説明

ガラスレンズ用ボール

【課題】ガラスボールの加工において有害なスクラッチやディグの発生を防ぎ、所望の表面形状を安定して生産すると共に、ガラスボールに必要な基準値として成形後のレンズ表面に割れ,窪み,歪みの欠陥を排除し、映像の解像度への影響を現われにくくする。
【解決手段】球径が0.1mm以上のガラスボールであって、表面形状精度をロット内の直径の相互差0.01〜60μm、真球度0.01〜60μm、表面粗さ(Ra)0.001〜0.010μm、表面のスクラッチ500μm以下、かつディグを300μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主にデジタルカメラ,車載用センサーカメラ,プロジェクター,DVD,ブルーレイ,カメラ付携帯電話,内視鏡等、一般の光学映像分野に用いられる球面または非球面のガラスレンズに加工されるガラスレンズ用ボール(以下、単にガラスボールと略記する)及び光ファイバーのコネクター等、一般の光通信分野に用いられるガラスボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のガラスレンズは一般にゴブと呼ばれる、ガラス融液から直接成形された塊状のガラスが用いられており、これを加熱してプレスし、余肉部分を削り取ることで球面または非球面レンズが作られていた。
【0003】
しかし、表面の余肉を加工し、レンズ用としての使用に耐え得る表面形状に仕上げることには多くの加工時間と熟練した技術が必要であった。そのため、これらを解決するべく、近時、ガラスボールの特徴である体積計算が容易なことを利用して、加熱プレス後の余肉部分を小さく、又は無くし、プレス後に加工が不要又は殆ど不要な成形方法が採られている。
【0004】
しかしながら、一般の光学映像分野に用いられるレンズはこれを成形するにあたり、ガラスボールの表面形状がある基準を満たしていなければならず、それを超えると成形後のレンズ表面に割れ、窪み,歪み等の欠陥が発生してしまい、映像の解像度などが低下するという問題があった。
【0005】
また、光通信用レンズに用いられる直径が0.3〜10mmのガラスボールにおいて、玉軸受用鋼球加工装置を用いて真球度を0.08μm以下、ロットの直径の相互差を0.13μm以下にしたガラスボールレンズが提案されている。(例えば特許文献1参照)
しかしながら、従来からある玉軸受用鋼球加工装置は、剛性体からなる研磨盤が用いられており、脆性材料であるガラスの加工には不向きであった。
【特許文献1】特開2005−186232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記提案に係るガラスボールレンズは主として高精度が求められる光通信分野であり、デジタルカメラ,車載用センサーカメラ等の一般光学映像分野の使用は考慮されていない。
【0007】
本発明は上記実状に着目し、特に一般光学映像分野への主たる使用に対応し、これに対応するには光通信分野ほどの高い精度は求められないにしても、更に前記表面形状精度以外の他の要素に対する要求が深く関連を有していることを知見し、これらの要素と、その精度を見出すことにより、デジタルカメラ,車載用センサーカメラ,DVD,カメラ付携帯電話など一般光学映像分野および高精度が求められる光通信分野のレンズとしてプレス加工後のレンズにおいて映像の解像度に影響が現われ難く、所望の表面形状を安定して大量生産を可能ならしめることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、上記目的に適合する本発明ガラスレンズ用ボールは、球径が0.1mm以上のガラスボールであって、表面形状精度をロット内の直径の相互差0.01〜60μm,真球度0.01〜60μmの外、更に表面粗さ(Ra)0.001〜0.010μm,表面のスクラッチ(線状の引っかきキズ)500μm以下、かつディグ(微小割れ,窪み)を300μm以下としたガラスレンズ用ボールである。
【発明の効果】
【0009】
本発明ガラスボールはガラスレンズに必要な表面形状の基準値(ロット内の直径の相互差0.01〜60μm、真球度0.01〜60μm、表面粗さ(Ra)0.001〜0.010μm以下、スクラッチ500μm以下、かつディグ300μm以下)内にあるから、表面にある凹凸がこの範囲内にあればプレス加工後のレンズまたは光通信用ガラスボールレンズにおいて、映像の解像度に影響が現われにくく、実使用上問題もない効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、更に本発明の具体的形態について説明する。
【0011】
本発明ガラスボールは前述のようにガラスレンズに必要な表面形状の基準値の範囲を特定し見出したものであり、多様な表面形状のガラスボールを加熱プレス成形してレンズを製作試行した結果、到達したものである。
【0012】
即ち、本発明の得られた基準値は球径が0.1mm以上のガラスボールにおいて、ロット内の直径の相互差を0.01〜60μm,真球度を0.01〜60μmとするだけでなく、更に加えて表面粗さ,表面のスクラッチ(線状の引っかきキズ),ディグ(微小割れ,窪み)にも基準値を求め、これら基準値を表面粗さ(Ra)を0.001〜0.010μm,表面のスクラッチを500μm以下、好ましくは200μm以下、ディグを300μm以下、好ましくは100μm以下となしたものである。
