説明

ガラスビード作製装置及び方法

【課題】 高品質のガラスビードを作成できるガラスビード作製装置及び方法を提供すること。
【解決手段】 試料及び融剤が投入される溶融ルツボ21と、この溶融ルツボ21を加熱する高周波加熱コイル(加熱手段)23と、溶融ルツボ21内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機20とを備え、この溶融湯を冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製装置において、攪拌機20は水平面に対して傾斜した軌道面に沿って溶融ルツボ21を回動させて溶融ルツボ21内の溶融湯を撹拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば蛍光X線分析装置等の試料として粉末試料と融剤を加熱、撹拌して溶融させた後に冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製装置及び方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されたガラスビード作製装置は、試料及び融剤が投入される溶融ルツボと、この溶融ルツボを加熱する高周波加熱コイルと、溶融ルツボを回転及び傾動運動させる攪拌機とを備え、溶融ルツボ内にて試料及び融剤を溶融させた溶融湯を撹拌した後に冷却することにより、ガラスビードを作製するようになっている。
【0003】
また、特許文献2に開示されたガラスビード作製装置は、溶融ルツボと鋳込み皿を備え、溶融ルツボにて試料及び融剤を加熱、撹拌して溶融させた溶融湯をつくり、溶融ルツボを傾倒させて溶融ルツボ内の溶融湯を鋳込み皿に流下させた後に冷却することにより、鋳込み皿内にてガラスビードを作製するようになっている。
【特許文献1】特開平7−20019号公報
【特許文献2】特開2003−149101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来のガラスビード作製装置にあっては、溶融ルツボを回転及び傾動運動させて溶融ルツボ内の溶融湯を撹拌するため、粘性の高い溶融湯に対して撹拌が弱くなり、混合が十分に行われず、ガラスビードにて試料を均一に分布させることが難しいという問題点があった。
【0005】
また、溶融ルツボの底部の温度をセンサで測定し、溶融ルツボの温度が目標値になるようにフィードバック制御しているが、溶融ルツボ内にて撹拌される溶融湯の温度を精度よく測定し、さらに調節することが難しく、ガラスビードの品質にバラツキが生じるという問題点があった。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、高品質のガラスビードを作成できるガラスビード作製装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、試料及び融剤が投入される溶融ルツボと、この溶融ルツボを加熱する加熱手段と、溶融ルツボ内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機とを備え、この溶融湯を冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製装置において、攪拌機が水平面に対して傾斜した軌道面に沿って溶融ルツボを回動させて溶融ルツボ内の溶融湯を撹拌することを特徴とするものとした。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、加熱手段として設けられた溶融ルツボをその電磁波によって加熱する溶融ルツボ用高周波加熱コイルと、溶融ルツボを傾倒軸まわりに回動させることによって溶融ルツボ内の溶融湯を鋳込み皿に流下させる傾倒機と、この鋳込み皿をその電磁波によって加熱する鋳込み皿用高周波加熱コイルと、溶融ルツボ用高周波加熱コイルとこの鋳込み皿用高周波加熱コイルに対してそれぞれ高周波電流を供給する共通の高周波電源装置とを備え、傾倒機を作動させて溶融ルツボ内の溶融湯を鋳込み皿に流下させる前にこの高周波電源装置から溶融ルツボ用高周波加熱コイルと鋳込み皿用高周波加熱コイルに対して交互に高周波電流を供給して溶融ルツボと鋳込み皿をそれぞれ加熱することを特徴とするものとした。
