説明

ガラス板積層体の製造方法、及びガラス板の接合方法、並びに前記製造方法によって製造されたガラス板積層体

【課題】複数のガラス板を互いに接合面で接合したガラス積層体において、接合面における接着力の低下を防止することができると共に、良好な光透過性を維持することができ、しかも、常温でもガラス板の接合を可能とするガラス板の接合方法を提供する。
【解決手段】積層されるガラス板2,3の接合面21,31に酸溶液を塗布した後、または酸溶液21,31を塗布した接合面を洗浄した後、接合面21,31を互いに接触させて接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚のガラス板を接合させたガラス板積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスは光透過性が高く、ガスバリア性が高いという特性を持つ。その特性を利用して、様々なものをガラスによって保護することが望まれている。例えば、液晶や発光素子等をガラス基板によって封止することによりディスプレイパネルや照明として使用することができ、また、船や城等の模型や、ドライフラワー等の周りをドーム状や球状に成形したガラスで囲い、封止することによって、インテリアや置物としても利用することができる。その場合、ガラスで何かを封止するためには、ガラスを接合する必要がある。
【0003】
また、水族館の水槽等に使用されるガラスは、水圧や打突等による破損を防止するために、かなりの厚みを有することを要する。厚みのあるガラスを急冷すると、ガラスの内外温度差に起因して歪が入るおそれがあり、場合によっては冷却中にガラスが破損する。従って、厚みのあるガラスを冷却する場合には、長期間に亘り緩やかに温度を降下させる必要があり、場合によっては、冷却に数ヶ月間を必要とすることもある。このような長期間の冷却を避けるために、比較的薄いガラスを何枚も積層することにより、厚みのあるガラスと同様の強度を得ようとすることが考えられる。その場合、ガラスを積層するためには、前述のガラスで封止する場合と同様、ガラス同士を接合する必要がある。
【0004】
一般的に、ガラス同士を接合させる場合、有機接着剤が使用されることがある(下記特許文献1参照)。しかしながら、有機物は熱に弱いため、ガラス接合後に高温雰囲気下に曝されると、接着剤が熱により分解し、ガラス同士が剥がれるという問題がある。また、有機接着剤は、酸やアルカリ等の化学物質に弱いという問題もある。
【0005】
そこで、ガラス同士を軟化点付近まで加熱することによって接合させ、その後に冷却することにより、ガラス同士を接合することが提案されている(下記特許文献2参照)。当該接合方法では、接着剤を使用せずに直接ガラス同士を接着しているため、耐熱性、化学的耐久性については、接着剤を使用して接合されたガラスよりも高い。しかしながら、ガラス同士の接合工程に高温を必要とするため、耐熱性が低い素子等を封止することができない。また、ガラスを加熱する必要があることから、エネルギー効率が低く、コストが高く、工程が複雑になるという問題がある。
【0006】
この問題を解決するために、下記特許文献3に記載された接合方法が提案されている。下記特許文献3では、2枚のガラス板の間をフッ酸ガスで満たすことによりガラス板の接合面をフッ酸ガスにさらしたのち、両ガラス板を接触させて接合するガラス板の接合方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−100457号公報
【特許文献2】特開2004−256380号公報
【特許文献3】特開2002−97040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載のガラス板の接合方法では、フッ酸ガスをガラス板の接合に使用するため、例えば、ガラスの結合力を強めたり、溶融性を改善したりするために、ガラス組成中にアルミナやアルカリ土類金属、アルカリ金属が含有された珪酸塩ガラスからなるガラス板を接合対象とした場合は、上記の成分とフッ酸ガスとの反応によりフッ化化合物が生成し、ガラス板の接着部において接合力が低下するという問題がある。また、フッ化化合物は白色を呈するため、ガラス板の接着部において透過率が悪化するという問題も生じる。
