説明

ガラス微小中空球含有熱可塑性樹脂複合体

【課題】 曲げ比強度が改善した熱可塑性樹脂複合体、及び該熱可塑性樹脂複合体を含む成形体を提供する。
【解決手段】 ポリアミド系樹脂又はポリプロピレン系樹脂である樹脂成分、及びガラス微小中空球を含み、ガラス微小中空球は、ガラス微小中空球100質量%に対して、0.5〜3質量%のシランカップリング剤及び1〜5質量%の合成樹脂エマルジョンで表面処理されている、熱可塑性樹脂複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス微小中空球含有熱可塑性樹脂複合体、及び該熱可塑性樹脂複合体を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂材料にガラス微小中空球を添加することによって、得られる樹脂複合体及び該樹脂複合体成形体の軽量化が行われてきた。また、樹脂複合体及び該樹脂複合体の成形体の機械特性を改善するため、樹脂材料に添加するガラス微小中空球の処理手法についても検討されている。
【0003】
特許文献1は、樹脂により被覆されたガラスバルーン、曲げ弾性率100〜1,200kg/cmを有する熱可塑性エラストマー及びマトリックス樹脂からなるガラスバルーン含有成形用組成物を記載する。
【0004】
特許文献2は、変性ポリフェニレンエーテル樹脂が分散相を形成し且つポリアミド系樹脂(b)が連続相を形成する樹脂配合物と、表面をアミノシランで処理されたガラス繊維(Y)および中空ガラスバルーンを含有しており、該ガラス繊維が該変性ポリフェニレンエーテル樹脂で覆われていることを特徴とする強化熱可塑性樹脂組成物を記載する。
【0005】
特許文献3は、少なくとも1種のポリアミドと、シランカップリング剤またはチタネートカップリング剤のうちの少なくとも一方で処理された、少なくとも10,000PSIの圧潰強度を有するガラスバブルと、を含む、充填材入り熱可塑性樹脂複合材を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−139783号公報
【特許文献2】特開平5−171032号公報
【特許文献3】特開2007−517127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂材料にガラス微小中空球を添加する場合、軽量化が可能となる一方、得られる樹脂複合体及び該樹脂複合体から構成される成形体の引張り比強度や曲げ比強度などの機械特性が低下する傾向にある。このため、シランカップリング剤をガラス微小中空球表面に処理する試みもなされているが、かかる表面処理のみでは、近年自動車部品やエレクトロニクス部品の分野において要求される機械特性を充分に満足できない場合がある。したがって、ガラス微小中空球の添加により軽量化された樹脂複合体の機械特性の維持・改善のために、有効且つ簡便なガラス微小中空球の表面処理方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様においては、ポリアミド系樹脂及びガラス微小中空球を含む熱可塑性樹脂複合体が提供される。ガラス微小中空球は、ガラス微小中空球100質量%に対して、0.5〜3質量%のシランカップリング剤及び1〜5質量%の合成樹脂エマルジョンで表面処理されている。
【0009】
また、本発明の一態様においては、ポリプロピレン系樹脂及びガラス微小中空球を含む熱可塑性樹脂複合体であって、ガラス微小中空球は、ガラス微小中空球100質量%に対して、0.5〜3質量%のシランカップリング剤及び1〜5質量%の合成樹脂エマルジョンで表面処理されている。
【0010】
また、本発明の一態様においては、前記熱可塑性樹脂複合体のいずれか一方を含む成形体に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂複合体を含む成形体は、従来のガラス微小中空球含有熱可塑性樹脂複合体を含む成形体に比べて、改善した曲げ比強度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の熱可塑性樹脂複合体における樹脂成分について説明する。
【0013】
ポリアミド系樹脂とは、主鎖にCO−NH結合を有する高分子化合物であって、例えば、ジアミンとジカルボン酸の縮合、ラクタムの開環重合またはアミノカルボン酸の自己縮合によって得られる。
【0014】
ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミンなどの直鎖状の脂肪族ジアミン;2−メチルペンタンジアミン、2−エチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミンなどの分岐型の脂肪族アミン;m-,p−フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミンなどの脂環式ジアミンなどが挙げられる。
【0015】
また、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0016】
ラクタムとしては、ピロリドン、アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム等が挙げられる。また、アミノカルボン酸としては、上記したラクタムの水による開環化合物であるアミノ脂肪酸などが挙げられる。
【0017】
好ましいポリアミド系樹脂としては、強度の観点から、脂肪族ポリアミド、半脂肪族ポリアミドもしくはこれらのブレンド、またはかかるポリアミドのコポリマーもしくはこれらのブレンドが挙げられる。具体的に、脂肪族ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド4(ポリα−ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610、ポリアミド612が挙げられ、半芳香族ポリアミドとしては、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、及びこれらの共重合体などが挙げられる。また、かかるポリアミドのコポリマーとしては、例えば、ヘキサメチレンアジパミドとヘキサメチレンテレフタルアミドの共重合体、ヘキサメチレンアジパミドとヘキサメチレンイソフタルアミドの共重合体、ヘキサメチレンテレフタルアミドと2−メチルペンタンジアミンテレフタルアミドの共重合体などが挙げられる。ある態様においては、脂肪族ポリアミドが好ましく、中でも、ポリアミド6、ポリアミド66が更に好ましい。
【0018】
ポリアミド系樹脂の分子量は10,000〜50,000の範囲であることが好ましく、14,000〜30,000の範囲であることが特に好ましい。分子量が10,000〜50,000の範囲にある場合、成形時での加工性が良好であり成形品の機械的強度が安定する。また、硫酸溶液(1g/100mL濃度)中における25℃での相対粘度(以下単に相対粘度と称する)は、好ましくは1.5〜4.0である。相対粘度1.5より小さくなると溶融混練時の引き取り性が悪くなる場合があり、4より大きくなると流動性が悪くなり、成型加工性に劣ってしまう場合がある。
【0019】
ポリアミド系樹脂の市販品としては、商品名「Nylon」(ポリアミド−6、ポリアミド−6,6、デュポン製)、商品名「UBEナイロン」(ポリアミド−6、ポリアミド−6,6、宇部興産製)、商品名「アミラン」(ポリアミド−6、ポリアミド−6,6、東レ製)、商品名「レオナ」(ポリアミド−6,6、旭化成製)などが挙げられる。
【0020】
熱可塑性樹脂複合体中のポリアミド系樹脂の量は、成形時の溶融樹脂の流動性の観点から、熱可塑性樹脂複合体全体に対して20質量%以上であることが好ましく、より好ましくは25質量%以上、最も好ましくは30質量%以上である。また、強度の観点から、熱可塑性樹脂複合体全体に対して90質量%以下であることが好ましく、より好ましくは80質量%以下、最も好ましくは70質量%以下である。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体、プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体等の公知のポリプロピレン樹脂が制限なく使用できる。
【0022】
ここで、プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンが挙げられる。これらの中でもエチレン、1−ブテン、1−オクテンなどの炭素数2〜10のα−オレフィンが、耐衝撃性の点から好ましい。プロピレンと共重合されるα−オレフィンは一種単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。また、プロピレンと共重合されるα−オレフィンは、プロピレン及びα−オレフィンの合計に対して20モル%以下であることが、耐熱性の点から好ましい。
【0023】
本発明で使用するポリプロピレン系樹脂としては、結晶性ポリプロピレン樹脂を含むプロピレン単独重合体又はプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体が好ましい。
