説明

ガラスセラミック誘電体用材料およびガラスセラミック誘電体

【課題】ホウケイ酸ガラス粉末を原料とするガラスセラミック誘電体用材料であって、グリーンシート成形時において、スラリーの粘度変化が生じにくく、かつ、流動性が高くレベリング性に優れたガラスセラミック誘電体用材料を提供する。
【解決手段】ホウケイ酸ガラス粉末を49.9〜89.9質量%、アルミナ粉末および/または石英粉末を10〜50質量%、ならびに、ホウ酸アルミニウム粉末および/またはホウ酸シリカ系化合物粉末を0.1〜4質量%含有することを特徴とするガラスセラミック誘電体用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体の配線基板および回路基板等に使用されるガラスセラミック誘電体の作製に用いられ、例えば1000℃以下の温度で焼結可能なガラスセラミック誘電体用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の配線基板および回路基板等は、一般に、誘電体基板とその表面あるいは内部に形成された導体や電極から構成されている。配線基板および回路基板等は、例えば以下のようにして作製される。まず、原料となるセラミック粉末に、結合剤、可塑剤および溶剤を添加してスラリーを調製する。次いで、スラリーをドクターブレード法によってグリーンシートに成形する。その後、グリーンシートを乾燥させ、所定寸法に切断してから、機械的加工を施してスルーホールを形成し、導体や電極となる金属材料をスルーホールおよびグリーンシート表面に印刷する。続いてグリーンシートを複数枚積層し、熱圧着によって一体化する。
【0003】
従来、誘電体基板として、アルミナ粉末を焼結してなるアルミナセラミック誘電体が一般的に使用されてきた。ここで、アルミナセラミック誘電体は焼結温度が約1600℃と高いため、導体材料として、高融点金属であるタングステンを使用する必要があった。しかしながら、タングステンは電気伝導率が低く、導体損失が大きいという問題があった。また、アルミナセラミック誘電体は誘電率が10程度と高く、半導体の信号処理速度が遅くなるという欠点があった。
【0004】
アルミナセラミック誘電体が有する上記問題点を解消するために、近年、ガラスセラミック誘電体等の低温焼結誘電体が開発されている。ガラスセラミック誘電体は、一般にホウケイ酸ガラス粉末とアルミナ粉末を、例えば1000℃以下という比較的低温で焼結することにより作製できる。したがって、低融点かつ低導体損失である銀や銅を導体材料として使用できるという長所がある。また、4〜8程度というアルミナセラミック誘電体よりも低い誘電率を有するという特徴がある(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−113758号公報
【特許文献2】特開平9−295827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホウケイ酸ガラス粉末を原料として使用したガラスセラミック誘電体は、グリーンシート成形を行う際に、スラリー粘度の経時変化が大きく、グリーンシートの厚みにばらつきが生じやすいという問題があった。また、スラリーの流動性が低いためレベリング性に劣り、平滑なグリーンシートが得られにくいという問題があった。
【0007】
以上に鑑み、本発明は、ホウケイ酸ガラス粉末を原料とするガラスセラミック誘電体用材料であって、グリーンシート成形時において、スラリーの粘度変化が生じにくく、かつ、流動性が高くレベリング性に優れたガラスセラミック誘電体用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ホウケイ酸ガラス粉末を49.9〜89.9質量%、アルミナ粉末および/または石英粉末を10〜50質量%、ならびに、ホウ酸アルミニウム粉末および/またはホウ酸シリカ系化合物粉末を0.1〜4質量%含有することを特徴とするガラスセラミック誘電体用材料に関する。
【0009】
本発明者は種々の検討を行った結果、ホウケイ酸ガラス粉末とアルミナ粉末および/または石英粉末の混合物に対して、ホウ酸アルミニウム粉末および/またはホウ酸シリカ系化合物粉末を適量添加すると、スラリー化した際に経時的な粘度変化が小さく、かつ、流動性が高くなりレベリング性が顕著に向上することを見出した。当該効果が得られる機構の詳細は不明であるが、ホウケイ酸ガラス粉末と有機溶剤等の有機成分の界面にホウ酸アルミニウム粉末および/またはホウ酸シリカ系化合物粉末が作用し、流動性を向上させていると推測される。
【0010】
第二に、本発明のガラスセラミック誘電体用材料は、ホウ酸アルミニウム粉末が2Al・Bまたは9Al・2Bであり、ホウ酸シリカ系化合物粉末がBSiO、NaBSi、NaBSi(OH)またはKBSiあることが好ましい。
