説明

ガラス繊維、及びガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂

【課題】本発明は上記のような様々な問題を解決し、ポリカーボネート樹脂と複合化した際に寸法安定性、剛性、熱安定性に優れたガラス繊維と、該ガラス繊維を用いたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のガラス繊維は、断面の長径D1と短径D2の比 D1/D2が1.0〜1.1、平均繊維長が30〜70μm、平均繊維長Lと長径D1とのアスペクト比 L/D1が2〜7であり、メタクリルシランが0.03〜0.20質量%付着されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維と、該ガラス繊維を含有するガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃性、耐熱性、熱安定性、寸法安定性、電気特性を有することから自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野をはじめ工業的に広く利用されている。そして、より高い機械的強度や耐熱性が要求される分野においても、ガラス繊維等の無機フィラーを配合して物性を向上させたフィラー強化ポリカーボネート樹脂が使用されている。特に、長さが1mm以下であるガラス繊維は、ポリカーボネート樹脂と混合したとしても、縦方向と横方向の強度(引張強度等)において異方性が少ないため、幅広く使用されている。
【0003】
特許文献1には、ポリカーボネート系樹脂と、ガラス繊維およびカーボン繊維から選ばれる繊維状フィラー、平均繊維長5〜120μmかつ平均繊維径5〜30μmを有する短繊維フィラー、平均粒径0.5 〜50μmの球状フィラー、および 平均粒径0.5 〜20μmの板状フィラーから選ばれる少なくとも1種のフィラーと、リン酸エステル系化合物を用いることにより、表面外観が改善され、高い弾性率を有するポリカーボネート系樹脂組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリカーボネート樹脂と、ガラス繊維と、カーボンブラックとを配合した樹脂組成物であり、ガラス繊維の数平均長さを10μm以上50μm以下、ガラス繊維の直径を5μm以上20μm以下、ガラス繊維の含水率を0.1%以下にすることにより、剛性、寸法安定性、帯電防止性、溶融加工時の熱安定性が良好で、成形品表面からの無機フィラーの脱落がなく、成形品外観に優れたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ガラス繊維の断面の短径D1に対する該ガラス繊維の断面の長径D2の比D2/D1が1.2以上である扁平な断面形状を有する該ガラス繊維の粉砕物であるガラス繊維の粉末を、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂の補強材として用いることで、成形品の寸法のばらつきの小さな樹脂材料が得られる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−48912号公報
【特許文献2】特開2009−155459号公報
【特許文献3】特開平7−10591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでに行われた発明だけでは、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の寸法安定性、剛性、及び溶融加工時の熱安定性は不十分であった。
【0008】
特許文献1に開示されたポリカーボネート系樹脂組成物は、繊維フィラー、短繊維フィラー、球状フィラー、板状フィラーと様々な形状のフィラーを用いるため、ポリカーボネート系樹脂組成物作製における工程が増大し、コストが高くなる。また、各々のフィラーの形状とサイズが異なるため、ポリカーボネート樹脂とフィラーを混合する際に、偏析が起こり、ポリカーボネート系樹脂組成物の品質が不均一となる虞がある。
【0009】
特許文献2に開示されたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物は、カーボンブラックを配合しているため、淡色系のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物を作製する際にカーボンブラックがシミとして表面に浮かび上がる虞がある。
【0010】
特許文献3に開示されたガラス繊維の粉末は、扁平な断面形状を有するため、樹脂材料の寸法安定性に優れている。しかしながら、扁平な断面形状を有するガラス繊維を作製する製造ラインを別途設ける必要があり、コストが高くなる虞がある。
【0011】
