説明

ガラスチョップドストランドマットの製造方法

【課題】従来の製造方法では、ガラスチョップドストランドマットの厚み方向にバインダーが均一に付着しないため、得られるマットの毛羽立ちや剥離等、マットの外観、機械強度、ハンドリング性等において問題があった。
【解決手段】ガラスチョップドストランドを散布、積層した積層体に、水および粉末状バインダーを散布して形成されるバインダー付着積層体をプレス成形してガラスチョップドストランドマットを製造する方法において、該積層体に、その下面側から特定量の水を付着させる工程、その上面側から特定量の粉末状バインダーを付着させる工程、およびその後に特定の振動を与える工程を含むガラスチョップドストランドマットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維強化プラスチック成形品用の強化材等として用いられるガラスチョップドストランドマットの製造方法に関する。より詳細には、上下面の毛羽立ちの少ない、柔軟なマットが得られるガラスチョップドストランドマットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスチョップドストランドマットは、通常、以下の方法で得られる(例えば特許文献1〜3参照)。
(1)数10〜数100本のガラス単繊維(繊維径約10〜25μm)をサイジング剤で集束させガラスストランドを得る。
(2)該ガラスストランドを所定の長さに切断してガラスチョップドストランドを得る。
(3)該ガラスチョップドストランドを搬送用ネット上に方向を無秩序に分散させて積層体とする。
(4)該積層体に水および粉末状バインダーを散布し、乾燥機で乾燥、加熱することにより、ガラスチョップドストランド同士を融着したバインダーで結合させ、さらにプレスすることによりガラスチョップドストランドマットを得る。なお、ガラスチョップドストランドマットの目付量(1m2当たりのマットに使用するガラスチョップドストランドの量、以下同じ。)は通常80〜950g/m2である(例えば特許文献1〜3参照)。ここにおけるバインダー樹脂としては、従来から機械粉砕により粉末化された不飽和ポリエステル樹脂が多く使用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−127240公報
【特許文献2】特開平11−222757公報
【特許文献3】特許第3842425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の製造方法では、散布された粉末状バインダーをとくに積層体の厚み方向に均一に分散させることが難しいことから、得られるガラスチョップドストランドマット(以下において単にマットということがある)中のバインダーが偏在することとなり、マット上下面(表裏面)にバインダーが少ないときはマットに毛羽立ちが生じてガラス繊維の脱落が多くなり、マット中層部のバインダーが少ないときはマットが剥離しやすい等、マットの外観、機械強度、ハンドリング性等において問題があった。
本発明は、外観、機械強度、ハンドリング性等に優れるガラスチョップドストランドマットの製造方法および該マットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、ガラスチョップドストランドを散布、積層した積層体に、水および粉末状バインダーを散布して形成されるバインダー付着積層体をプレス成形してガラスチョップドストランドマットを製造する方法において、次の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とするガラスチョップドストランドマットの製造方法である。
(1)ガラスチョップドストランド積層体の下面側から、水を散布し積層体重量(W1)に基づいて5〜200%の水を付着させる。
(2)該積層体の上面側から、粉末状バインダーを散布し積層体重量(W1)に基づいて1〜4%の粉末状バインダーを付着させる。
(3)該積層体に、厚み方向の振動変位が1〜25mmかつ振動周期が1〜10回/秒の振動を1〜10秒間与える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法および該製造方法で得られるガラスチョップドストランドマットは下記の効果を奏する。
(1)該製造方法は、マット厚み方向のバインダーの均一分散化ができる。
(2)該製造方法で得られるマットは、表裏面の毛羽立ちが少ない。
(3)該マットは、剥離しにくい。
(4)該マットは、表裏面の毛羽立ちが少なく剥離しにくいためハンドリング性に優れる。
(5)該マットは、柔軟性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明におけるガラスチョップドストランド積層体は、以下の方法で製造される。
数10〜数100本のガラス単繊維(繊維径約10〜25μm)をサイジング剤で集束させたガラスストランド[セントラル硝子(株)製、日東紡績(株)製および日本電気硝子(株)製の各ロービング等]を3〜10cm、好ましくは4〜6cmの長さに切断し、搬送用ネットの上にストランドの方向を無秩序に散布させて積層体とする。該積層体の目付量(単位面積当たりのストランド重量、単位はg/m2)は、マットの機械強度および工業上の観点から好ましくは150〜1,000、さらに好ましくは200〜800、とくに好ましくは250〜600である。
【0008】
