説明

ガラス溶解方法、システム、及び装置

【課題】ガラス溶解炉の状態を監視する。
【解決手段】一連の制御パラメータに従ってガラス溶解炉を運転する。ガラス溶解炉にガラスバッチを供給し溶融ガラスに溶解する。ガラスバッチを溶解する間に、ガラスバッチの一部及び泡沫を含む表層が溶融ガラスの表面に形成される。ガラス溶解炉の内部の複数のサーモグラムを取得する。サーモグラムを分析することにより、表層に熱力学的不安定性が存在するか否かを判定する。次に、一連の制御パラメータを調整することにより、存在すると判定された表層の熱力学的不安定性を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラスの製造に関し、より詳細には、ガラス溶解炉の状態監視に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フュージョンダウンドロー法によって板ガラスが製造される。この方法は生来ファイアポリッシュしたような清浄な表面を有する板ガラスを製造することができ、このような板ガラスは表示用途や高品質の表面を必要とするその他の用途におけるガラス基体の製造に有用である。基本的なフュージョンダウンドロー法が特許文献1及び特許文献2に記載されている。大まかに言えば、フュージョンダウンドロー法は溶融ガラスをフュージョンアイソパイプの堰に供給することを含んでいる。溶融ガラスが堰の上部からオーバーフローすることにより2つの流れに分割され、フュージョンアイソパイプの収斂する対向側壁に沿って流下する。分割された溶融ガラス流はフュージョンアイソパイプの底部において1つに融合する。フュージョンアイソパイプの側壁に接触する分割溶融ガラス流の内表面が最終的に板ガラスの内側になり、フュージョンアイソパイプの側壁に接触しない分割溶融ガラス流の外表面が最終的に外側になるため、板ガラスがファイアポリッシュしたような清浄な表面を有することができる。
【0003】
フュージョンアイソパイプの堰に溶融ガラスを供給することは簡単なことではない。何故なら、フュージョンダウンドロー法によって製造される板ガラスの品質は、供給される溶融ガラスの品質に直接左右されるからである。組成及び温度分布両方の観点からの溶融ガラスの不均一性及び固体又は気体の含有は好ましくない。通常、大規模な商用ガラスの製造における供給システムは、溶解炉、精製炉、及び撹拌炉を備えている。溶解炉がガラスバッチを受け取り溶解することによって溶融ガラスを生成する。一般に、ガスを燃焼させてガラスバッチを溶解する熱を得ている。溶解炉から精製炉に対し溶融ガラスが連続的に送られ、そこで溶融ガラスに含まれている気体が除去される。次に、均一性を向上させるため、溶融ガラスが撹拌炉において撹拌された後、一般に供給管及び下降管から成る構成を通してフュージョンアイソパイプの入口に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3,338,696号明細書(公開日:1967年8月29日、Docherty氏)
【特許文献2】米国特許第3,682,609号明細書(公開日:1972年8月8日、Docherty氏)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶融ガラスを生成するのは溶解炉であるため、供給システムにおける3つの炉のうち溶解炉が最も重要であると考えられる。ガラスバッチを溶解している間、溶解炉の状態を監視することが重要である。監視結果を用いて効率的に運転し、高品質の溶融ガラスを生成するよう溶解炉の動作を調整することができる。監視可能な状態の例として、温度変化、溶融ガラスのフローパターン、溶融ガラスとガラスバッチとの界面、泡沫生成、泡沫とガラスバッチとの界面、及び難溶解性ガス放出があげられる。電荷結合素子(CCD)や相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサーを用いたビデオ技術により、溶解炉内の画像が捕捉されてきたが、これ等のビデオ技術はガスや泡沫が存在している溶解炉内の鮮明な画像を得ることはできない。これ等のビデオ技術が用いる可視波長(400〜650nm)はガスを透過できないため、ガス炎の背後を見ることはできない。また、ビデオセンサーは温度に反応しないため溶解炉の温度マッピングに役立たない。代わりに、溶解炉底部の熱電対及び頂上部のバーナーの熱出力に基づいて、溶解炉内の温度分布の評価が行われている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様によるガラス溶解方法は、一連の制御パラメータに従ってガラス溶解炉を運転するステップを含んでいる。この方法において、ガラス溶解炉にガラスバッチが供給され溶融ガラスに溶解される。ガラスバッチが溶解される間に、ガラスバッチ及び泡沫を含む表層が溶融ガラスの表面に形成される。ガラス溶解炉内部の複数のサーモグラムが得られる。これ等のサーモグラムを分析することにより、表層に熱力学的不安定性が存在するか否かが判定される。次に、一連の制御パラメータを調整することにより、存在すると判定された表層の熱力学的不安定性が低減される。
