説明

ガラスチョップドストランドマット用バインダー

【課題】 バインダー粉末製造時の機械粉砕性およびバインダー粉末の貯蔵安定性に優れ、しかも従来のバインダーより少ない使用量で、均一かつ優れた強度を有し、またマット品質(マット表裏面の繊維の接着性)にも優れたガラスチョップドストランドマットを得ることができるガラスチョップドストランドマット用バインダーを提供する。
【解決手段】 ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物(a)および二塩基酸(b)を構成単位とし、ガラス転移点と軟化点の差が60℃以下であるポリエステル樹脂(A)を含有してなるガラスチョップドストランドマット用バインダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスチョップドストランドマット用の粉末状バインダーに関する。より詳細には、従来よりバインダー量を低減させても優れたマット強度(引張強さ等の機械的強度、以下同じ)およびマット品質(マットの表裏面の繊維接着性、以下同じ)を維持することができるガラスチョップドストランドマット用の粉末状バインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスチョップドストランドマットは、通常、以下の方法で得られる。
(1)数10〜数100本のガラス単繊維(繊維径約10μm前後)をサイジング剤で集束させガラスストランドを得る。
(2)該ガラスストランドを所定の長さに切断して束状のガラスチョップドストランドを得る。
(3)該ガラスチョップドストランドを搬送用ネット上に方向を無秩序に分散させて積層体とする。
(4)該積層体に水を噴霧する。
(5)該積層体にバインダー粉末を散布し、オーブンチャンバーで加熱して水分の乾燥およびバインダー溶融を行い、その後プレス機によりプレスし、冷却固化することによってガラスチョップドストランド間をバインダーで結合させてガラスチョップドストランドマットを得る。
ここにおけるバインダーについては、従来から機械粉砕により粉末化された不飽和ポリエステル樹脂が多く使用されてきた(例えば、特許文献1、2参照)。これらはそのまま使用するには、粒子径分布が広過ぎ、かつ粗粒側に偏っているため、通常は粉砕後にガラスチョップドストランドマットに付与するのに最も適するとされる体積平均粒子径150〜250μmの粉末にふるい分けられる。該範囲の体積平均粒子径を有する粉末は通常250〜355μmの篩いを用いることにより得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57−55931号公報
【特許文献2】特開2003−301035号公報
【0004】
しかしながら、従来のバインダーを使用したマットでは加熱時のバインダーの溶融が十分でなく、未溶融バインダーが多く残るため、ガラスチョップドストランド積層体に散布したバインダーのすべてが効率的にガラス繊維の結合に寄与するわけではないという問題があった。
この解決策として、加熱温度をさらに高める方法が挙げられるが、追加のエネルギーコストを要し、また、バインダーが十分溶融しても冷却固化が容易でないことから、ガラスチョップドストランド間の結合不良が生じ、得られるマットの品質を低下させるといった問題があった。この対策として、バインダーの冷却固化のためマットの製造ライン速度を下げることが考えられるが、生産性等工業上の問題がある。また、軟化点の低いバインダーを使用する方法も挙げられるが、軟化点の低下は通常ガラス転移温度の低下も伴うことから、バインダー粉末製造時の機械粉砕性が悪化して生産性に支障が生じたり、バインダー粉末貯蔵時にブロッキングが起こりやすくなり貯蔵安定性に欠ける等の問題が生じることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ガラスチョップドストランドマットの生産性、バインダー粉末製造時の機械粉砕性およびバインダー粉末の貯蔵安定性を低下させることなく、しかも従来のバインダーより少ない使用量で、優れた強度および品質を有するガラスチョップドストランドマットを得ることができるガラスチョップドストランドマット用バインダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明に達した。すなわち、本発明は、ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物(a)および二塩基酸(b)を構成単位とし、ガラス転移点と軟化点の差が60℃以下であるポリエステル樹脂(A)を含有してなるガラスチョップドストランドマット用バインダーである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のガラスチョップドストランドマット用バインダーは、溶融・冷却固化がスムーズで省エネルギー化が可能であり、また、バインダー粉末製造時の機械粉砕性およびバインダーの貯蔵安定性を損なうことなく、従来より少ない使用量でガラスチョップドストランドマットに均一かつ優れた機械強度、優れたマット品質(マットの表裏面の繊維接着性)を付与できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[ポリエステル樹脂(A)]
本発明におけるポリエステル樹脂(A)は、ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド(以下AOと略記)付加物(a)および二塩基酸(b)を構成単位とするもので、ガラス転移点と軟化点(以下それぞれTg、Tmと略記)の差が60℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは45℃以下のものである。TgとTmの差が、60℃を超えるとマットの品質が低下し、(A)の機械粉砕性およびバインダー粉末の貯蔵安定性とバインダーの溶融性のバランスが悪くなる。