本発明のガラスチョップドストランドマットは、上記搬送用ネット上に載置されたガラスチョップドストランド積層体に、水および粉末状バインダーを散布して形成されるバインダー付着積層体をプレス成形する製造方法で得られ、該製造方法には次の(1)〜(3)の工程が含まれる。
【0009】
(1)積層体下面側からの水散布
積層体の下面側から霧吹き等を用いて水を散布する。積層体に付着させる水量は、積層体重量(W1)に基づいて5〜200%、好ましくは10〜100%、さらに好ましくは15〜50%である。該付着水量が5%未満では後述する(2)の工程における粉末状バインダー散布時の積層体への歩留まり率が悪くなり、200%を超えると(2)の工程における粉末状バインダーが該積層体の下面側に移行し難くなりマットの下面側の毛羽立ちが生じやすくなる。
【0010】
(2)積層体上面側からの粉末状バインダーの散布
該積層体上面側から粉末状バインダーを散布する。積層体に付着させるバインダー量は、積層体重量(W1)に基づいて1〜4%、好ましくは1.2〜3.5%、さらに好ましくは1.5〜3%である。該付着バインダー量が1%未満では得られるガラスチョップドストランドマットの機械強度が不十分で、かつ該マットの下面側の毛羽立ちが大となり、4%を超えると、次工程の振動付与の結果、該マットの下面側の柔軟性が損なわれる。
粉末状バインダーの散布機としては、スクリューフィーダー、マイクロフィーダー、エンボス加工されたローラーを有する散布機等が挙げられる。これらのうち、粉末状バインダーの均一散布性の観点から好ましいのはエンボス加工されたローラーを有する散布機[たとえば商品名「ニッカK−III」、ニッカ(株)製]である。
【0011】
(3)積層体への振動付与
該積層体に、厚み方向の振動変位が1〜25(好ましくは3〜15)mmかつ振動周期が1〜10(好ましくは2〜7)回/秒の振動を1〜10(好ましくは2〜7)秒間与える。該振動条件が上記範囲を外れると積層体中の粉末状バインダーが偏在することとなり、マットの外観、機械強度、ハンドリング性に悪影響を与える。すなわち、該振動条件のいずれかが下限未満の場合は、積層体下面側への粉末状バインダーの移行が不十分となり、得られるマットの上面側の柔軟性が損なわれる、マットが中層部で剥離しやすくなる、マットの下面側の毛羽立ちが大となる等の不都合が生じる。また、上記振動条件のいずれかが上限を超えると積層体下面側への粉末状バインダーの移行が過剰となり、得られるマットの上面側の毛羽立ちが大となる、マットが中層部で剥離しやすくなる、マットの下面側の柔軟性が損なわれる等の不都合が生じる。
【0012】
前記振動付与の装置としては、バイブレーター、振動試験装置、振動コンベア等が挙げられる。
これらの方法のうち、生産性の観点から好ましいのは振動試験装置および振動コンベアである。
【0013】
本発明のガラスチョップドストランドマットは、上記工程(1)〜(3)を含む前記製造方法で得られるが、該マットの機械強度の向上および該マットの上面側の毛羽立ちをより抑制すること等を目的に、さらに次の(4)〜(5)の工程を含む製造方法とすることができる。
【0014】
(4)前記工程(3)を経た積層体の上面側からの水散布
前記工程(3)を経た積層体の上面側から水を散布する。積層体に付着させる水量は、積層体重量(W1)に基づいて、次工程(5)の粉末状バインダー散布時の積層体(とくに上面側)への歩留まり率および後続の乾燥工程での効率的な乾燥の観点から好ましくは5〜300%、さらに好ましくは10〜100%である。
上記の水散布の方法としては、前記工程(1)と同様の方法が挙げられる。
【0015】
(5)該積層体の上面側からの粉末状バインダー散布
該積層体の上面側から粉末状バインダーを散布する。積層体に付着させるバインダー量は、積層体重量(W1)に基づいて、得られるマットの機械強度、上面側の毛羽立ち抑制および該マットの上面側の柔軟性の観点から、好ましくは0.2〜1.5%、さらに好ましくは0.3〜1%である。
上記のバインダー散布の方法としては、前記工程(2)と同様の方法が挙げられる。
【0016】
前記の(1)〜(3)の工程、または(1)〜(5)の工程を経て得られたバインダー付着積層体は、さらに次の(6)〜(7)の工程を経ることにより本発明のガラスチョップドストランドマットが製造される。
【0017】
(6)加熱による水の乾燥、付着バインダーの溶融
バインダー付着積層体を加熱炉に入れて、水分を乾燥させるとともに、付着バインダーを溶融させる。加熱炉の温度は、効率的な乾燥、バインダー溶融およびバインダーの着色やゲル化の防止、得られるマットの機械強度の低下防止の観点から好ましくは150〜250℃、さらに好ましくは170〜220℃、加熱時間は、得られるマットの機械的強度および生産性の観点から好ましくは2秒〜10分、さらに好ましくは5秒〜5分である。
【0018】
(7)プレス成形によるガラスチョップドストランドマット成形
該積層体をプレス機を用いて成形し、ガラスチョップドストランドマットを得る。
プレス成形には、2枚の鉄板(鉄板の表面温度は好ましくは70〜200℃)でプレスする加熱プレス成形、および2本のロール(ロールの表面温度は好ましくは20〜30℃)でプレスする冷却ロールプレス成形が含まれる。
プレス成形時の積層体の温度は、得られるマットの機械強度の観点からバインダーの軟化点温度以上であることが好ましい。
プレス機としては、加熱プレス成形機では「SA−302卓上型テストプレス」[商品名、テスター産業(株)製]等、冷却ロールプレス成形機では「ESTロールDIP−400E」[商品名、えびの興産(株)製]等が挙げられる。