【0009】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、複数のガラス板を互いに接合面で接合したガラス積層体において、接合面における接着力の低下を防止しすることができると共に、良好な光透過性を維持することができ、しかも、常温でもガラス板の接合を可能とするガラス板の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、複数のガラス板を互いに接合して積層したガラス板積層体の製造方法であって、積層される前記ガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後、前記ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することを特徴とするガラス板積層体の製造方法に関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記ガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後に前記接合面を洗浄し、その後に前記ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することを特徴とする請求項1に記載のガラス板積層体の製造方法に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記ガラス板の接合面を互いに接触させた後、荷重をかけて接合することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス板積層体の製造方法に関する。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記ガラス板のガラス組成中にAl、アルカリ土類金属酸化物、及びアルカリ金属酸化物から選択される少なくとも1種又は2種以上の成分を、総量として1質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス板積層体の製造方法に関する。
【0014】
請求項5に係る発明は、前記酸溶液が塩酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス板積層体の製造方法に関する。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって製造されたガラス板積層体に関する。
【0016】
請求項7に係る発明は、素子を介して前記ガラス板を積層する請求項6に記載のガラス板積層体に関する。
【0017】
請求項8に係る発明は、複数のガラス板を互いに接合する板ガラスの接合方法であって、
接合される前記ガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後、前記ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することを特徴とする板ガラスの接合方法に関する。
【0018】
請求項9に係る発明は、前記ガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後に前記接合面を洗浄し、その後に前記ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することを特徴とする請求項8に記載の板ガラスの接合方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、積層されるガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後、ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することから、ガラス板同士の良好な接着性を維持しつつ、良好な光透過性を維持することができる。つまり、酸溶液を使用することで、ガラス板の接合面に生成される酸化物やハロゲン化物を溶液中に溶かし込むことができるため、ガスを使用した場合のようにガラス板の接合面に酸化物やハロゲン化物が残存することがなく、これによりガラス板同士の良好な接着性と光透過性を維持することができる。また、常温でもガラス板の接合を行うことができることから、熱に弱い素子等を封止するのに最適であり、構成が単純で経済的である。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、積層されるガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後に前記接合面を洗浄することから、溶液中に溶かし込まれた酸化物やハロゲン化物を除去することができる。そして、その後ガラス板を接合することにより良好な光透過性を維持することができる。一旦、ガラス板の接合面に酸溶液を塗布すれば、その直後はガラス板の表面が活性状態を維持するため、酸溶液を除去したとしても、良好にガラス板同士が接合できる。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、ガラス板を互いに接触させた後、荷重をかけて接合することから、より強固にガラス板同士を接合させることができる。酸溶液でガラス板の接合面を処理した後は、ガラス板の接合面は活性状態を維持する一方、表面粗さが粗くなることにより接合面同士の密着性に劣るおそれがあるが、ガラス板の接合面に荷重をかけることにより接合面同士の密着性を向上させることができる。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、前記ガラス板のガラス組成中にAl、アルカリ土類金属酸化物、及びアルカリ金属酸化物から選択される少なくとも1種又は2種以上の成分を、総量として1質量%以上含有することから、接合面に酸溶液を塗布することによって接合面からアルミ、アルカリ土類、アルカリ金属が溶出する。これにより、接合面により多くのSi成分を露出させることができ、接合面をより活性状態にすることができる。
