説明

ガラス材料成形装置のためのコーティング

本発明は、第1の準結晶質、近似結晶質、又は非晶質の金属相と、950℃〜1,150℃の融点及び30〜65HRCの公称硬度を有する共晶合金からなる第2の相とを含む、ガラス材料を成形する装置のためコーティング、そのコーティングが施された、ガラスをガラスシート又はガラスプレートに成形するための装置、そのコーティングからなる材料、そのコーティングを得るのを可能にする、予備混合したもしくは予備合金化した粉末、又は成形された軟質コードもしくはワイヤー、並びにそのコーティングを得るための溶射法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスを金属表面又は類似の表面と一定時間接触させる、ガラス製品の成形に関する。
【0002】
とりわけ対象となるのは、ボトル、フラスコ、広口瓶などのような中空ガラス製品、及びプレート、シートなどの形状のガラス製品である。
【背景技術】
【0003】
ガラス容器(ボトル、広口瓶、フラスコなど)の製造に用いられる成形型は、鋳鉄製であろうと銅合金(ブロンズ)製であろうと、現在のところ、ガラスがキャビティへ張り付かないようにするために強力な潤滑を必要としている。この潤滑は、固体潤滑剤、例えばグラファイトなどを含有する調合物を適用することによりもたらされるが、生産中はその潤滑用製品を高温の成形型にかなり頻繁に(1〜2時間おきに)適用しなければならない。この作業には以下のような重大な欠点がある。
・危険な状況の発生(工場の雰囲気に供給された当該製品の一部の蒸発、これらの潤滑剤が床へ再付着することによる滑りやすい床、手作業での機械の拭き取りなど)。
・生産性の損失(潤滑剤を供給するたびに、成形型で製造された最初のボトルは廃棄される)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それゆえに、本発明者らは、これまで組み合わせられたことのない一連の特性を有する半永久的な非粘着性コーティングを開発しようとしてきた。
【0005】
そのコーティングは、潤滑用製品を供給することなく、又は最小限の供給で、高温でガラスパリソンに対して粘着しないものでなければならない。
【0006】
それは耐摩耗性で、且つ、それに伴う追加費用を経済的に実現可能なものにする有効寿命を提供するものでなければならない。特に、前記コーティングは、溶融ガラスとの高い接触温度に対して、そしてまた成形型キャビティの特定の領域(主として鋭いエッジ)におけるくぼみの原因となり得る低温ガラス上への成形型の閉鎖に対しても、良好な機械抵抗が必要である。
【0007】
その一方で、コーティングは、大きな熱衝撃(膨張、熱機械的応力)に耐えるものでなければならない。
【0008】
また、製造工場において一般に行われるような成形型を修復するための作業、すなわちNiCrBFeSiタイプの粉末(共晶粉末、融点1055〜1090℃)のろう付けによるビルドアップに、コーティングが適合することも特に求められる。これらの修復作業は避けられず、低温ガラス上への成形型の閉鎖に関する前述の小さな挿入部により必要になる。コーティングは、特別のトーチランプを用いる高温でのその場での再溶融でビルドアップ生成物を供給するのに耐えなければならず、そして更によいのは、修復された部分がキャビティの残りのコーティングと密着するようにこれらの供給材料と冶金学的に適合することである。
【0009】
最後に、前記コーティングは、成形装置(成形型など)によるガラスからの熱の除去を過度に少なくしないために、十分に熱伝導性でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの所望の目的は本発明によって達成され、そのうちの1つの対象は、ガラス製品を成形するための装置のコーティングであって、第1の準結晶質又は近似結晶質又は非晶質の金属相と、950〜1150℃の融点を有し且つ30〜65HRcの公称硬度を有する共晶合金から構成される第2の相とを含むコーティングである。
【0011】
ここで、「準結晶質相」というのは、並進対称性とは通常相容れない回転対称性、すなわち、5回、8回、10回又は12回回転軸を有する対称性を示す相を意味し、これらの対称性は放射線回折により明らかにされる。例として、点群
【0012】
【数1】

【0013】
