説明

ガラス発泡体入り路盤材

【課題】 路盤材の必要強度を確保しつつ長期強度を抑制して補修工事の容易化・短時間化を図ることができる軌道工事用の路盤材を提供すること。
【解決手段】 骨材と、骨材同士を結合する結合材とを備えた軌道工事に用いられる路盤材において、前記骨材としてガラスの発泡率を調整することにより圧縮強度が所定範囲内に設定されたガラス発泡体を含有する。また、前記ガラス発泡体は、一軸圧縮強度が2〜4N/mmに設定されており、廃ガラスに発泡剤を添加して焼成することにより製造されている。更に、前記結合材は、早強ポルトランドセメントを主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軌道工事に用いられる路盤材に関し、詳しくは、路盤材の長期強度を抑制して補修工事の容易化・短時間化を図る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、列車の高速化とダイヤの一層の過密化が進み、補修工事直後の列車運行によって繰り返し荷重が軌道下の路盤に掛かるため、軌道工事に用いられる路盤材には、初期強度の発現が良好なものが用いられるようになってきている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一般的に、軌道下の路盤材は、骨材と結合材とから構成されており、初期強度と長期強度を別々に制御することができず、初期強度が高くなるよう調合すると必然的に長期強度も非常に高くなってしまうものであった。そのため、特許文献1に記載されているような長期強度が高い路盤材では、軌道狂いの補修作業のため既存の路盤材を一部撤去する場合、通常のバックホーなどで割り砕くことができず、撤去するのに時間がかかり、列車の運行ダイヤに支障をきたすという問題があった。
【0004】
また、補修作業のし易さだけを考慮して初期強度の発現が遅い路盤材を用いると、所定時間(期間)経過後の必要強度が足りず、噴泥対策、鉄道継ぎ目部分の沈下対策、橋台背面などの高強度構造物隣接盛土の沈下対策、シートパイル、H鋼などの土留め材引き抜き後の地盤の弛み対策には使えなくなるという問題がある。
【0005】
一方、特許文献2には、透水性、保水性を備え、耐スリップ性が高く、耐久性にも優れた舗装面を形成するため、廃ガラスの粉末10、フライアッシュセメント11、骨材などをミキサ12で混合した後、マグネシウム塩とポリエチレンイミンとの複合体からなる高分子化合物の希釈水溶液14を添加、混練して得られた混練物15を、路床16上に打設して固化させた路盤材が開示されている(特許文献2の図1,図4等参照)。
【0006】
また、特許文献3には、コンクリート面における滑り止めを実現するため、ガラス粉末と発泡剤とを混ぜて焼成してなる多数の発泡材1を他の骨材と共にセメントと混合して打設し養生した後、カット又は研磨などの手法で発泡材1を露出させた発泡材入りコンクリートが開示されている(特許文献3の図2,図3等参照)。
【0007】
しかし、特許文献2及び3のいずれの文献にも路盤材の長期強度を抑制して補修作業を容易かつ短時間でできるようにするという発想は開示されておらず、軌道工事に用いられる路盤材として前記課題を解決することができるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−339784号公報
【特許文献2】特開2002−146708号公報
【特許文献3】特開2005−053732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、前記従来の技術の問題を解決し、路盤材の必要強度を確保しつつ長期強度を抑制して補修工事の容易化・短時間化を図ることができる軌道工事用の路盤材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、骨材と、骨材同士を結合する結合材とを備えた軌道工事に用いられる路盤材において、前記骨材としてガラスの発泡率を調整することにより圧縮強度が所定範囲内に設定されたガラス発泡体を含有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のガラス発泡体入り路盤材において、前記ガラス発泡体は、一軸圧縮強度が2〜4N/mmに設定されている。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のガラス発泡体入り路盤材において、前記ガラス発泡体は、廃ガラスに発泡剤を添加して焼成することにより製造されている。