説明

ガラス組成物及びその用途

【課題】ガラスの失透を抑え、ガラスの成形を良好に行うことができるとともに、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして好適に用いられ、屈折率及びアッベ数をポリカーボネート樹脂のそれらに近づけてポリカーボネート樹脂成形体の透明性を向上させることができるガラス組成物及びその用途を提供する。
【解決手段】ガラス組成物は、必須成分として二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化チタン(TiO)を含有し、さらに酸化リチウム(LiO)、酸化ナトリウム(NaO)及び酸化カリウム(KO)の少なくとも1種を含有する。各成分の含有量は質量%で表して、45≦SiO≦65、0.1≦Al≦15、9≦(LiO+NaO+KO)≦25及び15≦TiO≦25である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、特にポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして好適に用いることができるガラス組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA〔2,2−ビス(4´−ヒドロキシフェニル)プロパン〕と、ホスゲン又は炭酸エステルとの反応で得られるポリ炭酸エステルである。このポリカーボネート樹脂は、他の樹脂材料に比較して、機械的強度、耐衝撃性、耐熱性及び透明性に優れており、エンジニアリングプラスチックとして電気機器、自動車部品、建築材料などに用いられている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂の機械的強度や耐熱性などをさらに向上させる場合には、ポリカーボネート樹脂にフィラーが配合される。一般的に、熱可塑性樹脂などの補強の目的で用いられるフィラーとしては、鱗片状、繊維状、粉末状、ビーズ状などの形態を有するガラスフィラーが知られている。このガラスフィラーを形成するガラスの組成としては、Eガラスのような無アルカリ珪酸塩ガラス、Cガラスのような含アルカリ珪酸塩ガラス又は通常の板ガラス組成物が好適に用いられる。
【0004】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして、これらのガラス組成物を使用した場合には、ポリカーボネート樹脂の性能を損なうことがある。すなわち、Eガラス組成物、Cガラス組成物や板ガラス組成物を用いた場合には、ポリカーボネート樹脂とガラスフィラーで屈折率が異なるため、ポリカーボネート樹脂とガラスフィラーの界面で光が散乱して、ポリカーボネート樹脂の透明性が損なわれる。また、板ガラス組成物を用いた場合には、板ガラス組成物に含まれるアルカリイオンにより加水分解反応が起こり、ポリカーボネート樹脂の分子量が低下する。その結果、ポリカーボネート樹脂成形体の機械的強度などが低下する。
【0005】
そこで、近年ポリカーボネート樹脂に配合する場合に適したガラスフィラーが実用化されている。例えば特許文献1には、ポリカーボネート樹脂の強化に用いられ、ガラスの屈折率が1.570〜1.600の屈折率を有するガラス繊維組成物が開示されている。また、特許文献2には、屈折率が1.570〜1.600、アッベ数が50以下の光学定数を有するポリカーボネート樹脂強化用ガラス繊維が開示され、ポリカーボネート樹脂の補強材として使用しても、樹脂成形体の透明性を損なわせることがなく、しかも樹脂成形体の色付きを発生させることもないようになっている。さらに、特許文献3には、ポリカーボネート樹脂とガラスフィラーとを含有し、透明性、機械強度、軽量性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。そのガラスフィラーには、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化チタン及び酸化ホウ素が必須成分として含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−60641号公報
【特許文献2】特開平5−294671号公報
【特許文献3】特開2006−22236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているガラス繊維組成物には、酸化バリウムが必須成分として2〜10%含まれている。この酸化バリウムは比重が大きいため、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして使用した場合には、ポリカーボネート樹脂に対する分散性が悪くなり、ポリカーボネート樹脂成形体の透明性を損なう原因となる。
【0008】
また、特許文献2に開示されているガラス繊維においては、ガラス組成物のアッベ数がポリカーボネート樹脂のアッベ数に比べて高くなる場合があり(実施例の試料No.2では、アッベ数が45)、ガラス組成物をポリカーボネート樹脂に配合するガラスフィラーとして使用した場合には、ポリカーボネート樹脂成形体の透明性が不十分となる。加えて、このガラス繊維には、フッ素が含まれている場合があり(実施例の試料No.1)、その場合にはガラスの溶融時に飛散してガラスの組成変動が生じ、ガラスの成形に支障を来たすとともに、ガラスの物性が変化するという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献3に開示されているポリカーボネート樹脂組成物中のガラスフィラーには酸化チタンが必須成分として含まれているが、その含有量は10質量%以下である。このため、ガラスフィラーのアッベ数はポリカーボネート樹脂のアッベ数に比べて大きくなり、ポリカーボネート樹脂に配合するガラスフィラーとして使用した場合には、ポリカーボネート樹脂成形体の透明性が不足するという問題があった。
【0010】
そこで本発明の目的は、ガラスの失透を抑え、ガラスの成形を良好に行うことができるとともに、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして好適に用いられ、屈折率及びアッベ数をポリカーボネート樹脂のそれらに近づけてポリカーボネート樹脂成形体の透明性を向上させることができるガラス組成物及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明のガラス組成物は、二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化チタン(TiO)を必須成分として含有し、さらに酸化リチウム(LiO)、酸化ナトリウム(NaO)及び酸化カリウム(KO)の少なくとも1種を含有し、各成分の含有量が質量%で表して、45≦SiO≦65、0.1≦Al≦15、9≦(LiO+NaO+KO)≦25及び15≦TiO≦25であることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明のガラス組成物は、請求項1に係る発明において、さらに酸化カリウム(KO)を含有し、該成分の含有量が質量%で表して、4≦KO≦25である。
【0013】