の20面体相I(D. Shechtman, I. Blech, D. Gratias, J. W. Cahn, Metallic Phase with Long-Range Orientational Order and No Translational Symmetry, Physical Review Letters, Vol. 53, No. 20, 1984, pp1951-1953参照)及び点群10/mmmの十角形相D(L. Bendersky, Quasicrystal with One Dimensional Translational Symmetry and a Tenfold Rotation Axis, Physical Review Letters, Vol. 55, No. 14, 1985, pp1461-1463参照)を挙げることができる。正十角形相のX線回折図は、“Diffraction approach to the structure of decagonal quasicrystals, J. M. Dubois, C. Janot, J. Pannetier, A. Pianelli, Physics Letters A 117-8 (1986) 421-427”において公開された。
【0014】
ここで「近似相」又は「近似化合物」というのは、それらの結晶構造が並進対称性との相性がよいままである限りにおいて真の結晶を意味するが、それは電子回折写真では、その対称性が5回、8回、10回又は12回回転軸に近い回折パターンを示す。
【0015】
「非晶質合金」というのは、非晶質相しか含まない合金又は主として非晶質の相の間に多少の結晶子が存在し得る合金を意味すると理解される。
【0016】
本発明のコーティングの好ましい特徴によれば、
・それは第3の固体潤滑剤相を含み、
・前記第1の相、第2の相、及び第3の相は、それぞれ30〜75vol%、70〜25vol%、及び0〜30vol%、好ましくはそれぞれ45〜65vol%、45〜25vol%。及び0〜20vol%の量で存在し、前記第1の相が30容量%未満の量では十分な非粘着効果を得ることはできず、前記第2の相が25容量%未満の量では前述の成形型修復作業との前記コーティングの相性が必要なレベル未満に低下してその脆性が増大し、前記第3の相が存在することは、ガラス成形手段を覆ったガラスがうまく滑るのを必要とするプロセスにおいて特に有利であることができ、そして
・前記第1の相は準結晶質及び/又は近似結晶質の相であってアルミニウム基合金を含み、且つ/又は前記第1の相は非晶質金属相であってジルコニウム基合金及び/又は高エントロピー合金を含み、当該第1の相は前述の構成要素のいくつかを混合物として含むことができる。
【0017】
前記第1の準結晶質相の組成に組み込むことができるアルミニウム基合金について多数の例を挙げることができる。
【0018】
フランス国特許出願公開第2744839号明細書には、原子組成Aladeg(式中、XはB、C、P、S、Ge及びSiから選択される少なくとも1種の元素を表し、YはV、Mo、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh及びPdから選択される少なくとも1種の元素を表し、Iは不可避の工程不純物を表し、0≦g≦2、0≦d≦5、18≦e≦29、及びa+d+e+g=100%)を有する準結晶質合金が記載されている。
【0019】
フランス国特許出願公開第2671808号明細書には、原子組成AlaCubCob,(B,C)cdef(式中、MはFe、Cr、Mn、Ru、Mo、Ni、Os、V、Mg、Zn及びPdから選択される1種以上の元素を表し、NはW、Ti、Zr、Hf、Rh、Nb、Ta、Y、Si、Ge及び希土類元素から選択される1種以上の元素を表し、Iは不可避の工程不純物を表し、a≧50、0≦b≦14、0≦b’≦22、0<b+b’≦30、0≦c≦5、8≦d≦30、0≦e≦4、f≦2、及びa+b+b’+c+d+e+f=100%)を有する準結晶質合金が記載されている。
【0020】
組成AlaCubCob’(B,C)cdef(式中、0≦b≦5、0<b’<22、0<c<5であり、MはMn+Fe+Cr又はFe+Crを表す)を有する合金が特に挙げられる。
【0021】
Z. Minevski, et al., (Symposium MRS Fall 2003, “Electrocodeposited Quasicristalline Coatings for Non-stick, Wear Resistant Cookware”には、合金Al65Cu23Fe12が挙げられている。
【0022】
また、本発明に関連して、申し分なく好適であるのは、国際公開第2005/083139号パンフレットに記載されている、80重量%を超える1種以上の準結晶質又は近似結晶質の相を含み、原子組成Ala(Fe1-xxb(Cr1-yyczjを有するアルミニウム基合金であり、この式において、
