説明

ガラス板

【課題】高強度と視域制御機能を両立し得るガラス板を創案することにより、3Dディスプレイの高精細化、高輝度化、低消費電力化に寄与すること。
【解決手段】本発明のガラス板は、ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜80%、Al 0〜30%、B 0〜15%、アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KOの一種又は二種以上) 0〜25%、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaOの一種又は二種以上) 0〜15%を含有し、且つ二次元ディスプレイの一部又は全部を覆う視域制御部材に用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板に関し、具体的には3Dディスプレイの視域制御部材に用いるガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3Dディスプレイの開発が益々盛んになっており、メガネの着用を必須とする3Dディスプレイが徐々に市場に出始めている。眼鏡着用方式として、シャッター方式、偏光方式等が存在し、この方式は、どこから見ても3D映像を視聴できるメリットがあるが、テレビを視聴する際に必ず眼鏡を着用しなければならないデメリットもある。
【0003】
眼鏡の着用が不要な3Dディスプレイの表示方式には、パララックスバリア方式、レンズを用いた方式が提案されている。パララックスバリア方式は、ディスプレイの画素を適切な間隔に設定されたストライプ状のバリアで覆うことによって、両眼視差を作り出す方式である。最近ではバリアが液晶であり、2Dと3Dの切り替えが可能なものがあるが、少なからずディスプレイの一部を何らかのバリアで隠す必要があるために、ディスプレイの輝度が低下するデメリットがある。
【0004】
一方、レンズを使用する方式は、基本的な原理がパララックスバリア方式に類似しているが、バリアの代わりに、プラスチックフィルムレンズを使用して、両眼視差を作り出す点で相違している。この方式は、画面を遮るものがないために、ディスプレイの輝度を維持し易いメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−215063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、3Dディスプレイが携帯電話に搭載されつつある。しかし、上記のプラスチックフィルムレンズを使用する場合、タッチパネル機能付きのデバイスでは、常にプラスチックフィルムレンズの表面が指等でなぞられるため、傷が付き易く、その傷によって光の進行方向に変化が生じて、正確な立体イメージが得られない問題がある。
【0007】
また、立体イメージの運動視差を改善するために、多眼方式を採用し、且つ高精細な立体映像を実現する場合、Full−HDを超える非常に高解像度のディスプレイが要求される。光の進行方向を厳密に制御するため、プラスチックレンズには高精度な寸法安定性が求められる。また、ディスプレイの高解像度化に伴い、輝度が低下し易くなるため、プラスチックレンズには高透過率であることも求められる。しかしプラスチックではこれらを両立することが困難であり、結果として、プラスチックフィルムレンズを用いると、高精細化、高輝度化、低消費電力化の両立が困難になる。
【0008】
これらの問題を解決するために、本発明者は、ガラス板を用いる方法を着想した。つまり、本発明者は、ガラス板の表面にμmオーダーの凹凸部(レンズ部)を形成した後、強化処理(物理強化又は化学強化)を行う方法を着想した。しかし、物理強化は、強化可能な板厚に制限があるため、本用途のガラス板に適用困難である。一方、化学強化の場合でも、圧縮応力層が浅いと、μmオーダーの凹凸部(レンズ部)と屈折率の異なる層が混在し易くなり、複雑な光設計が必要になり、また圧縮応力層のコントロールがシビアになる。よって、本用途にガラス板を用いる場合、高強度と視域制御機能を両立することが困難である。
【0009】
そこで、本発明は、高強度と視域制御機能を両立し得るガラス板を創案することにより、3Dディスプレイの高精細化、高輝度化、低消費電力化に寄与することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の検討を行った結果、ガラス板の各成分の含有量を規制し、このガラス板で二次元ディスプレイの全部又は一部を覆う視域制御部材(二次元ディスプレイに表示された二次元画像を複数の視点の画像に振り分ける視域制御機能を有する部材)に用いることにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のガラス板は、ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜80%、Al 0〜30%、B 0〜15%、アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KOの一種又は二種以上) 0〜25%、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaOの一種又は二種以上) 0〜15%を含有し、且つ二次元ディスプレイの一部又は全部を覆う視域制御部材に用いることを特徴とする。また、本発明のガラス板は、二次元ディスプレイの一部又は全部を覆うために用いるガラス板であって、ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜80%、Al 0〜30%、B 0〜15%、アルカリ金属酸化物 0〜25%、アルカリ土類金属酸化物 0〜15%を含有し、且つ二次元ディスプレイに表示された二次元画像を複数の視点の画像に振り分ける視域制御機能を有することを特徴とする。
【0011】
上記のようにガラス組成範囲を規制すれば、適正な圧縮応力層を形成し易くなるため、高強度と視域制御機能を両立し易くなる。
【0012】