【0024】
ポリプロピレン系樹脂の分子量は一般的に5,000〜500,000であり、分子量10,000〜100,000のポリプロピレン系樹脂が成形性の観点から望ましい。また、ポリプロピレン系樹脂としては、メルトフローレート(ASTM D1238準拠、230℃、2.16kg荷重)が0.01g〜200g/10分のものが通常使用され、0.5〜100g/10分のメルトフローレートを有するポリプロピレン系樹脂が流動性の観点から好ましい。
【0025】
ポリプロピレン系樹脂の市販品としては、商品名「プライムポリプロ」(プライムポリマー製)、商品名「ノバテックPP」(日本ポリプロ製)、商品名「住友ノーブレン」(住友化学製)商品名「サンアロマー」(サンアロマー製)などが挙げられる。
【0026】
熱可塑性樹脂複合体中のポリプロピレン系樹脂の量は、成形時の溶融樹脂流動性の観点から、熱可塑性樹脂複合体全体に対して40質量%以上であることが好ましく、より好ましくは45質量%以上、最も好ましくは50質量%以上である。また、得られる成形体の剛性の観点から、熱可塑性樹脂複合体全体に対して80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは70質量%以下、最も好ましくは60質量%以下である。
【0027】
続いて、ガラス微小中空球について説明する。ガラス微小中空球とは、コアとシェルの構成からなっており、コアは中空で、大気圧あるいはさらに減圧された気体を含んでいる。シェルは二酸化ケイ素(SiO)を主成分とし、副成分として、酸化ナトリウム(NaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ホウ素(B)、酸化リン(P)などを含んだガラスを主成分とする。
【0028】
ガラス微小中空球としては、アスペクト比が、0.85≦(短軸/長軸)の範囲に入ったものが好ましく、より好ましくは0.90≦(短軸/長軸)、最も好ましくは0.95≦(短軸/長軸)である。ガラス微小中空球におけるアスペクト比が低いと、溶融プラスチックコンパウンディング時あるいは成形時、高いせん断力が働く傾向にあり、応力集中が発生し、中空状態が維持できずガラス微小中空球が破壊されてしまう場合がある。
【0029】
また、ガラス微小中空球は、耐圧強度が8,000PSI(=55MPa)以上であることが好ましく、より好ましくは10,000PSI(=69MPa)以上、最も好ましくは16,000PSI(=110MPa)以上である。ガラス微小中空球の耐圧強度が低くなると、プラスチックコンパウンディング時あるいは成形時において、高いせん断力が働き、ガラス微小中空球が破壊されてしまう場合がある。ここで、ガラス微小中空球の耐圧強度はASTM−D−3102−78で定義され、グリセリンの中にグラスバブルズを適量入れ加圧し、10体積%破壊する時の圧力を指標として用いる。
【0030】
また、ガラス微小中空球の粒度は、メディアン径(体積%径)が10μm〜70μmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜35μmである。更に、90体積%径は30μm〜200μmの範囲にコントロールされるのが好ましく、より好ましくは30μm〜70μmである。ガラス微小中空球の粒度は、市販のレーザー回折式粒度分布計(湿式、循環)を用いて測定することができる。
【0031】
工業的にはガラス微小中空球はガラスを発泡して製造されることが多いが、メディアン径サイズと耐圧強度の間に有る程度の相関がみられるため、ガラス微小中空球の粒度は、適度に小さく保つ必要とあることが一般に知られている。そのため、メディアン径(体積%径)及び90体積%径は、上記範囲とすることが好ましい。一般に、粒径が大きくなると、耐圧強度が低くなる傾向があることが確認されている。
【0032】
更にまた、ガラス微小中空球は、真密度が0.9g/cm以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂複合体に添加される樹脂成分の密度は、一般に、ポリアミド系樹脂1〜1.2g/cm、ポリプロピレン系樹脂0.9〜1.2g/cmであるため、ガラス微小中空球は、樹脂成分の密度よりも小さい密度でないと軽量化効果を得にくいためである。ガラス微小中空球の真密度は、ピクノメーター(気相置換式真密度計、例えば、Micromeritics社製のAccuPycII1340)を用いて測定される。
【0033】