【0009】
ここで、Tg(℃)は、示差熱分析(測定はJIS K7121、「プラスチックの転移温度測定法」に準拠)によって得られる数値であり、(A)の機械粉砕性、バインダー粉末の貯蔵安定性、および後述するガラスチョップドストランドマットの後加工性の観点から好ましくは35〜60℃、さらに好ましくは40〜58℃、とくに好ましくは45〜55℃である。
【0010】
Tm(℃)は、環球法(測定はJIS K2207、「石油アスファルト」の「6.4軟化点試験方法」に準拠)により得られる数値であり、ガラスチョップドストランドマットの粘着性の発現防止、該マットの後加工性、およびガラスチョップドストランド積層体の結合性の観点から好ましくは90〜120℃、さらに好ましくは95〜105℃である。
【0011】
また、(A)の150℃における溶融粘度は、ガラスチョップドストランド積層体の結合性の観点から好ましくは5〜50Pa・s、さらに好ましくは7〜45Pa・sである。ここで溶融粘度は、JIS K7117に基づき、「RB−80H型粘度計」、H4号ローター[いずれも東機産業(株)製]を用いて測定した。
【0012】
本発明におけるビスフェノール化合物のAO付加物(a)は、後述のポリエステル樹脂粉末の貯蔵安定性および溶融粘度の観点からビスフェノール化合物の各水酸基当たり1モルのAO付加物(a1)を主成分としてなるものが好ましく、(a)には下記の(a1)〜(a3)が含まれる。ここにおいて主成分とは、(a)の重量に基づく含有量が85%以上であることを意味するものとする。
(a1)ビスフェノール化合物の各水酸基当たり1モルのAO付加物
(a2)ビスフェノール化合物の水酸基当たり2モル以下のAO付加物[但し(a1)を除く

(a3)ビスフェノール化合物の水酸基当たり2モル超のAO付加物
【0013】
(a)の重量に基づく各成分の含有量は、(a1)は85%以上、(A)の機械粉砕性、バインダー粉末の貯蔵安定性、および得られるガラスチョップドストランドマットの均一かつ優れた機械強度の観点から好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、とくに好ましくは98%以上;(a2)は1%以下、上記と同様の観点から好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下、とくに好ましくは0.2%以下;(a3)は14%以下、上記と同様の観点から好ましくは7.2%以下、さらに好ましくは4.5%以下、とくに好ましくは1.8%以下である。
【0014】
(a)の重量に基づく(a1)〜(a3)の各成分の含有量は、液体クロマトグラフィー(LC)法により、例えば下記の条件で測定することができる。
<LC法測定条件>
LCシステム :LC−20AD[(株)島津製作所製]
カラム :CAPCELL PAK C18[(株)資生堂製、内径4.6mm×
長さ250mm]
溶離液 :アセトニトリル/水=30/70(vol%)
流速 :1ml/min
検出器 :SPD−M20A[(株)島津製作所製]
検出波長 :275nm
注入量 :2μl
【0015】
(a)を構成するビスフェノール化合物としては、炭素数(以下Cと略記)12〜23(好ましくは12〜19、さらに好ましくは12〜15)、例えばビスフェノールA、−Fおよび−Sが挙げられる。
これらのうち、後述のガラス繊維強化プラスチック成形品におけるマトリックス樹脂との相溶性の観点から好ましいのはビスフェノールAおよび−Fである。
【0016】
(a)を構成するAOとしては、C2〜12(好ましくは2〜4)、例えばエチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシド、1,2−、2,3−および1,3−ブチレンオキシド、テトラヒドロフランおよび3−メチル−テトラヒドロフラン(以下それぞれEO、PO、BO、THFおよびMTHFと略記)、1,3−プロピレンオキシド、イソBO、C5〜12のα−オレフィンオキシド、置換AO(スチレンオキシド、エピハロヒドリン等)が挙げられる。
これらのうち(A)の機械粉砕性およびバインダー粉末の貯蔵安定性の観点から好ましいのは単一のAO、例えばEOまたはPOである。
【0017】
(a)は、ビスフェノール化合物にAOを水媒体中、アルカリ性触媒の存在下で付加させることにより製造することができる。
水媒体の使用量は、副生成物低減の観点からビスフェノール化合物の重量に基づいて、好ましくは5〜100%、さらに好ましくは10〜60%である。
アルカリ性触媒としてはアルカリ金属触媒[アルカリ金属(Na、K、Li等)水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属(Na、K、Li等)アルコラート(C1〜2、例えばナトリウムメチラート、カリウムメチラート)、金属ナトリウム等]、アミン触媒(C3〜15、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン)、テトラアルキル(アルキル基のC4〜12)アンモニウムハイドロオキサイド(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等)が挙げられる。これらのうち副生成物低減の観点から好ましいのはアルカリ金属触媒、さらに好ましいのは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、とくに好ましいのは水酸化ナトリウム、水酸化リチウムである。
【0018】
アルカリ性触媒の使用量は、ビスフェノール化合物の重量に基づいて通常0.05〜20%、好ましくは0.1〜10%である。
ビスフェノール化合物にAOを付加させる方法としては、ビスフェノール化合物、水媒体およびアルカリ性触媒をオートクレーブ反応容器に仕込み、反応容器内を窒素で置換した後、撹拌しながら所定温度に昇温して、AOを滴下等で徐々に仕込みながら常圧または加圧(通常0.5MPa以下)条件で反応させる方法が挙げられる。