なお、本発明のガラス板は、温度や湿度等により、体積変化が生じ難く、レンズ性能を維持し易い特徴もある。なお、プラスチックフィルムレンズは、温度や湿度等により、僅かな体積変化を生じ易いため、所望のレンズ性能を維持し難い。
【0013】
第二に、本発明のガラス板は、少なくとも片面に凹凸部(レンズ部)を有することを特徴とする。第三に、本発明のガラス板は、凹凸部(レンズ部)のRsmが10〜500μmであることを特徴とする。このようにすれば、視域制御機能を発揮し易くなる
【0014】
第四に、本発明のガラス板は、φ1.4mm、#200の電動ドリルを用いて、送り速度10mm/分、1回の送り量0.015mmで加工したとき、発生するチッピングの大きさが500μm未満であることを特徴とする。このようにすれば、ガラス板を種々の形状に加工し易くなり、特にガラス板の表面に凹凸部(レンズ部)を形成し易くなると共に、機械的強度を維持し易くなる。また、このようにすれば、加工速度の高速化が可能になり、ガラス板の製造効率が向上する。ここで、「チッピングの大きさ」は、加工機(例えば、NC加工機 :マキノフライスMSA30)を使用して、上記条件でガラス板に形成した穴について、半径方向に測長を行った際、円周囲に観察される欠損部の最大長を指す。
【0015】
第五に、本発明のガラス板は、板厚1mm、波長400〜700nmにおける全光透過率が89%以上であることを特徴とする。このようにすれば、二次元ディスプレイからの光をロスなく表示することが可能になる。ここで、「全光透過率」は、分光光度計(例えば、東芝製UV2500PC)で測定した値を指し、例えば、積分球を使用して、スキャン速度:低速、スリット幅:5.0nm、測定波長レンジ:400〜700nm、サンプリングピッチ:1nmとして、レンズ面をディテクタ側に向けて測定した中で最も低い透過率で表される。
【0016】
第六に、本発明のガラス板は、表面に圧縮応力層を有することを特徴とする。第七に、本発明のガラス板は、圧縮応力層の圧縮応力値が100MPa以上であることを特徴とする。第八に、本発明のガラス板は、圧縮応力層の深さが20μm以上であることを特徴とする。このようにすれば、ガラス板の機械的強度が向上すると共に、凹凸部(レンズ部)に屈折率の異なる層が存在し難くなり、レンズ設計が容易になる。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値」、「圧縮応力層の深さ」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、ガラス板を観察した際に、干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
【0017】
第九に、本発明のガラス板は、液相温度が1200℃以下であることを特徴とする。ここで、「液相温度」は、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後に、結晶が析出する温度を指す。
【0018】
第十に、本発明のガラス板は、液相粘度log10ηが4.0dPa・s以上であることを特徴とする。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法等で測定した値を指す。なお、液相温度が低い程、或いは液相粘度が高い程、耐失透性が向上し、ガラス板を成形し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ガラス板の表面に対して、φ1.4mm、#200の電動ドリルを用いて、送り速度10mm/min、1回の送り量0.015mmで穴を形成した後、半径方向に測長を行った際、円周囲に観察される欠損部の最大長を示す写真である。
【図2】[実施例1]の試料No.10のガラス板に対して、凹凸部(レンズ部)を形成した後の表面粗さの測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のガラス板において、上記範囲にガラス組成を限定した理由を以下に説明する。なお、ガラス組成に関する説明において、%表示は質量%を指す。
【0021】
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は40〜75%であり、好適な上限範囲は70%以下、65%以下、63%以下、61%以下、60%以下、58.5%以下、特に56%以下であり、好適な下限範囲は45%以上、48%以上、50%以上、52%以上、特に55%以上である。SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。一方、SiOの含有量が少な過ぎると、チッピングが発生し易くなるため、研磨加工等により凹凸部(レンズ部)を形成する場合に、表面上に無数の欠陥が生じ易くなると共に、これらの欠陥によりガラス板の機械的強度が低下するおそれがある。また、SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化が困難になり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。
【0022】
Alは、イオン交換性能を高める成分であり、また歪点、ヤング率を高める成分であり、その含有量は0〜30%である。Alの含有量が多過ぎると、失透結晶が析出し易くなって、オーバーフローダウンドロー法等による成形が困難になり、また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなり、更には高温粘性が高くなって、溶融が困難になる。一方、Alの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能を十分に発揮できないおそれが生じる。上記観点から、Alの好適な上限範囲は25%以下、23%以下、22%以下、20%以下、特に19%以下であり、また好適な下限範囲は3%以上、5%以上、9%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、16%以上、特に17%以上である。
【0023】
