説明

ガラス基板のレーザ加工装置

【課題】ガラス基板に無端の閉じた形状の加工痕を容易に形成でき、ガラス基板の分割のための処理時間を短縮することができるガラス基板のレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】環状に設けられたシリンドリカルレンズ7により、レーザ光源6から出射されたレーザ光5をガラス基板2の切断予定線に対応させて集光する。シリンドリカルレンズ7に対するレーザ光5の照射位置は、駆動装置により方向aに移動される。レーザ光5はその光軸に直交する面内で、方向bの幅Wがシリンドリカルレンズの幅Wよりも大きい。そして、駆動装置により、レーザ光5の照射位置を方向aに移動させる過程で、レーザ光源6からレーザ光5を複数回出射させることにより、切断予定線に対応する加工痕20を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面強化ガラス基板をダイシングするガラス基板のレーザ加工装置に関し、特に、ガラス基板に環状の加工痕を形成するのに好適なガラス基板のレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルの製造に際し、ガラス基板上に露光及び現像を繰り返して、所定の画素及び回路からなるパターンを形成する。この場合に、1枚のガラス基板に対し、複数枚のパネル分のパターンを同時に形成し、その後、ガラス基板を分割することにより、個々のパネルを製造している。従来、このガラス基板の分割は、切断予定線を回転刃で線状に研削する機械的なダイシング加工により行っている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この機械的ダイシング加工においては、ダイシングブレードを低速度で切断予定線に沿って移動させる必要があり、1個のガラス基板当たりの処理時間が長くかかり、製造タクトが悪いという問題点がある。また、ダイシング工程の途中でガラス基板が割れやすく、歩留が低いと共に、回転刃による切削に際し、切削屑が発生するという問題点もある。特に、表面強化ガラスの場合は、上記問題点が更に著しくなる。
【0004】
よって、例えばレーザ加工によりガラスに加工痕を形成する技術が提案されている。即ち、ガラスの表面又は深さ方向の内部にレーザ光を点状又は線状に集光することにより、エネルギ密度の高いレーザ光をガラスに照射して、ガラスの切断予定線に沿って加工痕を形成し、加工痕に沿って機械的に力を印加することにより、ガラスを切断予定線で容易に切断することができる。レーザ光によるガラス基板の加工は、機械的ダイシング加工に比して、製造タクトを短縮できるだけではなく、ガラス基板が加工の途中で割れにくく、切削屑も発生しにくいため、特に、表面強化ガラスの加工に好適である。
【0005】
例えば、特許文献2には、YAGレーザ発振装置によりガラス基板にレーザ光を照射した後、ガラス基板表面のレーザ光が照射された位置をホイールカッターで走査することにより、例えば合わせガラス等の表面にクラックを発生させる技術が開示されている。
【0006】
特許文献3においては、ガラスに照射するビームスポット形状を30mm以上の最大寸法を有する細長いものにし、これをガラス上で線状に走査することにより、ガラスに部分的にクラックを生じさせている。
【0007】
特許文献4においては、レーザ加工装置において、ガラス等の切断対象物への加工速度を向上させるために、切断対象物の厚さ方向及び厚さ方向に直交する方向に延びるように1対の線状焦点を形成し、ガラス等の切断対象物の内部を改質する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−229831号公報
【特許文献2】特開2005−104819号公報
【特許文献3】特開2008−273837号公報