【0019】
ガラスチョップドストランドマットの上下面の毛羽立ち程度(すなわちマット表裏面からのガラス繊維の脱落のしやすさ)は鉛筆硬度で評価することができ、鉛筆硬度が高い(硬い)ほど毛羽立ちが少ない(ガラス繊維が脱落しにくい)といえる。また、鉛筆硬度は、マット表裏面の柔軟性をも評価することができ、鉛筆硬度が低い(柔らかい)ほどマットの上下面の柔軟性に優れるといえる。
本発明のガラスチョップドストランドマットの上下面の鉛筆硬度は、後述のガラス繊維強化プラスチック(GFRP)成形品製造時の作業性、すなわち、該マットの成形型へのフィット性(柔軟性)および毛羽立ちの観点から好ましくはB〜6B、さらに好ましくは2B〜3Bである。
【0020】
ガラスチョップドストランドマットのバインダー付着量(%)は、ガラスチョップドストランドマットの機械強度およびハンドリング性(柔軟性、後述するガラス繊維強化プラスチック成形品作成時の成形型へのフィット性等、以下同じ)の観点から好ましくは1〜5.5%、さらに好ましくは1.2〜4.5%である。該バインダー付着量は後述の方法で測定される。
【0021】
本発明に使用できる前記粉末状バインダー(A)を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂(PS)、ポリウレタン樹脂(PU)、ポリ酢酸ビニル樹脂(PV)、ポリアミド樹脂(PA)等が挙げられる。これらのうち、バインダー貯蔵時のブロッキング防止およびガラスストランド間の接着性の観点から好ましいのは、PS、PU、PA、特に好ましいのはPSである。
【0022】
(A)は、通常熱可塑性樹脂を粉砕し、分級することで得られる。さらにこれら粉末に粉体流動性を付与するために表面処理剤を添加してもよい。
表面処理剤としては、アエロジル200、アエロジル380、アエロジルR972、アエロジルR974[いずれも日本アエロジル(株)製]等が挙げられる。
表面処理剤の添加量は熱可塑性樹脂粒子の重量に基づいて(A)の粉体流動性およびマットの機械強度の観点から好ましくは0.01〜8%、さらに好ましくは0.1〜5%、特に好ましいのは0.2〜1%である。
【0023】
[ポリエステル樹脂粒子]
ポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂(PS)としては、(2〜4またはそれ以上)カルボン酸(エステル形成性誘導体も含む)と低分子ポリオールとの重縮合物、カルボキシル基と水酸基を同一分子内に有する化合物の自己縮合物、およびラクトンの開環重縮合物等が含まれる。
【0024】
(PS)の重量平均分子量(以下Mwと略記。測定は後述の条件でのGPC法による。)は、マットの機械強度および加熱溶融時の粘度の観点から好ましくは5,000〜60,000、さらに好ましくは10,000〜55,000、また、数平均分子量(以下Mnと略記。測定は後述のGPC法による。)は同様の観点から好ましくは2,000〜15,000、さらに好ましくは3,000〜10,000である。
【0025】
前記GPCの測定条件は次のとおりである。
<GPC測定条件>
[1]装置 :HLC−8220[東ソー(株)製]
[2]カラム :TSKgel SuperMultiporeHZ−M[東ソー
(株)製]
[3]溶離液 :テトラヒドロフラン
[4]基準物質:ポリスチレン
[5]注入条件:サンプル濃度2.5mg/ml、カラム温度40℃
【0026】
(PS)の軟化点[測定は環球法(JIS K2207、「石油アスファルト」の「6.4軟化点試験法」)に準拠。以下同じ。]は、無機繊維不織布の粘着性の発現防止とバインダーによるガラスストランド間の結合性の観点、および後加工の作業性(後述のGFRPへの適用における型へのフィット性等、以下同じ。)の観点から好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜130℃である。
【0027】
(PS)の示差熱分析法によるガラス転移温度(以下Tgと略記。測定はJIS K7121、「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠。以下同じ。)は、バインダー貯蔵時のブロッキング防止とバインダーによるガラスストランド間の結合性の観点、および後加工の作業性の観点から好ましくは40〜60℃、さらに好ましくは45〜55℃である。
【0028】
本発明における(PS)粒子からなるガラスチョップドストランド結合用粉末状バインダー(A)は、上記(PS)を、例えば分級スクリーン(0.2〜3mmφ丸穴)を装着した防音ケース付き高速衝撃式粉砕機[商品名「MIKRO−PULVERIZER」、型番「AP−BL」、ホソカワミクロン(株)製。以下高速ハンマーミルと表記。]を用いてフィード量11.4〜13.8g/minで連続投入しながら、回転数10,000〜20,000rpmで粉砕し、該分級スクリーンを通過してきた粒子を、目開きの異なる篩を組み合わせる等で篩い分けることにより得ることができる。
【0029】
上記(PS)粒子に前記表面処理剤を添加、混合することができる。ここにおいて、混合機としてはプラネタリーミキサー、ナウターミキサー、タンブラーミキサー等の粉体混合機が挙げられる。これらのうち混合効率の観点からプラネタリーミキサー[例えば機器名「HIVIS MIX」、型番「T. K. HIVIS MIX F model.03」、特殊理化工業(株)製。以下同じ。]等が挙げられる。