アルカリ金属酸化物は、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は0〜25%である。アルカリ金属酸化物の含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなる。また、アルカリ金属酸化物の含有量が多過ぎると、歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られない場合がある。さらに、アルカリ金属酸化物の含有量が多過ぎると、液相温度付近の粘性が低下して、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。よって、アルカリ金属酸化物の含有量は22%以下、20%以下、特に19%以下が好ましい。一方、アルカリ金属酸化物の含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下する場合がある。よって、アルカリ金属酸化物の含有量は3%以上、5%以上、8%以上、10%以上、13%以上、特に15%以上が好ましい。
【0024】
LiOは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、LiOは、ヤング率を高める成分である。さらに、LiOは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が大きい。しかし、LiOの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなり、更には低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が生じて、逆に圧縮応力値が低下する場合がある。よって、LiOの含有量は0〜10%、0〜8%、0〜6%、0〜3%、0〜1%、0〜0.5%が好ましく、実質的に含有しないこと、つまり0.01%未満が最も好ましい。
【0025】
NaOの含有量は0〜20%が好ましい。NaOは、イオン交換成分であると共に、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性を高める成分である。NaOの好適な上限範囲は19%以下、17%以下、15%以下、13%以下、特に12%以下であり、好適な下限範囲は0.1%以上、3%以上、6%以上、7%以上、8%以上、特に10%以上である。NaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなり、また歪点が不当に低下し、更にはガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下するおそれがある。一方、NaOの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下したり、熱膨張係数が不当に低下するおそれがある。
【0026】
Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層を深くする成分である。また、KOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。さらに、KOは、耐失透性を高める成分である。KOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合し難くなり、また歪点が不当に低下し、更にはガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に耐失透性が低下するおそれがある。上記観点から、KOの含有量は0〜15%が好ましく、KOの好適な上限範囲は12%以下、10%以下、9%以下、8%以下、特に6%以下であり、好適な下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、特に4.5%以上である。
【0027】
質量比(NaO+KO)/Alは0.5〜4、0.8〜1.6、0.9〜1.6、1〜1.6、特に1.2〜1.6が好ましい。この値が大きくなると、低温粘性が低下し過ぎて、イオン交換性能が低下したり、ヤング率が低下したり、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。また、この値が大きくなると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、ガラスが失透し易くなる。一方、この値が小さくなると、溶融性や失透性が低下し易くなる。
【0028】
質量比KO/NaOは0〜2が好ましい。この質量比率は、圧縮応力層の圧縮応力値と深さに大きな影響を及ぼす。圧縮応力値を高めたい場合、この質量比率を0〜0.5、0〜0.3、特に0〜0.2に調整することが好ましい。一方、短時間で圧縮応力層を深くしたい場合には、この質量比率を0.3〜2、0.5〜2、1〜2、1.2〜2、特に1.5〜2に調整することが好ましい。なお、この質量比率が大きくなると、ガラスが失透し易くなる。
【0029】
アルカリ土類金属酸化物は、種々の目的で添加可能な成分である。しかし、アルカリ土類金属酸化物の含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が不当に上昇したり、耐失透性が低下し易くなることに加えて、イオン交換性能が低下する傾向がある。また、アルカリ土類金属酸化物の含有量が多過ぎると、相対的にSiOの含有量が減少することに起因して、チッピングが発生し易くなる。よって、アルカリ土類金属酸化物の含有量は0〜15%であり、0〜12%、0〜9、特に0〜6%が好ましい。
【0030】
MgOの含有量は0〜10%が好ましい。MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分である。特に、MgOは、アルカリ土類金属酸化物の中ではイオン交換性能を高める効果が大きい。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が不当に上昇したり、ガラスが失透し易くなる。よって、MgOの好適な上限範囲は8%以下、6%以下、特に5%以下であり、好適な下限範囲は0.1%以上、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、特に4%以上である。