使用され得るガラス微小中空球の市販品としては、3M(商標)グラスバブルズが挙げられる。使用できる製品グレードとして、S60HS(真密度0.6g/cm3、耐圧強度18,000PSI以上(=124MPa以上))、iM30K(真密度0.6g/cm、耐圧強度27,000PSI以上(=186Ma以上))、S60(真密度0.6g/cm、耐圧強度10,000PSI以上(=69Ma以上))、K42HS(真密度0.42g/cm、耐圧強度8,000PSI以上(=55MPa以上))等が挙げられる。
【0034】
なお、ガラス微小中空球の市販品として、例えば、株式会社アクシーズケミカルから提供されているウインライト(MSBタイプ、WBタイプ、SCタイプ)等のシラスバルーンを使用することも可能である。ただし、シラスバルーンは、一般的に、粒度が5〜500μmと幅が広く、真密度についても0.6g/cm〜1.1g/cmとばらつきが大きい。また、耐圧強度に関しても一般的に8〜10MPa(2分間静水圧をかけて測定)程度である。このように、シラスバルーンは、真密度がもととも大きく、軽量化効果が低い上に、耐圧強度が低いため、使用され得るガラス微小中空球の市販品としては、上記した3Mグラスバブルズを選定することが好ましい。
【0035】
ガラス微小中空球は、ガラス微小中空球100質量%に対して、0.5〜3質量%のシランカップリング剤及び1〜5質量%の合成樹脂エマルジョンで表面処理されている。
【0036】
本発明に用いられるシランカップリング剤は、加水分解性基と疎水基(有機基)とを有するシラン化合物であり、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等の不飽和二重結合を有するシランカップリング剤;β−(3,4−エポキシシクロヘキシルエチル)トリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等エポキシ基を有するシランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等メルカプト基を有するシランカップリング剤;メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等メタクリロキシ基を有するシランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。これらの中でも、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するアミノシランカップリング剤は、加水分解の反応性の高さとポリアミド樹脂との親和性という観点から望ましい。具体的な市販品としては、商品名「KBE-903」(3−アミノプロピルトリエトキシシラン、信越化学製)等が挙げられる。
【0037】
シランカップリング剤表面処理量は、一般的にはシランカップリング剤の最小被覆面積とガラス微小中空球の表面積から算出される。シランカップリング剤の表面処理量が上記した量以下では、ガラス微小中空球表面に形成されたシランカップリング剤被膜の膜厚が薄い、または部分的にしか形成されないため機械的強度向上効果が充分ではない。一方、シランカップリング剤の表面処理量が3質量%以上の場合、すでに充分な量のシランカップリング剤がガラス微小中空球表面に存在しているため、それ以上にシランカップリング剤を加えても機械強度の更なる向上効果が見られず、また、過剰なシランカップリング剤はガラス微小中空球凝集の原因ともなるため、経済性、実用性の観点からも望ましくない。
【0038】
合成樹脂エマルジョンは、ポリアミド系エマルジョン、ポリエーテル系ウレタンエマルジョン、マレイン酸変性ポリプロピレン(PP)エマルジョンなど、合成樹脂の水分散物が用いられる。なお、本発明においては、合成樹脂エマルジョンとして、公知の方法で製造されたものがいずれも使用可能である。ある態様においては、ポリアミド系エマルジョン又はマレイン酸変性ポリプロピレン(PP)エマルジョンが好適に使用される。具体的な市販品としては、商品名「MGP−1650」(無水マレイン酸変性PPエマルジョン、丸芳化学製)、商品名「セポルジョンPA200」(ポリアミドエマルジョン、住友精化製)、商品名「トレジンFS−350E5AS」(水溶性ポリアミドエマルジョン、ナガセケミテック製)、商品名「ケミチレンGA−500」(ポリエーテル系ウレタンエマルジョン、三洋化成製)、商品名「ボンディック1940NE」(ポリエーテル系ウレタンエマルジョン、大日本インキ化学製)、商品名「jER 816C/FL240」(エポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン製)等を挙げることができる。
【0039】
