説明

ガラスセラミックス繊維

【課題】 表面が耐久性に優れ且つアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上の酸化チタン、又は無機チタンリン酸化合物の結晶相を有しているガラスセラミックス繊維、及び前記ガラスセラミックス繊維を含む光触媒機能性部材を提供する。
【解決手段】 ガラスセラミックス繊維は、モル%で、TiO成分を15.0%〜95.0%、SiO成分及び/又はP成分を5.0%〜70.0%、好ましくはアルカリ金属酸化物成分及び/又はアルカリ土類金属酸化物成分を0.1〜60%含有し、光触媒特性を有する結晶を有する。本ガラスセラミックス繊維は、塗布やコーティング等によって光触媒機能を有する層を形成することなく、繊維を構成する材料そのものが光触媒特性を有するので、機能層の剥離等による劣化の憂いが無く、半永久的に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス繊維、好ましくは光を照射することにより触媒作用を示す結晶相を含むガラスセラミックス繊維、及び該繊維を用いた光触媒機能性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は光を吸収してエネルギーの高い状態になり、このエネルギーを用いて反応物質に化学反応を起こす材料である。光触媒としては金属イオンや金属錯体等も用いられているが、特に二酸化チタン(TiO)をはじめとする半導体の無機化合物が光触媒として高い触媒活性を有することが知られており、最もよく使用されている。半導体は、通常、電気を通さないが、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子が伝導帯に移動し、電子が抜けた正孔が生成され、これら電子と正孔によって強い酸化還元力を持つようになる。光触媒の持つこの酸化還元力は、汚れや汚染物質、悪臭成分等を分解・除去し、浄化する働きをする上、太陽光等を利用できるところから、エネルギーフリーな環境浄化技術として注目を浴びている。また、無機チタン化合物の結晶を含む成形体の表面は、光の照射により水が濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
このような光触媒物質は主に非常に細かい粉末状なので、これをそのまま処理剤として使用すると、被処理物から前記粉末を分離したり、回収したりすることが大変難しいという問題があった。例えば水や空気等の流体の浄化に利用した場合、飛散・浮遊する光触媒物質を濾過処理しなければならないが、微粒子であるため精度の高い濾過フィルターが必要であり、目詰まりが生じてしまう。そのため殆どの場合、光触媒物質は基体の表面に光触媒を固定・担持させた形で利用されている。
【0004】
光触媒を固定・担持させる基材には、ガラス、タイル、フィルム等用途によって様々なものがあるが、光触媒による酸化還元反応は、主に光が当たる表面で起こるため、より多くの汚染物質、悪臭成分を分解・除去できるようにするためには、光触媒と処理させたい物質との接触面積を増やすことが重要である。そのため、光触媒の比表面積を大きくできる基体の形状や構造について多くの工夫がなされており、代表的なものとして繊維状のものに光触媒を担持させたものがある。繊維状のものから形成された部材は、その繊維の細さによっては、板状のものに比べ表面積を1000倍程度まで増やすことができ、反応性を高めることができる。
【0005】
その例として、特開2009−11995号公報には、多数本のシリカガラス繊維からなる繊維状シリカガラス担体の表面に酸化チタンの被膜を形成した繊維状光触媒体が開示されている。しかし、このガラス繊維における光触媒物質は、蒸着(乾式法)又は含浸(湿式法)の手法によって膜状にコーティングされているに過ぎず、皮膜が基材となるガラス繊維から剥離するおそれがあり、耐久性において不十分という問題があった。
【0006】
一方、特開2009−18307号公報には、表面に露出するような状態で光触媒を内部に含有させた繊維が開示されている。前記公報に開示された繊維は、薄膜の形態をとらず、繊維内部に光触媒性物質を内包できるので、触媒脱落が発生しにくい。しかし、繊維を構成する材料が有機材料なので、不燃性、耐熱性、化学的耐久性においては無機材料からなる繊維より劣るという問題があった。また、繊維形成性の有機高分子と触媒前駆体とを溶解させた溶媒から紡糸して作られるものなので、光触媒をより担持し易くするためには、取り扱いが困難な微粒子を用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−11995号公報
【特許文献2】特開2009−18307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、表面に薄膜やコーティング等の加工をする必要が無く、耐久性に優れ且つ光触媒特性を有する材料からなる繊維、具体的には光触媒特性を有する微細な結晶が内部や表面に存在するガラスセラミックス繊維を提供することを目的とする。さらに、同ガラスセラミックス繊維の製造方法、及びこのガラスセラミックス繊維を使った光触媒部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、特定の組成範囲及び製法によって、ナノサイズの原料を使用する必要がなく、酸化チタン(TiO)をはじめとする無機チタン化合物の微細な結晶を有するガラスセラミックス繊維が得られること、及び前記結晶により該繊維に光触媒特性が付与されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で、TiO成分を15.0%〜95.0%、SiO成分及び/又はP成分を5.0%〜70.0%含有するガラスセラミックス繊維。
【0011】
(2)酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で、アルカリ金属酸化物成分及び/又はアルカリ土類金属酸化物成分を0.1〜60モル%含むことを特徴とする(1)に記載のガラスセラミックス繊維。
【0012】
(3)結晶相としてTiO、TiP、(TiO)、RnTi(PO、RTi(PO 及びそれらの固溶体から選ばれる一種以上を含む(1)又は(2)に記載のガラスセラミックス繊維。(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上とし、RはBe、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上とする)
【0013】
(4)前記結晶相がアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上TiOの結晶を含むことを特徴とする(1)から(3)いずれか記載のガラスセラミックス繊維。
【0014】
(5)酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で、B成分を0〜40%、GeO成分を0〜10%、Al成分を0〜20%、ZnO成分を0〜60%、ZrO成分を0〜20%、SnO成分を0〜10%、Bi成分及び/又はTeO成分を0〜20%、Nb成分、Ta成分、及びWO成分から選ばれる1種以上を0〜30%、Ln成分(LnはY、Ce、La、Nd、Gd、Dy、Ybから選ばれる一種又はそれ以上)を0〜30%、M成分(Mは、V、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiから選ばれる一種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:(Mの価数)を満たす最小の自然数とする)を0〜10%、As成分及び/又はSb成分を0〜5%、含有し、酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、外割りの質量%で、F、Cl、Br、S、N、及びCからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分を0〜10%、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Ru、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分を0〜5%含むことを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のガラスセラミックス繊維。