【0007】
1つの実施の形態において、バッチ溶解期間の少なくとも一部においてサーモグラムが取得される。
【0008】
1つの実施の形態において、サーモグラムの分析が、少なくとも1つのサーモグラムを分析することにより、第1調査経路に沿った第1温度プロファイル及び第2調査経路に沿った第2温度プロファイルを得ることを含んでいる。第1温度プロファイルと第2温度プロファイルとを比較することによって、両者がどの程度異なっているかが判定される。
【0009】
1つの実施の形態において、サーモグラムの分析が、少なくとも1つのサーモグラムの表層に対応する部分を対称な半部分に分割することを含んでいる。2つの半部分を比較することにより、それ等がどの程度熱的に非対称であるかが判定される。
【0010】
1つの実施の形態において、ガラスバッチが、ガラス溶解炉の壁に設けられた第1供給窓及び第2供給窓を通して、ガラス溶解炉に供給される。
【0011】
1つの実施の形態において、少なくとも1つのサーモグラムから、第1供給窓の第1バッチ充填速度及び第2供給窓の第2バッチ充填速度が算出される。第1バッチ充填速度と第2バッチ充填速度とを比較することにより、両者がどの程度異なっているかが判定される。
【0012】
本発明の別の態様によるガラス溶解システムは壁に覗き窓を有する炉を備えている。また、このガラス溶解システムは、支持体と支持体に接続された赤外線カメラを備えている。赤外線カメラは赤外線センサー及び赤外線センサーに光学的に接続されたレンズを有している。アクチュエータが支持体に接続され、レンズを覗き窓に選択的に挿入又は覗き窓から後退するよう支持体を移動させることができる。
【0013】
1つの実施の形態において、ガラス溶解システムは、覗き窓へのアクセスを規制するための窓に取り付けられたシャッターを備えている。
【0014】
1つの実施の形態において、ガラス溶解システムは、赤外線センサーによって記録されたサーモグラムを記憶するための記憶手段及び赤外線センサーによって記録されたサーモグラムを処理するための処理手段を備えている。
【0015】
1つの実施の形態において、処理手段は赤外線センサーによって記録されたサーモグラムを分析し、炉内のガラスバッチ及び泡沫を含む表層に熱力学的不安定性が存在するか否かを判定する。
【0016】
1つの実施の形態において、ガラス溶解システムは、サーモグラムの分析結果に応じて炉を運転するための命令を生成するコントローラを備えている。
【0017】
1つの実施の形態において、ガラス溶解システムは、炉内の複数の点における温度及び流速を監視するための複数のセンサーを備えている。
【0018】
1つの実施の形態において、コントローラは温度及び流速を監視するためにセンサーからの入力を受信する。
【0019】
本発明の更に別の態様によるガラス溶解炉撮像装置は、支持体と、支持体に接続された赤外線センサーと、支持体に接続され、赤外線センサーに光学的に接続されたレンズと、支持体に接続され、支持体を移動するためのアクチュエータとを備えている。
【0020】
1つの実施の形態において、ガラス溶解炉撮像装置は内部に赤外線センサーを備え、温度制御されたセンサージャケットを有している。
【0021】
1つの実施の形態において、ガラス溶解炉撮像装置は内部にレンズを備え、温度制御されたシュラウドを有している。
【0022】
1つの実施の形態において、温度制御されたシュラウドがレンズを通して又はレンズの周囲に冷却流体を循環させるための2つの独立した流路を有している。
【0023】
1つの実施の形態において、レンズはサファイアレンズである。
【0024】
1つの実施の形態において、レンズは円柱レンズである。
【0025】
1つの実施の形態において、ガラス溶解炉撮像装置は赤外線センサーとレンズとの間の光路にバンドパスフィルターを備えている。
【0026】
1つの実施の形態において、バンドパスフィルターの中心波長が略0.85μmである。
【0027】
前記概要及び以下の詳細な説明は本発明の例示であって、特許請求した本発明の本質及び特徴を理解するための要旨又は骨格を提供するためのものである。添付図面は本発明の理解を更に深めるためのものであり、本明細書に組み込まれその一部を構成するものである。図面は各種実施の形態を示すものであって、明細書の記述と併せて本発明の原理及び作用を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