請求項3に記載の発明のガラス組成物は、請求項1又は請求項2に係る発明において、さらに酸化マグネシウム(MgO)及び酸化カルシウム(CaO)の少なくとも1種を含有し、両成分の合計含有量が質量%で表して、0.1≦(MgO+CaO)≦10である。
【0014】
請求項4に記載の発明のガラス組成物は、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、さらに三酸化二ホウ素(B)を含有し、該成分の含有量が質量%で表して、0.1≦B≦10である。
【0015】
請求項5に記載の発明のガラス組成物は、請求項1から請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記ガラス組成物の屈折率nが1.575〜1.595である。
請求項6に記載の発明のガラス組成物は、請求項1から請求項5のいずれか1項に係る発明において、前記ガラス組成物のアッベ数νが30〜44である。
【0016】
請求項7に記載の発明のガラス組成物は、請求項1から請求項6のいずれか1項に係る発明において、前記ガラス組成物の作業温度が1100〜1300℃である。
請求項8に記載の発明のガラス組成物は、請求項1から請求項7のいずれか1項に係る発明において、前記ガラス組成物の作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが0〜150℃である。
【0017】
請求項9に記載の発明のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーは、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のガラス組成物より形成されることを特徴とする。
請求項10に記載の発明のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーは、請求項9に係る発明において、前記ガラス組成物を溶融し、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末及びガラスビーズから選ばれる少なくとも1種の形態に加工してなるものである。
【0018】
請求項11に記載の発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂に請求項9又は請求項10に記載のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーを配合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明のガラス組成物は、二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化チタン(TiO)を必須成分として含有し、さらに酸化リチウム(LiO)、酸化ナトリウム(NaO)及び酸化カリウム(KO)の少なくとも1種を含有し、各成分の含有量が質量%で表して45≦SiO≦65、0.1≦Al≦15、9≦(LiO+NaO+KO)≦25及び15≦TiO≦25に設定されている。このため、各成分及びそれらの含有量により、ガラス組成物の融点を下げることができるとともに、組成の均一化を図ることができる。また、酸化亜鉛やフッ素が必須成分として含まれていないことから、ガラスの溶融時に飛散を抑えることができ、ガラスの組成変動を抑制して所定組成のガラス組成物を構成することができる。
【0020】
さらに、ガラス組成物には酸化チタンが15〜25質量%含まれていることから、ガラスの屈折率及びアッベ数をポリカーボネート樹脂のそれらに近づけることができ、ポリカーボネート樹脂成形体の透明性を高めることができる。加えて、ガラス組成物には酸化バリウムが必須成分として含まれていないことから、ポリカーボネート樹脂に対するガラス組成物の分散性を良好に維持することができる。
【0021】
従って、ガラス組成物は、ガラスの失透を抑え、ガラスの成形を良好に行うことができるとともに、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして好適に用いられ、屈折率及びアッベ数をポリカーボネート樹脂のそれらに近づけてポリカーボネート樹脂成形体の透明性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は実施形態における鱗片状ガラスを模式的に示す斜視図、(b)は鱗片状ガラスを示す平面図。
【図2】鱗片状ガラスの製造装置を模式的に示す断面図。
【図3】チョップドストランドを製造するための紡糸装置を示す説明図。
【図4】図3の紡糸装置で得られたストランド巻体からチョップドストランドを製造するための装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
[ガラス組成物]
本実施形態のガラス組成物は、必須成分として二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化チタン(TiO)を含有し、さらに酸化リチウム(LiO)、酸化ナトリウム(NaO)及び酸化カリウム(KO)の少なくとも1種を含有する。そして、各成分の含有量は質量%で表して、45≦SiO≦65、0.1≦Al≦15、9≦(LiO+NaO+KO)≦25及び15≦TiO≦25に設定されている。このガラス組成物には、必要によりさらに酸化カリウム(KO)を含有し、該成分の含有量が質量%で表して、4≦KO≦25である。
【0024】
また、ガラス組成物には、必要によりさらに酸化マグネシウム(MgO)及び酸化カルシウム(CaO)の少なくとも1種が含まれる。これらの成分の合計含有量は質量%で表して、0.1≦(MgO+CaO)≦10である。加えて、ガラス組成物には、必要によりさらに三酸化二ホウ素(B)が含まれる。該成分の含有量は質量%で表して、0.1≦B≦10である。なお、ガラス組成物には、酸化ジルコニウム(ZrO)、鉄(Fe)等の成分が含まれていてもよい。
【0025】
このガラス組成物を構成する各成分について、以下詳細に説明する。
(二酸化珪素)
二酸化ケイ素(SiO)は、ガラスの骨格を形成する主成分である。本明細書において、主成分とは含有量が最も多い成分であることを意味する。二酸化珪素は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であり、耐水性を向上させる成分でもある。二酸化珪素の含有量がガラス組成物中に45質量%以上であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。また、ガラスの耐水性及び耐酸性も向上する。他方、二酸化珪素の含有量が65質量%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
【0026】
従って、二酸化珪素の含有量の下限は、45質量%以上であり、48質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、52質量%以上が最も好ましい。一方、二酸化珪素の含有量の上限は、65質量%以下であり、60質量%以下が好ましく、58質量%以下がより好ましく、56質量%未満が最も好ましい。二酸化珪素の含有量の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には45〜65質量%であり、好ましくは48〜58質量%である。
