説明

ガラスセラミックス、及びその製造方法

【課題】優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れた光触媒機能性素材を提供する。
【解決手段】 酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、B成分5〜90%及びTiO成分5〜85%を含有し、TiO成分に対するBi成分の比(Bi/TiO)が0.12未満(ただし、Biの含有量が0の場合を含む)であり、かつ、TiOの結晶相を含有するガラスセラミックス、及びこのガラスセラミックスからなる光触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンのように光触媒活性を有する物質(以下、「光触媒」と記すことがある)は、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子や正孔を生成するため、光触媒を含む成形体の表面近傍において、酸化還元反応が強く促進される。また、光触媒を含む成形体の表面は、水に濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
ところで、光触媒を基材に担持させる手法として、基材の表面に光触媒を含む膜を成膜する技術や、光触媒を基材中に含ませる技術などが検討されている。基材の表面に光触媒を含む膜を成膜する方法としては、塗布によって塗布膜を形成する塗布法のほか、スパッタリング、蒸着、ゾルゲル、CVD(化学気相成長)等の方法が知られている。例えば、特許文献1では、基材の表面に無機チタン化合物層を形成するために用いられる塗布剤として、合成樹脂を分散相とする水性エマルジョンに高濃度の無機チタン化合物が含まれた光触媒性塗布剤が提案されている。
【0004】
一方、光触媒を基材中に含ませる技術として、例えば特許文献2では、SiO、Al、CaO、MgO、B、ZrO、及びTiOの各成分を所定量含有する光触媒用ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−81712号公報
【特許文献2】特開平9−315837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、多くの従来技術では、基材の表面に光触媒を含む膜を成膜することによって、光触媒を担持させるという考え方を採用している。しかし、このような考え方に立脚する手法に共通の課題として、基材と光触媒を含む膜との密着性および膜自体の耐久性を確保することが難しい点が挙げられる。つまり、これらの手法で製造された光触媒機能性製品は、光触媒を含む膜が基材から剥離したり、膜が劣化して光触媒機能が損なわれたりするおそれがある。例えば特許文献1のように、塗料を用いて塗布膜を形成した場合、塗布膜に残留している樹脂や有機バインダーが、紫外線等によって分解されたり、光触媒の触媒作用で酸化還元されたりする結果、塗布膜が経時的に劣化しやすく、耐久性が十分ではないという問題があった。また、膜中に担持させた光触媒の活性を十分に引き出すためには、光触媒をナノサイズの超微粒子に加工する必要があるが、ナノサイズの超微粒子は作製コストが高くなるとともに、表面エネルギーの増大によって凝集しやすくなり、取り扱いが難しいという問題点があった。
【0007】
一方、特許文献2で開示される光触媒用ガラスは、ガラス中に酸化チタンを含有させている点で他の従来技術とは考え方を異にしている。しかし、特許文献2の技術では、光触媒である酸化チタンは結晶構造を有しておらず、アモルファスの形でガラス中に存在するため、その光触媒活性が弱く、不充分であった。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れた光触媒機能性素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ガラス中に酸化チタンおよび/またはその固溶体を含む結晶相を生じさせることにより、ガラスセラミックス自体を光触媒として利用できること、さらに、このガラスセラミックスから優れた光触媒機能を有する素材および製品を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(28)に存する。
【0010】
(1)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
成分 5〜90%及び
TiO成分 5〜85%を含有し、
TiO成分に対するBi成分の比(Bi/TiO)が0.12未満(ただし、Biの含有量が0の場合を含む)、
かつ、TiOの結晶相を含有するガラスセラミックス。
【0011】
(2)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、RO成分(ここで、Rは、Li、Na及びKからなる群より選ばれる1種以上を意味する)を0〜50%含有する上記(1)に記載のガラスセラミックス。
【0012】
(3)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、RnO成分(ここで、Rnは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる1種以上を意味する)を0〜50%含有する上記(1)または(2)に記載のガラスセラミックス。
【0013】
(4)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、SiO成分を0〜50%含有する上記(1)から(3)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0014】
(5)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Al成分を0〜30%含有する上記(1)から(4)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0015】
(6)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、P成分を0〜10%含有する上記(1)から(5)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0016】
(7)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
GeO成分 0〜20%、及び/又は
Ga成分 0〜20%、及び/又は
In成分 0〜10%、及び/又は
SnO成分 0〜10%、及び/又は
ZrO成分 0〜10%、及び/又は
TeO成分 0〜20%、及び/又は
Nb成分 0〜20%、及び/又は
Ta成分 0〜20%、及び/又は
WO成分 0〜20%、及び/又は
MoO成分 0〜20%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分 合計で0〜5%
の各成分を含有する上記(1)から(6)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0017】
(8)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上を意味し、Ceを除く各成分についてはa=2且つb=3であり、Ceについてはa=1且つb=2である)を合計で0〜10%含有する上記(1)から(7)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0018】
(9)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、M成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される1種以上とし、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする)を合計で0〜10%含有する上記(1)から(8)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0019】
(10)F、Cl、及びBrからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で15%以下含有する上記(1)から(9)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0020】
(11)Cu、Ag、Au、Pd、及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で5%以下含有する上記(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0021】
(12)紫外領域から可視領域までの波長の光によって光触媒活性が発現される上記(1)から(11)のいずれかに記載のガラスセラミッククス。
【0022】
(13)JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上である上記(12)に記載のガラスセラミックス。
【0023】
(14)紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である上記(1)から(13)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0024】
(15)上記(1)から(14)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含む光触媒機能性ガラスセラミックス成形体。
【0025】
(16)上記(1)から(14)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含む親水性ガラスセラミックス成形体。
【0026】
(17)上記(1)から(14)のいずれかに記載のガラスセラミックスからなる光触媒。
【0027】
(18)ファイバー又はビーズの形状を有する上記(17)に記載の光触媒。
【0028】
(19)上記(17)または(18)に記載の光触媒を含む光触媒材料。
【0029】
(20)上記(17)または(18)に記載の光触媒体を含む光触媒部材。
【0030】
(21)上記(17)または(18)に記載の光触媒を含む親水性材料。
【0031】
(22)上記(17)または(18)のいずれかに記載の光触媒を含む親水性部材。
【0032】
(23)上記(17)または(18)のいずれかに記載の光触媒を含有する塗料、浄化装置、又はフィルタ。
【0033】