以下は添付図面の図の説明である。図は必ずしも正確な縮尺ではなく、特定の図の表示は明瞭さ及び簡潔さを重んじ、縮尺上又は図解上誇張したものとなっている。
【図1】ガラス溶融炉の内部を監視する装置の概略図。
【図2】レンズシュラウドの断面図。
【図3】図2に示すレンズシュラウドの3−3線断面図。
【図4】ガラス溶融炉の内部を監視するシステムの概略図。
【図5】図4に示すシステムの制御部のブロック図。
【図6A】ガラス溶融炉の断面図。
【図6B】図6Aに示すガラス溶融炉の6B−6B線断面図。
【図7A】不均衡な表層流を示すガラス溶解表面内部の温度マップ。
【図7B】均衡した表層流を示すガラス溶解表面内部の温度マップ。
【図8A】ガラス溶解表面内部の温度マップ。
【図8B】図8Aに示す温度マップの各調査経路に沿った温度プロファイルを示す図。
【図9】ガラス溶解炉内の溶融ガラスの仮想対流運動を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の更なる特徴及び効果が以下の詳細な説明に述べてあり、当業者にとってそれ等の特徴及び効果はその説明から容易に理解できると共に、記述されている本発明を実施することにより認識することができる。
【0030】
図1に示すように、本発明の1つの実施の形態において、センサージャケット104内に設けられた二次元(2D)の赤外線(IR)センサー102を備えた、ガラス溶解炉の内部のような、炉内を監視する装置100が提供される。1つの実施の形態において、センサージャケット104は温度制御されたジャケットである。センサージャケット104を通して水や空気のような流体を循環させることによって温度制御することができる。また、装置100はレンズシュラウド108内に収容されたレンズ106を備えている。レンズ106は任意の適切な集束レンズであってよい。1つの実施の形態において、レンズ106はサファイアから成っている。別の実施の形態において、高温に耐え得るレンズ材料を用いることができる。1つの実施の形態において、レンズシュラウド108は温度制御されたシュラウドである。レンズシュラウド108を通して水や空気のような流体を循環させることによって温度制御することができる。
【0031】
2DのIRセンサー102とレンズ106とによってIRカメラが構成される。IRカメラは電磁スペクトルのIR領域の放射線を検出するものである。IRカメラによって記録されたものをサーモグラムと呼ぶ。サーモグラムは温度に敏感に反応するため、炉内の温度マップを作成することができる。IRカメラは炉内に気体媒質が存在していてもサーモグラムを記録することができる。1つの実施の形態において、IRセンサーとレンズとの間の光路にバンドパスフィルター110を備えている。バンドパスフィルター110の中心波長は炉内の気体媒質のスペクトルに基づいており、検出された放射線が気体媒質によって半不明瞭にならないような波長が選択される。1つの実施の形態において、バンドパスフィルター110の中心波長は0.85μmである。この波長は光が気体を透過できる天然ガスの2つのスペクトル・ウィンドウの1つである。
【0032】
センサージャケット104は、フレーム114に取り付けられた基部112の上部に設けられている。レンズシュラウド108もフレーム114に取り付けられている。フレーム114は、リニアアクチュエータ118の可動部分である基部116に取り付けられている。従って、リニアアクチュエータ118を操作することによって、フレーム114及びそれに取り付けられているすべての構成部品が移動する。各種のリニアアクチュエータを使用することができる。1つの実施の形態において、空気圧式アクチュエータがリニアアクチュエータとして使用される。
【0033】
図2において、レンズシュラウド108は内管120及び外管122を有している。内管120及び外管122は高温に耐え得ると共に酸化し難い材料から成っている。ステンレス鋼が適切な例である。白金のような貴金属も適しているが高価である。管120及び122の全体を貴金属で形成する代わりに、それ等の先端のみを貴金属で形成することができる。内管120は外管122から離間して同心円を成している。図3において、内管120と外管122との間に設けられたバッフル124によって、その間に半環状の上部室126及び半環状の下部室128が画成されている。バッフル124の長さは管120、122より短いため、半環状室126、128はレンズシュラウド108の前端部において合流している(図2)。図2において、レンズシュラウド108の前端部が参照番号129で示されている。内管120と外管122との間の空間はレンズシュラウド108の前端部で閉塞されているため、半環室126、128に収容された流体はその中に閉じ込められる。
