説明

ガラス固化体中の白金族元素不溶解物観察用試料の作製方法

【課題】使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液をガラスと溶融混合して固化されたガラス固化体中の白金族元素不溶解物の三次元形状を観察することができる試料を作製する。
【解決手段】使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液をガラスと溶融混合して固化されたガラス固化体を、溶液温度が室温〜60℃で且つフッ化水素酸濃度が0.0045質量%〜4.5質量%のフッ化水素酸水溶液と接触させるガラス侵食処理工程を含むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス固化体中の白金族元素不溶解物観察用試料の作製方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液をガラスと溶融混合して固化されたガラス固化体中の白金族元素不溶解物の観察に好適な試料を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済核燃料を再処理してウラン(U)とプルトニウム(Pu)を分離回収する過程で、高レベル放射性廃液(以下、高レベル廃液と略記することもある)が発生する。高レベル廃液は、ガラスと溶融混合された後、固化されてガラス固化体となる。このガラス固化体は30〜50年間冷却のために貯蔵された後、地層処分される。
【0003】
ところで、ガラスには、高レベル廃液に含まれる金属イオンの殆どが溶解する一方で、核分裂により生じたルテニウム(Ru)やパラジウム(Pd)に代表される白金族元素は、ガラスへの溶解度が低い。したがって、ガラス固化体中に白金族元素が析出物(結晶)として存在していることがある。また、高レベル廃液に含まれている白金族元素を中心とする合金等の不溶解残渣がガラス固化体中に存在していることがある。
【0004】
ここで、白金族元素の析出物と不溶解残渣とでは、その形状が異なる。また、白金族元素の析出物は、その析出物を構成する白金族元素の種類によって、その形状が異なる。したがって、このようなガラス固化体中の白金族元素不溶解物の形状を観察することで、ガラス固化体の品質を把握するための情報を得ることができる。また、ガラス固化体の品質に何らかの不具合が生じた場合にその原因を突き止めるための情報を得ることもできる。
【0005】
ところが、ガラス固化体は黒色あるいは黒色に近い濃い色であることから、白金族元素不溶解物の観察は容易ではなかった。そこで、従来は、ガラス固化体から薄片試料を作製し、この薄片試料に光を透過させてガラス固化体中の白金族元素不溶解物の形状を観察する手法や、ガラス固化体の表面を研磨してその表面に露出した白金族元素不溶解物を電子顕微鏡で観察する手法が採用されていた(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ch.Krause and B.Luckscheiter, J.Mater.Res.,6,12(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の手法では、得られる情報が十分ではなかった。
【0008】
即ち、ガラス固化体から薄片試料を作製し、この薄片試料に光を透過させてガラス固化体中の白金族元素不溶解物の形状を観察する手法では、ガラス固化体中の白金族元素不溶解物の二次元形状は把握できるものの、白金族元素不溶解物の三次元形状を把握することはできなかった。
【0009】
また、ガラス固化体の表面を研磨してその表面に露出した白金族元素不溶解物を電子顕微鏡で観察する手法では、ガラス固化体の表面及びその直下の白金族元素不溶解物の形状は把握できるものの、深さ方向を十分に加味した白金族元素不溶解物の三次元形状を把握することは困難であった。
【0010】
そこで、本発明は、使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液をガラスと溶融混合して固化されたガラス固化体中の白金族元素不溶解物の三次元形状を観察することができる試料を作製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、本願発明者は鋭意検討し、フッ化水素酸(HF)に着目して実験を行った。即ち、フッ化水素酸は、ガラスを侵食(溶解)することが既知である。また、白金族元素不溶解物を構成する主要元素であるルテニウムとパラジウムのうち、ルテニウムを溶解しないことも既知である。しかしながら、フッ化水素酸へのパラジウムの溶解性については明らかとはされていなかった。
【0012】
そこで、本願発明者は、溶液温度が100℃でフッ化水素酸濃度が45質量%のフッ化水素酸水溶液を用いてフッ化水素酸へのパラジウムの溶解性を検討した。その結果、パラジウムがガラスとほぼ同等の速度で溶解してしまうことが明らかとなった。
【0013】
この検討結果を受け、本願発明者はさらなる検討を重ねた。その結果、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度をある一定の条件に制御することによって、フッ化水素酸水溶液に対するパラジウム溶解速度をガラス侵食速度よりも大幅に小さくすることができることを知見した。