(24)上記(1)から(14)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料の混合物を1200℃以上の温度に保持して溶融し、その後冷却して固化させてガラスセラミックスを得るガラスセラミックスの製造方法。
【0034】
(25)前記ガラスセラミックスに対して、さらに熱処理を行う上記(24)に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【0035】
(26)上記(1)から(14)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、
前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させてガラスセラミックスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【0036】
(27)前記結晶化温度領域は、400℃以上1000℃以下である上記(26)に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【0037】
(28)前記ガラスセラミックスに対してドライエッチング及び/又はウェットエッチングを行うエッチング工程をさらに有する上記(24)から(27)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0038】
本発明のガラスセラミックスは、その内部および表面に光触媒活性を持つ酸化チタンおよび/またはその固溶体の結晶相が均質に存在しているため、優れた光触媒活性と可視光応答性を有する。また、仮に表面が削られても性能の低下が少なく、極めて耐久性に優れたものである。また、本発明のガラスセラミックスは、大きさや形状などを加工する場合の自由度が高く、光触媒機能が要求される様々な物品に利用できる。従って、本発明のガラスセラミックスは、光触媒機能性素材として有用である。
【0039】
また、本発明のガラスセラミックスの製造方法によれば、原料の配合組成と熱処理温度の制御によってガラス中に酸化チタンおよび/またはその固溶体の結晶相を生成させることができるため、特殊な設備を用いることなく、優れた光触媒活性と可視光応答性を備え、光触媒機能性素材として有用なガラスセラミックスを工業的規模で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1及び2のガラスセラミックスについてのXRDパターンである。
【図2】実施例24から27のガラスセラミックスについてのXRDパターンである。
【図3】実施例1で熱処理温度を変えた場合のXRDパターンである。
【図4】実施例1で、熱処理温度とアナターゼ型TiO結晶のサイズとの関係をプロットしたグラフである。
【図5】実施例26のガラスセラミックスについてのXRDパターンである。
【図6】実施例1のガラスセラミックスを用いたメチレンブルー分解活性試験の結果を示すグラフである。
【図7】実施例1のガラスセラミックスについて、紫外線照射時間に対する水との接触角をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[ガラスセラミックス]
本発明のガラスセラミックスは、酸化チタン及び/又はその固溶体を含む結晶相を含有する。ガラスセラミックスは、ガラスを熱処理することによりガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料であり、結晶化ガラスとも呼ばれる。本発明のガラスセラミックスは、酸化チタン及び/又はその固溶体を含む結晶相を含有するために強い光触媒活性を有しており、そのまま光触媒として用いることができる。ガラスセラミックスは、ガラス相及び結晶相から成る材料のみならず、ガラス相が全て結晶相に変化した材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が100質量%のものも含んでよい。本発明のガラスセラミックスは、結晶化工程の制御により結晶の粒径、析出結晶の種類、結晶化度をコントロールできる。
【0042】
次に、本発明のガラスセラミックスの成分及び物性について説明する。なお、本明細書中において、ガラスセラミックスを構成する各成分の含有量は、特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0043】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの形成に必要不可欠な成分である。また、SiOをベースにしたガラスに比べて、熱処理温度を低くすることができるのでアナターゼからルチルへの相転移を抑制する効果がある。しかし、その含有量が5%未満であるとガラス化が困難であり、90%を超えると、TiO結晶相が析出し難い傾向が強くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するB成分の含有量の下限は、5%、好ましくは10%、より好ましくは15%とし、上限は、90%、好ましくは80%、より好ましくは70%とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0044】
TiO成分は、ガラスを結晶化することにより、TiOの結晶又はその固溶体としてガラスから析出し、特に紫外線領域で強い光触媒活性を示す成分である。TiOの結晶型としては、アナターゼ(Anatase)型、ルチル(Rutile)型及びブルッカイト(Brookite)型が知られているが、アナターゼ型およびルチル型が好ましく、特に高い光触媒特性をもつアナターゼ型のTiOを含有することが有利である。また、TiO成分は、上記B成分と組み合わせて含有させることによって、より低い熱処理温度でTiO結晶を析出させることが可能になり、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減することができる。しかし、TiO成分の含有量が5%未満であるとTiO結晶を析出させることが困難になり、十分な光触媒活性が得られず、85%を超えるとガラス化が非常に難しくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTiO成分の含有量の下限は、5%、より好ましくは10%、最も好ましくは15%とし、上限は、85%、好ましくは60%、より好ましくは50%とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0045】
Bi成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。さらに、BiイオンがTiO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる効果もある。しかし、TiO成分に対するBi成分の比(Bi/TiO)が0.12以上になると、Biイオンが還元されやすくなり、光触媒特性の向上を妨げることになる。また、ガラスの安定性も悪くなり、TiOの析出が難しくなる。従って、TiO成分に対するBi成分の比(Bi/TiO)が0.12未満となるようにすることが好ましく、0〜0.06がより好ましく、0〜0.03が最も好ましい。なお、Bi成分は配合しなくてもよい。このように、本発明のガラスセラミックスでは、B成分を主体とするガラスの系において、TiO成分に対するBi成分の比を0.12未満とすることによって、光触媒特性を向上させる効果が得られる。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0046】
LiO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、LiO成分は、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。熱処理温度を抑えることで、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、LiO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、TiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0047】
NaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、NaO成分は、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。熱処理温度を抑えることで、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、NaO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、TiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0048】
O成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、KO成分は、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。熱処理温度を抑えることで、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、KO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、TiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0049】
本発明のガラスセラミックスは、RO(式中、RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を50%以下含有することが好ましい。特に、RO成分の合計量を50%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、TiO結晶相が析出し易くなるため、ガラスセラミックスの触媒活性を確保することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、RO成分の合計量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。
【0050】