【特許文献4】特開2008−36641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2乃至4の技術は、いずれもガラスに連続的な線状の加工痕又は線状の切断予定線に沿った複数個の点状の加工痕を形成するものである。よって、ガラス基板に無端の閉じた形状の加工痕を形成する場合には、レーザ光をガラス基板の切断予定線に沿って連続的に走査するか、又はレーザ光の照射位置を切断予定線に沿って移動させながらレーザ光を複数回照射する必要があり、製造タクトが長期化するという問題点がある。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ガラス基板に無端の閉じた形状の加工痕を容易に形成でき、ガラス基板の分割のための処理時間を短縮することができるガラス基板のレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るガラス基板のレーザ加工装置は、ガラス基板の無端の閉じた形状の切断予定線にレーザ光を集光して、前記ガラス基板に加工痕を形成するガラス基板のレーザ加工装置において、レーザ光を出射するレーザ光源と、前記レーザ光源からのレーザ光を前記ガラス基板に対して前記切断予定線に対応させて集光する環状のシリンドリカルレンズと、前記レーザ光源からのレーザ光の照射領域を、前記シリンドリカルレンズに対して相対的に第1方向に移動させる駆動装置と、前記レーザ光源及び駆動装置を制御する制御装置と、を有し、前記レーザ光源から出射されるレーザ光の照射領域は、その光軸に直交する面内で、前記第1方向に直交する第2方向における幅が、前記シリンドリカルレンズの前記第2方向における幅より大きく、前記制御装置は、前記駆動装置により前記レーザ光の照射領域を前記シリンドリカルレンズに対して前記第1方向に移動させる過程で、前記レーザ光源からレーザ光を複数回出射させることを特徴とする。
【0012】
上述のガラス基板のレーザ加工装置において、例えば前記制御装置は、前記複数回のレーザ光の照射による前記ガラス基板上の照射領域が前記切断予定線上で一部が重なるように、前記照射領域を制御する。この場合に、前記制御装置は、例えば前記複数回のレーザ光の照射による前記切断予定線上の投入エネルギが一定となるように、前記照射領域の重なりを制御する。
【0013】
前記シリンドリカルレンズは、前記レーザ光の焦点位置を、前記ガラス基板の厚さ方向の内部とすると共に、焦点深度を前記ガラス基板の厚さよりも短く、好ましくは前記ガラス基板の厚さの1/100以下に設定することが好ましい。これにより、ガラス基板の内部にレーザ光の照射による加工痕を形成することができる。このため、レーザビームの照射により表面に割れが発生することが確実に防止される。
【0014】
また、本発明のガラス基板のレーザ加工装置は、表面強化ガラス基板に適用すると、有益である。表面強化ガラス基板は、表面の性質が硬いため、ダイシング刃を使用した機械的ダイシングにおいてはなおさらのこと、レーザダイシングでもその焦点位置がガラス基板の表面である場合は、加工中に割れてしまう。本発明は、レーザ光の波長は250乃至400nmであり、シリンドリカルレンズによるレーザ光の焦点位置を、前記表面強化ガラス基板の厚さ方向の内部であって、前記表面強化ガラス基板の表面強化層よりも深い位置に設定しているので、表面強化ガラス基板でも、加工中に割れることが防止される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガラス基板のレーザ加工装置は、レーザ光源からのレーザ光をガラス基板に対して切断予定線に対応させて集光する環状のシリンドリカルレンズを有し、移動装置により、シリンドリカルレンズに対するレーザ光の照射領域が第1方向に移動される。レーザ光源から出射されるレーザ光の照射領域は、その光軸に直交する面内で、第1方向に直交する第2方向における幅が、シリンドリカルレンズの第2方向における幅より大きく、制御装置は、駆動装置により、レーザ光の照射領域をシリンドリカルレンズに対して相対的に第1方向に移動させる過程で、レーザ光源からレーザ光を複数回出射させる。これにより、シリンドリカルレンズに対するレーザ光の照射領域に対応して、ガラス基板の無端の閉じた形状の切断予定線に対応してガラス基板に線状の加工痕が形成されていき、複数回のレーザ光の照射により、この線状の加工痕が接続されて無端の閉じた形状となる。よって、本発明によれば、レーザ光をガラス基板の環状の切断予定線に沿って照射していく場合に比して、加工痕の形成時間が短く、ガラス基板の分割のための処理時間を短縮することができる。
【0016】
