説明

ガラス組成物、並びにこれを用いたポリカーボネート樹脂用ガラスフィラー及びポリカーボネート樹脂組成物

【課題】ポリカーボネート樹脂に配合するガラスフィラーに好適に用いられ得るガラス組成物を提供する。
【解決手段】
質量%で表して、45≦SiO2≦65、0.5≦B23<2、5≦Al23≦15、5≦CaO≦25、0.1≦MgO≦10、7<TiO2≦12、0≦(Li2O+Na2O+K2O)<2、の成分を含有するガラス組成物を提供する。このガラス組成物は、1.575〜1.595の屈折率ndと、45〜49のアッベ数νdとを有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、特にポリカーボネート樹脂に配合するガラスフィラーとして好適に用いられ得るガラス組成物に関する。また、本発明は、当該ガラス組成物を用いたポリカーボネート樹脂用ガラスフィラー及びポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA〔2,2−ビス(4´−ヒドロキシフェニル)プロパン〕と、ホスゲン又は炭酸エステルとの共重合により量産されているポリ炭酸エステルである。ポリカーボネート樹脂は、他の樹脂材料に比較して、機械的強度、耐衝撃性、耐熱性及び透明性が優れており、エンジニアリングプラスチックとして電気機器の筐体、自動車部品、建築材料等に用いられている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂の機械的強度や耐熱性等をさらに向上させるために、ポリカーボネート樹脂にフィラーが配合されることがある。ポリカーボネート樹脂等を補強する目的で用いられるフィラーとしては、鱗片状、繊維状、粉末状、ビーズ状等の形態を有するガラスフィラーが知られている。このようなガラスフィラーを構成するガラス組成物としては、Eガラスのような無アルカリ珪酸塩ガラス、Cガラスのような含アルカリ珪酸塩ガラス、通常の板ガラス等のガラス組成物が挙げられる。
【0004】
しかし、ポリカーボネート樹脂に上記のガラス組成物からなるガラスフィラーを添加すると、得られたポリカーボネート樹脂組成物の性能が低下することがある。すなわち、ガラスフィラーとして上記のような組成物を用いた場合には、ポリカーボネート樹脂とガラスフィラーとで屈折率が異なるため、ポリカーボネート樹脂とガラスフィラーとの界面で光が散乱して、ポリカーボネート樹脂組成物の透明性が低下する。
【0005】
このような背景から、ポリカーボネート樹脂への配合に適したガラスフィラーが開発されてきた。
【0006】
例えば、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂組成物の透明性を確保する目的で、屈折率nDがポリカーボネートの屈折率nD(約1.585)に近づくように組成が調整されたガラス繊維が開示されている。このガラス繊維の具体的な屈折率nDの範囲は、1.570〜1.600である。このガラス繊維には、Na2O及びK2Oがそれぞれ3重量%以上含まれている(アルカリ金属酸化物の含有率は6重量%以上となる)。
【0007】
特許文献2では、ポリカーボネート樹脂組成物の透明性を確保するために、ガラス繊維の屈折率ndをポリカーボネートの屈折率ndの値に近づけることとともに、ガラス繊維のアッベ数νdをポリカーボネートのアッベ数νd(約30)に近づけることが課題とされている。特許文献2には、屈折率ndが1.570〜1.600であり、アッベ数νdが50以下であるガラス繊維が開示されている。特許文献2に開示されているガラス組成物も、相当量のアルカリ金属酸化物を含んでいる(実施例におけるアルカリ金属酸化物の含有率は16%以上)。
【0008】
特許文献1又は2に開示されているガラス繊維をポリカーボネート樹脂に配合すると、ガラス繊維に含まれるアルカリイオンにより加水分解反応が促進され、ポリカーボネート樹脂の分子量が低下する。
【0009】
特許文献3〜5には、アルカリ金属酸化物の含有率が2質量%以下に制限されたガラスフィラーが開示されている。特許文献3の実施例には屈折率nDが1.581〜1.585でありアッベ数νDが58〜59であるガラス繊維が、特許文献4の実施例には屈折率ndが1.581〜1.599でありアッベ数νdが50〜56であるガラス組成物が、特許文献5の実施例には屈折率ndが1.582〜1.596でありアッベ数νdが52〜57であるガラス組成物が、それぞれ記載されている。上記各実施例のアッベ数は、いずれも50以上であり、ポリカーボネート樹脂のアッベ数(約30)との相違がやや大きい。
【0010】
特許文献4の比較例及び特許文献5の比較例には、50未満のアッベ数を有するガラス組成物が開示されている。具体的には、特許文献4の比較例に記載のガラス組成物では、屈折率ndが1.607であり、アッベ数νdが44である。また、特許文献5の比較例に記載のガラス組成物では、屈折率ndが1.612であり、アッベ数νdが43である。上記各比較例の屈折率ndは、いずれも1.600を超えており、ポリカーボネート樹脂の屈折率nd(約1.585)との相違が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58−60641号公報
【特許文献2】特開平5−294671号公報
【特許文献3】特開2007−153729号公報
【特許文献4】国際公開第2008/156090号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2008/156091号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献3〜5に開示されているガラス組成物では、アルカリ金属酸化物の含有率が微量(2質量%以下)に抑えられている。従って、加水分解によるポリカーボネート樹脂の分子量の低下がポリカーボネート樹脂組成物の特性に大きな影響を及ぼすことはない。しかし、特許文献3〜5のいずれにおいても、屈折率及びアッベ数をともにポリカーボネート樹脂への配合に特に適した範囲(屈折率:1.575〜1.595程度、アッベ数49以下程度)に制御することはできていない。
