説明

ガラス板

【課題】本発明の技術的課題は、洗浄工程で保護膜が消失し難く、長期に亘って、傷が付き難いガラス板を創案することである。
【解決手段】本発明のガラス板は、少なくとも一方の表面に保護膜を有するガラス板において、ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜70%、Al 0〜20%、B 0〜15%、NaO+KO 0〜30%、SrO+BaO 1〜40%を含有し、且つ保護膜がSr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス板に関し、特に太陽電池用ガラス板、具体的にはCIS系太陽電池、CdTe系太陽電池等の薄膜化合物太陽電池、色素増感型太陽電池に好適なガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭の屋根等に設置される太陽電池等には、風雪等に対する強度、雹や砂塵等に対する耐傷性が求められる。このため、太陽電池は、発電素子を2枚のガラス板で挟み込んだ構造を有している。
【0003】
更に、太陽電池に用いるガラス板を製造する際は、ガラス板に傷が付かないように細心の注意を払う必要がある。一旦、ガラス板に傷が付いてしまうと、その傷を起点としてクラックが進展し、ガラス板が割れ易い状態になるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−120256号公報
【特許文献2】特開平2−14841号公報
【特許文献3】国際公開第2008/120535号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3には、成形工程直後にガラス板の表面に保護膜を付けると、ガラス板を製造する際に、ガラス板に傷が付き難くなることが開示されている。しかし、これらの保護膜は、ガラス板の洗浄工程で容易に消失してしまい、ガラス板の運搬時、太陽電池の製造時、太陽電池の運搬時、太陽電池の施工時、或いは太陽電池の施工後に、ガラス板に傷が付く事態を防止することができない。
【0006】
そこで、本発明の技術的課題は、洗浄工程で保護膜が消失し難く、長期に亘って、傷が付き難いガラス板を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、ガラス板のガラス組成を所定範囲に規制すると共に、ガラス板の表面に保護膜を形成することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のガラス板は、少なくとも一方の表面に保護膜を有するガラス板において、ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜70%、Al 0〜20%、B 0〜15%、NaO+KO 0〜30%、SrO+BaO 1〜40%を含有し、且つ保護膜がSr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含むことを特徴とする。ここで、「NaO+KO」は、NaOとKOの合量を指す。「SrO+BaO」は、SrOとBaOの合量を指す。
【0008】
本発明のガラス板は、ガラス組成として、SrO+BaOを1〜20質量%含む。このようにすれば、亜硫酸ガスをガラス板の表面に吹き付けること等により、Sr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含む保護膜を容易に形成することができる。更に、このようにすれば、ガラス板の歪点を高めることができる。ガラス板の歪点が高いと、薄膜化合物太陽電池の製造工程において、光電変換膜の成膜温度を高温化することができ、結果として、薄膜化合物太陽電池の光電変換効率を高めることができる。
【0009】
また、本発明のガラス板は、少なくとも一方の表面に保護膜を有する。このようにすれば、ガラス板を保護することが可能になり、ガラス板に傷が付き難くなる。なお、本発明のガラス板は、一方の表面のみに保護膜を有する態様を含み、この場合、保護膜が形成された表面を運搬装置や搬送装置に接する側、或いは太陽光が照射される側にすればよい。
【0010】
更に、本発明のガラス板は、保護膜がSr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含む。Sr含有硫酸塩とBa含有硫酸塩は、水の溶解度が非常に低い。よって、保護膜がSr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含むと、室温の水で洗浄した後でも、保護膜が消失し難くなる。結果として、長期に亘って、ガラス板に傷が付き難くなる。なお、Sr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含む保護膜は、ガラス板の成形工程後、且つ徐冷炉投入前、或いはガラス板の洗浄工程後に形成されることが好ましい。
【0011】
第二に、本発明のガラス板は、歪点が560℃以上であることが好ましい。
【0012】
第三に、本発明のガラス板は、保護膜が、亜硫酸ガスの吹き付けにより形成されてなることが好ましい。
【0013】
第四に、本発明のガラス板は、太陽電池に用いることが好ましい。
【0014】
第五に、本発明のガラス板は、薄膜化合物太陽電池に用いることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のガラス板は、質量%で、ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜70%、Al 0〜20%、B 0〜15%、NaO+KO 0〜30%、SrO+BaO 1〜40%を含有する。上記のように、各成分の含有量を限定した理由を下記に示す。
【0016】
SiOは、ガラスネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は40〜70%、好ましくは45〜60%、より好ましくは47〜57%である。SiOの含有量が多過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下し易くなることに加えて、熱膨張係数が低くなり過ぎて、太陽電池の電極膜、光電変換膜の熱膨張係数に整合させ難くなる。一方、SiOの含有量が少な過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。更に、熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラス板の耐熱衝撃性が低下し易くなり、結果として、太陽電池を製造する際の熱処理工程で、ガラス板に割れが発生し易くなる。