【0031】
CaOの含有量は0〜10%が好ましい。CaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分である。特に、CaOは、アルカリ土類金属酸化物の中ではイオン交換性能を高める効果が大きい。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が不当に上昇したり、ガラスが失透し易くなったり、更にはイオン交換性能が低下する場合がある。よって、CaOの好適な上限範囲は8%以下であり、CaOの好適な下限範囲は0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、特に4%以上である。
【0032】
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分である。しかし、SrOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が不当に上昇したり、ガラスが失透し易くなったり、更にはイオン交換性能が低下する傾向がある。よって、SrOの含有量は3%以下、2%以下、1.5%以下、1%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0033】
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、また歪点やヤング率を高める成分である。しかし、BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が不当に上昇したり、ガラスが失透し易くなったり、更にはイオン交換性能が低下する傾向がある。BaOの含有量は3%以下、2.5%以下、2%以下、1%以下、0.8%以下、0.5%以下、0.2%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0034】
SrO+BaO(SrOとBaOの合量)の含有量を制限することにより、イオン交換性能を効果的に高めることができる。上記の通り、SrOとBaOは、イオン交換反応を阻害する作用を有するため、これらの成分を多量に含むと、ガラス板の機械的強度を高める点で不利である。よって、SrO+BaOの含有量は0〜3%、0〜2.5%、0〜2%、0〜1%、0〜0.2%、特に0〜0.1%が好ましい。
【0035】
アルカリ土類金属酸化物の含有量をアルカリ金属酸化物の含有量で除した値が大きくなると、耐失透性が低下する傾向がある。よって、その質量比は1以下、0.8以下、0.5以下、0.4以下、特に0.3以下が好ましい。
【0036】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分をガラス組成中に添加することができる。
【0037】
ZnOは、イオン交換性能、特に圧縮応力値を高める成分であり、また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなり易い。よって、ZnOの含有量は8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0038】
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高める成分であり、またヤング率や歪点を高めると共に、高温粘性を低下させる成分である。さらに、ZrOは、液相粘度付近の粘性を高める効果も有する。よって、ZrOを所定量添加すると、イオン交換性能と液相粘度を同時に高めることができる。但し、ZrOの含有量が多過ぎると、耐失透性が極端に低下する場合がある。よって、ZrOの含有量は0〜10%、0〜8%、0〜5%、0〜2%、0〜1%、特に0〜0.1%が好ましい。
【0039】
は、液相温度、高温粘度、密度を低下させる成分であると共に、イオン交換性能、特に圧縮応力値を高める成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換によって表面にヤケが発生したり、耐水性が低下したり、液相粘度が低下したり、圧縮応力層が浅くなるおそれがある。よって、Bの含有量は0〜6%、0〜4%、0〜2%、0〜1%、0〜0.8%、0〜0.5%、特に0〜0.1%が好ましい。
【0040】
TiOは、イオン交換性能を高めると共に、高温粘度を低下させる成分である。しかし、TiOの含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなり易い。よって、TiOの含有量は10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、2%以下、0.7%以下、0.5%以下、0.1%以下、特に0.01%以下が好ましい。
【0041】
は、イオン交換性能、特に圧縮応力層の深くする成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性、耐失透性が低下し易くなる。圧縮応力層を深くしたい場合は、下限値を0.5%以上、1%、特に2%以上、上限値を8%以下、6%以下、5%以下、特に4%以下に規制することが好ましい。また、耐酸性を高めたい場合、Pの含有量は8%以下、5%以下、4%以下、3%以下、特に0.01〜2%が好ましい。
【0042】
