説明

ガラス繊維シート、コンクリート構造物の保護被覆方法、コンクリート構造物保護被覆膜、及びコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法

【課題】コンクリート構造物保護被覆膜に用いた時に、被覆膜の透明性を損なうことなく、その膜厚管理を非破壊で容易に行うことができるガラス繊維シートおよび、コンクリート構造物にダメージを与えることなく、簡便にコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を測定管理することができるコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法を提供する。
【解決手段】ガラス繊維シート52は、ガラスクロスと、粘着剤層とが積層され、前記ガラスクロスの前記粘着剤層が接している側に部分的に非磁性金属フィルム層が設けられている。コンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を、渦電流式膜厚計55を用いて、コンクリート構造物50に部分的に貼着されたガラス繊維シート52を介して測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維シート、コンクリート構造物の保護被覆方法、コンクリート構造物保護被覆膜、及びコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速道路橋脚、鉄道橋脚、橋梁等のコンクリート構造物におけるコンクリート片の落下が問題となっている。このようなコンクリート片の落下は、コンクリート構造物の経年劣化や、施工時の初期欠陥等に起因するものである。
このようなコンクリート構造物の変状を早期に発見し、コンクリート構造物の剥落を未然に防ぐために、透明性を有する防水、防食塗材をコンクリート表面に被覆する工法が採用されている。
かかる防水、防食塗材としてはアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、樹脂モルタル、ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリウレア系樹脂などが一般的に使用されている。
【0003】
しかしながら、透明性を有する防水、防食塗材を用いて被覆されたコンクリート構造物保護被覆膜は、コンクリート構造物のひび割れ等を早期に目視できる点で優れているが、透明性を有しているが故、施工時、または施工後さらに保護被覆膜の経年による膜厚劣化を管理する点で難がある。
【0004】
膜厚を測定管理する方法としては、三針式針入型膜厚計を使い、針を刺して測る方法が知られている。また、保護被覆材の塗布直後においては、塗材の使用量から換算する方法も知られている。
【0005】
三針式針入型膜厚計を用いて膜厚を測定管理する方法は、破壊式であり、コンクリート構造物に針を刺し、孔をあけたまま放置すると、微細ながらもコンンクリート下地までピンホールがある状態となるため、孔の開いた部分だけ防水性能が無くなる。また、それを補修する為に、再度塗材を塗布しなければならないため、作業的に手間である。
【0006】
また、塗材の使用量から換算する方法においては、材料塗布時の塗布ムラを考慮していないため、保護被覆膜のどの部分がどれだけの膜厚があるのかを、正確に知ることができない。
【0007】
透明性を有する防水、防食塗材をコンクリート表面に被覆する工法として、コンクリート構造物表面に透明ポリウレタン樹脂溶液を塗り付けた後にガラス連続繊維シートを貼着し、その上からポリウレタン樹脂溶液を塗り付けてガラス連続繊維シートに含浸させ、これを乾燥させることで固化させて透明のコーティング層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
特許文献1に記載のガラス連続繊維シートを用いたコンクリート構造物保護被覆膜は、金ゴテ、ゴムベラ、フォームハケ、ローラー等手塗り型の施工方法においては、ガラス連続シート中の縦横斜めに網目状に編み込まれた構造(以下、四軸組布)が補強効果を有し、さらに立面での膜厚確保に役立っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−1707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のガラス連続繊維シートを用いたコンクリート構造物保護被覆膜は、その全面が四軸組布で覆われているため、透明ポリウレタン樹脂が塗布されたものであっても、透明性の点において改良の余地がある。