また、本発明においては、制御装置は、駆動装置によりレーザ光の照射領域をシリンドリカルレンズに対して第1方向に移動させる過程で、レーザ光源からレーザ光を複数回出射させるため、シリンドリカルレンズの全体にレーザ光を照射するような大きなレーザ光源は不要であり、また、シリンドリカルレンズをガラス基板の切断予定線の形状に対応させて他のシリンドリカルレンズに交換した場合においても、レーザ光源を交換する必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は、本発明の実施形態に係るガラス基板のレーザ加工装置において、レーザ光の照射領域とガラス基板に形成される加工痕を示す平面図、(b)は同じく斜視図であって、シリンドリカルレンズの断面形状を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るガラス基板のレーザ加工装置において、シリンドリカルレンズを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係るガラス基板のレーザ加工装置を示す斜視図である。
【図4】(a)乃至(c)は、本発明の実施形態に係るガラス基板のレーザ加工装置において、レーザ光の照射領域の移動に伴ってガラス基板に形成されていく加工痕を時系列的に示す図である。
【図5】表面強化ガラス基板の透過特性を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1(a)は、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置において、レーザ光の照射領域とガラス基板に形成される加工痕を示す平面図、図1(b)は同じく斜視図であって、シリンドリカルレンズの断面形状を示す図、図2は、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置において、シリンドリカルレンズを示す斜視図、図3は、本発明の実施形態に係るガラス基板のレーザ加工装置を示す斜視図である。図3に示すように、ステージ1上に、被加工物である露光現像処理後の表面強化ガラス基板等のガラス基板2が載置される。このステージ1に対し、このステージ1の幅方向の全域をまたぐ門型の移動部材3が、矢印a方向に往復移動可能に支持されている。そして、この移動部材3には、ステージ1の幅方向(矢印b方向)に往復移動可能に、支持部4が設置されており、この支持部4にパルスレーザ発振器6が支持されている。ガラス基板2の上方には、環状に設けられたシリンドリカルレンズ7が配置されており、パルスレーザ発振器6からのパルスレーザ光5を、ガラス基板2の切断予定線に対応させて集光するようになっている。
【0019】
このレーザ加工装置においては、ステージ1上に表面強化ガラス基板等のガラス基板2が載置され、移動部材3が矢印a方向に移動すると共に、パルスレーザ発振器6からパルスレーザ光5が間欠的に出射され、シリンドリカルレンズ7により集光されたパルスレーザ光5がガラス基板2に照射される。図1(a)に示すように、このパルスレーザ光5の照射領域は、その光軸に直交する面内における形状が例えば矩形であり、方向bにおける幅Wが、同じく方向bにおけるシリンドリカルレンズ7の幅Wよりも大きくなるように調節されている。そして、レーザ光5の照射領域は、方向bについて、シリンドリカルレンズ7を包含するように調節されている。これにより、ガラス基板2に対して、切断予定線上で、レーザ光5が線状に照射される。この場合に、移動部材3が移動している間に、パルスレーザ発振器6からレーザ光5を照射しても良いし、移動部材3を移動後一旦停止させた状態で、パルスレーザ発振器6からレーザ光5を照射してもよい。ガラス基板2の上方に配置されるシリンドリカルレンズ7は、焦点距離が異なるものを交換できるようにすることができる。これにより、シリンドリカルレンズ7から加工対象のガラス基板2の表面性状等に応じて焦点深度が最適のシリンドリカルレンズを選択して、レーザ加工を行うことができるようになっている。
【0020】
又は、シリンドリカルレンズ7は、切断予定線の形状に対応するものを交換することもできる。図1及び図2に示すように、ガラス基板2の上方に配置されるシリンドリカルレンズ7は、上方に凸の均一な断面形状を有する環状のレンズであり、いずれの断面においてもその下方の焦点距離が一定となるように構成されている。よって、シリンドリカルレンズ7は、その焦点を繋ぐ線が、環状のシリンドリカルレンズ7と相似的に環状となる。本発明においては、切断予定線の形状とシリンドリカルレンズ7の環状の焦点形状とが同一となるようなシリンドリカルレンズ7が選択されて使用される。本実施形態においては、円形の切断予定線に対応させて、シリンドリカルレンズ7は、その焦点形状が円形となるものが使用されており、その中心軸がパルスレーザ光5の光軸に平行となるように配置されている。このシリンドリカルレンズ7は、パルスレーザ発振器6から出射されたパルスレーザ光5をガラス基板2に集光させる。このパルスレーザ光5は、例えば波長が250〜400nmであり、シリンドリカルレンズ7により、その焦点位置が、ガラス基板2の厚さ方向の内部であり、焦点深度が前記ガラス基板の厚さよりも短く設定され、好ましくはガラス基板2の厚さの1/100以下の範囲に設定されている。
