説明

ガラス繊維フィルタ

【課題】表裏のフィルタ面が目詰まりせず、また難燃剤付着用バインダー剤がベタついたりせず、しかも原価コストを上昇させずに、難燃剤が最適に塗着されたガラス繊維フィルタを提供することである。
【解決手段】フィルタ本体は、表面繊維層、裏面繊維層及び中間繊維層の3層構造を有し、各層の合計質量をM(g)、難燃剤の質量をM(g)、バインダー剤の質量をM(g)、これらの総質量をM(M=M+M+M)としたとき、バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが15mass%以下(0<M/M<15/100)である質量特性を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理場、台所、調理器等の付近に設置されたレンジフード又は換気扇に取着されるガラス繊維フィルタに関し、更に詳細には、難燃剤を表裏面に吹付塗着したガラス繊維フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レストランや食堂の厨房、家庭の台所には、ファンによって排気駆動されるレンジフードや換気扇が配置されている。調理用の油脂、魚や肉から油分が蒸発すると、レンジフードや換気扇の表面に大量の油分や塵埃が付着し、その除去作業が必要になる。そのため、レンジフードや換気扇の適所に繊維フィルタが装着され、排気中の油分や塵埃をフィルタで捕集し、前記除去作業の簡便化が図られている。この繊維フィルタは売切商品として販売されており、また装着ホルダーと一体に構成されたレンタル商品として広範囲に実用化されている。
【0003】
フィルタ材としては、排気中の油分や塵埃を効率的に捕集する繊維フィルタが使用されている。殊に、繊維フィルタの素材には、高温の油分による変質・燃焼を防止するためにガラス繊維が多く使用されている。更に、捕集された油剤の燃焼を防止するために、フィルタ表面に難燃剤を担持させることが行われている。ガラス繊維表面に難燃剤を担持させるためには、難燃剤付着用バインダー剤を混ぜた混合剤をフィルタ材の表裏面に吹き付けている。
【0004】
難燃剤には従来、ハロゲン系難燃剤が多く使用されていたが、ハロゲン系物質が飛散して環境汚染を誘発する問題を生じていた。そこで、最近は、例えば、特許文献1に開示されているように、ハロゲンを含有せず、環境汚染を生じない難燃剤としてリン酸系難燃剤が提案されている。
【0005】
ところで、フィルタを長期に使用していくと、繊維フィルタに担持されるバインダー剤や難燃剤が徐々に剥落する傾向にある。バインダ剤が剥落すると、フィルタを構成する繊維相互の結合が解け、繊維フィルタの形状が保持されなくなる。特に、繊維フィルタの長期使用は難燃剤の剥落が多く生じて、繊維表面に付着した油分が引火により燃焼する危険性を生じさせてしまう。従って、バインダー剤で繊維同士を強固に結合させると共に、難燃剤を繊維表面に強固に担持させることがフィルタ製造上の重要事項となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−253717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラス繊維フィルタの場合、フィルタ原反の製造段階において、ガラス繊維を不織布状に絡ませて成形させる際にバインダー剤を吹き付けて繊維同士を強固に結着させることにより、繊維結合用バインダー剤の剥落を防止することができる。
【0008】
一方、難燃剤の塗布量は多ければ多いほど難燃性は向上するものの、原料コストが上昇してしまうため、難燃剤の使用量を最適にしておく必要がある。しかしながら、バインダー剤の混合量に応じて難燃剤の吹付状態が変化するため、難燃剤の付着を最適にするのが難しいといった問題を生じた。つまり、バインダー剤が少ないときは、製造段階で難燃剤の付着量が低下し、その反面、バインダー剤を多くすると表裏面の繊維間が余分に固化されて、目詰まり現象を起こすおそれがあった。特に、ハロゲンを含有せず、環境汚染を生じないリン酸系難燃剤を使用するにしても、バインダー剤との適合性の問題が未解決であり、リン酸系難燃剤の種類によっては難燃剤の吹付状態がベタついたり、難燃剤成分が浮き出したりする問題を生じた。