MgO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、MgO成分は、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。熱処理温度を抑えることで、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、MgO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、TiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0051】
CaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、CaO成分は、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。熱処理温度を抑えることで、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、CaO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、TiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0052】
SrO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、SrO成分は、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。熱処理温度を抑えることで、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、SrO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、TiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0053】
BaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、BaO成分は、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。熱処理温度を抑えることで、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、BaO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなりTiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0054】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ZnO成分は、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで、光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、ZnO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、TiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0055】
本発明のガラスセラミックスは、RnO(式中、RnはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を50%以下含有することが好ましい。特に、RnO成分の合計量を50%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、TiO結晶相が析出し易くなるため、ガラスセラミックスの触媒活性を確保することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、RnO成分の合計量は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。
【0056】
また、本発明のガラスセラミックスは、RnO(式中、RnはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上)成分及びRO(式中、RはLi、Na及びK、からなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を50%以下含有することが好ましい。特に、RnO成分及びRO成分の合計量を50%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、ガラス転移温度(Tg)が下がり、ひび割れが生じ難く機械的な強度の高いガラスセラミックスがより容易に得られる。一方で、RnO成分及びRO成分の合計量が50%より多いと、ガラスの安定性が悪くなり、TiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(RnO+RO)は、好ましくは50%、より好ましくは45%、最も好ましくは35%を上限とする。
【0057】
ここで、本発明のガラスセラミックスは、RnO(式中、RnはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上)成分及びRO(式中、RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することにより、ガラスの安定性が大幅に向上し、ガラスセラミックスの機械強度がより高くなり、TiO結晶相がガラスからより析出し易くなる。従って、本発明のガラスセラミックスは、RnO成分及びRO成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することが好ましい。
【0058】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と化学的耐久性を高める成分であるとともに、Si4+イオンが析出したTiO結晶相の近傍に存在し、光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、SiO成分の含有量が50%を超えると、ガラスの溶融性が悪くなり、TiO結晶相が析出し難くなる。従って、SiO成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%を下限とし、好ましくは50%、より好ましくは40%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0059】
Al成分は、ガラスの安定性及びガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、ガラスからのTiO結晶相の析出を促進し、且つAl3+イオンがTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が30%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、Al成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とし、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0060】
成分は、ガラスの網目構造を構成する成分であり、任意に添加できる成分である。また、P成分を配合することによって、より低い熱処理温度でTiO結晶を析出させることが可能であるとともに、TiO成分を含有する場合に光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、Pの含有量が10%を超えると結晶相が析出し難くなる。従って、P成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するP成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とし、好ましくは10%、より好ましくは6%、最も好ましくは3%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、NaPO、BPO、HPO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0061】
本発明のガラスセラミックスは、SiO成分、Al成分及びP成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を0.1%以上50%以下の範囲内で含有することが好ましい。特に、SiO成分、Al成分及びP成分の合計量を50%以下にすることで、ガラスの溶融性、安定性及び化学耐久性が向上するとともに、ガラスセラミックスにひび割れが生じ難くなるので、より高い機械強度のガラスセラミックスが簡単に得られる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(SiO+Al+P)は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。なお、これらの成分の合計量が0.1%未満であると、ガラスが得られにくくなるので、0.1%以上の添加が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上が最も好ましい。
【0062】
GeO成分は、上記のSiOと相似な働きを有する成分であり、本発明のガラスセラミックス中に任意に添加できる成分である。特に、GeO成分の含有量を20%以下にすることで、高価なGeO成分の使用が抑えられるため、ガラスセラミックスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0063】
Ga成分は、ガラスの安定性を高め、ガラスからのTiO結晶相の析出を促進し、且つGa3+イオンがTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が20%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するGa成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa、GaF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0064】
In成分は、上記のAl及びGaと相似な効果がある成分であり、任意に添加できる成分である。In成分は高価なため、その含有量の上限は10%以下にすることが好ましく、8%以下にすることがより好ましく、5%以下にすることが最も好ましい。In成分は、原料として例えばIn、InF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0065】