【0015】
(6)紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される(1)から(5)のいずれか記載のガラスセラミックス繊維。
【0016】
(7)(1)から(6)のいずれか記載のガラスセラミックス繊維を含む繊維構造体。
【0017】
(8)(1)から(6)のいずれか記載のガラスセラミックス繊維を含む浄化装置。
【0018】
(9)(1)から(6)のいずれか記載のガラスセラミックス繊維を含むフィルター。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガラスの組成を所定の範囲内とすることによって、酸化チタン(TiO)をはじめとする無機チタン化合物の光触媒結晶が析出し易くなる。この結晶相がガラス繊維の内部と表面に均一に析出するので、表面の剥離の問題がなく、仮に表面が削られても光触媒性能が劣らず、耐久性に優れたセラガラスセラミックス繊維及び該繊維を用いた光触媒機能性繊維構造体を得ることができる。また、繊維状の光触媒体であるので、比表面積が大きく、通常微粒子である光触媒と比べて飛散しにくく、巻き取りが可能である等、取扱いが容易である。また、繊維体として扱えるので任意の形状に成形しやすく、目的に応じて充填密度、空隙率を容易に設定でき、任意の形状の容器に簡単に充填することができる。さらに用途に合わせて布状、ウール状、フェルト状等にすることができる。しかも無機材料からなるガラスセラミックス繊維なので、優れた不燃性、耐熱性、化学的耐久性、強度を呈することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1のガラスセラミックス繊維についてのXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の繊維を構成するガラスセラミックスは、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対して、モル%でTiO成分を15.0%以上90.0%以下、SiO成分及び/又はP成分の一種以上を合計で5.0%以上70.0%以下含有するガラスセラミックスからなる。TiO成分並びにSiO成分及び/又はP成分を併用し、その含有量を所定の範囲内とすることによって、アナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型の酸化チタン(TiO)をはじめとする無機チタン化合物の結晶が析出し易くなる。これらの結晶相は光触媒特性を有し、ガラス繊維の内部と表面に均一に析出するので、表面の剥離の問題がなく、仮に表面が削られても性能が劣らず、耐久性に優れたガラスセラミックス繊維を得ることができる。
【0022】
本発明におけるガラスセラミックスとは、ガラスを熱処理することによりガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料であり、ガラス相及び結晶相から成る材料のみならず、ガラス相が全て結晶相に変化した材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が100wt%のものも含んでよい。一般に用いられる粉体から得られるエンジニアリングセラミックスやセラミックス焼結体は、ポアフリーの完全焼結体となることが難しい。従って、本発明のガラスセラミックスはこのようなポア(例えば、気孔率)の存在により、それらのガラスセラミックスと区別され得る。ガラスセラミックスは結晶化工程の制御により結晶の粒径、析出結晶の種類、結晶化度をコントロールできるので、光触媒材料を製造するにあたって所望の結晶を生成する有効な手段になる。
【0023】
以下、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスの含有成分を上記のように限定した理由を述べる。なお、各成分の含有量の説明については、特に明記しない限りは酸化物基準のモル%で表わすものとする。これは、できたガラスセラミックス中のアニオン成分は全て酸素であると仮定し、カチオン成分の含有量のみを考えるときに、そのカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると考え、それら酸化物のモル分率×100によってガラス中に含有される各成分を表記する方法である。
【0024】
本発明の繊維を構成するガラスセラミックスは、TiO成分を15.0〜95.0%の範囲で含有することが好ましい。TiO成分は、結晶化することにより、TiOの結晶、又はTiとリン/アルカリ金属/アルカリ土類金属との化合物であるTiP、(TiO)、RnTi(PO、RTi(PO、及びそれらの固溶体の結晶(以下、光触媒結晶とする)としてガラスから析出し、光触媒特性をもたらすのに必須で欠かせない成分である。特に、TiO成分の含有量を15.0%以上にすることで、TiO及びその固溶体の結晶が析出し易くなり、ガラスセラミックス中におけるこれら結晶の濃度が高められるため、所望の光触媒特性を確保することができる。一方、TiO成分の含有量が95.0%を超えると、ガラス化が非常に難しくなり、繊維状に成形できなくなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは25.0%、最も好ましくは30.0%を下限とし、好ましくは95.0%、より好ましくは85.0%、最も好ましくは80.0%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばアナターゼ型、ルチル型又はブルッカイト型のTiO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0025】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と化学的耐久性を高める成分であるとともに、Si4+イオンが析出した光触媒結晶相の近傍に存在し、光触媒活性の向上に寄与する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、SiO成分の含有量が70.0%を超えると、ガラスの溶融性及び紡糸性が悪くなるだけでなく、TiO結晶相が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは70.0%、より好ましくは50.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0026】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、より多くのTiO成分をガラスに取り込ませるために有用な成分であり本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる。また、P成分を含有することによって、より低い熱処理温度で光触媒結晶を析出することが可能になるため、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成することができる。また、燐はTiP、(TiO)を形成する際に必須となる成分である。しかしPの含有量が70.0%を超えるとガラスが不安定になり、光触媒結晶相が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するP成分の含有量は、好ましくは70.0%、より好ましくは60.0%、最も好ましくは50.0%を上限とする。P成分は、原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、Na(PO)、BPO、HPO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0027】