【0009】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、表裏のフィルタ面が目詰まりせず、また難燃剤付着用バインダー剤がベタついたりせず、しかも原価コストを上昇させずに、難燃剤が最適に塗着されたガラス繊維フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の形態は、ガラス繊維同士が固く結合した表面繊維層及び裏面繊維層の層間に、ガラス繊維同士が柔軟に結合した中間繊維層を介在させた3層繊維構造を有したガラス繊維フィルタにおいて、前記表面繊維層及び前記裏面繊維層に、難燃剤とバインダー剤の混合剤を吹付塗着し、前記表面繊維層、前記裏面繊維層及び前記中間繊維層の合計質量をM(g)、前記難燃剤の質量をM(g)、前記バインダー剤の質量をM(g)、これらの総質量をM(M=M+M+M)としたとき、前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが15mass%以下(0<M/M<15/100)であるガラス繊維フィルタである。
【0011】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが10mass%以下(0<M/M<10/100)であるガラス繊維フィルタである。
【0012】
本発明の第3の形態は、第1の形態において、前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが5〜10mass%(5/100<M/M<10/100)であるガラス繊維フィルタである。
【0013】
本発明の第4の形態は、第1、第2又は第3の形態において、前記難燃剤がカルバメート系難燃剤であるガラス繊維フィルタである。
【0014】
本発明の第5の形態は、第4の形態において、前記カルバメート系難燃剤がポリリン酸カルバメートであるガラス繊維フィルタである。
【0015】
本発明の第6の形態は、第1〜第5の形態のいずれかにおいて、前記バインダー剤がアクリル酸エステルであるガラス繊維フィルタである。
【0016】
本発明の第7の形態は、第1〜第6の形態のいずれかにおいて、複数個の紡糸ノズルから溶融ガラス繊維を噴出させて回転ローラ面に付着させ、不織布状に噴射繊維を巻き付けながら、繊維結合用バインダーを吹き付けて結合させ、更に噴射繊維量を調整して中間層に対して表面層及び裏面層の繊維量を多くしたフィルタ材を形成した後、前記回転ローラ面から剥離して乾燥させて製造したフィルタ原反を所定形状に裁断して形成され、前記3層繊維構造を前記表面層、前記裏面層及び前記中間層により形成したガラス繊維フィルタである。
【発明の効果】
【0017】
上記課題に鑑み、本発明者が難燃剤と難燃剤付着用バインダー剤を混ぜた混合剤の混合条件を鋭意検討した結果、ガラス繊維同士が固く結合した表面繊維層及び裏面繊維層の層間に、ガラス繊維同士が柔軟に結合した中間繊維層を介在させた3層繊維構造を有したガラス繊維フィルタにおいて好適な難燃剤付着状態を得ることのできる混合条件を見出すことに成功した。
【0018】
本発明においては、前記表面繊維層、前記裏面繊維層及び前記中間繊維層の合計質量をM(g)、前記難燃剤の質量をM(g)、前記バインダー剤の質量をM(g)、これらの総質量をM(M=M+M+M)としたとき、前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mを基本パラメータとする。
【0019】