(酸化アルミニウム)
酸化アルミニウム(Al)は、ガラスの骨格を形成する成分である。また、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であり、さらには耐水性を向上させる成分でもある。酸化アルミニウムの含有量がガラス組成物中に0.1質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。さらには、このようなガラスであれば、アルカリイオンの溶出を抑制できるので、フィラーとしてポリカーボネート樹脂に配合してもポリカーボネート樹脂の分子量を低下させることがない。酸化アルミニウムの含有量が15質量%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
【0027】
従って、酸化アルミニウムの含有量の下限は、0.1質量%以上であり、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、4質量%より大きいことが最も好ましい。一方、酸化アルミニウムの含有量の上限は、15質量%以下であり、12質量%未満が好ましく、10質量%未満がより好ましく、8質量%以下が最も好ましい。酸化アルミニウムの含有量の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には0.1〜15質量%であり、好ましくは3〜10質量%である。
(酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム)
アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO)は、ガラス形成時の失透温度及び粘度を調整する成分である。酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量(LiO+NaO+KO)がガラス組成物中に9質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。他方、酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量(LiO+NaO+KO)が25質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。その上、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上する。
【0028】
従って、酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量(LiO+NaO+KO)の下限は、9質量%以上であり、13質量%より大きいことが好ましく、15質量%より大きいことがより好ましく、16質量%より大きいことが最も好ましい。一方、酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量(LiO+NaO+KO)の上限は25質量%以下であり、23質量%以下が好ましく、22質量%以下がより好ましく、21質量%以下が最も好ましい。これら酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には9〜25質量%であり、好ましくは15〜21質量%である。
【0029】
酸化リチウム(LiO)は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。この酸化リチウムの含有量が5質量%以下であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上する。その上、失透温度に対して作業温度が高くなり、失透のないガラスを容易に製造できる。
【0030】
従って、酸化リチウムの含有量の上限は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0031】
酸化ナトリウム(NaO)は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。この酸化ナトリウムの含有量が20質量%以下であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上する。その上、失透温度に対して作業温度が高くなり、失透のないガラスを容易に製造できる。
【0032】
従って、酸化ナトリウムの含有量の下限は、0.1質量%以上が好ましい。酸化ナトリウムの含有量の上限は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、7質量%未満が最も好ましい。
【0033】
酸化カリウム(KO)は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であるとともに、ガラスの屈折率を調整する成分である。この酸化カリウムの含有量がガラス組成物中に4質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。他方、酸化カリウムの含有量が25質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。
【0034】
従って、酸化カリウムの含有量の下限は、4質量%以上が好ましく、9質量%以上がより好ましく、13質量%以上がさらに好ましく、15質量%より大きいことが最も好ましい。酸化カリウムの含有量の上限は、25質量%以下が好ましく、23質量%以下がより好ましく、21質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が最も好ましい。酸化カリウムの含有量の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には4〜25質量%であり、好ましくは9〜21質量%である。
【0035】
酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量(NaO+KO)がガラス組成物中に9質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。他方、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量(NaO+KO)が25質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。その上、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上する。
【0036】
従って、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量(NaO+KO)の下限は、9質量%以上が好ましく、13質量%より大きいことがより好ましく、15質量%より大きいことがさらに好ましく、16質量%以上が最も好ましい。酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量(NaO+KO)の上限は、25質量%以下が好ましく、23質量%以下がより好ましく、22質量%以下がさらに好ましく、21質量%以下が最も好ましい。酸化ナトリウム及び酸化カリウムの合計含有量の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には好ましくは9〜25質量%であり、さらに好ましくは15〜21質量%である。