【0014】
さらに、本願発明者は、ガラス固化体から観察用試料を作製する状況を加味した検討を進めた。即ち、固化直後のガラス固化体のような高レベル放射性廃棄物を扱うエリアでは、人が直接作業することができず、マニピュレータ等の遠隔装置によって遠隔操作を行う必要があることから、俊敏な操作が困難である。したがって、作業時間を少なくとも数十分程度確保して、遠隔操作を余裕を持って行うことができるようにする必要がある。そこで、本願発明者は、この状況を加味した上で上記知見に基づいて検討を進め、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明のガラス固化体中の白金族元素不溶解物観察用試料の作製方法は、使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液をガラスと溶融混合して固化されたガラス固化体を、溶液温度が室温〜60℃で且つフッ化水素酸濃度が0.0045質量%〜4.5質量%のフッ化水素酸水溶液と接触させるガラス侵食処理工程を含むようにしている。
【0016】
ここで、本発明においては、ガラス侵食処理工程に次いで、超音波処理を施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラス固化体中の白金族元素不溶解物を実質的に溶解させることなく残しながら、ガラスを侵食することができるので、ガラス固化体中の白金族元素不溶解物を露出させることができる。したがって、ガラス固化体中の白金族元素不溶解物の三次元形状を観察することのできる試料を作製することができる。しかも、作業時間を少なくとも数十分程度確保して、マニピュレータ等の遠隔装置による遠隔操作を余裕をもって行うことができるようにしているので、実際の現場への適用も容易である。
【0018】
また、ガラス侵食処理工程に次いで、超音波処理を施すことで、白金族元素不溶解物の表面の薄皮を除去することができる。したがって、作製された観察用試料の光学顕微鏡観察や電子顕微鏡観察が行い易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明により作製された観察用試料の光学顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
本発明のガラス固化体中の白金族元素不溶解物観察用試料の作製方法は、使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液をガラスと溶融混合して固化されたガラス固化体を、溶液温度が室温〜60℃で且つフッ化水素酸濃度が0.0045質量%〜4.5質量%のフッ化水素酸水溶液と接触させるガラス侵食処理工程を含むようにしている。尚、室温とは、固化直後のガラス固化体のような高レベル放射性廃棄物を扱うエリアの温度を意味しており、具体的には20℃〜30℃、より具体的には25℃である。
【0022】
使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液をガラスと溶融混合して固化されたガラス固化体には、白金族元素不溶解物が含まれていることがある。ガラス侵食処理工程では、ガラス固化体中の白金族元素不溶解物を実質的に溶解させることなく残しながら、ガラスを侵食(溶解)することができるので、ガラス固化体中の白金族元素不溶解物を露出させることができる。
【0023】
ここで、固化直後のガラス固化体のような高レベル放射性廃棄物を扱うエリアでは、人が直接作業することができず、マニピュレータ等の遠隔装置によって遠隔操作を行う必要があることから、俊敏な操作が困難である。そこで、作業時間(ガラス固化体とフッ化水素酸水溶液の接触時間)を少なくとも数十分程度確保して、遠隔操作を余裕を持って行うことができるようにする必要がある。
【0024】
そして、ガラス固化体中の白金族元素不溶解物のサイズは、一般的には数十μm〜100μm程度であることから、数十μm〜100μmのガラスを少なくとも数十分かけて侵食処理できる条件とすることが好ましい。
【0025】
本発明では、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を室温〜60℃とし、且つフッ化水素酸濃度を0.0045質量%〜4.5質量%としている。この場合、ガラス侵食速度を0.48μm/h〜307.3μm/hに制御できることが本願発明者の実験により確認されている。したがって、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度をこの範囲に制御することによって、数十μm〜100μmのガラスを少なくとも数十分かけて侵食処理できる。よって、遠隔操作を余裕を持って行うことができる。また、本発明により作製された試料を観察に供した結果、ガラスをあと数μm侵食させて深さ方向のさらなる情報を得たくなった場合にも、ガラス侵食速度の遅い条件を用いてガラス侵食処理を行うことで、数μmのガラス侵食を少なくとも数十分かけて侵食処理でき、遠隔操作による作業によっても、十分にガラス侵食量を制御することができる。