【0013】
特許文献4及び5の実施例、比較例の特性を比較すると、アルカリ金属酸化物の含有率を低く抑えたガラス組成物では、屈折率を適切な範囲に調整するとアッベ数が高くなり、アッベ数を適切な範囲に調整すると、屈折率が高くなり過ぎることが理解できる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明は、アルカリ金属酸化物の含有率が低く制限され、かつ屈折率及びアッベ数をポリカーボネート樹脂への配合に特に適した範囲に調整できるガラス組成物の提供を目的とする。
【0015】
本発明は、
質量%で表して、
45≦SiO2≦65、
0.5≦B23<2、
5≦Al23≦15、
5≦CaO≦25、
0.1≦MgO≦10、
7<TiO2≦12、
0≦(Li2O+Na2O+K2O)<2、
の成分を含有する、ガラス組成物、
を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガラス組成物では、アルカリ金属酸化物の含有率が低く抑えられている。このため、本発明のガラス組成物は、ポリカーボネート樹脂に配合されてもポリカーボネート樹脂の加水分解反応は生じ難い。また、本発明によれば、ガラス組成物の屈折率及びアッベ数を、ポリカーボネート樹脂の屈折率及びアッベ数に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】鱗片状ガラスの一例の模式図
【図2】鱗片状ガラスの製造装置の一例の模式図
【図3】チョップストランドの製造装置の一例の模式図
【図4】チョップストランドの製造装置の一例の模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
[ガラス組成物]
本実施形態のガラス組成物は、必須成分として、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ホウ素(B23)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、及び酸化チタン(TiO2)を含有する。また、ガラス組成物は、必要に応じて、酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)及び酸化カリウム(K2O)から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。各成分の含有率は質量%で表して、
45≦SiO2≦65、
0.5≦B23<2、
5≦Al23≦15、
5≦CaO≦25、
0.1≦MgO≦10、
7<TiO2≦12、
0≦(Li2O+Na2O+K2O)<2、
に設定される。
【0020】
ガラス組成物には、必要に応じてさらに酸化ストロンチウム(SrO)が含まれていてもよい。酸化ストロンチウムの含有率は20質量%以下であることが好ましい。さらに、ガラス組成物には、酸化バリウム(BaO)、酸化亜鉛(ZnO)等の成分が含まれていてもよい。
【0021】
このガラス組成物を構成する各成分について、以下詳細に説明する。
【0022】
(SiO2
二酸化ケイ素(SiO2)は、ガラスの骨格を形成する主成分である。本明細書において、主成分とは含有率が最も多い成分であることを意味する。二酸化ケイ素は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であり、耐水性を向上させる成分でもある。ガラス組成物における二酸化ケイ素の含有率が45質量%以上であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透の少ないガラスを製造し易い(45質量%未満ではΔT(「作業温度−失透温度」、詳細は後述)が0℃より小さくなり易く、屈折率ndが1.595より高くなり易い)。また、ガラスの耐水性及び耐酸性も向上する。他方、二酸化ケイ素の含有率が65質量%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる(65質量%を超えると作業温度が1300℃より高くなり易い)。
【0023】
従って、二酸化ケイ素の含有率の下限は、45質量%以上であり、48質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、52質量%以上が最も好ましい。一方、二酸化ケイ素の含有率の上限は、65質量%以下であり、60質量%以下が好ましく、58質量%以下がより好ましい。二酸化ケイ素の含有率の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には45質量%以上65質量%以下であり、48質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0024】
(B23
三酸化二ホウ素(B23)は、ガラスの骨格を形成する成分である。また、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であり、さらには耐水性を向上させる成分でもある。ガラス組成物における三酸化二ホウ素の含有率が0.1質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。さらには、このようなガラスであれば、アルカリイオンの溶出を抑制できるので、フィラーとしてポリカーボネート樹脂に配合してもポリカーボネート樹脂の分子量を低下させ難い。三酸化二ホウ素の含有率が2質量%未満であれば、ガラスを溶融する際に溶融窯や蓄熱窯の炉壁を浸食して窯の寿命を著しく低下させることがない(2質量%以上の場合は、ΔTが0℃より小さくなり易くなることも考えられる)。
【0025】
また、三酸化二ホウ素は、ガラス組成物の屈折率ndを低下させる作用を有する。ガラス組成物の屈折率ndを適切な範囲に調整する観点(特に、後述のように酸化チタン(TiO2)の作用により、上昇しすぎた屈折率ndを低下させる観点)から、本実施形態では、三酸化二ホウ素の含有率が0.5質量%以上に設定されている。