(酸化チタン)
酸化チタン(TiO)は、ガラスの屈折率及びアッベ数を調整する成分である。また、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分であり、さらには耐水性を向上させる成分でもある。酸化チタンの含有量がガラス組成物中に15質量%より大きければ、屈折率及びアッベ数の調整が容易になる。さらには、このようなガラスであれば、アルカリイオンの溶出を抑制できるので、フィラーとしてポリカーボネート樹脂に配合してもポリカーボネート樹脂の分子量を低下させることがない。他方、酸化チタンの含有量が25質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。
【0037】
従って、酸化チタンの含有量の下限は、15質量%以上であり、15質量%より大きいことが好ましく、16質量%以上がより好ましい。一方、酸化チタンの含有量の上限は、25質量%以下であり、22質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下が最も好ましい。この酸化チタンの含有量の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には15〜25質量%であり、好ましくは16〜18質量%である。
(酸化マグネシウム、酸化カルシウム)
酸化マグネシウム(MgO)は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。この酸化マグネシウムは必須成分ではないが、酸化マグネシウムの含有量がガラス組成物中に10質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。
【0038】
従って、酸化マグネシウムの含有量の下限は、0.1質量%以上が好ましい。酸化マグネシウムの含有量の上限は、10質量%であり、5質量%以下が好ましく、4質量%未満がより好ましく、3質量%以下が最も好ましい。酸化マグネシウムの含有量の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。
【0039】
酸化カルシウム(CaO)は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。酸化カルシウムは必須成分ではないが、酸化マグネシウムの含有量がガラス組成物中に10質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。
【0040】
従って、酸化カルシウムの含有量の下限は、0.1質量%以上が好ましい。酸化カルシウムの含有量の上限は、10質量%であり、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%未満が最も好ましい。酸化カルシウムの含有量の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。
【0041】
酸化マグネシウム及び酸化カルシウムの合計含有量(MgO+CaO)がガラス組成物中に0.1質量%以上であれば、失透温度及び粘度の調整が容易になる。他方、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムの合計含有量(MgO+CaO)が10質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。
【0042】
従って、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムの合計量(MgO+CaO)の下限は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。一方、酸化マグネシウム及び酸化カルシウムの合計含有量(MgO+CaO)の上限は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、4質量%未満がさらに好ましく、3質量%以下が最も好ましい。酸化マグネシウム及び酸化カルシウムの合計量(MgO+CaO)の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には好ましくは0.1〜10質量%であり、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。
(三酸化二ホウ素)
三酸化二ホウ素(B)は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス形成時の失透温度及び粘度を調整する成分でもある。この三酸化二ホウ素は必須成分ではないが、三酸化二ホウ素の含有量が10質量%を超えると、ガラスを溶融する際に溶融窯や蓄熱窯の炉壁を浸食して窯の寿命を著しく低下させる。従って、三酸化二ホウ素の含有量の下限は、0.1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましく、5質量%より大きいことが最も好ましい。一方、三酸化二ホウ素の含有量の上限は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。この三酸化二ホウ素の含有量の範囲はこれら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれるが、具体的には好ましくは0.1〜10質量%であり、さらに好ましくは4〜8質量%である。
(酸化ストロンチウム)
酸化ストロンチウム(SrO)は比重が大きく、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして使用した場合、ポリカーボネート樹脂に対する分散性が悪くなる。さらに、酸化ストロンチウムは、その原料の取扱いに配慮を要するとともに、高価である。従って、酸化ストロンチウムは実質的に含有させないことが好ましい。
(酸化バリウム)
酸化バリウム(BaO)は比重が大きく、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして使用した場合に、ポリカーボネート樹脂に対する分散性が悪くなる。さらに、酸化バリウム(BaO)は、その原料の取扱いに配慮を要するとともに、高価である。従って、酸化バリウムは実質的に含有させないことが好ましい。
(酸化亜鉛)
酸化亜鉛(ZnO)は、揮発しやすいため、ガラスの溶融時に飛散する可能性がある。従って、酸化亜鉛は実質的に含有させないことが好ましい。
(酸化ジルコニウム)
酸化ジルコニウム(ZrO)は、ガラスの失透温度及び粘度を調整する成分である。酸化ジルコニウムは必須成分ではないが、その含有量がガラス組成物中に5質量%以下であれば、失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。また、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
【0043】
従って、酸化ジルコニウムの含有量の上限は、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、実質的に含有させないことが最も好ましい。