さらに、保護被覆膜の施工時において、かかるガラス連続繊維シートは、よれ易く、作業性が悪い上、上記した透明被膜の厚みを効率よく測定管理することについて何ら改善されていない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、コンクリート構造物保護被覆膜に用いた時に、被覆膜の透明性を損なうことなく、その膜厚管理を非破壊で容易に行うことができるガラス繊維シート、該ガラス繊維シートを用い、作業性よくコンクリート構造物を保護被覆することができるコンクリート構造物の保護被覆方法、コンクリート構造物の変状を早期に発見でき、さらに膜厚管理を非破壊で容易に行うことができるコンクリート構造物保護被覆膜、コンクリート構造物にダメージを与えことなく、簡便にコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を測定管理することができるコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明のガラス繊維シートは、ガラスクロスと、粘着剤層とが積層されているガラス繊維シートであって、前記ガラスクロスの前記粘着剤層が接している側に部分的に非磁性金属フィルム層が設けられていることを特徴とする。
(2)本発明のガラス繊維シートは、前記非磁性金属フィルム層が、前記ガラスクロス側から、ウレタン樹脂層、PETフィルム層、アルミ層がこの順に積層されてなることが好ましい。
(3)本発明のガラス繊維シートは、前記粘着剤層に、剥離シートが貼付されていることが好ましい。
(4)本発明のコンクリート構造物の保護被覆方法は、先に記載のガラス繊維シートをコンクリート構造物に部分的に貼着する工程と、前記ガラス繊維シートを部分的に含む前記コンクリート構造物に透明ポリウレタン樹脂組成物を塗布する工程と、を含むことを特徴とする。
(5)本発明のコンクリート構造物保護被覆膜は、先に記載のコンクリート構造物の保護被覆方法を用いて、前記コンクリート構造物表面に被覆されたことを特徴とする。
(6)本発明のコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法は、先に記載のコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を、渦電流式膜厚計を用いて、前記コンクリート構造物に部分的に貼着されたガラス繊維シートを介して測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガラス繊維シートによれば、コンクリート構造物保護被覆膜に用いた時に、被覆膜の透明性を損なうことなく、その膜厚管理を非破壊で容易に行うことができる。
本発明のコンクリート構造物の保護被覆方法によれば、作業性よくコンクリート構造物を保護被覆することができ、工期の短縮をすることができる。
本発明のコンクリート構造物保護被覆膜によれば、コンクリート構造物の変状を早期に発見でき、さらに膜厚管理を非破壊で容易に行うことができる。
本発明のコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法によれば、コンクリート構造物にダメージを与えことなく、簡便にコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を測定管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施形態に係るガラス繊維シートの概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るガラス繊維シートに用いられるガラスクロスの写真である。
【図3】本発明の第二の実施形態に係るガラス繊維シートの概略断面図である。
【図4】本発明の第三の実施形態に係るガラス繊維シートの概略断面図である。
【図5】本発明の第四の実施形態に係るガラス繊維シートの概略断面図である。
【図6】本発明の第四の実施形態に係るガラス繊維シートの写真である。
【図7】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物保護被覆膜の概略断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係るコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法の説明図である。
【図9】本発明の実施例に係るコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ガラス繊維シート]
第一に本発明のガラス繊維シートの実施の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
(1)第一の実施形態
図1は、本発明のガラス繊維シートの第一の実施形態を示す概略断面図である。この実施形態のガラス繊維シート1は、ガラスクロス2と、粘着剤層4とが積層され、前記ガラスクロス2の前記粘着剤層4が接している面2a側に部分的に非磁性金属フィルム層3が設けられている