・XはRu及びOsから選択され、Feと同数の電子を有する、1種以上の元素を表し、
・YはMo及びWから選択され、Crと同数の電子を有する、1種以上の元素を表し、
・ZはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mn、Re、Rh、Ni及びPdから選択される元素又は元素の混合物であり、
・JはCu以外の、不可避不純物を表し、
・a+b+c+z=100、
・5≦b≦15、10≦c≦29、0≦z≦10、
・xb≦2、
・yc≦2、
・j<1、
である。
【0023】
1つの特定の実施形態において、前記準結晶質合金は原子組成AlaFebCrcjを有し、この式においては、
・a+b+c+j=100、
・5≦b≦15、10≦c≦29、j<1、
である。
【0024】
前記第1の近似結晶質相の組成に組み込むことができるアルミニウム基合金については、以下の例を挙げることができる。
【0025】
第1に、原子組成Al65Cu20Fe10Cr5を有する合金に特徴的な斜方晶相O1が挙げられ、その単位格子パラメータは、a0(1)=2.366、b0(1)=1.267、c0(1)=3.252(単位nm)である。この斜方晶相O1は十角形相に近似するものと呼ばれている。更に、それは十角形相と非常に近似しているためそのX線回折パターンを十角形相のものと区別することは不可能である。
【0026】
また、原子数に関してAl64Cu24Fe12に近い組成を有する合金中に存在する、パラメータar=3.208nm、α=36°を有する菱面体晶相も挙げることができる(M. Audier and P. Guyot, Microcrystalline AlFeCu Phase of Pseudo Icosahedral Symmetry, in Quasicrystals, eds. M. V. Jaric and S. Lundqvist, World Scientific, Singapore, 1989)。
【0027】
この相は20面体相の近似相である。
【0028】
また、原子数に関する組成Al63Cu17.5Co17.5Si2の合金中に存在する、a0(2)=3.83、b0(2)=0.41、c0(2)=5.26、及びa0(3)=3.25、b0(3)=0.41、c0(3)=9.8(単位nm)というそれぞれのパラメータを有する斜方晶相O2及びO3、あるいは原子数に関する組成Al63Cu8Fe12Cr12の合金中に形成される、パラメータa0(4)=1.46、b0(4)=1.23、c0(4)=1.24(単位nm)を有する斜方晶相O4を挙げることもできる。斜方晶系に近似するものは、例えば、C. Dong, J. M. Dubois, J. Materials Science, 26 (1991), 1647に記載されている。
【0029】
また、真の準結晶質又は近似結晶質の相と共存することが頻繁に観察される立方晶構造のC相も挙げることができる。特定のAl−Cu−Fe合金及びAl−Cu−Fe−Cr合金中に形成されるこの相は、アルミニウム部位に関する合金元素の化学的配列秩序の影響によりCs−Cl型構造の相を有し格子パラメータa1=0.297nmを有する、超構造からなる。この立方晶相の回折パターンは、純立方晶相を有し原子数に関する組成Al65Cu20Fe15を有するサンプルについて公開されている(C. Dong, J. M. Dubois, M. de Boissieu, C. Janot、 Neutron diffraction study of the peritectic growth of the Al65Cu20Fe15 icosahedral quasicrystal, J. Phys. Condensed matter, 2 (1990), 6339-6360)。
【0030】
また、C相とH相の結晶間の電子顕微鏡を使用して観察されるエピタキシャル関係と、結晶格子パラメータ、すなわちaH=3(2)1/21/(3)1/2(4.5%以内)及びCH=3(3)1/21/2(2.5%以内)を関連付ける単純な関係とにより示されるC相に直接由来する六方晶構造のH相も挙げることができる。この相は、ΦAlMnで表され、40重量%のMnを含有するAl−Mn合金中に見いだされる六方晶相と同形である(M.A. Taylor, Intermetallic phases in the Aluminium-Manganese Binary System, Acta Metallurgica 8 (1960) 256)。