【0026】
尚、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を高くすればするほど、ガラスの侵食速度は増加する。逆に溶液温度を低くすればするほど、ガラスの侵食速度は低下する。また、フッ化水素酸水溶液のフッ化水素酸濃度を高くすればするほど、ガラスの侵食速度は増加する。逆にフッ化水素酸濃度を低くすればするほど、ガラスの侵食速度は低下する。したがって、数十分以上の作業時間を確保できる範囲で作業の迅速性を高める上では、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度を上記範囲内で高めて、ガラス侵食速度を向上させることが好適である。また、ガラス侵食量の制御性を高める上では、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度を上記範囲内で低くして、ガラス侵食速度を低下させることが好適である。
【0027】
また、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度は、上記範囲内で1条件に設定して処理を行うようにしてもよいが、上記範囲内で二種以上の条件に設定して処理を行うようにすることも可能である。例えば、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度を上記範囲内で高めた条件で、ガラス侵食速度を向上させ、ガラスを多く侵食させた後、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度を上記範囲内で低下させた条件で、ガラス侵食速度を低下させ、ガラス侵食量の制御性を高めるようにしてもよい。この場合、作業の迅速性とガラス侵食量の制御性の確保を両立することができる。
【0028】
具体的には、例えば、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を室温〜60℃で且つフッ化水素酸濃度を4.5質量%に設定して1回目のガラス侵食処理を行い、次いでフッ化水素酸水溶液の溶液温度を室温〜60℃で且つフッ化水素酸濃度を0.0045質量%〜0.45質量%に設定して2回目のガラス侵食処理を行うようにしてもよい。この場合、1回目のガラス侵食処理でガラスを多く侵食させ、2回目のガラス侵食処理でガラス侵食量の制御性を高めることができる。
【0029】
また、例えば、溶液温度を室温よりも高温に設定してガラス侵食処理を開始し、フッ化水素酸水溶液を加熱することなく、徐々に室温まで低下させるようにしてもよい。この場合、溶液温度が室温に向かうにつれて、ガラス侵食速度を徐々に低下させることができるので、ガラス侵食処理初期にはガラス侵食量を多くし、ガラス侵食処理終盤ではガラス侵食量の制御性を高めることができる。
【0030】
本発明では、フッ化水素酸を希釈したフッ化水素酸水溶液を用いることから、フッ化水素酸による機器の腐食等が生じ難い。また、作業時間が長くなる条件(ガラス侵食速度が低下する条件)になるに従い、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度は低下するので、作業時間が長くなったからといって、フッ化水素酸による機器の腐食等が生じやすくなることもない。
【0031】
尚、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度を1条件に設定して処理を行う場合には、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を室温〜60℃とし、且つフッ化水素酸濃度を0.045質量%〜4.5質量%とすることが好適である。この場合、ガラス侵食速度を3.8μm/h〜307.3μm/hに制御できることが本願発明者の実験により確認されている。したがって、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度をこの範囲に制御することによって、数十μm〜100μmのガラスを少なくとも数十分〜8時間で侵食処理できるので、遠隔操作を余裕を持って行うことを可能としながらも、通常の工場作業者の労働時間内(8時間)内に確実に作業を終了させることができる。
【0032】
ここで、フッ化水素酸水溶液の溶液温度とフッ化水素酸濃度を上記範囲(室温〜60℃で且つ0.0045質量%〜4.5質量%)に設定すれば、ガラス固化体中のパラジウム不溶解物の殆どが溶解されずに残るので、形状観察に十分な量が確保されるが、ガラス固化体中のパラジウム不溶解物をさらに多く残す上では、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を室温〜60℃とし、且つフッ化水素酸濃度を0.0045質量%〜0.45質量%とすることが好適である。また、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を室温とし、フッ化水素酸濃度を4.5質量%とすることが好適である。
【0033】
