説明

ガラスセラミックスおよびその製造方法

【課題】優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れた光触媒機能性素材を提供する。
【解決手段】 酸化ニオブの結晶、ニオブ酸塩の結晶及び/又はこれらの固溶体を含む結晶相を含有するガラスセラミックスが提供される。このガラスセラミックスは、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%でNb成分を5〜50%含有してもよく、さらにRnO及び/又はRO成分(Rnは、Li、Na、及びKから選ばれる1種以上、並びにRはMg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種以上を意味する)5〜40%を含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ成分を含む結晶相を含有し、光触媒活性を有するガラスセラミックスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光エネルギーを用いて表面化学反応を起こす光触媒は、太陽光を利用したエネルギーの生成や汚染物質の浄化機能等が見出され、近年様々な分野において注目を浴びている。光触媒活性を有する物質(以下、単に「光触媒」と記すことがある)は、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子や正孔を生成するため、光触媒を含む成形体の表面近傍において、酸化還元反応が強く促進される。また、光触媒を含む成形体の表面は、水に濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
光触媒としては、主に酸化チタンが研究されてきたが、酸化チタンはバンドギャップが3〜3.2eVであるため、波長400nm以下の紫外線を照射する必要があり、可視光では十分な光触媒活性が得られないという欠点がある。また、純粋な酸化チタンは白色の粉末で物質吸着能がほとんど無く、光触媒活性も十分とはいえないため、ドープや固溶等、バンド構造を制御して光触媒活性を高めるための研究が広くなされている。また、その一方で、新規な光触媒を見出すための研究が盛んに行われており、その一つとしてニオブ酸化物が注目されている。例えば、ニオブ酸カリウムは光照射による電荷分離を生じ、光エネルギーを化学エネルギーに変換する水の光分解触媒として注目されており、特許文献1には、水分解に用いる光触媒として、粒子径が小さく比表面積が大きいニオブ酸カリウム、好ましくは、酸化ニッケルを助触媒として担持したニオブ酸カリウム光触媒を水熱合成法により製造する方法が開示されている。
【0004】
一方、酸化ニオブおよびニオブ複合酸化物は、高誘電率材料として知られ、古くからコンデンサの電極、圧電素子、又は光変調素子等として用いられてきた。例えば、特許文献2には、ニオブを含有する錯体を熱分解する等して得られた酸化ニオブを主成分とする2層構造のコンデンサが、特許文献3にはLiNbOの単結晶の薄膜基板に電極を形成した圧電素子が開示されている。また、特許文献4にはニオブ成分を含むガラスを熱処理してニオブ複合塩の結晶を析出させた、光学素子用高誘電材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−126695号公報
【特許文献2】特開2000−188243号公報
【特許文献3】特開平03−190292号公報
【特許文献4】米国特許3114066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
様々な物質が新規な光触媒として見出される中、光触媒に関わる多くの従来技術では、基材の表面に光触媒を含む膜を成膜することによって、光触媒を担持させるという考え方を採用している。しかし、このような考え方に立脚する手法に共通の課題として、基材と光触媒を含む膜との密着性および膜自体の耐久性を確保することが難しい点が挙げられる。つまり、これらの手法で製造された光触媒機能性製品は、光触媒を含む膜が基材から剥離したり、膜が劣化して光触媒機能が損なわれたりするおそれがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、優れた光触媒活性を有するとともに、耐久性にも優れた光触媒機能性素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ガラス中にニオブ成分を含む結晶相、典型的には酸化ニオブの結晶、ニオブ酸塩の結晶及び/又はそれらの固溶体を含む結晶相を生じさせることにより、ガラスセラミックス自体を光触媒として利用できること、さらに、このガラスセラミックスから優れた光触媒機能を有する素材および製品を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(29)に存する。
【0009】
(1)ニオブ成分を含む結晶相を含有し、光触媒活性を有するガラスセラミックス。
【0010】
(2)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Nb成分を5〜50%含有する上記(1)に記載のガラスセラミックス。
【0011】
(3)前記結晶相が、RnNbO結晶、RNb結晶(Rnは、Li、Na、及びKから選ばれる1種以上、並びにRはMg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種以上を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される1種以上の結晶を含む上記(1)又は(2)に記載のガラスセラミックス。
【0012】
(4)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、SiO成分、B成分、及びP成分からなる群より選択される1種以上の成分30〜75%をさらに含有する上記(1)から(3)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0013】
(5)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、RnO及び/又はRO成分(Rn及びRは前記と同じ意味を有する)5〜40%を含有する上記(4)に記載のガラスセラミックス。
【0014】
(6)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Ta成分0〜35%をさらに含有する上記(5)に記載のガラスセラミックス。
【0015】
(7)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、TiO成分及び/又はZrO成分0〜20%をさらに含有する上記(6)に記載のガラスセラミックス。
【0016】
(8)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Al成分0〜30%をさらに含有する上記(7)に記載のガラスセラミックス。
【0017】
(9)酸化物換算組成のモル比で、前記RnO及び/又はRO成分(Rn及びRは前記と同じ意味を有する)の合計量に対する前記Nb及び/又はTa、並びにTiO、ZrO及びAlからなる群より選択される1種以上の成分の合計量の比[(Nb+Ta+TiO+ZrO+Al)/(RnO+RO)]が1より大きい上記(8)に記載のガラスセラミックス。
【0018】
(10)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
GeO成分 0〜20%、及び/又は
Ga成分 0〜20%、及び/又は
In成分 0〜10%、及び/又は
SnO成分 0〜10%、及び/又は
Bi成分 0〜20%、及び/又は
TeO成分 0〜20%、及び/又は
WO成分 0〜20%、及び/又は
MoO成分 0〜20%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分 合計で0〜5%
の各成分をさらに含有する上記(1)から(9)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0019】
(11)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Ln成分(ここで、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上を意味する)を、合計で0〜10%含有する上記(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0020】
(12)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、M成分(ここで、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群より選択される1種以上を意味し、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数である)を、合計で0〜10%含有する上記(1)から(11)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0021】
(13)F、Cl、Brからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で15%以下含有する上記(1)から(12)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0022】
(14)Cu、Ag、Au、Pd、及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で5%以下含有する上記(1)から(13)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0023】
(15)紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である上記(1)から(14)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0024】
(16)JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上である上記(1)から(15)いずれかに記載のガラスセラミックス。
【0025】
(17)球近似したときの平均結晶粒径が200nm以下である上記(1)から(16)のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【0026】