【0009】
第3の発明は、第1または第2の発明において、溶融ルツボを傾倒軸まわりに回動させることによって溶融ルツボ内の溶融湯を鋳込み皿に流下させる傾倒機を備え、溶融ルツボをこの傾倒軸まわりに回動させることによって攪拌機により溶融ルツボが回動する軌道面の水平面に対する傾斜角度を調節することを特徴とするものとした。
【0010】
第4の発明は、第1から第3のいずれか一つの発明において、溶融ルツボの底部を平面状に形成し、攪拌機がこの底部を水平面に対して傾斜させた状態で溶融ルツボを回動させることを特徴とするものとした。
【0011】
第5の発明は、試料及び融剤が投入される溶融ルツボと、この溶融ルツボを加熱する加熱手段と、溶融ルツボ内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機とを備え、この溶融湯を冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製装置において、溶融ルツボの内面に膨出する凸部を形成したことを特徴とするものとした。
【0012】
第6の発明は、試料及び融剤が投入される溶融ルツボと、この溶融ルツボを加熱する加熱手段と、溶融ルツボ内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機とを用い、この溶融湯を冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製方法において、溶融ルツボまたは溶融湯の温度を検出する温度検出手段を用い、攪拌機を作動させるとともに加熱手段を作動させて溶融湯を撹拌しながら加熱する撹拌加熱工程と、攪拌機の作動を止めた状態で温度検出手段によって検出される溶融ルツボまたは溶融湯の温度に応じて加熱手段を作動させ溶融湯を加熱する撹拌停止加熱工程とを行うことを特徴とするものとした。
【0013】
第7の発明は、試料及び融剤が投入される溶融ルツボと、この溶融ルツボまたは溶融湯の温度を検出する温度検出手段と、溶融ルツボを加熱する加熱手段と、溶融ルツボ内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機とを用い、温度検出手段によって検出される溶融ルツボまたは溶融湯の温度に応じて加熱手段を作動させてこの溶融ルツボを加熱する加熱処理を行い、この溶融湯を冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製方法において、温度検出手段として溶融ルツボの上部に赤外線センサを配置し、この赤外線センサが溶融ルツボまたは溶融湯の温度を検出することを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によると、攪拌機が水平面に対して傾斜した軌道面に沿って溶融ルツボを回動させて溶融ルツボ内の溶融湯を撹拌することにより、溶融ルツボ内の溶融湯に乱流が生じ、試料が混ざることが促され、ガラスビードにて試料を均一に分布させることができ、ガラスビードの品質を高められる。
【0015】
第2の発明によると、鋳込み皿用高周波加熱コイルを作動させて鋳込み皿を加熱した後、傾倒機を介して傾倒する溶融ルツボから溶融湯を鋳込み皿に流下させることにより、鋳込み皿に流下した溶融湯が急激に冷却されることを抑えられ、ガラスビーズのひび割れや局所的な固化が生じることを防止できる。
【0016】
溶融ルツボ用高周波加熱コイルと鋳込み皿用高周波加熱コイルを交互に作動させて溶融ルツボと鋳込み皿をそれぞれ加熱するため、一つの高周波電源装置によって高周波加熱コイルと高周波加熱コイルをそれぞれ駆動することが可能となる。これにより、複数の高周波電源装置を設ける必要がなく、製品のコストダウンがはかれる。
【0017】