【0017】
図2に示されるように、ガラスクロス2は、ガラス繊維を縦方向、横方向に織り込んだもの(以下、二軸組布)であり、縦方向、横方向に伸びない。これにより、ガラス繊維シート1をコンクリート構造物の保護被膜に用いた場合に、該保護被膜の透明性を維持することができる。
【0018】
非磁性金属フィルム層3は、ガラスクロス2に部分的に設けられたものである。非磁性金属フィルム層3は、後述する渦電流式膜厚計を用いた非破壊式の膜厚測定管理方法に必須である。ガラス繊維シート1における非磁性金属フィルム層3の面積としては、渦電流式膜厚計のプローブの直径に依存し、11mm四方以上が好ましく、汎用性の観点から50mm四方以上がより好ましい。
【0019】
非磁性金属フィルム層3は、本実施形態においては厚さ3〜200μmの非磁性金属フィルムである。非磁性金属フィルムとしては、アルミ箔や銅箔、オーステナイト系ステンレス箔などがあるが、その導電性、強度、貼り付け作業性、コストの点からアルミ箔が好ましい。
【0020】
本発明においては、ガラスクロス2の面2aと、該ガラスクロス2に部分的に設けられた非磁性金属フィルム層3の面3aを覆うように粘着剤層4が積層されている。
粘着剤層4を構成するための粘着剤としては、特に制限なく、公知の粘着剤を使用でき、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤などが使用できる。
【0021】
粘着剤層4を構成するための粘着剤の塗布量としては、5g/m〜50g/mが好ましく、10g/m〜20g/mがより好ましい。前記粘着剤の塗布量が5g/m以上の場合、部分的に設けられたガラスクロス2を覆うことができ、50g/m以下の場合、粘着剤の染み出しなどによる加工適性が低下しない。
【0022】
本実施形態においては、非磁性金属フィルム層3の粘着剤層4と接する面側に、紙;PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ナイロン、アクリル等の合成繊維、またはガラス繊維等からなる織布・不織布;ポリエチレン等の合成樹脂、合成ゴム、ゴム変性アスファルト等からなるフィルムあるいはシートが積層されていてもよい。これにより、ガラス繊維シート1の強度が高くなり、貼着作業等が容易になり、また輸送にも有利になる。さらに、ガラス繊維シートの強度を補強することができる。
【0023】
(2)第二の実施形態
図3は、本発明のガラス繊維シートの第二の実施形態を示す概略断面図である。図3において、図1に示したガラス繊維シート1と同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
この実施形態のガラス繊維シート10は、ガラスクロス2と、粘着剤層4と、剥離シート5がこの順に積層され、前記ガラスクロス2の前記粘着剤層4が接している側に部分的に非磁性金属フィルム層3が設けられている。
即ち、この実施形態のガラス繊維シート10は、第一の実施形態のガラス繊維シート1の粘着剤層4に、剥離シート5が貼付されたものである。
【0024】
粘着剤層4の面4aの側には、剥離シート5が積層されている。剥離シート5としては、種々の剥離シートを使用できるが、代表的に剥離性を表面に有するシート材から構成される。
シート材としては、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などのフィルムや、これらのフィルムに填料などの充填剤を配合したフィルムや合成紙などが挙げられる。また、グラシン紙、クレーコート紙、上質紙などの紙基材が挙げられる。
シート材の表面に剥離性を持たせるには、その表面に熱硬化性シリコーン樹脂や、紫外線硬化型シリコーン樹脂等の剥離剤を塗布により付着させる。剥離剤の塗布量は0.03〜3.0g/mが好ましい。
剥離シート5は、剥離剤を有する表面を粘着剤層4に接して積層される。
【0025】
積層されたガラスクロス2、非磁性金属フィルム層3及び粘着剤層4は、剥離シート5を残して、所定の寸法に抜き加工されていることが好ましい。
所定の寸法としては、非磁性金属フィルム層3が包含される大きさであることが必須である。上記したように、非磁性金属フィルム層3の大きさとして50mm四方以上であることが好ましいため、積層されたガラスクロス2、非磁性金属フィルム層3及び粘着剤層4は、50mm四方以上の寸法で裁断されることが好ましい。
【0026】
抜き加工に用いる刃や加工機としては、特に制限なく公知のものを使用でき、例えば、トムソン刃、エッチング刃、彫刻刃等の刃や、ダイカットロール、レーザ装置等の加工機が使用できる。
【0027】
(3)第三の実施形態