(鉄)
通常、ガラス中に含まれる鉄(Fe)は、Fe3+又はFe2+の状態で存在する。Fe3+はガラスの紫外線吸収特性を向上させる成分であり、Fe2+はガラスの熱線吸収特性を向上させる成分である。鉄は、意図的に含ませなくとも、他の工業用原料から不可避的にガラス組成物に混入する場合がある。鉄の含有量が少なければ、ガラスの着色を防止することができる。このようなガラスをフィラーとして用いることにより、ポリカーボネート樹脂成形体の透明性を損なうことがない。
【0044】
従って、鉄の含有量は少ない方が好ましく、三二酸化鉄(Fe)に換算して0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
(三酸化硫黄)
三酸化硫黄(SO)は必須成分ではないが、清澄剤として使用してもよい。硫酸塩の原料を使用すると、ガラス組成物中に三酸化硫黄が0.5質量%以下の量で含まれることがある。
(フッ素)
フッ素(F)は、揮発し易いため、ガラスの溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。従って、フッ素は実質的に含有しないことが好ましい。また、フッ素は、その原料の取扱いに配慮を要するとともに、高価である。従って、フッ素は実質的に含有させないことが好ましい。
【0045】
ここで、物質を実質的に含有させないとは、例えば工業用原料から不可避的に混入される場合を除き、当該物質をガラス組成物に意図的に含ませないことを意味する。具体的には、当該物質の含有量がガラス組成物中に0.1質量%未満の含有量であることをいう。この含有量は好ましくは0.05質量%未満であり、より好ましくは0.03質量%未満であり、さらに好ましくは0.01質量%未満である。
[ガラス組成物の物性]
次に、ガラス組成物の物性について、以下詳細に説明する。
(溶融特性)
溶融ガラスの粘度が1000dPa・sec(1000poise)のときの温度は、当該ガラスの作業温度と呼ばれ、ガラスの成形に最も適した温度である。鱗片状ガラスやガラス繊維を製造する場合、ガラスの作業温度が1100℃以上であれば、鱗片状ガラスの厚みやガラス繊維径のばらつきを小さくできる。他方、作業温度が1300℃以下であれば、ガラスを溶融する際の燃料費を低減できる。また、ガラス製造装置が熱による腐食を受け難くなり、装置寿命が延びる。
【0046】
従って、作業温度の下限は、1100℃以上が好ましく、1150℃以上がより好ましい。作業温度の上限は、1300℃以下が好ましく、1280℃以下がより好ましく、1260℃以下がさらに好ましく、1250℃以下が最も好ましい。作業温度の範囲は、これら上限と下限の任意の組み合わせから選ばれる。例えば、作業温度は1100〜1300℃が好ましく、1100〜1280℃がより好ましく、1100〜1250℃がさらに好ましい。
【0047】
また、作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが大きくなるほど、ガラス成形時に失透が生じ難くなり、均質なガラスを高い歩留りで製造できる。従って、ΔTは0℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましく、50℃以上が最も好ましい。但し、ΔTを150℃未満とするならば、ガラス組成の調整が容易となるため好ましい。ΔTは120℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましく、100℃以下が最も好ましい。例えば、ΔTは0〜150℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。
【0048】
なお、失透とは、溶融ガラス素地中に生成して成長した結晶により、白濁を生じることをいう。このような溶融ガラス素地から製造したガラス中には、結晶化した塊が存在することがあるので、ポリカーボネート樹脂のフィラーとして用いる場合に好ましくない。
(光学特性)
ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂の屈折率が等しければ、ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂の界面における光の散乱がないため、ポリカーボネート樹脂の透明性を維持できる。このため、ガラス組成物の屈折率は、ポリカーボネート樹脂の屈折率に近いことが好ましい。黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)で測定したポリカーボネート樹脂の屈折率は、通常1.585程度である。従って、ガラス組成物の屈折率nは、1.575〜1.595が好ましく、1.580〜1.590がより好ましく、1.582〜1.588がさらに好ましく、1.583〜1.587が最も好ましい。
【0049】
ガラス組成物とポリカーボネート樹脂の屈折率の差としては、0.010以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
【0050】
また、ガラスフィラーの屈折率は、ポリカーボネート樹脂の屈折率に近いことが好ましい。黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)で測定したポリカーボネート樹脂の屈折率は、通常1.585程度である。従って、ガラスフィラーの屈折率nは、1.575〜1.595が好ましく、1.580〜1.590がより好ましく、1.582〜1.588がさらに好ましく、1.583〜1.587が最も好ましい。
【0051】
ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂の屈折率の差としては、0.010以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
【0052】
アッベ数νは、ガラスなどの透明体の分散の程度を表す量であり、分散能の逆数である。ガラスフィラーとポリカーボネート樹脂のアッベ数が近ければ、ポリカーボネート樹脂の透明性を維持できる。このため、ガラス組成物のアッベ数は、ポリカーボネート樹脂のアッベ数に近いことが好ましい。ポリカーボネート樹脂のアッベ数νは、通常30程度である。従って、ガラス組成物のアッベ数νは、44以下が好ましく、42以下がより好ましく、40未満がさらに好ましい。アッベ数νの下限は、30程度が好ましく、35以上がより好ましい。よって、アッベ数νは、30〜44が好ましく、35〜40がさらに好ましい。
(化学的耐久性)
前記ガラス組成物の組成範囲内であれば、ガラス組成物は耐酸性、耐水性、耐アルカリ性などの化学的耐久性に優れている。耐水性の指標としては、後述するアルカリ溶出量が採用され、このアルカリ溶出量が小さいほど耐水性が高いことを示す。ガラスフィラーをポリカーボネート樹脂中に分散させる場合、ガラスのアルカリ溶出量が0.4mg以下であれば、ポリカーボネート樹脂の強度低下が引き起こされることがない。従って、アルカリ溶出量は、0.4mg以下が好ましく、0.3mg以下がより好ましく、0.2mg以下がさらに好ましく、0.1mg以下が最も好ましい。
【0053】
従って、そのようなガラス組成物から形成されるガラスフィラーであれば、ポリカーボネート樹脂に好適に配合できる。
[ガラスフィラー]