【0017】
Alは、耐候性、化学的耐久性を高める成分であると共に、歪点を高める成分である。更にはガラス板の表面硬度を高める成分である。Alの含有量は0〜20%、好ましくは4〜17%、より好ましくは6〜15%である。Alの含有量が多過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下し易くなる。一方、Alの含有量が少な過ぎると、耐候性、化学的耐久性が低下し易くなり、歪点も低下し易くなる。なお、ガラス板の表面硬度が高いと、CIS系太陽電池のパターニングにおいて、光電変換膜を除去する工程で、ガラス板が破損し難くなる。
【0018】
は、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であるが、歪点も低下させる成分であり、また溶融時の成分揮発に伴い、炉耐火物材料を消耗させる成分である。よって、Bの含有量は0〜15%、好ましくは0〜1.5%、より好ましくは0〜0.1%未満である。
【0019】
NaO+KOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaO+KOは、CIS系太陽電池において、カルコパイライト結晶の成長に効果的な成分であり、光電変換効率を高めるために重要な成分である。NaO+KOの含有量は0〜30%、5〜20%、特に7〜15%が好ましい。NaO+KOの含有量が多過ぎると、Na又はKを含む保護膜が発生し易くなり、洗浄により保護膜が消失し易くなる。また歪点が低下し易くなる。一方、NaO+KOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。
【0020】
NaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaO+KOは、CIS系太陽電池において、カルコパイライト結晶の成長に効果的な成分であり、光電変換効率を高めるために重要な成分である。NaOの含有量は1〜30%、2.5〜20%、特に4〜15%が好ましい。NaOの含有量が多過ぎると、Naを含む保護膜が発生し易くなり、洗浄により保護膜が消失し易くなる。また歪点が低下し易くなる。一方、NaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。
【0021】
Oは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、KOは、CIS系太陽電池において、カルコパイライト結晶の成長を促進して、光電変換効率を高める成分である。KOの含有量は0.1〜30%、1〜20%、特に3〜15%が好ましい。KOの含有量が多過ぎると、Kを含む保護膜が発生し易くなり、洗浄により保護膜が消失し易くなる。また歪点が低下し易くなる。一方、KOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。
【0022】
SrO+BaOは、保護膜を構成する成分であり、また歪点を高める成分であり、更に高温粘度を低下させる成分である。SrO+BaOの含有量は1〜40%、好ましくは10〜35%、より好ましくは15〜30%である。SrO+BaOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなり、また原料コストが高騰する。一方、SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、Sr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含む保護膜を形成し難くなり、また高温粘度が高くなり過ぎる。
【0023】
SrOは、保護膜を構成する成分であり、また歪点を高める成分であり、更に高温粘度を低下させる成分である。SrOの含有量は、好ましくは0〜25%、より好ましくは1.5〜16%、更に好ましくは3〜12%である。SrOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなり、また原料コストが高騰する。一方、SrOの含有量が少な過ぎると、Sr含有硫酸塩を含む保護膜を形成し難くなり、また高温粘度が高くなり易い。
【0024】
BaOは、保護膜を構成する成分であり、また歪点を高める成分であり、更に高温粘度を低下させる成分である。BaOの含有量は、好ましくは0〜25%、より好ましくは1.5〜15%、更に好ましくは3〜9.9%である。BaOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなり、また原料コストが高騰する。一方、BaOの含有量が少な過ぎると、Ba含有硫酸塩を含む保護膜を形成し難くなり、また高温粘度が高くなり易い。
【0025】
上記成分以外に、例えば、以下の成分を添加してもよい。
【0026】
LiOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、LiOは、NaOやKOと同様にして、CIS系太陽電池において、カルコパイライト結晶の成長に効果的な成分である。しかし、LiOの含有量が多過ぎると、Liを含む保護膜が発生し易くなり、洗浄により保護膜が消失し易くなる。また原料コストが高騰することに加えて、歪点が大幅に低下する虞がある。よって、LiOの含有量は0〜10%、0〜2%、特に0〜0.1%未満が好ましい。
【0027】
MgO+CaOは、歪点を高める成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形牲を高める成分である。MgO+CaOの含有量は0〜30%、0〜20%、特に0〜15%が好ましい。ここで、「MgO+CaO」は、MgOとCaOの合量である。
【0028】
MgOは、歪点を高める成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形牲を高める成分である。MgOの含有量は0〜25%、0〜15%、特に0〜10%が好ましい。
【0029】