本発明の繊維を構成するガラスセラミックスは、SiO成分及び/又はP成分の一種以上を合計で5.0〜70.0%の範囲で含有することが好ましい。これらはガラスの形成酸化物で、ガラスを得るのにおいて重要な成分であり、その全体量が5%未満であると、ガラスが得られないおそれが高い。より好ましい量は10%以上、最も好ましい量は25%以上である。一方、その量が70%を超えるとガラスより光触媒結晶相が析出し難くなるため、含有量は、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下であり、最も好ましくは50%以下である。
【0028】
LiO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックス繊維の弾性を向上させる成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、LiO成分の含有量が50.0%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0029】
NaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックス繊維の弾性を向上させる成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、NaO成分の含有量が50.0%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0030】
O成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックス繊維の弾性を向上させる成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、KO成分の含有量が50.0%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0031】
RbO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックス繊維の弾性を向上させる成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、RbO成分の含有量が10.0%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するRbO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。RbO成分は、原料として例えばRbCO、RbNO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0032】
CsO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックス繊維の弾性を向上させる成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、CsO成分の含有量が10.0%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶相の析出が困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するCsO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。CsO成分は、原料として例えばCsCO、CsNO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0033】
上記RnO成分(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)の総量は50.0%以下であることが好ましい。50.0%以下にすることで、ガラスの安定性、及び紡糸性が向上し、光触媒結晶相が析出し易くなるため、ガラスセラミックス繊維の触媒活性を確保することができる。より好ましくは30.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。また、これらの成分を全く含有しないとガラスの溶融性と安定性が低下する傾向があるので、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.5%以上、最も好ましくは1%以上を含有量の下限とする。特に、光触媒性能を持たせるのに有用なチタンリン酸アルカリ金属化合物(RnTi(PO)の結晶又はその固溶体を析出させるためには、1.0%以上、より好ましくは1.5%以上であることが好ましい。
【0034】
BeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、BeO成分の含有量が50.0%を超えると、かえってガラスの安定性及び紡糸性が悪くなり、光触媒結晶相の析出が困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。
【0035】
MgO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、MgO成分の含有量が50.0%を超えると、かえってガラスの安定性及び紡糸性が悪くなり、光触媒結晶相の析出が困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0036】
CaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、CaO成分の含有量が50.0%を超えると、かえってガラスの安定性及び紡糸性が悪くなり、所望の光触媒結晶相の析出が困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは25.0%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0037】
SrO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、SrO成分の含有量が50.0%を超えると、かえってガラスの安定性及び紡糸性が悪くなり、光触媒結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0038】
BaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、BaO成分の含有量が50.0%を超えると、かえってガラスの安定性及び紡糸性が悪くなり、光触媒結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0039】