清澄剤として、As、Sb、SnO、CeO、F、SO、Clから選択された一種又は二種以上を0.001〜3%添加してもよい。但し、環境に対する配慮から、As、Sbの使用を極力控えることが好ましく、その含有量はそれぞれ0.1%未満、特に0.01%未満が好ましい。CeOは、ガラス板の透過率を低下させる成分である。このため、CeOの含有量は0.1%未満、特に0.01%未満が好ましい。Fは、低温粘性の低下により、圧縮応力値を低下させるおそれがある成分である。このため、Fの含有量は0.1%未満、特に0.01%未満が好ましい。上記を勘案すると、清張剤として、SnO、SO、Clが好ましく、これらの成分の合量は0〜3%、0.001〜3%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、特に0.05〜0.4%が好ましい。また、SnOの含有量は0〜3%、0.01〜1%、0.05〜0.5%、0.1%〜1%、特に0.1〜0.5%が好ましい。SnOの含有量が3%より多いと、耐失透性が低下し易くなる。SOの含有量は0〜0.2%、0.0001〜0.1%、0.0003〜0.08%、0.0005〜0.05%、特に0.001〜0.03%が好ましい。SOの含有量が0.1%より多いと、溶融時にSOがリボイルして、泡品位が低下しやすくなる。Clの含有量は0〜0.5%、0.001〜0.1%、0.001〜0.09%、0.001〜0.05%、特に0.001〜0.03%が好ましい。
【0043】
Nb、La等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、希土類酸化物を添加すると、原料コストが高騰し、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下が好ましい。
【0044】
CoO、NiO、Fe等の遷移金属酸化物を添加すると、ガラス板が着色して、ディスプレイの視認性が低下し易くなる。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下になるように、ガラス原料又はカレットの使用量を調整することが望ましい。
【0045】
環境に対する配慮から、PbO、Biの添加を極力控えることが好ましく、その含有量はそれぞれ0.1%未満が好ましい。
【0046】
各成分の好適な成分範囲を適宜選択して、好適なガラス組成範囲を構築することは当然に可能である。その中でも、特に好適なガラス組成範囲は以下の通りである。
(1)SiO 40〜75%、Al 3〜22%、B 0〜10%、LiO 0〜8%、NaO 0〜20%、KO 0〜15%、アルカリ土類金属酸化物 0〜14%含有、
(2)SiO 45〜70%、Al 7.5〜21%、B 0〜5%、LiO 0〜2%、NaO 10〜19%、KO 0〜15%、MgO 0〜6%、CaO 0〜8%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、ZnO 0〜8%、SnO 0.01〜3%含有、
(3)SiO 50〜65%、Al 12〜19%、LiO 0〜1%、NaO 12〜18%、KO 0〜8%、MgO 0〜6%、CaO 0〜6%、SrO 0〜1%、BaO 0〜1%、ZnO 0〜8%、SnO 0.01〜3%含有、
(4)SiO 50〜65%、Al 16〜25%、B 0〜1%、NaO 7〜15%、KO 2〜9%、MgO 2〜5%、CaO 0〜10%、SrO 0〜1%、BaO 0〜1%、TiO 0〜0.5%含有、
(5)SiO 50〜60%、Al 17〜25%、B 0〜0.8%、NaO 7〜15%、KO 4.5〜6%、MgO 2〜5%、CaO 0〜10%、SrO 0〜1%、BaO 0〜1%、ZnO 0〜5%、TiO 0〜0.5%、ZrO 0〜2%、Fe 0〜1%、SnO 0.1〜3%含有、
(6)SiO 50〜56%、Al 17〜23%、B 0〜0.5%、NaO 8〜12%、KO 4.5〜6%、MgO 2.5〜5%、CaO 4〜8%、SrO 0〜0.1%、BaO 0〜0.1%、ZnO 0〜5%、TiO 0〜0.1%、ZrO 0〜0.1%、Fe 0〜0.1%、SnO 0.1〜3%、As 0〜0.1%、Sb 0〜0.1%含有、
(7)SiO 50〜70%、Al 12〜25%、B 0〜1%、NaO 10〜13%、KO 4.5〜9%、MgO 2〜6%、CaO 0〜8%、SrO 0〜1%、BaO 0〜1%、TiO 0〜0.1%含有、
(8)SiO 50〜70%、Al 12〜25%、B 0〜0.1%、NaO 10〜13%、KO 4.5〜9%、MgO 2〜6%、CaO 0〜8%、SrO 0〜1%、BaO 0〜1%、ZnO 0〜1%、TiO 0〜0.1%、ZrO 0〜2%、As 0〜0.1%、Sb 0〜0.1%含有。
【0047】
本発明のガラス板は、少なくとも片面に凹凸部(レンズ部)を有することが好ましく、その凹凸部(レンズ部)の谷−谷間の間隔(Psm、Rsm)は10〜500μmが好ましく、またレンズ半径は0.1〜2mmが好ましい。なお、凹凸部(レンズ部)の形状は、二次元ディスプレイから構築する立体像(焦点深度・視野角)により設定すればよい。
【0048】
本発明のガラス板は、一方の面に凹凸部(レンズ部)を有し、他方の面に凹凸部(レンズ部)を有していないことが好ましく、他方の面は未研磨面であることが好ましい。このようにすれば、ガラス板の製造効率が向上する。
【0049】
本発明のガラス板において、φ1.4mm、#200の電動ドリルを用いて、送り速度10mm/分、1回の送り量0.015mmで加工したとき、発生するチッピングの大きさが500μm未満、400μm以下、300μm以下、200μm以下、150μm以下、特に100μm以下が好ましい。チッピングが大きくなる程、ガラス板の表面にレンズ加工を施す際に傷が発生し易くなり、更には発生した傷によってガラス板の機械的強度が低下し易くなる。なお、詳細なメカニズムは不明であるが、ガラス組成中のSiOの含有量が多い程、発生するチッピングが小さくなる傾向がある。
【0050】
本発明のガラス板は、板厚1mm、波長400〜700nmにおける全光透過率が89%以上、90%以上、特に91%以上が好ましい。板厚1mm、波長400〜700nmにおける全光透過率が89%未満であると、3Dディスプレイの輝度の低下、消費電力の上昇等を惹起するおそれがある。
【0051】
本発明のガラス板は、表面に圧縮応力層を有することが好ましい。このようにすれば、ガラス板の機械的強度を高めることができる。
【0052】