フッ化水素酸水溶液とガラス固化体の接触方法は、フッ化水素酸水溶液にガラス固化体を浸漬する方法が簡易であり好適であるが、この方法に限定されるものではなく、例えばガラス固化体にフッ化水素酸水溶液を滴下するようにしてもよい。
【0034】
ガラス侵食処理工程が終了した後は、適宜水洗や乾燥等を行った後に観察に供するようにすればよいが、ガラス侵食処理工程に次いで、超音波処理を施すことが好適である。超音波処理を施すことで、白金族元素不溶解物の表面の薄皮を除去することができる。これにより、作製された試料の光学顕微鏡観察や電子顕微鏡観察を行い易くすることができる。
【0035】
尚、超音波処理は、ガラス侵食処理工程が終了した後に、水洗を兼ねた超音波洗浄として行うようにしてもよいし、ガラス固化体をフッ化水素酸水溶液に浸漬したまま超音波処理を施すようにしてもよい。
【0036】
また、超音波処理の条件は、特に限定されるものではないが、例えば28kHz〜40kHzで1分間程度とすることが好適である。
【0037】
本発明の方法により得られた観察用試料は、一般的な光学顕微鏡による観察や高倍率光学顕微鏡による観察、電子顕微鏡観察に供することにより、白金族元素不溶解物の三次元形状を観察することができる。また、その形状から白金族元素の種類の特定を行うことができるが、元素分析装置を備えた電子顕微鏡を用いて、白金族元素不溶解物を構成する白金族元素をより正確に分析することもできる。
【0038】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、白金族元素として、ルテニウムとパラジウムについて説明したが、核分裂により発生するロジウム(Rh)についても、上記条件ではフッ化水素酸には殆ど溶解しないことから、本発明により、核分裂により発生する白金族元素全般の不溶解物を溶解させずに残すことができる。
【0039】
また、上述の実施形態では、超音波処理を施すことにより、白金族元素不溶解物の表面の薄皮を除去するようにしていたが、超音波処理以外の方法で薄皮を除去するようにしてもよい。例えばエアブロワーで試料表面を吹き付けることにより、薄皮を除去するようにしてもよい。
【0040】
さらに、上述の実施形態では、観察する対象を白金族元素不溶解物としていたが、使用済核燃料の被覆管を観察する対象とできる場合もある。即ち、ガラス固化体中には、高レベル廃液に混入していた被覆管の切りかす等が不溶解物として存在している場合がある。使用済核燃料の被覆管は白金族元素で構成されてはいないが、上記条件によりガラスを溶解処理することで、被覆管の切りかす等を溶解することなく、残すことができる場合がある。したがって、使用済核燃料の被覆管の切りかす等を観察対象とできる場合がある。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0042】
(実施例1)
使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液をガラスと溶融混合して固化されたガラス固化体を模擬した、白金族元素の析出したガラス試料を一定の大きさに切り出して表面を研磨し、表面積が一定のガラス試料を複数枚準備した。
【0043】
フッ化水素酸水溶液(和光純薬製)を以下の5種類のフッ化水素酸濃度に調整し、テフロン(登録商標)ビーカーに入れて溶液温度を25℃、40℃、60℃とした。
(1)原液:フッ化水素酸濃度45質量%
(2)10倍希釈:フッ化水素酸濃度4.5質量%
(3)100倍希釈:フッ化水素酸濃度0.45質量%
(4)1000倍希釈:フッ化水素酸濃度0.045質量%
(5)10000倍希釈:フッ化水素酸濃度0.0045質量%
【0044】
次に、各種溶液温度及びフッ化水素酸濃度に調整したフッ化水素酸水溶液にガラス試料を浸漬し、1時間放置した。この間、溶液温度はそれぞれ所定の温度(25℃、40℃、60℃)に維持し続けた。
【0045】
1時間後にテフロンビーカーを強制的に室温℃まで冷却した後、テフロンビーカーごと超音波洗浄機で1分間処理した。超音波洗浄機の周波数は28kHzとした。
【0046】
超音波処理後、フッ化水素酸水溶液中のパラジウム濃度及びアルミニウム濃度をICP分析した。
【0047】
また、ガラス試料は実験前後で重量を電子天秤にて測定し、実験後の重量減少量と表面積、ガラス試料の密度からガラス侵食速度を計算した。
【0048】
ガラス試料のフッ化水素酸水溶液による侵食速度を表1に示す。表中の希釈倍率及び温度以外の数値の単位は「μm/h」である。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示されるように、溶液温度が25℃〜60℃で且つフッ化水素酸濃度が0.0045質量%〜4.5質量%のフッ化水素酸水溶液により、ガラス侵食速度を0.48μm/h〜307.3μm/hに制御できることが明らかとなった。したがって、数十μm〜100μmのガラスを少なくとも数十分間かけて侵食させて、数十μm〜100μm程度のガラス固化体中の白金族元素不溶解物を露出させることができ、俊敏な操作が困難な遠隔装置による操作でも十分に余裕をもって作業できることが明らかとなった。また、溶液温度が25℃〜60℃で且つフッ化水素酸濃度が0.045質量%〜4.5質量%のフッ化水素酸水溶液により、ガラス侵食速度を3.8μm/h〜307.3μm/hに制御できることが明らかとなった。したがって、数十μm〜100μmのガラスを数十分間〜8時間で侵食させて、数十μm〜100μm程度のガラス固化体中の白金族元素不溶解物を露出させることができ、俊敏な操作が困難な遠隔装置による操作でも十分に余裕をもって作業できると共に、通常の工場作業者の労働時間内(8時間)内に確実に作業を終了させることができることが明らかとなった。