上記RO成分(RはBe、Mg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の総量は60.0%以下の範囲であることが好ましい。この範囲でガラスの安定性が向上し、TiO結晶相が析出し易くなるため、ガラスセラミックスの触媒活性を確保することができる。より好ましくは40.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。一方、光触媒性能を持たせるのに有用なRTi(PO又はその固溶体を析出させる場合、1.0%以上、より好ましくは1.5%以上であることが好ましい。
【0040】
また、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスは、RnO(Rnは、Li、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)成分及びRO(Rは、Be、Mg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を総量で60.0%以下含有することが好ましい。特に、RnO成分及びRO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和を60.0%以下にすることで、ガラスの安定性及び紡糸性が向上し、ガラス転移温度(Tg)が下がり、弾性及び機械的な強度の高いガラスセラミックス繊維をより容易に得られる。一方で、RnO成分及びRO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和が60.0%より多いと、ガラスの安定性及び紡糸性が悪くなり、TiO結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する質量和(アルカリ金属酸化物+アルカリ土類金属酸化物)は、好ましくは60.0%、より好ましくは40.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。なお、これらの成分を全く含有しないと、ガラスの安定性が悪化するだけでなく、触媒性能を持たせるのに有用なRnTi(PO、RTi(PO4)6、又はその固溶体を得られなくなるので、少なくとも0.1%以上、より好ましくは0.5%以上、最も好ましくは1.5%以上を下限とする。
【0041】
さらに、RnO成分、及びRO成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することが好ましい。これにより、ガラスの安定性が大幅に向上し、熱処理後のガラスセラミックス繊維の機械強度がより高くなる。また、ガラスセラミックスに光触媒特性を付与するTiO、及びチタンリン酸化合物(その固溶体を含む)の結晶相がガラスからより析出し易くなる。従って、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスは、RnO成分、及びRO成分から選ばれる成分のうち2種類以上を含有することが好ましく、3種類以上を含有することがより好ましい。
【0042】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスセラミックスの安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が40.0%を超えると、溶融時の揮発量が増え製造が難しくなり、光触媒結晶相が析出しくい傾向が強くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するB成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0043】
GeO成分は、上記したSiOと相似な働きを有する成分で、溶融ガラスの安定性に寄与する。母ガラス部材の屈折率や粘性調整のために添加できる任意成分であるが、希少鉱物資源であり高価であるため、10%を超えないことが好ましく、より好ましくは8%以下、最も好ましくは5%以下である。
【0044】
Al成分は、ガラスの安定性及びガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、光触媒結晶の析出を促進し、且つAl3+イオンがこれら結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が20.0%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0045】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分である。また、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。また、耐候性を向上させる効果をもつ。しかし、ZnO成分の含有量が60.0%を超えると、ガラスが分相したり、失透性し易くなる等、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶相の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは60.0%、より好ましくは40.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0046】
ZrO成分は、化学的耐久性を高め、光触媒結晶の析出を促進し、且つZr4+イオンがこれら結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。またZrO成分はガラスセラミックス繊維の耐アルカリ性を向上するのに有効な成分である。しかし、ZrO成分の含有量が20.0%を超えると、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0047】
SnO成分は、光触媒結晶の析出を促進し、Ti4+の還元を抑制してTiO結晶相を得易くし、且つ光触媒結晶相に固溶して光触媒特性の向上に効果がある成分である。また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は還元剤の役割を果たし、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる。しかし、これらの成分の含有量が10.0%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0048】
Bi成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分である。また、ガラス転移温度(Tg)を下げることで熱処理温度が下がるため、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成できる成分であり、任意に添加できる。しかし、Bi成分の含有量が20.0%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、所望の光触媒結晶が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0049】
TeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分である。また、ガラス転移温度(Tg)を下げることで熱処理温度が下がるため、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶を形成できる成分であり、任意に添加できる。しかし、TeO成分の含有量が20.0%を超えると、ガラスの安定性及び紡糸性が悪くなり、所望の光触媒結晶が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0050】