本発明は上記のような様々な問題を解決し、ポリカーボネート樹脂と複合化した際に寸法安定性、剛性、熱安定性に優れたガラス繊維と、該ガラス繊維を用いたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、これらの課題について鋭意検討を重ねたところ、平均繊維長の短いガラス繊維においては、平均繊維長、断面径の比であるアスペクト比、及びガラス繊維の表面処理を所定の範囲内とすることで、これらの問題を解決するために重要であることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明のガラス繊維は、断面の長径D1と短径D2の比 D1/D2が1.0〜1.1、平均繊維長が30〜70μm、平均繊維長(L)と長径D1とのアスペクト比 L/D1が2〜7であり、メタクリルシランが0.03〜0.20質量%付着されてなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のガラス繊維は、平均繊維径 (D1×D2)1/2が6〜15μmであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂は、前記のガラス繊維と、ポリカーボネート樹脂とからなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂は、前記ガラス繊維を5〜50質量%、前記ポリカーボネート樹脂を50〜95質量%含有してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のガラス繊維は、断面の長径D1と短径D2の比 D1/D2が1.0〜1.1、平均繊維長が30〜70μm、平均繊維長(L)と長径D1とのアスペクト比 L/D1が2〜7であり、メタクリルシランが0.03〜0.20質量%付着されてなるため、ポリカーボネート樹脂と複合化した際に寸法安定性、剛性、熱安定性に優れる。
【0018】
また、本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂は、本発明のガラス繊維を含有するポリカーボネート樹脂であるため、寸法安定性、剛性、熱安定性の性能に優れており、従来では使用することができなかった用途の部材にも適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0020】
本発明のガラス繊維は、断面の長径D1と短径D2の比 D1/D2が1.0〜1.1、平均繊維長が30〜70μm、平均繊維長(L)と長径D1とのアスペクト比 L/D1が2〜7であり、メタクリルシランが0.03〜0.20質量%付着されてなることを特徴とする。以下、その詳細について説明する。
【0021】
本発明のガラス繊維は、断面の長径D1と短径D2の比 D1/D2が1.0〜1.1である。断面形状が楕円である場合、楕円の長軸が長径D1に該当し、短軸が短径D2に該当する。断面形状が真円である場合、長径D1=短径D2となる。D1/D2が1.0〜1.1であるガラス繊維は、ヤーンやマトリックス樹脂の強化用のガラス繊維として一般的に使用されるガラス繊維の断面と同様、真円に近い形状である。そのため、本発明のガラス繊維を作製するために、別途製造装置を設ける必要がなく、コストの上昇を抑制することが可能となる。D1/D2が1.1より大きいガラス繊維は、一般的に使用されるガラス繊維の形状と異なる。そのため、本発明のガラス繊維を作製するために別途製造装置を設ける必要があり、コストが上昇するため好ましくない。より好ましい範囲としては、D1/D2が1.0〜1.02である。ガラス繊維の断面の形状は、ガラス繊維が引き出されるブッシングノズルの内径の断面形状により決まり、ブッシングノズルの内径における長径R1と短径R2の比 R1/R2を1.0〜1.1とすることで、本願発明のガラス繊維を作製することが可能となる。
【0022】
本発明のガラス繊維は、平均繊維長が30〜70μmである。通常ガラス繊維は、ブッシングに設けられた径0.7〜2.0mmのブッシングノズルから、溶融ガラスを引き出すことによって作製される。ガラス繊維は、ブッシングノズルから連続的に溶融ガラスを引き出すことによって作製されるため、その長さは10m〜300000mとなる。そして、ポリカーボネート樹脂を補強するための使用方法の一つとしては、ガラス繊維を所定の長さに切断し、ポリカーボネート樹脂と混合させることにより使用される。切断後のガラス繊維の繊維長が長い場合、ガラス繊維の長さ方向への補強効果が、長さ方向に対して垂直方向への補強効果に比べて過大となるために、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂を作製したときにおける成形品の強度に異方性が生じる。このように、成形品の強度に異方性が生じることで、収縮率についても異方性が生じ、寸法安定性に劣ることになる。本発明のガラス繊維は、平均ガラス繊維長が30〜70μmであるため、寸法安定性が向上するとともに、所望の補強効果が得られる。
【0023】
平均繊維長が30μm未満であると、寸法安定性は良好であるものの、平均繊維長が短くなりすぎ、ポリカーボネート樹脂の補強効果が小さくなる。そのため、所望の補強効果が得られない虞があり好ましくない。一方、平均繊維長が70μmより大きいと、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の収縮率に異方性が生じてしまう。そのため、寸法安定性に劣るため好ましくない。より好ましい平均繊維長は40〜60μmである。
【0024】