【0034】
図2において、外管122は下部室128に接続された供給ポート130及び上部室126に接続された戻りポート132を有している。使用に当たり、冷水源のような冷却流体源が供給ポート130に接続される。冷却流体は供給ポート130から下部室128、レンズシュラウド108の先端、及び上部室126に流れる。上部室126内の流体は戻りポート132を通して排出される。レンズシュラウド108は、内管120内のレンズ106を支持するレンズホルダー134を有している。1つの実施の形態において、レンズ106は孔136を有する中空円筒レンズである。レンズホルダー134は、レンズ孔136に位置合わせされた孔138及び孔138に接続された入口ポート140と出口ポート142とを有している。ポート140、142から孔136、138に冷却空気が供給され、内部を流れることによってレンズ106が冷却される。
【0035】
図4は炉壁156に覗き窓154を備えた炉内監視システム150を示す図である。システム150は炉内を監視する装置100を備えている。装置100は覗き窓154の近傍において、例えば、台160上に支持される。この位置において、炉内を撮像するため、リニアアクチュエータ118を駆動してレンズシュラウド108を覗き窓154に挿入することができる。台160はレンズ106が炉内部に対し所望の視角となるよう装置100を傾斜させる手段を有することができる。システム150は覗き窓154の入口に設けられたシャッターボックス162を備えている。シャッターボックス162は覗き窓154に対しレンズシュラウド108を挿抜できる通路164を有している。開閉式シャッター166が通路166の端部に設けられ、通路164を開放及び閉塞することができる。 シャッターボックス162は、冷却空気を通路164に供給できるポート168を有している。通路164に供給された空気は、レンズシュラウド108の周囲を先端まで流れる。
【0036】
図5はシステム150の制御部を示す図である。システム150は、例えば、レンズ106(図2)に接続された熱電対のような、レンズ106の温度を測定するためのレンズセンサー170を備えている。システム150は、例えば、レンズホルダー134(図2)のポート140、142(図2)及び外管122(図2)のポート130、132(図2)に接続された流量センサーのような、これ等のポートの流量を測定するためのレンズシュラウドセンサー172を備えている。また、システム150は、例えば、シャッターボックス162(図4)のポート168(図4)に接続された流量センサーのような、このポートの流量を測定するためのシャッターボックスセンサー174を備えている。システム150は、例えば、熱電対及び流量センサーのようなセンサージャケット104(図1)の内部の温度及び流動状態を監視するセンサージャケットセンサー176を備えることができる。
【0037】
システム150は入力インタフェース182を介して各種センサーからの入力を受信するコントローラ180を備えている。コントローラ180は入力を処理して装置100を操作するための制御信号を生成するプロセッサー184及びデータやプログラムを記憶する記憶装置186を有している。制御信号は、出力インタフェース188を介し、装置100(図4)の適切な部分に伝達される。1つの実施の形態において、レンズ106の冷却が不十分のとき、コントローラ180に基づいて警報が発せられる。その後、コントローラ180は、リニアアクチュエータ118(図4)に対し、覗き窓154(図4)からレンズシュラウド108(図4)を自動的に後退させるための制御信号を生成する。コントローラ180は装置100の別の監視状態に基づいて別の警報起動し、起動した警報に基づいて適切な処置を講じることができる。コントローラ180はサーモグラムを記憶及び処理するデータ取得ユニット190を有している。データ取得ユニット190はIRセンサー102に接続されサーモグラムを受信する。コントローラ180は、サーモグラム及び装置100の操作に関連するその他の情報を表示するための表示装置192を有することができる。
【0038】