(18)上記(1)から(17)いずれかに記載のガラスセラミックスを含む光触媒機能性ガラスセラミックス成形体。
【0027】
(19)上記(1)から(17)いずれかに記載のガラスセラミックスを含む親水性ガラスセラミックス成形体。
【0028】
(20)上記(1)から(17)いずれかに記載のガラスセラミックスからなる光触媒。
【0029】
(21)上記ファイバー又はビーズの形状を有する(20)の光触媒。
【0030】
(22)上記(20)または(21)いずれかに記載の光触媒を含む光触媒材料。
【0031】
(23)上記(20)または(21)いずれかに記載の光触媒体を含む光触媒部材。
【0032】
(24)上記(20)または(21)いずれかに記載の光触媒を含む親水性材料。
【0033】
(25)上記(20)または(21)いずれかに記載の光触媒を含む親水性部材。
【0034】
(26)上記(20)または(21)いずれかに記載の光触媒を含有する塗料、浄化装置、又はフィルタ。
【0035】
(27)上記(1)から(17)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、
前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶分散ガラスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【0036】
(28)前記結晶化温度領域は、450℃以上1200℃以下である上記(27)に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【0037】
(29)前記ガラスセラミックスに対してドライエッチング及び/又はウェットエッチングを行うエッチング工程をさらに有する上記(27)から(28)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0038】
本発明のガラスセラミックスは、その内部および表面に光触媒活性を持つニオブ成分を含む結晶相が均質に存在しているため、優れた光触媒活性を有する。また、仮に表面が削られても性能の低下が少なく、極めて耐久性に優れたものである。また、本発明のガラスセラミックスは、大きさや形状などを加工する場合の自由度が高く、光触媒機能が要求される様々な物品に利用できる。このように、本発明のガラスセラミックスは、光触媒として種々の用途に利用できる。
【0039】
また、本発明のガラスセラミックスの製造方法によれば、原料の配合組成と熱処理温度の制御によってガラス中にニオブ成分を含む結晶相を生成させることができるため、特殊な設備を用いることなく、優れた光触媒活性を備え、光触媒機能性素材として有用なガラスセラミックスを工業的規模で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例1のガラスセラミックスについてのXRDパターンである。
【図2】本発明の実施例2のガラスセラミックスについてのXRDパターンである。
【図3】本発明の実施例12のガラスセラミックスについてのXRDパターンである。
【図4】本発明の実施例1のガラスセラミックスについて紫外線照射時間に対する水との接触角をプロットしたグラフである。
【図5】本発明の実施例2のガラスセラミックスについて紫外線照射時間に対する水との接触角をプロットしたグラフである。
【図6】本発明の実施例12のガラスセラミックスについて紫外線照射時間に対する水との接触角をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[ガラスセラミックス]
本発明のガラスセラミックスは、ニオブ成分を含む結晶を含有する。ガラスセラミックスは、ガラスを熱処理することによりガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料であり、結晶化ガラスとも呼ばれる。本発明のガラスセラミックスは、ニオブ成分を含む結晶相を含有するために強い光触媒活性を有しており、そのまま光触媒として用いることができる。このように、ニオブ成分の結晶相を有するガラスセラミックスを光触媒として使用することは、本発明によってはじめて実現されたものである。本発明のガラスセラミックスは、ガラス相及び結晶相から成る材料のみならず、ガラス相が全て結晶相に変化した材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が100質量%のものも含んでよい。本発明のガラスセラミックスは、結晶化工程の制御により結晶の粒径、析出結晶の種類、結晶化度をコントロールできる。
【0042】
次に、本発明のガラスセラミックスの成分及び物性について説明する。なお、本明細書中において、ガラスセラミックスを構成する各成分の含有量は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0043】
ニオブ成分を含む結晶、例えば酸化ニオブの結晶、ニオブ酸塩の結晶及び/又はこれらの固溶体は、ガラスセラミックスに光触媒特性をもたらす必須成分である。酸化ニオブは、原料や調製方法により2〜5価の酸化物になり、その結晶は、NbO結晶、Nb結晶、NbO結晶、Nb結晶等が知られているが、5価の酸化数を有するNb結晶が最も安定で好ましい。ニオブ酸塩は、Nbと他の元素の酸化物との複合酸化物と考えられ、その結晶は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO)結晶、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO)結晶、ニオブ酸カリウム(KNbO)結晶、ニオブ酸カルシウム(CaNb)結晶、ニオブ酸ストロンチウム(SrNb)結晶、ニオブ酸バリウム(BaNb)結晶、ニオブ酸マグネシウム(MgNb)結晶、二ニオブ酸ストロンチウム(SrNb)結晶、及び二ニオブ酸カリウムストロンチウム(KSrNb)結晶等を含むがこれらに限定されない。本発明のガラスセラミックスでは、光触媒活性を持つ限り酸化ニオブの結晶及び/又はニオブ酸塩の結晶の種類は問わないが、特に強い光触媒活性を有するRnNbO(RnはLi、Na、及びKからなる群より選択される1種以上である)結晶を含むことが好ましい。一つの典型的なニオブ酸塩であるニオブ酸カリウム(KNbO)結晶の結晶構造はペロブスカイト構造であり、温度により菱面体晶、斜方晶、正方晶、立方晶となることが知られているが、光触媒活性を有する限り、どの結晶格子のものでもよい。
【0044】
ニオブ酸塩の結晶は、他の元素との固溶体の状態で存在していてもよい。ここで、前記固溶体としては、例えばRn(TaNb1−q)O、Rnαβ(TaNb1−qγδ(式中、Rn及びRは前記と同じ意味を有し、qは化学量論的にとり得る数を意味し、α+2β+5γ=2δの関係式からなり、γは1より大きい整数を意味する)などを挙げることができる。なお、固溶体は置換型固溶体でも侵入型固溶体でもよい。
【0045】
本発明のガラスセラミックスは、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%でNb成分を5〜50%の範囲内で含有することが好ましい。Nb成分の含有量が5%未満では、十分な光触媒活性が得られない。一方、Nb成分の含有量が50%を超えると、ガラスの安定性が損なわれる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは5%、より好ましくは10%、最も好ましくは15%を下限とし、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは35%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラスセラミックス中に導入することができる。
【0046】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と化学的耐久性を高める成分であるとともに、Si4+イオンが析出したニオブ成分を含む結晶相の近傍に存在し、光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、SiO成分の含有量が75%を超えると、ガラスの溶融性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶相が析出し難くなる。従って、SiO成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは40%、最も好ましくは50%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは70%、最も好ましくは65%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0047】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が75%を超えると、ガラスの化学耐久性が低下し、ニオブ成分を含む結晶相が析出し難い傾向が強くなる。従って、B成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するB成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは35%、最も好ましくは40%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは65%、最も好ましくは55%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0048】
成分は、ガラスの網目構造を構成する成分であり、任意に添加できる成分である。本発明のガラスセラミックスを、P成分が網目構造の主成分であるリン酸塩系ガラスにすることにより、より多くのニオブ成分をガラスに取り込ませることができる。また、P成分を配合することによって、より低い熱処理温度でニオブ成分を含む結晶を析出させることが可能である。しかし、Pの含有量が75%を超えるとニオブ成分を含む結晶相が析出し難くなる。従って、P成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するP成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは35%を下限とし、好ましくは75%、より好ましくは65%、最も好ましくは55%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、NaPO、BPO、HPO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0049】