反応温度は、生産性および副生成物低減の観点から好ましくは60〜120℃、さらに好ましくは60〜110℃、また反応時間は通常2〜8時間である。
【0019】
本発明におけるビスフェノール化合物のAO付加物(a)は、通常以下の手順で製造することができる。
(1)アルカリ性触媒の存在下、ビスフェノール化合物1モルに対して、AO1.5〜2モル滴下し、その後1〜2時間反応させる。その後アルカリ性触媒の部分中和(好ましくは20〜99モル%、さらに好ましくは40〜90モル%)を行う。中和に用いられる酸としては、無機酸(リン酸、塩酸、硫酸等)または有機酸(酢酸、乳酸、マレイン酸、パラトルエンスルホン酸等)が挙げられる。
(2)部分中和後、上記(1)からの全AOの滴下量が2〜2.8(好ましくは2.2〜2.6)モルとなる量のAOをさらに追加滴下し、その後1〜2時間反応させる。
(3)サンプリングを行い前記LC法で(a1)〜(a3)の含有量を測定し、(a1)が主成分であることを確認する。該手順(3)は、必要により上記手順(1)のAO付加反応後にも行ってもよい。
(4)上記確認後、水媒体を分液除去、さらに水洗、吸着剤による処理・濾過後、脱水して(a)を得る。
【0020】
本発明における二塩基酸(b)としては、脂肪族二塩基酸(C3〜30、例えばコハク酸、マレイン酸、グルタル酸、フマル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸)、芳香族二塩基酸(C8〜30、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸)、脂環含有二塩基酸(C6〜50、例えば1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−および1,4−ジカルボキシメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシル−4,4’−ジカルボン酸およびダイマー酸);これらの二塩基酸のエステル形成性誘導体[酸無水物(例えば無水マレイン酸、無水フタル酸等)、低級アルキル(C1〜4)エステル(ジメチルエステル、ジエチルエステル等)(例えばテレフタル酸ジメチル)、酸ハライド(酸クロライド等)等];およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、ポリエステル樹脂(A)の着色防止の観点から好ましいのは、脂肪族二塩基酸である。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)は上記(a)と(b)の重縮合反応により製造される。該重縮合時の反応温度は特に限定されないが、通常100〜300℃、好ましくは130〜220℃である。該重縮合反応は通常、常圧または減圧下(例えば133Pa以下)で行われる。また、該反応はポリエステル樹脂の着色防止の観点から窒素等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが望ましい。
該重縮合時の(a)と(b)の反応当量比(カルボキシル基/水酸基の当量比)は、迅速な重縮合反応および得られるポリエステル樹脂の物性の安定性の観点から好ましくは0.9/1〜1.4/1、さらに好ましくは0.9/1〜1.2/1である。
ポリエステル樹脂(A)の酸価(単位はmgKOH/g。以下では数値のみを示す。)は、耐水性の観点から好ましくは20以下、さらに好ましくは0〜15である。
【0022】
該重縮合反応は、無触媒でも、エステル化触媒を使用してもいずれでもよい。
エステル化触媒としては、プロトン酸(リン酸等)、金属(アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、2B、4A、4Bおよび5B族金属等)の、カルボン酸(C2〜4)塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、塩化物、水酸化物、アルコキシド等が挙げられる。
これらのうち反応性の観点から好ましいのは、2B、4A、4B、5Aおよび5B族金属の、カルボン酸(C2〜4)塩、酸化物、アルコキシド、生成物の低着色性の観点からさらに好ましいのは三酸化アンチモン、モノ−およびジブチル錫オキシド、テトラブチルチタネート、テトラブトキシチタネート、テトラブチルジルコネート、酢酸ジルコニル、酢酸亜鉛である。
エステル化触媒の使用量は、所望の分子量が得られる量であれば特に制限されないが、(a)と(b)の合計重量に基づいて、反応性および低着色性の観点から好ましくは0.005〜3%、さらに好ましくは0.01〜1%である。
【0023】
また、該反応を促進するため、有機溶剤を加えて還流させることもできる。反応終了後は有機溶剤は通常除去される。なお、有機溶剤としては、水酸基のように活性水素を有しないものであれば特に制限はなく、例えば炭化水素(トルエン、キシレン等)、ケトン(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エステル(酢酸エチル、酢酸ブチル等)が挙げられる。
【0024】
ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量と数平均分子量[以下それぞれMw、Mnと略記。測定はいずれもゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法による。]はガラスチョップドストランドマットの機械強度およびバインダーの溶融性、機械粉砕性の観点から、Mwは好ましくは5,000〜30,000、さらに好ましくは6,500〜28,000、とくに好ましくは7,000〜25,000、Mnは好ましくは2,000〜4,000、さらに好ましくは2,500〜3,500である。