合成樹脂エマルジョンの添加量は、合成樹脂固形分に対して0.5〜5質量%であることが好ましい。合成樹脂エマルジョンの添加量が0.5質量%より少ない場合は、合成樹脂エマルジョンをガラス微小中空球表面に均一に存在させることが困難であり、合成樹脂エマルジョンの添加効果が充分に発揮されない。一方、合成樹脂エマルジョンの添加量が5質量%より多い場合は、合成樹脂エマルジョン添加後に乾燥したガラス微小中空球が過剰な合成樹脂エマルジョンにより塊化してしまうため機能上望ましくない。
【0040】
シランカップリング剤及び合成樹脂エマルジョンによるガラス微小中空球表面の処理方法としては、特に制限はない。ある態様においては、シランカップリング剤と合成樹脂エマルジョンとを同時(例えば、混合物として)滴下する方法とすることができる。また、シランカップリング剤をまず滴下し、次いで合成樹脂エマルジョンを滴下する方法でもよい。
【0041】
熱可塑性樹脂複合体中のガラス微小中空球の量としては、熱可塑性樹脂複合体に対して50体積%以下であることが好ましい。なお、添加される樹脂成分の種類にもよるが、ポリプロピレン系樹脂の密度を0.90g/cm〜0.91g/cm、ポリアミド系樹脂の密度を1.02g/cm〜1.18g/cmとした場合、ガラス微小中空球の量は約25質量%〜約35質量%以下と換算される。熱可塑性樹脂複合体におけるガラス微小中空球体積含有率が50体積%を超えると、ガラス微小中空球に由来する特性の寄与が大きくなる。樹脂複合体のコンパウンドにおいて二軸の押出し機を使うケースが多いが、その場合、得られるストランドは切れやすくなり、ストランドを引いてペレットを作ることが困難となる場合がある。一方、熱可塑性樹脂複合体中のガラス微小中空球の量は、軽量化の観点から、熱可塑性樹脂複合体に対して10体積%以上(約5〜10質量%以上)であることが好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂複合体には、上記したガラス微小中空体以外の無機充填剤を添加することもできる。具体例としては、タルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ケイソウ土、塩基性硫酸マグネシウム等が挙げられ、これら1種以上を適宜使用することが出来る。添加量としては、熱可塑性樹脂複合体に対する、上記ガラス微小中空体以外の無機充填剤及びガラス微小中空体の合計量が50体積%以下であることが好ましい。
【0043】
熱可塑性樹脂複合体の製造方法に関しては、特に制限はなく、従来から用いられている製造方法に従い、熱可塑性樹脂複合体の製造を行うことが可能である。例えば、連続混練機、一軸押出機、二軸押出機等を用い、熱可塑性樹脂複合体を構成する各成分を混練(或いは、別の混練機で予備混合した後、混練)し、得られた混練物をストランド状に押出し、ペレット状に切断、乾燥して造粒・成形する工程が挙げられる。二軸押出機を用いる場合、具体的には、以下の製造方法が一般的である。まず、二軸押出機を用いて、主ホッパーから熱可塑性樹脂をフィードする。次いで、熱可塑性樹脂がある程度溶融したところにサイドフィーダーを取り付け、ガラス微小中空体をこのサイドフィーダーよりフィードする。そして、熱可塑性樹脂とガラス微小中空体とを混練し、熱可塑性樹脂複合体を得る。なお、混練温度としては、通常、ガラス微小中空球を添加しない場合よりも20〜30℃高温に設定する。また、ガラス微小中空体の破壊を少なくするためにスクリューはミキシング効果の低いものを選定することが好ましい。
【0044】
熱可塑性樹脂複合体の成形方法に関しても特に制限はなく、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、ブロー成形などの方法を熱可塑性樹脂複合体の用途に応じて適宜用いることができる。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂複合体から得られる成形体は、自動車、電気部品、一般機器等の外装部品、構造部品、機械部品等に用いられる。自動車用途としてはバンパーやロッカーパネルに代表される外装部品、インパネなどに代表される内装部品、インテークマニフォールド、エンジンカバー等に代表されるエンジン部品などが挙げられる。また、冷蔵庫、テレビ、複写機・印刷機等の電気部品として使用することも可能である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(ポリアミド系樹脂複合体サンプルの作製)
(表面処理されたガラス微小中空球の作製)