本発明のガラスセラミックスは、SiO成分、B成分、及びP成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を30%以上75%以下の範囲内で含有することが好ましい。特に、SiO成分、B成分、及びP成分の合計量を75%以下にすることで、ガラスの溶融性、安定性及び化学耐久性が向上するとともに、目的の結晶相がより析出しやすくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(SiO+B+P)は、好ましくは75%、より好ましくは70%、最も好ましくは65%を上限とする。なお、これらの成分の合計量が30%未満であると、ガラスが得られにくくなるので、30%以上の添加が好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上が最も好ましい。また、SiO成分、B成分、及びP成分の中では、ガラスの安定性や耐久性を向上させやすく、目的の結晶相を析出させやすい等の理由でSiO成分が最も好ましく、少なくともSiO成分を50%以上含有することにより、ガラスセラミックスの前駆体であるガラスを安定に生産でき、かつ耐久性と光触媒特性の高いガラスセラミックスが得られる。
【0050】
LiO成分は、Nb成分と光触媒活性を有するニオブ酸リチウム結晶を生成するとともに、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、LiO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0051】
NaO成分は、Nb成分と光触媒活性を有するニオブ酸ナトリウム結晶を生成するとともに、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、NaO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0052】
O成分は、Nb成分と光触媒活性を有するニオブ酸カリウム結晶を生成するとともに、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、KO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0053】
本発明のガラスセラミックスは、RnO(式中、RnはLi、Na、およびKからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を40%以下含有することが好ましい。特に、RnO成分の合計量を40%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、ニオブ成分を含む結晶相が析出し易くなるため、ガラスセラミックスの触媒活性を確保することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、RnO成分の合計量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。
【0054】
MgO成分は、Nb成分と光触媒活性を有するニオブ酸マグネシウム結晶を生成するとともに、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、MgO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0055】
CaO成分は、Nb成分と光触媒活性を有するニオブ酸カルシウム結晶を生成するとともに、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、CaO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0056】
SrO成分は、Nb成分と光触媒活性を有するニオブ酸ストロンチウム結晶を生成するとともに、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、SrO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0057】
BaO成分は、Nb成分と光触媒活性を有するニオブ酸バリウム結晶を生成するとともに、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、BaO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなりニオブ成分を含む結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO、BaF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0058】
ZnO成分は、Nb成分と光触媒活性を有するニオブ酸亜鉛結晶を生成するとともに、ガラスの溶融性と安定性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、ZnO成分の含有量が40%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いて結晶化ガラスに導入することができる。
【0059】
本発明のガラスセラミックスは、RO(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を40%以下含有することが好ましい。特に、RO成分の合計量を40%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、ニオブ成分を含む結晶相が析出し易くなるため、ガラスセラミックスの触媒活性を確保することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、RO成分の合計量は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。
【0060】
また、本発明のガラスセラミックスは、RO(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上)成分及びRnO(式中、RnはLi、Na、およびKからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を40%以下含有することが好ましい。特に、RO成分及びRnO成分の合計量を40%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、ガラス転移温度(Tg)が下がり、目的の結晶相を有するガラスセラミックスがより容易に得られる。一方で、RO成分及びRnO成分の合計量が40%より多いと、ガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(RO+RnO)は、好ましくは40%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。また、上記RO成分及びRnO成分の中では、高い光触媒特性を得るために特にNaO成分を用いることが最も好ましい。従って、ガラスセラミックス中に、少なくともNaO成分を0.5%以上含有することにより、より高い光触媒特性が得られる。
【0061】
ここで、本発明のガラスセラミックスは、RO(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上)成分及びRnO(式中、RnはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することにより、ガラスの安定性と化学耐久性が大幅に向上し、熱処理後のガラスセラミックスの機械強度がより高くなり、ニオブ成分を含む結晶相がガラスからより析出し易くなる。従って、本発明のガラスセラミックスは、RO成分及びRnO成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することが好ましい。
【0062】
Ta成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、且つニオブ成分を含む結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ta成分の含有量が35%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0063】
TiO成分は、ガラスの溶融性、安定性及び化学耐久性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。また、TiO成分は、ニオブ成分を含む結晶相の核形成剤の役割を果たす効果もあるので、ニオブ成分を含む結晶相の析出に寄与する。しかし、TiO成分の含有量が20%を超えると、ガラス化が難しくなるし、目的以外の結晶相の析出も顕著となる。従って、TiO成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0064】
ZrO成分は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、ニオブ成分を含む結晶の析出を促進し、且つZr4+イオンがニオブ成分を含む結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、ZrO成分の含有量が20%を超えると、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0065】
本発明のガラスセラミックスは、TiO成分及び/又はZrO成分を20%以下含有することが好ましい。特に、これらの成分の合計量を20%以下にすることで、ガラスセラミックスの安定性が確保されるため、良好なガラスセラミックスを形成することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(TiO+ZrO)は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。なお、TiO成分及びZrO成分は、いずれも含有しなくとも高い光触媒特性を有するガラスセラミックスを得ることは可能であるが、これらの成分の合計量を0.1%以上にすることで、ガラスセラミックスの光触媒特性をさらに向上させることができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(TiO+ZrO)は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1%、最も好ましくは2%を下限とする。