なお、Bi成分及び/又はTeO成分は、二成分の総量で20%を超えないことが好ましく、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を超えないことが好ましい。
【0051】
Nb成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、光触媒結晶の近傍に存在することで光触媒特性を向上させるので、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、Nb成分の含有量が30.0%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0052】
Ta成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性が向上する成分であり、任意に添加できる。しかし、Ta成分の含有量が30.0%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0053】
WO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性が向上する成分であり、任意に添加できる。しかし、WO成分の含有量が30.0%を超えると、ガラスの安定性及び紡糸性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0054】
Nb成分、Ta成分、及びWO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の総量は30.0%以下であることが好ましい。これより多いと、ガラスの安定性が悪くなり、良好なガラスセラミックス繊維を形成できなくなる。より好ましくは、20%、最も好ましくは10%を上限とする。なお、Nb成分、Ta成分、及びWO成分はいずれも含有しなくとも高い光触媒特性を有するガラスセラミックスを得ることは可能であるが、これらの成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和を0.1%以上にすることで、ガラスセラミックスの光触媒特性をさらに向上することができる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する質量和(Nb+Ta+WO)は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。このうち特に、WO成分が光触媒特性を向上させる効果が高
い。
【0055】
Ln成分(式中、LnはY、Ce、La、Nd、Gd、Dy、及びYbからなる群より選択される1種以上)は、ガラスセラミックス繊維の化学的耐久性を高める成分であり、且つ光触媒結晶相に固溶したり、それらの結晶相の近傍に存在することで、光触媒特性が向上する成分であり、任意に添加できる。しかし、Ln成分の含有量の合計が30.0%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、Ln成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Ln成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、CeO、Nd、Dy、Yb、Lu等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0056】
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される1種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:(Mの価数)を満たす最小の自然数とする)は、光触媒結晶相に固溶するか、それら結晶相の近傍に存在することで、光触媒特性の向上に寄与し、且つ一部の波長の可視光を吸収してガラスセラミックスに外観色を付与する成分であり、本発明の繊維を構成するガラスセラミックス中の任意成分である。特に、M成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和を10.0%以下にすることで、ガラスセラミックスの安定性及び紡糸性を高めつつ、ガラスセラミックスの外観の色を容易に調節することができる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、M成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の質量和は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0057】
As成分及びSb成分は、ガラスセを清澄し脱泡する成分であり、また、後述するAg、Au、又はPtイオンと一緒に添加する場合は、還元剤の役割を果たすので、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で5.0%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するAs成分及び/又はSb成分の含有量の合計は、好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。As成分及びSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0058】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のAs成分及びSb成分に限定されるものではなく、例えばCeO成分やTeO成分等のような、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0059】
本発明の繊維を構成するガラスセラミックスには、F成分、Cl成分、Br成分、S成分、N成分、及びC成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分が含まれていてもよい。これらの成分は、光触媒結晶相に固溶するか、その近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で10.0%を超えると、ガラスの安定性及び紡糸性が著しく悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、良好な特性を確保するために、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する非金属元素成分の含有量の合計は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。これらの非金属元素成分は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形でガラスセラミックス中に導入するのが好ましい。なお、本明細書における非金属元素成分の含有量は、ガラスセラミックス繊維を構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、非金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。非金属元素成分の原料は特に限定されないが、N成分の原料としてAlN、SiN等、S成分の原料としてNaS,Fe,CaS等、F成分の原料としてZrF、AlF、NaF、CaF等、Cl成分の原料としてNaCl、AgCl等、Br成分の原料としてNaBr等、C成分の原料としてTiC、SiC又はZrC等を用いることで、ガラスセラミックス内に含有することができる。なお、これらの原料は、一体的に添加してもよいし、独立に添加してもよい。
【0060】