【0025】
[ガラスチョップドストランドマット用バインダー]
本発明のガラスチョップドストランドマット用バインダーは、前記ポリエステル樹脂(A)の粉末を含有してなる。該(A)の粉末の製造方法としては、特に限定されないが工業上の観点から機械粉砕による製造方法が好ましい。
【0026】
[添加剤(D)]
本発明のバインダーは、必要により、ブロッキング防止剤(D1)、滑剤(D2)および親水性付与剤(D3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤(D)を併用することができる。添加剤(D)は、ポリエステル樹脂(A)の製造後、粉砕前に添加してもよいし、粉砕後に添加してもよい。
(D)の合計の使用量は、(A)の重量に基づいて通常8%以下、好ましくは0.01〜5%、さらに好ましくは0.1〜3%である。
【0027】
ブロッキング防止剤(D1)としては、高級脂肪酸もしくはその塩、珪素もしくは金属の酸化物、珪素もしくは金属の炭化物、炭酸カルシウム、タルク、有機樹脂、およびこれらの混合物からなる微粒子等が挙げられる。
高級脂肪酸としては、C8〜24、例えばラウリン酸、ステアリン酸;高級脂肪酸の塩としては、上記高級脂肪酸のアルカリ金属(Na、K、Li等)、アルカリ土類金属(Ca、Ba、Mg等)、Zn、Cu、Ni、CoおよびAl等の塩;珪素もしくは金属の酸化物としては、二酸化珪素、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム等;該珪素もしくは金属の炭化物としては、炭化珪素および炭化アルミニウム等;有機樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、セルロースパウダー等が挙げられる。
これらのうち、粉体流動性の観点から好ましいのは高級脂肪酸の金属塩、および珪素もしくは金属の酸化物である。
【0028】
(D1)の使用量は、(A)の重量に基づいて通常5%以下、バインダーのブロッキング防止およびガラス繊維との結合性の観点から好ましくは0.01〜2%、さらに好ましくは0.1〜1%である。
【0029】
滑剤(D2)としては、ワックス、低分子量ポリエチレン、高級アルコール、高級脂肪酸(金属塩)、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられる。
ワックスとしては、カルナウバワックス等;低分子量ポリエチレンとしては、Mn1,000〜10,000のポリエチレン等;高級アルコールとしては、C10〜24、例えばステアリルアルコール;高級脂肪酸エステルとしては、C10〜36、例えばステアリン酸ブチル、高級脂肪酸(C10〜24)の多価(2〜4)アルコールAO(C2〜3)付加物エステル[例えばエチレングリコール(以下EGと略記)のEO5モル付加物のモノステアレート];高級脂肪酸アミドとしては、C10〜40、例えばステアリン酸アミドが挙げられる。
これらのうち、ガラス繊維との結合性の観点から好ましいのは高級脂肪酸(C10〜24)の多価(2〜4)アルコールAO(C2〜3)付加物エステルおよび高級脂肪酸アミドである。
【0030】
(D2)の使用量は、(A)の重量に基づいて通常5%以下、粉体流動性およびガラス繊維との結合性の観点から好ましくは0.01〜2%、さらに好ましくは0.1〜1%である。
【0031】
親水性付与剤(D3)としては、ポリビニルアルコール(Mn1,000〜100,000)、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、ポリエチレングリコール(以下PEGと略記)(Mn200〜20,000)、PEG(Mn100〜2,000)含有オルガノポリシロキサン(Mn200〜50,000)、デンプン、ポリアクリル酸ソーダ(Mn500〜20,000)、第4級アンモニウム塩含有の(メタ)アクリロイル基含有ポリマー等が挙げられる。
これらのうち、ガラス繊維との結合性の観点から好ましいのはPEGおよびPEG鎖含有オルガノポリシロキサンである。
【0032】
(D3)の使用量は、(A)の重量に基づいて通常5%以下、後述のガラスチョップドストランド積層体に噴霧される水との親水性およびガラス繊維との結合性の観点から好ましくは0.01〜2%、さらに好ましくは0.1〜1%である。
【0033】
[ガラスチョップドストランドマット]
本発明のガラスチョップドストランドマットは、ガラスチョップドストランド積層体とポリエステル樹脂(A)の粉末を含有するガラスチョップドストランドマット用バインダーから構成され、例えば以下の工程で製造することができる。
(1)離型処理した平板金型内にガラスチョップドストランドを方向性無秩序に均一厚みになるように散布してガラスチョップドストランド積層体を得る。
(2)散布したガラスチョップドストランドの重量のほぼ半分の水道水を該積層体の表面が十分湿るように霧吹きにて噴霧(水噴霧操作)後、積層体の上下を逆にする。
(3)所定量のガラスチョップドストランドマット用バインダーを該積層体上に散布して均一付着させる。
(4)上記(2)の水噴霧操作をもう一度行い、さらに該積層体上に所定量の該バインダーを散布して均一に付着させる。
(5)上記(4)の操作を0〜2回またはそれ以上繰り返してバインダーが付着した積層体を得る。
(6)得られた積層体を200℃の循風乾燥機内に入れ、水分を除去する。
(7)室温〜45℃に温度調整したプレス機によりプレスしてバインダーで結合されたガラスチョップドストランドマットを得る。
【0034】
ガラスチョップドストランド積層体の重量に基づくバインダーの結合量は、マットの機械強度およびハンドリング性の観点から好ましくは1〜30%、さらに好ましくは2〜25%、とくに好ましくは3〜20%である。
【0035】