前記ガラス組成物は例えば鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末、ガラスビーズなどの所定形態に成形され、ガラスフィラーとして用いられる。
【0054】
図1(a)は、鱗片状ガラスを模式的に示す斜視図であり、図1(b)はその鱗片状ガラスを示す平面図である。図1(a)及び(b)に示すように、鱗片状ガラス10は、例えば平均厚さtが0.1〜15μm、平均粒子径aが0.2〜15000μm、アスペクト比(平均粒子径a/平均厚さt)が2〜1000の薄片状粒子である。ここで、図1(b)に示すように、鱗片状ガラス10の平均粒子径aは、鱗片状ガラス10を平面視したときの面積Sの平方根(a=S1/2)として定義される。
【0055】
この鱗片状ガラス10は、例えば図2に示した製造装置を用いて製造できる。この図2に示すように、耐火窯槽12で溶融された前記ガラス組成を有するガラス素地11が、ブローノズル13に送り込まれたガスにより風船状に膨らみ、中空状ガラス膜14となる。この中空状ガラス膜14を一対の押圧ロール15で粉砕することにより、鱗片状ガラス10が得られる。
【0056】
前記チョップドストランドは、繊維径1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜1000の寸法を有するガラス繊維である。該チョップドストランドは、例えば図3及び図4に示した装置を用いて製造できる。
【0057】
図3に示すように、前記耐火窯槽12内で溶融された前記ガラス組成を有するガラス素地11が、底部に多数(例えば2400本)のノズルを有するブッシング20から引き出されて、多数のガラスフィラメント21が形成される。該ガラスフィラメント21は、冷却水を吹きかけられた後、バインダアプリケータ22の塗布ローラ23によりバインダ(集束剤)24が塗布される。バインダ24が塗布された多数のガラスフィラメント21は、補強パッド25により、各々が例えば800本程度のガラスフィラメント21からなる3本のストランド26として集束される。各ストランド26は、トラバースフィンガ27で綾振りされつつコレット28に嵌められた円筒チューブ29に巻き取られる。そして、ストランド26が巻き取られた円筒チューブ29をコレット28から外して、ケーキ(ストランド巻体)30が得られる。
【0058】
次に、図4に示すように、クリル31に前記ケーキ30を収容し、そのケーキ30からストランド26を引き出して、集束ガイド32によりストランド束33として束ねる。このストランド束33に、噴霧装置34より水又は処理液を噴霧する。さらに、このストランド束33を切断装置35の回転刃36で切断して、チョップドストランド37が得られる。
【0059】
前記ミルドファイバーは、繊維径が1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜500の寸法を有するガラス繊維である。このようなミルドファイバーは、公知の方法に従って製造できる。
【0060】
ガラス粉末としては、1〜500μmの平均粒子径を有するものがガラスフィラーを形成するために好ましい。ここで、平均粒子径は、ガラス粉末粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラス粉末は、公知の方法に従って製造できる。
【0061】
ガラスビーズとしては、1〜500μmの粒子径を有するものがガラスフィラーを形成するために好ましい。ここで、粒子径は、ガラスビーズ粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラスビーズは、公知の方法に従って製造できる。
[ポリカーボネート樹脂組成物]
前記ガラス組成物から形成されるガラスフィラーはポリカーボネート樹脂に配合されることにより、優れた性能を発揮できるポリカーボネート樹脂組成物として用いられる。ポリカーボネート樹脂組成物中におけるガラスフィラーの含有量は目的に応じて適宜設定されるが、例えば10〜50質量%が好ましい。前記ガラス組成物から形成されるガラスフィラーは、ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が小さく、アルカリ成分の溶出が少なく、化学的耐久性に優れている。従って、得られるポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と同等の透明性と、ポリカーボネート樹脂よりも優れた機械的強度や耐熱性を兼ね備えている。
【0062】
ポリカーボネート樹脂組成物は、公知の方法に従って製造できる。具体的には、混合機などを用いて加熱しながらポリカーボネート樹脂とガラスフィラーを溶融混練すればよい。ポリカーボネート樹脂としては、公知のものを使用できる。ガラスフィラーの形態としては、1種類に限らず、複数種類のものを組み合わせて配合してもよい。また、ポリカーボネート樹脂組成物の性能を向上させる目的で、必要に応じて各種カップリング剤や添加剤を配合してもよい。溶融混練の温度は、ポリカーボネート樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
【0063】
このようなポリカーボネート樹脂組成物を成形して成形体とすることにより、電気機器、自動車部品、建築材料などに好適に使用できる。成形は公知の方法に従って行えばよく、押出成形法、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形によるシート成形法などが採用される。なお、成形時の加熱温度は、ポリカーボネート樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
[実施形態による効果のまとめ]
(1)本実施形態のガラス組成物は、必須成分として二酸化珪素、酸化アルミニウム及び酸化チタンを必須成分として含有し、さらに酸化リチウム、酸化ナトリウム及び酸化カリウムの少なくとも1種を含有し、各成分の含有量が前述の特定範囲に設定されている。このため、各成分及びそれらの含有量に基づいてガラス組成物の融点を下げ、かつ組成の均一化を図り、ガラスの失透を抑えてガラスの成形を円滑に行うことができる。また、酸化亜鉛やフッ素が必須成分として含まれていないことから、ガラスの溶融時に飛散を抑えることができ、ガラスの組成変動を抑制して所定組成のガラス組成物を構成することができる。
【0064】
さらに、ガラス組成物には酸化チタンが15〜25質量%含まれていることから、ガラスの屈折率及びアッベ数をポリカーボネート樹脂のそれらに近づけることができ、ポリカーボネート樹脂成形体の透明性を高めることができる。加えて、ガラス組成物には酸化バリウムが必須成分として含まれていないことから、ポリカーボネート樹脂に対するガラス組成物の分散性を良好に維持することができる。
【0065】
従って、ガラス組成物は、ガラスの失透を抑え、ガラスの成形を良好に行うことができるとともに、ポリカーボネート樹脂に配合されるガラスフィラーとして好適に用いることができる。そして、屈折率及びアッベ数をポリカーボネート樹脂のそれらに近づけてポリカーボネート樹脂成形体の透明性を向上させることができる。
(2)ガラス組成物にはさらに酸化カリウムが含まれ、該成分の含有量が質量%で表して、4≦KO≦25に設定されている。従って、ガラス組成物の失透温度及び粘度の調整を容易に行うことができるとともに、ガラスの屈折率を簡易に調整することができる。