本発明者がバインダー含量に対するフィルタ剥離強度の変化を検出する剥離強度試験を行ったところ、質量比M/Mの第1臨界値(15mass%)を越えて前記バインダー剤を増加させても剥離強度が逆に低下し、向上しないといった試験結果を得た。即ち、前記質量比M/Mが前記第1臨界値を超えた場合には、前記表面繊維層及び前記裏面繊維層の層間の剥離強度が低下し、余分のバインダー剤の付加により繊維間の接合力が弱まって3層構造の形態保持力が低下するといった現象を生ずる。従って、本発明の第1の形態によれば、前記質量比M/Mを少なくとも15mass%以下に設定した最適な混合条件(0<M/M<15/100)により混合した混合剤で吹付塗着するので、余分のバインダー剤が含有せず、表裏のフィルタ面が目詰まりしたり、ベタついたりもせず、しかも3層構造の形態保持力に影響せずに難燃剤が最適に塗着され、原価コストも上昇させないガラス繊維フィルタを実現することができる。
【0020】
本発明者がバインダー含量に対するフィルタ引張強度の変化を検出する引張(引裂)強度試験を行ったところ、質量比M/Mの第2臨界値(10mass%)を超えて前記バインダー剤を増加させても引張強度が上昇しないといった試験結果を得た。即ち、前記質量比M/Mが前記第2臨界値を超えたときには、引張強度の向上が鈍り、それ以上に前記バインダー剤を付加させても、むしろフィルタ全体の繊維間が過度に結着され、目詰まりしやすい原因を生じさせる現象を生ずる。従って、本発明の第2の形態によれば、質量比M/Mを少なくとも10mass%以下に設定した最適な混合条件により混合した混合剤で吹付塗着するので、余分のバインダー剤が含有せず、表裏のフィルタ面が目詰まりしたり、ベタついたりもせず、しかも難燃剤が最適に塗着され、原価コストも上昇させないガラス繊維フィルタを実現することができる。
【0021】
本発明者がバインダー含量に対して難燃剤が剥落(以下、剥落を粉落とも称する)する量を検出する粉落量試験を行ったところ、前記質量比M/Mが上限値(10mass%)を超えて前記バインダー剤を増加させると前記難燃剤の粉落量が増加し、反対に下限値(5mass%)未満では粉落量が低減していくといった試験結果を得た。即ち、前記質量比M/Mが前記上限値を超えたときには前記難燃剤が剥落する量が増加し、一方、前記下限値未満では難燃剤の付着量が低下するといった現象を生ずる。従って、本発明の第3の形態によれば、前記質量比M/Mを前記所定の範囲(5/100<M/M<10/100)に設定した最適な混合条件により混合した混合剤で吹付塗着するので、余分のバインダー剤が含有せず、表裏のフィルタ面が目詰まりすることなく、またベタついたりもせず、しかも難燃剤が粉落せずに最適に塗着され、原価コストも上昇させないガラス繊維フィルタを実現することができる。
【0022】
本発明の第4の形態によれば、前記難燃剤がカルバメート系難燃剤であるので、ハロゲンを含有せず、環境への影響を与えないガラス繊維フィルタを実現することができる。
【0023】
本発明に係る難燃剤には、ポリリン酸カルバメート、ポリリン酸アンモニウム又はリン酸グアニジン等を使用することができる。殊に、本発明の第5の形態によれば、前記カルバメート系難燃剤であるポリリン酸カルバメートを使用するので、他の難燃剤と比較して粉落量が少なく、しかもベタついたりせずに良好な触感を与えることができ、フィルタ製品の品質の向上を図ることができる。
【0024】
本発明の第6の形態によれば、ガラス繊維及び前記難燃剤の結合作用に優れたバインダー剤であるアクリル酸エステルを使用するので、バインダー剤の余分に付加しなくて済み、原価低減とフィルタ製品の品質の向上を図ることができる。
なお、本発明に係るガラス繊維フィルタは、ガラス繊維フィルタの原反から所定形状に裁断して得た枠無形態のフィルタに限定されず、少なくとも1対の対向する両辺に沿った各側縁に補強枠を取着した枠付形態のフィルタにも適用することができる。
【0025】
本発明の第7の形態によれば、複数個の紡糸ノズルから溶融ガラス繊維を噴出させて回転ローラ面に付着させ、不織布状に噴射繊維を巻き付けながら、繊維結合用バインダーを吹き付けて結合させ、更に噴射繊維量を調整して中間層に対して表面層及び裏面層の繊維量を多くしたフィルタ材を形成した後、前記回転ローラ面から剥離して乾燥させて製造したフィルタ原反を所定形状に裁断して形成され、前記3層繊維構造を前記表面層、前記裏面層及び前記中間層により形成するので、前記表面繊維層、前記裏面繊維層及び前記中間繊維層の各質量を前記フィルタ原反の製造段階で適切に調整して、前記3層繊維構造の質量のばらつきの影響を与えずに前記質量比M/Mの混合条件を最適化することができる。なお、本発明に係る前記3層繊維構造体は、表面層、中間層、裏面層のうち、少なくとも1つの層を別個に形成して、成形時にそれらを合体させて3層構造化して形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るガラス繊維フィルタの概略外観図である。