【0011】
第三に、本発明のガラスセラミック誘電体用材料は、ホウケイ酸ガラスが、ガラス組成として質量%で、SiO 60〜85%、B 10〜20%、RO(RはMg、Ca、SrまたはBa) 0〜20%およびR’O(R’はLi、NaまたはK) 0.1〜3%を含有することが好ましい。
【0012】
第四に、本発明のガラスセラミック誘電体用材料は、グリーンシート状であることが好ましい。
【0013】
第五に、本発明は、前記いずれかのガラスセラミック誘電体用材料を焼結してなることを特徴とするガラスセラミック誘電体に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のガラスセラミック誘電体用材料を使用すれば、グリーンシート成形時において、スラリーの粘度変化が生じにくく、かつ、流動性が高くレベリング性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のガラスセラミック誘電体用材料は、ホウケイ酸ガラス粉末を49.9〜89.9質量%、アルミナ粉末および/または石英粉末を10〜50質量%、ならびに、ホウ酸アルミニウム粉末および/またはホウ酸シリカ系化合物粉末を0.1〜4質量%含有することを特徴とする。
【0016】
ホウケイ酸ガラス粉末はガラスセラミック誘電体用材料の主成分であり、低い誘電率を達成するとともに、低温焼結を可能とする成分である。ホウケイ酸ガラス粉末の含有量は49.9〜89.9質量%、60〜85質量%、特に65〜80質量%であることが好ましい。ホウケイ酸ガラス粉末の含有量が少なすぎると、ガラスセラミック誘電体の気孔率が増大し、強度が低下しやすくなる。一方、ホウケイ酸ガラス粉末の含有量が多すぎると、焼結しなかった余剰のガラス成分がガラスセラミック誘電体表面に浮き出し、配線材料とガラスセラミック誘電体との接着強度が低下したり、また、ガラスセラミック誘電体表面に対する半田の濡れ性が低くなり、半田がガラスセラミック誘電体表面に載らなくなるという不具合が発生する傾向がある。
【0017】
ホウケイ酸ガラス粉末としては、ガラス組成として質量%で、SiO 60〜85%、B 10〜20%、RO(RはMg、Ca、SrまたはBa) 0〜20%およびR’O(R’はLi、NaまたはK) 0.1〜3%を含有するものであることが好ましい。ガラス組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量についての説明において、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を示す。
【0018】
SiOはホウケイ酸ガラスの主成分であり、ガラス骨格を形成する成分である。SiOの含有量は60〜85%、特に65〜80%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。一方、SiOの含有量が多すぎると、焼結温度が高くなって低温焼結(例えば1000℃以下)が困難となる傾向がある。
【0019】
は粘度を低下させる成分である。Bの含有量は10〜20%、特に16〜20%であることが好ましい。Bの含有量が少なすぎると、焼結温度が高くなって低温焼結が困難となる傾向がある。一方、Bの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0020】
ROは溶融温度を低下させる成分である。ROの含有量は合量で0〜20%、0.1〜15%、特に1〜10%であることが好ましい。ROの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなったり、流動性が低下して焼結しにくくなる傾向がある。
【0021】
R’Oは溶融温度を低下させる成分である。R’Oの含有量は合量で0.1〜3%、特に1〜2.5%であることが好ましい。R’Oの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、R’Oの含有量が多すぎると、体積抵抗率が低下して絶縁性に劣る傾向がある。
【0022】
上記成分以外にも、ガラスを安定化するための成分としてAl、ガラス化を容易にする成分としてZnO、配線として使用されるAgによる着色を抑制する成分としてCuO、CeO、SbまたはSnO、耐薬品性(耐酸性または耐アルカリ性)を向上させる成分としてTiOまたはZrO等を合量で30%まで含有してもよい。
【0023】