図6A、6Bにおいて、ガラス溶解炉200は対向端壁202、204及び対向側壁206、208を有している。炉200の長さは側壁206、208の何れかに沿った長さである。また、炉200は屋根210及び床212も有している。炉端壁202は炉200内にバッチ218を連続的に供給するための2つの供給窓214、216を有している。バッチ218は溶融ガラスを形成するための適切な任意の原材料であってよい。表示用途として、バッチはホウケイ酸ガラスを形成する成分を含んでいてよい。ホウケイ酸ガラスはB及びSiOに加え、一般には、NaO又はKO及びAl、並びに溶融ガラスの形成を促進するその他の成分を含んでいる。バッチ218を溶解して溶融ガラス220を形成するバーナー219が屋根210を通して挿入される。溶解が徐々に進み、一定量の溶融ガラス220が炉200の底部及びバッチの表層222に溜まり、泡沫が溶融ガラスの表面に浮揚する。例えば、炉の床を通して複数の並行電極224が溶融ガラス220のプールに浸漬される。溶融ガラス220を通して電極224間に電流が流れることにより溶融ガラスが加熱される。炉200内にバッチが追加されることや徐々にバッチが溶解されて溶融ガラスが形成されることに起因する表層222と溶融ガラス220との温度差により溶融ガラス220に対流パターンが誘発される。
【0039】
熱によって誘起される“ホットスポット”又は“スプリングゾーン”は、一般にスループットの高いガラス溶解炉において溶解性能を向上させる手段として確立される。このようなスプリングゾーンは、バッチパターンの安定性、溶解炉内の所定の位置におけるバッチ保持、及び溶融ガラスの均一性を向上する上において有益な手段であることがガラス製造分野においてよく知られている。溶解炉を効率的に運転する上において、このようなスプリングゾーンの正確かつ一貫した制御が必須である。オペレータが望む対流パターンを生成するために、このようなスプリングゾーンは炉の形状に対し縦方向、横方向、又は両方向に確立される。伝統的に、これ等は炉の頂上部又は底部の熱電対を監視する手段及び/又は炉の覗き窓を通して手動で対象とする壁の温度を光学高温計で測定することによって監視される。このようなスプリングゾーンを誘起する温度プロファイルを維持するために、これ等の測定結果に基づいて入力エネルギーが調整される。一般に、このようなスプリングゾーンは、溶解炉の充填端部から2/3の長さの位置に確立されるが、特定の溶解システムの設計又は必要性に基づいて調整することができる。
【0040】
1つの実施の形態において、1つ以上の熱誘起ホットゾーン又はスプリングゾーンが炉200内に確立される。1つの実施の形態において、充填端壁202から炉200の長さの略1/2〜1/3の位置にホットスポット又はスプリングゾーンを確立することができる。スプリングゾーンは炉内の特定の位置において、溶融ガラス220を逆流させることができる。この逆流により溶融ガラス220が混合され均一性が促進される。炉200内の様々な位置に温度センサーを配置することにより、それ等の位置の温度を監視することができる。例えば、炉の屋根210及び床212にそれぞれ温度センサー225、227を配置することができる。温度センサー225、227の出力が炉内の温度制御に役立つ。
【0041】
表示用途のような高品質の板ガラスを製造するためには、高品質の溶融ガラスが必要である。高品質の溶融ガラスは高均質なガラス組成を有していることが必要である、即ち、珪石を含有していてはならない。高品質の溶融ガラスは気体や、例えば、ジルコン粒子のような板ガラスに縞や筋を生じさせ、板ガラスの形成過程に潜在的に影響を及ぼす固体を含有していてはならない。このような縞や筋によって局部的に光学特性が変わるため、そのような板ガラスは表示用途として使用できない。そのような高品質の溶融ガラスを生成するためには、溶解パラメータを慎重に制御する必要がある。制御すべき溶解パラメータの体表的な例に、ガラスの抵抗率を関数とする各電極対の電圧、(ガラスの均一性を最高に高める最適対流プロファイルを確保するための)炉の長さに沿った温度プロファイル、及び(表層に沿った特定の温度勾配を確保するための)各バーナー対の熱流束がある。この多変量空間は炉内の熱力学に複雑な影響を及ぼす。今日まで、前記のような溶解パラメータは確率論的、即ち、局部的ではなく、体積のランダムな統計的分布に基づいて選択され実施されてきた。表層の完全な2D温度分布及びバッチ堆積の3次元(3D)力学の観点からの熱力学が、定量的監視及び局部にわたる溶解過程の正確な制御に対し現在欠けているフィードバックの1つである。
【0042】
1つの実施の形態において、システム150(図4及び5)を用いて前記欠けているフィードバックが提供される。システム150を用いてガラス溶解炉内部が撮像される。撮像された画像はガラス溶解炉内のバッチ堆積の力学的傾向の分析に使用される2Dのサーモグラムとして記録される。前記のように、装置100(図1及び2)は、サーモグラムを記録するためのIRセンサー102(図1)を備えている。前記ガラス溶解炉に対しシステムを使用するため、炉壁に(図4の覗き窓154と同様の)覗き窓が形成され、前記のように装置100のレンズ端部が覗き窓に挿入されサーモグラムが記録される。覗き窓が形成される炉壁は、供給窓が形成された端壁202(図6A)に対向する、即ち、供給端壁202を含む炉の部分が撮像できる端壁204(図6A)であってよい。システム150は、炉屋根210(図6A)のバーナー219(図6A)の炎、炉200(図6A)内の気体、及び溶融ガラス220(図6A)を覆う表層内の泡沫を通して、正確に記録することができる。システム150は、前記のように分析される記録したサーモグラムをリアルタイムで配信することができる。サーモグラムを用いて、特に表層の熱力学的安定性を評価することができる。更に、分析結果を用いて、溶解ガラス生成中において表層の熱力学が安定するよう溶解パラメータを最適化することができる。表層の熱力学を安定させることによって、高品質の溶融ガラスを効率的に生成することができる、即ち、必要な変更を加えるだけで溶解処理を安定させることができる。