【図2】前記ガラス繊維フィルタのフィルタ原反の製造工程を説明するための図である。
【図3】前記ガラス繊維フィルタのフィルタ材について実施した剥離強度試験の試験条件を示す表である。
【図4】前記剥離強度試験における、バインダー含量に対するフィルタ剥離強度の変化を示すグラフである。
【図5】前記剥離強度試験の試験内容を説明するための図である。
【図6】前記フィルタ材について実施した引張試験の試験条件を示す表である。
【図7】前記引張試験における、バインダー含量に対するフィルタ引張強度の変化を示すグラフである。
【図8】前記引張試験の試験内容を説明するための図である。
【図9】前記フィルタ材について実施した粉落量試験の試験条件を示す表である。
【図10】前記粉落量試験における、バインダー含量に対する難燃剤の粉落量の変化を示すグラフである。
【図11】前記粉落量試験の試験内容を説明するための図である。
【図12】各種難燃剤を用いて実施した粉落量試験の試験条件と、各種難燃剤の粉落量の測定結果を示す表である。
【図13】図12の粉落量試験における各種難燃剤の粉落量の平均値を比較するための棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態に係るガラス繊維フィルタを図面を参照して以下に説明する。
図1は本実施形態に係る補強枠付きガラス繊維フィルタ1の概略外観図である。ガラス繊維フィルタ1はレンジフードの廃ガス吸引口に取着されるレンジフードフィルタであり、全体として扁平直方体形状を有する。フィルタ素材はガラス繊維からなり、フィルタ厚みは5〜30ミリであり、好ましくは10〜25ミリ、最も好ましくは14〜20ミリである。ガラス繊維フィルタ1はガラス繊維を全体的に絡み合せて、上下方向と左右方向における繊維間の絡み密度を異ならせた不織布状繊維フィルタである。本実施形態においては、フィルタ本体の基材(原反)形成段階で、左右方向の前記絡み密度が上下方向より大きくなるように形成しており、上下方向に沿ったフィルタ本体の両側縁に補強枠2が取着されている。補強枠2は前記両側縁に沿って樹脂材を溶着させて形成した樹脂固定枠であり、側縁の端部を覆う断面略コ字形状を有する。この樹脂材には、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリカーボネイト、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、塩化ビニル等の熱可塑性樹脂等を使用することができる。
【0028】
図2はガラス繊維フィルタ1のフィルタ原反の製造工程を説明するための図である。フィルタ製造装置は、巻付ローラ3と、巻付ローラ3のローラ回転面に対向配置され、細径の溶融繊維6を噴出する、複数個の紡糸ノズルと、前記紡糸ノズルを巻付ローラ3のローラ軸方向に沿って往復移動させるノズル往復移動装置(図示せず)と、ガラス繊維結合用バインダー剤をローラ回転面に向けて吹き付けるバインダー吹付装置を備える。巻付ローラ3には直径1〜2m、幅2〜4mの長尺ドラムを使用することができる。数10〜500個の紡糸ノズルがローラ回転面に対向して紡糸ノズル部4に配設され、前記紡糸ノズルより溶融ガラス繊維溜(図示せず)から供給された溶融ガラス繊維6が噴射される。紡糸ノズルのノズル噴射径は2〜40μmである。
【0029】
巻付ローラ3の回転数は40〜60rpmである。紡糸ノズル部4はノズル往復移動装置により、6〜10m/minの速度で往復移動する。前記紡糸ノズルからの繊維噴射速度は60〜90m/minである。前記バインダー吹付装置はローラ回転面に対して対向配置されたバインダー噴射ノズル5からなる。バインダー噴射ノズル5は紡糸ノズル部4の往復移動に連動してローラ面に対して平行移動自在に配設されている。ガラス繊維結合用バインダー噴射ノズル5によるバインダー噴射量は10〜30g/mである。