以下の方法に従い、表面処理がなされたガラス微小中空球サンプル1〜6を作製した。まず、500gのグラスバブルズ(商品名:S60HS、3Mカンパニー製)を14リットルの金属容器に入れて攪拌羽で攪拌した。攪拌中、表1に従い、表面処理剤を混合物として一度に(サンプル1、2)、またはシランカップリング剤、合成樹脂エマルジョンの順で(サンプル3〜6)、グラスバブルズ上に滴下した。3分攪拌後、金属容器の壁面に付着したグラスバブルズを取り、中央部のサンプルと混ぜ再び攪拌した。次いで、3分後、表面処理したサンプルを取り出し、100℃オーブンで30分乾燥させた。乾燥後に室温まで冷却したサンプルを500μmのメッシュでふるいにかけ、ガラス微小中空球サンプル1〜6を得た。
【0048】
(ポリアミド系樹脂複合体サンプルの作製)
上記ガラス微小中空球サンプル1〜6を用いて、以下の手順でポリアミド系樹脂の樹脂複合体である熱可塑性樹脂複合体サンプルを作製した。まず、φ25mm L/D41の同方向回転二軸押出機HK25D(パーカーコーポレーション製)を使用して、上記ガラス微小中空球サンプルの10質量%をポリアミド6,6(アミランCM3001−N(東レ製))に混練した。二軸押出機の吐出量は5.4kg/h、スクリュー回転数は150rpm、樹脂温度は256〜257℃であった。樹脂成分をトップフィーダー孔に供給し、表面処理グラスバブルズはサイドフィーダーから投入した。紡孔より押し出されたストランドを冷却後、長さ3mmのペレット状に切断、乾燥してポリアミド系樹脂の熱可塑性樹脂複合体ペレットを得た。
【0049】
なお、比較例1として、市販のガラス微小中空球(商品名:S60HS(未表面処理品)、3Mカンパニー製)10質量%を用いた以外は、上記実施例と同様の条件で混練し、熱可塑性樹脂複合体ペレットを得た。
【0050】
(射出成形)
上記熱可塑性樹脂複合体サンプルを用いて、以下の条件の下で射出成形を行い、成形体サンプルを作製した。作製されたペレット状サンプルを、射出機FNX140(日精樹脂工業製)により、多目的試験片JIS K7139(ISO3167)A型の樹脂型を用いて成形した。成形条件はシリンダー温度280〜290℃、金型温度80〜90℃、射出圧力45〜80MPaに設定した。
【0051】
上記方法で作製された成形体サンプル(実施例1〜6、比較例1)及びガラス微小中空球を添加しないポリアミド系樹脂から得られた成形体サンプル(参考例1)を、以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
(密度・軽量化率)
試験片の密度は電子比重計(ミラージュ貿易株式会社製、SD−200L)を使用して、室温にて測定を行った。JIS−K7112:1999、ISO−1183:1987で規定された試験方法で測定した。
また、軽量化率はガラス微小中空体の樹脂材料の密度から、添加剤複合後の密度を差し引き、基本材料密度で除した値とした。
【0053】
(曲げ強度・曲げ比強度、曲げ弾性率・比剛性)
曲げ強度、曲げ弾性率及び比剛性は、それぞれ、引張り圧縮試験機(東洋精機製作所製ストログラフ(V10−C))を使用して測定を行った。試験方法はJIS−K7171:1994、ISO−178:1993に準拠し、圧縮条件として荷重500N、速度2mm/minで試験を行った。曲げ強度には最大点曲げ強さを使い、試験片は100℃のオーブンに10時間以上放置し、室温にて水分を含まない状態、いわゆる絶乾で測定を行った。また、曲げ比強度は、得られた曲げ強度を試験片の密度で除した値とした。比剛性は得られた曲げ弾性率の三乗根を試験片の密度で除した値とした。
【0054】
(引張り強度、引張り比強度)
引張り強度は、曲げ試験と同様に、引張り圧縮試験機(東洋精機製作所製ストログラフ(V10−C))を使用して測定を行った。試験方法はJIS−K7161:1994、ISO−527:1993、JIS−K7162:1994、ISO-527−2:1993に準拠し、荷重10kN、速度50mm/minで試験を行った。引張り強度は最大点引張り強さを使い、試験片は100℃のオーブンに10時間以上放置し、室温にて絶乾で測定を行った。また、引張り比強度は、得られた引張り強度を試験片の密度で除した値とした。
【0055】
【表1】

【0056】
表2は表1において使用される表面処理剤を示す。
【0057】
【表2】

【0058】
(ポリプロピレン系樹脂複合体サンプルの作製)
(表面処理されたガラス微小中空球の作製)