【0030】
[ポリウレタン樹脂粒子]
ポリウレタン樹脂粒子を構成するポリウレタン樹脂(PU)としては、ポリ(2〜3またはそれ以上)イソシアネートと活性水素含有化合物との重付加物が含まれる。
【0031】
また、(PU)のMwは、マットの機械強度および加熱溶融時の粘度の観点から、好ましくは10,000〜600,000、さらに好ましくは15,000〜450,000、また、Mnは同様の観点から好ましくは1,500〜50,000、さらに好ましくは2,000〜40,000である。
【0032】
(PU)の軟化点は、バインダーによるガラスストランド間の結合性の観点および後加工の作業性の観点から好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜130℃である。
【0033】
(PU)のTgは、バインダー貯蔵時のブロッキング防止の観点、および後加工の作業性の観点から好ましくは−30〜50℃、さらに好ましくは−10〜45℃である。
【0034】
本発明における(PU)粒子からなるガラスチョップドストランド結合用粉末状バインダー(A)は、上記(PU)を前記(PS)の場合と同様の処理をして得ることができる。
さらに、該(PU)粒子に、前記(PS)粒子の場合と同様に前記表面処理剤を添加、混合することができる。
【0035】
[ポリアミド樹脂粒子]
ポリアミド樹脂粒子を構成するポリアミド樹脂(PA)としては、ポリ(2〜4またはそれ以上)カルボン酸(エステル形成性誘導体も含む)と低分子ポリアミンとの重縮合物、カルボキシル基とアミノ基を同一分子内に有する化合物の自己縮合物、およびラクタムの開環重縮合物等が含まれる。
【0036】
(PA)のMwおよびMnはマットの機械強度、(PA)の機械粉砕性および樹脂の溶融粘度の観点から、Mwは好ましくは3,000〜60,000、さらに好ましくは5,000〜25,000、Mnは好ましくは2,000〜10,000、さらに好ましくは3,000〜8,000である。
【0037】
(PA)の軟化点は、マットの粘着性の発現防止とバインダーによるガラスストランド間の結合性の観点、および後加工の作業性(後述のGFRP等への適用における型へのフィット性等、以下同じ。)の観点から好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜130℃である。
【0038】
(PA)のTgは、バインダー貯蔵時のブロッキング防止とバインダーによるガラスストランド間の結合性の観点、および後加工の作業性の観点から好ましくは30〜60℃、さらに好ましくは45〜55℃である。
【0039】
本発明における(PA)粒子からなるガラスチョップドストランド結合用粉末状バインダー(A)は、上記(PA)を、前記(PS)の場合と同様の処理をして得ることができる。さらに、該(PA)粒子に、前記(PS)粒子の場合と同様に前記表面処理剤を添加、混合することができる。
【0040】
粉末状バインダー(A)の体積平均粒子径Dは、粉体流動性、バインダーの発塵抑制およびガラスチョップドストランドマットの機械強度の観点から好ましくは50〜500μm、さらに好ましくは100〜350μm、特に好ましくは120〜250である。体積平均粒子径Dはレーザー回折散乱法により求めることができ、測定装置としては、例えば粒度分布測定器[商品名「マイクロトラックMT3000II 粒度分析計」、日機装(株)製]が挙げられる。
【0041】
[ガラス繊維強化プラスチック成形品]
本発明のガラス繊維強化プラスチック(GFRP)成形品は、本発明のマットを強化材として成形してなる。該成形品の成形法については特に制限されることはなく、ハンドレイアップ法、スプレーアップ法、プリフォーム法、マッチドダイ法およびSMC法等が挙げられる。これらのうち例えばハンドレイアップ法は通常以下の手順で行われる。
(1)成形型表面に離型剤を塗布する。
(2)ローラー等を用いて均一な厚みになるよう室温(15〜25℃)でマトリックス樹脂(不飽和ポリエステル樹脂等)を成形型表面に塗布する。
(3)約40℃に温度調整した温風炉内で該樹脂をゲル化させる。
(4)マットを成形型表面にフィットさせ、マトリックス樹脂をスチレンモノマー等で希釈した溶液をローラー等によりマット上に積層し、ローラーにより空気抜きを行う。
(5)積層体を温風炉内で硬化させる。
(6)型から取り出し成形品を得る。
【0042】
ハンドレイアップ法を含む前記成形法で得られる成形品のマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂(不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、変性アクリル樹脂、フラン樹脂等)、および熱可塑性樹脂(ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂等)が挙げられる。
これらのうち、例えば上記ハンドレイアップ法の場合は、熱硬化性樹脂が用いられ、成形時の作業性の観点から好ましいのは、不飽和ポリエステル樹脂およびビニルエステル樹脂である。
【実施例】
【0043】
以下実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の部は重量部、%は重量%を表す。
【0044】
製造例1<粉末状バインダー(A−1)>
(1)ポリエステル樹脂(PS−1)の製造