【0026】
以上から、三酸化二ホウ素の含有率の下限は、0.5質量%以上であり、0.6質量%以上が好ましい。一方、三酸化二ホウ素の含有率の上限は、2質量%未満であり、1.8質量%未満が好ましく、1.6質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下であってもよい。この三酸化二ホウ素の含有率の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には0.5質量%以上2質量%未満であり、0.5質量%以上1.8質量%未満であることが好ましい。
【0027】
(Al23
酸化アルミニウム(Al23)は、ガラスの骨格を形成する成分である。また、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であり、さらには耐水性を向上させる成分でもある。ガラス組成物における酸化アルミニウムの含有率が5質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる(5質量%未満の場合は、ΔTが0℃より小さくなり易く、屈折率ndが1.595より高くなり易い)。さらには、このようなガラスであれば、アルカリイオンの溶出を抑制できるので、フィラーとしてポリカーボネート樹脂に配合してもポリカーボネート樹脂の分子量を低下させ難い。酸化アルミニウムの含有率が15質量%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる(15質量%を超えると、作業温度が1300℃より高くなり易い)。
【0028】
従って、酸化アルミニウムの含有率の下限は、5質量%以上であり、8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。一方、酸化アルミニウムの含有率の上限は、15質量%以下であり、14.5質量%以下が好ましい。酸化アルミニウムの含有率の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には5質量%以上15質量%以下であり、8質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0029】
(CaO)
酸化カルシウム(CaO)は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。ガラス組成物における酸化カルシウムの含有率が5質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。酸化カルシウムの含有率がガラス組成物中に25質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制し易く、失透の少ないガラスを容易に製造できる(5質量%未満もしくは25質量%を超えるとΔTが0℃より小さくなり易い)。
【0030】
従って、酸化カルシウムの含有率の下限は、5質量%以上であり、8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。酸化カルシウムの含有率の上限は、25質量%であり、23質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下が最も好ましい。酸化カルシウムの含有率の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には5質量%以上25質量%以下であり、8質量%以上23質量%以下であることが好ましい。
【0031】
(MgO)
酸化マグネシウム(MgO)は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。ガラス組成物における酸化マグネシウムの含有率が0.1質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。ガラス組成物における酸化マグネシウムの含有率が10質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制し易く、失透の少ないガラスを容易に製造できる(0.1質量%未満もしくは10質量%を超えるとΔTが0℃より小さくなり易い)。
【0032】
従って、酸化マグネシウムの含有率の下限は、0.1質量%以上であり、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。酸化マグネシウムの含有率の上限は、10質量%以下であり、9質量%未満が好ましく、8質量%未満がより好ましく、5質量%以下が最も好ましい。酸化マグネシウムの含有率の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には0.1質量%以上10質量%以下であり、1質量%以上9質量%未満であることが好ましい。
【0033】
(TiO2
酸化チタン(TiO2)は、ガラスの屈折率nd及びアッベ数νdを調整する成分である。また、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であり、さらには耐水性を向上させる成分でもある。ガラス組成物における酸化チタンの含有率が7質量%より大きければ、屈折率nd及びアッベ数νdの調整が容易になる(7質量%未満ではアッベ数νdが50以上となり易い)。さらには、このようなガラスであれば、アルカリイオンの溶出を抑制できるので、フィラーとしてポリカーボネート樹脂に配合してもポリカーボネート樹脂の分子量を低下させ難い。他方、酸化チタンの含有率が12質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制し易く、失透の少ないガラスを容易に製造できる(12質量%を超えるとΔTが0℃より小さくなり易い)。
【0034】