【0030】
上記構成のフィルタ製造装置を用いたフィルタ原反の製造方法においては、まず、複数個の紡糸ノズル(紡糸ノズル部4)から、そのローラ軸方向に沿って前記紡糸ノズルを往復移動させて、全体的に斜交させて不織布状に噴射繊維を巻き付け、且つバインダー剤7を吹き付けて接着、結着させてフィルタ材8を形成する。バインダー剤7には、アクリル樹脂、尿素系樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等を使用することができる。フィルタ材8の形成後、前記回転ローラ面からフィルタ材8を剥離して乾燥させてフィルタ原反を作製する。更に、このフィルタ原反を成形加工して、補強材を取着していないフィルタ本体を形成することができる。
【0031】
ガラス繊維フィルタ1のフィルタ本体は、前記フィルタ材の形成工程において溶融繊維6を噴出させ巻付ローラ3の回転面に幾層にも付着させていく際、付着繊維量を調整して中間層に対して表面層及び裏面層の繊維量を多くして形成されている。各層の繊維量の調整、つまり、目付量(g/m)の調整は、巻付ローラ3の回転速度、紡糸ノズルの噴射速度又は紡糸ノズル部4の移動速度を可変して行うことができる。従って、前記フィルタ本体はガラス繊維同士が固く結合した表面繊維層及び裏面繊維層の層間に、ガラス繊維同士が柔軟に結合した中間繊維層を介在させた3層繊維構造を有する。また、ガラス繊維フィルタ1の前記表面繊維層及び前記裏面繊維層の各表面には、捕集された油剤の燃焼を防止するために、難燃剤を担持させる塗着処理が施される。この塗着処理はフィルタ原反の表裏面に難燃剤とバインダー剤の混合剤を吹付塗着して行われる。難燃剤には前記カルバメート系難燃剤のひとつであるポリリン酸カルバメートが使用されている。また、難燃剤結合用バインダー剤にはアクリル酸エステルが使用されている。
【0032】
前記フィルタ本体は、前記表面繊維層、前記裏面繊維層及び前記中間繊維層の合計質量をM(g)、前記難燃剤の質量をM(g)、前記バインダー剤の質量をM(g)、これらの総質量をM(M=M+M+M)としたとき、前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが15mass%以下(0<M/M<15/100)である第1の質量特性を具備する。
【0033】
また、前記フィルタ本体は、前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが10mass%以下(0<M/M<10/100)である第2の質量特性を具備する。
【0034】
更に、前記フィルタ本体は、前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが5〜10mass%(5/100<M/M<10/100)である第3の質量特性を具備する。
【0035】
上記の第1〜第3の質量特性が難燃剤の付与に際して有用であることを各種検証実験により説明する。
まず、第1の質量特性の有用性を説明する。図3はガラス繊維フィルタ1のフィルタ原反について実施した剥離強度試験の試験条件を示す。図4は、前記剥離強度試験における、バインダー含量に対するフィルタ剥離強度の変化を示す。図5は前記剥離強度試験の試験内容を示す。
【0036】
剥離試験においては、図5の(5A)に示すように、フィルタ原反から採取したフィルタ小片からなる試料片10を用意し、中間繊維層13の表裏に設けた表面繊維層11と裏面繊維層12の端部に夫々、一対の引張補助片14を固着し(同図(5B)参照)、各引張補助片14を両側から引っ張ったときに試料片10が剥離する時(同図(5C)参照)の剥離強度(N)を求めた。図3に示すように、バインダー剤の質量Mを0、0.88g、2.00g、2.82g、3.95g、4.62gに順次増加させて、バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mを0%〜23.9%まで6段階に可変にして剥離強度の測定を行った。難燃剤の塗着処理を施さない原反から作製した試料片10の質量は14.99gである。