本発明の繊維を構成するガラスセラミックスには、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Ru、及びRhから選ばれる少なくとも1種の金属元素成分が含まれていてもよい。これらの金属元素成分は、光触媒結晶相の近傍に存在することで、光触媒活性を向上させる効果があるため、任意に添加できる。しかし、これらの金属元素成分の含有量の合計が5.0%を超えるとガラスの安定性及び紡糸性が著しく悪くなり、良好なガラスセラミックス繊維が得られなくなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する金属元素成分の含有量の合計は、好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。これらの金属元素成分は、原料として例えばCuO、AgO、AuCl、PtCl等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。なお、本明細書における金属元素成分の含有量は、ガラスセラミックス繊維を構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。
【0061】
本発明の繊維を構成するガラスセラミックスには、他の成分をガラスセラミックス繊維の特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0062】
但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Be、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスセラミックス繊維の製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、ガラスセラミックス繊維に環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、ガラスセラミックス繊維を製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0063】
含有成分を上記に述べたような組成範囲に制限することで、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスは、TiO、TiP、(TiO)、RnTi(PO、RTi(PO、及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上の結晶を有する(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上とし、RはBe、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上とする)。これらの結晶が含まれていることにより、本発明のガラスセラミックス繊維は光触媒機能を発現する。
【0064】
本発明の繊維を構成するガラスセラミックスは、TiOの結晶相を含有することが好ましい。TiOは光触媒としての特性に優れているだけでなく、殆どの酸、塩基、有機溶剤に侵されない化学的に安定性な性質を持ち、人体にも安全であるため、光触媒の材料として最も多く用いられている成分である。工業的に用いられるTiOの結晶型としては、ルチル(Rutile)型、アナターゼ(Anatase)型、及びブルッカイト(Brookite)型が知られているが、高い光触媒特性をもたらすために、アナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上の酸化チタンの結晶を含有することが好ましい。ブルッカイト型の結晶は微弱な光でも高い光触媒特性を示すが、結晶構造が不安定で単相として得ることは困難とされており、アナターゼ型との混相で析出することが多く、安定な状態で光触媒機能を発現するためには、TiOの結晶はアナターゼ型及び/又はルチル型、特にアナターゼ型であることが好ましい。TiOの固溶体としては、溶質物質が決まっている訳ではないので、種類を限定できるものではないが、例えばTi1−xZr等を挙げることができる。
【0065】
また、本発明の繊維を構成するガラスセラミックスは、チタンリン酸化合物、特にTiP、(TiO)の結晶又はその固溶体、もしくはRnTi(POの結晶又はその固溶体、もしくはRTi(POの結晶又はその固溶体を含有することが好ましい。ガラスからこれらの結晶相が析出することにより、より高い光触媒効果が発現できる。
【0066】
本発明の繊維を構成するガラスセラミックス全体に対する前記結晶相は、利用する目的に応じて自由に選択できるが、体積比で1.0%以上95%以下の範囲であることが好ましい。ガラスの中から析出する結晶相の量は、熱処理条件をコントロールすることにより制御することができる。結晶相の量が多いと、光触媒機能が高くなる傾向があるが、ガラスセラミックス繊維全体の機械的強度や透明性が悪くなる可能性があるので、結晶相の量を体積比率で95%以下の範囲とすることが好ましく、93%以下の範囲とすることがより好ましく、90%以下とすることが最も好ましい。一方、結晶相の量が少ないと有効な光触媒特性を引き出せないため、結晶相の量を体積比率で1%以上とすることが好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上とすることが最も好ましい。
【0067】
前記結晶の大きさは、球近似したときの平均径が、5nm〜30μmであることが好ましい。熱処理条件をコントロールすることにより、析出した結晶相のサイズを制御することが可能であるが、有効な光触媒特性を引き出すため、結晶のサイズを5nm〜30μmの範囲とすることが好ましく、5nm〜20μmの範囲とすることがより好ましく、5nm〜10μmの範囲とすることが最も好ましい。粒子径はレーザー回析/散乱式粒度分布測定装置にて測定することができる。
【0068】
本発明の繊維を構成するガラスセラミックス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
TiO成分 13.0〜80.0質量%、
成分及び/又はSiO成分 5〜85.0質量%、
LiO成分 0〜15.0質量%
NaO成分 0〜30.0質量%
O成分 0〜45.0質量%
RbO成分 0〜25.0質量%
CsO成分 0〜30.0質量%
MgO成分 0〜20.0質量%
CaO成分 0〜25.0質量%
SrO成分 0〜45.0質量%
BaO成分 0〜60.0質量%
成分 0〜30.0質量%
GeO成分 0〜40.0質量%
Al成分 0〜30.0質量%
ZnO成分 0〜45.0質量%
ZrO成分 0〜30.0質量%及び/又は
SnO成分 0〜15.0質量%及び/又は
Bi成分 0〜60.0質量%及び/又は
TeO成分 0〜20.0質量%及び/又は
Nb成分 0〜65.0質量%及び/又は
Ta成分 0〜70.0質量%及び/又は
WO成分 0〜55.0質量%及び/又は
Ln成分 合計で0〜50.0質量%及び/又は
成分 合計で0〜20.0質量%及び/又は
As成分及びSb成分 合計で0〜10.0質量%
さらに前記酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量100%に対して、F成分、Cl成分、Br成分、S成分、N成分、及びC成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分 0〜10.0質量%及び/又はCu、Ag、Au、Pd、Pt、Ru、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分 0〜5.0質量%
【0069】