SnO成分は、TiO結晶の析出を促進し、Ti4+の還元を抑制してTiO結晶相を得易くし、且つTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に効果がある成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は還元剤の役割を果たし、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、SnO成分の含有量が10%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.01%、より好ましくは0.02%、最も好ましくは0.03%を下限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0066】
ZrO成分は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、TiO結晶の析出を促進し、且つZr4+イオンがTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、ZrO成分の含有量が10%を超えると、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは6%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0067】
TeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。また、TeO成分は、ガラス転移温度を下げてTiO結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。また、熱処理温度を抑えることで光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶から光触媒活性の低いルチル型への相転位を低減する効果も期待できる。しかし、TeO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、TiOの析出が難しくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0068】
Nb成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つTiO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Nb成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0069】
Ta成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、且つTiO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ta成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0070】
WO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つTiO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、WO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0071】
MoO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つTiO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、MoO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するMoO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。MoO成分は、原料として例えばMoO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0072】
As成分及び/又はSb成分は、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は、還元剤の役割を果たすので、間接的に光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で5%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するAs成分及び/又はSb成分の含有量の合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.001%、より好ましくは0.002%、最も好ましくは0.005%を下限とする。As成分及びSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0073】
なお、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分は、上記のAs成分及びSb成分に限定されるものではなく、例えばCeO成分やTeO成分等のような、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0074】
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上を意味し、Ceを除く各成分についてはa=2且つb=3であり、Ceについてはa=1且つb=2である)は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高める成分であり、且つTiO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ln成分の含有量の合計が10%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、Ln成分の合計量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。Ln成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、CeO、CeF、Nd、Dy、Yb、Lu等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0075】
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co及びNiからなる群より選択される1種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする)は、TiO結晶相に固溶するか、又はその近傍に存在することで、光触媒特性の向上に寄与し、且つ一部の波長の可視光を吸収してガラスセラミックスに外観色を付与する成分であり、本発明のガラスセラミックス中の任意成分である。特に、M成分の合計量を10%以下にすることで、ガラスセラミックスの安定性を高め、ガラスセラミックスの外観の色を容易に調節することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、M成分の合計量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.002%、最も好ましくは0.005%を下限とする。
【0076】
本発明のガラスセラミックスには、F成分、Cl成分及びBr成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分が含まれていてもよい。これらの成分は、TiO結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で15%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、良好な特性を確保するために、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する非金属元素成分の含有量の外割り質量比の合計は、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。これらの非金属元素成分は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、塩化物、臭化物等の形でガラスセラミックス中に導入することが好ましい。なお、本明細書における非金属元素成分の含有量は、ガラスセラミックスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、非金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。非金属元素成分の原料は特に限定されないが、例えば、F成分の原料としてZrF、AlF、NaF、CaF等、Cl成分の原料としてNaCl、AgCl等、Br成分の原料としてNaBr等を用いることで、ガラスセラミックス内に導入することができる。なお、これらの原料は、2種以上を組み合わせて添加してもよいし、単独で添加してもよい。
【0077】
本発明のガラスセラミックスには、Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分およびPt成分から選ばれる少なくとも1種の金属元素成分が含まれていてもよい。これらの金属元素成分は、TiO結晶相の近傍に存在することで、光触媒活性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの金属元素成分の含有量の合計が5%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性がかえって低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する上記金属元素成分の含有量の外割り質量比合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは2%を上限とする。これらの金属元素成分は、原料として例えばCuO、CuO、AgO、AuCl、PtCl、PtCl、HPtCl、PdCl等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。なお、本明細書における金属元素成分の含有量は、ガラスセラミックスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.002%、最も好ましくは0.005%を下限とする。
【0078】