CaOは、歪点を高める成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形牲を高める成分である。CaOの含有量は0〜25%、0〜15%、特に0〜10%が好ましい。
【0030】
ZrOは、高温粘度を上げずに、歪点を高める成分である。しかし、ZrOの含有量が多過ぎると、失透し易くなり、ガラス板に成形し難くなる。よって、ZrOの含有量は0〜15%、0〜10%、特に0〜7%が好ましい。
【0031】
上記成分以外にも、原料コストを低廉化するために、不純物としてFeを0.2%まで添加してもよい。紫外線による着色を防止するために、TiOを3%まで添加してもよい。耐失透性を高めるために、Pを3%まで添加してもよい。高温粘度を低下させるために、ZnOを3%まで添加してもよい。清澄剤としてSO、Sb、SnO、F、Cl、Br等を合量で2%まで添加してもよい。
【0032】
本発明のガラス板は、保護膜がSr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含むことを特徴とする。Sr含有硫酸塩とBa含有硫酸塩は、水の溶解度が非常に低い。よって、保護膜がSr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含むと、室温の水で洗浄した後でも、保護膜が消失し難くなる。結果として、長期に亘って、ガラス板に傷が付き難くなる。なお、上記保護膜の形成方法は、特に限定されず、ガラス板の表面に亜硫酸ガスを吹き付ける方法、ガラス板の表面をスラリーコートした後に焼成する方法等を採用することができる。
【0033】
本発明のガラス板において、歪点は、好ましくは560℃以上、580〜650℃、600超〜640℃、特に610〜630℃である。このようにすれば、太陽電池を製造する際の熱処理工程で、ガラス板に熱収縮や熱変形が生じ難くなる。
【0034】
本発明のガラス板は、化学強化処理、特にイオン交換処理が行われていないことが好ましい。特に、薄膜化合物太陽電池には、高温の成膜工程が存在する。よって、化学強化処理により圧縮応力層を形成しても、この工程で、強化層(圧縮応力層)が消失し、化学強化処理を行う実益が乏しくなる。更に、CIS系太陽電池の場合、ガラス板をイオン交換処理すると、ガラス表面のNaイオンが減少してしまい、光電変換効率が低下し易くなる。
【0035】
本発明のガラス板は、上記のガラス組成範囲になるように、調合したガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を加熱溶融した後、得られたガラス融液を脱泡した上で、成形装置に供給し、ガラス板に成形、徐冷することにより、作製することができる。ガラス板の成形方法として、フロート法、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロ一法、リドロー法等が挙げられる。
【0036】
特に、ガラス板の成形方法として、フロート法が好ましい。このようにすれば、大型のガラス板を安価、且つ大量に製造することができる。また、このようにすれば、成形工程後、且つ徐冷炉投入前のガラス板の表面に亜硫酸ガスを吹き付けることにより、容易に保護膜を形成することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0038】
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜3)及び比較例(試料No.4)を示している。
【0039】
【表1】

【0040】
次のようにして、試料No.1〜4を作製した。まず表中のガラス組成になるように調合したガラスバッチを白金坩堝に入れ、1550℃で2時間溶融した。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出して、ガラス板に成形した後、徐冷した。その後、各測定に応じて、所定の加工を行った。得られた各試料について、歪点Ps、保護膜消失の有無を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0041】
歪点Psは、ASTM C336−71に基づいて測定した値である。
【0042】
次のようにして、保護膜消失の有無を評価した。まずガラス板の一方の表面に対して、SOガスを650℃で5分間吹き付けた後、室温の水で洗浄した。次に、ガラス板の一方の表面に保護膜が残存しているかを確認した。
【0043】
表1から明らかなように、試料No.1〜3は、室温の水で洗浄した後も保護膜(Sr含有硫酸塩及びBa含有硫酸塩)が残存していた。更に、試料No.1〜3は、歪点Psが580〜630℃であるため、高い耐熱性を有している。一方、試料No.4は、ガラス組成中にSrOとBaOを含んでいないため、SOガスの吹き付けによりSr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩が生成せず、室温の水で洗浄した後に保護膜が消失していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面に保護膜を有するガラス板において、
ガラス組成として、質量%で、SiO 40〜70%、Al 0〜20%、B 0〜15%、NaO+KO 0〜30%、SrO+BaO 1〜40%を含有し、且つ保護膜がSr含有硫酸塩及び/又はBa含有硫酸塩を含むことを特徴とするガラス板。
【請求項2】
歪点が560℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
保護膜が、亜硫酸ガスの吹き付けにより形成されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス板。
【請求項4】
太陽電池に用いることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のガラス板。
【請求項5】
薄膜化合物太陽電池に用いることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のガラス板。

【公開番号】特開2013−63880(P2013−63880A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204332(P2011−204332)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】