以下の方法に従い、表面処理がなされたガラス微小中空球サンプル7〜11を作製した。まず、300gのグラスバブルズ(商品名:S60HS、3Mカンパニー製)を14リットルの金属容器に入れて攪拌羽で攪拌した。攪拌中、表3に従い、表面処理剤を混合物(サンプル9はシランカップリング剤のみ、サンプル10は合成樹脂エマルジョンのみ)としてグラスバブルズ上に噴霧した。5分攪拌後、金属容器の壁面に付着したグラスバブルズを取り、中央部のサンプルと混ぜ再び攪拌した。次いで、5分後、表面処理したサンプルを取り出し、100℃オーブンで1時間乾燥させた。乾燥後に室温まで冷却したサンプルを500μmのメッシュでふるいにかけ、ガラス微小中空球サンプル7〜11を得た。表3に示される表面処理剤としては、表2に記載されるものを用いた。
【0059】
(ポリプロピレン系樹脂複合体サンプルの作製)
上記ガラス微小中空球サンプル7〜11を用いて、以下の手順でポリプロピレン系樹脂の熱可塑性樹脂複合体のサンプルを作製した。まず、φ30mmの二軸押出機TEX30α(日本製鋼所製)L/D=53 サイドフィーダー付きを使用して、上記ガラス微小中空球サンプルをポリプロピレン系樹脂に混練した。二軸押出機の吐出量は5kg/h、スクリュー回転数は400rpm、樹脂温度は220℃に設定した。樹脂成分をトップフィーダー孔に供給し、表面処理グラスバブルズはサイドフィーダーから投入した。ここで、トップフィーダーとしてはクボタ製の重量フィーダーを用い、また、サイドフィーダーとしてはホソカワミクロン製の容量式マイクロフィーダーを用いた。紡孔より押し出されたストランドを冷却後、長さ3mmのペレット状に切断、乾燥してポリプロピレン系樹脂の熱可塑性樹脂複合体ペレットを得た。
【0060】
また、比較例2として、市販のガラス微小中空球(商品名:S60HS(未表面処理品)、3Mカンパニー製)15質量%を用いた以外は、上記実施例と同様の条件で混練し、熱可塑性樹脂複合体ペレットを得た。
【0061】
(射出成形)
上記熱可塑性樹脂複合体サンプルを用いて、以下の条件の下で射出成形を行い、成形体サンプルを作製した。作製されたペレット状サンプルから、クロックナーF40を用いて、短冊試験片(80mm×10mm×4.0mm)を成形した。成形条件はシリンダー温度230〜250℃、金型温度50〜60℃、射出圧力96MPa以下に設定した。
【0062】
上記方法で作製されたポリプロピレン系樹脂複合体の成形体サンプル(実施例7〜8、比較例2〜5)及びガラス微小中空球を添加しないポリプロピレン系樹脂から得られた成形体サンプル(参考例2)を、ポリアミド系樹脂複合体の成形体サンプルと同様の試験方法で評価した。評価結果を表3に示す。なお、ポリプロピレン系樹脂はポリアミド系樹脂に比べて吸湿による物性への影響が少ないため、得られた成形体サンプルについては、試験片の乾燥による湿度コントロールをせず、室温中で試験を行い評価した。
【0063】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂及びガラス微小中空球を含む熱可塑性樹脂複合体であって、ガラス微小中空球は、ガラス微小中空球100質量%に対して、0.5〜3質量%のシランカップリング剤及び1〜5質量%の合成樹脂エマルジョンで表面処理されている、熱可塑性樹脂複合体。
【請求項2】
ポリプロピレン系樹脂及びガラス微小中空球を含む熱可塑性樹脂複合体であって、ガラス微小中空球は、ガラス微小中空球100質量%に対して、0.5〜3質量%のシランカップリング剤及び1〜5質量%の合成樹脂エマルジョンで表面処理されている、熱可塑性樹脂複合体。
【請求項3】
シランカップリング剤はアミノシランカップリング剤である、請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂複合体。
【請求項4】
合成樹脂エマルジョンはポリアミド系エマルジョン又はマレイン酸変性ポリプロピレンエマルジョンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂複合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂複合体を含む成形体。
【請求項6】
ガラス微小中空球100質量%に対して、0.5〜3質量%のアミノシランカップリング剤及び1〜5質量%の合成樹脂エマルジョンで表面処理されている、ガラス微小中空球。

【公開番号】特開2012−233087(P2012−233087A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102637(P2011−102637)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】