反応容器中に、ビスフェノールAのエチレンオキサイド(以下EOと略記)2.2モル付加物3,365部、フマル酸1,123部、ジブチルスズオキサイド6部を仕込み、窒素雰囲気下180℃で4時間反応させた。その後、3〜4kPaの減圧下で、210℃に昇温し、210℃到達後7時間反応させ、酸価10になったところで取り出し、ポリエステル樹脂(PS−1)を得た。(PS−1)のMwは35,000、Mnは4,800、軟化点は114℃、Tgは50℃であった。
(2)バインダー(A−1)の製造
(PS−1)1,000部を高速ハンマーミルを用いてサンプル供給量12g/分、ハンマー回転数12,500rpmで粉砕し、該高速ハンマーミルの粉砕部出口に装着された1.0mmφ丸穴分級スクリーンを通過させて粉砕物を分級した。分級して得られた樹脂(PS)の粉末を目開き192μmの篩で篩い分け、これを通過した樹脂粒子をさらに目開き75μmの篩で篩い分けて、75μmの篩の上に残った(PS)の粒子を得た。さらに該(PS)粒子300部に表面処理剤(R−1)[商品名「アエロジル380」、日本アエロジル(株)製]1.5部を加えた後、「HIVIS MIX」[型番「T. K. HIVIS MIX F model.03」、特殊理化工業(株)製]を用いて撹拌回転数30rpmで60分混合し、粉末状バインダー(A−1)を得た。(A−1)のDは140μmであった。
【0045】
製造例2<粉末状バインダー(A−2)>
(1)ポリエステル樹脂(PS−2)の製造
反応容器中に、ビスフェノールAのEO2.0モル付加物3,370部、フマル酸1,123部、ビス〔2,2’−[(2−ヒドロキシエチル)イミノ−κN]−ビス[エタノレート−κO]〕チタネート12部を仕込み、窒素雰囲気下180℃で5時間反応させた。その後、3〜4kPaの減圧下で、210℃に昇温し、210℃到達後2時間反応させ、酸価20になったところで取り出し、ポリエステル樹脂(PS−2)を得た。(PS−2)のMwは21,000、Mnは4,100、軟化点は102℃、Tgは50℃であった。
(2)バインダー(A−2)の製造
(PS−2)1,000部を高速ハンマーミルを用いてサンプル供給量12g/分、ハンマー回転数12,500rpmで粉砕し、該高速ハンマーミルの粉砕部出口に装着された1.0mmφ丸穴分級スクリーンを通過させて粉砕物を分級した。分級して得られた樹脂(PS)の粉末を目開き323μmの篩で篩い分け、これを通過した樹脂粒子を得た。さらに該(PS)粒子300部に表面処理剤(R−2)[商品名「アエロジル200」、日本アエロジル(株)製]0.6部を加えた後、「HIVIS MIX」[型番「T. K. HIVIS MIX F model.03」、特殊理化工業(株)製]を用いて撹拌回転数30rpmで10分混合し、バインダー(A−2)を得た。(A−2)のDは230μmであった。
【0046】
製造例3<粉末状バインダー(A−3)>
(1)バインダー(A−3)の製造
(i)プレポリマー溶液1の製造
反応容器に、Mn1,000のポリブチレンアジペート431.3部、Mn900のポリヘキサメチレンイソフタレート184.9部、酸化防止剤[商品名「IRGANOX1010」、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製]1.2部を添加し、窒素置換した後、60℃で均一撹拌した。次に1−オクタノール10.4部、メチルエチルケトン(以下、MEKと略記)125部を仕込み、均一撹拌後、50℃まで冷却し、ヘキサメチレンジイソシアネート155.3部を仕込み、90℃で6時間反応させた。60℃まで冷却することでプレポリマー溶液1を得た。得られたプレポリマー溶液のNCO含量は、2.4重量%であった。
(ii)ジアミンのMEKケチミン化物の製造
反応容器にヘキサメチレンジアミン116部、過剰のMEK288部(ヘキサメチレンジアミンに対して4倍モル量)、n−ヘキサン29部を仕込み、80℃で24時間還流させながら反応生成水を系外に除去した。その後減圧にて未反応のMEK、n−ヘキサンを留去してMEKケチミン化物を得た。
別の反応容器に、(i)で得たプレポリマー溶液1 100部、および(ii)で得たMEKケチミン化物6.2部を投入し、さらに分散剤[商品名「サンスパールPS−8」、三洋化成工業(株)製]24部を水276部に溶解した水溶液300部を加え、撹拌機で回転数5,000rpmにて1分間混合した。この混合物を、撹拌しながら60℃、減圧下で2時間脱MEKを行った。濾別および乾燥を行い、ポリウレタン樹脂(PU−1)からなる粒子を得た。
(PU−1)のMwは21,000、Mnは5,500、軟化点は106℃、Tgは21℃であった。
該粒子を目開き192μmの篩で篩い分け、これを通過した粒子をさらに目開き75μmの篩で篩い分けて、75μmの篩の上に残ったポリウレタン樹脂(PU−1)の粒子を得た。さらに該粒子300部に表面処理剤(R−1)1.5部添加し、「HIVIS MIX」で30rpm、20分混合し、バインダー(A−3)を得た。(A−3)のDは135μmであった。
【0047】
製造例4<粉末状バインダー(A−4)>
(1)ポリアミド樹脂(PA)の製造
反応容器に、ダイマー酸[商品名「EMPOL 1061」、コグニスジャパン(株)製]1,645部、IPDA540部を仕込み、窒素雰囲気下、160℃で2時間反応させた。その後、180℃および200℃で各2時間反応させた。次に3〜4kPaの減圧下で反応させ、酸価2になったところで取り出し、ポリアミド樹脂(PA−1)を得た。(PA−1)のMwは19,000、Mnは7,600、軟化点は92℃、Tgは46℃であった。