第3の発明によると、溶融ルツボを傾倒機の傾倒軸まわりに回動させることによって溶融ルツボが回動する軌道面の水平面に対する傾斜角度を調節するため、傾倒機に溶融湯を鋳込み皿に流下させる機能と、撹拌位置にて溶融ルツボの傾斜角度を調節する機能を併せ持たせることができ、構造の簡素化がはかれる。
【0018】
第4の発明によると、溶融ルツボの底部が平面状に形成されることにより、攪拌機が溶融ルツボの底部を水平面に対して傾斜させた状態で溶融ルツボを回動させて溶融ルツボ内の溶融湯を撹拌することにより、溶融ルツボ内の溶融湯に乱流が効果的に生じ、溶融湯の撹拌効果を高められる。
【0019】
第5の発明によると、溶融ルツボ内における溶融湯の流れが凸部に当たって乱流が生じ、試料が混ざることが促され、ガラスビードにて試料を均一に分布させることができ、ガラスビードの品質を高められる。
【0020】
第6の発明によると、撹拌加熱工程にて溶融ルツボの撹拌しながら加熱手段を駆動する一方、溶融ルツボの撹拌を停止する撹拌停止加熱工程にて検出される温度が目標値に近づくように加熱手段の駆動出力をフィードバック制御する。撹拌停止加熱工程では溶融ルツボの撹拌動作を停止することにより、温度検出手段によって溶融ルツボまたは溶融湯の温度を検出する精度が高まり、加熱手段の駆動出力を精度良くフィードバック制御して溶融ルツボの温度にバラツキが生じることを抑えられ、ガラスビードの品質を高められる。
【0021】
第7の発明によると、温度検出手段として溶融ルツボの上部に赤外線センサを配置したため、この赤外線センサを介して溶融ルツボまたは溶融湯の温度を精度良く検出することが可能となり、加熱手段の駆動出力を精度良く制御して溶融ルツボの温度にバラツキが生じることを抑えられ、ガラスビードの品質を高められる。さらに、従来の溶融ルツボを流れる電流値を測定して温度を検知するものと比べて、溶融ルツボの経時的な変化に伴う検知値のズレがなく、長期にわたって安定した品質のガラスビードを作成することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態を示すガラスビード作製装置の正面図である。ガラスビード作製装置の本体1には、操作パネル7、高周波電源装置8、スタートボタン6を備え、排気ダクト4、圧縮空気を装置に導入するための配管挿入口9、冷却水供給用配管の挿入口13と冷却水排出用配管の挿入口12、開閉ドア11等を備える。
【0024】
開閉ドア11の内側には、投入される粉末試料及び融剤を加熱、撹拌して溶融湯をつくる溶融部2と、溶融部2でつくられた溶融湯を冷却してガラスビードを作成する冷却部3が設けられる。開閉ドア11にはこの溶融部2と冷却部3を目視できる窓が設けられている。
【0025】
図2は溶融部2と冷却部3の正面図であり、図3はその側面図、図4はその平面図である。溶融部2は試料及び融剤が投入される溶融ルツボ21と、この溶融ルツボ21を加熱する溶融ルツボ用高周波加熱コイル23と、溶融ルツボ21内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機20とを備える。
【0026】
高周波加熱コイル23は溶融ルツボ21を加熱する加熱手段として設けられる。高周波加熱コイル23は溶融ルツボ21の側面21aを囲むようにして螺旋状に延びている。
【0027】
高周波加熱コイル23は溶融ルツボ21を電磁誘導によって発振加熱する。高周波電源装置8が高周波加熱コイル23の誘導コイルに高周波電流を流すと溶融ルツボ21に高周波磁束が発生し、白金製の溶融ルツボ21はこの高周波磁束によって高い電流が誘導され、ジュール熱が発生して自己発熱をする。
【0028】
そして本発明の要旨とするところであるが、攪拌機20は水平面に対して傾斜した軌道面に沿って溶融ルツボ21を回動させて溶融ルツボ21内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する。
【0029】
図7に示すように、白金製の溶融ルツボ21は、円錐状の側面21aと、この側面21aから環状に突出したつば部21cと、円盤状の底部21bを有し、その上部が開口した容器である。
【0030】