【0031】
立方晶相、その超構造及びそれに由来する相は、近い組成の準結晶質相の近似相の群を構成する。
【0032】
一方、前記第1の相は非晶質金属相であってもよい。
【0033】
第1に、「イノウエ」タイプの合金を挙げることができる。この合金は、原子百分率として、少なくとも50%のTi及びZr元素を含有する非晶質合金であり、Zrは必ず存在する主要元素であるのに対して、Tiの割合はゼロであってもよい。残部を構成する元素は、有利には、Al、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、Si、Mn、Mo及びVからなる群より選択される。特に対象となる合金組成は、Zr48.5Ti5.5Al11Cu22Ni13、Zr55Cu30Al10Ni5、Zr55Ti5Ni10Al10Cu20、Zr65Al7.5Cu27.5Ni10、Zr65Al7.5Ni10Cu17.5、Zr48.5Ti5.5Cu22Ni13Al7、Zr60Al15Co2.5Ni7.5Cu15、Zr55Cu20Ni10Al15、特にZr55Cu30Al10Ni5である。
【0034】
第2に、高エントロピー合金を挙げることができる。高エントロピー合金は、1種類の主要元素を含有するものではなく、5%〜35%の範囲内でよい等モル量で存在する5〜13種の元素からなる合金である。利点は、かかる合金においては、ランダムな固溶体の形成が脆い金属間結晶相の合成と比べて有利なことである。更に、それは非晶質又は結晶質のマトリクス中に分散されたナノ結晶子からなる。典型的には、高エントロピー合金は、Al、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、Si、Mn、Mo、V、Zr及びTiからなる群から選択される少なくとも5種の元素を含有する。特に対象となる合金組成は、5〜13種の主要元素を等モル比で有し各主元素の原子百分率が35%未満である高エントロピー合金、例えば、FeCoNiCrCuAlMn、FeCoNiCrCuAl0.5、CuCoNiCrAlFeMoTiVZr、CuTiFeNiZr、AlTiVFeNiZr、MoTiVFeNiZr、CuTiVFeNiZrCo、AlTiVFeNiZrCo、MoTiVFeNiZrCo、CuTiVFeNiZrCoCr、AlTiVFeNiZrCoCr、MoTiVFeNiZrCoCr、AlSiTiCrFeCoNiMo0.5、AlSiTiCrFeNiMo0.5である。
【0035】
好ましくは、前記第2の相は、本発明によれば、以下のものから主として構成される。
・以下の元素を重量%で示して以下の量で含むニッケル基合金:
Cr: 0〜20
C: 0.01〜1
W: 0〜30
Fe: 0〜6
Si: 0.4〜6
B: 0.5〜5
Co: 0〜10
Mn: 0〜2
Mo: 0〜4
Cu: 0〜4
・又は以下の元素を重量%で示して以下の量で含むコバルト基合金:
Ni: 10〜20
Cr: 0〜25
C: 0.05〜1.5
W: 0〜15
Fe: 0〜5
Si: 0.4〜6
B: 0.5〜5
Mn: 0〜2
Mo: 0〜4
Cu: 0〜4
・又は2つのかかる合金の混合物
【0036】
1つの有利な実施形態によれば、存在することが任意である前記第3の相は、以下の化合物の少なくとも1つから、又はそれらのいくつかの混合物から主として構成される。
・XF2(式中、XはCa、Mg、Sr、Baから選択される)、特にCaF2、MgF2及びBaF2
・XF3(式中、XはSc、Y、La、又は任意の他の希土類元素の中から選択される)
・六方晶構造を有するBN
・MoS2(モリブデナイト)、WS2(タングステナイト)、CrS
・X2MoOS3(式中、XはCs又はNiである)
・MaSib(式中、M=Mo、W、Ni又はCr)、例えばMoSi2
・Xab(式中、XはMo、Cr、Co、Ni、Fe、Mn、V、Ti又はZrである)、特にTiB2、ZrB2
・Xabc(式中、X及びYはMo、Cr、Co、Ni、Fe、Mn、V、Ti及びZrから選択される)、特にMoCoB又はMO2NiB2
・XSiB(式中、XはMo、Cr、Co、Ni、Fe、Mn、V、Ti又はZrである)
【0037】
本発明によれば、コーティングの厚さは以下のとおりであって、昇順に好ましく。すなわち、
・一方では、少なくとも5μm、10μm、20μmに等しく、
・他方では、最大限500μm、350μm、200μmに等しい。
【0038】
本発明のその他の対象は以下のとおりである。