本発明のガラス板において、圧縮応力層の圧縮応力値は100MPa以上、300MPa以上、600MPa以上、800MPa以上、特に1000MPa以上が好ましい。圧縮応力値が大きい程、ガラス板の機械的強度が高くなる傾向がある。一方、ガラス板の表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、ガラス板の表面にマイクロクラックが発生し、却ってガラス板の機械的強度が低下するおそれがある。また、ガラス板の表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、ガラス板に内在する引っ張り応力が極端に高くなるおそれがある。このため、圧縮応力層の圧縮応力値は2500MPa以下が好ましい。なお、圧縮応力値を大きくするには、イオン交換の時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を低下したり、Al、TiO、ZrO、MgO、ZnO、SnOの含有量を増加したり、SrO、BaOの含有量を低減すればよい。
【0053】
本発明のガラス板において、圧縮応力層の深さは20μm以上、30μm以上、40μm以上、50μm、特に60μmが好ましい。圧縮応力層が深い程、ガラス板に深い傷がついても、ガラス板が割れ難くなる。また、圧縮応力層が深い程、屈折率の異なる層が凹凸部(レンズ部)に存在し難くなるため、凹凸部(レンズ部)が視域制御機能に影響を与える事態を防止し易くなる。一方、圧縮応力層が深過ぎると、ガラス板を切断し難くなったり、内部の引っ張り応力が極端に高くなって、ガラス板が破損するおそれがある。このため、圧縮応力層の深さは500μm以下、300μm以下、200μm以下、特に150μm以下が好ましい。なお、圧縮応力層を深くするには、イオン交換の時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げたり、KO、P、TiO、ZrOの含有量を増加したり、SrO、BaOの含有量を低減すればよい。また、圧縮応力層の深さは、屈折率の異なる層が凹凸部(レンズ部)に存在する事態を防止するため、凹凸部(レンズ部)の最大高さ粗さRzより大きいことが好ましい。
さらに、凹凸部(レンズ部)の最大高さ粗さRzは100μm以下、80μm以下、50μm以下、30μm以下、20μm以下が好ましい。
【0054】
本発明のガラス板において、密度は2.8g/cm以下、2.7g/cm以下、特に2.6g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、3Dディスプレイを軽量化できる。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定した値を指す。なお、ガラスの密度を低下させるには、SiO、P、Bの含有量を増加したり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すればよい。
【0055】
本発明のガラス板において、歪点は500℃以上、510℃以上、520℃以上、540℃以上、550℃以上、560℃以上、580℃以上、600℃以上、610℃以上、特に620℃以上が好ましい。歪点が高いと、イオン交換時に応力緩和が生じ難くなるため、圧縮応力値を高めることが可能になる。歪点を高めるためには、アルカリ金属酸化物の含有量を低減したり、アルカリ土類金属酸化物、Al、ZrO、Pの含有量を増加すればよい。
【0056】
本発明のガラス板において、102.5dPa・sにおける温度は1600℃以下、1580℃以下、1570℃以下、1550℃以下、1520℃以下、特に1500℃以下が好ましい。102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当しており、102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温でガラスを溶融することができる。よって、102.5dPa・sにおける温度が低い程、溶融窯等のガラス製造設備の負荷が小さくなる共に、ガラス板の泡品位が向上し、結果として、ガラス板の製造効率が向上する。なお、102.5dPa・sにおける温度を低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加したり、SiO、Alの含有量を低減すればよい。
【0057】
本発明のガラス板において、熱膨張係数は70×10−7/℃〜110×10−7/℃、75×10−7/℃〜110×10−7/℃、80×10−7/℃〜110×10−7/℃、特に85×10−7/℃〜110×10−7/℃が好ましい。このようにすれば、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。ここで、「熱膨張係数」は、ディラトメーターで測定した値を指し、30〜380℃の温度範囲における平均値を指す。なお、熱膨張係数を上昇させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すればよく、逆に低下させるには、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すればよい。
【0058】
本発明のガラス板において、液相温度は1200℃以下、1170℃以下、1150℃以下、1120以下、1100℃以下、特に1070℃以下が好ましい。液相温度を低下させるには、NaO、KO、Bの含有量を増加したり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すればよい。本発明のガラス板において、液相粘度log10ηは4.0dPa・s以上、4.3dPa・s以上、4.5dPa・s以上、5.0dPa・s以上、5.4dPa・s以上、5.8dPa・s以上、特に6.0dPa・s以上が好ましい。このようにすれば、オーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し易くなる。液相粘度を上昇させるには、NaO、KOの含有量を増加したり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すればよい。なお、液相温度が低い程、或いは液相粘度が高い程、耐失透性が良好であると共に、成形性が良好である。そして、液相温度が1200℃以下、液相粘度log10ηが4.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法、スリットダウンドロー法、ロールアウト法、フロート法により、ガラス板を成形することができる。