【0013】
上記基準値はレンズを成形するにあたり、ガラスボールの表面形状を満たしていなければならず、もしそれを超えるときは、成形後のレンズ表面に割れ,窪み,歪み等の欠陥が発生してしまい、光学映像分野において映像の解像度などが低下するという難を避けられない。また、ガラスボールを成形せずに光通信用レンズとして用いる場合もデータ通信に障害となる可能性があった。
【0014】
なお、球径0.1mm未満、直径の相互差0.01μm未満、かつ真球度0.01μm未満の高精度のガラスボールは加工コストが非常に高くつくため、前記の範囲を適正とした。
【0015】
図1は上記本発明ガラスボール(球径0.1mm以上)の仕上げ加工に用いる装置の1例であり、同図に示すように従来の玉軸受用鋼球の加工装置にみられるような固定盤と回転盤の組み合わせからなる研磨盤が用いられている。
【0016】
以下、図1に示す表面加工装置を同図面に基づいて説明すると、図において1,2は互いに対面し、夫々同心円状に溝4が形成されている円盤であり、これら円盤はその一方2が回転円盤,他方1が固定円盤であって、両者の間に表面加工しようとするガラスボールBが流れ込み、溝の間に挟まれた状態で円盤を回転することにより、ガラスボールBを溝に沿って円運動させつつ研磨により表面加工が行なわれるようになっている。そして、両円盤間で加工されたガラスボールBは固定円盤の切欠き3より排出シュート9を通じて回転コンベア5に排出され、ガラスボールBはコンベア5の回転と共に回転移動して、その間、コンベア5から仕切板6を介してシュート7を通じて送り込まれ、次の加工に進められる。
【0017】
以上のような装置において、本発明では特にガラスボールという脆性材料を加工する関係上、上記両円盤1,2の少なくとも一方、例えば固定円盤1は図2に示すように、剛性体砥石ホルダー1aで保持された同心円状の溝4をもつ対合面10がゴム,プラスチックの如き弾性体で形成されていて、酸化セリウム,酸化ジルコニウム,酸化アルミナ,シリカ,炭化ケイ素,微細なダイヤモンドパウダーから選ばれた1種以上の砥粒が含有された弾性体砥石1bとなっている。なお、砥粒を含有することに代え、少なくとも一方を低剛性の弾性体の盤として加工するにあたり、研削液に酸化セリウム,酸化ジルコニウム,酸化アルミナ,炭化ケイ素,シリカ,ダイヤモンドパウダーから選ばれた1種以上を混ぜた遊離砥粒を使用するようにしても同様の効果が得られる。なお、弾性体を用いた円盤は上記固定円盤側に限らず、回転円盤2側に用い、又は固定円盤,回転円盤の両方に用いてもよい。
【0018】
ここで、回転円盤と固定円盤の少なくとも一方の対合面を弾性体で形成することにより、回転に伴い回転円盤と固定円盤に挟まれたガラスボールにかかる荷重を適度に吸収、緩和可能となすことができる。即ち、ガラスボールの加工に際し、多少円盤を押し付ける荷重が強くなった場合や、加工初期のガラスボールの真球度が悪いため、その直径が両円盤間のクリアランスより極端に大きくなった場合でも、ガラスボールへの負荷荷重が弾性体の弾力により適度に緩和させることができ、従って、真球度の悪いガラスボールの回転に伴っても荷重の変動が少なく、ガラスボールの破損、スクラッチおよびディグの発生を抑え、直径の相互差が小さくより真球度のよいガラスボールへの加工が容易となる。
【0019】
なお、少なくとも一方の弾性体砥石に含有された砥粒又は表面加工時の研削液の遊離砥粒の材質、粒度を変更することにより意図した仕上げ精度が得られる。
【0020】
かくして、このような表面加工装置を用いてガラスレンズに必要な表面形状精度の基準値に適合した本発明ガラスボールを得ることができ、しかも有害なスクラッチやディグの発生を防ぎ、所望の表面形状が安定して大量生産される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るガラスボールを得るための表面加工装置の1例を示す概要図である。
【図2】弾性体砥石の1例を示す斜視外観図である。
【符号の説明】
【0022】
1:固定円盤
1a:剛性体砥石ホルダー
1b:弾性体砥石
2:回転円盤
B:ガラスボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球径が0.1mm以上のガラスボールであって、表面形状精度をロット内の直径の相互差を0.01〜60μm,真球度を0.01〜60μmに加え、更に表面粗さ(Ra)を0.001〜0.01μm,表面のスクラッチ(線状の引っかきキズ)を500μm以下、かつディグ(微小割れ,窪み)を300μm以下としたことを特徴とするガラスレンズ用ボール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−126339(P2007−126339A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322373(P2005−322373)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(595151017)株式会社天辻鋼球製作所 (27)
【Fターム(参考)】