アルミナ粉末および石英粉末はガラスセラミック誘電体の機械的強度を向上させる成分である。特に、石英粉末は誘電率が3.5程度と低いため、ガラスセラミック誘電体の誘電率を低下させる効果が大きく、配線基板や回路基板としたときの信号処理速度を向上させやすい。アルミナ粉末および石英粉末は、いずれか一方のみを含有してもよく、両者を含有してもよい。アルミナ粉末および石英粉末の含有量は合量で10〜50質量%、特に20〜40質量%であることが好ましい。アルミナ粉末および/または石英粉末の含有量が少なすぎると、ガラスセラミック誘電体の機械的強度が低下する傾向がある。一方、アルミナ粉末および/または石英粉末の含有量が多すぎると、相対的にホウケイ酸ガラス粉末の含有量が少なくなって焼結が不十分となり、結果として、ガラスセラミック誘電体の気孔率が大きくなって機械的強度が低下しやすくなる。
【0024】
ホウ酸アルミニウム粉末およびホウ酸シリカ系化合物粉末は、本発明のガラスセラミック誘電体用材料をスラリー化した際の流動性を向上させ、かつ、粘度を安定化させる成分である。ホウ酸アルミニウム粉末およびホウ酸シリカ系化合物粉末は、いずれか一方のみを含有してもよく、両者を含有してもよい。ホウ酸アルミニウム粉末およびホウ酸シリカ系化合物粉末の含有量は合量で0.1〜4質量%、特に1〜3.5質量%であることが好ましい。ホウ酸アルミニウム粉末および/またはホウ酸シリカ系化合物粉末の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、ホウ酸アルミニウム粉末および/またはホウ酸シリカ系化合物粉末の含有量が多すぎると、ガラスセラミック誘電体の気孔率が大きくなって機械的強度が低下しやすくなる。ホウ酸アルミニウム粉末の具体例としては、2Al・Bおよび9Al・2Bが挙げられる。また、ホウ酸シリカ系化合物粉末の具体例としては、BSiO、NaBSi、NaBSi(OH)およびKBSiが挙げられる。
【0025】
なお、上記説明した各粉末の大きさは特に限定されないが、大きすぎるとガラスセラミック誘電体の気孔率が大きくなって機械的強度が低下しやすくなり、一方、小さすぎると取り扱い性に劣る傾向がある。したがって、各粉末の平均粒子径(D50)は0.01〜100μm、0.1〜50μm、特に1〜10μmであることが好ましい。ここで、平均粒子径(D50)はレーザー回折散乱法により測定された値をいう。
【0026】
本発明のガラスセラミック誘電体用材料には、上記粉末以外にも、熱膨張係数、靭性、誘電率、耐薬品性等の特性を改善する目的で、ジルコン粉末、チタニア粉末またはジルコニア粉末等を含有しても構わない。
【0027】
本発明のガラスセラミック誘電体は、上記ガラスセラミック誘電体用材料を焼結してなるものである。本発明のガラスセラミック誘電体の誘電率は3〜8、特に3.5〜7であることが好ましい。
【0028】
以下に、本発明のガラスセラミック誘電体の詳細な製造方法の一例について説明する。
【0029】
まず、所望のガラス組成となるようにガラス原料を調合した後、例えば1300〜1650℃で溶融する。溶融ガラスを例えば水冷ローラーによって薄板状に成形した後、成形体を粉砕してホウケイ酸ガラス粉末を得る。
【0030】
ホウケイ酸ガラス粉末に対し、アルミナ粉末および/または石英粉末と、ホウ酸アルミニウム粉末および/またはホウ酸シリカ系化合物粉末とを混合し、所定量の結合剤、可塑剤および溶剤を添加してスラリーを調製する。ここで、結合剤としては、例えばポリビニルブチラール樹脂およびメタアクリル酸樹脂等を使用することができる。可塑剤としては、例えばフタル酸ジブチル等を使用することができる。溶剤としては、例えばトルエンおよびメチルエチルケトン等を使用することができる。
【0031】
次いで、スラリーをドクターブレード法によってグリーンシートに成形する。その後、グリーンシートを乾燥させ、所定寸法に切断してから、機械的加工を施してスルーホールを形成し、導体や電極となる金属材料をスルーホールおよびグリーンシート表面に印刷する。続いて、グリーンシートを複数枚積層し、熱圧着によって一体化する。さらに、積層グリーンシートを焼成することによって、ガラスセラミックからなる絶縁層を有する多層基板誘電体を得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明のガラスセラミック誘電体用材料およびガラスセラミック誘電体について、実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
表1および2は、本発明の実施例(試料No.1〜4および8〜14)および比較例(試料No.5〜7、15および16)を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
(1)ホウケイ酸ガラス粉末の作製