溶融ルツボ21の底部21bは平面状に形成され、攪拌機20はこの底部21bが水平面に対して傾斜した状態で溶融ルツボ21を回動させる。
【0031】
攪拌機20は、本体1に固定される固定フレーム51と、この固定フレーム51に対して回動する回動フレーム52とを備える。
【0032】
回動フレーム52はその一端がこの固定フレーム51に対して回動機構53を介して水平方向について回動可能に支持され、その他端がこの固定フレーム51に対してスライド軸受54を介して水平方向についてスライド可能に支持される。
【0033】
駆動機(エア駆動機または電動モータ)55がその伝達軸56を図中矢印で示すように回転駆動することにより、この伝達軸56に連動する回動機構53が図中矢印で示すように回動フレーム52を伝達軸56を中心として円弧状に回動させる。
【0034】
平面図上において溶融ルツボ21は回動機構53に対して例えば7〜15mm程度オフセットして設けられ、溶融ルツボ21が略楕円弧状の軌跡をもって回動する。
【0035】
攪拌機20が回動フレーム52を回動する速度は、例えば200〜300rpmの範囲に設定される。この速度は粉末試料の種類等によって150〜300rpmの範囲で適宜選択される。
【0036】
攪拌機20は、回動フレーム52に対して傾倒軸61を介して傾倒可能に支持される傾倒フレーム62を備える。傾倒軸61は回動フレーム52上に水平に延びるように支持されている。
【0037】
傾倒フレーム62は各ストッパ63に当接することにより、水平面に対して所定角度で傾斜した撹拌位置に保持される。各ストッパ63は傾倒フレーム62の傾斜角度を5〜30°の範囲で調節する調節機構を有している。
【0038】
後述するように溶融ルツボ21が水平面に対して傾斜することにより、攪拌機20によって撹拌される溶融ルツボ21内の溶融湯に乱流が生じ、試料が混ざることが促され、ガラスビードにて試料を均一に分布させることができる。
【0039】
溶融ルツボ21が水平面に対して傾斜する角度は、10〜25°の範囲に設定することにより、溶融ルツボ21から溶融湯がこぼれることを防止し、かつ溶融湯に生じる乱流によって試料を混合する効果が十分に得られる。
【0040】
傾倒フレーム62の傾倒軸61を溶融ルツボ21が回動する軌道面と平行に延びるように配置し、傾倒軸61を中心にして傾倒フレーム62を回動させて水平面に対する軌道面の傾斜角度を調節するようになっている。
【0041】
溶融ルツボ21はそのつば部21cが傾倒フレーム62に設けられる座66に着座し、図示しないストッパを介して座66からつば部21cが外れないように押さえられる。
【0042】
傾倒機60は駆動機55がその伝達軸57を回転駆動することにより、プーリ63、ベルト64、プーリ65を介して傾倒軸61まわりに傾倒フレーム62を傾倒させる。傾倒フレーム62が図5に示すように大きく回動することにより、溶融ルツボ21を溶融ルツボ用高周波加熱コイル23と共に傾倒軸61まわりに回動させて溶融ルツボ21内の溶融湯を鋳込み皿31に流下させる。
【0043】
なお、傾倒機60は、これに限らず、チェーン、ギア等を介して傾倒フレーム62を傾倒させる構成としても良い。
【0044】
傾倒フレーム62にはコネクタ15が設けられ、このコネクタ15から銅管16を介して高周波加熱コイル23に高周波電流が供給されるとともに、銅管16の内部に配置された図示しない配管を介して循環する冷却水が装置を冷却するようになっている。
【0045】
冷却部3の固定フレーム32上には鋳込み皿31が配置される。鋳込み皿31は固定フレーム32に設けられる座38に着座する。
【0046】
固定フレーム32上には溶融ルツボ用高周波加熱コイル33が鋳込み皿31を加熱する加熱手段として設けられる。この高周波加熱コイル33は鋳込み皿31の底部31aに沿って螺旋状に延びている。
【0047】
固定フレーム32にはコネクタ35が設けられ、このコネクタ35からケーブル36を介して高周波加熱コイル33に高周波電流が供給されるとともに、図示しない配管を介して循環する冷却水が装置を冷却するようになっている。
【0048】