【0043】
本発明の1つの実施の形態において、一連の制御パラメータを用いて、例を図6A及び6Bに示す、ガラス溶解炉の運転を含む、溶融ガラスを生成する方法が提供される。制御パラメータは、各バーナーの熱流束量を決定する入力、各電極対の熱流束量を決定する入力、及び炉に対する窓を通したバッチ供給速度のような、システムに入力される物理的入力である。これ等の制御パラメータを調整することによって、既に例を挙げた溶解パラメータが影響を受ける。この方法はガラス溶解炉にガラスバッチを供給し、バッチを融解ガラスに溶解するステップを有している。溶解処理中にバッチ及び泡沫を含む表層が融解ガラスの表面に形成される。
【0044】
この方法はシステム150(図4及び5)を用いて表層のサーモグラムを取得するステップを有している。サーモグラムは数時間、数日、又は数カ月にわたり炉内に対し異なる視角から収集される。また、この方法はサーモグラムを精査又は分析して表層の熱力学が安定しているか否かを判定するステップを有している。一般に、表層のフローパターン及び/又は温度分布が炉の中心線を中心に対称である場合、熱力学は安定していると見なされ、そうでない場合には不安定であると見なされる。一般に、この中心線は炉の長さに沿った線、即ち、バッチが供給される炉の供給端部から溶融ガラスが流出する排出端部に延びる線である。その他の基準を用いて表層の熱力学が安定しているか否かを判定することができる。表層の熱力学が不安定であると判定された場合、1つ以上の制御パラメータを調整することにより、その不安定性を低減又は除去することができる。調整は多数のサブステップにわたって行われる。サーモグラムの精査及び制御パラメータの調整は、溶融ガラスの生成処理全体を通して行われるか、一連の制御パラメータの最適値が見つかるまで行われる。
【0045】
サーモグラムは炉内のバッチ及び泡沫を含む表層の全フィールドにわたる温度分布を示すことができる。図7A及び7Bは、システム150(図4及び5)を用いて炉から得た一連のサーモグラムのうちの2つから作成された温度マップを示す図である。図7Aの表層流は不均衡である。即ち、炉の右側Rの方が左側Lより表層流の温度が高い。左右は供給窓を有する端壁から見たものである。これに対し、図7Bの表層流は比較的均衡が取れている。図7Aに示すような不均衡な表層流が一連のサーモグラムに持続する場合には、補正を必要とする表層熱力学の不安定性を示している。
【0046】
図8Aはシステム150(図4及び5)を用いて炉内部から取得されたサーモグラムによる温度マップを示す図である。線1、2、3、及び4は調査経路を示している。調査経路1、2、及び4に沿った温度プロファイルを図8Bに示す。図8Bにおいて、Fは泡沫を表わし、Bはバッチを表わしている。平行な調査経路1及び2に沿った温度プロファイルが非常に似ていることが理想である。しかし、図8Bはそうなっていない。このような温度プロファイルの相違は表層の熱力学が不安定であることを示している。左バッチ251が“蛇行”していることが、表層の熱力学的不安定性を更に示している。このような蛇行によって、図9に仮定的に示す状況を招くことがある。図9において、溶融バッチ252下部の溶融ガラス250が望ましいホットスポット254を炉259の望ましい位置からより温度の高い側に移動させる別の対流状態に置かれることにより、炉の左側L及び右側Rに溶融ガラス体において非対称である対流経路256、258がそれぞれ形成される。このような非対称な対流パターンはガラスの属性に影響を及ぼす可能性がある。従って、1つの実施の形態において、表層の熱力学的不安定性の有無を判定するサーモグラムの精査が表層温度分布及び表層流の異常を探索することを含んでいる。