【0066】
Al成分は、ガラスの安定性及びガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、ガラスからのニオブ成分を含む結晶相の析出を促進し、且つAl3+イオンがニオブ成分を含む結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が30%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、Al成分を添加する場合、酸化物換算組成の全物質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とし、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0067】
本発明のガラスセラミックスは、酸化物換算組成のモル比で、前記RnO及び/又はRO成分(Rn及びRは前記と同じ意味を有する)の合計量に対する前記Nb及び/又はTa、並びにTiO、ZrO及びAlからなる群より選択される1種以上の成分の合計量の比[(Nb+Ta+TiO+ZrO+Al)/(RnO+RO)]が1より大きいことが好ましい(Rn及びRは前記と同じ意味を有する)。これらの成分の合計量の比を1より大きくすることで、ニオブ成分を含む結晶相がより析出し易くなるため、ガラスセラミックスの光触媒特性のさらなる向上に寄与することができる。また、光触媒特性をさらに優れたものにするために、上記合計量の比[(Nb+Ta+TiO+ZrO+Al)/(RnO+RO)](Rn及びRは前記と同じ意味を有する)は3以下が好ましく、1.1〜2の範囲内がより好ましく、1.1〜1.7の範囲内がさらに好ましく、1.1〜1.5の範囲内が最も好ましい。なお、TiO成分、ZrO成分、及びAl成分は、いずれも含有しなくとも高い光触媒特性を有するガラスセラミックスを得ることは可能であるが、これらの成分の合計量を0.1%以上にすることで、ニオブ成分を含む結晶相の析出がさらに促進されるため、ガラスセラミックスの光触媒特性のさらなる向上に寄与することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する合計量(TiO+ZrO+Al)は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とする。
【0068】
GeO成分は、上記のSiOと相似な働きを有する成分であり、本発明のガラスセラミックス中に任意に添加できる成分である。特に、GeO成分の含有量を20%以下にすることで、高価なGeO成分の使用が抑えられるため、ガラスセラミックスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0069】
Ga成分は、ガラスの安定性を高め、ガラスからのニオブ成分を含む結晶相の析出を促進し、且つGa3+イオンがニオブ成分を含む結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が20%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するGa成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa、GaF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0070】
In成分は、上記のAl及びGaと相似な効果がある成分であり、任意に添加できる成分である。In成分は高価なため、酸化物換算組成の全物質量に対するその含有量の上限は10%以下にすることが好ましく、8%以下にすることがより好ましく、5%以下にすることが最も好ましい。In成分は、原料として例えばIn、InF等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0071】
SnO成分は、ニオブ成分を含む結晶の析出を促進し、且つニオブ成分を含む結晶相に固溶して光触媒特性の向上に効果がある成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は還元剤の役割を果たし、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が10%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するSnO成分の含有量は、合計で、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.01%、より好ましくは0.02%、最も好ましくは0.03%を下限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0072】
Bi成分は、ガラスの溶融性と安定性を高め、光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、Bi成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶の析出が難しくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0073】
TeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高め、光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。また、ガラス転移温度を下げてニオブ成分を含む結晶を生成させやすくするとともに、熱処理温度をより低く抑える成分である。しかし、TeO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、ニオブ成分を含む結晶の析出が難しくなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0074】
WO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つニオブ成分を含む結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、WO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0075】
MoO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、且つニオブ成分を含む結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、MoO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するMoO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。MoO成分は、原料として例えばMoO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0076】
As成分及び/又はSb成分は、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は、還元剤の役割を果たすので、間接的に光触媒活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で5%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対するAs成分及び/又はSb成分の含有量の合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.001%、より好ましくは0.002%、最も好ましくは0.005%を下限とする。As成分及びSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0077】
なお、ガラスを清澄させ、脱泡させる成分は、上記のAs成分及びSb成分に限定されるものではなく、例えばCeO成分やTeO成分等のような、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0078】
Ln成分(式中、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上とする)は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高める成分であり、且つニオブ成分を含む結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ln成分の含有量の合計が10%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、Ln成分の合計量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。Ln成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、CeO、CeF、Nd、Dy、Yb、Lu等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。
【0079】
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される1種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数とする)は、ニオブ成分を含む結晶相に固溶するか、又はその近傍に存在することで、光触媒特性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックス中の任意成分である。特に、M成分の合計量を10%以下にすることで、ガラスセラミックスの安定性を高め、ガラスセラミックスの外観の色を容易に調節することができる。従って、酸化物換算組成の全物質量に対する、M成分の合計量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.002%、最も好ましくは0.005%を下限とする。
【0080】