鋳込み皿31の底部31aに冷却空気を吹き付ける冷却用エアノズル34が設けられる。
【0049】
温度検出手段として溶融ルツボ21の温度を検出する赤外線センサ5が設けられる。図示しないコントローラは赤外線センサ5の検出信号を入力し、溶融ルツボ21の温度が目標値に近づくように高周波加熱コイル23の駆動出力をフィードバック制御する。
【0050】
なお、温度検出手段として鋳込み皿31内の溶融湯の温度を検出する温度センサを設けても良い。この場合、コントローラは温度センサの検出信号を入力し、鋳込み皿31内の溶融湯の温度が目標値に近づくように高周波加熱コイル33の駆動出力をフィードバック制御する。
【0051】
ガラスビード作製装置は、溶融ルツボ21内の粉末試料及び融剤を加熱、撹拌して溶融湯をつくる際、攪拌機20を作動させるとともに高周波加熱コイル23を作動させて溶融湯を撹拌しながら加熱する撹拌加熱工程と、攪拌機20の作動を止めた状態で赤外線センサ5によって検出される溶融ルツボ21の温度に応じて高周波加熱コイル23を作動させ溶融湯を加熱する撹拌停止加熱工程とを交互に繰り返して行う。
【0052】
コントローラは、撹拌加熱工程にて高周波加熱コイル23を予め設定された所定出力で駆動する一方、撹拌停止加熱工程にて赤外線センサ5によって検出される溶融ルツボ21の温度が目標値に近づくように高周波加熱コイル23の駆動出力をフィードバック制御する。
【0053】
このガラスビード作製装置を用いてガラスビードを作成する場合、まず、作業者が溶融ルツボ21に粉末試料及び融剤を所定量だけ投入し、開閉ドア11を開けてこの溶融ルツボ21を傾倒フレーム62の所定位置にセットする。
【0054】
次に、作業者がスタートボタン6をONにし、コントローラが高周波加熱コイル23及び攪拌機20を作動させ、溶融ルツボ21内の粉末試料及び融剤を加熱、撹拌して溶融湯をつくり、高周波加熱コイル23と高周波加熱コイル33を交互に作動させて溶融ルツボ21と鋳込み皿31をそれぞれ加熱した後、傾倒機60を介して傾倒する溶融ルツボ21から溶融湯を鋳込み皿31に流下させ、鋳込み皿13を冷却空気によって冷却する。これらの各工程は自動的に行われる。
【0055】
図8はコントローラが高周波加熱コイル23,33、撹拌機20、傾倒機60の作動を制御する例を示すタイミングチャートである。
【0056】
スタートボタン6がONに入れられると、まず、第一撹拌停止加熱工程として、溶融ルツボ21の撹拌動作を停止した状態で赤外線センサ5によって検出される溶融ルツボ21の温度が目標値に近づくように高周波加熱コイル23の駆動出力をフィードバック制御する。
【0057】
スタートボタン6がONに入ってから所定時間T1(例えば2分)が経過すると、所定時間T2(例えば20秒)が経過するまでの間は、第一撹拌加熱工程として、攪拌機20を作動させるとともに高周波加熱コイル23を予め設定された所定出力で駆動する。
【0058】
その後、所定時間T3(例えば10秒)が経過するまでの間は、第二撹拌停止加熱工程として、溶融ルツボ21の撹拌動作を停止した状態で赤外線センサ5によって検出される溶融ルツボ21の温度が目標値に近づくように高周波加熱コイル23の駆動出力をフィードバック制御する。
【0059】
その後、同様にして、所定回数の撹拌加熱工程と撹拌停止加熱工程とが交互に繰り返し行われる。
【0060】
なお、撹拌停止加熱工程と撹拌加熱工程は、交互に複数回繰り返し行ってもよい。
【0061】
続いて、溶融ルツボ21の撹拌動作を停止した状態で高周波加熱コイル23と高周波加熱コイル33を交互に作動させて溶融ルツボ21と鋳込み皿31をそれぞれ加熱する。
【0062】
続いて、所定時間T4(例えば1〜5秒)が経過するまでの間、最終撹拌停止加熱工程として、溶融ルツボ21の撹拌動作を停止した状態で、高周波加熱コイル23と高周波加熱コイル33を交互に作動させて、鋳込み皿31の温度を上昇させる一方で溶融ルツボ21の温度が所定温度以下にならないように高周波加熱コイル23の駆動出力をフィードバック制御する。
【0063】