上記(7)の工程後に得られるガラスチョップドストランドマットの重量(g/m2)は、マットの機械強度およびハンドリング性の観点から好ましくは50〜1,000、さらに好ましくは75〜900、とくに好ましくは100〜500である。
【0036】
該ガラスチョップドストランドマットの機械強度の均一性は、引張強さの最大値と最小値の差が小さいことで示され、該引張強さの最大値と最小値の差は、マットのハンドリング性の観点から好ましくは40N以下、さらに好ましくは35N以下、とくに好ましくは30N以下である。ここにおいて、引張強さは後述のJIS R3420に準拠して測定され、上記引張強さの最大値と最小値の差は、10枚の試験片について得られた値の最大値と最小値の差で評価される。
【0037】
本発明のガラスチョプドストランドマットが、従来のバインダーより少ない使用量で優れた機械強度を有するか否かは、例えば後述の強熱減量(重量%)当たりの引張強さで示される。該強熱減量(重量%)当たりの引張強さは、好ましくは40N以上、さらに好ましくは45N以上、とくに好ましくは50N以上である。
【0038】
[ガラス繊維強化プラスチック成形品]
本発明のガラス繊維強化プラスチック成形品は、その成形法については特に限定されることはなく、ハンドレイアップ法、スプレーアップ法、プリフォーム法、マッチドダイ法、SMC法等が挙げられる。これらのうち例えばハンドレイアップ法は通常以下の手順で行われる。
(1)成形型表面に離型剤を塗布する。
(2)ローラー等を用いて均一な厚みになるよう室温(15〜25℃)でマトリックス樹脂(
不飽和ポリエステル樹脂等)を塗布する。
(3)約40℃に温度調整した温風炉内で該樹脂をゲル化させる。
(4)ガラスチョプドストランドマットを成形型表面にフィットさせ、マトリックス樹脂をス
チレンモノマー等で薄めた溶液をローラー等によりガラスチョップドストランドマット
上に積層し、ローラーにより空気抜きを行う。
(5)積層体を温風炉内で硬化させる。
(6)型から取り出し成形品を得る。
【0039】
ハンドレイアップ法を含む前記成形法で用いられるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂(不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、変性アクリル樹脂、フラン樹脂等)、および熱可塑性樹脂(ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂等)が挙げられる。
これらのうち、例えばハンドレイアップ法の場合は、熱硬化性樹脂が用いられ、成形時の作業性の観点から好ましいのは、不飽和ポリエステル樹脂およびビニルエステル樹脂である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
また(a1)〜(a3)は下記を意味するものとする。
(a1):ビスフェノール化合物の各水酸基当たり1モルのAO付加物
(a2):ビスフェノール化合物の水酸基当たり2モル以下のAO付加物[但し(a1)を除
く]
(a3):ビスフェノール化合物の水酸基当たり2モル超のAO付加物
【0041】
製造例1<バインダー(X−1)の製造>
(1)ビスフェノールAのEO付加物(a−1)の製造
滴下および撹拌装置を備えたガラス製オートクレーブに、ビスフェノールA228部(1モル)と水228部を仕込み、窒素置換を行った後、90℃まで昇温し、ビスフェノールAを水に分散させた。ここに水酸化ナトリウム3部を添加し、再度窒素置換を行い、EO88部(2モル)を約4時間かけて滴下し90℃、圧力0.2MPa以下で反応させた。
滴下終了して1時間後、リン酸1.4部を加えて水酸化ナトリウムの一部を中和し、さらにEO22部(0.5モル)を約2時間かけて追加滴下し、90℃、圧力0.2MPa以下で反応させた。追加滴下終了して1時間後、内容物中の(a1)、(a2)、(a3)の合計重量に基づく含有量を確認したところ、(a1)95%、(a2)0.5%、(a3)4.5%であった。なお、含有量の測定は前記LC法に従った(以下同じ)。
生成物を90℃に加熱して水相を分液除去した。さらに、水300部を加え90℃で1時間撹拌後、副生成物(EG、ジエチレングリコール等)を含有する水相を分液除去した。その後吸着剤[商品名「キョーワード600」、協和化学工業(株)製。以下同じ。]120部を添加して1時間撹拌後濾過した。濾液を130℃、1.3kPaで2時間減圧脱水し、ビスフェノールAのEO付加物(a−1)を得た。(a−1)の水酸基価(単位はmgKOH/g。以下では数値のみを示す。)は353であった。
【0042】
(2)ポリエステル樹脂(A1)の製造
冷却管、撹拌棒、温度計および窒素導入管の付いた反応容器に、(a−1)3,365部、フマル酸1,123部、ジブチル錫オキシド6部を仕込み、窒素雰囲気中180℃で、6時間反応させたところで取り出し、ポリエステル樹脂(A1)を得た。
【0043】
(3)ポリエステル樹脂粉末(A1−1)の製造
(A1)100部をサンプルミル[機器名「SK−M10」、協立理工(株)製、以下同じ。]を用いて回転数10,000rpmで5分間粉砕した。得られた樹脂粉末を目開き355μmの篩いでふるい分け、該篩いを通過したポリエステル樹脂粉末(A1−1)を得た。
【0044】
(4)バインダー(X−1)の製造
(A1−1)10部にブロッキング防止剤[商品名「AEROSIL200」、日本アエロジル(株)製、以下同じ。]0.03部を加えた後、混合し、バインダー(X−1)を得た。
【0045】
製造例2<バインダー(X−2)の製造>
(1)ビスフェノールAのEO付加物(a−2)の製造
製造例1の(1)において、EO88部(2モル)に代えてEO79.2部(1.8モル)を用い、追加EO22部(0.5モル)に代えてEO8.8部(0.2モル)を用いたこと以外は、製造例1の(1)と同様に行い、ビスフェノールAのEO付加物(a−2)を得た。(a−2)の水酸基価は355、(a−2)中の(a1)〜(a3)の含有量は、(a1)100%、(a2)0%、(a3)0%であった。