【0051】
次に、パラジウム溶解量のアルミニウム基準原料比を表2に示す。この値は、ガラス固化体の溶解量を1としたときのパラジウム溶解量に相当する値である。具体的には、ガラス試料の全量が溶解した溶液温度60℃でフッ化水素酸濃度45質量%のフッ化水素酸水溶液を用いた場合のパラジウム濃度/アルミニウム濃度を1とし、この値を基準として各種溶液温度及びフッ化水素酸濃度条件におけるパラジウム濃度/アルミニウム濃度を計算したものである。尚、アルミニウムはガラスを構成する元素の一部であり、フッ化水素酸水溶液中のアルミニウム濃度はガラス侵食量に応じて推移する。そこで、本実施例では、アルミニウム濃度を基準値として用いた。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示されるように、溶液温度が25℃〜60℃で且つフッ化水素酸濃度が0.0045質量%〜4.5質量%のフッ化水素酸水溶液により、ガラス試料中のパラジウム残存率を80%以上とすることができ、白金族元素不溶解物の観察に十分耐えうる量のパラジウムを残存させることが可能であることが明らかとなった。また、溶液温度が25℃〜60℃で且つフッ化水素酸濃度が0.0045質量%〜0.45質量%のフッ化水素酸水溶液及び溶液温度が25℃で且つフッ化水素酸濃度が4.5質量%のフッ化水素酸水溶液により、パラジウムを90%程度残存させることができ、さらに好適であることが明らかとなった。
【0054】
以上の結果から、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を25℃〜60℃で且つフッ化水素酸濃度を0.0045質量%〜4.5質量%とすることで、俊敏な操作が困難な遠隔装置による操作でも十分に余裕をもって作業できると共に、白金族元素不溶解物も十分に残存できることが明らかとなった。また、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を25℃〜60℃で且つフッ化水素酸濃度を0.0045質量%〜0.45質量%とすることで、俊敏な操作が困難な遠隔装置による操作でも十分に余裕をもって作業できると共に、白金族元素不溶解物をさらに多く残存できることが明らかとなった。
【0055】
さらに、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を25℃〜60℃で且つフッ化水素酸濃度を0.045質量%〜4.5質量%とすることで、俊敏な操作が困難な遠隔装置による操作でも十分に余裕をもって作業できると共に、通常の工場作業者の労働時間内(8時間)内に確実に作業を終了させることができ、しかも白金族元素不溶解物も十分に残存できることが明らかとなった。また、フッ化水素酸水溶液の溶液温度を25℃〜60℃で且つフッ化水素酸濃度が0.045質量%〜0.45質量%とすることで、またはフッ化水素酸水溶液の溶液温度を25℃で且つフッ化水素酸濃度が4.5質量%とすることで、俊敏な操作が困難な遠隔装置による操作でも十分に余裕をもって作業できると共に、通常の工場作業者の労働時間内(8時間)内に確実に作業を終了させることができ、しかも白金族元素不溶解物をさらに多く残存できることが明らかとなった。
【0056】
図1に室温(25℃)で0.45質量%のフッ化水素酸水溶液にガラス固化体を40分間浸漬した後に、1分間の超音波処理(28kHz)を施した試料の光学顕微鏡観察写真を示す。図1に示されるように、ガラス固化体中のパラジウム不溶解物を残しつつ、ガラスのみを溶解でき、ガラス固化体中の白金族元素不溶解物を観察可能な試料を作製できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液をガラスと溶融混合して固化されたガラス固化体を、溶液温度が室温〜60℃で且つフッ化水素酸濃度が0.0045質量%〜4.5質量%のフッ化水素酸水溶液と接触させるガラス侵食処理工程を含むことを特徴とするガラス固化体中の白金族元素不溶解物観察用試料の作製方法。
【請求項2】
前記ガラス侵食処理工程に次いで、超音波処理を施す請求項1に記載のガラス固化体中の白金族元素不溶解物観察用試料の作製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−128083(P2011−128083A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288438(P2009−288438)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】