本発明のガラス繊維は、平均繊維長(L)と長径D1とのアスペクト比 L/D1が2〜7である。先述したとおり、ガラス繊維の長さ方向と長さ方向に対して垂直方向との補強効果の差が生じると、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂を作製したときにおける成形品の収縮率に異方性が生じてしまい、寸法安定性に劣ることになる。本発明のガラス繊維は、L/D1が2〜7であるため、平均繊維長(L)と長径Dとのバランスが取れ、寸法安定性が向上する。
【0025】
L/D1が2未満であると、ポリカーボネート樹脂と混合する際におけるガラス繊維の流動性が高くなる。ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の作製には例えば射出成型機などが用いられるが、ガラス繊維の流動性が高くなると、ガラス繊維が射出方向に配向してしまい、結果として射出方向と、射出方向に対して垂直な方向との間の収縮率に異方性が生じ、寸法安定性が低下する。一方で、L/D1が7より大きいと、ガラス繊維の長さ方向と、長さ方向に対して垂直な方向との間の収縮率に異方性が生じ、結果として寸法安定性が低下する。より好ましいL/D1は3〜6である。
【0026】
本発明のガラス繊維は、メタクリルシランが0.03〜0.20質量%付着されてなる。ポリカーボネート樹脂とガラス繊維とを混合してガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂を作製する際、ガラス繊維とポリカーボネート樹脂とを200℃以上まで加熱しているが、加熱の際に、ガラス繊維に含まれているアルカリ成分がポリカーボネート樹脂に溶出し、溶出したアルカリ成分がポリカーボネート樹脂の分子結合を切断する虞がある。このように、ポリカーボネート樹脂の分子結合が切断されると、ポリカーボネート樹脂の分子量が小さくなり、作製されたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の剛性や熱安定性が低下する虞がある。ガラス繊維にメタクリルシランが付着していることにより、ガラス繊維に含まれている成分、特にアルカリ成分がポリカーボネート樹脂に溶出することを抑制でき、剛性や熱安定性の高いガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂を提供することが可能となる。メタクリルシランの付着量が0.03質量%未満であると、メタクリルシランがガラス繊維全体に付着しない虞がある。そのため、上述したように、アルカリ成分がポリカーボネート樹脂に溶出し、ポリカーボネート樹脂の分子結合が切断する虞があるため好ましくない。一方、メタクリルシランの付着量が0.20質量%よりも大きくても、付着量に見合った効果が得られない。より好ましいメタクリルシランの付着量としては、0.05〜0.15質量%である。
【0027】
メタクリルシランとしては、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらは一種単独で使用、又は二種以上併用することが可能である。
【0028】
なお、メタクリルシラン以外にも、アミノシラン、ウレイドシランなどの他のシラン化合物を併用することも可能である。
【0029】
また、本発明のガラス繊維は、上述に加えて、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤、帯電防止剤等が付着されていても良い。潤滑剤としては、脂肪酸アミド、第4級アンモニウム塩などが使用できる。また、ノニオン系の界面活性剤としては、合成アルコール系、天然アルコール系、脂肪酸エステル系などが使用できる。
【0030】
本発明のガラス繊維は、平均繊維径 (D1×D2)1/2が6〜15μmであることが好ましい。平均繊維径が前記範囲であることにより、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の剛性が不足する虞が減少する。また、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の表面に、ガラス繊維の模様が浮かび上がり、表面外観が悪化する虞も減少する。(D1×D2)1/2が6μm未満であると、流動性が悪くなると同時にコストが高くなるため好ましくない。一方、(D1×D2)1/2が15μmより大きいと、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の表面に、ガラス繊維の形状模様が浮かび上がり、表面外観が悪化する虞があるため好ましくない。より好ましい(D1×D2)1/2としては、8〜13μmである。
【0031】
