表面に付着した。この水溶液を14500回転/分、2分の条件で3回遠心することで精製した。
【0077】
作製した量子ドット−ガラスコート金ナノ粒子の透過電子顕微鏡像をビーズ(b)の場合について図5に示す。量子ドットがガラスビーズの周りに付加していることがわかる。
【0078】
さらに、3つのビーズの量子ドット付加後の蛍光スペクトルを図6に示す。ビーズ(b)から作製した量子ドット−ガラスコート金ナノ粒子が最も蛍光強度が高いことがわかる。また、ビーズ(c)から作製したものは、量子ドットのみの場合と発光強度が同じであった。このことから、量子ドットと金ナノ粒子の距離が12.5ナノメートルの時には、特に優れた蛍光強度増強効果が見られることがわかった。
【0079】
実施例4
実施例1の試料3及び4のように、4つ以上の金ナノ粒子を含有するガラス粒子においても、実施例3と同様の方法で量子ドットをガラス粒子表面に付加できた。さらに、実施例3と同様に、通常のストーバー法により、エタノールと水を含むTEOSのアルカリ性領域での加水分解により量子ドット表面にシリカガラス層を付加できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金ナノ粒子及びシリカガラスを有するガラスコート金ナノ粒子であって、前記金ナノ粒子はシリカガラスで覆われており、前記金ナノ粒子の平均直径が2〜40ナノメートルであり、前記シリカガラスの平均シェル厚が25ナノメートル以下である、ガラスコート金ナノ粒子。
【請求項2】
前記金ナノ粒子の平均分散数が2個未満である請求項1に記載のガラスコート金ナノ粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラスコート金ナノ粒子及び金ナノ粒子を含まないガラス粒子の2種類を含むガラス粒子集合体であって、前記金ナノ粒子を含まないガラス粒子の割合が5%以下である、ガラス粒子集合体。
【請求項4】
前記金ナノ粒子の平均分散数が2個以上3個未満であり、且つ、隣接する2個の金ナノ粒子間の平均間隔が2ナノメートル以下である、請求項1に記載のガラスコート金ナノ粒子。
【請求項5】
前記金ナノ粒子の平均分散数が3個以上であり、該3個以上の金ナノ粒子が線状に配置されており、且つ、隣接する2個の金ナノ粒子間の平均間隔が2ナノメートル以下である、請求項1に記載のガラスコート金ナノ粒子。
【請求項6】
前記金ナノ粒子の表面に直接4官能のシリコンアルコキシドが結合している、請求項1〜5のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子。
【請求項7】
前記シリカガラス上に、さらに、1個又は複数個の蛍光体が配置されている、請求項1〜6のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子。
【請求項8】
前記1個又は複数個の蛍光体を覆うように、さらに、別途シリカガラスが形成されている、請求項7に記載のガラスコート金ナノ粒子。
【請求項9】
前記蛍光体が量子ドットである、請求項7又は8に記載のガラスコート金ナノ粒子。
【請求項10】
前記蛍光体と金ナノ粒子の間に位置するシリカガラスシェルの平均厚みが3〜20ナノメートルである請求項7〜9のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子。
【請求項11】
前記蛍光体を複数個有し、且つ、該複数個の蛍光体が同心円状に配置されている、請求項7〜10のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.001/(C×V)〜0.03/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加する工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
前記金ナノ粒子の表面に直接4官能のシリコンアルコキシドを結合させる、請求項12に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
請求項2又は3に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.015/(C×V)〜0.03/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加する工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項4に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.007/(C×V)〜0.015/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加する工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
【請求項16】
請求項5に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.001/(C×V)〜0.007/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加する工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
【請求項17】
請求項7〜11のいずれかに記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法であって、
疎水性の蛍光体の表面を、部分的に加水分解したアルコキシドで置換する工程、及び
前記部分的に加水分解したアルコキシドで置換された蛍光体を、ガラスコート金ナノ粒子分散水溶液に接触させる工程
を備える、ガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
【請求項18】
前記ガラスコート金ナノ粒子分散液は、平均直径2〜40ナノメートルの金ナノ粒子を、濃度C(マイクロモル/リットル)で含有する容量V(ミリリットル)の分散液に、4官能のシリコンアルコキシドを0.001/(C×V)〜0.03/(C×V)マイクロリットル/分の速度で添加することにより得られる、請求項17に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法。
【請求項19】
部分的に加水分解したアルコキシドが、アミノ基又はチオール基を含む、請求項17又は18に記載のガラスコート金ナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−140697(P2012−140697A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141370(P2011−141370)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人科学技術振興機構「In vivoナノイメージング技術の開発と生体運動機構の解明」中の「多粒子量子ドットの合成」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】