図4は、本発明のガラス繊維シートの第三の実施形態を示す概略断面図である。図4において、図1、図3に示したガラス繊維シート1、10と同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
この実施形態のガラス繊維シート20は、ガラスクロス2と、粘着剤層4とが積層され、前記ガラスクロス2の前記粘着剤層4が接している面2a側に部分的に非磁性金属フィルム層23が設けられている。
非磁性金属フィルム層23は、前記ガラスクロス2側から、ウレタン樹脂層23a、着色フィルム層23b、アルミ層23cがこの順に積層されてなる。
【0028】
本実施形態においては、非磁性金属フィルム層23の構成として、アルミ箔からなるアルミ層23cが用いられる。上述したように、アルミ箔は、その導電性、強度、貼り付け作業性、コストの点において優れている。
【0029】
非磁性金属フィルム層23は、前記ガラスクロス2側から、着色フィルム層23b、アルミ層23cがこの順に積層されている。即ち、本実施形態のガラス繊維シート20を被着対象であるコンクリート構造物に貼付した場合、アルミ層23cが着色フィルム層23bで覆われる。これにより、後述する透明ポリウレタン樹脂組成物を、ガラス繊維シート20を貼付したコンクリート構造物の表面に塗布しても、アルミ層23cの有する銀色の金属光沢により、美観を損なうおそれがない。
【0030】
着色フィルム層23bには、着色された種々のプラスチックシート、フィルムが使用される。着色フィルムの具体例としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂などの各種合成樹脂のフィルムが挙げられ、強度やコストの観点からポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましく用いられる。
【0031】
非磁性金属フィルム層23は、前記ガラスクロス2側から、ウレタン樹脂層23a、着色フィルム層23bがこの順に積層されている。ウレタン樹脂層23aは、特に目荒らししたポリエチレンテレフタレートフィルムとの密着性がよい点から優れている。
【0032】
本実施形態においては、アルミ層23cの両面に紙;PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ナイロン、アクリル等の合成繊維、またはガラス繊維等からなる織布・不織布;ポリエチレン等の合成樹脂、合成ゴム、ゴム変性アスファルト等からなるフィルムあるいはシートが積層されていてもよい。中でもポリエチレンラミネートがアルミ層23cの両面に積層されていることが好ましい。
これにより、ガラス繊維シート20の強度が高くなり、貼着作業等が容易になり、また輸送にも有利になる。さらに、ガラス繊維シートの強度を補強することができる。
【0033】
(4)第四の実施形態
図5は、本発明のガラス繊維シートの第四の実施形態を示す概略断面図である。図5において、図1、図3、図4に示したガラス繊維シート1、10、20と同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。この実施形態のガラス繊維シート30は、ガラスクロス2と、粘着剤層4と、剥離シート5がこの順に積層され、前記ガラスクロス2の前記粘着剤層4が接している側に部分的に非磁性金属フィルム層23が設けられている。更に、非磁性金属フィルム層23は、前記ガラスクロス2側から、ウレタン樹脂層23a、着色フィルム層23b、アルミ層23cがこの順に積層されてなる。
即ち、この実施形態のガラス繊維シート20は、第三の実施形態のガラス繊維シート20の粘着剤層4に、剥離シート5が貼付されたものである。
【0034】
第三の実施形態と同様に、この実施形態においても積層されたガラスクロス2、非磁性金属フィルム層23及び粘着剤層4は、剥離シート6を残して、所定の寸法に抜き加工されていることが好ましい。
図6に示されるように、所定の寸法としては、非磁性金属フィルム層23が包含される大きさであることが必須である。上記したように、非磁性金属フィルム層23の大きさは、50mm四方以上であることが好ましいため、積層されたガラスクロス2、非磁性金属フィルム層23及び粘着剤層4は、50mm四方以上の寸法で裁断されることが好ましい。
この実施形態のガラス繊維シート30は、第二の実施形態のガラス繊維シート10及び第三の実施形態のガラス繊維シート20の作用効果を兼ね備えている。
【0035】
[コンクリート構造物の保護被覆方法及びコンクリート構造物の保護被覆膜]
次に本発明のコンクリート構造物の保護被覆方法及びコンクリート構造物の保護被覆膜について説明する。
本発明のコンクリート構造物の保護被覆方法は、道路や鉄道の高架橋の高欄や橋脚などのコンクリート構造物の保護被覆膜を形成し、コンクリート構造物から、コンクリート片が剥落することを防止するものである。保護被覆膜の形成位置は、コンクリート構造物の外壁面、下面など、コンクリート片の剥落のおそれがある箇所である。