【0023】
請求項5に係る発明によれば、前記酸溶液は、塩酸であることから、接合面の侵食量を適切に制御しつつ、接合面を活性状態にすることができる。
【0024】
請求項6に係る発明によれば、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって製造されたガラス板積層体であることから、接合面における接着力が高いと共に、良好な光透過性を維持したものとなる。また、加熱工程を必要としないことから、耐熱性の低い素子等を劣化することなく封止することができる。
【0025】
請求項7に係る発明によれば、素子を介してガラス板を積層して製造されたガラス板積層体であることから、加熱工程を必要とせず、耐熱性の低い素子を劣化することなく封止することができる。また、特許文献3に記載された接合方法のように、接合面をフッ酸ガスにさらすと、ガラス板間に介装する素子がフッ酸ガスによって劣化するおそれがあるところ、本発明では酸溶液を使用することから、素子が酸に接触することを回避しながら処理することができ、素子の劣化を防止することができる。
【0026】
請求項8に係る発明によれば、複数のガラス板を互いに接合する板ガラスの接合方法であって、接合されるガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後、ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することから、既に述べたガラス板積層体の製造方法による作用効果を同様に享受することが可能となる。
【0027】
請求項9に係る発明によれば、ガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後に前記接合面を洗浄し、その後にガラス板を互いに接触させて接合することから、既に述べたガラス板積層体の製造方法による作用効果を同様に享受することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るガラス板積層体の製造方法を示す図であって、(a)接合面に酸溶液を塗布した図、(b)接合面同士を対向させた図、(c)は接合させてガラス板積層体を作製した図である。
【図2】ガラス板積層体上におもりを載置し、荷重をかけた図である。
【図3】素子を介してガラス板同士を接合させたガラス板積層体の図である。
【図4】本発明に係るガラス板積層体の写真である。
【図5】ガラス板積層体の断面方向の応力分布を示した図であって、(a)は本発明に係るガラス板積層体の図、(b)は、加熱によって接合したガラス板積層体の図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る板ガラス積層体の製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
本発明に係るガラス板積層体(1)は、図1(a)に示す通り、積層されるガラス板(2)(3)の夫々の接合面(21)(31)に酸溶液を塗布した後、図1(b)(c)に示す通り、ガラス板(2)の接合面(21)とガラス板(3)の接合面(31)とを互いに接触させて接合することで作製されている。
【0031】
ガラス板(2)(3)は、ケイ酸塩ガラスが用いられ、好ましくはソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、シリカガラス等が用いられる。中でも、ガラス板(2)(3)は、そのガラス組成中にAl、アルカリ土類金属酸化物、及びアルカリ金属酸化物から選択される少なくとも1種又は2種以上の成分を、総量として1質量%以上含有することが好ましい。これらの成分を含有するガラス板の接合面(21)(31)に酸溶液を塗布することによってガラス板の接合面(21)(31)からアルミナ、アルカリ土類、アルカリ金属が溶出する。これにより、接合面(21)(31)にSi成分を露出させることができ、接合面(21)(31)をより活性状態にすることができる。Al、アルカリ土類金属酸化物、及びアルカリ金属酸化物から選択される少なくとも1種又は2種以上の成分の総量として1質量%未満であると、接合面(21)(31)にSi成分を露出させ難くなり、接合面(21)(31)表面が活性状態となり難くなるおそれがある。
【0032】
Alは、ガラスの歪点を上昇させ、耐熱性を高めるとともに、ヤング率を高めるためにガラス板(2)(3)に含有される。
【0033】