本発明のガラスセラミックスには、必要に応じ、上記成分以外の成分をガラスセラミックスの特性を損なわない範囲で添加することができる。但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスセラミックスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、ガラスセラミックスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、このガラスセラミックスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0079】
本発明のガラスセラミックスは、結晶相に、TiO並びにこれらの固溶体のうち1種以上からなる結晶が含まれていても良く、その場合、アナターゼ(Anatase)型またはルチル(Rutile)型のTiOからなる結晶が含まれていることがより好ましい。これらの結晶が含まれていることにより、ガラスセラミックスが高い光触媒機能を有することができる。その中でも特にアナターゼ型の酸化チタン(TiO)は、ルチル型に比べても光触媒機能が高いため、ガラスセラミックスにより高い光触媒機能を付与することができる。
【0080】
本発明のガラスセラミックスは、その組成が酸化物換算組成の全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
成分5〜80質量%及び/又は
TiO成分5〜90質量%
Bi成分0〜10質量%及び/又は
LiO成分0〜20質量%及び/又は
NaO成分0〜25質量%及び/又は
O成分0〜25質量%及び/又は
MgO成分0〜25質量%及び/又は
CaO成分0〜30質量%及び/又は
SrO成分0〜30質量%及び/又は
BaO成分0〜30質量%及び/又は
ZnO成分0〜30質量%及び/又は
SiO成分0〜40質量%及び/又は
Al成分0〜30質量%及び/又は
成分0〜20質量%及び/又は
GeO成分0〜10質量%及び/又は
Ga成分0〜10質量%及び/又は
In成分0〜10質量%及び/又は
SnO成分0〜10質量%及び/又は
ZrO成分0〜15質量%及び/又は
TeO成分0〜20質量%及び/又は
Nb成分0〜30質量%及び/又は
Ta成分0〜30質量%及び/又は
WO成分0〜30質量%及び/又は
MoO成分0〜10質量%及び/又は
As成分及びSb成分 合計で0〜5質量%
Ln成分 合計で0〜10質量%及び/又は
成分 合計で0〜5質量%及び/又は
さらに、
前記酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量100%に対して、
F成分、Cl成分及びBr成分からなる群より選ばれる少な
くとも1種以上の非金属元素成分 0〜5質量%及び/又は
Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分、及びPt成分からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分 0〜5質量%
【0081】
また、本発明のガラスセラミックスの結晶化率は、体積比で好ましくは1%、より好ましくは3%、最も好ましくは5%を下限とし、好ましくは98%、より好ましくは95%、最も好ましくは90%を上限とする。結晶化率が1%以上であることにより、ガラスセラミックスが良好な光触媒特性を有することができる。一方で、上記結晶相の含有率が98%以下であることにより、ガラスセラミックスが良好な機械的な強度を得ることができる。
【0082】
前記結晶の大きさは、球近似したときの平均径が、5nm〜3μmであることが好ましい。熱処理条件をコントロールすることにより、析出した結晶相のサイズを制御することが可能であるが、有効な光触媒特性を引き出すため、結晶のサイズを5nm〜3μmの範囲とすることが好ましく、10nm〜1μmの範囲とすることがより好ましく、10nm〜500nmの範囲とすることが最も好ましい。結晶粒径及びその平均値はXRDの回折ピークの半値幅より、シェラーの式より見積もることができる。回折ピークが弱かったり、重なったりする場合は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した結晶粒子面積から、これを円と仮定してその直径を求めて測定できる。顕微鏡を用いて平均値を算出する際には、無作為に100個以上の結晶直径を測定することが好ましい。
【0083】
本発明のガラスセラミックスは、紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、またはそれらが複合した波長の光がガラスセラミックスの表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、ガラスセラミックスの表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、ガラスセラミックスを防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。
【0084】
また、本発明のガラスセラミックスは、紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下であることが好ましい。これにより、ガラスセラミックスの表面が親水性を呈し、セルフクリーニング作用を有するため、ガラスセラミックスの表面を水で容易に洗浄することができ、汚れによる光触媒特性の低下を抑制することができる。光を照射したガラスセラミックス表面と水滴との接触角は、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、20°以下が最も好ましい。
【0085】
さらに本発明のガラスセラミックスは、JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上であることが好ましい。光触媒には紫外線があたると強力な酸化力を生じ、触れた有機物を二酸化炭素や水に分解する性能がある。これを酸化分解性能と呼び、以下のようなセルフクリーニング性能試験により性能評価することができる。試験片に、有機色素(メチレンブルー)を溶かした水を接触させ、分光光度計で初期の吸光度(光が吸収される度合い)を測る。一定時間紫外線を照射し、吸光度の測定を行う操作を繰り返す。光触媒により色素が分解されるため、溶液は徐々に濃度が下がり透明となり、吸光度は下がる。この濃度の経時変化から色素の分解速度が算出でき、それが試験片のセルフクリーニング性能(酸化分解性能)の指標となる。
【0086】
[ガラスセラミックスの製造方法]
次に、本発明のガラスセラミックスの製造方法について、以下の第1の実施の形態および第2の実施の形態を例示することにより説明する。ただし、本発明のガラスセラミックスの製造方法は、第1の実施の形態および第2の実施の形態に示す方法に限定されるものではない。
【0087】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態のガラスセラミックスの製造方法は、原料の混合物を1200℃以上の温度に保持して溶融し、その後冷却して固化させることによりガラスセラミックスを得る方法である。ここで、溶融液は、少なくとも1種以上の原料組成から生成されてよく、2以上の種類の化合物が加わることによる溶融液の生成温度の低下も考慮することができる。従って、保持する温度は、混合する原料の種類及び量により適宜変更することが好ましいが、一般に1200℃以上が好ましく、1250℃以上がより好ましく、1300℃以上が最も好ましい。
【0088】
より具体的には、所定の出発原料を均一に混合して白金又は耐火物などからなる容器に入れて、電気炉で1200℃以上の所定温度で加熱し保持して、溶融液を作製する。その後、溶融液を金型に流し込み固化させて、目的のガラスセラミックスを得る。ここで、溶融液が冷却する過程で結晶核の生成及び成長が起きる。冷却速度を制御しながら溶液を冷却し、冷却の過程で結晶化温度領域を所定の時間をかけて通過するように調節してもよい。この手法は、例えば所望の結晶相をリッチに析出する一方、ガラス溶融液の状態が比較的不安定な場合などにおいて有効である。
【0089】
(熱処理工程)
第1の実施の形態のガラスセラミックスの製造方法では、以上のようにして得られたガラスセラミックスに対して熱処理を行うことができる。熱処理によって、ガラスセラミックスの結晶量を増加させ、結晶化率を高めることが可能になる。熱処理は、ガラス転移温度より10℃以上高い温度領域とすることが好ましく、20℃以上高くすることがより好ましく、30℃以上高くすることが最も好ましい。好ましい熱処理温度領域の下限は400℃であり、より好ましくは450℃であり、最も好ましくは500℃である。他方、熱処理温度を高くしすぎると、目的以外の未知相が析出する傾向が強くなり、光触媒特性が消失し易くなるので、熱処理温度領域の上限は1000℃が好ましく、900℃がより好ましく、800℃が最も好ましい。
【0090】
(エッチング工程)
結晶が生じた後のガラスセラミックスは、そのままの状態、または研磨などの機械的な加工を施した状態で高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックスに対してエッチングを行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックスの光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、TiO等の結晶を含む結晶相が残る多孔質体を得ることが可能である。ここで、エッチングの方法としては、例えば、ドライエッチング、溶液への浸漬によるウェットエッチング、およびこれらの組み合わせなどの方法が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラスセラミックスの表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラスセラミックスの表面に吹き付けることで行ってよい。
【0091】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態のガラスセラミックスの製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させてガラスセラミックスを得る再冷却工程と、を有することができる。なお、第1の実施の形態の製造方法と同様の工程については適宜説明を省略する。
【0092】
(溶融工程)