従って、酸化チタンの含有率の下限は、7質量%より大きく、7.3質量%より大きいことが好ましく、7.7質量%以上がより好ましい。一方、酸化チタンの含有率の上限は、12質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましく、8質量%以下が最も好ましい。この酸化チタンの含有率の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には7質量%より大きく12質量%以下であり、7質量%より大きく10質量%以下であることが好ましく、7質量%より大きく9質量%以下であることが特に好ましい。また、三酸化二ホウ素の含有率が0.5質量%以上1.8質量%未満でありかつ酸化チタンの含有率が7質量%より大きく10質量%以下であることが好ましく、三酸化二ホウ素の含有率が0.5質量%以上1.8質量%未満でありかつ酸化チタンの含有率が7質量%より大きく9質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
(SrO)
酸化ストロンチウム(SrO)は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。酸化ストロンチウムは必須成分ではないが、ガラス組成物における含有率が20質量%以下であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。
【0036】
従って、酸化ストロンチウムの含有率の上限は、20質量%が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が最も好ましい。酸化ストロンチウムの含有率の範囲は、具体的には0質量%以上20質量%以下が好ましく、0質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0037】
(BaO)
酸化バリウム(BaO)は比重が大きく、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして使用した場合に、ポリカーボネート樹脂に対する分散性が悪くなる。さらに、酸化バリウム(BaO)は、その原料の取扱いに配慮を要するとともに、高価である。従って、酸化バリウムは実質的に含有されないことが好ましい。
【0038】
(ZnO)
酸化亜鉛(ZnO)は、揮発しやすいため、ガラスの溶融時に飛散する可能性がある。従って、酸化亜鉛は実質的に含有されないことが好ましい。これにより、ガラスの溶融時におけるガラスの組成変動が抑制される。
【0039】
(Li2O、Na2O、K2O)
アルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)は、ガラス形成時の失透温度及び粘度を調整する成分である。
【0040】
アルカリ金属酸化物は必須ではないが、酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの含有率の合計(Li2O+Na2O+K2O)が2質量%未満であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上する。その上、失透温度に対して作業温度が高くなり、失透の少ないガラスを容易に製造できる。さらには、このようなガラスであれば、アルカリイオンの溶出を抑制できるので、フィラーとして配合してもポリカーボネート樹脂の分子量を低下させ難い。
【0041】
従って、酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの含有率の合計(Li2O+Na2O+K2O)の上限は2質量%未満であることが好ましく、1.5質量%以下が好ましく、1質量%未満がより好ましく、0.8質量%以下が最も好ましい。
【0042】
(ZrO2
酸化ジルコニウム(ZrO2)は、一般的にはガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であるが、本実施形態のガラス組成物においては失透温度の上昇をまねき、ガラスの融点を高くする。これを考慮すると、酸化ジルコニウムの含有率の範囲は、0質量%以上1質量%以下であることが好ましい。また、酸化ジルコニウムは実質的に含有されないことがより好ましい。
【0043】
(Fe)
通常、ガラス中に含まれる鉄(Fe)は、Fe3+又はFe2+の状態で存在する。Fe3+はガラスの紫外線吸収特性を向上させる成分であり、Fe2+はガラスの熱線吸収特性を向上させる成分である。鉄は、意図的に含ませなくとも、他の工業用原料から不可避的にガラス組成物に混入する場合がある。鉄の含有率が少なければ、ガラスの着色を抑制できる。このようなガラスをフィラーとして用いると、ポリカーボネート樹脂組成物の透明性が損なわれ難い。
【0044】
従って、鉄の含有率は少ない方が好ましく、三二酸化鉄(Fe23)に換算して0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、実質的に含有されないことがさらに好ましい。
【0045】
(SO3
三酸化硫黄(SO3)は必須成分ではないが、清澄剤として使用してもよい。硫酸塩の原料を使用すると、ガラス組成物中に三酸化硫黄が0.5質量%以下の量で含まれることがある。
【0046】
(F)
フッ素(F)は、揮発し易いため、ガラスの溶融時に飛散し、ガラスの溶融時におけるガラスの組成変動の原因となる可能性があるとともに、ガラス中の含有率を管理し難いという問題もある。また、フッ素は、その原料の取扱いに配慮を要するとともに、高価である。従って、フッ素は実質的に含有されないことが好ましい。また、酸化亜鉛及びフッ素が実質的に含有されないことがより好ましく、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化亜鉛及びフッ素が実質的に含有されないことが特に好ましい。
【0047】