本発明のガラス繊維は、Eガラス(アルカリ含有率2.0%以下)、ARガラス(耐アルカリ性ガラス組成)、Cガラス(耐酸性のアルカリ石灰含有ガラス組成)、Dガラス(低誘電率を実現する組成)、Hガラス(高誘電率を実現する組成)、Sガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)、Tガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)、Mガラス(高弾性率を実現するベリリウムを含有するガラス組成)、NEガラス(低誘電率、低誘電正接を実現する組成)などの既存の各種ガラス組成を有するガラス繊維に加え、新規性能を発現するために開発された新たなガラス組成であってもよい。また、本発明のガラス繊維に含まれるアルカリ成分は、質量%表示で0.2〜6%であることが好ましい。ガラス繊維に含まれるアルカリ成分が、質量%表示で0.2%未満であると、ガラス繊維に含まれるアルカリ成分の量が少ないため、加熱時におけるポリカーボネート樹脂へのアルカリ成分の溶出量が少ない。そのため、ポリカーボネート樹脂の分子結合が切断される虞が少なく、本発明のガラス繊維を用いたことによる利点は少ない。一方、ガラス繊維に含まれるアルカリ成分が、質量%表示で6%より大きいと、アルカリ成分が過多となり、メタクリルシランをガラス繊維全体に付着させたとしても、加熱時のアルカリ成分の溶出を完全に抑制することが困難となる虞がある。より好ましいガラス繊維に含まれるアルカリ成分としては、質量%表示で0.5〜4%である。
【0032】
本発明のガラス繊維は、以下の手順により作製した。始めに、ガラス溶融炉で均質に溶融された所定の組成を有するガラス繊維を、数十〜数千本のノズルを有する耐熱性ブッシングから連続的に引出すことで得られた平均直径3〜20μmのガラス繊維の表面に、メタクリルシランを含有するガラス繊維表面処理剤をアプリケーターで塗布し、その後、ギャザリングシューにより、ガラス繊維表面処理剤が塗布された約4000本のガラス繊維を集束させてガラス繊維ストランドとし、このガラス繊維ストランドを紙管上に巻き取って回巻体とした。次いで、この回巻体を120℃で乾燥させることでガラス繊維表面処理剤に含まれる揮発分を除去し、回巻体からガラス繊維ストランドを引き出して平均長さ1〜30mmに切断し、切断したガラス繊維をボールミル粉砕機、フレットミル粉砕機などの公知の粉砕機により粉砕することで、平均繊維長が30〜70μmのガラス繊維を得た。なお、ガラス繊維の断面形状は、ブッシングノズルの内径の断面形状によって決まるものであり、ブッシングノズルの内径における長径R1と短径R2の比 R1/R2を1.0〜1.1とすることで、本願発明のガラス繊維を作製することが可能となる。また、ガラス繊維の平均繊維長は、ボールミルによる粉砕時間を調整することで変更可能である。
【0033】
本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂は、前記に記載のガラス繊維と、ポリカーボネート樹脂とからなる。
【0034】
本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂は、ガラス繊維と、ポリカーボネート樹脂とを加熱しながら均等に混合し、そして射出成形を行うことにより複合化される。
【0035】
ポリカーボネート樹脂は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造された直鎖ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0036】
ポリカーボネート樹脂は、アルカリ成分により結合が切断され易いが、本発明のガラス繊維を用いてガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂を作製することにより、アルカリ成分がポリカーボネート樹脂に溶出することが抑制される、ポリカーボネート樹脂の分子量減少による剛性低下の虞が減少する。
【0037】
本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂は、前記ガラス繊維を5〜50質量%、前記ポリカーボネート樹脂を50〜95質量%含有してなる。ガラス繊維が5質量%以上、かつポリカーボネート樹脂が95質量%以下であると、ガラス繊維がポリカーボネート樹脂内に均一に分散できるため、ガラス繊維の補強効果が十分発揮され好ましい。また、ガラス繊維が50質量%以下、かつポリカーボネート樹脂が50質量%以上であると、ガラス繊維とポリカーボネート樹脂の混合性が良好となるため好ましい。また、成形品の表面にガラス繊維が浮き上がり、意匠性が悪化する虞も減少するので好ましい。
【0038】
また、本発明のガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂は、本発明の目的が損なわれない範囲で、各種添加成分、例えば酸化防止剤、核剤、可塑剤、離型剤、難燃剤、顔料、カーボンブラック及び帯電防止剤等の添加剤を適量含有してよい。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
[ガラス繊維の作製]
ガラス繊維については、ガラス溶融炉で均質に熔融されたEガラス組成を有する溶融ガラスを、数十〜数千本のノズルを有する耐熱性ブッシングから連続的に引き出し、引き出されたガラス繊維の表面にメタクリルシランと脱イオン水とからなるガラス繊維表面処理剤をアプリケーターにより塗布した。その後、ギャザリングシューによりガラス繊維表面処理剤の塗布された4000本のガラス繊維を集束させてガラス繊維ストランドとして紙管上に巻き取って回巻体とした。次いで、120℃で回巻体を乾燥させた後、この回巻体からガラスストランドを引き出してガラス繊維切断装置によって3mmの長さとなるように切断装置を使用して切断した。その後、切断したガラス繊維をボールミルにより粉砕することで、ポリカーボネート樹脂と混合するガラス繊維を得た。なお、本実施例では断面の長径D1と短径D2の比 D1/D2は全て1.0である。本実施例では、表1及び表2に示すガラス繊維を作製した。