アルカリ土類金属酸化物として、MgO、CaO、SrO、BaOから選択される1種又は2種以上が、ガラス板(2)(3)に含有される。これらのアルカリ土類金属酸化物を混合して含有させることにより、ガラスの失透温度を下げ、ガラスの溶融性と成形性を改善することができる。
【0034】
アルカリ金属酸化物として、LiO、NaO、KO、CsOから選択される1種又は2種以上が、ガラス板(2)(3)に含有される。これらのアルカリ金属酸化物を混合して含有させることで、高温粘度を低下させることができ、溶融性、成形性が向上し、また失透性を改善することができる。
【0035】
ガラス板(2)(3)の厚みは、特に限定はされないが、例えば0.05mm〜30mmである。ガラス板を複数枚積層する場合においても、ガラス板の厚みは特に限定されず、全て同一の厚みのガラス板を使用してもよく、異なった厚みのガラス板を複数積層してもよい。異なった厚みのガラス板を使用した場合においても、ガラス板の板厚差については、特に限定はされない。例えば、厚みのあるガラスと同様の強度を得るために本発明に係るガラス板積層体を作成する場合、2.0〜3.0mmの厚みのガラス板を使用することが好ましい。一方、素子等を封止するために本発明に係るガラス板積層体を使用する場合は、厚み0.3〜1.8mm(更に好ましくは厚み0.3〜0.7mm)の基板ガラス上に、素子等を配置し、厚み0.05〜0.3mm(更に好ましくは厚み0.05〜0.2mm)の薄板ガラスを積層することが好ましい。
【0036】
積層するガラス板(2)(3)の組成、種類については特に限定されない。同種類、同組成のガラス板同士を積層してもよいし、異種のガラス板同士を積層してもよい。しかし、ガラス板積層体(1)に対して加熱を行う場合は、積層するガラス板同士の熱膨張差は、小さいことが好ましい。ガラス板積層体(1)に対して、加熱や冷却を行った際に、ガラス板間での熱膨張差が大きい場合には、内部歪が発生するおそれがあり、場合によっては応力に耐えられず破損するおそれがある。具体的には、ガラス板積層体を構成する板ガラスの中で、最も熱膨張係数の大きい板ガラスと最も熱膨張係数の小さい板ガラスにおいて、30〜380℃における熱膨張係数の差が、10×10−7/℃以内の板ガラスを使用することが好ましい。同種類、同組成のガラス板同士を積層することが最も好ましい。
【0037】
本発明に使用される板ガラス(2)(3)の成形方法については、特に限定されず、ロール成形法、フロート成形法、アップ・ドロー成形法、スロットダウンドロー成形法、オーバーフローダウンドロー成形法、リドロー成形法等の公知の成形方法を使用することができる。
【0038】
本発明では、積層されるガラス板(2)(3)の各々の接合面(21)(31)に酸溶液を塗布する。本発明に使用される酸溶液は、フッ酸、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸の酸溶液を使用することができ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。フッ酸のように侵食力が強い酸は、ガラス表面の侵食量の制御が難しい。接合面(21)(31)の浸食量が制御し易く、且つ、接合面(21)(31)の活性化を図る観点からは、特に塩酸を使用することが好ましい。
【0039】
本発明に使用される酸溶液の濃度については、特に限定されないが、1〜50質量%の濃度の水溶液を使用することが好ましい。使用する酸溶液の濃度が1質量%より低いと、接合面(21)(31)の活性化が不十分となるおそれがあり、50質量%を超えると、接合面(21)(31)の侵食量が過大になるおそれがある。
【0040】
酸溶液の塗布量については、特に限定されない。酸溶液の塗布回数についても特に限定されず、1回でもよく、複数回に亘って塗布を行ってもよい。
【0041】
本発明では、積層されるガラス板の接合面(21)(31)に酸溶液を塗布した後に接合面(21)(31)を洗浄し、酸溶液を洗い流すことが好ましい。これにより、溶液中に溶かし込まれた酸化物やハロゲン化物を除去することができ、より良好な光透過性を有するガラス板積層体(1)を作製することができる。洗浄して酸溶液を除去したとしても、一度ガラスの接合面(21)(31)に酸溶液を塗布すれば、接合面(21)(31)が活性状態を維持するため、酸溶液を除去したとしても、良好に接合面(21)(31)同士が接合する。
【0042】
酸溶液の塗布後、暫く静置した後に洗浄を行うことで酸溶液を除去してもよい。この場合において、酸溶液の塗布後、洗浄までの静置時間は、1秒〜10分であることが好ましい。1秒より短時間であると、接合面(21)(31)の表面の活性化が不十分となるおそれがあり、10分より長時間処理したとしても、接合面(21)(31)の活性効果が向上し難い。
【0043】
図1(b)に示す通り、接合面(21)(31)の表面に酸溶液の塗布後、あるいは酸溶液の洗浄後、ガラス板(2)の接合面(21)にガラス板(3)の接合面(31)を重ね合わせることによって接合面(21)(31)同士を接触させて、図1(c)に示す通り、ガラス板積層体(1)を作製する。接合面(21)(31)同士を接触させた後、60秒〜数時間静置することで、ガラス板(2)(3)同士が接合する。