【0046】
(2)ポリエステル樹脂(A2)の製造
製造例1の(2)において、(a−1)3,365部の代わりに(a−2)3,346部を用いたこと以外は製造例1の(2)と同様にしてポリエステル樹脂(A2)を得た。
【0047】
(3)ポリエステル樹脂粉末(A2−1)の製造
製造例1の(3)においてポリエステル樹脂(A1)100部に代えてポリエステル樹脂(A2)100部を用いたこと以外は、製造例1の(3)と同様にしてポリエステル樹脂粉末(A2−1)を得た。
【0048】
(4)バインダー(X−2)の製造
(A2−1)10部にブロッキング防止剤0.03部を加えた後、混合し、バインダー(X−2)を得た。
【0049】
製造例3<バインダー(X−3)の製造>
(1)ビスフェノールAのEO付加物(a−3)の製造
製造例1の(1)において、EO88部(2モル)に代えてEO79.2部(1.8モル)を用い、追加のEO22部(0.5モル)に代えてEO35.2部(0.8モル)を用いたこと以外は、製造例1の(1)と同様に行い、ビスフェノールAのEO付加物(a−3)を得た。(a−3)の水酸基価は352、(a−3)中の(a1)〜(a3)の含有量は、(a1)92%、(a2)0.8%、(a3)7.2%であった。
【0050】
(2)ポリエステル樹脂(A3)の製造
製造例1の(2)において、(a−1)3,365部の代わりに(a−3)3,375部を用いたこと以外は製造例1の(2)と同様にしてポリエステル樹脂(A3)を得た。
【0051】
(3)ポリエステル樹脂粉末(A3−1)の製造
製造例1の(3)においてポリエステル樹脂(A1)100部に代えてポリエステル樹脂(A3)100部を用いたこと以外は、製造例1の(3)と同様にしてポリエステル樹脂粉末(A3−1)を得た。
【0052】
(4)バインダー(X−3)の製造
(A3−1)10部にブロッキング防止剤0.03部を加えた後、混合し、バインダー(X−3)を得た。
【0053】
製造例4<バインダー(X−4)の製造>
(1)ビスフェノールAのEO付加物(a−4)の製造
製造例1の(1)において、EO88部(2モル)に代えてEO66部(1.5モル)を用い、追加のEO22部(0.5モル)に代えてEO57.2部(1.3モル)を用いたこと以外は、製造例1の(1)と同様に行い、ビスフェノールAのEO付加物(a−4)を得た。(a−4)の水酸基価は350、(a−4)中の(a1)〜(a3)の含有量は、(a1)85%、(a2)1%、(a3)14%であった。
【0054】
(2)ポリエステル樹脂(A4)の製造
製造例1の(2)において、(a−1)3,365部の代わりに(a−4)3,394部を用いたこと以外は製造例1の(2)と同様にしてポリエステル樹脂(A4)を得た。
【0055】
(3)ポリエステル樹脂粉末(A4−1)の製造
製造例1の(3)においてポリエステル樹脂(A1)100部に代えてポリエステル樹脂(A4)100部を用いたこと以外は、製造例1の(3)と同様にしてポリエステル樹脂粉末(A4−1)を得た。
【0056】
(4)バインダー(X−4)の製造
(A4−1)10部にブロッキング防止剤0.03部を加えた後、混合し、バインダー(X−4)を得た。
【0057】
製造例5<バインダー(X−5)の製造>
(1)ビスフェノールAのPO付加物(a−5)の製造
製造例1の(1)において、EO88部(2モル)に代えてPO116部(2モル)を滴下し、滴下終了して2時間後にリン酸1.4部を加えて水酸化ナトリウムの一部を中和し、さらに追加のEO22部(0.5モル)に代えてPO46.4部(0.8モル)を滴下して反応させたこと以外は、製造例1の(1)と同様に行った。追加滴下終了して2時間後、内容物中の(a1)、(a2)、(a3)の合計重量に基づく含有量を確認したところ、(a1)90%、(a2)1%、(a3)9%であった。さらに製造例1の(1)と同様にして、吸着剤添加処理後の濾液を100℃、1.3kPaで2時間減圧脱水して、ビスフェノールAのPO付加物(a−5)を得た。(a−5)の水酸基価は322であった。
【0058】
(2)ポリエステル樹脂(A5)の製造
製造例1の(2)において、(a−1)3,365部の代わりに(a−5)3,689部を用い、窒素雰囲気下180℃で6時間反応させた後、200℃まで昇温し、3〜4kPaの減圧下で5時間反応させたこと以外は製造例1の(2)と同様にしてポリエステル樹脂(A5)を得た。
【0059】
(3)ポリエステル樹脂粉末(A5−1)の製造
製造例1の(3)においてポリエステル樹脂(A1)100部に代えてポリエステル樹脂(A5)100部を用いたこと以外は、製造例1の(3)と同様にしてポリエステル樹脂粉末(A5−1)を得た。
【0060】
(4)バインダー(X−5)の製造
(A5−1)10部にブロッキング防止剤0.03部を加えた後、混合し、バインダー(X−5)を得た。
【0061】
製造例6<バインダー(X−6)の製造>
(1)ポリエステル樹脂(A6)の製造
製造例1の(2)において、(a−1)3,365部の代わりに(a−2)3,346部を用い、窒素雰囲気中180℃で、3時間反応させたこと以外は製造例1の(2)と同様にしてポリエステル樹脂(A6)を得た。
【0062】
(2)ポリエステル樹脂粉末(A6−1)の製造
製造例1の(3)においてポリエステル樹脂(A1)100部に代えてポリエステル樹脂(A6)100部を用いたこと以外は、製造例1の(3)と同様にしてポリエステル樹脂粉末(A6−1)を得た。
【0063】
(3)バインダー(X−6)の製造
(A6−1)10部にブロッキング防止剤0.03部を加えた後、混合し、バインダー(X−6)を得た。
【0064】
比較製造例1<バインダー(X’−1)の製造>
(1)ビスフェノールAのEO付加物(a’−1)の製造