(2)バインダー(A−4)の製造
(PA−1)1,000部を高速ハンマーミルを用いてサンプル供給量12g/分、ハンマー回転数12,500rpmで粉砕し、該高速ハンマーミルの粉砕部出口に装着された1.0mmφ丸穴分級スクリーンを通過させて粉砕物を分級した。分級して得られた樹脂(PA−1)の粉末を目開き192μmの篩で篩い分け、これを通過した樹脂粒子をさらに目開き75μmの篩で篩い分けて、75μmの篩の上に残った(PA−1)の粒子を得た。さらに該粒子300部に表面処理剤(R−3)[商品名「アエロジルR972」、日本アエロジル(株)製]1.5部を加えた後、「HIVIS MIX」[型番「T.K. HIVIS MIX F model.03」、特殊理化工業(株)製]を用いて撹拌回転数30rpmで40分混合し、バインダー(A−4)を得た。(A−4)のDは145μmであった。
【0048】
実施例1<ガラスチョップドストランドマット(GM−1)>
ガラスストランド[商品名「ロービングERS2310−821」、セントラル硝子(株)製、以下同じ。]を約5cmに長さにカットしてガラスチョップドストランドを得た。奥行き21cm×幅27cmの離型処理したステンレス金網(搬送用ネット)上に該ガラスチョップドストランド24.5g(W−1)を方向無秩序に均一厚みになるように散布して積層体を得た。該積層体の下面側から水道水を下面全体に霧吹きで噴霧し、該積層体重量(W−1)に基づいて30%の水道水7.3gを付着させた。
次にエンボス加工されたローラー(綾目#22、ローラー径60mm)つきの粉体散布機[商品名「ニッカK−III]、ニッカ(株)製、以下粉体散布機という。]を用いて積層体上面側から均一にバインダー(A−1)を散布して、積層体重量(W−1)に基づいて2.0%の(A−1)0.49gを付着させた。その後、振動試験装置[商品名「3軸振動テスターMACS II」、ヤマト科学(株)製、以下同じ。]にて該積層体に振動変位10mm、振動周期3回/秒の振動を2秒間与えた。
その後、200℃に温度調整した乾燥機で乾燥し、バインダーを溶融させた。乾燥機から取り出し後すぐに30℃に温度調整したロールプレス機[機種名「ESTロールプレス DIP−400E」、えびの興産(株)製、以下同じ。]にてプレス(プレス直前積層体表面温度130℃、プレス直後積層体表面温度100℃、プレス圧力0.4MPa)して目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−1)を得た。
【0049】
実施例2<ガラスチョップドストランドマット(GM−2)>
実施例1において、積層体への付着水量1.2g[積層体重量(W−1)に基づいて5%]、振動変位1mm、振動周期3回/秒の振動を10秒間に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−2)を得た。
【0050】
実施例3<ガラスチョップドストランドマット(GM−3)>
実施例1において、積層体への付着水量49.0g[積層体重量(W−1)に基づいて200%]、振動変位25mm、振動周期3回/秒の振動を1秒間に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−3)を得た。
【0051】
実施例4<ガラスチョップドストランドマット(GM−4)>
実施例1において、積層体への付着水量7.3g[積層体重量(W−1)に基づいて30%]、バインダー(A−1)0.25g[積層体重量(W−1)に基づいて1.0%]、振動変位10mm、振動周期1回/秒の振動を2秒間に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−4)を得た。
【0052】
実施例5<ガラスチョップドストランドマット(GM−5)>
実施例1において、積層体への付着水量7.3g[積層体重量(W−1)に基づいて30%]、バインダー(A−1)0.98g[積層体重量(W−1)に基づいて4.0%]、振動変位10mm、振動周期10回/秒の振動を2秒間に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−5)を得た。
【0053】
実施例6<ガラスチョップドストランドマット(GM−6)>
実施例1において、ガラスチョップドストランド9.1g(W−2)、積層体への付着水量2.7g[積層体重量(W−2)に基づいて30%]、バインダー(A−1)0.18g[積層体重量(W−2)に基づいて2.0%]に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量160g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−6)を得た。
【0054】
実施例7<ガラスチョップドストランドマット(GM−7)>
実施例1において、ガラスチョップドストランド55.0g(W−3)、積層体への付着水量16.5g[積層体重量(W−3)に基づいて30%]、バインダー(A−1)1.1g[積層体重量(W−3)に基づいて2.0%]に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量970g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−7)を得た。
【0055】
実施例8<ガラスチョップドストランドマット(GM−8)>