・下部バッフルを含む、中空ガラス製品を製造するための成形型、特にブランク成形型であって、キャビティの少なくとも一部分が上記コーティングを含み、又はゴブシュート、すなわちガラスパリソンを受け入れてそれを成形型へ向けて案内する手段を含み、且つ、表面の少なくとも一部分(パリソンと接触する)が上記コーティングを含むもの。
・ガラスと接触する表面の少なくとも一部分が上記コーティングを含む、ガラスをシート又はプレート状に成形するための装置。
・かかるコーティングを構成する材料。
・前記コーティングを得ることを可能にする予備混合した又は予備合金化した粉末。
・前記コーティングを得ることを可能にする軟質ビーズ又はフラックス入りワイヤー。
・前記コーティングを得るための溶射方法、特にプラズマ溶射又はHVOF(高速酸素燃料)式の方法。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次の例示的な実施形態により本発明を説明する。
【実施例】
【0040】
a)研磨剤の噴射による表面の準備
残しておくべき領域をマスキングした後、80メッシュサイズ(すなわち平均直径180μm)の研磨用アルミナ−ジルコニア砥粒を吹き付けることにより表面を準備する。この材料は強度が高いために好ましく、この高強度により結晶粒の破砕が制限されて、その結果として結晶粒の破片が表面に取り込まれるのが制限され、取り込みはコーティングの密着性に悪影響をもたらす。
【0041】
b)コーティングに用いる充填材の作製
第1の相Aを「準結晶質」粉末から形成し、その粉末の組成は重量%で以下のとおりである。
アルミニウム 54.1
銅 17.8
鉄 13
クロム 14.9
相Aの粉末の粒度分布=25〜60μm(25μm未満であるのは粒子のおよそ10%だけであり、60μmより大きいのは粒子の10%だけである)。
【0042】
第2の相Bはニッケル基合金の粉末から形成され、その組成粉末は重量%で以下のとおりである。
クロム 7.8
鉄 2.45
ホウ素 1.6
ケイ素 3.6
炭素 0.26
ニッケル 残部
相Bの粉末の粒度分布=15〜45μm(15μm未満であるのは粒子のおよそ10%だけであり、45μmより大きいのは粒子の10%だけである)。
【0043】
相Aと相Bを、生成物Bが40vol%/生成物Aが60vol%の割合で組み合わせる。
【0044】
2種の粉末Aと粉末Bは、調製した量の粉末でもって均一分布を得るように混合される。
【0045】
この複合混合物を用いてコーティングを作る。
【0046】
c)溶射によるコーティングの作製
事前に作った混合物の溶射によりコーティングを作製する。溶射方法はHVOF(高速酸素燃料)法である。この溶射方法では、以下の構成要素からなる装置を使用する。
・溶射ガンはGTV GmbH社の製品(D)のK2モデルである。
・供給室。
・粉末ディスペンサー。
【0047】
説明する実施例では、溶射ガンK2は、非常に高速の火炎を発生させるノズルを用い、酸素とExxsol(登録商標)D60ケロシン(Exxon Mobil社の商標)の燃焼の原理により、大きな流量で作動する。溶射ガンは冷水の循環により冷却される。溶射する複合粉末は燃焼室内に注入され、その後高速で吹き付けられると同時に火炎の中心部に運ばれ、従って移動していく間に部分的又は完全に溶融してからコーティングする部分の表面に突き当たる(溶射で公知の原理)。
【0048】
溶射ガンは操作ロボットに取り付けられる。このロボットは、粒子の表面衝突角度が90°近くになるように方位を維持しながら、且つ所望の厚さを得るために選択され制御された掃射速度を確保しながら、コーティングする表面全体を掃射するようプログラムされている。
【0049】
説明する実施例の溶射パラメータは以下のとおりである。
【0050】
【表1】

【0051】
得られるコーティングの厚さが50〜100μmとなるように、ロボットにより実施する掃射サイクルを調整する。
【0052】
この方法の実施時の相Aの損失は相Bのそれよりも多く、そのため得られたコーティングは55vol%の相A/45vol%の相Bしか含まないことに注目すべきである。
【0053】
d)コーティングの仕上げ
溶射後、コーティング表面の最終研磨作業を実施する。この作業は以下のものである。
・成形型の分割線上にあり得る余分のコーティングを除去する。
・成形型の表面粗度を小さくしてその値を約2〜3μm(Ra)まで下げる。この作業は、使用研磨剤のフラップホイールと、これらのフラップホイールを回転させ成形型表面に圧力を加える好適な機械とを用いて実施することが好ましい。
【0054】
コーティングの最終厚さをチェック(領域ごとに)した後に、成形型を使用する。