【0021】
レーザ光5は、図1(a)に矩形の細線で示すように、方向bについてシリンドリカルレンズ7を包含するように照射する。パルスレーザ発振器6からのレーザ光5の照射タイミング及び移動部材3の移動距離及び移動のタイミングは、制御装置(図示せず)により制御される。
【0022】
パルスレーザ光5の波長は、例えば250〜400nmである。図5は、横軸に波長をとり、縦軸にレーザ光の透過率をとって、表面強化ガラスの透過特性を示すグラフ図である。波長が532nmのレーザ光の場合、ガラス基板に対する透過率が高く、即ち、ガラス基板におけるエネルギの吸収率が悪く、ガラス基板に加工痕を形成しにくい。これに対し、水銀ランプでいうi線(波長365nm)付近で、エネルギの吸収が始まり、加工痕を形成できるようになる。また、波長が266nmのレーザ光を使用することにより、極めて高いエネルギ吸収率を得ることができる。よって、本発明においては、250〜400nmの波長域において、ガラス基板に加工痕を形成する。
【0023】
本実施形態においては、制御装置は、複数回のレーザ光5の照射によりガラス基板2上の照射領域が切断予定線上で一部が重なるように、レーザ光5の照射領域を制御する。例えば、制御装置は、シリンドリカルレンズ7に対するレーザ光5の照射領域が従前のレーザ光5の照射領域の一部と重なるように、レーザ光源6からレーザ光を出射させるように構成されている。よって、レーザ光5は、シリンドリカルレンズ7への照射領域に対応してガラス基板2の円形の切断予定線上に集光されてガラス基板2に加工痕20が形成されていき、複数回のレーザ光5の照射により、この線状の加工痕20が接続されて円形に形成される。
【0024】
本実施形態においては、光軸に直交する面内における形状が矩形のレーザ光5を出射するため、図1(a)に示すように、シリンドリカルレンズ7に対するレーザ光5の照射領域は、シリンドリカルレンズ7の中心軸に直交する面内において、中心軸から半径方向にみたときに、シリンドリカルレンズ7の全体に照射されている領域5aとシリンドリカルレンズ7の一部に照射されている領域5bとが生じる。よって、ガラス基板2に投入されるレーザ光のエネルギは、領域5bよりも領域5aの方が大きく、従って、領域5aに対応してガラス基板2上に形成される加工痕20aと領域5bに対応してガラス基板2上に形成される加工痕20bとでは、ガラス基板2が変質する程度に差異が生じる。制御装置は、例えば複数回のレーザ光5の照射による切断予定線上の投入エネルギが一定となるように、ガラス基板2上における照射領域の重なりを制御する。これにより、前記ガラス基板2の変質程度の差異を解消することができる。なお、このレーザ光5の照射による投入エネルギとは、ガラス基板2上に投入される熱量を意味する。
【0025】
次に、本実施形態の動作について、制御装置の制御態様と共に説明する。制御装置は、先ず、図3に示すように、ガラス基板2の切断予定線上に配置されたシリンドリカルレンズ7に対して、移動部材3により、パルスレーザ発振器6をシリンドリカルレンズ7の方向aにおける一端部側の上方に移動させて配置し、パルスレーザ発振器6から矩形ビーム形状で出射されたレーザ光5をガラス基板2に照射する。これにより、図4(a)に示すように、このレーザ光5の照射により、ガラス基板2には、線状の加工痕20(20a,20b)が形成される。このとき、レーザ光照射領域5bに対応してガラス基板2に投入されるエネルギは、領域5aに対応してガラス基板2に投入されるエネルギよりも小さい。よって、領域5bに対応してガラス基板2に形成される加工痕20bは、領域5aに対応して形成される加工痕20aに比して、ガラス基板2の変質程度が小さい。
【0026】