実施例1において、積層体への付着水量7.3g[積層体重量(W−1)に基づいて30%]、バインダー(A−2)0.49g[積層体重量(W−1)に基づいて2%]、振動変位20mm、振動周期5回/秒の振動を3秒間に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−8)を得た。
【0056】
実施例9、10<ガラスチョップドストランドマット(GM−9、10)>
実施例8において、バインダー(A−3、4)0.49g[積層体重量(W−1)に基づいて2%]に変更したこと以外は実施例8と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−9、10)を得た。
【0057】
実施例11<ガラスチョップドストランドマット(GM−11)>
実施例1における振動付与後の積層体に、さらに、該積層体の上面側から水道水を上面全体に霧吹きで噴霧し、水道水7.3g[積層体重量(W−1)に基づいて30%]を付着させ、さらに粉体散布機を用いて積層体上面側から均一にバインダー(A−1)を散布して、(A−1)0.15g[積層体重量(W−1)に基づいて0.6%]を追加付着させた。その後、実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−11)を得た。
【0058】
実施例12<ガラスチョップドストランドマット(GM−12)>
実施例11において、さらに、該積層体の上面側から付着させる水量を1.2g[積層体重量(W−1)に基づいて5%]、同バインダー量を0.05g[積層体重量(W−1)に基づいて0.2%]に変更したこと以外は実施例11と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−12)を得た。
【0059】
実施例13<ガラスチョップドストランドマット(GM−13)>
実施例11において、さらに、該積層体の上面側から付着させる水量を73.5g[積層体重量(W−1)に基づいて300%]、同バインダー量を0.37g[積層体重量(W−1)に基づいて1.5%]に変更したこと以外は実施例11と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM−13)を得た。
【0060】
比較例1<ガラスチョップドストランドマット(GM’−1)>
実施例1において、積層体への付着水量0.7g[該積層体重量に対して3%]、バインダー(A−1)0.01g[該積層体重量に対して0.4%]に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM’−1)を得た。
【0061】
比較例2<ガラスチョップドストランドマット(GM’−2)>
実施例1において、積層体への付着水量61.3g[該積層体重量に対して250%]、バインダー(A−1)0.12g[該積層体重量に対して5%]に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM’−2)を得た。
【0062】
比較例3<ガラスチョップドストランドマット(GM’−3)>
実施例1において、振動変位0mm、振動周期0回/秒の振動を0秒間(振動なし)に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM’−3)を得た。
【0063】
比較例4<ガラスチョップドストランドマット(GM’−4)>
実施例1において、振動変位40mm、振動周期3回/秒の振動を20秒間に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM’−4)を得た。
【0064】
比較例5<ガラスチョップドストランドマット(GM’−5)>
実施例1において、振動変位35mm、振動周期15回/秒の振動を2秒間に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、目付量432g/mのガラスチョップドストランドマット(GM’−5)を得た。
【0065】
前記得られたものは下記の方法に従って評価した。マットの評価結果は表1、2に示す。
<評価項目>
(1)樹脂の軟化点(℃)
JIS K2207「石油アスファルト」の「6.4軟化点試験方法(環球法)」に準拠して、自動軟化点試験器[機器名「ASP−MG4」、メイテック(株)製]により測定した。
【0066】
(2)樹脂のガラス転移温度(Tg)(℃)
JIS K7121「プラスチックの転移温度測定法」に準拠して、示差走査熱量測定器[機器名「RDC−220」、セイコー電子工業(株)製]により測定した。
【0067】
(3)熱可塑性樹脂粒子(B)の体積平均粒子径(D) (μm)
粒度分布測定器[商品名「マイクロトラックMT3000II 粒度分析計」、日機装(株)製。以下同じ。]を用いたレーザー回折散乱法により測定した。
【0068】
(4)バインダー付着量(%)
以下の手順で求めた。
(i)ガラスチョップドストランドマットの一部から試験片(縦50mm×横100mm)を切り出し、これを細断して磁性るつぼに入れ、105℃で30分間乾燥させた後、デシケータ内で室温まで放冷し、0.1mg単位まで重量(m1)を測定した。試験片入り磁性るつぼを625℃の電気炉内に入れ、扉を開いたまま5分間燃焼させた後、扉を閉めさらに10分間燃焼させた。その後、試験片入り磁性るつぼを取り出してデシケータ内で室温まで放冷し、0.1mg単位まで重量(m2)を測定した。