本発明のガラスセラミックスには、F成分、Cl成分、及びBr成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分が含まれていてもよい。これらの成分は、ニオブ成分を含む結晶相に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で15%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、良好な特性を確保するために、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する非金属元素成分の含有量の外割り質量比の合計は、好ましくは15%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。これらの非金属元素成分は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形でガラスセラミックス中に導入するのが好ましい。なお、本明細書における非金属元素成分の含有量は、ガラスセラミックスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、非金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。非金属元素成分の原料は特に限定されないが、例えば、F成分の原料としてZrF、AlF、NaF、CaF等、Cl成分の原料としてNaCl、AgCl等、Br成分の原料としてNaBr等を用いることで、ガラスセラミックス内に導入することができる。なお、これらの原料は、2種以上を組み合わせて添加してもよいし、単独で添加してもよい。
【0081】
本発明のガラスセラミックスには、Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分およびPt成分から選ばれる少なくとも1種の金属元素成分が含まれていてもよい。これらの金属元素成分は、ニオブ成分を含む結晶相の近傍に存在することで、光触媒活性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの金属元素成分の含有量の合計が5%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性がかえって低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する上記金属元素成分の含有量の外割り質量比合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。これらの金属元素成分は、原料として例えばCuO、CuO、AgO、AuCl、PtCl、PtCl、HPtCl、PdCl等を用いてガラスセラミックスに導入することができる。なお、本明細書における金属元素成分の含有量は、ガラスセラミックスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。また、これらの成分を添加する場合は、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.002%、最も好ましくは0.005%を下限とする。
【0082】
本発明のガラスセラミックスには、上記成分以外の成分をガラスセラミックスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスセラミックスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、ガラスセラミックスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、このガラスセラミックスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0083】
本発明のガラスセラミックスは、その組成が酸化物換算組成の全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
Nb成分 8〜80質量%
並びに
SiO成分 15〜50質量%及び/又は
成分 15〜50質量%及び/又は
成分 10〜50質量%及び/又は
LiO成分 0〜20質量%及び/又は
NaO成分 0〜25質量%及び/又は
O成分 0〜25質量%及び/又は
MgO成分 0〜25質量%及び/又は
CaO成分 0〜30質量%及び/又は
SrO成分 0〜30質量%及び/又は
BaO成分 0〜30質量%及び/又は
Ta成分 0〜70質量%及び/又は
TiO成分 0〜20質量%及び/又は
ZrO成分 0〜15質量%及び/又は
Al成分 0〜20質量%及び/又は
GeO成分 0〜10質量%及び/又は
Ga成分 0〜15質量%及び/又は
In成分 0〜10質量%及び/又は
SnO成分 0〜10質量%及び/又は
Bi成分 0〜30質量%及び/又は
TeO成分 0〜30質量%及び/又は
WO成分 0〜30質量%及び/又は
MoO成分 0〜10質量%及び/又は
As成分及びSb成分 合計で0〜5質量%
Ln成分 合計で 0〜15質量%及び/又は
成分 合計で 0〜10質量%及び/又は
さらに、
前記酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量100%に対して、
F成分、Cl成分、Br成分、S成分、N成分、及びC成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分 0〜10質量%及び/又は
Cu成分、Ag成分、Au成分、Pd成分、及びPt成分からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分 0〜5質量%
【0084】
また、本発明のガラスセラミックスは、Nb、RnNbO、RNb、RNb及びこれらの固溶体のうち1種以上からなる結晶相をガラス全体積に対する体積比で1%以上95%以下の範囲内で含んでいることが好ましい(式中、RnはLi、Na、Kから選ばれる1種以上とし、RはMg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種以上とする)。これらの結晶相の含有率が1%以上であることにより、ガラスセラミックスが良好な光触媒特性を有することができる。一方で、上記結晶相の含有率が95%以下であることにより、ガラスセラミックスが良好な機械的な強度を得ることができる。
【0085】
また、本発明のガラスセラミックスの結晶化率は、体積比で好ましくは1%、より好ましくは3%、最も好ましくは5%を下限とし、好ましくは98%、より好ましくは95%、最も好ましくは90%を上限とする。前記結晶の大きさは、球近似したときの平均粒径が、200nm以下であることが好ましい。熱処理条件をコントロールすることにより、析出した結晶相のサイズを制御することが可能であるが、ガラスセラミックスの透明性と有効な光触媒特性を同時に付与させるためには、結晶のサイズを200nm以下とすることが好ましく、150nm〜5nmの範囲とすることがより好ましく、100nm〜10nmの範囲とすることが最も好ましい。しかし、ガラスセラミックスの透明性を考慮しない場合は、結晶のサイズが200nmより大きくなっても構わない。また、ガラスセラミックス中のガラス相と結晶相との屈折率が近似している場合には、結晶のサイズに関わらず透明性が得られるので、結晶のサイズに制約はなく、200nmより大きくなっても構わない。結晶粒径及びその平均値はXRDの回折ピークの半値幅より、シェラーの式より見積もることができる。回折ピークが弱かったり、重なったりする場合は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した結晶粒子面積から、これを円と仮定してその直径を求めて測定できる。顕微鏡を用いて平均値を算出する際には、無作為に100個以上の結晶直径を測定することが好ましい。
【0086】
本発明のガラスセラミックスは、紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、またはそれらが複合した波長の光がガラスセラミックスの表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、ガラスセラミックスの表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、ガラスセラミックスを防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。
【0087】
また、本発明のガラスセラミックスは、紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下であることが好ましい。これにより、ガラスセラミックスの表面が親水性を呈し、セルフクリーニング作用を有するため、ガラスセラミックスの表面を水で容易に洗浄することができ、汚れによる光触媒特性の低下を抑制することができる。光を照射したガラスセラミックス表面と水滴との接触角は、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、20°以下が最も好ましい。
【0088】
さらに本発明のガラスセラミックスは、JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上であることが好ましい。光触媒には紫外線があたると強力な酸化力を生じ、触れた有機物を二酸化炭素や水に分解する性能がある。これを酸化分解性能と呼び、以下のようなセルフクリーニング性能試験により性能評価することができる。試験片に、有機色素(メチレンブルー)を溶かした水を接触させ、分光光度計で初期の吸光度(光が吸収される度合い)を測る。一定時間紫外線を照射し、吸光度の測定を行う操作を繰り返す。光触媒により色素が分解されるため、溶液は徐々に濃度が下がり透明となり、吸光度は下がる。この濃度の経時変化から色素の分解速度が算出でき、それが試験片のセルフクリーニング性能(酸化分解性能)の指標となる。
【0089】
[ガラスセラミックスの製造方法]
次に、本発明のガラスセラミックスの製造方法について、説明する。ただし、本発明のガラスセラミックスの製造方法は、以下に示す方法に限定されるものではない。本実施の形態のガラスセラミックスの製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させてガラスセラミックスを得る再冷却工程と、を有することができる。
【0090】
(溶融工程)
溶融工程は、上述の組成を有する原料を混合し、その融液を得る工程である。より具体的には、ガラスセラミックスの各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合して、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して電気炉で1200〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶融して攪拌均質化して融液を作製する。なお、原料の溶融の条件は上記温度範囲に限定されず、原料組成物の組成及び配合量等に応じて、適宜設定することができる。