溶融工程は、上述の組成を有する原料を混合し、その融液を得る工程である。より具体的には、ガラスセラミックスの各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合して、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して電気炉で1200〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶融して攪拌均質化して融液を作製する。なお、原料の溶融の条件は上記温度範囲に限定されず、原料組成物の組成及び配合量等に応じて、適宜設定することができる。
【0093】
(冷却工程)
冷却工程は、溶融工程で得られた融液を冷却してガラス化することで、ガラスを作製する工程である。具体的には、融液を流出して適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。ここで、ガラス化の条件は特に限定されるものではなく、原料の組成及び量等に応じて適宜設定されてよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、板状、粒状等であってよいが、ガラス体を迅速且つ大量に作製できる点では、板状であることが好ましい。
【0094】
(再加熱工程)
再加熱工程は、冷却工程で得られたガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる工程である。この工程では、昇温速度及び温度が結晶相の形成や結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、これらを精密に制御することが重要である。
【0095】
(結晶化工程)
結晶化工程は、結晶化温度領域で所定の時間保持することによりTiO等の結晶を生成させる工程である。この結晶化工程で結晶化温度領域に所定時間保持することにより、ナノからミクロン単位までの所望のサイズを有するTiO等の結晶をガラス体の内部に均一に分散させて形成できる。結晶化温度領域は、例えばガラス転移温度を超える温度領域である。ガラス転移温度はガラス組成ごとに異なるため、ガラス転移温度に応じて結晶化温度を設定することが好ましい。また、結晶化温度領域は、ガラス転移温度より10℃以上高い温度領域とすることが好ましく、20℃以上高くすることがより好ましく、30℃以上高くすることが最も好ましい。好ましい結晶化温度領域の下限は400℃であり、より好ましくは450℃であり、最も好ましくは500℃である。他方、結晶化温度が高くなり過ぎると、目的以外の未知相が析出する傾向が強くなり、光触媒特性が消失し易くなるので、結晶化温度領域の上限は1000℃が好ましく、900℃がより好ましく、800℃が最も好ましい。この工程では、昇温速度及び温度が結晶のサイズに大きな影響を及ぼすので、組成や熱処理温度に応じて適切に制御することが重要である。また、結晶化のための熱処理時間は、ガラスの組成や熱処理温度などに応じて結晶をある程度まで成長させ、かつ十分な量の結晶を析出させ得る条件で設定する必要がある。熱処理時間は、結晶化温度によって様々な範囲で設定できる。昇温速度を遅くすれば、熱処理温度まで加熱するだけでいい場合もあるが、目安としては高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。結晶化過程は、1段階の熱処理過程を経ても良く、2段階以上の熱処理過程を経ても良い。
【0096】
(再冷却工程)
再冷却工程は、結晶化が完了した後、温度を結晶化温度領域外まで低下させてTiO等の結晶相を有するガラスセラミックスを得る工程である。
【0097】
(エッチング工程)
本実施の形態においても、エッチング工程を実施することが好ましい。エッチングは、第1の実施の形態と同様に行うことができる。
【0098】
上記第1の実施の形態および第2の実施の形態の製造方法では、必要に応じて成形工程を設けてガラスもしくはガラスセラミックスを任意の形状に加工することができる。
【0099】
[光触媒]
以上のようにして製造されるガラスセラミックスは、そのまま、あるいは任意の形状に加工して光触媒として用いることができる。光触媒は、例えば、バルクの状態、粉末状などその形状は問わず、例えば光触媒材料、光触媒部材(例えば水の浄化材、空気浄化材など)、親水性材料、親水性部材(例えば窓、ミラー、パネル、タイルなど)等として利用できる。
【0100】
[ガラスセラミックス成形体]
本発明のガラスセラミックスを光触媒に適用する場合の好ましい形態について具体例を挙げ説明する。本発明のガラスセラミックスは、任意の形状に成形することにより、光触媒機能性のガラスセラミックス成形体及び/又は親水性のガラスセラミックス成形体として様々な機械、装置、器具類等の用途に利用できる。特に、タイル、窓枠、建材等の用途に用いることが好ましい。これにより、ガラスセラミックス成形体の表面に光触媒機能が奏され、ガラスセラミックス成形体の表面に付着した菌類が殺菌されるため、これらの用途に用いたときに表面を衛生的に保つことができる。また、ガラスセラミックス成形体の表面は親水性を持つため、これらの用途に用いたときにガラスセラミックス成形体の表面に付着した汚れを雨滴等で容易に洗い流すことができる。
【0101】
また、本発明のガラスセラミックスは、光触媒としての用途に応じて、種々の形態に加工することができる。特に、例えばガラスビーズやガラス繊維(ガラスファイバー)の形態を採用することにより、TiO結晶相の露出面積が増えるため、光触媒活性をより高めることができる。以下、ガラスセラミックスの代表的な加工形態として、ガラスビーズおよびガラスセラミックス繊維を例に挙げて説明する。
【0102】
[ガラスビーズ]
本発明におけるガラスビーズは、装飾用、手芸用のビーズではなく、工業用のビーズに関する。工業用のビーズは、耐久性などの利点から、主にガラスを用いて作られており、一般にガラス製の微小球(直径数μmから数mm)をガラスビーズと呼んでいる。代表的な用途として例えば道路の標識板、路面表示ラインに使われる塗料、反射クロス、濾過材、ブラスト研磨材などがある。道路標識塗料、反射クロス等にガラスビーズを混入、分散させると、夜間、車のライト等から出た光がビーズを介して元のところへ反射(再帰反射)し、視認性が高くなる。ガラスビーズのこのような機能は、ジョギング用ウエアー、工事用チョッキ、バイクドライバー用ベスト等にも使用されている。塗料に本発明のガラスセラミックスビーズを混入すると、光触媒機能により、標識板やラインに付着した汚れが分解されるので、常に清潔な状態を維持でき、メンテナンスの手間を大幅に減少できる。さらに、本発明のガラスセラミックスビーズは、組成、析出結晶のサイズ、及び結晶相の量を調整することで、再帰反射機能と光触媒機能を同時に持たせることも可能である。なお、より再帰反射性の高いガラスセラミックスビーズを得るためには、該ビーズを構成するガラスマトリックス相及び/または結晶相の屈折率が1.8〜2.1の範囲内であることが好ましく、特に1.9前後がより好ましい。
【0103】
その他の用途として、工業用のガラスビーズは、濾過材として利用されている。ガラスビーズは砂や石等と異なり、すべて球形であるため充填率が高く間隙率も計算できるので、単独または、他の濾過材と組み合わせて、広く使用されている。本発明のガラスセラミックスビーズは、このようなガラスビーズ本来の機能に加え、光触媒機能を合わせ持つものである。特に、膜やコーティング層などを有さず、単体で光触媒特性を呈するので、剥離による触媒活性劣化がなく、交換やメンテナンスの手間が省け、例えばフィルタ及び浄化装置に好適に用いられる。また、光触媒機能を利用したフィルタ部材及び浄化部材は装置内で光源となる部材に隣接した構成である場合が多いが、ガラスセラミックスのビーズは、装置内の容器などに簡単に納められるので好適に利用できる。
【0104】
さらに、ガラスビーズは、化学的安定性に優れ、球状であることから、被加工物をあまり傷めないので、ブラスト研磨用材に利用される。ブラストとは、粒材を噴射して被加工面に衝突させることによって、掃除、美装、ピーニングなどを行うことをいう。本発明のガラスセラミックスビーズは当該メリットに加え、光触媒機能を併せ持つので、ブラストと同時に光触媒反応を応用した同時加工が可能である。
【0105】
本発明のガラスビーズの粒径は、その用途に応じて適宜決めることができる。例えば、塗料に配合する場合は、100〜2500μm、好ましくは100〜2000μmの粒径とすることができる。反射クロスに使用する場合は、20〜100μm、好ましくは20〜50μmの粒径とすることができる。濾過材に使用する場合は、30〜8000μm、好ましくは50〜5000μmの粒径とすることができる。
【0106】
次に、本発明のガラスセラミックスビーズの製造方法について説明する。本発明のガラスセラミックスビーズの製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液または融液から得られるガラスを用いてビーズ体に成形する成形工程と、ビーズ体の温度を、ガラス転移温度を超える結晶化温度領域に上昇させ、その温度で所定の時間保持し、所望の結晶を析出させる結晶化工程を含むことができる。なお、上記第1および第2の実施の形態で説明したガラスセラミックスの一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0107】
(溶融工程)
上記第2の実施の形態と同様に実施できる。
【0108】
(成形工程)
その後、溶融工程で得られた融液から微粒状のビーズ体へ成形する。ビーズ体の成形方法には様々なものがあり、適宜選択すれば良いが、一般的に、ガラス融液又はガラス→粉砕→粒度調整→球状化のプロセスを辿って作ることができる。粉砕工程においては、冷却固化したガラスを粉砕したり、融液状のガラスを水に流し入れ水砕したり、さらにボールミルにて粉砕するなどして粒状ガラスを得る。その後篩等を使って粒度を調整し、再加熱して表面張力にて球状に成形したり、黒鉛などの粉末材料と一緒にドラムに入れ、回転させながら物理力で球状に成形する、などの方法がある。または、粉砕工程を経ることなく溶融ガラスから直接球状化させる方法を取ることもできる。例えば溶融ガラスを空気中に噴射して表面張力にて球状化する、流出ノズルから出る溶融ガラスを回転する刃物のような部材で細かく切り飛ばして球状化する、流体の中に滴下して落下中に球状化させる、などの方法がある。通常、成形後のビーズは再度粒度を調整した後に製品化される。成形温度におけるガラスの粘性や失透し易さなどを考慮し、これらの方法から最適なものを選べば良い。
【0109】
(結晶化工程)