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のガラス発泡体入り路盤材において、前記結合材は、早強ポルトランドセメントを主成分とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、骨材と、骨材同士を結合する結合材とを備えた軌道工事に用いられる路盤材において、前記骨材としてガラスの発泡率を調整することにより圧縮強度が所定範囲内に設定されたガラス発泡体を含有するので、路盤材の必要強度を確保しつつ長期強度を抑制して補修工事の容易化・短時間化を図ることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載のガラス発泡体入り路盤材において、前記ガラス発泡体は、一軸圧縮強度が2〜4N/mmに設定されているので、前記作用効果に加え、噴泥対策、鉄道継ぎ目部分の沈下対策などに使用する際に求められる必要強度1.2N/mm以上を確保することができるとともに、補修作業のため既存の路盤材を一部撤去する場合に都合のよい圧縮強度が5N/mm以下にすることができ、補修工事の容易化・短時間化を図ることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載のガラス発泡体入り路盤材において、前記ガラス発泡体は、廃ガラスに発泡剤を添加して焼成することにより製造されているので、前記作用効果に加え、廃ガラスを使用するため低コストに抑えることができるとともに、環境負荷も軽減することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかに記載のガラス発泡体入り路盤材において、前記結合材は、早強ポルトランドセメントを主成分とするので、前記作用効果に加え、路盤材の必要強度を早期に発現させることができ、列車の運行ダイヤに支障をきたすおそれをより一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1〜3の路盤材の養生時間と一軸圧縮強度との関係を、従来の路盤材と比較して示すグラフである。
【図2】従来の路盤材の養生時間と一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
本発明のガラス発泡体入り路盤材は、軌道工事において路床上に打設され、硬化後軌道を支持する路盤として用いられるものであり、主に、骨材と、骨材同士を結合する結合材と、水などから構成されている。
【0021】
背景技術で述べたように、特許文献1に記載されたような初期強度発現が良好な従来の路盤材は、図2に示すように、路盤材として必要とされる強度(1.2N/mm程度)を早期に発現するように調合すると、水和反応は水分がある限り材齢(時間)とともに進行するため、路盤材の圧縮強度も徐々に増強していくこととなり、結果的に長期強度が必要以上に増大してしまう。
【0022】
そこで、本発明のガラス発泡体入り路盤材は、骨材として砂などの細骨材に加え、後述のガラス発泡体を混入させて、そのガラス発泡体が所定範囲の強度域で圧壊することで路盤材全体の長期強度を抑制して軌道工事における補修作用の容易化・短時間化を図るものである(図1参照)。
【0023】
(結合材)
結合材としては、一般的には、ポルトランドセメントが用いられるが、骨材を包み込んで硬化し、路盤材としての必要強度である1.2N/mm程度以上を確保できるものであれば合成樹脂や石膏などの他の材料であっても構わない。
また、路盤材の配合や結合材の種類を替えることで路盤材の必要強度の発現時期(養生時間)を調整することができ、長期強度も発泡率を調整することで抑制することができる。次の表1に、実施例1〜3に係る路盤材の配合とその一軸圧縮強度との関係を示す。
【0024】
【表1】

ここで、実施例1〜3の路盤材の結合材として含有するセメントには、早期に必要強度を発現するため早強ポルトランドセメントが採用されている。また、発泡体は、後述のように、発泡率を所定の倍率とすることで実施例1のガラス発泡体が2N/mm程度で圧壊し、実施例2及び3のガラス発泡体が3〜4N/mm程度で圧壊するように設定されている。
【0025】
(実施例1)
実施例1に係る路盤材は、含有するガラス発泡体の強度を2N/mm程度で圧壊するように設定されているので、図1に示すように、路盤材全体の長期強度も2N/mm程度とすることができる。このため、通常のバックホーなどで割り砕くことができ、路盤材の撤去作業(軌道工事の補修作業)を容易にすることができる。
【0026】
(実施例2)
また、実施例2に係る路盤材は、セメントを早強セメントとして水セメント比を実施例1より低くすることで、結合材の強度を高めて必要強度(1.2N/mm)の発現を早めている。このため、材齢が7日で早くも2.71N/mmの強度発現が認められる。
【0027】
(実施例3)
更に、実施例3に係る路盤材は、水セメント比を実施例1及び2より低くして強度を高く設定するとともに、急結材を添加することで、より一層結合材の強度発現を早めている。このため、数時間程度の養生期間で路盤材の必要強度を確保することができ、列車の運行再開を早期に行うことができる。また、含有するガラス発泡体は、4N/mm程度で圧壊するように設定されているので、路盤材の長期強度も5N/mm程度に抑制することができ、路盤材の撤去作業も容易に行なうことができる。