【0037】
図3の剥離強度の測定結果が示すように、難燃剤の塗着処理を施さない原反から作製した試料片の場合の原反剥離強度が8.02Nであるのに対して、難燃剤の質量Mを、3.21g〜3.62gに略一定にして、バインダー剤を徐々に増やしていくと、原反剥離強度より高い剥離強度(14.8〜37.7N)が得られた。注目すべきは、バインダー含量に対するフィルタ剥離強度の変化グラフ(図4)に示すように、質量比M/Mの第1臨界値(15mass%)を超えると、剥離強度が低下する点である。即ち、質量比M/Mの第1臨界値(15mass%)を越えて前記バインダー剤を増加させても剥離強度が逆に低下し、向上しないといった試験結果が得られた。
【0038】
この剥離強度試験によれば、前記質量比M/Mが前記第1臨界値を超えた場合には、前記表面繊維層及び前記裏面繊維層の層間の剥離強度が低下し、余分のバインダー剤の付加により繊維間の接合力が弱まって3層構造の形態保持力が低下するといった現象を生ずる。従って、難燃剤が塗着されたガラス繊維フィルタにおいては、前記質量比M/Mを少なくとも第1臨界値(15mass%)以下に設定した第1の質量特性を具備することにより、余分のバインダー剤が含有せず、表裏のフィルタ面が目詰まりしたり、ベタついたりもせず、しかも3層構造の形態保持力に影響せずに難燃剤が最適に塗着され、原価コストも上昇させないガラス繊維フィルタを構成することができる。
【0039】
次に、第2の質量特性の有用性を説明する。図6はガラス繊維フィルタ1のフィルタ原反について実施した引張強度試験の試験条件を示す。図7は、前記引張強度試験における、バインダー含量に対するフィルタ引張強度の変化を示す。図8は前記引張強度試験の試験内容を示す。
【0040】
引張試験においては、図8の(8A)に示すように、試料片10の上下端部を夫々、一対の把持部材15により掴持し、各把持部材15を両側から引っ張ったときに試料片10が破断する時(同図(8B)参照)の引張(引裂)強度(N)を求めた。図6に示すように、剥離強度試験の場合と同様に、バインダー剤の質量Mを0、0.88g、2.00g、2.82g、3.95g、4.62gに順次増加させて、バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mを0%〜23.9%まで6段階に可変にして引張強度の測定を行った。難燃剤の塗着処理を施さない原反から作製した試料片10の質量は14.99gである。
【0041】
図6の引張強度の測定結果が示すように、難燃剤の塗着処理を施さない原反から作製した試料片の場合の原反引張強度が11.13Nであるのに対して、難燃剤の質量Mを、3.21g〜3.62gに略一定にして、バインダー剤を徐々に増やしていくと、原反引張強度より高い引張強度(14.13〜27.33N)が得られた。注目すべきは、バインダー含量に対するフィルタ引張強度の変化グラフ(図7)に示すように、質量比M/Mの第2臨界値(10mass%)を超えて20mass%までは引張強度が変化しない点である。即ち、第2臨界値(10mass%)を超えて前記バインダー剤を増加させても引張強度が上昇しないばかりか、むしろフィルタ全体の繊維間が過度に結着され、目詰まりしやすい原因を生じさせるといった試験結果を得た。
【0042】
この引張強度試験によれば、前記質量比M/Mが前記第2臨界値を超えた場合には、引張強度の向上が鈍り、それ以上に前記バインダー剤を付加させても、むしろフィルタ全体の繊維間が過度に結着され、目詰まりしやすい原因を生じさせる現象を生ずる。従って、難燃剤が塗着されたガラス繊維フィルタにおいては、前記質量比M/Mを少なくとも第2臨界値(10mass%)以下に設定した第2の質量特性を具備することにより、余分のバインダー剤が含有せず、表裏のフィルタ面が目詰まりしたり、ベタついたりもせず、しかも難燃剤が最適に塗着され、原価コストも上昇させないガラス繊維フィルタを構成することができる。
【0043】