サーモグラムを精査して表層の熱力学的不安定性に関する情報を得るためには幾つかの方法がある。1つの実施の形態において、サーモグラムがビデオプレイヤー又はビデオプレイヤーを備えたコンピュータにロードされる。次に、オペレータが、例えば、1/120〜30Hzの選択周波数範囲において捕捉した一連のサーモグラムを選択速度で再生する。サーモグラムを再生しながら、オペレータはサーモグラムを精査して表層の熱力学的傾向を調査する。別の実施の形態において、自動ツールがサーモグラムを入力として取得し、サーモグラムを分析して表層の熱力学的傾向を調査し、表層の熱力学の評価に有益な各種出力を生成する。この自動ツールは、サーモグラムを分析するタスク及び表層の熱力学的不安定性の評価に有益な出力を生成するタスクを実行するよう設計された、コンピュータで実行可能なプログラムを実行する任意の汎用コンピュータであってよい。
1つの実施の形態において、このプログラムは、プロセッサー(例えば図5の184)で実行されると、例えば、記憶装置又はデータ取得ユニット(例えば、図5の186、192)からサーモグラムを取得し、例えば、溶解炉の左側の泡沫層及び右側上方のような選択された調査線に沿った温度プロファイルを生成する。これ等のプロファイルによって溶解炉の左側及び右側に沿ったガラス近傍の瞬時温度プロファイルが得られる。プログラムは幾つかのサーモグラムの温度プロファイルを生成することができるため、オペレータは時間と共にどのように温度プロファイルが変化するかを観察することができる。また、プログラムは、各々のサーモグラムから得られた温度プロファイルを比較して大幅に異なっている場合には、表層の熱力学的不安定性を示すフラグを生成することができる。顕著な不安定性が検出された場合、プログラムはフラグの生成の他に、警報を発することができる。
【0047】
別の例において、プログラムによってサーモグラムが選択され、表層に対応するサーモグラムの一部が炉の長さに沿って対称な半部分に分割される。次に、その半部分の温度が比較される。例えば、各々の半部分の平均温度が算出され比較される。平均温度に顕著な相違が見られる場合、表層熱力学の不安定性を示すフラグが生成される。この処理を繰り返すことができるため、オペレータは時間と共にどのように表層半部分間の対称性又は非対称性が変化するかを観察することができる。
【0048】
別の例において、サーモグラムから、各々の供給窓におけるバッチ対空気の割合がプログラムによって算出される。この割合から各々の供給窓の瞬間充填速度が判定できる。左側の供給窓の充填速度を右側の供給窓の充填速度と比較することにより、供給非対称の有無を判定することができる。このような供給非対称は炉内の表層に不均衡流を生じさせる可能性があるため、供給非対称が検出された場合、プログラムはオペレータに対し供給非対称の補正を促すフラグを生成することができる。プログラムは供給窓の充填速度に関する制御パラメータを交互に調整することができる。この調整は2つの供給窓間の供給対称が得られるまで行われる。
【0049】
プログラムは、溶解パラメータ(例えば、ガラス底部の熱電対出力、各電極対の対地電圧、各バーナー対の熱流束、溶解炉の空気圧等)と共にサーモグラムの分析結果を表示させることができるため、溶解パラメータに関する制御パラメータの調整効果を容易に評価することができる。また、プログラムは、サーモグラムの分析結果に基づいて、どの制御パラメータを調整すべきかを示すことができる。更に、プログラムは表層の熱力学を更に安定させるために直接制御パラメータを調整することができる。また、前記のように、警報を発することもできる。
【0050】
前記作用を成すようアルゴリズム化されたソフトウェアによって、前記システム/技術を完全自動化/自律化することができる。適切なハードウェアを備えた1つ以上の適切な汎用コンピュータをプログラミングすることによって、これ等の態様を実行することができる。プログラミングは、プロセッサーが読取り可能な1つ以上のプログラム記憶装置を介し、前記作用を成すためのコンピュータで実行可能な1つ以上のプログラム命令をコード化することによって達成できる。プログラム記憶装置は、例えば、1つ以上のフロッピー(登録商標)ディスク、CD ROM、光ディスク、磁気テープ、読取り専用メモリチップ(ROM)、及び当技術分野で周知のその他の形態又は今後開発される形態を成すことができる。プログラム命令はオブジェクトコード、即ち、事実上コンピュータによって直接実行可能な2進形式、実行前にコンパイル又は解釈を必要とするソースコード、あるいは部分的にコンパイルされたコードのような特定の中間形態を成すものであってよい。プログラム記憶装置及び命令コード化の具体的形式は本発明においては重要ではない。
【0051】
限定された数の実施の形態に基づいて本発明を説明してきたが、本開示によって恩恵を受ける当業者にとって、本発明の範囲を逸脱せずに別の実施の形態が可能であることが理解できる。従って、本発明の範囲は添付クレームによってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0052】
100 炉内監視装置
102 IRセンサー