製造例1の(1)において、追加のEO22部(0.5モル)に代えてEO220部(5モル)を用いたこと以外は、製造例1の(1)と同様に行い、ビスフェノールAのEO付加物(a’−1)を得た。(a’−1)の水酸基価は345、(a’−1)中の(a1)〜(a3)の含有量は、(a1)74.5%、(a2)0.5%、(a3)25%であった。
【0065】
(2)ポリエステル樹脂(A’1)の製造
製造例1の(2)において、(a−1)3,365部の代わりに(a’−1)3,443部を用い、窒素雰囲気下180℃で5時間反応させた後、200℃まで昇温し、3〜4kPaの減圧下で5時間反応させたこと以外は製造例1の(2)と同様にしてポリエステル樹脂(A’1)を得た。
【0066】
(3)ポリエステル樹脂粉末(A’1−1)の製造
製造例1の(3)においてポリエステル樹脂(A1)100部に代えてポリエステル樹脂(A’1)100部を用いたこと以外は、製造例1の(3)と同様にしてポリエステル樹脂粉末(A’1−1)を得た。
【0067】
(4)バインダー(X’−1)の製造
(A’1−1)10部にブロッキング防止剤0.03部を加えた後、混合し、バインダー(X’−1)を得た。
【0068】
比較製造例2<バインダー(X’−2)の製造>
(1)ビスフェノールAのEO付加物(a’−2)の製造
製造例1の(1)において、EO88部(2モル)に代えてEO308部(7モル)を用い、追加のEO滴下を行わなかったこと以外は、製造例1の(1)と同様に行い、ビスフェノールAのEO付加物(a’−2)を得た。(a’−2)の水酸基価は358、(a’−2)中の(a1)〜(a3)の含有量は、(a1)60%、(a2)20%、(a3)20%であった。
【0069】
(2)ポリエステル樹脂(A’2)の製造
製造例1の(2)において、(a−1)3,365部の代わりに(a’−2)3,318部を用い、窒素雰囲気下180℃で5時間反応させた後、200℃まで昇温し、3〜4kPaの減圧下で4時間反応させたこと以外は製造例1の(2)と同様にしてポリエステル樹脂(A’2)を得た。
【0070】
(3)ポリエステル樹脂粉末(A’2−1)の製造
製造例1の(3)においてポリエステル樹脂(A1)100部に代えてポリエステル樹
脂(A’2)を用いたこと以外は製造例1の(3)と同様にしてポリエステル樹脂粉末(A’2−1)を得た。
【0071】
(4)バインダー(X’−2)の製造
(A’2−1)10部にブロッキング防止剤0.03部を加えた後、混合し、バインダー(X’−2)を得た。
【0072】
上記で得られたポリエステル樹脂(A1)〜(A6)、(A’1)〜(A’2)の酸価、Mw、Mn、Tm、Tg、150℃における溶融粘度、機械粉砕性、およびバインダー(X−1)〜(X−6)、(X’−1)〜(X’−2)の貯蔵安定性の結果は表1に示す。
【0073】
実施例1<ガラスチョップドストランドマット(GM−1)の作成>
ガラスチョップドストランド用のガラスストランド(平均ストランド番手:30tex、ガラス繊維の密度:2.5g/cm3)を、東技研(株)製ガラスチョッパーを用いて約5cmの長さに切断し、ガラスチョップドストランドを得た。
離型処理した75×40×3cmの平板金型内に該ガラスチョップドストランド135.0gを方向性無秩序に均一厚みになるように散布し、次に該ガラスチョップドストランドの積層体の表面が湿る程度まで霧吹きで水道水(約68g)を噴霧した後、該積層体の上下を逆にした。
次に散布したガラスチョップドストランドの重量の1.5%相当量である2.03gのバインダー(X−1)を均一にガラスチョップドストランド積層体上に散布した。
さらにその上に、水道水を約68g噴霧後、2.03gのバインダー(X−1)を均一に散布した。その後、200℃の循風乾燥機で2分間、バインダーを溶融させ、さらに45℃に温度調整したロール型プレス機(ロール間のクリアランス200μm、圧力0.2MPa)により20m/分のスピードでプレスすることによって、厚さ0.69mm、マットの目付量(1m2当たりのマットに使用したガラスチョップドストランドの量。以下同じ。)450g/m2、強熱減量(測定方法は後述)2.90%のガラスチョップドストランドマット(GM−1)を得た。
【0074】
実施例2〜6、比較例1〜2
表1に従って、バインダー使用量を代えたこと以外は実施例1と同様にして、マットの目付量450g/m2の各ガラスチョップドストランドマット(GM−2)〜(GM−6)、(GM’−1)〜(GM’−2)を得た。各マットの厚みは表1に記載した。
【0075】
<評価項目>
下記項目について評価し、結果を表1に示す。
[ポリエステル樹脂評価]
(1)軟化点(Tm)(℃)
JIS K2207、「石油アスファルト」の「6.4軟化点試験方法(環球法)」に準拠して、自動軟化点試験器[機器名「ASP−5」、田中科学機器製作(株)製]により測定した。
(2)ガラス転移点(Tg)(℃)
JIS K7121「プラスチックの転移温度測定法」に準拠して、「RDC−220」[機器名、セイコー電子工業(株)製]により測定した。
(3)150℃における溶融粘度(Pa・s)
測定法は前記のとおり。
(4)機械粉砕性
ポリエステル樹脂100部をサンプルミルを用いて回転数10,000rpmで5分間粉砕した。得られた樹脂粉末を目開き355μmの篩いでふるい分け、該篩いを通過したポリエステル樹脂粉末の重量を測定し、下記の基準で評価した。
<評価基準>

○ 50部以上
△ 30部以上50部未満
× 30部未満

(5)貯蔵安定性
300mlのメスシリンダー(内径40mm)にバインダー粉末100部を入れ、該粉末の上に、メスシリンダーの内径よりやや小さめの100gの円筒型分銅を置き、45℃の恒温槽内で1時間加熱後、分銅を取り除き、メスシリンダーを傾斜させてバインダー粉末の耐ブロッキング性を下記の基準で評価した。
<評価基準>

○ 容易に流動し、耐ブロッキング性に優れる。
△ やや流動性に欠け、一部ブロッキングが認められる。
× 流動性なく、全体的にブロッキングが認められる。
【0076】