更に、第3の質量特性の有用性を説明する。図9はガラス繊維フィルタ1のフィルタ原反について実施した粉落量試験の試験条件を示す。図10は、前記粉落量試験における、バインダー含量に対する難燃剤の粉落量の変化を示す。図11は前記粉落試験の試験内容を示す。
【0044】
粉落試験においては、図11に示すように、互いの隙間をフィルタ原反厚さより極めて小さくして配置された一対のローラ16間に試料片10を通過させ、通過回数が10回行ったとき、夫々の通過により試料片10より剥落した物質を、難燃剤とバインダー剤に振り分けて、難燃剤の粉落量を測定した。図9に示すように、剥離強度試験及び引張強度試験の場合と同様に、バインダー剤の質量Mを0、0.88g、2.00g、2.82g、3.95g、4.62gに順次増加させて、バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mを0%〜23.9%まで6段階に可変にして粉落量の測定を行った。難燃剤の塗着処理を施さない原反から作製した試料片10の質量は14.99gである。
【0045】
図9に示す引張強度の測定結果が示すように、難燃剤の塗着処理を施さない原反から作製した試料片の場合は無論、粉落量はないが、難燃剤の質量Mを、3.21g〜3.62gに略一定にして、バインダー剤を徐々に増やしていくに応じて粉落量が増加した。バインダー含量に対する粉落量の変化グラフ(図10)においては、粉落量の絶対量を用いず、バインダー剤を含有させていないときの、難燃剤のみを3,21g付加した場合における粉落量を基準にして換算した換算粉落量を使用している。注目すべきは、質量比M/Mが上限値(10mass%)を超えてバインダー剤を増加させると難燃剤の粉落量が増加し、反対に下限値(5mass%)未満では粉落量が低減していくといった点である。
【0046】
この粉落量試験によれば、前記質量比M/Mが前記上限値を超えたときには前記難燃剤が剥落する量が増加し、一方、前記下限値未満では難燃剤の付着量が低下するといった現象を生ずる。従って、難燃剤が塗着されたガラス繊維フィルタにおいては、前記質量比M/Mを所定の範囲(5/100<M/M<10/100)に設定した第3の質量特性を具備することにより、余分のバインダー剤が含有せず、表裏のフィルタ面が目詰まりすることなく、またベタついたりもせず、しかも、難燃剤が粉落せずに最適に塗着され原価コストを上昇させないガラス繊維フィルタを構成することができる。
【0047】
環境への影響を与えないガラス繊維フィルタを構成するには難燃剤にハロゲンを含有しない難燃剤を使用するのが好ましく、具体的には、本発明に係る難燃剤としては、ポリリン酸カルバメート、ポリリン酸アンモニウム又はリン酸グアニジンを使用することができる。
【0048】
ここで、これら3種のリン酸系難燃剤につき、粉落量について差異が見られるかを検証した。この検証実験は難燃剤結合用バインダー剤にアクリル酸エステルを用いて、前記粉落量実験と同様に行った。図12は各種難燃剤を用いて実施した粉落量試験の試験条件と、各種難燃剤につき3回行った粉落量の測定結果を示す。図13は図12の粉落量試験における各種難燃剤の粉落量の平均値を比較するための棒グラフである。
【0049】
図12の(12A)に示すように、ポリリン酸カルバメートとバインダー剤の混合剤を用いたとき、質量比M/Mを7.3〜7.9%に配合している。また、ポリリン酸アンモニウムとバインダー剤の混合剤を用いたとき、質量比M/Mを7.8〜8.1%に配合している。更に、リン酸グアニジンとバインダー剤の混合剤を用いたとき、質量比M/Mを6.8〜7.9%に配合している。従って、いずれの難燃剤についてもバインダー配合において前記第1〜第3の質量特性を満たしている。
【0050】