続いて、所定時間T4(例えば1〜5秒)が経過するまでの間、最終撹拌停止加熱工程として、溶融ルツボ21の撹拌動作を停止した状態で赤外線センサ5によって検出される溶融ルツボ21の温度が目標値に近づくように高周波加熱コイル23の駆動出力をフィードバック制御する。
【0064】
なお、鋳込み皿31の温度を検出する温度センサを設けて、コントローラがその検出値に応じて鋳込み皿31の温度を目標温度(例えば900℃)に近づけるようにフィードバック制御しても良い。
【0065】
続いて、傾倒機60を介して溶融ルツボ21を傾倒させ、溶融ルツボ21内の溶融湯を鋳込み皿31に流下させる。その後、傾倒機60を介して溶融ルツボ21を元の位置に戻す。
【0066】
続いて、所定時間だけ放熱させた後冷却用エアノズル34から鋳込み皿31の底部31aに冷却空気を吹き付け、鋳込み皿31を冷却する。
【0067】
操作パネル7を介して溶融ルツボ21の目標加熱温度、溶融ルツボ21の撹拌時間と撹拌速度、鋳込み皿31の加熱温度と冷却時間等の各種条件が設定される。
【0068】
こうして装置内で鋳込み皿31を室温程度まで冷却した後、作業者が開閉ドア11を開けてこの鋳込み皿31を装置内から取り出し、鋳込み皿31内で固まった円盤状のガラスビードを鋳込み皿31から取り出す。
【0069】
以上のように構成されて、次に作用及び効果について説明する。
【0070】
ガラスビード作製装置は、攪拌機20が水平面に対して傾斜した軌道面に沿って溶融ルツボ21を回動させて溶融ルツボ21内の溶融湯を撹拌することにより、溶融ルツボ21内の溶融湯に乱流が生じ、試料が混ざることが促され、ガラスビードにて試料を均一に分布させることができ、ガラスビードの品質を高められる。
【0071】
溶融ルツボ21の底部21bは平面状に形成されることにより、攪拌機20が溶融ルツボ21の底部21bを水平面に対して傾斜させた状態で溶融ルツボ21を回動させて溶融ルツボ21内の溶融湯を撹拌することにより、溶融ルツボ21内の溶融湯に乱流が効果的に生じ、溶融湯の撹拌効果を高められる。
【0072】
傾倒フレーム62(溶融ルツボ21)を傾倒機20の傾倒軸61まわりに回動させることによって溶融ルツボ21が回動する軌道面の水平面に対する傾斜角度を変える構成としたため、傾倒機20に溶融湯を鋳込み皿31に流下させる機能と、撹拌位置にて溶融ルツボ21の傾斜角度を調節する機能を併せ持たせることができ、構造の簡素化がはかれる。
【0073】
コントローラは、溶融ルツボ21の撹拌する撹拌加熱工程にて高周波加熱コイル23を予め設定された所定出力で駆動する一方、溶融ルツボ21の撹拌を停止する撹拌停止加熱工程にて赤外線センサ5によって検出される溶融ルツボ21の温度が目標値に近づくように高周波加熱コイル23の駆動出力をフィードバック制御する。撹拌停止加熱工程では溶融ルツボ21の撹拌動作を停止することにより、赤外線センサ5によって溶融ルツボ21の温度を検出する精度が高まり、高周波加熱コイル23の駆動出力を精度良くフィードバック制御して溶融ルツボ21の温度にバラツキが生じることを抑えられ、ガラスビードの品質を高められる。
【0074】
溶融ルツボ21の上部に赤外線センサ5を配置したため、赤外線センサ5を介して溶融ルツボ21または溶融湯の温度を精度良く検出することが可能となり、高周波加熱コイル23の駆動出力を精度良く制御して溶融ルツボの温度にバラツキが生じることを抑えられ、ガラスビードの品質を高められる。さらに、従来の溶融ルツボを流れる電流値を測定して温度を検知するものと比べて、溶融ルツボ21の経時的な変化に伴う検知値のズレがなく、長期にわたって安定した品質のガラスビードを作成することができる。
【0075】
高周波加熱コイル33を作動させて鋳込み皿31を加熱した後、傾倒機60を介して傾倒する溶融ルツボ21から溶融湯を鋳込み皿31に流下させることにより、鋳込み皿31に流下した溶融湯が急激に冷却されることを抑えられ、ガラスビーズのひび割れや局所的な固化が生じることを防止できる。
【0076】