[ガラスチョップドストランドマット評価]
(1)マットの強熱減量(重量%)
JIS R3420「ガラス繊維一般試験方法」の「7.3.2強熱減量」に準拠して測定される値で、マット重量に基づく、ガラス繊維を除く付着バインダー量の割合(重量%)を表す。具体的な測定手順は以下のとおりである。
[1] 試験片約5gを磁性るつぼに入れ、105℃で30分間乾燥させた後、デシケータ内で室温まで放冷却し、0.1mg単位まで重量(m1)を測定する。該乾燥した試験片入り磁性るつぼを625℃に温度調整した電気炉内に入れ、扉を開いたまま5分間燃焼させた後、扉を閉め、さらに10分間燃焼させた。その後試験片入り磁性るつぼを取り出しデシケータ内で室温まで放冷し、0.1mg単位まで重量(m2)を測定する。[2] 試験片を入れない空の上記磁性るつぼについて、105℃で30分間乾燥させた後デシケータ内で室温まで放冷し、0.1mg単位まで重量(m0)を測定する。
[3] 下記式から強熱減量を算出する。

強熱減量(重量%)=100×[(m1)−(m2)]/[(m1)−(m0)]
【0077】
(2)マットの引張強さ(N)
作成した各ガラスチョップドストランドマットから、幅50mm×長さ150mmの試験片を10枚ずつ切り出し、これらをJIS R3420「ガラス繊維一般試験方法」の「7.4引張強さ」に準拠して測定し、試験片10枚の平均値をガラスチョップドストランドマットの引張強さとした。なお、バインダーの付着量は、前記(3)の強熱減量により求めた。引張強さの測定は具体的には次の手順で行った。
(i)試験片を25℃、湿度65%(JIS K7100で規定される標準雰囲気)の条件で1時間、静置する。
(ii)試験片の長さ方向の両端部を上下の各クランプで掴み、クランプ間の距離を10mmに調整する。
(iii)「オートグラフAGS−500D」[機器名、(株)島津製作所製]を用い、引張速度100mm/分で引張試験を行い、試験片が破断するまでに要した力を引張強さとする。
【0078】
<評価基準>
[1] 引張強さの平均値
試験片10枚の引張強さの平均値を求め下記の基準で評価した。
<評価基準>

○ 130N以上
△ 100N以上130N未満
× 100N未満
【0079】
[2] 引張強さの最大値と最小値の差
試験片10枚の引張強さの最大値と最小値の差を求め下記の基準で評価した。
<評価基準>

○ 40N以下
△ 40N超80N以下
× 80N超
【0080】
[3] 強熱減量(重量%)当たりの引張強さ
試験片10枚の引張強さの平均値を強熱減量(重量%)で除し下記の基準で評価した。
<評価基準>

○ 40N以上
△ 30N以上40N未満
× 30N未満
【0081】
(3)マット表裏面の鉛筆硬度(繊維接着性の評価)
鉛筆硬度はJIS K5600に準拠して測定され、斜め45度に固定した鉛筆の真上から荷重をかけて引っ掻き試験を行い、ガラス繊維の脱落具合(繊維接着性)を下記基準で評価した。
<評価基準>

4B 4Bの鉛筆では繊維の脱落が起こらないが、3Bの鉛筆では繊維の脱落が起こるもの
5B 5Bの鉛筆では繊維の脱落が起こらないが、4Bの鉛筆では繊維の脱落が起こるもの
6B 6Bの鉛筆では繊維の脱落が起こらないが、5Bの鉛筆では繊維の脱落が起こるもの
× 6B以上の鉛筆で繊維の脱落が起こるもの
【0082】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のバインダーでガラスチョップドストランド積層体を結合させてなるガラスチョップドストランドマットは、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)成形品用の強化材等として用いられ、該成形品は、自動車用部材(成形天井材等)、小型船舶(カヌー、ボート、ヨット、モーターボート等)の船体、住宅用部材(バスタブ、浄化槽等)等幅広い分野に適用できることから、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物(a)および二塩基酸(b)を構成単位とし、ガラス転移点と軟化点の差が60℃以下であるポリエステル樹脂(A)を含有してなるガラスチョップドストランドマット用バインダー。
【請求項2】
(a)が、ビスフェノール化合物の各水酸基当たり1モルのアルキレンオキシド付加物(a1)を85重量%以上含有してなる請求項1記載のバインダー。
【請求項3】
(A)のガラス転移点が40〜60℃である請求項1または2記載のバインダー。
【請求項4】
(A)の軟化点が90〜120℃である請求項1〜3のいずれか記載のバインダー。
【請求項5】
(A)の150℃における溶融粘度が5〜50Pa・sである請求項1〜4のいずれか記載のバインダー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のバインダーでガラスチョップドストランド積層体を結合させてなるガラスチョップドストランドマット。
【請求項7】
請求項6記載のマットを強化材として成形してなるガラス繊維強化プラスチック成形品。
【請求項8】
ガラス繊維強化プラスチック成形品が、自動車成形天井材、小型船舶船体、バスタブまたは浄化槽用である請求項7記載の成形品。
【請求項9】
ガラスチョップドストランド散布、水散布およびバインダー散布からなる工程を経て形成されるガラスチョップドストランド積層体を加熱後、プレス成形してガラスチョップドストランドマットを製造する方法において、請求項1〜5のいずれか記載のバインダーを用いることを特徴とするガラスチョップドストランドマットの製造方法。

【公開番号】特開2011−6669(P2011−6669A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120458(P2010−120458)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】