【0055】
e)コーティングの評価、試験
コーティングを施した成形型を、この産業技術の標準に従って、コーティングを施していない成形型に対して行うのと同じように、Permaplate(登録商標)タイプの保護ラッカー又はワニスを塗布することにより仕上げる(ワニスの塗布後に炉で硬化)。
【0056】
その後、(ブランク)成形型をボトル成形機(IS型)に取り付け、潤滑製品を用いることなく使用する。通常は、潤滑製品(グラファイト、BN又は他の種類)に基づくスプレーを成形型に定期的に吹き付けて(数時間周期で)、ガラスパリソンの成形型への流入を容易にし、且つそれがくっつかないようにする。
【0057】
ここに記載するコーティングでは、作業中に潤滑は必要ではない。
【0058】
ここでの方法は、同一のコーティングを施している4〜8個の成形型を同時に試験するものであり、また次の2つの基準に基づいてコーティングの有効寿命を推測するものである。
・成形型が正しく機能しなくなったときに(パリソンが成形型に正しく入らなくなり、くっつき始める)、成形型を機械から外して検査する。生産されたボトルの数を記録する。
・コーティングとは関係のない挿入部が生じた場合に、同じ方法を適用する。例えば、材料にくぼみが生じた場合には局部修復。その後、成形型を機械に再び取り付ける。
【0059】
局部修復処理は、この産業技術の標準に従って、ろう付けにより材料を供給した後再び表面仕上げすることによって行われる。
【0060】
f)コーティングによりもたらされる利点
作業中に潤滑は必要でないという事実から、この潤滑に関連する欠点が、本発明の対象であるコーティングの効力によりなくなる。すなわち、
・潤滑製品を消費しないことから節約がなされる。
・作業場の安全性に関与するリスク、すなわち、高温の成形型を潤滑する作業中に放出される化学薬品の蒸気の吸入、周囲領域が一部蒸発した潤滑物質の機械周辺への再付着により滑りやすくなること、潤滑剤を適用する作業員の腕が巻き込まれるリスク、の排除。
・スクラップ量の削減。成形型の潤滑を行うときには潤滑されたばかりの成形型により生産されたボトルは廃棄される。
【0061】
上に記載した実施例では、以下の利益を数値で表すことが可能になった。
【0062】
【表2】

【0063】
2週間の生産運転の過程において、上に記載した実施例に従ってコーティングを施した合計32個の成形型に対してこの性能を測定し、コーティングを施していない32個の成形型と比較した。コーティングを施した成形型からの廃棄ボトル数は、コーティングを施していない(潤滑を行った)成形型からの生産と比べて37000個減少した。
【0064】
g)本発明の対象であるコーティングの特性
その熱伝導性は前記方法との相性がよく、成形型とガラスパリソンとの間の熱伝達を根本的に変化させない。これは、ボトルを製造する機械の作業パラメータがそれにより大幅に変更されないということを意味する。
【0065】
本発明の対象であるコーティングは、有効寿命が少なくとも約200〜400時間又は約160,000〜320,000物品である。他の実施形態では、有効寿命1000時間又は800,000物品を達成することが可能である。
【0066】
本発明の対象であるコーティングは、通常以下の手順に従って実施される標準的な成形型修復作業との相性がよい。
・欠陥部を滑らかにするための任意選択の研削による修復領域の調整、
・局部の再充填に用いるニッケル基粉末の融点(950〜1150℃)に達するための、成形型の予熱とその後の局部加熱、
・粉末トーチランプによる材料の供給、
・形状を回復させるための局部再機械加工。
【0067】
大部分の硬質コーティングはかかる作業を可能とせず、成形型の局部加熱は通常コーティングの剥離を引き起こし、その一方で修復用充填製品とろう付け材との間で冶金学的接合が起こらない。本発明の場合、第2の相Bとして知られる成分は、成形型の修復に用いる充填材料と完全に冶金学的に適合し、すなわち、局部的にそれらの2つの材料が互いに混ざり合うかあるいは合金を形成し、それにより修復コーティングと当初のコーティングの間に良好な連続性がもたらされる。
【0068】
更に、本発明のコーティングは、多くの他のコーティングとは異なり、それらが機能性を失った後に、例えばサンドブラスティングにより、エッチングを施すことができ、これにより、ガラス成形装置が使用可能である限り、本願に記載のとおり新たなコーティングを再び作ることが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製品成形装置のためのコーティングであって、