高周波加熱コイル23と高周波加熱コイル33を交互に作動させて溶融ルツボ21と鋳込み皿31をそれぞれ加熱するため、一つの高周波電源装置8によって高周波加熱コイル23と高周波加熱コイル33をそれぞれ駆動することが可能となる。これにより、複数の高周波電源装置8を設ける必要がなく、製品のコストダウンがはかれる。
【0077】
次に図9に示す他の実施形態を説明する。なお、前記実施形態と同一構成部には同一符号を付す。
【0078】
白金製の溶融ルツボ21は、円錐状の側面21aと、この側面21aから環状に突出したつば部21cと、円盤状の底部21bと、その内面に膨出する凸部21dを有し、その上部が開口した容器である。
【0079】
凸部21dは側面21aと底部21bに渡って部分的に膨出し、円錐面状に延びる側面21aの内面に対して凹凸を形成する。
【0080】
この場合、攪拌機20が水平面に対して傾斜した軌道面に沿って溶融ルツボ21を回動させて溶融ルツボ21内の溶融湯を撹拌することにより、溶融ルツボ21内における溶融湯の流れが傾斜した底部21bに案内されるとともに凸部21dに当たって乱流が生じ、試料が混ざることが促され、ガラスビードにて試料を均一に分布させることができ、ガラスビードの品質を高められる。
【0081】
なお、攪拌機20が水平に延びる軌道面に沿って溶融ルツボ21を回動させて溶融ルツボ21内の溶融湯を撹拌するようにしても良い。この場合、溶融ルツボ21内における溶融湯の流れが凸部21dに当たって乱流が生じ、試料が混ざることが促され、ガラスビードにて試料を均一に分布させることができ、ガラスビードの品質を高められる。
【0082】
本発明で使用できる融剤の種類としては、例えば、四ホウ化リチウム等の常用のものを使用することができるが、特にこれらに制限されるものではない。
【0083】
また、溶融ルツボ及び鋳込み皿の材質は、一般的には白金、白金系合金(例えば、Pt・5wt%Au)等の常用のものを使用することができるが、特にこれらに制限されるものではない。
【0084】
また、本発明では、試料、融剤の他、必要により常用の剥離剤を溶融ルツボに投入することができる。使用することができる剥離剤は特に制限はなく、その一例を示せば、ヨウ化リチウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等が挙げられる。
【0085】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のガラスビード作製装置及び方法は、蛍光X線分析装置等の試料に限らず、他の用途に用いられるガラスビードを作製するものにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態を示すガラスビード作製装置の正面図。
【図2】同じく溶融部と冷却部の正面図。
【図3】同じく溶融部と冷却部の側面図。
【図4】同じく溶融部と冷却部の平面図。
【図5】同じく溶融部と冷却部の正面図。
【図6】同じく溶融部の平面図。
【図7】同じく溶融ルツボの斜視図。
【図8】同じく制御動作を示すタイミングチャート。
【図9】他の実施形態を示す溶融ルツボの斜視図。
【符号の説明】
【0088】
2 溶融部
3 冷却部
5 赤外線センサ(温度検出手段)
20 攪拌機
21 溶融ルツボ
21b 底部
21d 凸部
23 高周波加熱コイル(加熱手段)
31 鋳込み皿
33 高周波加熱コイル(加熱手段)
61 傾倒軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料及び融剤が投入される溶融ルツボと、
この溶融ルツボを加熱する加熱手段と、
前記溶融ルツボ内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機とを備え、
この溶融湯を冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製装置において、
前記攪拌機が水平面に対して傾斜した軌道面に沿って前記溶融ルツボを回動させて前記溶融ルツボ内の溶融湯を撹拌することを特徴とするガラスビード作製装置。
【請求項2】