104 センサージャケット
106 レンズ
108 レンズシュラウド
110 バンドパスフィルター
112 基部
114 フレーム
116 基部
118 リニアアクチュエータ
120 内管
122 外管
124 バッフル
126 上部室
128 下部室
150 炉内監視システム
154 覗き窓
156 炉壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスを溶解する方法であって、
(i)一連の制御パラメータに従ってガラス溶解炉を運転するステップ、
(ii)前記ガラス溶解炉にガラスバッチを供給するステップ、
(iii)前記ガラスバッチを溶融ガラスに溶解するステップであって、該溶解の間に、 前記ガラスバッチの一部及び泡沫を含む表層が、前記溶融ガラスの表面に形成されるステップ、
(iv)前記ガラス溶解炉の内部の複数のサーモグラムを取得するステップ、
(v)前記サーモグラムを分析することにより、前記表層に熱力学的不安定性が存在するか否かを判定するステップ、及び
(vi)前記一連の制御パラメータを調整することにより、存在すると判定された前記表層の熱力学的不安定性を低減するステップ、
を有して成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ステップ(v)が、
(vii)少なくとも1つのサーモグラムを分析することにより第1調査経路に沿った第1温度プロファイル及び第2調査経路に沿った第2温度プロファイルを取得し、
(viii)前記第1温度プロファイルと前記第2温度プロファイルとを比較することにより、該第1温度プロファイルと該第2温度プロファイルとがどの程度異なっているかを判定すること、
を含んで成ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(v)が、
(x)少なくとも1つの前記サーモグラムの前記表層に対応する部分を対称な半部分に分割し、
(x)前記半部分を比較することにより、該半部分がどの程度熱的に非対称であるかを判定すること、
を含んで成ることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(ii)が、前記炉の壁に設けられた第1供給窓及び第2供給窓を通して前記バッチを供給することを含んで成ることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(v)が、
(xi)前記サーモグラムの少なくとも1つから、前記第1供給窓の第1バッチ充填速度及び前記第2供給窓の第2バッチ充填速度を算出し、
(xii)前記第1バッチ充填速度を前記第2バッチ充填速度と比較することにより、該第1バッチ充填速度と該第2バッチ充填速度とがどの程度異なっているかを判定すること、
を含んで成ることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
支持体と、
前記支持体に接続された赤外線センサーと、
前記支持体に接続され、前記赤外線センサーに光学的に接続されたレンズと、
前記支持体に接続され、該支持体を移動するためのアクチュエータと、
を有して成ることを特徴とするガラス溶解炉撮像装置。
【請求項7】
内部に前記赤外線センサーを備え、温度制御されたセンサージャケットを更に有して成ることを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項8】
内部に前記レンズを備え、温度制御されたシュラウドを更に有して成ることを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項9】
前記温度制御されたシュラウドが、前記レンズを通して又は該レンズの周囲に冷却流体を循環させるための2つの独立した流路を有して成ることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記赤外線センサーと前記レンズとの間の光路にバンドパスフィルターを更に有して成ることを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項11】
前記バンドパスフィルターの中心周波数が略0.85μmであることを特徴とする請求項10記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図8B】
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【図9】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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