図12の(12B)は、図11により説明した粉落量の測定によって得られた各難燃剤の粉落量と外観・質感検査の実施結果を示す。リン酸グアニジン、ポリリン酸カルバメート、ポリリン酸アンモニウムの夫々の平均粉落量は0.029g、0.035g、0.060gであり、リン酸グアニジン、ポリリン酸カルバメート、ポリリン酸アンモニウムの順で粉落ち量が多くなった。難燃剤の材質等による外観ないし質感検査によれば、リン酸グアニジンの場合、吸湿性を持つため、ベタつき感があり、フィルタ収納袋に収容したときに袋内に付着するおそれがある。ポリリン酸カルバメートの場合、リン酸グアニジンと同様に粉落量が少なく(0.04g以下)、また湿潤性がなくカラっとした触感が得られフィルタ難燃剤に好適である。ポリリン酸アンモニウムの場合には、粉落量が多く粉っぽい触感となった。従って、これら3種の内で、本実施形態において使用したポリリン酸カルバメートは、粉落量が比較的少なく、しかもベタついたりせずに良好な触感を得ることができ、フィルタ製品の品質の向上に寄与するものといえる。
【0051】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、前記第1〜第3の質量特性を具備し、表裏のフィルタ面が目詰まりせず、また難燃剤付着用バインダー剤がベタついたりせず、しかも原価コストを上昇させずに、難燃剤が最適に塗着された3層繊維構造のガラス繊維フィルタを提供することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ガラス繊維フィルタ
2 補強枠
3 巻付ローラ
4 紡糸ノズル部
5 バインダー噴射ノズル
6 溶融繊維
7 バインダー剤
8 フィルタ材
10 試料片
11 表面繊維層
12 裏面繊維層
13 中間繊維層
14 引張補助片
15 把持部材
16 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維同士が固く結合した表面繊維層及び裏面繊維層の層間に、ガラス繊維同士が柔軟に結合した中間繊維層を介在させた3層繊維構造を有したガラス繊維フィルタにおいて、前記表面繊維層及び前記裏面繊維層に、難燃剤とバインダー剤の混合剤を吹付塗着し、前記表面繊維層、前記裏面繊維層及び前記中間繊維層の合計質量をM(g)、前記難燃剤の質量をM(g)、前記バインダー剤の質量をM(g)、これらの総質量をM(M=M+M+M)としたとき、前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが15mass%以下(0<M/M<15/100)であることを特徴とするガラス繊維フィルタ。
【請求項2】
前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが10mass%以下(0<M/M<10/100)である請求項1に記載のガラス繊維フィルタ。
【請求項3】
前記バインダー剤の質量Mの総質量Mに対する質量比M/Mが5〜10mass%(5/100<M/M<10/100)である請求項1に記載のガラス繊維フィルタ。
【請求項4】
前記難燃剤がカルバメート系難燃剤である請求項1、2又は3に記載のガラス繊維フィルタ。
【請求項5】
前記カルバメート系難燃剤がポリリン酸カルバメートである請求項4に記載のガラス繊維フィルタ。
【請求項6】
前記バインダー剤がアクリル酸エステルである請求項1〜5のいずれかに記載のガラス繊維フィルタ。
【請求項7】
複数個の紡糸ノズルから溶融ガラス繊維を噴出させて回転ローラ面に付着させ、不織布状に噴射繊維を巻き付けながら、繊維結合用バインダーを吹き付けて結合させ、更に噴射繊維量を調整して中間層に対して表面層及び裏面層の繊維量を多くしたフィルタ材を形成した後、前記回転ローラ面から剥離して乾燥させて製造したフィルタ原反を所定形状に裁断して形成され、前記3層繊維構造を前記表面層、前記裏面層及び前記中間層により形成した請求項1〜6のいずれかに記載のガラス繊維フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−221177(P2010−221177A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73461(P2009−73461)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000133445)株式会社ダスキン (119)
【Fターム(参考)】