上記プロセスによって得られたビーズ体を、再加熱し、所望の結晶を析出させる結晶化工程を行う。結晶化工程では、ガラス組成ごとにガラス転移温度に応じて結晶化温度を設定する必要があるが、具体的にガラス転移温度より10℃以上の高い温度領域で熱処理することが好ましい。例えばガラス転移温度が500℃以上である場合、好ましい熱処理温度の下限は510℃で、より好ましくは530℃で、最も好ましくは550℃である。他方、熱処理温度が高くなり過ぎると、TiOの結晶相が減少する傾向が強くなり、光触媒特性が消失し易くなる。従って、熱処理温度の上限は1000℃が好ましく、900℃がより好ましく、800℃が最も好ましい。1000℃より高いとTiO結晶の析出が少なくなるとともに、任意成分であるTiOの結晶がアナターゼ型より活性度の低いルチル型になりやすくなる。結晶化の温度及び時間は、結晶相の形成や結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、これらを精密に制御することが非常に重要である。所望の結晶が得られたら結晶化温度領域外まで冷却し結晶が分散したガラスセラミックスビーズを得る。
【0110】
なお、前述したような、ビーズ体成形後に結晶化する手法の他に、融液から直接球状化・冷却する過程で結晶相が析出されるようにしても良い。
【0111】
結晶化工程を行って結晶が生じた後のガラスセラミックスビーズは、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックスビーズに対してエッチング工程を行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックスビーズの光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、光触媒結晶相のみが残る多孔質体ビーズを得ることが可能である。エッチング工程は、上記第1および第2の実施の形態と同様に実施できる。
【0112】
[ガラスセラミックス繊維]
本発明のガラスセラミックス繊維は、ガラス繊維の一般的な性質を有する。すなわち、通常の繊維に比べ引っ張り強度・比強度が大きい、弾性率・比弾性率が大きい、寸法安定性が良い、耐熱性が大きい、不燃性である、耐化学性が良いなどの物性上のメリットを有し、これらを活かした様々な用途に利用できる。また、繊維の内部及び表面に光触媒結晶を有するので、前述したメリットに加え光触媒特性を有し、さらに幅広い分野に応用できる繊維構造体を提供できる。ここで繊維構造体とは、繊維が、織物、編制物、積層物、又はそれらの複合体として形成された三次元の構造体をいい、例えば不織布を挙げられる。
【0113】
ガラス繊維の耐熱性、不燃性を活かした用途としてカーテン、シート、壁貼クロス、防虫網、衣服類、又は断熱材等があるが、本発明のガラスセラミックス繊維を用いると、さらに前記用途における物品に光触媒作用による、消臭機能、汚れ分解機能などを与え、掃除やメンテナンスの手間を大幅に減らすことができる。
【0114】
また、ガラス繊維はその耐化学性から濾過材として用いられることが多いが、本発明のガラスセラミックス繊維は、単に濾過するだけでなく、光触媒反応によって被処理物中の悪臭物質、汚れ、菌などを分解するので、より積極的な浄化機能を有する浄化装置及びフィルタを提供できる。さらには、光触媒層の剥離・離脱による特性の劣化がほとんど生じないので、これらの製品の長寿命化に貢献する。
【0115】
次に、本発明のガラスセラミックス繊維の製造方法について説明する。本発明のガラスセラミックス繊維の製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液または融液から得られるガラスを用いて繊維状に成形する紡糸工程と、該繊維の温度を、ガラス転移温度を超える温度領域に上昇させ、その温度で所定の時間保持し、所望の結晶を析出させる結晶化工程を含むことができる。なお、上記第1および第2の実施の形態で説明したガラスセラミックスの一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0116】
(溶融工程)
上記第2の実施の形態と同様に実施できる。
【0117】
(紡糸工程)
次に、溶融工程で得られた融液からガラス繊維へ成形する。繊維体の成形方法は特に限定されず、公知の手法を用いて成形すれば良い。巻き取り機に連続的に巻き取れるタイプの繊維(長繊維)に成形する場合は、公知のDM法(ダイレクトメルト法)またはMM法(マーブルメルト法)で紡糸すれば良く、繊維長数十cm程度の短繊維に成形する場合は、遠心法を用いたり、もしくは前記長繊維をカットしても良い。繊維径は、用途によって適宜選択すれば良い。ただ、細いほど可撓性が高く、風合いの良い織物になるが、紡糸の生産効率が悪くなりコスト高になり、逆に太すぎると紡糸生産性は良くなるが、加工性や取り扱い性が悪くなる。織物などの繊維製品にする場合、繊維径を3〜24μmの範囲にすることが好ましく、浄化装置、フィルタなどの用途に適した積層構造体などにする場合は繊維径を9μm以上にすることが好ましい。その後、用途に応じて綿状にしたり、ロービング、クロスなどの繊維構造体を作ることができる。
【0118】
(結晶化工程)
次に、上記プロセスによって得られた繊維又は繊維構造体を再加熱し、繊維の中及び表面に所望の結晶を析出させる結晶化工程を行う。この結晶化工程は、ガラスビーズの結晶化工程と同様に実施できる。所望の結晶が得られたら結晶化温度領域外まで冷却し光触媒結晶が分散したガラスセラミックス繊維又は繊維構造体を得ることができる。
【0119】
なお、前述したような、繊維体成形後に結晶化する手法の他に、紡糸工程におけるガラス繊維の温度を制御し、結晶化工程が同時に行われるようにしても良い。
【0120】
結晶化工程を行って結晶が生じた後のガラスセラミックス繊維は、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックス繊維に対してエッチング工程を行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックス繊維の光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、光触媒結晶相のみが残る多孔質体繊維を得ることが可能である。エッチング工程は、上記第1および第2の実施の形態と同様に実施できる。
【0121】
以上のように、本発明のガラスセラミックスは、その内部および表面に光触媒活性を持つ酸化チタンおよび/またはその固溶体の結晶相が均質に析出しているため、優れた光触媒活性と可視光応答性を有するとともに、耐久性にも優れている。従って、基材の表面にのみ光触媒層が設けられている従来技術の光触媒機能性部材のように、光触媒層が剥離して光触媒活性が失われる、ということがない。また、仮に表面が削られても内部に存在する酸化チタン及び/又はその固溶体の結晶相が露出して光触媒活性が維持される。また、本発明のガラスセラミックスは、溶融ガラスの形態から製造できるので、大きさや形状などを加工する場合の自由度が高く、光触媒機能が要求される様々な物品に加工できる。
【0122】
また、本発明のガラスセラミックスの製造方法によれば、原料の配合組成と熱処理温度の制御によって酸化チタンおよび/またはその固溶体の結晶相を生成させることができるため、光触媒技術における大きな課題であった結晶粒子の微細化に要する手間が不要になり、優れた光触媒活性と可視光応答性を有するガラスセラミックスを工業的規模で容易に製造することができる。
【実施例】
【0123】
次に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に制約されるものではない。
【0124】
実施例1〜33:
表1〜3に、本発明の実施例1〜33のガラスセラミックスの組成およびこれらのガラスセラミックスに析出した主結晶相の種類を示した。表1、2に示す実施例1〜23のガラスセラミックスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表1、2に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った。その後、1500℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。得られたガラスについて、表1、2の各実施例に記載された結晶化温度に加熱し、記載された時間にわたり保持して結晶化を行った。その後、結晶化温度から冷却して目的の結晶相を有するガラスセラミックスを得た。
【0125】
また、表3に示す実施例24〜33のガラスセラミックスでは、実施例1〜23と同様にして攪拌均質化した溶融物をそのまま容器内にキャストし、冷却することによってガラスセラミックスを得た。
【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
【表3】

【0129】
【表4】

【0130】
ここで、実施例1〜33のガラスセラミックスの析出結晶相の種類は、X線回折装置(フィリップス社製、商品名:X’Pert−MPD)で同定した。代表として実施例1、2、24〜27で得られたガラスセラミッククスについてのX線回折分析(XRD)の結果を図1及び2に示した。
【0131】
表1〜3に表されるように、実施例1〜30のガラスセラミックスの析出結晶相には、いずれも光触媒活性の高いアナターゼ型のTiO結晶を含有していた。また、実施例31〜33のガラスセラミックスの析出結晶相には、ルチル型のTiO結晶とともに、BaTi結晶を含有していた。
【0132】
また、XRDの回折ピークの半値幅より、シェラー(Scherrer)の式;D=0.9λ/(βcosθ)に基づいてTiO結晶のサイズを見積った。ここで、Dは、結晶の大きさ、λはX線の波長、θはブラッグ角(回折角2θの半分)である。その結果は表4に抜粋して示すとおりであり、TiO結晶等のサイズは200nm以下の微細な結晶であることが確認された。
【0133】
次に、結晶化の熱処理温度とTiO結晶との関係を調べるために、実施例1と同様の成分組成で結晶化条件(温度、時間)を変えて結晶化を行い、X線回折分析(XRD)を行った。結晶化温度は、実施例1aが550℃、1bが620℃、1cが660℃、1dが680℃であり、結晶化の熱処理時間は実施例1aが4時間、1b〜1dはいずれも1時間とした。XRDの結果を図3に示した。実施例1c、1dのXRDパターンにおいて、入射角2θ=25.3°付近をはじめ「○」で表されるピークが生じており、アナターゼ型TiO結晶の存在が確認できた。また、実施例1c、1dのXRDパターンにおいて、入射角2θ=27.4°付近をはじめ「□」で表されるピークが生じており、ルチル型TiO結晶の存在が確認できた。実施例1c,1dのガラスセラミックスは、優れた光触媒作用を有するアナターゼ型のTiO結晶とルチル型のTiO結晶とが混在した状態で存在しており、紫外領域から可視光領域まで幅広い波長の光によって光触媒活性を奏することが推察された。一方、実施例1bのXRDパターンでは、アナターゼ型TiO結晶のピークが検出できたにとどまり、実施例1aのXRDパターンでは、アナターゼ型又はルチル型TiO結晶の明確なピークは検出できなかった。従って、実施例1の組成では、ガラスセラミックスを製造するため熱処理温度は、600℃以上が好ましく、660℃以上がより好ましいと考えられた。また、図3の結果から、結晶化温度を変化させることによって、TiOの結晶構造を制御できることも明らかになった。