ここで、実質的に含有されないとは、例えば工業用原料から不可避的に混入される場合を除き、意図的に含ませないことを意味する。具体的には、含有率がガラス組成物中に0.1質量%未満であることをいう。この含有率は好ましくは0.05質量%未満であり、より好ましくは0.03質量%未満であり、さらに好ましくは0.01質量%未満である。
【0048】
[ガラス組成物の物性]
次に、ガラス組成物の物性について説明する。
【0049】
(溶融特性)
溶融ガラスの粘度が1000dPa・sec(1000poise)のときの温度は、当該ガラスの作業温度と呼ばれ、ガラスの成形に最も適した温度である。鱗片状ガラスやガラス繊維を製造する場合、ガラスの作業温度が1100℃以上であれば、鱗片状ガラスの厚みやガラス繊維径のばらつきを小さくできる。他方、作業温度が1300℃以下であれば、ガラスを溶融する際の燃料費を低減できる。また、ガラス製造装置が熱による腐食を受け難くなり、装置寿命が延びる。
【0050】
従って、作業温度の下限は、1100℃以上が好ましく、1150℃以上がより好ましい。作業温度の上限は、1300℃以下が好ましく、1280℃以下がより好ましく、1260℃以下がさらに好ましい。作業温度の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。例えば、作業温度は1100〜1300℃が好ましく、1100〜1280℃がより好ましく、1100〜1260℃がさらに好ましい。
【0051】
また、作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが大きくなるほど、ガラス成形時に失透が生じ難くなり、均質なガラスを高い歩留りで製造できる。従って、ΔTは0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。一方、ΔTを150℃未満とすると、ガラス組成の調整が容易となる。従って、ΔTは120℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。例えば、ΔTは0〜150℃が好ましく、0〜120℃がより好ましい。
【0052】
なお、失透とは、溶融ガラス素地中に生成して成長した結晶により、白濁を生じることをいう。このような溶融ガラス素地から製造されたガラス中には、結晶化した塊が存在することがあるので、ポリカーボネート樹脂用のフィラーとしては好ましくない。
【0053】
(光学特性)
ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂の屈折率が等しければ、ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂の界面における光の散乱がないため、ポリカーボネート樹脂の透明性を維持できる。このため、ガラス組成物の屈折率は、ポリカーボネート樹脂の屈折率に近いことが好ましい。黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)で測定したポリカーボネート樹脂の屈折率ndは、通常1.585程度である。従って、ガラス組成物の屈折率ndは、1.575〜1.595が好ましく、1.580〜1.590がより好ましく、1.582〜1.588がさらに好ましく、1.583〜1.587が最も好ましい。ガラス組成物とポリカーボネート樹脂の屈折率ndの差は、0.010以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
【0054】
また、黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)で測定したポリカーボネート樹脂の屈折率nDは、通常1.585程度である。従って、ガラスフィラーの屈折率nDは、1.575〜1.595が好ましく、1.580〜1.590がより好ましく、1.582〜1.588がさらに好ましく、1.583〜1.587が最も好ましい。ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂の屈折率nDの差は、0.010以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
【0055】
アッベ数νdは、ガラス等の透明体の分散の程度を表す量であり、分散率の逆数である。ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂のアッベ数νdが近ければ、ガラスフィラーをポリカーボネート樹脂に配合してポリカーボネート樹脂組成物を構成したときに、ポリカーボネート樹脂組成物の透明性を維持できる。このため、ガラス組成物のアッベ数νdは、ポリカーボネート樹脂のアッベ数νdに近いことが好ましい。ポリカーボネート樹脂のアッベ数νdは、通常30程度である。従って、ガラス組成物のアッベ数νdは、49以下が好ましい。アッベ数νdの下限は、40程度が好ましいが、実用的には45以上であってもよい。よって、アッベ数νdは、40〜49が好ましく、例えば45〜49である。
【0056】
特に、アルカリ金属酸化物の含有率の合計の上限を制限しながらガラス組成物の屈折率nd及びアッベ数νdの両方をポリカーボネート樹脂の屈折率nd及びアッベ数νdに近づけることは容易ではない。アルカリ金属酸化物の含有率が低く抑えられたガラス組成物では、基本的に屈折率ndとアッベ数νdとはいわゆるトレードオフの関係にあるためである。しかし、本実施形態のガラス組成物によれば、ガラス組成物の屈折率nd及びアッベ数νdとを共にポリカーボネート樹脂への配合に好ましい範囲に調整することが可能である。
【0057】
具体的には、屈折率ndが1.575〜1.595であり、アッベ数νdが45〜49であるガラス組成物、さらには屈折率ndが1.585〜1.592であり、アッベ数νdが47〜49であるガラス組成物を提供することができる。
【0058】
[ガラスフィラー]
本実施形態のガラス組成物からなるガラスフィラーは、ポリカーボネート樹脂に配合するためのポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーとしての使用に適している。ガラス組成物は、例えば、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末、ガラスビーズ等の所定形態に成形され、ガラスフィラーとして用いられる。