その後、制御装置は、パルスレーザ発振器6を矢印a方向にガラス基板2及びシリンドリカルレンズ7に対して相対的に移動させ、図4(b)に示すように、シリンドリカルレンズ7に対するレーザ光5の照射領域が1回目のレーザ光5の照射領域の一部と重なるように、2回目のレーザ光5の照射を行う。このとき、制御装置は、例えば1回目のレーザ光5の照射では最大エネルギが投入されていなかった図4(a)における領域5bに最大エネルギが投入されるように、シリンドリカルレンズ7に対するレーザ光5の照射領域の重なりを制御する。よって、ガラス基板2上の加工痕20bが形成されていた部分にも図4(a)と同じ加工痕20aが形成される。そして、2回目のレーザ光5のショットにより、1ショット目の加工痕20aに対して連続的に線状の加工痕20(20a,20b)が形成される。このように、シリンドリカルレンズ7に対するレーザ光5の照射領域の重なりを制御することにより、切断予定線上の投入エネルギが一定となり、変質程度が均一な加工痕20aを形成することができる。
【0027】
その後、制御装置は、同様に、パルスレーザ発振器6を矢印a方向にガラス基板2及びシリンドリカルレンズ7に対して相対的に移動させ、シリンドリカルレンズ7に対するレーザ光5の照射領域が2回目のレーザ光5の照射領域の一部と重なるように、3回目のレーザ光5の照射を行う(図4(c))。これにより、1ショット目及び2ショット目の加工痕20aに対して連続的に線上の加工痕20(20a,20b)が形成され、4回目のレーザ光5の照射により、図4(d)に示すように、線状の加工痕20(20a,20b)が接続されて無端の閉じた形状の円形の加工痕20aが形成される。
【0028】
レーザ光5の1ショットにおいては、シリンドリカルレンズ7に対するレーザ光5の照射領域は、シリンドリカルレンズ7の中心軸に直交する面内において、中心軸から半径方向にみたときに、シリンドリカルレンズ7の全体に照射されている領域5aとシリンドリカルレンズ7の一部に照射されている領域5bとが生じ、ガラス基板2に集光されるレーザ光5のエネルギ密度の差異に起因して、加工痕20aと加工痕20bとでは、ガラス基板2が変質する程度に差異が生じる。しかし、制御装置により、シリンドリカルレンズ7に対するレーザ光5の照射領域が従前のレーザ光5の照射領域の一部と重なるように、レーザ光源6からレーザ光を出射させることにより、前記ガラス基板2の変質程度の差異を解消することができる。この場合に、制御装置が複数回のレーザ光5の照射による切断予定線上の投入エネルギが一定となるように、ガラス基板2上における照射領域の重なりを制御することが好ましく、ガラス基板2に形成される加工痕20の全周にわたり、その変質の程度が均一となる。加工痕20の形成後は、例えば、手で曲げ応力を印加することにより、ガラス基板2を切断予定線で円形に割断することができる。
【0029】
本実施形態においては、このように、複数回のレーザ光5の照射により、切断予定線の無端の閉じた形状と同一の加工痕20を形成することができ、レーザ光5をガラス基板2の環状の切断予定線に沿って照射して従来のレーザ加工方法に比して、環状の加工痕20の形成時間が短く、ガラス基板2の分割のための処理時間を短縮することができる。
【0030】
また、レーザ光5をガラス基板に複数回に分けて照射するため、シリンドリカルレンズ7の全体にレーザ光5を照射するような大きなレーザ光源6は不要である。
【0031】
例えば、波長が532nmのレーザ光5を使用し、パルス幅を約7nsecとし、照射エネルギ密度を25J/cmとして、表面強化ガラス基板2の内部にレーザ光5を照射した場合、ガラス基板2にクラックが進展し、ガラス基板全体が乱雑に割れてしまう。これに対し、波長が355nmのレーザ光5を使用し、パルス幅を約7nsecとし、照射エネルギ密度を10J/cmとして、表面強化ガラス基板5の内部にレーザ光5を照射した場合、ガラス基板2の内部に加工痕20が形成され、ガラス基板2に手で曲げ応力を印加すると、この加工痕20をもとに綺麗に円形の切断線により割断することができる。
【0032】
また、レーザ光5の焦点位置は、ガラス基板の表面でもよいが、このレーザ光5の焦点位置を、ガラス基板2の内部とすることにより、ガラス基板2に割れが発生することを確実に防止することができる。即ち、レーザ光5の焦点位置を、ガラス基板2の厚さ方向の内部とし、焦点深度をガラス基板2の厚さよりも短く設定し、好ましくはガラス基板2の厚さの1/100以下に設定することにより、表面強化ガラス基板であっても、その表面の改質部を避けて、その内部にレーザ光5のエネルギを集中することができる。ガラス基板2が表面強化ガラス基板である場合は、レーザ光5の焦点位置がガラス基板2の内部でなく、表面強化ガラス基板の表面の改質部にレーザエネルギが集中すると、ガラス基板2に乱雑なクラックが発生して乱雑に割れやすくなる。また、このレーザ光5の焦点深度が、ガラス基板2の厚さ以上であると、レーザ光5がガラス基板2の裏面にまで到達して、ガラス基板2が割れてしまう。このため、レーザ光5の焦点深度は、ガラス基板2の厚さよりも短くし、好ましくは、ガラス基板2の厚さの1/100以下の範囲とすることが望ましい。