【0134】
図4に、実施例1(実施例1b〜1d)における熱処理温度とアナターゼ型TiO結晶のサイズとの関係を示した。この結果から、熱処理温度が高くなるほど、アナターゼ型TiO結晶のサイズが大きくなることが確認された。
【0135】
また、実施例26において、溶融物をキャストして冷却することにより得たガラスセラミックス(As cast)と、このガラスセラミックスに対して550℃で1時間熱処理を行ったものについてのXRDパターンを図5に示した。XRDパターンから、熱処理したサンプルでは、アナターゼ型及びルチル型TiO結晶のピークがより強く検出されており、熱処理によってガラスセラミックスの結晶化率がさらに高まることが確認された。なお、表4には、実施例26におけるガラスセラミックスに対する熱処理の有無による結晶サイズの変化についても記載した。
【0136】
また、実施例1(実施例1c、1d)で得られたガラスセラミックスについて46質量%のフッ酸で2分間エッチングした後、JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解試験を行った。その結果を図6に示した。メチレンブルーの分解活性指数は、いずれも3.0nmol/L/min以上であり、メチレンブルー分解による吸光度の減少が確認され、光触媒特性を有することが示された。
【0137】
また、実施例1(実施例1c、1d)のガラスセラミックスの親水性について46質量%のフッ酸で2分間エッチングした後、θ/2法によりサンプル表面と水滴との接触角を測定することにより評価した。すなわち、紫外線照射前および照射後のガラスセラミックスの表面にそれぞれ水を滴下し、ガラスセラミックスの表面から水滴の頂点までの高さhと、水滴の試験片に接している面の半径rと、を協和界面科学社製の接触角計(DM501)を用いて測定し、θ=2tan−1(h/r)の関係式より、水との接触角θを求めた。なお、紫外線照射は、水銀ランプを用い、照度10mW/cm、照射時間30分、60分、120分で行った。図7に示すように、60分以上の紫外線の照射によって水との接触角が20°以下となることが確認された。これにより、本発明の実施例のガラスセラミックスは、高い親水性を有することが明らかになった。
【0138】
以上の実験結果が示すように、TiO結晶を含む結晶相を含有する実施例1〜33のガラスセラミックスは、光触媒活性を有していた。しかも、TiO結晶が均一にガラスに分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性に優れた光触媒機能性素材として利用できることが確認された。
【0139】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
成分 5〜90%及び
TiO成分 5〜85%を含有し、
TiO成分に対するBi成分の比(Bi/TiO)が0.12未満(ただし、Biの含有量が0の場合を含む)、
かつ、TiOの結晶相を含有するガラスセラミックス。
【請求項2】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、RO成分(ここで、Rは、Li、Na及びKからなる群より選ばれる1種以上を意味する)を0〜50%含有する請求項1に記載のガラスセラミックス。
【請求項3】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、RnO成分(ここで、Rnは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選ばれる1種以上を意味する)を0〜50%含有する請求項1または2に記載のガラスセラミックス。
【請求項4】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、SiO成分を0〜50%含有する請求項1から3のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項5】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Al成分を0〜30%含有する請求項1から4のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項6】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、P成分を0〜10%含有する請求項1から5のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項7】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
GeO成分 0〜20%、及び/又は
Ga成分 0〜20%、及び/又は
In成分 0〜10%、及び/又は
SnO成分 0〜10%、及び/又は
ZrO成分 0〜10%、及び/又は
TeO成分 0〜20%、及び/又は
Nb成分 0〜20%、及び/又は
Ta成分 0〜20%、及び/又は
WO成分 0〜20%、及び/又は
MoO成分 0〜20%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分 合計で0〜5%
の各成分を含有する請求項1から6のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項8】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上を意味し、Ceを除く各成分についてはa=2且つb=3であり、Ceについてはa=1且つb=2である)を合計で0〜10%含有する請求項1から7のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項9】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、M成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される1種以上とし、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする)を合計で0〜10%含有する請求項1から8のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項10】
F、Cl、及びBrからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で15%以下含有する請求項1から9のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項11】
Cu、Ag、Au、Pd、及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で5%以下含有する請求項1から10のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項12】
紫外領域から可視領域までの波長の光によって光触媒活性が発現される請求項1から11のいずれかに記載のガラスセラミッククス。
【請求項13】
JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上である請求項12に記載のガラスセラミックス。
【請求項14】
紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である請求項1から13のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載のガラスセラミックスを含む光触媒機能性ガラスセラミックス成形体。
【請求項16】
請求項1から14のいずれかに記載のガラスセラミックスを含む親水性ガラスセラミックス成形体。
【請求項17】
請求項1から14いずれかに記載のガラスセラミックスからなる光触媒。
【請求項18】
ファイバー又はビーズの形状を有する請求項17に記載の光触媒。
【請求項19】
請求項17または18に記載の光触媒を含む光触媒材料。
【請求項20】
請求項17または18に記載の光触媒体を含む光触媒部材。
【請求項21】
請求項17または18に記載の光触媒を含む親水性材料。
【請求項22】
請求項17または18に記載の光触媒を含む親水性部材。
【請求項23】
請求項17または18に記載の光触媒を含有する塗料、浄化装置、又はフィルタ。
【請求項24】
請求項1から14のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料の混合物を1200℃以上の温度に保持して溶融し、その後冷却して固化させてガラスセラミックスを得るガラスセラミックスの製造方法。
【請求項25】
前記ガラスセラミックスに対して、さらに熱処理を行う請求項24に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項26】
請求項1から14のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、
前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させてガラスセラミックスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【請求項27】
前記結晶化温度領域は、400℃以上1000℃以下である請求項26に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項28】
前記ガラスセラミックスに対してドライエッチング及び/又はウェットエッチングを行うエッチング工程をさらに有する請求項24から27のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−93765(P2011−93765A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251533(P2009−251533)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】