【0059】
図1(a)は、鱗片状ガラスを模式的に示す斜視図であり、図1(b)はその鱗片状ガラスを示す平面図である。鱗片状ガラス10は、例えば平均厚さtが0.1〜15μm、平均粒子径aが0.2〜15000μm、アスペクト比(平均粒子径a/平均厚さt)が2〜1000の薄片状粒子である。なお、図1(b)中のSは、鱗片状ガラス10を平面視したときの面積である。
【0060】
ここで、鱗片状ガラスの平均厚さとは、少なくとも100枚の鱗片状ガラスを抜き取り、それらの鱗片状ガラスについて走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて厚さを測定し、その厚さの合計を、測定した鱗片状ガラスの枚数で割った値を意味する。鱗片状ガラスの平均粒子径とは、レーザ回折散乱法に基づいて測定された粒度分布において、累積体積百分率が50%に相当する粒子径(D50)を意味する。
【0061】
鱗片状ガラス10は、例えば図2に示した製造装置を用いて製造できる。図2に示すように、耐火窯槽12で溶融されたガラス組成を有するガラス素地11が、ブローノズル13に送り込まれたガスにより風船状に膨らみ、中空状ガラス膜14となる。この中空状ガラス膜14を一対の押圧ロール15で粉砕することにより、鱗片状ガラス10が得られる。
【0062】
チョップドストランドは、繊維径1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜1000の寸法を有するガラス繊維である。チョップドストランドは、例えば図3及び図4に示した装置を用いて製造できる。
【0063】
図3に示すように、耐火窯槽(図示省略)内で溶融されたガラス素地が、底部に多数(例えば2400本)のノズルを有するブッシング20から引き出されて、多数のガラスフィラメント21が形成される。ガラスフィラメント21には、冷却水を吹きかけられ、その後、バインダアプリケータ22の塗布ローラ23によりバインダ(集束剤)24が塗布される。バインダ24が塗布された多数のガラスフィラメント21は、補強パッド25により、各々が例えば800本程度のガラスフィラメント21からなる3本のストランド26として集束される。各ストランド26は、トラバースフィンガ27で綾振りされつつコレット28に嵌められた円筒チューブ29に巻き取られる。そして、ストランド26が巻き取られた円筒チューブ29をコレット28から外して、ケーキ(ストランド巻体)30が得られる。
【0064】
次に、図4に示すように、クリル31にケーキ30を収容し、そのケーキ30からストランド26を引き出して、集束ガイド32によりストランド束33として束ねる。このストランド束33に、噴霧装置34より水又は処理液を噴霧する。さらに、このストランド束33を切断装置35の回転刃36で切断して、チョップドストランド37が得られる。
【0065】
ミルドファイバーは、繊維径1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜500の寸法を有するガラス繊維である。ミルドファイバーの製造方法は、ここでは説明を省略するが、公知の方法に従えばよい。
【0066】
ガラス粉末は、1〜500μmの平均粒子径を有するものが、ガラスフィラーとしての使用には好ましい。ここで、平均粒子径は、ガラス粉末粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラス粉末は、公知の方法に従って製造できる。
【0067】
ガラスビーズは、1〜500μmの粒子径を有するものが、ガラスフィラーとしての使用には好ましい。ここで、粒子径は、ガラスビーズ粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラスビーズは、公知の方法に従って製造できる。
【0068】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
ガラス組成物から形成されるガラスフィラーはポリカーボネート樹脂に配合されることにより、ポリカーボネート樹脂組成物を構成する。ポリカーボネート樹脂組成物中におけるガラスフィラーの含有率は目的に応じて適宜設定されるが、例えば10〜50質量%が好ましい。ガラス組成物から形成されるガラスフィラーは、ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が小さく、アルカリ成分の溶出が少なく、化学的耐久性に優れている。従って、得られるポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と同等の透明性と、ポリカーボネート樹脂よりも優れた機械的強度及び耐熱性を兼ね備えている。
【0069】
ポリカーボネート樹脂組成物は、公知の方法に従って製造できる。具体的には、混合機等を用いて加熱しながらポリカーボネート樹脂とガラスフィラーを溶融混練すればよい。ポリカーボネート樹脂としては、公知のものを使用できる。ガラスフィラーの形態としては、1種類に限らず、複数種類のものを組み合わせて配合してもよい。また、ポリカーボネート樹脂組成物の性能を向上させる目的で、必要に応じて各種カップリング剤や添加剤を配合してもよい。溶融混練の温度は、ポリカーボネート樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
【0070】
このようなポリカーボネート樹脂組成物を成形して成形体とすることにより、電気機器の筐体、自動車部品、建築材料等に好適に使用できる。成形は公知の方法に従って行えばよく、押出成形法、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形によるシート成形法等が採用される。なお、成形時の加熱温度は、ポリカーボネート樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