例えば、高架橋では、高欄や橋脚の外壁面、床版や橋桁の下面、橋脚張り出し部の下面などがその対象となる。
図7に示されるように、本発明のコンクリート構造物の保護被覆膜の一実施形態における層構成は、コンクリート構造物50/プライマー層51/ガラス繊維シート52/透明ポリウレタン樹脂層53である。
この実施形態のコンクリート構造物50の保護被覆方法としては、先ず定法に従い、コンクリート構造物50の表面を、清掃、洗浄し、塵埃や異物を除去し、乾燥後、下地接着剤層としてプライマーを塗布し、プライマー層51を形成する。
【0036】
このプライマー層51は、透明ポリウレタン樹脂層53を下地であるコンクリート構造物50の表面に接着させるためのものであり、常温硬化性のウレタン系樹脂や、エポキシ系樹脂からなるプライマーが好ましく用いられる。かかる樹脂は、1液硬化型でも2液硬化型でもよい。
プライマー層51としては、下地(コンクリート構造物50)が湿っている場合もあることから、湿潤面に接着可能であることが好ましい。このような樹脂としては、湿潤程度の水分では実質的に発泡しないものが用いられ、湿潤面接着用接着剤として用いられる樹脂を用いることができる。
また、プライマー層51には、セメントまたはシラン系カップリング剤、あるいは、セメントとシラン系カップリング剤の両方が添加されていることが好ましい。プライマー層51とセメントとの配合割合は2:1(重量比)、プライマー層51に対するシラン系カップリング剤の配合割合は0.2〜3.0重量%程度とする。
セメントとしては、ポルトランドセメント、早強セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメントなどが用いられる。
シラン系カップリング剤としては、エポキシシラン、アミノシランなどが用いられる。
このように、プライマー層51にセメントまたはシラン系カップリング剤、あるいは、セメントとシラン系カップリング剤の両方を添加すれば、コンクリート構造物50とプライマー層51の接着力が強くなり、結果として、コンクリート構造物50と透明ポリウレタン樹脂層53の接着力が強くなる。
このプライマーの塗布はプライマー用樹脂の溶液をスプレーガンによる散布あるいはローラーによる塗布で行うことが好ましい。この溶液の濃度は取り扱い性等から適宜選択すればよい。プライマーの塗布量は、好ましくは0.05〜0.5kg/m 、より好ましくは 0.1〜0.3kg/mとする。
【0037】
次いで、ガラス繊維シート52をプライマー層51が形成されたコンクリート構造物50に部分的に貼着する。ガラス繊維シート52としては、上述した第一の実施形態又は第三の実施形態のガラス繊維シートを用いてもよい。
また第二の実施形態又は第四の実施形態のガラス繊維シートから剥離シート5を剥がしたものを用いてもよい。これにより、コンクリート構造物50へのガラス繊維シート52の粘着が容易となり作業性が向上するとともに、特に現場において、ガラス繊維シート52に粘着剤あるいは接着剤の塗布が困難な場合には有利となる。
尚、現場で、ガラス繊維シート52に粘着剤あるいは接着剤を塗布した後、ガラス繊維シート52をプライマー層51に貼着してもよい。
また、この実施形態においては、美観を損ねないようにするため、ガラス繊維シート52をコンクリート構造物50に部分的に貼着するが、コンクリート構造物50の全面に貼着してもよい。特に後述する透明ポリウレタン樹脂層53の膜厚管理を簡便に行えるという観点から、又、コンクリート構造物保護被覆膜の施工時における作業性の観点から、50mm角の非磁性金属フィルム層が積層されたガラス繊維シート52を50mm〜1mピッチの範囲内で1枚ずつ貼り付けることが好ましい。これにより、透明ポリウレタン樹脂層53の乾燥後いつでも非破壊で、その膜厚を測定できる。また膜厚測定後、その測定部位が規定の膜厚に達していない場合は、簡便にその部位だけを再施工できる。
【0038】
このようにしてプライマー層51の表面にガラス繊維シート52を部分的に貼着した後、ガラス繊維シート52及びプライマー層51に透明ポリウレタン樹脂層53を形成する。
本発明のガラス繊維シート52は、コンクリート構造物保護被覆膜の透明性を維持するために二軸組布を用いている。ガラス繊維シート52に形成される透明ポリウレタン樹脂層53は、このガラス繊維シート52の強度を補強する機能を有している。
【0039】
透明ポリウレタン樹脂層53は、無色透明のポリウレタン樹脂組成物をガラス繊維シート52及びプライマー層51に塗布することにより形成される。このポリウレタン樹脂組成物には、ダイフレックス社製「ハイパーT−RT工法 主剤(商標名)」が用いられる。
【0040】