【0044】
図2に示す通り、本発明では、ガラス板(2)(3)の接合面(21)(31)を互いに接触させた後、ガラス板積層体(1)上におもり(4)等を載置することにより荷重をかけて接合することが好ましい。これにより、接合面(21)(31)間の密着性を向上させることができ、より強固にガラス板(2)(3)同士を接着させることができる。
【0045】
ガラス板積層体上に載置するおもり(4)は、接合面(21)(31)にかかる圧力が 1kPa〜100kPaとなるような重量であることが好ましい。
【0046】
他の実施形態として、図3に示す通り、ガラス板(2)(3)間に電子デバイス素子等の素子(5)等を介在させた後にガラス板(2)(3)同士を接合して、ガラス板積層体(1)を作製することにより、ガラス板(2)(3)間に素子(5)が封止されたガラス板積層体(1)とすることもできる。上記の素子(5)としては、発光素子、受光素子、光電変換素子、タッチパネル等が挙げられる。
【0047】
上記実施形態においては、2枚のガラス板(2)(3)を積層したガラス板積層体(1)について説明したが、これには限定されず、3枚以上のガラス板を積層したガラス板積層体としてもよい。また、上記実施形態では、同一の大きさのガラス板(2)(3)を積層したガラス板積層体(1)について説明したが、長さ方向や幅方向、厚み等が異なったガラス板を積層してもよい。さらに、上記実施形態では、接合するガラス板の夫々の接合面に酸溶液の塗布を行ったが、何れか一方のガラス板の接合面のみに酸溶液の塗布を行うようにしてもよい。
【0048】
本発明に係るガラス板積層体の製造方法によれば、図4に示すとおり、ガラス板同士の接合境界面が一見しただけでは認識できない程度にまで同化した、透光性の優れたガラス板積層体を得ることができる。尚、図4では、厚み1.8mmの板ガラスを11枚積層させてガラス板積層体を作成し、平面方向から観察を行っている。
【0049】
また、本発明に係るガラス板積層体(1)は、加熱工程を経ていない場合、図5(a)に示すとおり、板厚方向において接合面に圧縮応力が形成されている。これにより、断面方向からの打突に強く、ガラス板積層体(1)の破損を効果的に防止することができる。一方、加熱することで接合された図5(b)に示すガラス板積層体は、接合面に引っ張り応力が形成されるため、断面方向からの打突に弱い。尚、図5中のCは圧縮応力を、Tは引っ張り応力を夫々示している。
【実施例】
【0050】
以下、本発明のガラス板積層体を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)ガラス板として、日本電気硝子株式会社製PP−8Cの成形体(100mm角、厚み1.8mm)を2枚準備した。
【0052】
上述のガラス板2枚の夫々の接合面に対して、35質量%塩酸溶液を塗布し、3分後に2枚のガラス板の夫々の塗布面を合わせ、接触させることによって、ガラス板2枚を積層させた。ガラス板2枚の積層後、1昼夜静置して、ガラス板積層体を得た。
【0053】
このガラス板積層体を、接合境界面と垂直方向から観察した。ガラス板同士の接合不良箇所にはニュートンリング状の干渉縞が確認されるところ、ニュートンリング状の干渉縞が認められず、上述のガラス板積層体は良好に接合しており、2枚のガラス板が一体化していた。また、透光性も良好であった。
【0054】
上述のガラス板積層体の一方の面に対して人工ダイヤモンドによりスクライブ線を刻設し、折り割りを試みたところ、接合面でほとんど段差や剥離を生じず、ガラス板積層体を2分割することができた。
【0055】
(実施例2)ガラス板として、日本電気硝子株式会社製PP−8Cの成形体(100mm角、厚み1.8mm)1枚と日本電気硝子株式会社製OA−10Gの成形体(100mm角、厚み0.7mm)1枚とを準備した。その後、実施例1と同様の条件でガラス板積層体を作製した。
【0056】
このガラス板積層体を、接合境界面と垂直方向から観察した。上述のガラス板積層体は良好に接合しており、ニュートンリング状の干渉縞が認められず、2枚のガラス板が一体化していた。また、透光性も良好であった。さらに、上述と同様にスクライブ線を刻設し、折り割りを試みたところ、接合面でほとんど段差や剥離を生じず、ガラス板積層体を2分割することができた。
【0057】
(実施例3)ガラス板として、日本電気硝子株式会社製OA−10Gの成形体(100mm角、厚み0.7mm)2枚を準備した。その後、実施例1と同様の条件でガラス板積層体を作製した。
【0058】
このガラス板積層体を、接合境界面と垂直方向から観察した。上述のガラス板積層体は良好に接合しており、ニュートンリング状の干渉縞が認められず、2枚のガラス板が一体化していた。また、透光性も良好であった。さらに、上述と同様にスクライブ線を刻設し、折り割りを試みたところ、接合面でほとんど段差や剥離を生じず、ガラス板積層体を2分割することができた。