【0071】
以下、実施例及び比較例を挙げて、実施形態をさらに具体的に説明する。
【0072】
(実施例1〜9及び比較例1〜3)
表1〜表2に示した組成となるように、珪砂等の通常のガラス原料を調合し、実施例及び比較例毎にガラス原料のバッチを作製した。電気炉を用いて、各バッチを1400〜1600℃まで加熱して溶融させ、組成が均一になるまで約4時間そのまま維持した。その後、溶融したガラス(ガラス溶融物)を鉄板上に流し出し、電気炉中で室温まで徐冷してガラス組成物(バルク:板状物)を得た。
【0073】
また、ガラス組成物について、通常の白金球引き上げ法により粘度と温度との関係を調べ、その結果から作業温度を求めた。ここで、白金球引き上げ法とは、溶融ガラス中に浸した白金球を等速運動で引き上げる際の負荷加重(抵抗)と白金球にはたらく重力及び浮力等との関係を、微小の粒子が流体中を沈降する際の粘度と落下速度との関係を示したストークス(Stokes)の法則にあてはめることにより、粘度を測定する方法である。
【0074】
さらに、ガラス組成物を粒子径1.0〜2.8mmの大きさに粉砕し、白金ボートに入れ、温度勾配(800〜1400℃)のついた電気炉にて2時間加熱し、結晶の出現位置に対応する電気炉の最高温度から失透温度を求めた。ここで、粒子径は、ふるい分け法により測定された値である。なお、電気炉内の場所に応じて異なる温度(電気炉内の温度分布)は、予め測定されており、電気炉内の所定の場所に置かれたガラスは、予め測定された、当該所定の場所の温度で加熱される。ΔTは作業温度から失透温度を差し引いた温度差である。
【0075】
ガラス組成物の屈折率としては、プルフリッヒ屈折率計を用いて、黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)の屈折率ndを求めた。
【0076】
ガラス組成物のアッベ数νdは、ガラス組成物の屈折率ndを用いて下記式(1)により求めた。
【0077】
νd=(nd−1)/(nF−nC) (式1)
ここで、ndはd線(波長587.6nm)の屈折率であり、nFはF線(波長486.1nm)の屈折率であり、nCはC線(波長656.3nm)の屈折率である。
【0078】
これらの測定結果を表1〜表2に示す。なお、表中のガラス組成の値は、すべて質量%で表した値である(例えば、表1は、実施例1のガラス組成物におけるTiO2の含有率が7.80質量%であることを示す)。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
実施例1〜9で得られたガラス組成物の作業温度は、1247〜1275℃であった。従って、これらのガラス組成物はガラスフィラーの成形に好適である。実施例1〜9で得られたガラス組成物のΔT(作業温度−失透温度)は、13〜61℃であった。従って、これらのガラス組成物は、ガラスフィラーの製造工程において失透を生じ難い。実施例1〜9で得られたガラス組成物の屈折率ndは1.587〜1.592であった。実施例1〜9で得られたガラス組成物のアッベ数νdは48〜49であった。
【0082】
以上のことから、実施例1〜9で得られたガラス組成物は、フィラーとしてポリカーボネート樹脂に配合する場合に適した屈折率nd及びアッベ数νdとともに、ガラスフィラーの成形に適した溶融特性を有することが分かる。
【0083】
他方、比較例1で得られたガラス組成物は、従来の板ガラスの組成を有し、SiO2、B23、Al23、TiO2及びアルカリ金属の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例1で得られたガラス組成物の屈折率ndは1.517であり、実施例1〜9における屈折率ndに比べて低かった。また、アッベ数νdは59であり、実施例1〜9のものに比べて高かった。
【0084】
比較例2で得られたガラス組成物は、従来のCガラスの組成を有し、SiO2、B23、Al23、TiO2及びアルカリ金属の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例2で得られたガラス組成物の屈折率ndは1.523であり、実施例1〜9で得られたガラス組成物の屈折率ndに比べて低かった。また、アッベ数νdは60であり、実施例1〜9のものに比べて高かった。
【0085】
比較例3で得られたガラス組成物は、従来のEガラスの組成を有し、B23及びTiO2の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例3で得られたガラス組成物の屈折率ndは1.561であり、実施例1〜9で得られたガラス組成物の屈折率ndに比べて低かった。また、アッベ数νdは59であり、実施例1〜9のものに比べて高かった。
【0086】
(実施例10〜18)
実施例10〜18では、それぞれ実施例1〜9で得られたガラス組成物(バルク)を用いて鱗片状ガラスを作製した(実施例10は実施例1に、実施例11は実施例2に・・・実施例18は実施例9に、それぞれ対応する)。すなわち、ガラス組成物(バルク)を電気炉で再溶融した後、冷却しながらペレットに成形した。このペレットを図2に示す製造装置に投入し、平均厚さが0.5〜1μmである鱗片状ガラスを作製した。鱗片状ガラスの平均厚さは、電子顕微鏡(株式会社キーエンス社製、リアルサーフェスビュー顕微鏡、VE−7800)を用い、100粒の鱗片状ガラスに対して鱗片状ガラスの断面から厚さを測定し、それらを平均することにより求めた。上述の方法により製造した鱗片状ガラスのアスペクト比は2〜1000の範囲にあるため、平均粒子径は1〜1000μmの範囲にあると考えられる。
【0087】
実施例10〜18で得られた鱗片状ガラスの屈折率nDを測定した。鱗片状ガラスの屈折率としては、浸液法により、黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)の屈折率nDを求めた。この結果を表3に示す。
【0088】