【0041】
なお、電子顕微鏡により300本のガラス繊維の長さを測定し、これらのガラス繊維長の相加平均をガラス繊維の平均繊維長とした。また、メタクリルシランの付着量は、JIS R3420(2006)7.3.2項 強熱減量に記載の方法で測定した。
【0042】
[ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の作製]
表1及び2に示したガラス繊維30質量%と、ポリカーボネート樹脂70質量%とを単軸押出機を用いて270℃に加熱しながら混練し、ペレタイザーによってペレットを成形した。そして、これらのペレットを280℃に加熱して再溶融し、溶融した溶融体を一方向から金型に流し込み、金型内で溶融体を冷却して成形することにより各ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の試料を得た。
【0043】
[評価方法]
各ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の評価方法について説明する。曲げ弾性率は、ASTM D−790に従って評価した。寸法安定性は、各ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂の、流れ方向(溶融したペレットを金型に流し込む方向と同一方向。以下MD)と垂直方向(溶融したペレットを金型に流し込む方向に対して垂直方向。以下TD)の収縮率を測定することで評価した。収縮率の測定は、金型のサイズMD80mm×TD40mm×厚さ3.2mmと、この金型で成形したガラス繊維ポリカーボネート樹脂のサイズ(MD方向及びTD方向の長さ)を測定し、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂のMD、TDのサイズを金型のMD、TDのサイズで除することによって求めた。熱安定性は、ペレットを280℃で5分間加熱・保持し、その後、金型でガラス繊維ポリカーボネート樹脂を成形する。そして、ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂に含まれているポリカーボネート樹脂の数平均分子量を、公知であるGPCを用いた方法により測定することで評価した。表1、2に測定結果を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
実施例1〜7は、平均繊維長が30〜70μm、平均繊維長と平均繊維径の比(L/D)が2〜7、メタクリルシランが0.03〜0.20質量%付着されてなるため、MDとTDの収縮率の差が0.01%以下と小さく、曲げ弾性率が4.1GPaと高く、数平均分子量が21000以上と大きく、実施例の試料は寸法安定性、剛性、熱安定性のすべてにおいて優れるものであった。
【0047】
比較例8〜10は、MDとTDの収縮率の差が0.05%以上であり、寸法安定性に問題があった。比較例11は曲げ弾性率が3.8GPaであり、剛性に問題があった。比較例12は数平均分子量が19000であり、熱安定性に問題があった。
【0048】
以上に示した実施例及び比較例から明らかなように、本発明のガラス繊維を使用して複合化されたガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂材料は、寸法安定性、剛性、熱安定性に優れたものであることが明瞭になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面の長径D1と短径D2の比 D1/D2が1.0〜1.1、平均繊維長が30〜70μm、平均繊維長(L)と長径D1とのアスペクト比 L/D1が2〜7であり、メタクリルシランが0.03〜0.20質量%付着されてなることを特徴とするガラス繊維。
【請求項2】
平均繊維径 (D1×D2)1/2が6〜15μmであることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガラス繊維と、ポリカーボネート樹脂とからなることを特徴とするガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
前記ガラス繊維が5〜50質量%、前記ポリカーボネート樹脂が50〜95質量%含有されてなることを特徴とするガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂。

【公開番号】特開2013−103981(P2013−103981A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248157(P2011−248157)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】