【0059】
(実施例4)ガラス板として、日本電気硝子株式会社製PP−8Cの成形体(100mm角、厚み1.8mm)を2枚準備した。
【0060】
上述のガラス板2枚の夫々の接合面に対して、35質量%塩酸溶液を塗布し、3分後に蒸留水で接合面の洗浄を行い、塩酸溶液を除去した。その後蒸留水での洗浄・乾燥後、2枚のガラス板の夫々の接合面を合わせ、接触させることによって、ガラス板2枚を積層させた。ガラス板2枚の積層後、1昼夜静置して、ガラス板積層体を得た。
【0061】
このガラス板積層体を、接合境界面と垂直方向から観察した。上述のガラス板積層体は良好に接合しており、ニュートンリング状の干渉縞が認められず、2枚のガラス板が一体化していた。また、透光性も良好であった。さらに、上述と同様にスクライブ線を刻設し、折り割りを試みたところ、接合面でほとんど段差や剥離を生じず、ガラス板積層体を2分割することができた。
【0062】
(実施例5)ガラス板として、日本電気硝子株式会社製OA−10Gの成形体(100mm角、厚み0.7mm)2枚を準備した。1枚のガラス板上に、公知の方法により有機EL素子を形成し、素子の周囲のガラス板の接合面上に35質量%塩酸溶液を塗布した後、3分後に2枚のガラス板の各々の塗布面を合わせ、接触させることによって、素子を介在させつつガラス板2枚を積層させた。
【0063】
このガラス板積層体を、接合境界面と垂直方向から観察した。上述のガラス板積層体は良好に接合しており、ニュートンリング状の干渉縞が認められず、2枚のガラス板が一体化していた。また、透光性も良好であった。また、電流を印加することにより素子を発光させたところ、良好に発光しており、素子は劣化しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ガラスを接合させる必要がある分野において好適にしようすることができ、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ、貼り合わせガラス、置物等に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 ガラス板積層体
2 ガラス板
3 ガラス板
4 おもり
5 素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス板を互いに接合して積層したガラス板積層体の製造方法であって、
積層される前記ガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後、前記ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することを特徴とするガラス板積層体の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後に前記接合面を洗浄し、その後に前記ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することを特徴とする請求項1に記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス板の接合面を互いに接触させた後、荷重をかけて接合することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス板のガラス組成中にAl、アルカリ土類金属酸化物、及びアルカリ金属酸化物から選択される少なくとも1種又は2種以上の成分を、総量として1質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項5】
前記酸溶液が塩酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって製造されたガラス板積層体。
【請求項7】
素子を介して前記ガラス板を積層する請求項6に記載のガラス板積層体。
【請求項8】
複数のガラス板を互いに接合する板ガラスの接合方法であって、
接合される前記ガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後、前記ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することを特徴とする板ガラスの接合方法。
【請求項9】
前記ガラス板の接合面に酸溶液を塗布した後に前記接合面を洗浄し、その後に前記ガラス板の接合面を互いに接触させて接合することを特徴とする請求項8に記載の板ガラスの接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−219352(P2011−219352A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65672(P2011−65672)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】