また、本発明のガラスセラミックス繊維は、紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までの波長の光がガラスセラミックス繊維の表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、表面に接触した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、ガラスセラミックスを水質等の浄化用途や抗菌用途等に用いることができる。
【0070】
本発明のガラスセラミックス繊維は、ガラス繊維の一般的な性質を有する。すなわち、通常の繊維に比べ引っ張り強度・比強度が大きい、弾性率・比弾性率が大きい、寸法安定性が良い、耐熱性が大きい、不燃性である、耐化学性が良い等の物性上のメリットを有し、これらを活かした様々な用途に利用できる。また、繊維の内部及び表面に光触媒結晶を有するので、前述したメリットに加え光触媒特性を有し、さらに幅広い分野に応用できる繊維構造体を提供できる。ここで繊維構造体とは、繊維が、織物、編制物、積層物、又はそれらの複合体として形成された三次元の構造体をいい、例えば不織布を挙げられる。
【0071】
ガラス繊維の、耐熱性、不燃性を活かした用途としてカーテン、シート、壁貼クロス、防虫網、衣服類、又は断熱材等があるが、本発明のガラスセラミックス繊維を用いると、さらに前記用途における物品に光触媒作用による、消臭機能、汚れ分解機能等を与え、掃除やメンテナンスの手間を大幅に減らすことができる。また、ガラス繊維はその耐化学性から濾過材として用いられることが多いが、本発明のガラスセラミックス繊維は、単に濾過するだけでなく、被処理物中の悪臭物質、汚れ、菌等を分解するので、より積極的な浄化機能を有する浄化装置及びフィルターを提供できる。さらには、光触媒結晶相の剥離・離脱による特性の劣化が激減するので、長寿命化に貢献する。
【0072】
次に、本発明のガラスセラミックス繊維の製造方法について説明する。
【0073】
本発明のガラスセラミックス繊維の製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液又は融液から得られるガラスを用いて繊維状に成形する紡糸工程と、該繊維の温度を、ガラス転移温度を超える温度領域に上昇させ、その温度で所定の時間保持し、所望の結晶を析出させる結晶化工程を含む。
【0074】
溶融工程において、溶融温度は、混合する組成物の種類及び量により適宜変更することが好ましいが、一般に1250℃以上が好ましく、1300℃以上がより好ましく、1350℃以上が最も好ましい。具体的には、所定の出発原料を均一に混合して白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝からなる容器に入れて、電気炉で1250℃以上の所定温度で加熱して攪拌均質化し、融液を作製する。
【0075】
その後、溶融工程で得られた融液からガラス繊維へ成形する(紡糸工程)。繊維体の成形方法は特に限定されず、公知の手法を用いて成形すれば良い。巻き取り機に連続的に巻き取れるタイプの繊維(長繊維)に成形する場合は、公知のDM法(ダイレクトメルト法)又はMM法(マーブルメルト法)で紡糸すれば良く、繊維長数十cm程度の短繊維に成形する場合は、遠心法を用いたり、もしくは前記長繊維をカットしても良い。繊維径は、用途によって適宜選択すれば良い。ただ、細いほど可撓性が高く、風合いの良い織物になるが、紡糸の生産効率が悪くなりコスト高になり、逆に太すぎると紡糸生産性は良くなるが、加工性や取り扱い性が悪くなる。織物にする場合3〜9μmの範囲にすることが好ましく、積層構造体等にする場合は9μm以上にすることが好ましい。その後、用途に応じて綿状にしたり、ロービング、クロス等の繊維構造体を作る。
【0076】
本発明のガラスセラミックス繊維の製造方法は、上記プロセスによって得られた繊維又は繊維構造体を再加熱し、繊維の中及び表面に所望の結晶を析出させる結晶化工程を含む。結晶化工程では、ガラス組成ごとにガラス転移温度に応じて結晶化温度を設定する必要があるが、具体的にガラス転移温度より10℃以上の高い温度領域で熱処理するのが好ましい。本発明のガラスはガラス転移温度が500℃以上であることから、好ましい熱処理温度の下限は510℃で、より好ましくは600℃で、最も好ましくは650℃である。他方、熱処理温度が高くなり過ぎると、TiO、TiP、(TiO)、RnTi(PO、及びRTi(POの結晶相が減少する傾向が強くなり、光触媒特性が消失し易くなるので、熱処理温度の上限は1200℃が好ましく、1100℃がより好ましく、1050℃が最も好ましい。1200℃より高いと光触媒活性の高いアナターゼ型TiO結晶が形成されやすくなる。特に、RnTi(PO、及びRTi(POを析出させるという点では1000℃以下が好ましい。結晶化の温度及び時間は、結晶相の形成や結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、これらを精密に制御することが非常に重要である。所望の結晶が得られたら結晶化温度領域の範囲外まで冷却し光触媒結晶が分散したガラスセラミックス繊維又は繊維構造体を得る。
【0077】
なお、前述したような、繊維体成形後に結晶化する手法の他に、紡糸工程におけるガラス繊維の温度を制御し、結晶化工程が同時に行われるようにしても良い。
【0078】
結晶化工程を行って結晶が生じた後のガラスセラミックス繊維は、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックス繊維に対してエッチング工程を行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックス繊維の光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、光触媒結晶相のみが残る多孔質体繊維を得ることが可能である。ここで、エッチング工程としては、ドライエッチング及び/又は溶液への浸漬が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラスセラミックス繊維の表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラスセラミックス繊維の表面に吹き付けることで行ってよい。
【実施例】
【0079】
本発明の実施例(No.1〜No.6)及び比較例(No.1)のガラスセラミックス繊維の組成及び結晶化温度、並びに、これらのガラスセラミックス繊維に含まれる結晶相の種類を表1〜2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
本発明の実施例(No.1〜No.6)及び比較例(No.1)のガラスセラミックス繊維は、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定し、表1〜2に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一にバッチを混合した。そのバッチを白金坩堝に投入し、電気炉で700℃に2時間保温してから1450℃に昇温し、その温度で4時間溶解した。その後、白金坩堝を高速に回転させ、白金坩堝上部に設けた細孔からガラス溶液を流出させることにより、平均直径50μmの繊維に成形した。更にその繊維を1mm〜2mmに切断し、光触媒特性の評価に用いた。
【0083】