【0059】
本発明のガラス板は、上記のガラス組成となるようにガラス原料を調合し、ガラスバッチを得た後、このガラスバッチを連続溶融炉に投入して、1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した上で、成形装置に供給して、板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。続いて、必要に応じて、ガラス板の表面に凹凸部(レンズ部)を形成する。その後、得られたガラス板に対して、適宜、強化処理を行い、表面に圧縮応力層を形成する。更に、このガラス板を二次元ディスプレイの全部又は一部を覆うように取り付ける。
【0060】
ガラス板の成形方法として、オーバーフローダウンドロー法が好ましい。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、耐熱性の樋状構造物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を製造する方法である。オーバーフローダウンドロー法によれば、未研磨で表面精度が良好なガラス板を製造することができる。その理由は、オーバーフローダウンドロー法の場合、ガラス板の表面になるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形されるからである。樋状構造物の構造や材質は、所望の寸法や表面精度を確保し得る限り、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行う方法も特に限定されない。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールを溶融ガラスに接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールを溶融ガラスの端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。なお、研磨・エッチング等により、ガラス板の片面に凹凸部(レンズ部)を形成する場合、オーバーフローダウンドロー法でガラス板を成形すれば、表面精度が良好になるため、加工精度が向上すると共に、他方の面について研磨工程を省略できるため、ガラス板の製造コストを低廉化することができる。
【0061】
オーバーフローダウンドロー法以外にも、他の成形方法、例えばスロットダウンドロー法、リドロー法、フロート法、ロールアウト法を採用することができる。
【0062】
ガラス板の表面に凹凸部(レンズ部)を形成する方法として、研磨、エッチング等を採用することが可能である。
【0063】
ガラス板の表面に圧縮応力層を形成する方法には、上記の通り、物理強化法と化学強化法がある。本発明のガラス板は、化学強化法で圧縮応力層が形成されてなることが好ましい。化学強化法は、ガラス板の歪点以下の温度でイオン交換によりガラス板の表面にイオン半径の大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラス板の板厚が小さくても、適正に強化処理を行うことが可能であり、所望の機械的強度を得ることができる。さらに、ガラス板の表面に圧縮応力層を形成した後に、ガラス板を切断した場合であっても、ガラス板が容易に破壊しない。
【0064】
イオン交換の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、板厚、ガラス板内部の引っ張り応力等を考慮して決定すればよい。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス板中のNa成分とイオン交換すると、ガラス板の表面に圧縮応力層を効率良く形成することができる。例えば、400〜550℃の硝酸カリウム溶液中に、Na成分を含むガラス板を1〜8時間浸漬することにより、イオン交換処理を行うことができる。
【実施例1】
【0065】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0066】
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜11)を示している。
【0067】
【表1】

【0068】
次のようにして表1の各試料を作製した。まず、表中のガラス組成となるように、ガラス原料を調合してガラスバッチを得た後、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。次に、溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板状に成形した。得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
【0069】
密度は、周知のアルキメデス法により測定した値である。
【0070】
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
【0071】
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
【0072】
104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0073】
熱膨張係数は、30〜380℃の温度範囲における平均値であり、ディラトメーターで測定した値である。
【0074】
液相温度は、ガラス板を粉砕し、次に標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
【0075】