【0091】
(冷却工程)
冷却工程は、溶融工程で得られた融液を冷却してガラス化することで、ガラスを作製する工程である。具体的には、融液を流出して適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。ここで、ガラス化の条件は特に限定されるものではなく、原料の組成及び量等に応じて適宜設定されてよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、板状、粒状等であってよいが、ガラス体を迅速且つ大量に作製できる点では、板状であることが好ましい。
【0092】
(再加熱工程)
再加熱工程は、冷却工程で得られたガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる工程である。この工程では、昇温速度及び温度が結晶相の形成や結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、これらを精密に制御することが重要である。
【0093】
(結晶化工程)
結晶化工程は、結晶化温度領域で所定の時間保持することによりNb、RnNbO、RNb等の結晶を生成させる工程である。この結晶化工程で結晶化温度領域に所定時間保持することにより、ナノからミクロン単位までの所望のサイズを有するNb、RnNbO、RNb等の結晶をガラス体の内部に均一に分散させて形成できる。結晶化温度領域は、例えばガラス転移温度を超える温度領域である。ガラス転移温度はガラス組成ごとに異なるため、ガラス転移温度に応じて結晶化温度を設定することが好ましい。また、結晶化温度領域は、ガラス転移温度より10℃以上高い温度領域とすることが好ましく、15℃以上高くすることがより好ましく、20℃以上高くすることが最も好ましい。好ましい結晶化温度領域の下限は450℃であり、より好ましくは500℃であり、最も好ましくは550℃である。他方、結晶化温度が高くなり過ぎると、目的以外の未知相が析出する傾向が強くなり、光触媒特性が消失し易くなるので、結晶化温度領域の上限は1200℃が好ましく、1100℃がより好ましく、1000℃が最も好ましい。この工程では、昇温速度及び温度が結晶のサイズに大きな影響を及ぼすので、組成や熱処理温度に応じて適切に制御することが重要である。また、結晶化のための熱処理時間は、ガラスの組成や熱処理温度などに応じて結晶をある程度まで成長させ、かつ十分な量の結晶を析出させ得る条件で設定する必要がある。熱処理時間は、結晶化温度によって様々な範囲で設定できる。昇温速度を遅くすれば、熱処理温度まで加熱するだけでいい場合もあるが、目安としては高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。結晶化過程は、1段階の熱処理過程を経ても良く、2段階以上の熱処理過程を経ても良い。
【0094】
(再冷却工程)
再冷却工程は、結晶化が完了した後、温度を結晶化温度領域外まで低下させてNb、RnNbO、RNb等の結晶相を有するガラスセラミックスを得る工程である。
【0095】
なお、上記のガラス化及び再加熱による結晶化過程を経由せず、冷却速度を制御しながら溶液を冷却し、冷却の過程で結晶化温度領域を所定の時間通過させることで、液体から直接にニオブ成分を含む結晶相を析出させることにより、目的のガラスセラミックスを作製することも可能である。
【0096】
(エッチング工程)
結晶が生じた後のガラスセラミックスは、そのままの状態、または研磨などの機械的な加工を施した状態で高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックスに対してエッチングを行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックスの光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、酸化ニオブの結晶、ニオブ酸塩の結晶及び/又はこれらの固溶体を含む結晶相が残る多孔質体を得ることが可能である。ここで、エッチングの方法としては、例えば、ドライエッチング、溶液への浸漬によるウェットエッチング、およびこれらの組み合わせなどの方法が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラスセラミックスの表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラスセラミックスの表面に吹き付けることで行ってよい。
【0097】
上記製造方法では、必要に応じて成形工程を設けてガラスもしくはガラスセラミックスを任意の形状に加工することができる。
【0098】
[光触媒]
以上のようにして製造されるガラスセラミックスは、そのまま、あるいは任意の形状に加工して光触媒として用いることができる。ここで「光触媒」は、例えば、バルクの状態、粉末状などその形状は問わない。この光触媒は、例えば光触媒材料、光触媒部材(例えば水の浄化材、空気浄化材など)、親水性材料、親水性部材(例えば窓、ミラー、パネル、タイルなど)等として利用できる。
【0099】
[ガラスセラミックス成形体]
本発明のガラスセラミックスを光触媒に適用する場合の好ましい形態について具体例を挙げ説明する。本発明のガラスセラミックスは、任意の形状に成形することにより、光触媒機能性のガラスセラミックス成形体及び/又は親水性のガラスセラミックス成形体として様々な機械、装置、器具類等の用途に利用できる。特に、タイル、窓枠、建材等の用途に用いることが好ましい。これにより、ガラスセラミックス成形体の表面に光触媒機能が奏され、ガラスセラミックス成形体の表面に付着した菌類が殺菌されるため、これらの用途に用いたときに表面を衛生的に保つことができる。また、ガラスセラミックス成形体の表面は親水性を持つため、これらの用途に用いたときにガラスセラミックス成形体の表面に付着した汚れを雨滴等で容易に洗い流すことができる。
【0100】
また、本発明のガラスセラミックス成形体は、用途に応じて、種々の形態に加工することができる。特に、例えばガラスビーズやガラス繊維(ガラスファイバー)の形態を採用することにより、ニオブ成分を含む結晶相の露出面積が増えるため、ガラスセラミックス成形体の光触媒活性をより高めることができる。以下、ガラスセラミックスの代表的な加工形態として、ガラスビーズおよびガラス繊維を例に挙げて説明する。
【0101】
[ガラスビーズ]
本発明におけるガラスビーズは、装飾用、手芸用のビーズではなく、工業用のビーズに関する。工業用のビーズは、耐久性などの利点から、主にガラスを用いて作られており、一般にガラス製の微小球(直径数μmから数mm)をガラスビーズと呼んでいる。代表的な用途として例えば道路の標識板、路面表示ラインに使われる塗料、反射クロス、濾過材、ブラスト研磨材などがある。道路標識塗料、反射クロス等にガラスビーズを混入、分散させると、夜間、車のライト等から出た光がビーズを介して元のところへ反射(再帰反射)し、視認性が高くなる。ガラスビーズのこのような機能は、ジョギング用ウエアー、工事用チョッキ、バイクドライバー用ベスト等にも使用されている。塗料に本発明のガラスセラミックスビーズを混入すると、光触媒機能により、標識板やラインに付着した汚れが分解されるので、常に清潔な状態を維持でき、メンテナンスの手間を大幅に減少できる。さらに、本発明のガラスセラミックスビーズは、組成、析出結晶のサイズ、及び結晶相の量を調整することで、再帰反射機能と光触媒機能を同時に持たせることも可能である。なお、より再帰反射性の高いガラスセラミックスビーズを得るためには、該ビーズを構成するガラスマトリックス相及び/または結晶相の屈折率が1.8〜2.1の範囲内であることが好ましく、特に1.9前後がより好ましい。
【0102】
その他の用途として、工業用のガラスビーズは、濾過材として利用されている。ガラスビーズは砂や石等と異なり、すべて球形であるため充填率が高く間隙率も計算できるので、単独または、他の濾過材と組み合わせて、広く使用されている。本発明のガラスセラミックスビーズは、このようなガラスビーズ本来の機能に加え、光触媒機能を合わせ持つものである。特に、膜やコーティング層などを有さず、単体で光触媒特性を呈するので、剥離による触媒活性劣化がなく、交換やメンテナンスの手間が省け、例えばフィルタ及び浄化装置に好適に用いられる。また、光触媒機能を利用したフィルタ部材及び浄化部材は装置内で光源となる部材に隣接した構成である場合が多いが、ガラスセラミックスのビーズは、装置内の容器などに簡単に納められるので好適に利用できる。
【0103】
さらに、ガラスビーズは、化学的安定性に優れ、球状であることから、被加工物をあまり傷めないので、ブラスト研磨用材に利用される。ブラストとは、粒材を噴射して被加工面に衝突させることによって、掃除、美装、ピーニングなどを行うことをいう。本発明のガラスセラミックスビーズは当該メリットに加え、光触媒機能を併せ持つので、ブラストと同時に光触媒反応を応用した同時加工が可能である。
【0104】
本発明のガラスビーズの粒径は、その用途に応じて適宜決めることができる。例えば、塗料に配合する場合は、100〜2500μm、好ましくは100〜2000μmの粒径とすることができる。反射クロスに使用する場合は、20〜100μm、好ましくは20〜50μmの粒径とすることができる。濾過材に使用する場合は、30〜8000μm、好ましくは50〜5000μmの粒径とすることができる。
【0105】
次に、本発明のガラスセラミックスビーズの製造方法について説明する。本発明のガラスセラミックスビーズの製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液または融液から得られるガラスを用いてビーズ体に成形する成形工程と、ビーズ体の温度を、ガラス転移温度を超える結晶化温度領域に上昇させ、その温度で所定の時間保持し、所望の結晶を析出させる結晶化工程を含むことができる。なお、上記ガラスセラミックスの一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0106】
(溶融工程)
上記一般的製法と同様に実施できる。
【0107】
(成形工程)