【0033】
なお、レーザ光5のビーム形状は、上記実施形態のように、矩形に限らず、例えば、円形及び楕円形等、種々の形状を使用することができる。
【0034】
また、本実施形態においては、円形の切断予定線に対応させて、シリンドリカルレンズ7は、その焦点形状が円形となるようなものを使用した場合について説明したが、シリンドリカルレンズ7としては、環状であればその他の形状のものも使用することができる。例えば平面形状が楕円形又は矩形のシリンドリカルレンズを使用することができる。
【0035】
更に、本実施形態においては、レーザ光5を4回ショットすることにより、無端の閉じた形状の加工痕20aを形成する場合について説明したが、レーザ光5のショット数は、例えば2回又は3回でもよく、5回以上であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1:ステージ、2:ガラス基板、20,20a,20b:加工痕、3:移動部材、4:支持部材、5:(パルス)レーザ光、6:パルスレーザ発振器、7:シリンドリカルレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の無端の閉じた形状の切断予定線にレーザ光を集光して、前記ガラス基板に加工痕を形成するガラス基板のレーザ加工装置において、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を前記ガラス基板に対して前記切断予定線に対応させて集光する環状のシリンドリカルレンズと、
前記レーザ光源からのレーザ光の照射領域を、前記シリンドリカルレンズに対して相対的に第1方向に移動させる駆動装置と、
前記レーザ光源及び駆動装置を制御する制御装置と、
を有し、
前記レーザ光源から出射されるレーザ光の照射領域は、その光軸に直交する面内で、前記第1方向に直交する第2方向における幅が、前記シリンドリカルレンズの前記第2方向における幅より大きく、
前記制御装置は、前記駆動装置により前記レーザ光の照射領域を前記シリンドリカルレンズに対して前記第1方向に移動させる過程で、前記レーザ光源からレーザ光を複数回出射させることを特徴とするガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記複数回のレーザ光の照射による前記ガラス基板上の照射領域が前記切断予定線上で一部が重なるように、前記照射領域を制御することを特徴とする請求項1に記載のガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記複数回のレーザ光の照射による前記切断予定線上の投入エネルギが一定となるように、前記照射領域の重なりを制御することを特徴とする請求項2に記載のガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記シリンドリカルレンズは、前記レーザ光の焦点位置を、前記ガラス基板の厚さ方向の内部とすると共に、焦点深度を前記ガラス基板の厚さよりも短く設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のガラス基板のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記ガラス基板は、表面強化ガラス基板であり、前記シリンドリカルレンズは、前記レーザ光の焦点位置を、前記表面強化ガラス基板の厚さ方向の内部であって、前記表面強化ガラス基板の表面強化層よりも深い位置に設定することを特徴とする請求項4に記載のガラス基板のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−82580(P2013−82580A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223442(P2011−223442)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】