表1〜2に表されるように、実施例(No.1〜No.6)のガラスセラミックス繊維の析出結晶相には、いずれも光触媒活性の高いTiO、チタンリン酸化合物、又はチタンリン酸アルカリ金属化合物の結晶が含まれていた。このことは、図1に示した実施例(No.1)のガラスセラミックス成形体についてのXRDパターンにおいて、入射角2θ=25°付近をはじめ、「○=TiO、■=NaTi(PO、△=TiP」で表される入射角にピークが生じていることからも明らかである。一方、比較例(No.1)のガラスセラミックス繊維の析出結晶相には、これらの結晶は含まれていなかった。このため、本発明の実施例のガラスセラミックス成形体は、比較例のガラスセラミックス成形体に比べて、高い光触媒特性を有することが推察された。ここで、実施例(No.1〜No.6)及び比較例(No.1)のガラスセラミックス繊維の析出結晶相の種類は、X線回折装置(フィリップス社製、商品名:X’Pert−MPD)で同定した。
【0084】
また、実施例(No.1〜No.6)、及び比較例(No.1)のガラスセラミックス繊維について次の方法で光触媒特性の有無を評価した。濃度10(mg/L)のメチレンブルー溶液にガラスセラミックス繊維を入れて、その溶液を撹拌しながら10mW/cmの紫外線を30分間照射してメチレンブルーの脱色の度合いを観察した。脱色が認められるものを光触媒特性があると判断し、脱色が認められないものを光触媒特性がないと判断した。表1〜2に示すように、いずれのガラスセラミックス繊維もメチレンブルーの脱色現象が起こったことから、光触媒特性を有することが確認された。一方、結晶化する前のガラス繊維及び比較例(No.1)については、メチレンブルーの脱色が認められなかった。
【0085】
また、実施例(No.1〜No.6)のガラスセラミックス繊維の化学的耐久性(耐水性及び耐酸性)は、粒度425〜600μmに破砕してメタノールで洗浄したガラスセラミックス試料を作製し、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06−2008に準じて測定した。
【0086】
耐水性は、ガラスセラミックス試料を白金かごの中に入れ、この白金かごを純水(pH6.5〜7.5)の入った石英ガラス製の丸底フラスコに浸漬し、沸騰水浴中で60分間処理した後のガラス試料の減量率(%)を用いて測定した。ここで、減量率(wt%)が0.05未満の場合をクラス1、減量率が0.05〜0.10未満の場合をクラス2、減量率が0.10〜0.25未満の場合をクラス3、減量率が0.25〜0.60未満の場合をクラス4、減量率が0.60〜1.10未満の場合をクラス5、減量率が1.10以上の場合をクラス6としたものであり、クラスの数が小さいほど、ガラスの耐水性が優れていることを意味する。
【0087】
一方、耐酸性は、ガラスセラミックス試料を白金かごの中に入れ、この白金かごを0.01N硝酸水溶液の入った石英ガラス製の丸底フラスコに浸漬し、沸騰水浴中で60分間処理した後のガラス試料の減量率(%)を用いて測定した。ここで、減量率(wt%)が0.20未満の場合をクラス1、減量率が0.20〜0.36未満の場合をクラス2、減量率が0.35〜0.65未満の場合をクラス3、減量率が0.65〜1.20未満の場合をクラス4、減量率が1.20〜2.20未満の場合をクラス5、減量率が2.20以上の場合をクラス6としたものであり、クラスの数が小さいほど、ガラスの耐酸性が優れていることを意味する。
【0088】
その結果、実施例(No.1〜No.6)のガラスセラミック繊維の耐水性及び耐酸性は、いずれも1級であった。
【0089】
従って、本発明によって、光触媒特性を有する結晶相が容易に析出し、しかも該結晶が繊維の内部と表面に均一に分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性の優れた光触媒機能を有するガラスセラミックス繊維を得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
TiO成分を15.0%〜95.0%、SiO成分及び/又はP成分を5.0%〜70.0%含有するガラスセラミックス繊維。
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
アルカリ金属酸化物成分及び/又はアルカリ土類金属酸化物成分を0.1〜60モル%含むことを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミックス繊維。
【請求項3】
結晶相としてTiO、TiP、(TiO)、RnTi(PO、RTi(PO及びそれらの固溶体から選ばれる一種以上を含む請求項1又は2に記載のガラスセラミックス繊維。(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上とし、RはBe、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上とする)
【請求項4】
前記結晶相がアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiOの結晶を含むことを特徴とする請求項1から3いずれか記載のガラスセラミックス繊維。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
成分を0〜40%、GeO成分を0〜10%、Al成分を0〜20%、ZnO成分を0〜60%、ZrO成分を0〜20%、SnO成分を0〜10%、Bi成分及び/又はTeO成分を0〜20%、Nb成分、Ta成分、及びWO成分から選ばれる1種以上を0〜30%、Ln成分(LnはY、Ce、La、Nd、Gd、Dy、Ybから選ばれる一種又はそれ以上)を0〜30%、M成分(Mは、V、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiから選ばれる一種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:(Mの価数)を満たす最小の自然数とする)を0〜10%、As成分及び/又はSb成分を0〜5%、含有し、酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、外割りの質量%で、F、Cl、Br、S、N、及びCからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分を0〜10%、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Ru、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素成分を0〜5%含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のガラスセラミックス繊維。
【請求項6】
紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される請求項1から5のいずれか記載のガラスセラミックス繊維。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか記載のガラスセラミックス繊維を含む塗料。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか記載のガラスセラミックス繊維を含む浄化装置。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか記載のガラスセラミックス繊維を含むフィルター。

【図1】
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【公開番号】特開2010−275177(P2010−275177A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236679(P2009−236679)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】