(3)ガラス組成物にはさらに酸化マグネシウム(MgO)及び酸化カルシウム(CaO)の少なくとも1種が含まれ、両成分の合計含有量が質量%で表して、0.1≦(MgO+CaO)≦10に設定されている。このため、ガラスの溶融時における粘度の調整が容易であるとともに、ガラス組成物の失透温度の上昇を抑制して、失透のないガラスを容易に製造できる。
(4)ガラス組成物にはさらに三酸化二ホウ素(B)が含まれ、該成分の含有量が質量%で表して、0.1≦B≦10に設定されている。従って、三酸化二ホウ素がガラスの骨格を補うことができるとともに、ガラス組成物の失透温度及び粘度を容易に調整することができる。
(5)ガラス組成物の屈折率nが1.575〜1.595であることにより、ガラスフィラーがポリカーボネート樹脂に配合されたとき、光の散乱が抑制され、ポリカーボネート樹脂成形体の透明性を保持することができる。
(6)ガラス組成物のアッベ数νが30〜44であることにより、ガラス組成物のアッベ数がポリカーボネート樹脂のアッベ数に近づき、ポリカーボネート樹脂成形体の透明性を維持できる。
(7)ガラス組成物の作業温度が1100〜1300℃であることにより、ガラスフィラーを製造したときその厚みや繊維径のばらつきを抑えることができるとともに、ガラス製造装置の腐食を抑制し、装置寿命を延長させることができる。
(8)ガラス組成物の作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが0〜150℃であることにより、ガラス成形時に失透が生じ難く、均質なガラス組成物を収率良く製造することができるとともに、ガラス組成の調整を容易に行うことができる。
(9)ポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーは、前述のガラス組成物から容易に形成することができる。具体的には、ポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーはガラス組成物を溶融した後、所定形状の形態に加工して成形される。ポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーの形態としては、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末及びガラスビーズから選ばれる少なくとも1種の形態が好適に採用される。
(10)ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂に上記のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーを配合してなるものである。このポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体は、透明性、機械的強度、耐熱性などに優れている。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜18及び比較例1〜5)
表1〜表3に示した組成となるように、珪砂等の通常のガラス原料を調合して、実施例及び比較例毎にガラス原料のバッチを作製した。各バッチについて、電気炉を用いて1400〜1600℃まで加熱して溶融させ、組成が均一になるまで約4時間そのまま維持した。その後、溶融したガラスを鉄板上に流し出して、電気炉中で室温まで徐冷し、ガラス(ガラス組成物)を得た。
【0067】
このようにして作製したガラスについて、通常の白金球引き上げ法により粘度と温度の関係を調べ、その結果から作業温度を求めた。ここで、白金球引き上げ法とは、溶融ガラス中に白金球を浸し、その白金球を等速運動で引き上げる際の負荷荷重(抵抗)と、白金球に働く重力や浮力などの関係を、微小の粒子が流体中を沈降する際の粘度と落下速度の関係を示したストークス(Stokes)の法則に当てはめて粘度を測定する方法である。
【0068】
また、粒子径1.0〜2.8mmに粉砕したガラスを白金ボートに入れ、温度勾配(900〜1400℃)のついた電気炉にて2時間加熱し、結晶の出現位置に対応する電気炉の最高温度から失透温度を求めた。なお、電気炉内の場所による温度は、予め測定して求めてあり、所定の場所に置かれたガラスは、その温度で加熱される。ΔTは作業温度から失透温度を差し引いた温度差である。
【0069】
さらに、屈折率は、前記のガラス組成物について、プルフリッヒ屈折率計にて、黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)の屈折率nを求めた。鱗片状ガラスについては、浸液法により、黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)の屈折率nを求めた。
【0070】
そして、アッベ数は、ガラス組成物の屈折率から、ν=(n−1)/(n−n)なる式により求めた。ここで、nはd線(光の波長587.6nm)の屈折率であり、nはF線(光の波長486.1nm)の屈折率であり、nはC線(光の波長656.3nm)の屈折率である。
【0071】
また、アルカリ溶出量は、日本工業規格(JIS)の「化学分析用ガラス器具の試験方法 R 3502‐1995」に準拠した方法により測定した。ガラス試料を粉砕して得たガラス粉末をJIS Z 8801に規定の標準網ふるいにかけ、目開き420μmの標準網ふるいを通過し、目開き250μmの標準網ふるいにとどまったガラス粉末を、ガラスの比重と同じグラム数量秤り取った。このガラス粉末を100℃の蒸留水50mLに1時間浸漬した後、この水溶液中のアルカリ成分を0.01Nの硫酸で滴定した。滴定に要した0.01Nの硫酸のミリリットル数に0.31を乗じることにより、NaOに換算したアルカリ成分のミリグラム数を求め、このミリグラム数をアルカリ溶出量とした。このアルカリ溶出量が小さいほど耐水性が高いことを示す。
【0072】
これらの測定結果を表1〜表3に示した。なお、表中のガラス組成は、すべて質量%で表示した値である。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

その結果、実施例1〜18のガラス組成物においては、作業温度は1129℃〜1250℃であった。これは、ガラス組成物からガラスフィラーを成形する場合に好適な温度である。また、ΔT(作業温度−失透温度)は、1℃〜71℃であった。これは、ガラスフィラーの製造工程において、ガラスの失透が生じない温度差である。さらに、屈折率nは、1.580〜1.591であった。そして、アッベ数νは、38〜39であった。また、アルカリ溶出量は、0.02〜0.08mgであった。
【0076】
一方、比較例1に示す従来の板ガラス組成は、SiO及びTiOの含有量が本発明の範囲外であったことから、屈折率nは1.517であり、実施例1〜18のものに比べて低い結果であった。また、アッベ数νは59であり、実施例1〜18のものに比べて高くなった。比較例2に示す従来のCガラスは、SiO及びTiOの含有量が本発明の範囲外であったことから、屈折率nは1.523であり、実施例1〜18のものに比べて低くなるとともに、アッベ数νは60であり、実施例1〜18のものに比べて高かった。
【0077】