なお、急結材としては、アルミン酸塩、硫酸塩、炭酸塩及びケイ酸塩等のアルカリ金属塩、並びにカルシウムアルミネート等の既知の急結材を用いることができる。
【0028】
(ガラス発泡体)
実施例1〜3に用いたガラス発泡体は、0.2mm以下の粒径からなる廃ガラスの微粉末に、発泡剤を添加して800〜1100℃程度の温度で焼成することで発泡させている。この発泡剤は、廃ガラスの粉末を発泡させることができる物質であれば、特に種類は問わないが、好適には、炭酸カルシウム、ホウ砂、炭化珪素、硫黄、炭素、ドロマイト、硝酸ソーダ、及び硝酸カルシウムから選択される一種類の物質であり、廃ガラスの微粉末に対して重量%で0.1〜4.0%の範囲で添加される。添加量を0.1〜4.0%としたのは、0.1%未満だとガラスが発泡せず、4.0%超添加しても発泡率にあまり変化がないからである。
【0029】
また、実験により、ガラス発泡体の発泡率とガラス発泡体の一軸圧縮強度には、反比例の関係が認められ、発泡率が(発泡後の容積が発泡前の容積の)5.8倍のとき、一軸圧縮強度が2.9N/mm、発泡率が7.1倍のとき、一軸圧縮強度が2.4N/mmとなることが確認された。
【0030】
よって、ガラス発泡体の一軸圧縮強度を、路盤材の必要強度である1.2N/mm以上で、補修作業のし易い5N/mm以下とするには、ガラス発泡体の発泡率を8.2倍〜2.9倍とすればよい。
添加する発泡剤の種類により発泡剤のガラス廃材に対する添加量は異なるが、上記発泡率に着目すれば、即ち、発泡剤の添加量とガラス発泡体の発泡率との関係を実験により求めることにより、ガラス発泡体の一軸圧縮強度を所望の2〜4N/mmの範囲にコントロールすることが可能である。
【0031】
以上のように、本発明の実施例に係る路盤材によれば、ガラス発泡体の発泡率を調整することにより、ガラス発泡体の一軸圧縮強度を所望の2〜4N/mmとすることができ、路盤材全体でも、一軸圧縮強度を、必要強度の1.2N/mm以上で、補修作業のし易い5N/mm以下とすることができる。このため、路盤材の必要強度を確保しつつ長期強度を抑制して補修工事の容易化・短時間化を図ることができる。
【0032】
また、結合材のセメントを早強ポルトランドセメントとしたり、急結材を添加したりすることにより、路盤材の必要強度を早期に発現させることができ、列車の運行ダイヤに支障をきたすおそれをより一層低減することができる。
【0033】
以上のように、本発明の実施例に係る路盤材を説明したが、骨材、結合材などは、既知のものを使用することができ、特許請求の範囲で適宜変更可能なのはいうまでもない。特に、骨材としては、砕石や割栗石などの粗骨材を含有してもよく、細骨材としても前記ガラス発泡体の他、山砂や海砂などの自然の砂だけでなく、人工の砂などを含有しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の活用例としては、噴泥対策、鉄道継ぎ目部分の沈下対策、橋台背面などの高強度構造物隣接盛土の沈下対策、シートパイル、H鋼などの土留め材引き抜き後の地盤の弛み対策として、軌道工事用の路盤材として用いることが考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材と、骨材同士を結合する結合材とを備えた軌道工事に用いられる路盤材において、前記骨材としてガラスの発泡率を調整することにより圧縮強度が所定範囲内に設定されたガラス発泡体を含有することを特徴とするガラス発泡体入り路盤材。
【請求項2】
前記ガラス発泡体は、一軸圧縮強度が2〜4N/mmに設定されている請求項1に記載のガラス発泡体入り路盤材。
【請求項3】
前記ガラス発泡体は、廃ガラスに発泡剤を添加して焼成することにより製造されている請求項1又は2に記載のガラス発泡体入り路盤材。
【請求項4】
前記結合材は、早強ポルトランドセメントを主成分とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガラス発泡体入り路盤材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−107785(P2013−107785A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252593(P2011−252593)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 公益社団法人 土木学会 土木学会平成23年度全国大会 第66回年次学術講演会講演概要集(DVD−ROM) 第677、678ページ 平成23年8月5日
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【Fターム(参考)】