液相粘度log10ηは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0076】
以下のようにして、加工性を評価した。ガラス板の表面に対して、φ1.4mm、#200の電動ドリルを用いて、送り速度10mm/min、1回の送り量0.015mmで穴を形成した。加工機として、NC加工機:マキノフライスMSA30を使用した。次に、半径方向に測長を行った際、円周囲に観察される欠損部の最大長を測定した。なお、欠損部の最大長は、図1のAmaxに相当している。
【0077】
表1から明らかなように、試料No.1〜11は、密度が2.56g/cm以下、熱膨張係数が82×10−7/℃〜110×10−7/℃であった。また、試料No.1〜11は、液相粘度log10ηが4.2dPa・s以上であるため、オーバーフローダウンドロー法による成形が可能であり、しかも102.5dPa・sにおける温度が1586℃以下であるため、大量のガラス板を安価に製造できるものと考えられる。なお、未強化ガラス板と強化ガラス板は、ガラス板の表層において微視的にガラス組成が異なっているものの、ガラス板全体としてガラス組成が実質的に相違していない。よって、密度、粘度等の特性値は、強化処理(イオン交換処理)の前後で実質的に相違しない。
【0078】
次に、試料No.1〜11の両表面に光学研磨を施した後、440℃のKNO溶融塩中に6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。続いて、各試料の表面を洗浄した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力値と深さを算出した。なお、算出に当たり、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
【0079】
表1から明らかなように、試料No.1〜11は、その表面に739MPa以上の圧縮応力が発生しており、その厚みは22μm以上であった。
【実施例2】
【0080】
[実施例1]の試料No.10に記載のガラス組成になるように、ガラス原料を調合して、ガラスバッチを得た後、溶融装置でガラスバッチを溶融し、続いてオーバーフローダウンドロー法により、板厚1mmのガラス板を成形した。次に、得られたガラス板の片面に対して凹凸加工を行った。凹凸加工は、ガラス板に形成する凹凸とは逆の形状を有する研削ローラーが配置された研磨ラインにおいて、粗研磨→研磨→ポリッシュの手順で行った。最後に、凹凸部(レンズ部)の表面形状をサーフコーダーで測定した。具体的には、Drive speed:0.2mm/s、Meas.Force:100μN、cut off:0.8mm、measurement length:4mmとして、凹凸部(レンズ部)が形成されている方向と直行方向に表面形状を測定した。その結果、凹凸部(レンズ部)の表面形状は、Pa:4.5μm、Pq:5.2μm、Psm:160μm、Pku:2.2、Ra:4.5μm、Rq:5.2μm、Rsm:160μmであった。なお、Pはうねり曲線、Rは粗さ曲線を表している。
【0081】
参考までに、凹凸部(レンズ部)の表面粗さの測定結果を図2に示す。
【実施例3】
【0082】
[実施例2]に記載の凹凸部(レンズ部)を有するガラス板に対して、[実施例1]と同様の条件でイオン交換処理を行った。次に、凹凸部(レンズ部)が形成されていない表面を用いて、ガラス板の表面応力を測定した。その結果、圧縮応力値995MPa、深さ81μmの圧縮応力層が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のガラス板は、3D表示機能を有する携帯電話、デジタルカメラ、PDA、タッチパネルディスプレイに好適に使用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜80%、Al 0〜30%、B 0〜15%、アルカリ金属酸化物 0〜25%、アルカリ土類金属酸化物 0〜15%を含有し、
且つ二次元ディスプレイの一部又は全部を覆う視域制御部材に用いることを特徴とするガラス板。
【請求項2】
少なくとも片面に凹凸部を有することを特徴とする請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
凹凸部のRsmが10〜500μmであることを特徴とする請求項2に記載のガラス板。
【請求項4】
φ1.4mm、#200の電動ドリルを用いて、送り速度10mm/分、1回の送り量0.015mmで加工したとき、発生するチッピングの大きさが500μm未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス板。
【請求項5】
板厚1mm、波長400〜700nmにおける全光透過率が89%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス板。
【請求項6】
表面に圧縮応力層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガラス板。
【請求項7】
圧縮応力層の圧縮応力値が100MPa以上であることを特徴とする請求項6に記載のガラス板。
【請求項8】
圧縮応力層の深さが20μm以上であることを特徴とする請求項6又は7に記載のガラス板。
【請求項9】
液相温度が1200℃以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のガラス板。
【請求項10】
液相粘度log10ηが4.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のガラス板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−36074(P2012−36074A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110911(P2011−110911)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】