まず表に示す組成となるように調合したガラス原料を白金坩堝に投入し、1600℃で3〜6時間溶融した。次に、溶融ガラスを水冷ローラーによって薄板状に成形した。さらに、成形体をボールミルにより粗砕した後、アルコールを添加して湿式粉砕し、平均粒子径が3μmのホウケイ酸ガラス粉末を得た。
【0037】
(2)ガラスセラミック誘電体作製用グリーンシートの作製
ホウケイ酸ガラス粉末に対し、アルミナ粉末または石英粉末(平均粒子径:各3μm)と、ホウ酸アルミニウム粉末またはホウ酸シリカ系化合物粉末(平均粒子径:各1μm)とを混合した。得られた混合粉末100重量部に対して、ポリビニルブチラール樹脂10重量部、フタル酸ジブチル2重量部およびトルエン50重量部を添加し、24時間混合してスラリーを作製した。次いで上記のスラリーを、ドクターブレード法によってシート状に成形して乾燥し、10cm角に切断することによりグリーンシートを得た。
【0038】
このようにして得られたグリーンシート100枚について厚みを測定し、最大値と最小値の差を厚みばらつきとして評価した。
【0039】
(3)ガラスセラミック誘電体の作製および特性評価
得られたグリーンシートを所定枚数積層し、900℃で焼成することにより焼結体(ガラスセラミック誘電体)を得た。得られたガラスセラミック誘電体について、焼結性、1MHzにおける誘電率および曲げ強度を以下の方法により評価または測定した。結果を表1および2に示す。
【0040】
焼結性は、ガラスセラミック誘電体表面に油性マジックインキを塗布し、ガーゼにより拭き取り、インキが残らない(=緻密に焼結した)試料を○、インキが残った(=緻密性が不十分である)試料を×とした。
【0041】
誘電率は、LCRメータを用いて測定した。
【0042】
曲げ強度は、JIS R1601に基づく三点曲げ強度測定に従って評価した。
【0043】
表から明らかなように、実施例であるNo.1〜4および8〜14の各試料はスラリー粘度が8Pa・s以下と低く、グリーンシートの厚みばらつきが6μm以下と小さかった。また、緻密な焼結体が得られたため、曲げ強度が120MPa以上と高かった。
【0044】
一方、比較例であるNo.5の試料は、ホウ酸アルミニウム粉末およびホウ酸シリカ系化合物粉末のいずれも含有しないため、スラリー粘度が25Pa・sと高くなり、また経時変化が大きいため、グリーンシートの厚みばらつきが13μmと大きくなった。また、No.6、7、15および16の試料は、アルミナ粉末、ホウ酸アルミニウム粉末またはホウ酸シリカ系化合物粉末の含有量が多すぎるため、焼結体が緻密化せず、曲げ強度が75MPa以下と低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のガラスセラミック誘電体用材料は、多層基板誘電体等の誘電体以外にも、半導体パッケージや積層チップ部品等の電子部品材料として使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウケイ酸ガラス粉末を49.9〜89.9質量%、アルミナ粉末および/または石英粉末を10〜50質量%、ならびに、ホウ酸アルミニウム粉末および/またはホウ酸シリカ系化合物粉末を0.1〜4質量%含有することを特徴とするガラスセラミック誘電体用材料。
【請求項2】
ホウ酸アルミニウム粉末が2Al・Bまたは9Al・2Bであり、ホウ酸シリカ系化合物粉末がBSiO、NaBSi、NaBSi(OH)またはKBSiあることを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミック誘電体用材料。
【請求項3】
ホウケイ酸ガラスが、ガラス組成として質量%で、SiO 60〜85%、B 10〜20%、RO(RはMg、Ca、SrまたはBa) 0〜20%およびR’O(R’はLi、NaまたはK) 0.1〜3%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のガラスセラミック誘電体用材料。
【請求項4】
グリーンシート状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラスセラミック誘電体用材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガラスセラミック誘電体用材料を焼結してなることを特徴とするガラスセラミック誘電体。

【公開番号】特開2013−56784(P2013−56784A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194553(P2011−194553)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】