透明ポリウレタン樹脂層53の厚さは、0.4mm〜4.0mm程度であることが好ましく、0.6mm〜3.0mm程度であることがより好ましく、0.8mm〜1.0mm程度であることが特に好ましい。また、透明ポリウレタン樹脂層53としては、厚さが0.4mm以上の場合に、日本道路公団試験研究規格「連続繊維シート接着押抜き試験方法」に記載されているロードセルの変位を10mm以上、最大耐荷力1.5kN以上というA種基準を満たすような性質を有するものが好ましい。
前記ポリウレタン樹脂組成物を用いて形成された樹脂塗膜は、適度な伸び、柔軟性及び弾性を有していることが好ましい。このような物性を有することにより、透明ポリウレタン樹脂層53は、コンクリート構造物の撓みなどによる変形に追従し、破断し難いため、コンクリート構造物からのコンクリート片の剥落防止を長期にわたって安定に維持できる。
また、上述したように、ガラス繊維シート52を構成するガラスクロスにおいては、透明性の観点から、二軸組布が用いられている。前記ポリウレタン樹脂組成物自体が充分な強度を有していることが好ましく、このようなポリウレタン樹脂組成物をガラス繊維シート52に塗布することにより、ガラス繊維シート52の強度を補強することができる。
【0041】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆方法においては、透明ポリウレタン樹脂層53が、耐候性を有することが好ましい。透明ポリウレタン樹脂層53がかかる性質を有する場合には、トップコートを施工する工程を必要としない。
【0042】
本発明のコンクリート構造物保護被膜によれば、コンクリート構造物の表面を補強して剥落を防止し、耐震性を向上させるとともに、補強されたコンクリート構造物の素地の状態を外部から目視により観察することができ、後述する膜厚管理方法に好適に用いることができる。
本発明のコンクリート構造物保護被覆方法は、上記保護被覆膜を施工するのに適している。また、作業性に優れているため、工期の短縮をすることができる。
【0043】
[コンクリート構造物の保護被覆膜の膜厚管理方法]
本発明のコンクリート構造物の保護被覆膜の膜厚管理方法においては、上述したような方法で、コンクリート構造物保護被覆膜をコンクリート構造物表面に被覆した後、図8に示すように渦電流式膜厚計55を用いて、透明ポリウレタン樹脂層53の表面からガラス繊維シート52の非磁性金属フィルムまでの距離、即ち、該保護被覆膜の膜厚を測定する。
【0044】
渦電流式膜厚計55は、高周波電界によって金属表面に誘起される渦電流の大きさと被膜(透明ポリウレタン樹脂層53)の厚さとの電気的相関性を利用して、アルミニウム等の非磁性金属素地上に形成した絶縁性被膜、すなわち透明ポリウレタン樹脂層53の膜厚を測るものである。なお、このような渦電流式膜厚計55としては、例えば株式会社サンコウ電子研究所製のEL−1C型渦電流式膜厚計が用いられる。また、このEL−1C型渦電流式膜厚計を用いた場合には、図8に示すようにそのプローブ54を透明ポリウレタン樹脂層53の表面に当接させ、測定を行う。
【0045】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆膜の膜厚管理方法においては、コンクリート構造物50表面上に非磁性金属フィルム(ガラス繊維シート52)を貼着するので、これの上に透明ポリウレタン樹脂層53を形成した後、渦電流式膜厚計によって透明ポリウレタン樹脂層53表面から前記非磁性金属フィルムまでの距離を調べることにより、ガラス繊維シート52の上に形成された透明ポリウレタン樹脂層53の膜厚を、コンクリート構造物の材質やその表面性状等に影響されることなく容易かつ正確に、しかも非破壊検査によって測定することができる。
【0046】
膜厚測定に用いられるプローブ54の直径は、作業性の観点から、コンクリート構造物50の表面上に貼着されるガラス繊維シート52の非磁性金属フィルムの大きさに適合させたものであることが好ましい。
上述したように、コンクリート構造物50の表面上(プライマー層51)上には、50mm角の非磁性金属フィルム層が積層されたガラス繊維シート52を貼り付けることが好ましいため、プローブ54としては、直径50mmのものを用いることが好ましい。
【0047】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆膜の膜厚管理方法においては、膜厚測定後、その測定部位が規定の膜厚に達していない場合は、簡便にその部位だけを再施工できる。
【0048】
以上、本発明のコンクリート構造物の保護被覆膜の膜厚管理方法は、コンクリート構造物の表面に、部分的に貼着されたガラス繊維シートを介して、コンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を測定する方法である。