これらの鱗片状ガラス(ガラスフィラー)を各々ポリカーボネート樹脂に配合し、ポリカーボネート樹脂組成物を作製したところ、鱗片状ガラスの分散性が良く、良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られた。ポリカーボネート樹脂組成物中における鱗片状ガラスの含有率は30質量%とした。
【0089】
【表3】

【0090】
表3に示した結果より、実施例10〜18の屈折率(nD)は1.581〜1.589の範囲であり、ポリカーボネート樹脂の屈折率(nD:1.585)に近い値を示した。
【0091】
(実施例19〜27)
実施例19〜27では、それぞれ実施例1〜9で得られたガラス組成物(バルク)を用いて、ガラスフィラーとして用いることのできるチョップドストランドを作製した。すなわち、ガラス組成物(バルク)を電気炉で再溶融した後、冷却しながらペレットに成形した。このガラスペレットを図3及び図4に示す製造装置に投入して、平均繊維径が10〜20μm、長さが3mmであるチョップドストランドを作製した。
【0092】
これらのチョップドストランドを、各々ポリカーボネート樹脂に配合し、ポリカーボネート樹脂組成物を作製したところ、チョップドストランドの分散性が良く、良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られた。ポリカーボネート樹脂組成物中におけるチョップドストランドの含有率は30質量%とした。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のガラス組成物をポリカーボネート樹脂に配合すれば、電気機器の筐体、自動車部品、建築材料等に好適に使用できるポリカーボネート樹脂組成物を構成できる。
【符号の説明】
【0094】
10 鱗片状ガラス
11 ガラス素地
12 耐火窯槽
13 ブローノズル
14 中空状ガラス膜
15 押圧ロール
20 ブッシング
21 ガラスフィラメント
22 バインダアプリケータ
23 塗布ローラ
24 バインダ
25 補強パッド
26 ストランド
27 トラバースフィンガ
28 コレット
29 円筒チューブ
30 ケーキ
31 クリル
32 集束ガイド
33 ストランド束
34 噴霧装置
35 切断装置
36 回転刃
37 チョップドストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で表して、
45≦SiO2≦65、
0.5≦B23<2、
5≦Al23≦15、
5≦CaO≦25、
0.1≦MgO≦10、
7<TiO2≦12、
0≦(Li2O+Na2O+K2O)<2、
の成分を含有する、ガラス組成物。
【請求項2】
前記ガラス組成物の屈折率ndが、1.575〜1.595であり、
前記ガラス組成物のアッベ数νdが、45〜49である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
前記ガラス組成物の屈折率ndが、1.585〜1.592であり、
前記ガラス組成物のアッベ数νdが、47〜49である、請求項2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
質量%で表して、
0.5≦B23<1.8、
の成分を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項5】
質量%で表して、
7<TiO2≦9、
の成分を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項6】
質量%で表して、
0≦ZrO2≦1、
の成分を含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項7】
ZrO2を実質的に含有しない、請求項6に記載のガラス組成物。
【請求項8】
BaOを実質的に含有しない、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項9】
ZnO及びFを実質的に含有しない、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項10】
ZrO2、BaO、ZnO及びFを実質的に含有しない、請求項1〜9のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項11】
前記ガラス組成物の作業温度が、1100〜1300℃である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項12】
前記ガラス組成物の作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが0〜150℃である、請求項1〜11のいずれか一項に記載のガラス組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のガラス組成物からなる、ポリカーボネート樹脂用ガラスフィラー。
【請求項14】
鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末及びガラスビーズから選ばれる少なくとも1種である、請求項13に記載のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラー。
【請求項15】
ポリカーボネート樹脂と、請求項13又は14に記載のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーとを含有する、ポリカーボネート樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−67519(P2013−67519A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205146(P2011−205146)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】