・第1の準結晶質又は近似結晶質又は非晶質の金属相と、
・950〜1150℃の融点を有し且つ30〜65HRcの公称硬度を有する共晶合金から構成される第2の相と、
を含むことを特徴とするガラス製品成形装置のためのコーティング。
【請求項2】
第3の固体潤滑剤相を含むことを特徴とする、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記第1の相、第2の相及び第3の相が、それぞれ30〜75vol%、70〜25vol%及び0〜30vol%、好ましくはそれぞれ45〜65vol%、45〜25vol%及び0〜20vol%の量で存在していることを特徴とする、請求項2に記載のコーティング。
【請求項4】
前記第1の相が、準結晶質及び/もしくは近似結晶質の相であってアルミニウム基合金を含み、且つ/又は前記第1の相が、非晶質金属相であってジルコニウム基合金及び/又は高エントロピー合金を含むことを特徴とする、請求項1〜3の一つに記載のコーティング。
【請求項5】
前記第2の相が主に以下のものから構成されることを特徴とする、請求項1〜4の一つに記載のコーティング。
・以下の元素を重量%で示される以下の量で含むニッケル基合金:
Cr: 0〜20
C: 0.01〜1
W: 0〜30
Fe: 0〜6
Si: 0.4〜6
B: 0.5〜5
Co: 0〜10
Mn: 0〜2
Mo: 0〜4
Cu: 0〜4
・又は以下の元素を重量%で示される以下の量で含むコバルト基合金:
Ni: 10〜20
Cr: 0〜25
C: 0.05〜1.5
W: 0〜15
Fe: 0〜5
Si: 0.4〜6
B: 0.5〜5
Mn: 0〜2
Mo: 0〜4
Cu: 0〜4
・又は2つのかかる合金の混合物
【請求項6】
前記第3の相が、主に以下の化合物の少なくとも1つから、又はそれらのいくつかの混合物から構成されることを特徴とする、請求項1〜5の一つに記載のコーティング。
・XF2(式中、XはCa、Mg、Sr、Baから選択される)、特にCaF2、MgF2及びBaF2
・XF3(式中、XはSc、Y、La、又は任意の他の希土類元素の中から選択される)
・六方晶構造を有するBN
・MoS2(モリブデナイト)、WS2(タングステナイト)、CrS
・X2MoOS3(式中、XはCs又はNiである)
・MaSib(式中、M=Mo、W、Ni又はCr)、例えば、MoSi2
・Xab(式中、XはMo、Cr、Co、Ni、Fe、Mn、V、Ti又はZrである)、特にTiB2、ZrB2
・Xabc(式中、X及びYはMo、Cr、Co、Ni、Fe、Mn、V、Ti及びZrから選択される)、特にMoCoB又はMO2NiB2
・XSiB(式中、XはMo、Cr、Co、Ni、Fe、Mn、V、Ti又はZrである)
【請求項7】
厚さが少なくとも5μm、10μm、20μmに等しく、昇順に好ましいことを特徴とする、請求項1〜6の一つに記載のコーティング。
【請求項8】
厚さが最大で500μm、350μm、200μmに等しく、昇順に好ましいことを特徴とする、請求項1〜7の一つに記載のコーティング。
【請求項9】
下部バッフルを含み、キャビティの少なくとも一部分が請求項1〜8の一つに記載のコーティングを含むもの、又は表面の少なくとも一部分が請求項1〜8の一つに記載のコーティングを含むゴブシュートを含む、中空ガラス製品を製造するための成形型、特にブランク成形型である成形型。
【請求項10】
ガラスと接触する表面の少なくとも一部分が請求項1〜8の一つに記載のコーティングを含む、ガラスをシート又はプレート状に成形するための装置。
【請求項11】
請求項1〜9の一つに記載のコーティングを構成する材料。
【請求項12】
請求項1〜8の一つに記載のコーティングを得ることを可能にする予備混合した又は予備合金化した粉末。
【請求項13】
請求項1〜8の一つに記載のコーティングを得ることを可能にする軟質ビーズ又はフラックス入りワイヤー。
【請求項14】
請求項1〜8の一つに記載のコーティングを得るための溶射方法。

【公表番号】特表2012−510424(P2012−510424A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539072(P2011−539072)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052337
【国際公開番号】WO2010/063930
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(511244919)
【Fターム(参考)】