(ii)試験片を入れていない空の上記磁性るつぼを、105℃で30分間乾燥させた後、デシケータ内で室温まで放冷し、0.1mg単位まで重量(m0)を測定した。
(iii)下記式から該試験片のバインダー結合量(%)を算出した。

バインダー付着量(%)=
100×[(m1)−(m2)]/[(m1)−(m0)]

(iv)ガラスチョップドストランドマットの、上記(i)とは異なる3箇所の部分から切り出した同様の試験片について(i)〜(iii)を同様に行って、各試験片のバインダー付着量(%)を算出した。該得られた4個の値の平均値を算出して、これを無機繊維不織布のバインダー付着量(%)とした。
(v)実施例11〜13のバインダー付着量(%)は、同一の工程を含む実施例1の値を採用した。
(vi)実施例11〜13のバインダー付着量(追加、%)は、同一の工程を含む実施例1の値を用い、下記の式にて算出した。

バインダー付着量(追加、%)=
[各実施例のバインダー付着量(%)]−[実施例1のバインダー付着量(%)]
【0069】
(5)マット上下(表裏)面の鉛筆硬度
鉛筆硬度はJIS K5600に準拠して測定され、斜め45°に固定した鉛筆の真上から荷重をかけて引っ掻き試験を行い、ガラス繊維の脱落具合(繊維接着性)およびマットの柔軟性を下記基準で評価した。
<評価基準>
鉛筆硬度は高硬度から低硬度のランク順に並べた、硬度F、HB、B〜7Bの各鉛筆を用いて行い、評価結果はこれらの硬度で表記した。表記された硬度は、その硬度の鉛筆では繊維の脱落が起こらないが、1ランク高い硬度の鉛筆では繊維の脱落が起こることを示し、また、マット(とくにマット表裏面)の柔軟性をも示す。
【0070】
(6)マットの剥離
マットの厚み方向の断面を目視観察し、下記の基準で評価した。
<評価基準>
○ マット中層部に剥離部分なし
△ マット中層部に剥離部分が一部あり
× マット中層部に剥離部分が多い
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1、表2から、本発明の製造方法により得られたガラスチョップドストランドマットは適度な鉛筆硬度を有するため、上下面(表裏面)の毛羽立ちが極めて少なく、柔軟性に優れており、また、マットの剥離がないことがわかる。さらに、上面からの水付着、追加のバインダー付着の工程を経たマットは、マットの上面の毛羽立ちがさらに少ないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造方法によれば、得られるガラスチョップドストランドマットの表裏面の毛羽立ちが少ない、剥離しにくい等、該マットの外観、機械強度、ガラス繊維の脱落量が減少し、ハンドリング性の向上に大きく寄与し得ることから、ガラス繊維強化プラスチック成形品用の強化材等として用いられ、該成形品は、自動車用部材(成形天井材等)、小型船舶(カヌー、ボート、ヨット、モーターボート等)の船体、住宅用部材(浴槽、浄化槽等)等、幅広い分野に適用することができ、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスチョップドストランドを散布、積層した積層体に、水および粉末状バインダーを散布して形成されるバインダー付着積層体をプレス成形してガラスチョップドストランドマットを製造する方法において、次の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とするガラスチョップドストランドマットの製造方法。
(1)ガラスチョップドストランド積層体の下面側から、水を散布し積層体重量(W1)に基づいて5〜200%の水を付着させる。
(2)該積層体の上面側から、粉末状バインダーを散布し積層体重量(W1)に基づいて1〜4%の粉末状バインダーを付着させる。
(3)該積層体に、厚み方向の振動変位が1〜25mmのかつ振動周期が1〜10回/秒の振動を1〜10秒間与える。
【請求項2】
さらに、次の工程(4)〜(5)を含む請求項1記載の製造方法。
(4)工程(3)を経た積層体の上面側から、水を散布し積層体重量(W1)に基づいて5〜300%の水を付着させる。
(5)該積層体の上面側から、積層体重量(W1)に基づいて0.2〜1.5%の粉末状バインダーを付着させる。
【請求項3】
粉末状バインダーが、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
粉末状バインダーが、レーザー回折散乱法による体積平均粒子径(D)50〜500μmを有する請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の製造方法で得られるガラスチョップドストランドマット。
【請求項6】
請求項5記載のマットの上下面の鉛筆硬度がB〜6Bであるガラスチョップドストランドマット。
【請求項7】
請求項5または6記載のマットを強化材として成形してなるガラス繊維強化プラスチック成形品。
【請求項8】
ガラス繊維強化プラスチック成形品が、車両用成形材、小型船舶船体、遊具、浴槽、建材用防水層、プリント基板、浄化槽、ヘルメット、トレーまたは風車のブレード用である請求項7記載の成形品。

【公開番号】特開2013−7139(P2013−7139A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141395(P2011−141395)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】