比較例3に示す従来のEガラスは、(LiO+NaO+KO)及びTiOの含有量が本発明の範囲外であったことから、屈折率nは1.561であり、実施例1〜18のものに比べて低く、アッベ数νは59であり、実施例1〜18のものに比べて高くなった。比較例4のガラス組成物は、特開平5−294671号公報の実施例の試料No.2に記載されているガラス組成と同様である。この比較例4のガラス組成物は、Al及びTiOの含有量が本発明の範囲外であるとともに、Bの含有量も本発明の好ましい範囲外であった。このため、比較例4のガラス繊維のアッベ数νは45であり、実施例1〜18のものに比べて高かった。
【0078】
比較例5のガラス組成物は、特開2006−22236号公報の製造例1に記載されているガラス組成と同様である。この比較例5のガラス組成物は、(LiO+NaO+KO)及びTiOの含有量が本発明の範囲外である。このため、比較例5のガラス繊維のアッベ数νは54であり、実施例1〜18のものに比べて高かった。
【0079】
以上のように、実施例1〜18に示す本発明のガラス組成物であれば、フィラーとしてポリカーボネート樹脂に配合する場合に適した屈折率及びアッベ数を有するとともに、ガラスフィラーの成形に適した溶融特性を有することが分かる。
(実施例19〜36)
実施例1〜18のガラス組成物を電気炉で再溶融し、その後冷却しながらペレットに成形した。このペレットを図2に示す製造装置に投入して、表4及び表5に示すように平均厚さが0.5〜1μm及び平均粒子径が1〜1000μmである実施例19〜36の鱗片状ガラスを作製し、これらの鱗片状ガラスの屈折率(n)を測定した。それらの測定結果を表4及び表5に示した。鱗片状ガラスの平均厚さは、電子顕微鏡((株)キーエンス、リアルサーフェスビュー顕微鏡、VE−7800)を用い、100粒の鱗片状ガラスの断面から鱗片状ガラスの厚さを測定し、それらを平均して求めた。
【0080】
これらの鱗片状ガラス(ガラスフィラー)を各々ポリカーボネート樹脂に配合し、ポリカーボネート樹脂組成物を作製したところ、鱗片状ガラスの分散性が良く、良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られた。ポリカーボネート樹脂組成物中における鱗片状ガラスの含有量は30質量%とした。
【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

表4及び表5に示した結果より、実施例19〜36の屈折率(n)は1.575〜1.587の範囲であり、ポリカーボネート樹脂の屈折率(nが1.585)に近い値を示した。
(実施例37〜54)
実施例1〜18のガラス組成物を電気炉で再溶融し、その後冷却しながらペレットに成形した。このペレットを図3及び図4に示す製造装置に投入して、平均繊維径が10〜20μm、長さが3mmの実施例37〜54のチョップドストランド(ガラスフィラー)を作製した。これらのチョップドストランドを、各々ポリカーボネート樹脂に配合し、ポリカーボネート樹脂組成物を作製したところ、チョップドストランドの分散性が良く、良好なポリカーボネート樹脂組成物が得られた。ポリカーボネート樹脂組成物中におけるチョップドストランドの含有量は30質量%とした。
【0083】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ ガラス組成物として、二酸化珪素と酸化アルミニウムの合計含有量を規定し、ガラスの骨格を形成する成分の範囲を明らかにすることもできる。
【0084】
・ アルカリ金属酸化物として、一価のアルカリ金属の酸化物である酸化セシウム(CeO)、酸化ルビジウム(RbO)等を加えることも可能である。
・ 鱗片状ガラス10の厚さ方向の断面形状としては、平行状のほか、傾斜状、テーパ状等の形状であってよい。
【0085】
・ ガラスフィラーとして、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末及びガラスビーズのうち2種類以上を適宜組合せて使用することも可能である。
【符号の説明】
【0086】
10…ガラスフィラーとしての鱗片状ガラス、37…ガラスフィラーとしてのチョップドストランド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化チタン(TiO)を必須成分として含有し、さらに酸化リチウム(LiO)、酸化ナトリウム(NaO)及び酸化カリウム(KO)の少なくとも1種を含有し、各成分の含有量が質量%で表して、
45≦SiO≦65、0.1≦Al≦15、9≦(LiO+NaO+KO)≦25及び15≦TiO≦25であることを特徴とするガラス組成物。
【請求項2】
さらに酸化カリウム(KO)を含有し、該成分の含有量が質量%で表して、
4≦KO≦25である請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
さらに酸化マグネシウム(MgO)及び酸化カルシウム(CaO)の少なくとも1種を含有し、両成分の合計含有量が質量%で表して、
0.1≦(MgO+CaO)≦10である請求項1又は請求項2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
さらに三酸化二ホウ素(B)を含有し、該成分の含有量が質量%で表して、
0.1≦B≦10である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項5】
前記ガラス組成物の屈折率nが1.575〜1.595である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項6】
前記ガラス組成物のアッベ数νが30〜44である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項7】
前記ガラス組成物の作業温度が1100〜1300℃である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項8】
前記ガラス組成物の作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが0〜150℃である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のガラス組成物より形成されることを特徴とするポリカーボネート樹脂用ガラスフィラー。
【請求項10】
前記ガラス組成物を溶融し、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末及びガラスビーズから選ばれる少なくとも1種の形態に加工してなる請求項9に記載のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラー。
【請求項11】
ポリカーボネート樹脂に請求項9又は請求項10に記載のポリカーボネート樹脂用ガラスフィラーを配合してなることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−153582(P2012−153582A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15191(P2011−15191)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】