前記ガラス繊維シートは、非磁性金属フィルムが積層されているため、このガラス繊維シートに塗膜を形成した後、渦電流式膜厚計によってコンクリート構造物保護被覆膜表面から前記非磁性金属フィルムまでの距離を調べることにより、コンクリート構造物に形成されたコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を、下地の材質やその表面性状等に影響されることなく容易かつ正確に、しかも非破壊検査によって測定することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
以下に示す方法で、コンクリート構造物の表面に、コンクリート構造物保護被覆膜を形成し、その膜厚を測定した。
【0051】
(膜厚測定)
図9に示すように、300mm×300mmのコンクリート50に、プライマーとして、ダイフレックス社製レジプライマーPW−F(セメント25%添加)を0.15kg/mローラー塗布し、23℃で4時間養生した。
次いで、コンクリート50の四隅に50mm四方の非磁性金属フィルム層52a〜52dが積層された50mm×100mmのガラス繊維シート52A〜52Dを貼付した。
次いで、これらガラス繊維シートが貼付されたコンクリート50にポリウレタン樹脂組成物を塗布し、23℃で7日間養生した。各ガラス繊維シート上に塗布するポリウレタン樹脂組成物の塗布量を変え、表1に示すように、それぞれのコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を三針式針入型膜厚計(商品名:マックゲイジ、アワーブレーン環境設計作製)を用いて測定した。
渦電流膜厚計(サンコウ電子研究所社製、本体機種名:MiniTest1100、プローブ:N10(直径50mm))を非磁性金属フィルム層52a〜52d上の塗膜表面に当接させ、膜厚測定を行った。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示されるように、渦電流膜厚計による膜厚測定値は、三針式針入型膜厚計による膜厚測定値とほぼ同じであることが確認された。本発明のコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法によれば、コンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を非破壊で正確に測定できることが明らかである。
【符号の説明】
【0054】
1、10、20、30、52、52A、52B、52C、52D ガラス繊維シート
2 ガラスクロス
2a、3a、4a 面
3、23、52a、52b、52c、52d 非金属フィルム層
4 粘着剤層
5 剥離シート
23a ウレタン樹脂層
23b 着色フィルム層
23c アルミ層
50 コンクリート構造物
51 プライマー層
53 透明ポリウレタン樹脂層
54 プローブ
55 渦電流式膜厚計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスクロスと、粘着剤層とが積層されているガラス繊維シートであって、前記ガラスクロスの前記粘着剤層が接している側に部分的に非磁性金属フィルム層が設けられていることを特徴とするガラス繊維シート。
【請求項2】
前記非磁性金属フィルム層は、前記ガラスクロス側から、ウレタン樹脂層、PETフィルム層、アルミ層がこの順に積層されてなる請求項1に記載のガラス繊維シート。
【請求項3】
前記粘着剤層に、剥離シートが貼付されている請求項1又は2に記載のガラス繊維シート。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のガラス繊維シートをコンクリート構造物に部分的に貼着する工程と、
前記ガラス繊維シートを部分的に含む前記コンクリート構造物に透明ポリウレタン樹脂組成物を塗布する工程と、
を含むことを特徴とするコンクリート構造物の保護被覆方法。
【請求項5】
請求項4に記載のコンクリート構造物の保護被覆方法を用いて、前記コンクリート構造物に被覆されたことを特徴とするコンクリート構造物保護被覆膜。
【請求項6】
請求項5に記載のコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚を、渦電流式膜厚計を用いて、前記コンクリート構造物に部分的に貼着されたガラス繊維シートを介して測定することを特徴とするコンクリート構造物保護被覆膜の膜厚管理方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102540(P2012−102540A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252001(P2010−252001)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000133342)株式会社ダイフレックス (24)
【Fターム(参考)】