その後、溶融工程で得られた融液から微粒状のビーズ体へ成形する。ビーズ体の成形方法には様々なものがあり、適宜選択すれば良いが、一般的に、ガラス融液又はガラス→粉砕→粒度調整→球状化のプロセスを辿って作ることができる。粉砕工程においては、冷却固化したガラスを粉砕したり、融液状のガラスを水に流し入れ水砕したり、さらにボールミルにて粉砕するなどして粒状ガラスを得る。その後篩等を使って粒度を調整し、再加熱して表面張力にて球状に成形したり、黒鉛などの粉末材料と一緒にドラムに入れ、回転させながら物理力で球状に成形する、などの方法がある。または、粉砕工程を経ることなく溶融ガラスから直接球状化させる方法を取ることもできる。例えば溶融ガラスを空気中に噴射して表面張力にて球状化する、流出ノズルから出る溶融ガラスを回転する刃物のような部材で細かく切り飛ばして球状化する、流体の中に滴下して落下中に球状化させる、などの方法がある。通常、成形後のビーズは再度粒度を調整した後に製品化される。成形温度におけるガラスの粘性や失透し易さなどを考慮し、これらの方法から最適なものを選べば良い。
【0108】
(結晶化工程)
上記プロセスによって得られたビーズ体を、再加熱し、所望の結晶を析出させる結晶化工程を行う。結晶化工程では、ガラス組成ごとにガラス転移温度に応じて結晶化温度を設定する必要があるが、具体的にガラス転移温度より10℃以上の高い温度領域で熱処理することが好ましい。例えばガラス転移温度が500℃以上である場合、好ましい熱処理温度の下限は510℃で、より好ましくは520℃で、最も好ましくは530℃である。他方、熱処理温度が高くなり過ぎると、Nb、RnNbO、RNb(Rnは、Li、Na、及びKから選ばれる1種以上、並びにRはMg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種以上を意味する)の結晶相が減少する傾向が強くなり、光触媒特性が消失し易くなる。従って、熱処理温度の上限は1200℃が好ましく、1100℃がより好ましく、1050℃が最も好ましい。1200℃より高いとNb、RnNbO、RNb等の結晶の析出が少なくなる。結晶化の温度及び時間は、結晶相の形成や結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、これらを精密に制御することが非常に重要である。所望の結晶が得られたら結晶化温度領域外まで冷却し結晶が分散したガラスセラミックスビーズを得る。
【0109】
なお、前述したような、ビーズ体成形後に結晶化する手法の他に、融液から直接球状化・冷却する過程で結晶相が析出されるようにしても良い。
【0110】
結晶化工程を行って結晶が生じた後のガラスセラミックスビーズは、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックスビーズに対してエッチング工程を行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックスビーズの光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、光触媒結晶相のみが残る多孔質体ビーズを得ることが可能である。エッチング工程は、上記と同様に実施できる。
【0111】
[ガラスセラミックス繊維]
本発明のガラスセラミックス繊維は、ガラス繊維の一般的な性質を有する。すなわち、通常の繊維に比べ引っ張り強度・比強度が大きい、弾性率・比弾性率が大きい、寸法安定性が良い、耐熱性が大きい、不燃性である、耐化学性が良いなどの物性上のメリットを有し、これらを活かした様々な用途に利用できる。また、繊維の内部及び表面に光触媒結晶を有するので、前述したメリットに加え光触媒特性を有し、さらに幅広い分野に応用できる繊維構造体を提供できる。ここで繊維構造体とは、繊維が、織物、編制物、積層物、又はそれらの複合体として形成された三次元の構造体をいい、例えば不織布を挙げられる。
【0112】
ガラス繊維の、耐熱性、不燃性を活かした用途としてカーテン、シート、壁貼クロス、防虫網、衣服類、又は断熱材等があるが、本発明のガラスセラミックス繊維を用いると、さらに前記用途における物品に光触媒作用による、消臭機能、汚れ分解機能などを与え、掃除やメンテナンスの手間を大幅に減らすことができる。
【0113】
また、ガラス繊維はその耐化学性から濾過材として用いられることが多いが、本発明のガラスセラミックス繊維は、単に濾過するだけでなく、光触媒反応によって被処理物中の悪臭物質、汚れ、菌などを分解するので、より積極的な浄化機能を有する浄化装置及びフィルタを提供できる。さらには、光触媒層の剥離・離脱による特性の劣化がほとんど生じないので、これらの製品の長寿命化に貢献する。
【0114】
次に、本発明のガラスセラミックス繊維の製造方法について説明する。本発明のガラスセラミックス繊維の製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液または融液から得られるガラスを用いて繊維状に成形する紡糸工程と、該繊維の温度を、ガラス転移温度を超える温度領域に上昇させ、その温度で所定の時間保持し、所望の結晶を析出させる結晶化工程を含むことができる。なお、上記ガラスセラミックスの一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0115】
(溶融工程)
上記一般的製法と同様に実施できる。
【0116】
(紡糸工程)
次に、溶融工程で得られた融液からガラス繊維へ成形する。繊維体の成形方法は特に限定されず、公知の手法を用いて成形すれば良い。巻き取り機に連続的に巻き取れるタイプの繊維(長繊維)に成形する場合は、公知のDM法(ダイレクトメルト法)またはMM法(マーブルメルト法)で紡糸すれば良く、繊維長数十cm程度の短繊維に成形する場合は、遠心法を用いたり、もしくは前記長繊維をカットしても良い。繊維径は、用途によって適宜選択すれば良い。ただ、細いほど可撓性が高く、風合いの良い織物になるが、紡糸の生産効率が悪くなりコスト高になり、逆に太すぎると紡糸生産性は良くなるが、加工性や取り扱い性が悪くなる。織物などの繊維製品にする場合、繊維径を3〜24μmの範囲にすることが好ましく、浄化装置、フィルタなどの用途に適した積層構造体などにする場合は繊維径を9μm以上にすることが好ましい。その後、用途に応じて綿状にしたり、ロービング、クロスなどの繊維構造体を作ることができる。
【0117】
(結晶化工程)
次に、上記プロセスによって得られた繊維又は繊維構造体を再加熱し、繊維の中及び表面に所望の結晶を析出させる結晶化工程を行う。この結晶化工程は、ガラスビーズの結晶化工程と同様に実施できる。所望の結晶が得られたら結晶化温度領域外まで冷却し光触媒結晶が分散したガラスセラミックス繊維又は繊維構造体を得ることができる。
【0118】
なお、前述したような、繊維体成形後に結晶化する手法の他に、紡糸工程におけるガラス繊維の温度を制御し、結晶化工程が同時に行われるようにしても良い。
【0119】
結晶化工程を行って結晶が生じた後のガラスセラミックス繊維は、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックス繊維に対してエッチング工程を行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックス繊維の光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、光触媒結晶相のみが残る多孔質体繊維を得ることが可能である。エッチング工程は、上記と同様に実施できる。
【0120】
以上のように、本発明のガラスセラミックスは、その内部および表面に光触媒活性を持つ酸化ニオブの結晶、ニオブ酸塩の結晶および/またはそれらの固溶体の結晶相が均質に析出しているため、優れた光触媒活性と可視光応答性を有するとともに、耐久性にも優れている。従って、基材の表面にのみ光触媒層が設けられている従来技術の光触媒機能性部材のように、光触媒層が剥離して光触媒活性が失われる、ということがない。また、仮に表面が削られても内部に存在する酸化ニオブの結晶、ニオブ酸塩の結晶および/またはそれらの固溶体の結晶相が露出して光触媒活性が維持される。また、本発明のガラスセラミックスは、溶融ガラスの形態から製造できるので、大きさや形状などを加工する場合の自由度が高く、光触媒機能が要求される様々な物品に加工できる。
【0121】
また、本発明のガラスセラミックスの製造方法によれば、原料の配合組成と熱処理温度の制御によって酸化ニオブの結晶、ニオブ酸塩の結晶および/またはそれらの固溶体の結晶相を生成させることができるため、光触媒技術における大きな課題であった結晶粒子の微細化に要する手間が不要になり、優れた光触媒活性と可視光応答性を有するガラスセラミックスを工業的規模で容易に製造することができる。
【実施例】
【0122】
次に、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に制約されるものではない。
【0123】
実施例1〜23:
表1から4に、本発明の実施例1〜23のガラスセラミックスの組成、結晶化温度、およびこれらのガラスセラミックスに析出した主結晶相の種類を示した。実施例1〜23のガラスセラミックスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定して用いた。これらの原料を、表1から4に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1250℃〜1580℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った。その後、1450℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。得られたガラスについて、表1から4の各実施例に記載された結晶化温度に加熱し、記載された時間にわたり保持して結晶化を行った。その後、結晶化温度から冷却して目的の結晶相を有するガラスセラミックスを得た。
【0124】
ここで、実施例1〜23のガラスセラミックスの析出結晶相の種類は、X線回折装置(フィリップス社製、商品名:X’Pert−MPD)で同定した。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
表1から4に表されるように、実施例1〜23のガラスセラミックスの析出結晶相には、いずれも光触媒活性の高いNaNbO結晶、LiNbO結晶、Na(Nb、Ta)O結晶、Li(Nb、Ta)O結晶、(Na,K)NbO結晶、(Na,Li)NbO結晶を主結晶相として含有していた。また、XRDの回折ピークの半値幅より、シェラー(Scherrer)の式;D=0.9λ/(βcosθ)に基づいてNaNbO結晶のサイズを見積った。ここで、Dは、結晶の大きさ、λはX線の波長、θはブラッグ角(回折角2θの半分)である。その結果は表5に抜粋して示すとおりであり、NaNbO結晶等のサイズが200nm以下であることが確認された。
【0130】
【表5】

【0131】