前記加熱手段として設けられた溶融ルツボをその電磁波によって加熱する溶融ルツボ用高周波加熱コイルと、
前記溶融ルツボを傾倒軸まわりに回動させることによって前記溶融ルツボ内の溶融湯を鋳込み皿に流下させる傾倒機と、
この鋳込み皿をその電磁波によって加熱する鋳込み皿用高周波加熱コイルと、
前記溶融ルツボ用高周波加熱コイルとこの鋳込み皿用高周波加熱コイルに対してそれぞれ高周波電流を供給する共通の高周波電源装置とを備え、
前記傾倒機を作動させて前記溶融ルツボ内の溶融湯を前記鋳込み皿に流下させる前にこの高周波電源装置から前記溶融ルツボ用高周波加熱コイルと前記鋳込み皿用高周波加熱コイルに対して交互に高周波電流を供給して前記溶融ルツボと前記鋳込み皿をそれぞれ加熱することを特徴とする請求項1に記載のガラスビード作製装置。
【請求項3】
前記溶融ルツボを傾倒軸まわりに回動させることによって前記溶融ルツボ内の溶融湯を鋳込み皿に流下させる傾倒機を備え、
前記溶融ルツボをこの傾倒軸まわりに回動させることによって前記攪拌機により前記溶融ルツボが回動する軌道面の水平面に対する傾斜角度を調節することを特徴とする請求項1または2に記載のガラスビード作製装置。
【請求項4】
前記溶融ルツボの底部を平面状に形成し、
前記攪拌機がこの底部を水平面に対して傾斜させた状態で前記溶融ルツボを回動させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のガラスビード作製装置。
【請求項5】
試料及び融剤が投入される溶融ルツボと、
この溶融ルツボを加熱する加熱手段と、
前記溶融ルツボ内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機とを備え、
この溶融湯を冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製装置において、
前記溶融ルツボの内面に膨出する凸部を形成したことを特徴とするガラスビード作製装置。
【請求項6】
試料及び融剤が投入される溶融ルツボと、
この溶融ルツボを加熱する加熱手段と、
前記溶融ルツボ内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機とを用い、
この溶融湯を冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製方法において、
前記溶融ルツボまたは溶融湯の温度を検出する温度検出手段を用い、
前記攪拌機を作動させるとともに前記加熱手段を作動させて溶融湯を撹拌しながら加熱する撹拌加熱工程と、
前記攪拌機の作動を止めた状態で温度検出手段によって検出される前記溶融ルツボまたは溶融湯の温度に応じて前記加熱手段を作動させ溶融湯を加熱する撹拌停止加熱工程とを行うことを特徴とするガラスビード作製方法。
【請求項7】
試料及び融剤が投入される溶融ルツボと、
この溶融ルツボまたは溶融湯の温度を検出する温度検出手段と、
前記溶融ルツボを加熱する加熱手段と、
前記溶融ルツボ内にて試料及び融剤が溶融した溶融湯を撹拌する攪拌機とを用い、
前記温度検出手段によって検出される前記溶融ルツボまたは溶融湯の温度に応じて前記加熱手段を作動させてこの溶融ルツボを加熱する加熱処理を行い、
この溶融湯を冷却してガラスビードを作製するガラスビード作製方法において、
前記温度検出手段として溶融ルツボの上部に赤外線センサを配置し、この赤外線センサが前記溶融ルツボまたは溶融湯の温度を検出することを特徴とするガラスビード作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−10501(P2007−10501A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192111(P2005−192111)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(594053497)ハルツォク・ジャパン株式会社 (2)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】