次に、NaNbO結晶の構造を調べるために、実施例1、2及び12について、それぞれ結晶化条件(温度、時間)を変えて結晶化を行い、X線回折分析(XRD)を行った。結晶化条件及びXRDの結果を図1(実施例1)、図2(実施例2)及び図3(実施例12)に示した。結晶化のための熱処理を行うことにより、図1〜3のXRDパターンにおいて、入射角2θ=22.7°付近に、及び入射角2θ=46.3°付近に「○」で表されるピークが生じており、NaNbO立方晶またはNa(Nb,Ta)O立方晶の存在が確認できた。従って、実施例1、2及び12のガラスセラミックスは、光触媒活性を有するものと考えられた。
【0132】
また、図1〜3の結果から、結晶化条件を変化させることによって、NaNbOまたはNa(Nb,Ta)Oの結晶構造を制御できることも明らかになった。また、結晶化温度を高くする程、さらに同じ結晶化温度なら熱処理時間を長くする程、結晶の析出量が増加することが明らかになった。
【0133】
また、実施例1〜23の一部のガラスセラミックスの親水性についてθ/2法によりサンプル表面と水滴との接触角を測定することにより評価した。すなわち、サンプルをフッ酸で2分間エッチングした後、紫外線照射前および照射後のガラスセラミックスの表面にそれぞれ水を滴下し、ガラスセラミックスの表面から水滴の頂点までの高さhと、水滴の試験片に接している面の半径rと、を協和界面科学社製の接触角計(DM501)を用いて測定し、θ=2tan−1(h/r)の関係式より、水との接触角θを求めた。なお、紫外線照射は、水銀ランプを用い、照度10mW/cm、照射時間10〜60分で行った。代表的に、結晶化条件を変えて製造した実施例1、2及び12のガラスセラミックスについて、表面をフッ酸(HF)でエッチングした後親水性を評価した結果を図4〜6に示した。図4及び図5に示すように、実施例1、2では、概ね10分間の紫外線の照射によって水との接触角が10°以下となることが確認された。図6に示すように、実施例12では、最大でも60分間の紫外線の照射によって水との接触角が20°以下となることが確認された。これにより、本発明の実施例のガラスセラミックスは、高い親水性を有することが明らかになった。また、結晶化温度を高くする程、さらに同じ結晶化温度なら熱処理時間を長くする程、親水性が増加することが明らかになった。
【0134】
また、実施例1の組成を用いて、それぞれ直径が500μmのビーズと50μmのガラス繊維を作製した。その結果、熱処理後は、いずれもサイズ100nm以下のNaNbO結晶相の析出が確認された。
【0135】
以上の実験結果が示すように、NaNbO結晶を含む結晶相を含有する実施例1〜23のガラスセラミックスは、光触媒活性を有していた。しかも、NaNbO結晶が均一にガラスに分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性に優れた光触媒機能性素材として利用できることが確認された。
【0136】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ成分を含む結晶相を含有し、光触媒活性を有するガラスセラミックス。
【請求項2】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Nb成分を5〜50%含有する請求項1に記載のガラスセラミックス。
【請求項3】
前記結晶相が、RnNbO結晶、RNb結晶(Rnは、Li、Na、及びKから選ばれる1種以上、並びにRはMg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる1種以上を意味する)、及びこれらの固溶体からなる群より選択される1種以上の結晶を含む請求項1又は2に記載のガラスセラミックス。
【請求項4】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、SiO成分、B成分、及びP成分からなる群より選択される1種以上の成分30〜75%をさらに含有する請求項1から3のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項5】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、RnO及び/又はRO成分(Rn及びRは前記と同じ意味を有する)5〜40%を含有する請求項4に記載のガラスセラミックス。
【請求項6】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Ta成分0〜35%をさらに含有する請求項5に記載のガラスセラミックス。
【請求項7】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、TiO成分及び/又はZrO成分0〜20%をさらに含有する請求項6に記載のガラスセラミックス。
【請求項8】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Al成分0〜30%をさらに含有する請求項7に記載のガラスセラミックス。
【請求項9】
酸化物換算組成のモル比で、前記RnO及び/又はRO成分(Rn及びRは前記と同じ意味を有する)の合計量に対する前記Nb及び/又はTa、並びにTiO、ZrO及びAlからなる群より選択される1種以上の成分の合計量の比[(Nb+Ta+TiO+ZrO+Al)/(RnO+RO)]が1より大きい請求項8に記載のガラスセラミックス。
【請求項10】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、
GeO成分 0〜20%、及び/又は
Ga成分 0〜20%、及び/又は
In成分 0〜10%、及び/又は
SnO成分 0〜10%、及び/又は
Bi成分 0〜20%、及び/又は
TeO成分 0〜20%、及び/又は
WO成分 0〜20%、及び/又は
MoO成分 0〜20%、及び/又は
As成分及び/又はSb成分 合計で0〜5%
の各成分をさらに含有する請求項1から9のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項11】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、Ln成分(ここで、LnはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上を意味する)を、合計で0〜10%含有する請求項1から10のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項12】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、M成分(ここで、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される1種以上を意味し、x及びyは、それぞれx:y=2:Mの価数、を満たす最小の自然数である)を、合計で0〜10%含有する請求項1から11のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項13】
F、Cl、及びBrからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で15%以下含有する請求項1から12のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項14】
Cu、Ag、Au、Pd、及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を、ガラス全質量に対する外割り質量比で5%以下含有する請求項1から13のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項15】
紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である請求項1から14のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項16】
JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上である請求項1から15いずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項17】
球近似したときの平均結晶粒径が200nm以下である請求項1から16のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項18】
請求項1から17いずれかに記載のガラスセラミックスを含む光触媒機能性ガラスセラミックス成形体。
【請求項19】
請求項1から17いずれかに記載のガラスセラミックスを含む親水性ガラスセラミックス成形体。
【請求項20】
請求項1から17いずれかに記載のガラスセラミックスからなる光触媒。
【請求項21】
ファイバー又はビーズの形状を有する請求項20記載の光触媒。
【請求項22】
請求項20または21いずれかに記載の光触媒を含む光触媒材料。
【請求項23】
請求項20または21いずれかに記載の光触媒体を含む光触媒部材。
【請求項24】
請求項20または21いずれかに記載の光触媒を含む親水性材料。
【請求項25】
請求項20または21いずれかに記載の光触媒を含む親水性部材。
【請求項26】
請求項20または21いずれかに記載の光触媒を含有する塗料、浄化装置、又はフィルタ。
【請求項27】
請求項1から17のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、
前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて結晶分散ガラスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【請求項28】
前記結晶化温度領域は、450℃以上1200℃以下である請求項27に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項29】
前記ガラスセラミックスに対してドライエッチング及び/又はウェットエッチングを行うエッチング工程をさらに有する請求項27又は28のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−93763(P2011−93763A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251531(P2009−251531)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】